説明

防火パネル

【課題】簡易間仕切り壁,軽量扉又は防火扉のいずれにも適用が容易であって、デザイン性を損ねず又は仕様規格を維持しつつ、火災側と非火災側との遮炎性,遮熱性を高めることのできる防火パネルを提供する。
【解決手段】本発明は、輻射熱を反射可能な金属板6A〜6Eがその板面間方向Tに間隔をおいて複数対向配置され、板面同士の間には中空層M1〜M4が形成され、複数の金属板6A〜6Eのうち、板面間方向Tの一端側及び他端側に位置する金属板6A,6Eのうち少なくともいずれか一方の金属板6A,6Eの外方を向く板面には発泡剤8Xが備えられていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、火災時の断熱性及び遮熱性を高める防火パネルに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、簡易間仕切り壁や軽量扉は、建物内において会議室や応接室などの小スペースを構成するために広く使用されており、空間構成の変更に容易に対応できるよう軽量に形成されている。また、多様な場面での日常的な使い勝手を重視して、デザイン的にも多様に設けられている。このような簡易間仕切り壁や軽量扉は、火災時に燃焼を抑制するよう考慮されており、不燃扉として使用されることもある。
しかし、簡易間仕切り壁や軽量扉では、火災側から非火災側への火災時の火炎又は輻射熱等の侵入を長時間にわたって遮断することは一般的に難しい。すなわち、簡易間仕切り壁を通して熱が移動し、非火災側の可燃物が着火し非火災側に火災が拡大するおそれがある。
【0003】
一方、火災側と非火災側とを仕切る鉄製の防火扉は、火炎等をほとんど遮断できるようになっている。
しかし、防火扉であっても火災側の温度が上昇してくると、防火扉を閉鎖していてもその防火扉を介して火災側の熱を非火災側へ伝えてしまい、非火災側の可燃物が着火して火災が非火災側に拡大する可能性がある。
このような問題に対する手段として、従来の防火パネルとしては、例えば下記特許文献1に記載されたものが知られている。特許文献1に記載された防火パネルは、二枚の金属外皮の間にロックウールよりなる無機系断熱材と発泡ウレタンよりなる樹脂系断熱材とからなる断熱材を充填して形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−255647号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の防火パネルによれば、2枚の金属外皮の間に上記断熱材が充填されているため、これら金属外皮の間に入射した輻射熱を金属外皮を利用して更に反射し輻射熱の非火災側への移動を抑制することが難しく、結果的に、ロックウールと発泡ウレタンとにより火災側から非火災側への熱伝導を抑制するに過ぎないため、輻射熱の移動を阻止するには限界があった。従って、輻射熱が増加して非火災側の可燃物に着火することにより、火災が非火災側に拡大するおそれがあるという問題があった。
【0006】
また、火災による輻射熱の移動を効果的に抑制する防火パネルとするには、ロックウール又は発泡ウレタンの厚みを大きくしなければならず、デザイン性が要求される簡易間仕切り若しくは軽量扉又は防火規格が定められている防火扉に適用し難いという問題があった。
【0007】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、簡易間仕切り,軽量扉又は防火扉のいずれにも適用が容易であって、デザイン性を損ねず又は防火規格を維持しつつ、火災側と非火災側との遮炎性,遮熱性を高めることのできる防火パネルを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明に係る防火パネルは、輻射熱を反射可能な金属板がその板面間方向に間隔をおいて複数対向配置され、前記板面同士の間には中空層が形成され、前記複数の金属板のうち、前記板面間方向の一端側及び他端側に位置する前記金属板のうち少なくともいずれか一方の金属板の外方を向く板面には発泡剤が備えられていることを特徴とする。
本発明は、前記金属板が三枚以上対向配置され、前記中空層が複数形成されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明の防火パネルによれば、複数の金属板の少なくとも一方の端部に発泡剤(熱発泡性)が備えられているため、火災時に火災の熱を吸収して発泡剤を発泡させることにより火災側の輻射熱の上昇を抑えることができるとともに、発泡した熱発泡性樹脂の断熱効果により火災側から非火災側への輻射熱の移動を防止することができる。また、金属板を複数配し、その板面間に中空層を設けたため、火災時に火災側の輻射熱を中空層内で反射させて非火災側への輻射熱の移動を低減することができる。したがって、これら熱発泡性樹脂の断熱性と金属板による輻射熱の反射との相乗効果によって火災側と非火災側とを効果的に遮熱し、非火災側への火災の拡大を防止することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】は、本発明の一実施形態による防火パネルを備えた簡易間仕切りの断面図である。
【図2】は、本発明の一実施形態による防火パネルを挿入配置する簡易間仕切りの斜視図である。
【図3】は、本発明の一実施形態による防火パネル断面図である。
【図4】(a)は、本発明の一実施形態による防火パネルの一部を示した断面図であり、(b)は一実施形態による防火パネルの変形例である。
【図5】は、本発明の一実施形態による防火パネルを複数連結させた状態を示した断面図である。
【図6】(a)、(b)は、本発明の一実施形態による防火パネルの一部を拡大して示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図を参照して本発明の一実施形態について説明する。なお、図1,図3〜図6は、本発明の防火パネル1を模式的に示したものであり、実際の寸法比を表したものではない。
図1,図2に示すように、本実施形態の防火パネル1は、板部材2〜4に囲われ内空部Sが形成された簡易間仕切りや防火扉等の外殻体5の該内空部Sに挿入配置されるものであって、金属板6A〜6E,不燃材7,発泡剤8X,保護フィルム9,接着剤10,剥離紙11(図3参照)を備えている。なお、本実施形態においては、簡易間仕切りに用いられる防火パネルとして説明する。
【0012】
図2に示すように、外殻体5は、一対の平板2,2が間隔をおいて対向配置され、これら平板2,2同士間の外周部の上下左右に位置する側面に一対の縦板3,3と一対の横板4,4とが設けられ、平板2,2、縦板3,3、横板4,4によって箱状に枠組みされている。外殻体5としては、スチール製、鉄製、又は難燃性の合成樹脂等を採用することができる。なお、平板2,2の厚さ寸法は、例えば薄型仕様として用いられる1.0mm程度から、一般的な仕様の1.6mm程度とすることが可能である。
【0013】
図3に示すように、防火パネル1の金属板6A〜6Eは、輻射反射率の高い、例えば銅やアルミ等の金属により形成された略矩形の部材であり、その板面a1〜e2間方向Tに所定の間隔を置いて配置されている。
金属板6A〜6Eの厚さは、例えば数μm〜数百μmの範囲で極めて薄く形成されている。複数の金属板6A〜6Eの板面a2とb1,b2とc1,c2とd1,d2とe1の間寸法は、特に限定されないが例えば1〜2mmに設定されるのが好ましい。
【0014】
金属板6A〜6Eの材質としては、1000℃程度の耐熱性のある銅などの金属が用いられる。低温600℃〜700℃の範囲の輻射熱を反射する場合には、アルミなどの金属を用いることができる。
【0015】
図4(a)に示すように、不燃材7は、金属板6A〜6Eの外周部に沿って(すなわち紙面奥行き方向に)延在する略直方体形状の部材であり、金属板6A〜6Eの外周部の少なくとも一部に介挿され、接着剤10により金属板6A〜6Eと接着されて複数の金属板6A〜6E同士を所定の間隔を於いて保持固定するとともに、金属板6A〜6E間を封止して図3に示す中間層M1〜M4を形成している。
【0016】
不燃材7の材質としては、伝導率が小さく、軽量で、且つ大気圧に押し潰されないような圧縮強度を有する部材であって、例えばコンクリート等が用いられる。
金属板6A〜6Eの不燃材7による固定は、粘性及び1000℃程度の耐熱性のある接着剤10で行われる。
この不燃材7は、図4(b)に示すように、その厚さ方向に複数の金属板6A〜6Eを所定の間隔を於いて挟持し得るよう、該厚さ方向に直交する複数の溝13,13・・を設けてなるものであってもよい。
【0017】
図3に示すように、発泡剤8Xは、金属板6A〜6Eの板面間方向Tの両端に位置する金属板6A,6Eの外方を向く板面a1,e2すなわち、他の板面に対向していない側の板面に1層ずつ形成されている。発泡剤8Xの材質は、珪酸ソーダを主とする熱発泡性樹脂であり、タンカルなどの無機剤の添加が可能となっている。また、発泡剤8Xは、水分、酸化珪素、酸化ナトリウム、酸化カリウムなどの重量を調整可能となっている。
発泡剤8Xの非火災時の層の厚みは、1〜2mm前後に設定されており、火災時に、火災による熱を受けて100℃を超えた付近で発泡を始めるようになっている。この発泡剤8Xの断熱性は、厚みを増すことにより発現されるものであり、所望の断熱性能に応じて厚みを適宜調整可能となっている。
この発泡剤8Xは、金属板6A,6Eに塗布して形成されている。
【0018】
なお、発泡剤8Xには、タンカル等の無機剤及びガラス繊維を混入するか、又は、水分、酸化珪素、酸化ナトリウム、酸化カリウム等の重量を変更することによって、発泡剤8Xの厚さを維持できる温度が高められている。具体的には、上記材料の調整により発泡剤8Xの火災時の厚さ寸法は、約700℃まで維持されるようになっている。これによって、該厚さ寸法が維持され、火災側の輻射熱が約700℃に至るまで非火災側R2への輻射熱の移動を効果的に抑制できるようになっている。
【0019】
保護フィルム9は、発泡剤8Xの表面に配されるものであり、PETを主な成分とする75〜100μm程度の厚さに形成された樹脂材料よりなるフィルムである。この保護フィルム9は、発泡剤8Xが乾燥するのを防止するとともに、衝突や接触などに基づく傷や欠損を防止できるようになっている。このように発泡剤8Xの表面に設けて該発泡剤8Xを保護する部材としては、保護フィルム9の代わりに、発泡剤8Xの表面に塗布して形成される耐アルカリ性を有するコーティング膜であってもよい。
【0020】
この図3に示すように、複数の金属板6A〜6Eの外周部を不燃材料7で保持し、複数の金属板6A〜6Eの両端に位置する金属板6A,6Eの外方を向く板面a1,e2上に発泡剤8X及び保護フィルム9がそれぞれ設けられているとともに、これら複数の金属板6A〜6E,不燃材料7,発泡剤8X及び保護フィルム9を備えて形成されたパネル状の部材の、厚さ方向に延在する面1a〜1d(1cは紙面手前側の板面、1dは紙面奥側の板面であり、本図面においては図示されていない)上に、接着剤10が塗布されており、更にこの接着剤10の上面に剥離紙11が配されて、一の防火パネル1を形成している。パネル状の部材の厚さ方向に延在する面上1a〜1dに塗布される接着剤は、1000℃程度の耐熱性を有する材質により形成されている。
上記の防火パネル1は、例えば図5に示すように、剥離紙11を剥がして他の防火パネル1と接着,連結して、簡易間仕切り5に合う大きさとした上で該簡易間仕切り5中に挿入して用いられるようになっている。
【0021】
次に、本実施形態の防火パネル1の作用について説明する。
まず、図1に示すように、防火パネル1は、通常時は、発泡剤8Xの状態で外殻体5に挿入配置されているが、火災時には、図6(a)に示すように、火災が起こっている側R1から発生する輻射熱の増加によって防火パネル1の発泡剤8Xが高温となって保護フィルム9を溶融し、100℃に達した付近で火災側R1の輻射熱を吸収しながら該発泡剤8Xが発泡し始める。この発泡剤8Xが輻射熱を利用して発泡することによって、発泡剤8Xが完全に発泡するまでの間火災側R1の熱の上昇が抑制される。
【0022】
そして、火災側R1に近接する発泡剤8Xが発泡性樹脂8Yになると、火災側R1の輻射熱を断熱し、非火災側R2への火災による熱の移動を抑える。発泡性樹脂8Yにより断熱し切れなかった輻射熱H1は、金属板6Aを経て中空層M1に入射し、金属板6Aに隣り合う金属板6Bの板面b1で反射し(符号F1)、輻射熱量が低減された第2輻射熱H2が中間層M2に入射して金属板6Cによって反射(符号F2)し、更に輻射熱量が低減された第3輻射熱H3が中間層M3に入射して金属板6Dによって反射(符号F3)し、更に輻射熱量が低減された第4輻射熱H4が中間層M4に入射して金属板6Eによって反射(符号F4)し、輻射熱量が最小化した第5輻射熱H5が金属板6Eの外方を向く板面e2に配された発泡剤8X内で蓄熱されるか、発泡剤8Xを通じて非火災側R2に出射することになる。
【0023】
このようにして、火災側R1の輻射熱の非火災側R2への移動が極力抑制されるが、図6(b)に示すように、金属板6Eを通過した第6輻射熱H6がなお100℃に達するものであった場合には、金属板6Eの板面e2に配された発泡剤8Xが発泡を始め、発泡性樹脂8Yになることによって断熱性を備えることとなり、輻射熱の非火災側R2への移動を抑制する。
【0024】
以上のように本発明の防火パネル1によれば、複数の金属板6A〜6Eの両端側に発泡剤8Xが備えられているため、火災時に輻射熱を吸収して発泡剤8Xを発泡させることにより火災側R1の熱又は非火災側R2に移動する輻射熱の上昇を抑えることができるとともに、発泡した熱発泡性樹脂8Yの断熱効果により火災側R1から非火災側R2への輻射熱の移動を防止することができる。また、この発泡剤8Xないし発泡性樹脂8Yの存在により金属膜6A〜6Eが輻射熱から保護される。更に、金属板6A〜6Eを配し、その板面a2とb1,b2とc1,c2とd1,d2とe1間に中空層M1,M2・・を設けたため、火災時に火災側R1の輻射熱を中空層M1,M2・・内で反射して非火災側R2への輻射熱の移動を低減することができる。したがって、これら熱発泡性樹脂8Yによる断熱と金属板6A〜6Eによる熱の反射との相乗効果によって火災側R1と非火災側R2との間を効果的に遮熱するとともに、輻射熱によって非火災側R2の可燃物に着火し火災が拡大することを有効に防止することができるという効果が得られる。
【0025】
また、防火パネル1は、簡易間仕切り等の外殻体5に挿入配置して用いられるものであるため、外殻体5の外観を自由に設計しつつ、容易に遮熱性を向上することができる。すなわち、防火パネル1によれば、簡易間仕切りや防火扉等の外殻体5のデザイン上の自由度を維持しつつ、火災時に建物の延焼防止性能を向上することができるという効果が得られる。
また、防火パネル1によれば、延焼防止機能が高められることにより、火災時に建物内での避難経路を維持しやすくなり、建物内の安全性が向上するという効果が得られる。
【0026】
また、通常時においても、断熱効果を発揮して、防火パネル1を用いて仕切った空間内の温度を一定に維持しやすくなり、冷暖房を効率的に使用できることによって環境負荷低減にも貢献することができるという効果が得られる。
また、金属板6A〜6Eにより遮熱性を向上できるため、簡易間仕切壁や防火扉全体を軽量に形成することができるという効果が得られる。
【0027】
なお、上記実施形態において、金属板6A〜6Eは全て同じ厚さで形成されているが、この構成に限定されるものではなく、複数の金属板6A〜6Eのうち板面間方向Tの両端(一端側と他端側)に位置する金属板6A,6Eが、他の金属板6B〜6Dよりも厚めに設定されていてもよい。このような構成とすることによって、火災時に輻射熱の影響を受けやすい金属板6A,6Eを容易に燃焼し難くするとともに、輻射熱の反射効率を向上させて防火パネル1の性能を向上できる。
また、これらの金属板6A〜6Eの外周部には、凹凸が形成されたものであってもよい。このような構成とすることによって、金属板6A〜6Eの外周部の強度を補強することができる。
【0028】
また、上記実施形態において、金属板は5枚設置した構成としたが、金属板は、反射率が高いものほど輻射熱を効果的に反射して熱が非火災側R2に移動することを抑制することができ、金属板を数多く用いることによって非火災側R2への輻射熱の移動を防止することができるので、輻射反射率が小さい金属板6の場合は枚数を増やしたり、或いは輻射反射率が大きい金属板を用いて枚数を抑えたりすることによって、所望の遮炎,遮熱性能を有するよう適宜調整すればよい。
また更に、上記実施形態においては、発泡剤8Xが、金属板6Aと金属板6Eの双方に配された構成とされているが、必ずしも双方に配置されている必要はなく、いずれか一方に配されたものであってもよい。
【符号の説明】
【0029】
1 防火パネル
6A〜6E 金属板
8X 発泡剤
a1,a2,b1,b2,c1,c2,d1,d2,e1,e2 金属板の板面
M1〜M4 中空層
T 板面間方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
輻射熱を反射可能な金属板がその板面間方向に間隔をおいて複数対向配置され、
前記板面同士の間には中空層が形成され、
前記複数の金属板のうち、前記板面間方向の一端側及び他端側に位置する前記金属板のうち少なくともいずれか一方の金属板の外方を向く板面には発泡剤が備えられていることを特徴とする防火パネル。
【請求項2】
請求項1に記載の防火パネルであって、
前記金属板が三枚以上対向配置され、
前記中空層が複数形成されていることを特徴とする防火パネル。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−251369(P2012−251369A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−125090(P2011−125090)
【出願日】平成23年6月3日(2011.6.3)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】