説明

防眩フィルムおよびその製造方法

【課題】面ぎら防止性、透過画像鮮明度、および光の透過率(全光線透過率)が高く、かつ写り込み防止性の高い、防眩フィルム、およびその製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】樹脂中に添加する非凝集性の粒子として特定の粒径のものを使用し、樹脂と粒子の屈折率差を0.05〜0.15とし、溶媒として樹脂の良溶媒と貧溶媒とを用いて塗料化し、この塗料を基材フィルム上に塗布して乾燥させ、乾燥時の塗膜内の良溶媒が減るに従い貧溶媒の作用で粒子と樹脂とがゲル化し、良好な凹凸を生成すること、また、このようにして得ることにより、防眩フィルムに要求される諸性質を満たすことができた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CRTディスプレイや液晶ディスプレイの前面に配置して、これらディスプレイに、外部より進入する光を拡散させ、眩しさを少なくする役割をになう防眩フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
CRTディスプレイにおいては、加速された電子が前面のガラスの内側にある蛍光体に衝突しエネルギーを与えることにより蛍光体が発光し、通常、赤、緑、青の光が前面側に出射する。また、液晶ディスプレイにおいては、液晶自身は発光しないが、液晶画像の視認性を高めるため、背面より照明しているので、ディスプレイ全体として見れば、前面に向かって光を発している。
ディスプレイを室内で使用する場合、蛍光灯等の照明の光がディスプレイ表面に入射し、その光が反射すると画面が眩しくなり、また、蛍光灯が写り込んだりするために文字等の認識が難しくなる。
【0003】
透明基材フィルム上に、シリカを含有する樹脂塗料を塗布して光拡散性層を形成した防眩フィルムをディスプレイの前面に配置し、眩しさの原因となる外光を拡散させ、画面の眩しさを和らげることは既に行なわれている。
従来の防眩フィルムには、凝集性シリカ等の粒子の凝集によって光拡散性層の表面に凹凸を付与したもの、塗膜の厚みよりも大きな粒径の樹脂ビーズを添加して表面に凹凸を付与したもの、または表面に凹凸を持った賦型フィルムを使用し、固化していない塗膜表面にラミネートして凹凸形状を転移させた後、賦型フィルムを剥がして得たもの等がある。
いずれも、光拡散性を持ち、ある程度の防眩効果を示す上、薄いフィルム状であるためにディスプレイに適用しやすいものである。
しかし、この防眩フィルムに、前述したディスプレイから前面に向かって発している光が透過した際、フィルム表面に、面ぎら(シンチレーション)と呼ばれるきらきらと光る輝きが発生し、表示物のの視認性が低下する問題がある。
ディスプレイの前面に配置して使用する防眩フィルムの性能としては、面ぎら防止性が高いこと、画像鮮明度が高いこと、光の透過率(=全光線透過率)が高いこと、および光拡散性を有していて防眩性が高い(=蛍光灯等の外光反射防止性(写り込み防止性)が高い)ことが重要であり、従来の防眩フィルムには、これら全てを満たすものが無かった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記したような従来の薄いフィルム状の形状を大幅に変えることなく、面ぎら防止性、透過画像鮮明度、全光線透過率、および写り込み防止性が高く、いずれの点も満たす防眩フィルム、およびその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明においては、粒子を分散させた樹脂塗料を塗布して防眩フィルムを形成する点は従来と共通するが、樹脂中に添加する非凝集性の粒子として特定の粒径のものを使用し、樹脂と粒子の屈折率差を0.05〜0.15とし、溶媒として樹脂の良溶媒と貧溶媒とを用いて塗料化し、この塗料を基材フィルム上に塗布して乾燥させ、乾燥時の塗膜内の良溶媒が減るに従い貧溶媒の作用で粒子と樹脂とがゲル化し、良好な凹凸を生成すること、また、このようにして得ることにより、拡散性フィルムに要求される諸性質を満たすことが判明した。
【0006】
第1の発明は、少なくとも、非凝集性の透光性微粒子が透光性樹脂に分散した光拡散性樹脂膜から構成され、前記透光性微粒子の粒径が1.0〜5.0μm、前記透光性微粒子の光の屈折率と前記透光性樹脂の光の屈折率との差が0.05〜0.15、前記透光性樹脂100重量部に対する前記透光性微粒子の添加量が5〜30重量部、ならびに前記光拡散性樹脂膜の表面あらさが、中心線平均あらさ(Ra)が0.12〜0.30、および10点平均あらさ(Rz)が1.0〜2.9で表されることを特徴とする防眩フィルムに関するものである。
第2の発明は、第1の発明に於いて、透明基材上に前記光拡散性樹脂膜が積層されたことを特徴とする防眩フィルムに関するものである。
第3の発明は、第1の発明または第2の発明において、前記光拡散性樹脂膜の厚みが前記透光性微粒子の粒径の1〜3倍であることを特徴とする記載の防眩フィルムに関するものである。
第4の発明は、第1の発明または第2の発明において、画像鮮明度が80〜300、写り込み防止性が5〜70であることを特徴とする防眩フィルムに関するものである。
第5の発明は、第1〜第4のいずれかの発明において、前記透光性樹脂が電離放射線硬化性樹脂が硬化したものであることを特徴とする防眩フィルムに関するものである。
第6の発明は、非凝集性の透光性微粒子、透光性樹脂、ならびに前記透光性樹脂に対する良溶媒および貧溶媒とからなり、前記透光性微粒子の粒径が1.0〜5.0μm、前記透光性微粒子の光の屈折率と前記透光性樹脂の光の屈折率との差が0.05〜0.15、前記透光性樹脂100重量部に対する各成分の配合量が、前記透光性微粒子が5〜30重量部、前記良溶媒および前記貧溶媒を合わせた溶媒が20〜1000重量部、ならびに前記良溶媒と前記貧溶媒の重量部比が100/20〜100/70である塗料組成物を用い、被塗布基材上に塗布を行なった後、乾燥を行ない、前記透光性樹脂に対する良溶媒の重量比が減少することにより、前記透光性微粒子および透光性樹脂とをゲル化させつつ固化させて、塗膜表面に凹凸を生じさせることを特徴とする防眩フィルムの製造方法に関するものである。
第7の発明は、第6の発明において、透光性樹脂と、良溶媒および貧溶媒として、以下の組み合わせより選択されたものを使用することを特徴とする防眩フィルムの製造方法に関するものである;
アクリレート樹脂と、アクリレート樹脂に対する良溶媒としてトルエン、メチルエチルケトン、酢酸エチル、酢酸n−ブチル、もしくはシクロヘキサノン、および貧溶媒としてメタノール、エタノール、n−ブタノール、もしくはイソプロパノールの組み合わせ、
セルロース系樹脂と、セルロース系樹脂に対する良溶媒として酢酸エチル、酢酸n−ブチル、アセトン、もしくはシクロヘキサノンで、および貧溶媒としてメタノール、エタノール、n−ブタノール、もしくはイソプロパノールの組み合わせ、
エポキシ樹脂と、エポキシ樹脂に対する良溶媒としてメタノール/トルエン(「/」は混合を意味する。)、エタノール/キシレン、メチルエチルケトン、酢酸エチル、酢酸n−ブチル、もしくはメチルイソブチルケトン、および貧溶媒としてトルエン、キシレン、シクロヘキサノン、もしくはシクロペンタンの組み合わせ、
尿素メラミン樹脂と、尿素メラミン樹脂に対する良溶媒として酢酸エチル、酢酸n−ブチル、n−ブタノール、n−ヘキシルアルコール、および貧溶媒としてトルエン、もしくはキシレンの組み合わせ、または、
ウレタン樹脂と、ウレタン樹脂に対する良溶媒として酢酸エチル、酢酸n−ブチル、もしくはメチルエチルケトン、および貧溶媒としてメタノール、もしくはエタノールの組み合わせ。
第8の発明は、第6または第7において、乾燥を温度20〜100℃で行なうことを特徴とする防眩フィルムの製造方法に関するものである。
第9の発明は、第6ないし第8の発明において、前記透光性樹脂が電離放射線硬化性樹脂であり、塗膜表面に凹凸を生じさせた後、電離放射線を照射して、前記塗膜を架橋硬化させることを特徴とする防眩フィルムの製造方法に関するものである。
【発明の効果】
【0007】
第1の発明によれば、透光性樹脂と透光性微粒子、および表面の粗さを特定したので、このような樹脂層を持つ防眩フィルムは、面ぎら防止性、透過画像鮮明度、および光の透過率(=全光線透過率)が高く、かつ写り込み防止性の高い優れた性能を示す。
第2の発明によれば、第1の発明の効果に加え、透明基材を伴うので、強度があり、また、製造や加工の際にも取り扱いやすい利点がある。
第3の発明によれば、第1または第2の発明の効果に加え、従来のものにくらべ、微粒子の粒径よりも厚い樹脂塗膜を有するので、耐久性を有した防眩フィルムを提供できる。
第4の発明によれば、第1〜第3いずれかの発明の効果に加え、この防眩フィルムを使用したディスプレイで表示する画像が鮮明であり、外光や照明のある環境で使用しても、画像の十分な視認性が得られる。
第5の発明によれば、第1〜第4いずれかの発明の効果に加え、電離放射線硬化性樹脂組成物が架橋硬化した樹脂膜からなるため、物理的、化学的性状が優れた防眩フィルムを提供できる。
第6の発明によれば、配合する微粒子の粒径に必ずしも制約されず、良溶媒・貧溶媒の種類、配合割合、および乾燥温度等の制御により、所望の凹凸を有した防眩フィルムを製造し得る。
第7の発明によれば、第6の発明の効果に加え、汎用度の高い溶剤の中から、溶媒を選択して、防眩フィルムを製造し得る。
第8の発明によれば、第6または第7の発明の効果に加え、電離放射線硬化性樹脂を使用して、凹凸形成後、電離放射線照射により架橋硬化させて、物理的、化学的性状が優れた防眩フィルムを安定的に製造し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
図1を引用しながら本発明の実施の態様を説明すると、本発明の防眩フィルム1は、基本的に、透明基材2上に光拡散性樹脂膜3が積層された積層構造を有しているものである。そして、光拡散性樹脂膜3は、内部に透光性微粒子4を含有し、かつ、表面に微細な凹凸5を有している。
なお、透明基材2は、光拡散性樹脂膜3を塗装で形成する際に塗布対象となるので、大抵の場合、必要であるが、透明基材2を使用せず、代わりに離型性のある基材を用意し、その表面に塗布して光拡散性樹脂膜3を形成した後、剥がすキャスティング法によれば、透明基材2を伴わない、単独の光拡散性樹脂膜3を得ることもできる。
【0009】
以下に、本発明の防眩フィルムを構成する素材、素材の配合比、防眩フィルムの表面あらさ、ならびに、発明の防眩フィルムを製造する際に使用する溶媒(良溶媒、貧溶媒)、乾燥等について、順次、説明する。
【0010】
本発明の防眩フィルムを構成する非凝集性の透光性微粒子は、次に説明する透光性樹脂と光の屈折率がごく近いことにより、透光性樹脂中に分散した際に透明性を有するもので、透光性微粒子の粒径としては、1.0〜5.0μmの範囲のものが好ましい。粒径が1.0未満では、添加しても光拡散性が十分に生じないし、また、粒径が5.0μmを超えると、画像鮮明度、および光の透過率が十分得られない。
具体的な非凝集性の透光性微粒子としては、有機質のものでは、スチレンビーズ(屈折率;1.60)、メラミンビーズ(屈折率;1.57)、アクリルビーズ(屈折率;1.49)、アクリル−スチレンビーズ(屈折率;1.54)、ポリカーボネートビーズ、ポリエチレンビーズ、ポリ塩化ビニルビーズ等が使用でき、中でも、スチレンビーズ、アクリル−スチレンビーズが好ましい。
また、非凝集性の透光性微粒子のうち、無機質のものとしては、Si02 (屈折率;1.5〜2.0)、Al−Si02 (屈折率;1.65)、Ge02 (屈折率;1.65)が使用でき、中でもSi02 が好ましい。
上記の透光性微粒子は、いずれも非凝集性であるため、透光性樹脂との屈折率差により、効果的な内部散乱性が得られ、面ぎら防止が可能となる。
【0011】
透光性樹脂としては、電離放射線硬化性樹脂が架橋硬化したもの、電離放射線硬化性樹脂が溶剤乾燥型の樹脂と共に架橋硬化したもの、特に溶剤乾燥型の樹脂として熱可塑性樹脂を使用したもの、あるいは熱硬化性樹脂が硬化したものがある。
【0012】
このうち、電離放射線硬化性樹脂の範囲のものとしては、主としてアクリレート系であるオリゴマーもしくはプレポリマー、又は単官能もしくは多官能のモノマーがある。オリゴマーもしくはプレポリマーとしては、比較的低分子量のポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アルキッド樹脂、スピロアセタール樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリチオールポリエン樹脂、もしくは多価アルコール等のアクリレートもしくはメタクリレート(以下、両者をまとめて(メタ)アクリレートと表記する。)がある。
これらの電離放射線硬化性樹脂には、反応性希釈剤として、次のような単官能モノマーもしくは多官能モノマーが加わっていてもよい。単官能モノマーとしてはエチル(メタ)アクリレート、エチルヘキシル(メタ)アクリレート、スチレン、メチルスチレン、もしくはN−ピロリドン等、多官能モノマーとしてはトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオール(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、もしくはネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレートがある。また、これらの単官能モノマーもしくは多官能モノマーは、上記したオリゴマーもしくはプレポリマーを伴わずにモノマーだけで、使用して、架橋硬化させることもでき、あるいは、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂と混合して使用することもできる。
【0013】
電離放射線硬化性樹脂に加えてもよい溶剤乾燥型の樹脂としては、例えば、ニトロセルロース樹脂、アセチルセルロース樹脂、セルロースアセテートプロピオネート樹脂、エチルヒドロキシエチルセルロース樹脂等の主としてセルロース系樹脂が透明性が高く、好ましい。
【0014】
透光性樹脂として使用する熱硬化性樹脂としては、フェノール樹脂、尿素樹脂、ジアリルフタレート樹脂、メラミン樹脂、グアナミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アミノアルキッド樹脂、尿素メラミン樹脂、もしくはシリコーン樹脂等がある。
熱硬化性樹脂を使用するときは、必要に応じて、架橋剤、もしくは重合開始剤等を加える。
【0015】
本発明の防眩フィルムにおいては、透光性微粒子と透光性樹脂の光の屈折率の差が0.05〜0.15である必要がある。透光性樹脂の屈折率は、電離放射線硬化性樹脂の場合は、約1.5であるが、その他の樹脂の場合、光の屈折率が低いと、許容される屈折率の差よりも大きくなり、透光性微粒子の透明性が低下することがある。そのような場合、透光性樹脂に対し、光の屈折率の高い微粒子であるTiO2 (屈折率;2.3〜2.7)、Y2 3 (屈折率;1.87)、La2 3 (屈折率;1.95)、ZrO2 (屈折率;2.05)、もしくは、Al2 3 (屈折率;1.63)等を加えることにより、透光性樹脂の屈折率を上げて、透光性微粒子との屈折率の差を調整することができる。この方法は、無機質の透光性微粒子を使用するときに有効である。
【0016】
非凝集性の透光性微粒子は透光性樹脂100重量部に対し、5〜30重量部の割合で添加する。非凝集性の透光性微粒子が5重量部未満では十分な光拡散性が得られないため、得られる防眩フィルムの面ぎら防止性や写り込み防止性が十分に得られない。また、30重量部を超えると、光拡散性は向上するものの、曇価(=ヘイズ値)が高くなって透過画像鮮明度が低くなり、かつ、光の透過率(=全光線透過率)が低くなる欠点が生じる。
【0017】
本発明の防眩フィルムは、次のように規定される表面あらさを有するものであることが好ましい。即ち、中心線平均あらさ(Ra)が0.12〜0.30であり、かつ、10点平均あらさ(Rz)が1.0〜2.9である。なお、中心線平均あらさ(Ra)および10点平均あらさ(Rz)はJIS B 0601により規定された方法で求めるものである。ここで、中心線平均あらさ(Ra)は0.12〜0.30であり、10点平均あらさ(Rz)は1.0〜2.9である。
【0018】
本発明の防眩フィルムにおいては、光拡散性樹脂膜の厚みは、内部に分散している透光性微粒子の粒径の1〜3倍である。本発明の光拡散フィルムは、後に述べるように、良溶媒と貧溶媒とを使用した本発明の製造方法で得られ、製造途中の乾燥のメカニズムにより塗膜の表面に凹凸を生じるものであるため、膜厚が明らかに微粒子の粒径を越えていて、微粒子が光拡散性樹脂膜の内部に埋もれていても、前記したような表面あらさを有する防眩フィルムとすることが可能である。
ここで、光拡散性樹脂膜の厚みが、内部に分散している透光性微粒子の粒径よりも小さいと、表面凹凸形状が粗くなり、面ぎら防止性が低下することになり、逆に3倍を越えると、良好な表面凹凸形状を得るには、微粒子の添加量を増やさなければならなくなり、その結果、ヘイズ値が高くなり、透過鮮明度や全光線透過率が低下することになる。
【0019】
本発明の防眩フィルムは、透光性微粒子の粒径、透光性微粒子と透光性樹脂との屈折率の差、両者の配合割合、表面あらさを規定することにより、透過画像鮮明度が80〜300であり、写り込み防止性が5〜70という優れた性能を示すことができる。
透過画像鮮明度は、JIS K 7105によって求め、画像鮮明度装置を用いて、試料を透過または反射する光を、移動する光学くしを通して測定し、Cを透過画像鮮明度(%)、Mを最高波高、mを最低波高とするとき、C=(M−m)/(M+m)×100の式により計算で求める。
透過画像鮮明度C(%)の値は、大きいほど画像が鮮明で良好であることを表す。使用した装置はスガ試験機社製、写像性測定器(ICM−1DP)であり、光学くしのスリット幅が4種類あるため、100%×4=400%が最大値となる。
また、写り込み防止性の測定は、試料となる光拡散性樹脂膜の非凹凸面に黒色の粘着テープを貼って裏面での光の反射を防止し、この試料を平らに保持して、その法線に対して10°の方向から5mm角の平行光束を入射させ、正反射方向から光拡散性樹脂膜の凹凸面に写った光束をCCDカメラで観測する。CCDカメラの絞りを調整して、ピークの輝度をある一定値とし、写った光束のエッジ部分の輝度の変曲点における輝度の傾き角度をもって写り込み防止性とする。鏡面に光束を写した場合、輝度の傾きは90°にほぼ等しくなるが、凹凸の大きいマット面であれば、輝度の傾きは小さくなる。
なお、後述する実施例、比較例の防眩フィルムの評価項目における「外光反射」はこのようにして得られる写り込み防止性のことである。
【0020】
本発明の防眩フィルムを製造するには、非凝集性の透光性微粒子と透光性樹脂とを配合し、これらに、透光性樹脂に対する良溶媒および貧溶媒とを使用して分散ないし溶解して塗料組成物を準備し、被塗布基材上に塗布を行なった後、乾燥を行なって硬化させる。
この塗料組成物中では、透光性樹脂100重量部に対し、溶媒(良溶媒、貧溶媒を合わせて溶媒と言う)を20〜1000重量部の割合で使用し、溶媒中の良溶媒/貧溶媒の重量部比が100/20〜100/70になるよう配合する。
ここで良溶媒とは、樹脂の溶解性や膨潤度が優れた溶剤を指し、貧溶媒とは、樹脂の溶解性が劣り、ゲル化を起こしやすい溶剤を指す用語であるが、良溶媒、貧溶媒のいずれも、溶質である樹脂ごとに決まり、また、溶解度が優れているか劣っているかも多分に相対的なものであるので、代表的な透光性樹脂とその樹脂に対する良溶媒と貧溶媒の組み合わせ例を挙げる;
アクリレート樹脂と、アクリレート樹脂に対する良溶媒としてトルエン、メチルエチルケトン、酢酸エチル、酢酸n−ブチル、もしくはシクロヘキサノン、および貧溶媒としてメタノール、エタノール、n−ブタノール、もしくはイソプロパノールの組み合わせ、
セルロース系樹脂と、セルロース系樹脂に対する良溶媒として酢酸エチル、酢酸n−ブチル、アセトン、もしくはシクロヘキサノンで、および貧溶媒としてメタノール、エタノール、n−ブタノール、もしくはイソプロパノールの組み合わせ、
エポキシ樹脂と、エポキシ樹脂に対する良溶媒としてメタノール/トルエン(「/」は混合を意味する。)、エタノール/キシレン、メチルエチルケトン、酢酸エチル、酢酸n−ブチル、もしくはメチルイソブチルケトン、および貧溶媒としてトルエン、キシレン、シクロヘキサノン、もしくはシクロペンタンの組み合わせ、
尿素メラミン樹脂と、尿素メラミン樹脂に対する良溶媒として酢酸エチル、酢酸n−ブチル、n−ブタノール、n−ヘキシルアルコール、および貧溶媒としてトルエン、もしくはキシレンの組み合わせ、または、
ウレタン樹脂と、ウレタン樹脂に対する良溶媒として酢酸エチル、酢酸n−ブチル、もしくはメチルエチルケトン、および貧溶媒としてメタノール、もしくはエタノールの組み合わせ。
なお、上記の組合わせにおいて、透光性樹脂に対し、良溶媒、または貧溶媒として、各々、2種以上の溶剤を選択して使用してもよい。
【0021】
この塗料組成物中では、透光性樹脂100重量部に対し、溶媒20〜1000重量部の割合の配合となっている。溶解性の良い樹脂やモノマーに対しては、溶媒を少量使用すればよいが、溶解性が比較的低いか、あるいは溶解しても粘度が高い場合には、溶媒の配合量を多くする。
溶媒の配合が下限未満では、溶媒が僅かに蒸発しただけで粘度が上昇したり、ゲル化を起こすため、製造に使用するに支障があるし、また、上限を越えると、溶媒の乾燥のために多大なエネルギーを要する。
【0022】
更に、溶媒中の良溶媒/貧溶媒の重量部比は100/20〜100/70であることが好ましい。
貧溶媒の配合が下限未満である塗料組成物を使用して塗布を行なうと、溶媒のほとんどが良溶媒であるため、溶媒全体の消失が速く、結果として単に乾燥するだけで、塗膜表面の凹凸が生じにくい。また、貧溶媒が上限を越えて配合されている場合、ゲル化が早くから進行するため、生じる凹凸が粗いものになりやすく、また、塗料組成物が保管中にゲル化する恐れがある上、貧溶媒の乾燥速度が遅い場合には、塗膜が乾燥しにくくなる恐れがある。
溶媒の乾燥速度は、溶剤の相対蒸発速度Rを目安とすることができる。溶剤Aの相対蒸発速度Rは、常温で酢酸n−ブチルが蒸発するのに要する時間を基準として決められ、R=〔酢酸n−ブチルが蒸発するのに要する時間〕/〔溶剤Aが蒸発するのに要する時間〕で算出され、数値が大きいほど蒸発速度が速く、数値が小さいほど蒸発速度が遅いことを示す。
良溶媒、および貧溶媒の相対蒸発速度Rは、良溶媒については、相対蒸発速度Rが3.7以下のものが好ましく、貧溶媒としては、相対蒸発速度Rが1.9以下のものが好ましい。また、良溶媒と貧溶媒とを選択したときに、良溶媒の方が貧溶媒よりも相対蒸発速度Rの大きいものを選択した方がよいが、良溶媒/貧溶媒の重量部比、塗料組成物を塗布した後の乾燥機の能力にもよるので、良溶媒の方が貧溶媒よりも相対蒸発速度Rが小さい場合もあり得る。
【0023】
塗料組成物中の透光性樹脂100重量部に対し、溶媒(良溶媒、貧溶媒を合わせて溶媒と言う)を20〜1000重量部の割合で、また、溶媒中の良溶媒/貧溶媒の重量部比を100/20〜100/70としてある場合には、この塗料組成物は、保管中にゲル化する等の欠点がなく、塗布に適した粘度を保つことができる。
【0024】
以上のような塗料組成物を使用して、光拡散性樹脂膜を形成する際の、被塗布基材の素材としては、透明ガラス、透明樹脂があり、後者であればフィルムもしくはシート、または板がある。
透明樹脂としては、セルロースの水酸基の一部または全部が主に低級脂肪酸によりエステル化したもの、例えば、アセチルセルロースや酢酸酪酸セルロース、代表的には三酢酸セルロースがある。また、各種ポリエステル(代表的にはポリエチレンテレフタレート=PET)、アクリル(代表的にはポリメタクリル酸メチル)、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリメチルペンテン、(メタ)アクリロニトリル、ポリエーテルサルホン、ポリサルホン、またはポリエーテルケトン等も使用できる。
上記のうちでも、透明樹脂のフィルムを使用すると、塗布が連続的に行なえ、また得られる防眩フィルムがフレキシビリティーを有し、種々の用途に適応しやすいので、透明樹脂のフィルムを使用することがより好ましい。透明樹脂のフィルムの厚みとしては、通常、25〜1000μmである。
なお、これらの被塗布基材の表面を剥離性にしておくことにより、光拡散性樹脂膜を形成した後に剥離して、基材を伴わない光拡散性樹脂膜を形成することができる事は既に述べたが、被塗布基材の素材と、光拡散性樹脂膜の素材との関係で、密着性が乏しく、特に剥離性を与えなくてもよいこともある。あるいは金属の鏡面等に塗布して成膜した後、剥離する方法によってもよい。
【0025】
被塗布基材への塗料組成物の塗布は、一般的なコーティングまたは印刷手法により行なうことができ、ロールコーティング法、グラビアロールコーティング法、スプレイコーティング法、カーテンフローコーティング法、かけ流し法、キスコーティング法、スピンナー・ホイーラー等による回転塗布法、もしくは刷毛塗り法等のコーティング手法、または、グラビア印刷、もしくはシルクスクリーン印刷等の印刷手法が例示できる。
【0026】
被塗布基材上に塗布を行なった後、乾燥を行なうと、乾燥の進行に伴ない、塗膜表面に凹凸が生じる。
塗料組成物は、塗布手法または印刷手法により被塗布基材上に塗布された時点から、乾燥が始まる。乾燥を行なうには、風を吹きつけるかおよび/又は加熱するのが普通であり、それらの条件の下で、溶媒が少しずつ蒸発する。
塗料組成物中の溶媒が減少すると、それまで良溶媒の働きで溶解していた表面近くの透光性樹脂が貧溶剤の存在によりゲル化を起こし始め、塗膜表面近傍に透光性樹脂と透光性微粒子からなる固まりが生じる。ゲル化する際に、良溶媒の乾燥速度が貧溶媒よりも高いか、または乾燥温度が高いか、または吹きつける風量が多いほど、溶媒の減少が急に起こり、透光性樹脂と透光性微粒子からなる固まりが急に生じ、比較的大きな凹凸を形成するが、良溶媒の乾燥速度が貧溶媒よりもそれほど大きくないか、または乾燥条件が緩やかであるほど、塗料組成物中の溶媒の減少のスピードが鈍くなり、比較的細かい凹凸を形成する。
また、塗料組成物中の良溶媒が少ないほど、ゲル化が急に起こり、比較的大きな凹凸を形成する。
つまり、本発明の製造方法によれば、良溶媒の乾燥速度と貧溶媒の乾燥速度の差、乾燥条件、溶媒中の良溶媒の割合を調整することにより、塗膜表面に形成される凹凸の大きさを制御することができ、透光性微粒子の大きさによって塗膜表面の凹凸が決まるのではないので、同じ大きさの透光性微粒子を使用しても、異なる凹凸の大きさを形成できる利点がある。
【0027】
ゲル化して塗膜表面に凹凸が生じた状態は、乾燥を続けることにより、固化させるか、あるいは、使用した塗料組成物の樹脂成分に応じた方法により硬化させる。熱硬化性樹脂であれば、必要に応じ,さらに熱をかけ、電離放射線硬化性樹脂を使用した場合には電離放射線を照射して架橋硬化させる。
【実施例】
【0028】
(実施例1)
次の各材料を所定量配合し、よく混合して、光拡散性樹脂膜形成用の次の組成の塗料組成物を準備した。
透光性樹脂 100重量部
ペンタエリスリトールトリアクリレート
(日本化薬(株)製、PET30)
光開始剤 5重量部
(チバガイギー社製、イルガキュア184)
透光性微粒子 8重量部
ポリスチレン樹脂製充填剤
(粒径;1.3μm、屈折率;1.6)
良溶媒 60重量部
メチルイソブチルケトン
(相対蒸発速度R;1.6)
貧溶媒 15重量部
イソブチルアルコール
(相対蒸発速度R;0.64)
被塗布基材として、三酢酸セルロースフィルム(富士写真フィルム製、TD−80U、厚み80μm)を準備し、その片面に上記で得られた塗料組成物を用いてロールコーティング法により塗工した後、50℃の温度で乾燥して塗膜表面に凹凸を生じさせ、その後、紫外線を120mJ照射して塗膜を硬化させ、防眩フィルムとした。
【0029】
(その他の実施例および比較例)
実施例2〜7、および比較例1〜4については、実施例1における、透光性樹脂および光開始剤、ならびにそれらの配合量はそのままにし、透光性微粒子、溶媒を変更した塗料組成物を用い、膜厚、乾燥温度をその都度変更した以外は実施例と同様に行なった。
また、比較例5については、ペンタエリスリトールトリアクリレートのみを、表面に凹凸を形成してある賦形用フィルム上に厚みが3μmになるよう塗布し、硬化させた後に剥離した。
各実施例および各比較例における実施例1からの変更点等を、以下の「表1」および「表2」に示す。
【0030】
【表1】

【0031】
【表2】

【0032】
上記の各実施例および各比較例で得られた防眩フィルムについて、評価した結果を以下の「表3」および「表4」に示す。
ただし、「表3」および「表4」中の「面ぎら」は、液晶ディスプレイ用のバックライト(HAKUBA製、LIGHTBOX45を使用)上に千鳥格子配置(または三角形配列)、150μmピッチのカラーフィルタ(ただし、色の影響を避けるため、ブラックマトリックスのみで、各画素上のフィルターには彩色してないものを使用。)を重ね、カラーフィルタ表面から160μm離れた位置に防眩フィルムの凹凸面を観察側になるよう固定し、CCDカメラにてフィルム表面を観察したときの輝度のバラツキの標準偏差を求めたものである。
【0033】
【表3】

【0034】
【表4】

【0035】
実施例1と実施例2においては、乾燥温度のみが相違しており、乾燥温度が低い実施例1で得られたものの方が、凹凸がより微細であるため、面ぎら、および透過画像鮮明度(以降、および表中、鮮明度と略記することがある。)に関してはよい。また、乾燥温度が高い実施例2で得られたものの方が表面がより粗くなるため、鮮明度は低くなり、ヘイズも若干上がるが、写り込み防止性については良くなる。
実施例3においては、実施例1におけるよりも貧溶媒の割合を増やしたので、乾燥温度は実施例1と同じであるにもかかわらず、温度を挙げた実施例2とくらべても、より粗くなるため、鮮明度はより低くなり、ヘイズも上がるが、写り込み防止性についてはさらに良くなる。
実施例4においては、微粒子の半量を、樹脂に近い屈折率1.5の微粒子を加えているので、ヘイズが下がり、鮮明度が若干上がるが、内部ヘイズが下がったため、面ぎらの点では実施例1よりも数値上は劣るが、この面ぎらの値は、実用上は十分である。
実施例5〜7においては、微粒子の粒径、溶媒を変えてみたが、得られた防眩フィルムの性能は実施例1等で得られるものと同様な良い性能を示す。
【0036】
比較例1では、溶媒を良溶媒のみとしたので、凹凸を生じにくく、ほとんど平面に近くなるため、面ぎら、鮮明度については良いが、写り込み防止性については良くない。
比較例2では、溶媒を貧溶媒のみとしたので、すりガラス状のかなり粗い凹凸が生じ、光線の透過率が低下し、鮮明度も極めて低い。
比較例3では、透過率は高いが、鮮明度が低く、面ぎらに関しても実施例1より劣る。
比較例4では、鮮明度が劣る。面ぎら、写り込み防止性の点では良い。
比較例5は、実施例や他の比較例と異なり、賦形フィルムを使用して凹凸形状を形成したもので、微粒子は添加されていないので、透過率、鮮明度は良いが、面ぎら、写り込み防止性の点で良くない。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】防眩フィルムの断面図である。
【符号の説明】
【0038】
1 防眩フィルム
2 透明基材
3 光拡散性樹脂膜
4 透光性微粒子
5 微細凹凸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディスプレイの前面に配置されてなる防眩フィルムであって、
少なくとも非凝集性の透光性微粒子が透光性樹脂に分散された光拡散性樹脂膜から構成されてなり、
前記透光性微粒子の粒径が1.0〜5.0μmであり、
前記透光性微粒子の光の屈折率と前記透光性樹脂の光の屈折率との差が0.05〜0.15であり、
前記透光性樹脂100重量部に対する前記透光性微粒子の添加量が5〜30重量部であり、
前記透光性樹脂が電離放射線硬化性樹脂を硬化したものであり、
前記光拡散性樹脂膜の表面粗さとして、中心線平均粗さ(Ra)が0.12〜0.30であり、および10点平均粗さ(Rz)が1.0〜2.9であるものであり、
面ギラ値が9〜14であり、
写り込み防止性が26〜60である、防眩フィルム。
【請求項2】
透明基材上に前記光拡散性樹脂膜が形成されたものである、請求項1に記載の防眩フィルム。
【請求項3】
前記光拡散性樹脂膜の厚みが前記透光性微粒子の粒径の1〜3倍である、請求項1または2に記載の防眩フィルム。
【請求項4】
画像鮮明度が80〜300である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の防眩フィルム。
【請求項5】
前記透光性樹脂が電離放射線硬化性樹脂を硬化させたものである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の防眩フィルム。

【図1】
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【公開番号】特開2008−152268(P2008−152268A)
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−334906(P2007−334906)
【出願日】平成19年12月26日(2007.12.26)
【分割の表示】特願2003−366300(P2003−366300)の分割
【原出願日】平成11年5月28日(1999.5.28)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】