説明

防爆対応無線機の充填剤の充填構造。

【課題】製造コストが安く、品質の安定した防爆対応無線機の充填剤の充填構造を提供する。
【解決手段】シャシ1底面に間隔をおいてプリント基板下面が対向配置され、前記プリント基板上方に部材支持板3が配置され、前記プリント基板上面にコネクタを含む部品が実装されており、前記部材支持板により前記コネクタ6の周囲枠がコネクタパッキン6aを介して押さえられる防爆対応ハンディ型無線機において、前記部材支持板3の前記プリント基板と対向する下面の長手方向に充填剤導入溝が設けられ、前記充填剤導入溝の一端に充填剤注入口3aが設けられ、前記部材支持板の前記充填剤のコネクタの下流側周辺部にスリット状に開口する空気排出口3b、3b…が設けられており、前記充填剤注入口3aから前記部材支持板3と前記プリント基板との間の空間に充填剤を注入し、前記部材支持板と前記プリント基板との間の空間の空気を前記スリット状の空気排出口3b、3b…から押し出して前記空間に充填剤を充填した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は防爆対応無線機に係わり、特に、ハンディ型無線機の充填剤の充填構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の防爆対応無線機において、プリント基板に引火性ガスが触れないようにするため、プリント基板を樹脂製の充填剤で覆う手法が用いられている。図8〜図9によりその従来の手法について説明する。
【0003】
先ず、図8に示すようにプリント基板15やプリント基板15に実装されている電子部品16、16…囲い治具17で覆う。次に、図9に示すように、囲い治具17の充填剤注入口17aから充填ノズル14により囲い治具17内に樹脂13を注入する。
【0004】
このとき、囲い治具17内の空気は、囲い治具17の空気排出口17bから排出される。このように囲い治具17内に樹脂13を注入すると、空気排出口17bも樹脂13が満たされた状態となる。
【0005】
そして、樹脂13が固化した後に、図10に示すように、囲い治具17をプリント基板15から離す。そして、空気排出口17b内で固化した樹脂13aを樹脂13の他の部分から切り離す。
【0006】
上記、図8〜図9に示す従来のプリント基板を樹脂製の充填剤で覆う手法によると、囲い治具17を固化した樹脂13から離す際に、樹脂13の一部が剥がれる恐れがある。そのため、離型作業が難作業となっていた。
【0007】
離型作業を容易とするためには、樹脂剤が限定されたものとなり、さらに、囲い治具17に離型剤を塗布する必要があるが、囲い治具17が必要であり、さらに、離型剤の塗布工程が必要となるため、製造コスト増大の要因となっていた。
【0008】
また、囲い治具17を外した後の樹脂13で覆われたプリント基板15を防爆対応無線機に組み込むためには、樹脂13の周囲にスペースが生じスペース効率が悪くなるという問題があった。
【0009】
特開2006−14576号公報に開示された電気接続箱は、筐体20の底面に形成された凹部50と回路基板(プリント基板)11の裏面間の空間に注入されたポッテイング剤が前記空間を満たした後、ポッテイング剤が前記空間に通じた筒部54から回路基板11の表面側に溢れだし回路基板11の表面に実装された電子部品の周囲を覆う。
【0010】
上記特開2006−14576号公報に開示された電気接続箱では、回路基板11の表面側に溢れだしたポッテイング剤の粘度が高いと、その表面が水平面とならず、また、回路基板11の表面を覆うポッテイング剤の厚さを一定とすることが困難であり、安定した品質を得ることが困難であった。
【特許文献1】特開2006−14576号公報、段落0023〜段落0042、図1〜図7
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
この発明は上記した点に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、製造コストが安く、品質の安定した防爆対応無線機の充填剤の充填構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明の防爆対応無線機の充填剤の充填構造は、シャシ底面に間隔をおいてプリント基板下面が対向配置され、前記プリント基板上方に部材支持板が配置され、前記プリント基板に部品が実装されている防爆対応ハンディ型無線機において、前記部材支持板の前記プリント基板と対向する下面の長手方向に充填剤導入溝が設けられ、前記充填剤導入溝の一端に充填剤注入口が設けられ、前記部材支持板の前記充填剤の前記部品の下流側周辺部にスリット状に開口する空気排出口が設けられており、前記充填剤注入口から前記部材支持板と前記プリント基板との間の空間に充填剤を注入し、前記部材支持板と前記プリント基板との間の空間の空気を前記スリット状の空気排出口から押し出して前記空間に充填剤を充填したものである。
【0013】
また、この発明の防爆対応無線機の充填剤の充填構造は、シャシ底面に間隔をおいてプリント基板下面が対向配置され、前記プリント基板上方に部材支持板が配置され、前記プリント基板上面にコネクタを含む部品が実装されており、前記部材支持板により前記コネクタの周囲枠がコネクタパッキンを介して押さえられる防爆対応ハンディ型無線機において、前記部材支持板の前記プリント基板と対向する下面の長手方向に充填剤導入溝が設けられ、前記充填剤導入溝の一端に充填剤注入口が設けられ、前記部材支持板の前記充填剤のコネクタの下流側周辺部にスリット状に開口する空気排出口が設けられており、前記充填剤注入口から前記部材支持板と前記プリント基板との間の空間に充填剤を注入し、前記部材支持板と前記プリント基板との間の空間の空気を前記スリット状の空気排出口から押し出して前記空間に充填剤を充填したものである。
【0014】
また、前記各防爆対応無線機の充填剤の充填構造において、前記充填剤注入口に近いスリット状の空気排出口の充填剤上流側に充填剤の流れを制限する堰が設けられているものである。
【0015】
また、前記各防爆対応無線機の充填剤の充填構造において、前記プリント基板の一端側に充填剤注入口が設けられ、前記プリント基板の他端側に空気排出口が設けられ、前記プリント基板の充填剤注入口から前記プリント基板とシャシ底面との間の空間にも充填剤を充填した請求項1から3のいずれかに記載した防爆対応無線機の充填剤の充填構造。
【0016】
また、前記各防爆対応無線機の充填剤の充填構造において、前記部材支持板にスピーカ取付部材が形成されており、スピーカ取付部材のスピーカと対向する底面に解放穴が設けられているものである。
【発明の効果】
【0017】
この発明の防爆対応無線機の充填剤の充填構造によれば、プリント基板の部品実装面と部材支持板との空間に空隙を生じさせることなく、容易に充填剤を過不足なく充填できるので、製造コストが安く、品質が安定する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下この発明を実施するための最良の形態を実施例に即して説明する。
【実施例1】
【0019】
先ず、この発明の実施例1である防爆対応無線機の充填剤の充填構造を図1により説明する。図1はこの発明の実施例1である防爆対応無線機の充填剤の充填構造を示す概略断面図である。
【0020】
図1に示すシャシ1は箱型に形成されており、プリント基板2の下面がシャシ1の底面と対向するようにシャシ1に締着される。この状態が図2に示されている。図2に示すように、プリント基板2には4個のコネクタ6、6…(図2に示す)が実装されており、各コネクタ6の枠にコネクタパッキン6aが取り付けられている。
【0021】
プリント基板2の一端には充填剤注入口2aが設けられ、他端に空気排出口2bが設けられている。充填剤注入口2aから合成樹脂製の充填剤である樹脂13が充填される。そして、充填剤はプリント基板2の下面とシャシ1の底面との間の空間の空気を空気排出口2bから押し出してこの空間を満たす。
【0022】
充填剤が空気排出口2bから溢れるように、充填剤がプリント基板2の下面の空間全体に充填された状態で、図3および図4にも詳しく示す部材支持板3がシャシ1に締着される。なお、図3では部材支持板3をシャシ1と対向する下面が上向きとなるように裏返して示している。部材支持板3にはスピーカ取付台4とマイクロホン取付台4aが一体に形成されている。図1ではスピーカ取付台4とマイクロホン取付台4a(図4に示す)に嵌着されたマイクロホン基板5が示されてる。
【0023】
図3に示すように、部材支持板3は4個のコネクタ6、6…と対応する位置にFPC(フレキシブルプリントケーブル)挿通穴3d、3d…が4個設けられており、2個のFPC挿通穴3dの周囲にリブ3f、3fが形成されている。
【0024】
部材支持板3の裏面側には充填剤導入溝3cが形成されており、充填剤導入溝3cの一端には充填剤注入口3aが設けられている。そして、図4に示すように、充填剤注入口3aから充填ノズル14により合成樹脂製の充填剤である液状の樹脂13(図1に示す)が充填される。
【0025】
充填剤は充填剤導入溝3cに導かれて部材支持板3の裏面とプリント基板2の空間を満たす。充填剤の下流側の部材支持板周辺部には切り欠き3g、3g…が形成されており、欠き3g、3g…とシャシ1の壁面との間にスリット状の空気排出口3b(図4に図示)が形成される。
【0026】
この空気排出口3bから空気が押し出された後に、樹脂が溢れるようになるが、各空気排出口3b、3b…から略同時に樹脂が溢れるようにするために、充填剤注入口3に近い切り欠き3g、3gの縁に充填剤の流れを制限する堰3e、3eが設けられている。
【0027】
なお、コネクタ6、6…のコネクタパッキン6a、6a…は部材支持板3の底面または部材支持板3のリブ3f、3fで押えられており、コネクタ6、6…の枠内は充填剤の流れる空間と仕切られている。
【0028】
そして、コネクタ6、6…が充填剤の流れない空間の領域を形成しているが、コネクタ6、6…の下流側にスリット状の空気排出口が形成されているために、コネクタ6、6…の周囲にも空隙を残すことなく充填剤が充填される。さらに、部材支持板の空気排出口を形成する部分の周囲に凹み3hが設けられているので、空気排出口から溢れた充填剤がこの凹み3hに溜まり、充填作業が容易となる。
【0029】
そして、充填剤導入溝3c、堰3eおよび切り欠き3gの数や形状・寸法を適切に設計することにより、各空気排出口から略同時に樹脂が溢れるようにして、充填剤をプリント基板2の上面の空間全体に充填することができる。
【0030】
このように充填剤が充填されて固化した後に、図5に示すようにスピーカ8やマイクロホン9が取り付けられる。そして、シャシ1に側壁に取り付けられた図示していない電子部品と接続されているFPC7の先端に取り付けられたコネクタ7aがプリント基板2のコネクタ6に嵌着される。コネクタ6の枠内には充填剤が流れこんでいないので、コネクタ7aの挿脱が可能である。
【実施例2】
【0031】
図6はこの発明の実施例2である防爆対応無線機の充填剤の充填構造を示す概略断面図、図7は同充填構造を示す部分斜視図である。この例では、スピーカ取付台11が設けられた部材支持板10が実施例1の部材支持板3の代わりに用いられている。部材支持板10は実施例1の部材支持板3と同様にプリント基板上方にスピーカ等の部品を支持する機能と充填剤を充填する空間を形成する機能を兼ねている。
【0032】
部材支持板10のスピーカ取付台11以外の構造は実施例1の部材支持板3と同じである。部材支持板10以外の部材は実施例1の部材と同じであり、その構成および作用の説明を省略する。
【0033】
この例では、スピーカ取付台11の底面には大小の解放穴11a、11a…が設けられており、スピーカ取付台11の側面にスピーカ取付台11の側面には外部に通じる通気穴11b、11b…が設けられている。これらの解放穴11aおよび通気穴11bはプリント基板上面側に充填剤を注入するとき、空気排出口として作用する。
【0034】
充填剤をプリント基板上面側に注入するときは、解放穴11aおよび通気穴11bを塞がない位置まで充填剤を注入する。このようにして、スピーカ取付台11に取り付けられたスピーカの背面の空間が外部に通じるので、スピーカの振動板の振動が背圧により抑制されない。
【0035】
実施例は以上のように構成されているが発明はこれに限られず、例えば、スピーカ取付台やマイクロホン取付台を部材支持板と別体として部材支持板に接着または締着してもよい。また、充填剤として合成樹脂以外の物質を用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】この発明の実施例1である防爆対応無線機の充填剤の充填構造を示す概略断面図である。
【図2】同充填構造を示す部分斜視図である。
【図3】同充填構造の部材を示す斜視図である。
【図4】同充填構造の部分を示す斜視図である。
【図5】同充填構造を示す上面図である。
【図6】この発明の実施例2である防爆対応無線機の充填剤の充填構造を示す概略断面図である。
【図7】同充填構造を示す部分斜視図である。
【図8】従来の防爆対応無線機の製造工程を説明するための概略断面図である。
【図9】同防爆対応無線機の製造工程の他の段階を説明するための概略断面図である。
【図10】同防爆対応無線機の製造工程のさらに他の段階を説明するための概略断面図である。
【符号の説明】
【0037】
1 シャシ
2 プリント基板、2a 充填剤注入口、2b 空気排出口
3 部材支持板、3a 充填剤注入口、3b 空気排出口、3c 充填剤導入溝
3d FPC挿通穴、3e 堰、3f リブ、3g 切欠き、3h 凹み
4 スピーカ取付台、4a マイクロホン取付台
5 マイクロホン基板
6 コネクタ、6a コネクタパッキン
7 FPC、7a コネクタ
8 スピーカ
9 マイクロホン
10 部材支持板
11 スピーカ取付台、11a 解放穴、11b 通気穴
12 マイクロホン基板
13 樹脂
14 充填ノズル
15 プリント基板
16 電子部品
17 囲い治具、17a 充填剤注入口、17b 空気排出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シャシ底面に間隔をおいてプリント基板下面が対向配置され、前記プリント基板上方に部材支持板が配置され、前記プリント基板に部品が実装されている防爆対応ハンディ型無線機において、前記部材支持板の前記プリント基板と対向する下面の長手方向に充填剤導入溝が設けられ、前記充填剤導入溝の一端に充填剤注入口が設けられ、前記部材支持板の前記充填剤の前記部品の下流側周辺部にスリット状に開口する空気排出口が設けられており、前記充填剤注入口から前記部材支持板と前記プリント基板との間の空間に充填剤を注入し、前記部材支持板と前記プリント基板との間の空間の空気を前記スリット状の空気排出口から押し出して前記空間に充填剤を充填したことを特徴とする防爆対応無線機の充填剤の充填構造。
【請求項2】
シャシ底面に間隔をおいてプリント基板下面が対向配置され、前記プリント基板上方に部材支持板が配置され、前記プリント基板上面にコネクタを含む部品が実装されており、前記部材支持板により前記コネクタの周囲枠がコネクタパッキンを介して押さえられる防爆対応ハンディ型無線機において、前記部材支持板の前記プリント基板と対向する下面の長手方向に充填剤導入溝が設けられ、前記充填剤導入溝の一端に充填剤注入口が設けられ、前記部材支持板の前記充填剤のコネクタの下流側周辺部にスリット状に開口する空気排出口が設けられており、前記充填剤注入口から前記部材支持板と前記プリント基板との間の空間に充填剤を注入し、前記部材支持板と前記プリント基板との間の空間の空気を前記スリット状の空気排出口から押し出して前記空間に充填剤を充填したことを特徴とする防爆対応無線機の充填剤の充填構造。
【請求項3】
前記充填剤注入口に近いスリット状の空気排出口の充填剤上流側に充填剤の流れを制限する堰が設けられている請求項1または2の防爆対応無線機の充填剤の充填構造。
【請求項4】
前記プリント基板の一端側に充填剤注入口が設けられ、前記プリント基板の他端側に空気排出口が設けられ、前記プリント基板の充填剤注入口から前記プリント基板とシャシ底面との間の空間にも充填剤を充填した請求項1から3のいずれかに記載した防爆対応無線機の充填剤の充填構造。
【請求項5】
前記部材支持板にスピーカ取付部材が形成されており、スピーカ取付部材のスピーカと対向する底面に解放穴が設けられている請求項1から4のいずれかに記載した防爆対応無線機の充填剤の充填構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2010−154708(P2010−154708A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−332271(P2008−332271)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(000003595)株式会社ケンウッド (1,981)
【Fターム(参考)】