説明

防眩性ガラス基板の製法

【課題】液晶表示素子等の防眩に適したガラス基板を提供する。
【解決手段】[SiO4/2]が架造単位として架橋が形成され、そしてポリスチレン換算の数平均分子量が300〜1000であるオリゴマーを有するシリカゾル(A)と、アリール基とケイ素との結合を有する酸化ケイ素が架橋単位として架橋が形成され、そしてポリスチレン換算の数平均分子量が500〜1000であるオリゴマーを有するシリカゾル(B)とを混合して塗布液を得る工程と該塗布液をスピンコートでガラス基板に塗布する工程を有する方法でガラス基板を得ること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に液晶表示素子に防眩性をもたらすことに効果のあり、好ましくは易洗浄性を有する防眩性ガラス基板の製法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイ(LCD)は、薄型テレビジョン、タッチパネルの表示パネル、タブレット板を設けることで、文字、パターン等を入力ペン等のデータ入力装置で手書き入力できるようにするとともに、その入力内容を表示パネルに表示するようにした表示装置(ペン入力装置)に使用される表示パネル等に用いられている。
【0003】
そして、LCDの視認性を向上させるために観察者側面に防眩性の機能が要求されている。該防眩機能は、ガラス基板に適当な凹凸形状を設けることによって得られる。そして、非特許文献1では、防眩機能を得る凹凸形状についてLCDのギラツキ、像鮮明性、白ボケの観点から、該凹凸の表面粗さと凹凸間距離との適正関係について紹介している。
【0004】
また、特許文献1では、ペン入力装置への適用を考慮し、ペンによる書き味の良い防眩機能を有する凹凸パターンについて開示されている。
【特許文献1】特開2004−240548号公報
【非特許文献1】北川篤、松永卓也、“高精細LCD用表面処理技術の開発”、日東技法40巻1号May、2002、29-31頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
凹凸構造で防眩機能を発揮させるためには、例えば特許文献1によれば、表面粗さ(Ra)は、0.01〜0.5μm必要となる。防眩性とLCD素子の像鮮明性について論じた非特許文献1によれば、「表面粗さ/凸状体間距離≦0.008」の関係を満たす必要がある。これより、前記表面粗さ値から適切な凸状体の距離を導き出すと、凸状体距離は、1.25〜62.5μm以上必要となる。
【0006】
しかしながら、従来の表面の防眩処理は、表面を粗い状態にするという技術思想のみでなされたものなので、凹凸形状の各場所での高さ、各深さはランダムである。又、光の反射の波長依存性を低減させるために、凹凸構造は、非周期的とされなければならない。
【0007】
防眩機能は、表面の凹凸構造により達成されるが、該凹凸はLCDからの表示光をも散乱する。LCDを表示する各画素の面積は、40〜80×150〜250μm程度であり、前記凸状体距離の制御だけでは、非周期的に配列される凹凸構造の配列状況によっては、各画素上に配列された凸状体の数にバラツキが生じる。これは、各画素での光の散乱状態にバラツキを生じせしめるもので、結果、干渉によって生じる部分的な光彩が観察者に観察されるようになる。
【0008】
また、防眩処理された表面は、LCD素子、又はタッチパネル、ペン入力装置等LCDを有する構造体の最外層となるので、汚れに暴露されやすい。凹凸構造による防眩処理された表面は、油脂等の汚れが付着した場合に布等による簡単な払拭で汚れを洗浄することが困難となりやすいので、易洗浄性を有する防眩処理された表面の提供が求められている。
【0009】
本発明は、上記を考慮し、LCDの観察者にもたらす干渉によって生じる部分的な光彩を抑制することに適し、好適には易洗浄性に優れた防眩性ガラス基板を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の防眩性ガラス基板の製法は、酸化ケイ素が架橋の構造単位であるオリゴマーを有するシリカゾルを複種混合して塗布液を得る工程、及び該塗布液をスピンコートでガラス基板に塗布する工程を有する。
【0011】
上記工程を経てガラス基板上に形成される防眩性薄膜は、酸化ケイ素を基礎とする薄膜である。前記オリゴマーは、主に架橋された[SiO4/2]を主成分とするシリカゾルと、さらにアリール基とケイ素の結合を有し適度な疎水性を帯びたシリカゾルを混合して得られるものである。この混合シリカゾルを基板上に塗布すると、溶媒の乾燥に伴い、親水的な[SiO4/2]を主成分とするシリカ構造体とアリール基とケイ素の結合を有する疎水的なシリカ構造体との相分離が生じる。その際、架橋された[SiO4/2]を主成分とするシリカゾルとアリール基とケイ素の結合を有し疎水性を帯びたシリカゾルの混合比を適切に設定することにより、バイノーダル的に分相したような薄膜となる。その結果、薄膜は、微細な凹凸構造を有したものとなる。
【0012】
さらに本防眩性薄膜の形成方法は、分相を形成した後の熱処理時に薄膜内の亀裂の発生を抑制するための成分として、アルキル基とケイ素との結合を有するシリカゾルを同時に混合しておくことを特徴とする。そして、該凹凸構造の大きさや配列状態を制御することで、低反射機能、又は防眩機能を有する薄膜が得られる。
【0013】
本発明では、LCD用の防眩性材料として使用した場合に、防眩機能を備え、且つ観察者に与える干渉によって生じる部分的な光彩を抑制できる基板を得ることを目的の一つとしている。そして、本発明者は、LCDの画素面積に相当する領域毎の散乱因子、すなわち防眩機能を奏するための凸状、又は凹状構造体の数を適正化すれば、各画素領域での光の散乱状態のバラツキが少なくなり、干渉によって生じる部分的な光彩を抑制可能との着想に至った。
【0014】
上記塗布手段で得られる薄膜で、上記特性を有する薄膜を得るためにはバイノーダル的に分相した領域が、上記領域毎でその数が平準化されるように分布される必要がある。本発明では、架橋された[SiO4/2]を主成分とするシリカゾルとアリール基とケイ素の結合を有し疎水性を帯びたシリカゾル、さらにアルキル基とケイ素との結合を有するシリカゾルを混合した混合ゾル液を基板上に塗布することにより、相分離による表面凹凸を形成し、さらにはその混合比を適正化することにより、バイノーダル的分相度合いを制御でき、さらには防眩性に寄与する凸状体の配列を制御するために、塗布液を得る際のシリカゾルの重合度合いを適正化する。
【0015】
すなわち、本発明は、[SiO4/2]を架橋単位として架橋が形成され、そしてポリスチレン換算の数平均分子量が300〜1000、好ましくは、500〜900であるオリゴマーを有するシリカゾル(A)と、アリール基とケイ素との結合を有する酸化ケイ素が架橋単位として架橋が形成され、そしてポリスチレン換算の数平均分子量が500〜1000、好ましくは、700〜900であるオリゴマーを有するシリカゾル(B)とを混合して塗布液を得る工程、及び該塗布液をスピンコートでガラス基板に塗布する工程を有することを特徴とする。
【0016】
シリカゾル(A)は、薄膜を形成するための基礎となる材料である。この材料からは、ケイ素と酸素とが3次元的に網目形成された構造体が形成される。この3次元的に網目形成された構造体は、強度の高い薄膜の形成に重要な役割を果たす。そして、シリカゾル(A)とアリール基とケイ素との結合を有する酸化ケイ素が主の架橋構造単位であるオリゴマーを有するシリカゾル(B)とを混合すると、溶媒の乾燥に伴う薄膜の形成過程にてシリカゾル(A)とシリカゾル(B)の相分離が生じ、その結果防眩機能を奏するに十分な大きさの表面粗さを有する薄膜を形成させ、且つLCDの画素面積に相当する領域毎の凸状体の数が適正化する。
【0017】
ここで言う[SiO4/2]とは、一つのケイ素原子に4つの酸素原子が結合したシロキサンの基本構成単位のことである。これを基本構成単位とするオリゴマーは、テトラクロロシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラ(n−プロポキシ)シラン、テトライソプロポキシシラン、テトラ(n−ブトキシ)シラン等の4官能の加水分解反応性基を有するシラン類を加水分解及び重縮合させることにより得ることができる。
【0018】
また、シリカゾル(B)中のオリゴマーは、フェニルトリクロロシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ナフチルトリクロロシラン、ナフチルトリメトキシシラン、ナフチルトリエトキシシラン、ジフェニルジクロロシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、ジナフチルジクロロシラン、ジナフチルジメトキシシラン、ジナフチルジエトキシシラン等のケイ素原子1つに対しアリール基を1つないし2つ有するシラン類等を加水分解・重縮合させることにより得ることができる。
【0019】
シリカゾル(A)中の酸化ケイ素オリゴマーのポリスチレン換算での数平均分子量が1000超となると、防眩性薄膜を得る際に大きな凹凸が形成され、膜質が低下する。他方、300未満となると、スピンコートで塗布液を基板に塗布する際にシリカ成分が基板から飛散してしまうため、薄膜の形成が困難となる。
【0020】
従って、前記したような要求を満たす防眩性薄膜を得るためにはシリカゾル(A)中のオリゴマーの数平均分子量を300〜1000の範囲とすることが必要となる。そして、500〜900の範囲とすることがより好ましい。
【0021】
また、シリカゾル(B)中のアリール基とケイ素の結合を有するオリゴマーのポリスチレン換算での数平均分子量が1000より大きくなると、防眩性薄膜を得る際に大きな凹凸が形成され、膜質が低下する。一方、アリール基とケイ素の結合を有するオリゴマーの数平均分子量が500未満となると、前記したような分相の領域サイズを制御することができなくなり、その結果、凸状体の大きさが大きい場合やあるいは凹凸が小さすぎる等の事態が生じ、単位面積内における凸状体の数を平準化することが困難となる。
【0022】
従って、前記したような要求を満たす防眩性薄膜を得るためにはシリカゾル(B)中のアリール基とケイ素の結合を有するオリゴマーの数平均分子量を500〜1000の範囲とすることが必要となる。そして、700〜900とすることがより好ましい。
【0023】
そして、上記した凸状体数の適正化及び防眩機能の観点から、具体的には凸状体は、触針式表面走査計で表面状態を観察したときに、正面視で平均面積が80〜400μm2好ましくは、100〜200μmの円状であり、薄膜の表面粗さ(Ra)は、0.1〜0.4μm、さらには、0.1〜0.3μmであることが好ましい。ここで、「正面視」とは、ガラス基板を、凸状体が配置された面に対して、垂直方向から観察したときに得られる2次元的な観察結果のことを指す。
【0024】
該形状の凸状体は、薄膜を100×100μmのサイズで区画した場合に、配置度合いは、各区画にランダムに5個以上、より好ましくは10個以上、そして好ましくは100個以下、好ましくは50個以下、より好ましくは25個以下、さらに好ましくは、20個以下配置されることが好ましい。
【0025】
尚、ここで言う平均面積の「平均」とは、100×100μm内に観察される凸状体の全部のデータを算術平均して得られるもの、表面粗さは、触針式表面走査計等で測定された表面の高さデータを「JIS B0601(2001年)」に準拠して得られた算術平均の表面粗さとして定義されるものである。さらに、小丘体状の凸状体が、図2のように中央部が陥没部となる形状の場合、該陥没部についても計測される面積として加えられる。
【0026】
本発明で得られる防眩性ガラス基板の表面を、触針式表面走査計により100×100μmの面内の形状を測定し、実測した高さの数値データを2次元面に対してプロットすると、例えば、図1に示すような形状が描画される。本発明での防眩性ガラス基板の防眩処理された表面は、このような形状が防眩処理された表面の全域に形成されたものとなる。そして本発明で得られる防眩性ガラス基板を白表示されたLCDパネル上に設置すると、干渉が生じ難くなり、部分的な光彩が観察者に観測されないようになる。
【0027】
上記塗布液をガラス基板に塗布して乾燥して形成される凸状体は、上記ような形状と配置度合いとなり、薄膜の表面粗さも前記範囲となる。さらには凸状体が略平面の表面上に略平面から盛り上がる小丘体状の形状を有したものとなるので、前記薄膜の表面粗さは、凸状体の高さのデータと同義のものと考えてもよい。
【0028】
尚、本発明で得られる防眩性ガラス基板では、前記した「表面上の略表面」は、凸状体が配置された面において、「平坦面」として現れ、該平坦面は、ガラス基板の対向する面と略平行な関係を形成するものである。そして、本発明で得られる防眩性ガラス基板では、薄膜の厚みは、平坦面を基準として、0.2〜5μm、さらには、0.5〜2μmとすることが好ましい。
【0029】
そして塗布液をガラス基板に塗布した後の乾燥を促進させるために加熱工程が実施されることが好ましい。この加熱は、ガラス基板を100〜700℃で加熱することが好ましい。加熱温度が100℃未満では、薄膜の緻密化が不十分となりやすく、700℃以上では、薄膜の緻密化が促進されすぎて薄膜の凸状体を上記したような形状及び配置度合いとすることが難しくなるからである。
【0030】
前記小丘体状の凸状体は、ガラス基板に塗布液を塗布した後の乾燥工程での加熱温度が低温の場合、図1に示すような平面から盛り上がった形状のもので、正面視において中央部が頂上となる滑らかに盛り上がったドーム形状となる。また、加熱温度が高温の場合、アリール基の脱離が生じやすくなり、図2に示すようにカルデラ火山のように中央部が陥没部となった形状になりうる。
【0031】
どちらの形状であっても、防眩機能、及び上記したような部分的な光彩に対して大きな機能的な差を生じさせないが、本発明で得られる防眩性ガラス基板をペン入力装置のカバーガラスとして使用した場合、図1のような形状であれば引っかかり感がなく滑らかな書き具合感が得られやすい等の点を考慮すると、前記凸状体の構造は、中央に陥没のないドーム状の小丘体の方が好ましい。従って、前記加熱温度は、100〜600℃とすることが好ましい。
【0032】
また、薄膜中にアリール基があることにより、該アリール基が、疎水性の性状を呈することから、結果として形成される薄膜は、疎水性を呈するものとなる。従って、本発明の一態様を適用して得られる防眩性ガラス基板は、易洗浄性を呈するものとなり、好適には易洗浄性に優れる物品を提供するというさらに難易度の高い課題を満たすものとなる。
【0033】
加えて凸状体の大きさや形、そして配置度合いは、塗布液の組成だけでなく、基板に塗布された塗布液からの溶媒等の揮発成分の乾燥速度にも影響される。凸形状体が小丘体状で上記したような大きさ、配置度合いとなるようにするには、塗布液は、スピンコートでガラス基板に塗布されなければならない。
【0034】
スピンコートでは、塗布された液が速やかにガラス基板上に行き渡る。すなわち、ガラス基板上に塗布液は、酸化ケイ素の薄膜となるシリカゾル量、揮発成分量がほぼ均等な割合で給液される。そして結果的に凸形状体が小丘体状で上記したような大きさ、配置度合いのものとなる。
【0035】
また、良好な防眩性を得るための好適な高さを有する凸状体、すなわち平均高さが0.1〜5μm、さらには好適な0.1〜0.4μmの凸状体を発現させやすく、強度の高い薄膜を得やすくする観点から、塗布液を得る工程にてシリカゾル(A)のオリゴマー量とシリカゾル(B)のオリゴマー量との重量比を、[シリカゾル(A)のオリゴマー量]/[シリカゾル(B)のオリゴマー量]で0.1〜10、さらには0.25〜4の範囲とすることが好ましい。
【0036】
前記比が0.1未満では得られる膜の強度が弱くなりやすく、例えば薄膜の耐擦傷性が不十分となりやすい。他方、比が10超では良好な防眩性を発現させる凸状体を得にくくなる。さらには、結果的に得られる薄膜中のアリール基の数が少なくなり、乾燥工程が低温の場合に得られる易洗浄性を得にくくなる等の不都合が生じやすくなる。
【0037】
さらには、塗布液を得る工程にて、アルキル基とケイ素との結合を有する酸化ケイ素が橋構単位として架橋が形成され、そしてポリスチレン換算の数平均分子量が500〜1000、好ましくは700〜900であるオリゴマーを有するシリカゾル(C)も混合されることが好ましい。
【0038】
該シリカゾルが導入されると、ガラス基板に塗布液を塗布後の乾燥工程にて、乾燥により生じる薄膜内での応力の発生を抑制しやすくなるので、該シリカゾルの導入は、亀裂の無い薄膜を作製することを容易とする。シリカゾル(C)中のオリゴマーは、メチルトリクロロシラン、エチルトリクロロシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、ジメチルジクロロシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジエチルジクロロシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン等のケイ素原子1つに対しアルキル基を1つないし2つ有するシラン類等を加水分解及び重縮合させることにより得ることができる。
【0039】
シリカゾル(C)中のアルキル基とケイ素の結合を有するオリゴマーの数平均分子量が1000より大きくなると、防眩性薄膜を得る際に大きな凹凸が形成され、膜質を低下させてしまう。またアルキル基とケイ素の結合を有するオリゴマーの数平均分子量が500未満となると、均一性の良い防眩性薄膜が得られにくくなる。よって適正な防眩性薄膜を得るためにはシリカゾル(C)中のアルキル基とケイ素の結合を有するオリゴマーの数平均分子量を500〜1000の範囲とすることが好ましい。
【0040】
そして、該シリカゾル(C)は、所望とする防眩機能が得られる範囲内で導入することができ、塗布液を得る工程にてシリカゾル(B)中のオリゴマー量とシリカゾル(C)中のオリゴマー量との重量比が、[シリカゾル(A)のオリゴマー量]/[シリカゾル(C)のオリゴマー量]で0.1〜10、好ましくは0.25〜4の範囲で導入させることができる。前記比が0.1未満では得られる膜の強度が弱くなりやすく、例えば薄膜の耐擦傷性が不十分となりやすい。他方、比が10超では熱処理時に薄膜内での応力の発生を十分に抑制できず、その結果、膜に亀裂が生じやすくなる。
【発明の効果】
【0041】
本発明によれば、防眩性に優れる防眩性ガラス基板が得られる。該防眩性ガラス基板では、微細な小丘体状の形状を有する凸状体が防眩効果をもたらす。そして、該凸状体による光の散乱がLCDの画素面積の相当する面積毎で均一なので、LCDの防眩のために使用すると干渉によって生じる部分的な光彩がなく優れた視認性が得られる。又、本発明で得られる防眩性ガラス基板をペン入力装置のカバーガラスとして使用した場合にペンの書き具合に引っかかり感がなく滑らかな書き具合感が得られやすい等の効果が得られる。さらには、易洗浄性をも有する防眩性ガラス基板を得ることも可能とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0042】
本発明の防眩性ガラス基板の製法は、酸化ケイ素が架橋の構造単位であるオリゴマーを有するシリカゾルを複種混合して塗布液を得る工程、及び該塗布液をスピンコートでガラス基板に塗布する工程を有する。
【0043】
前記シリカゾルは、アルコキシシラン等の酸化ケイ素前駆体物質、有機溶媒、及び酸性触媒、水等を所定量混合、攪拌することで得られる。
【0044】
前記攪拌のための時間は、10分から20日が好ましく、特に1時間から4日が好ましいが、室温以外で攪拌する場合はこれに限定されるわけではない。また、加熱することで、反応を促進させ、攪拌時間を短くすることが可能である。以上のように酸化ケイ素前駆体物質の加水分解は、少量の水と酸触媒を添加し行うことができ、その加水分解物を室温、又は加熱しながら攪拌することにより重縮合させ、シリカゾルを得ることができる。
【0045】
尚、水の添加量については、HO/酸化ケイ素前駆体物質のモル比が0.1〜20となるように調整されることが好ましい。この水の添加量を調整することにより、シリカゾル中のオリゴマーの分子量を調整でき、水の添加量が多くなると、オリゴマーの分子量が小さくなる傾向がある。0.1未満では、オリゴマーの平均分子量が大きくなりやすく、白濁化したシリカゾルが得られやすくなり、不均質な薄膜となりやすい。他方モル比が20以上では、平均分子量が本発明で規定した平均分子量としにくくなる。従って、均一な防眩性薄膜を得るためには、該モル比は0.1〜20、さらには4〜8となるように調整されることが好ましい。
【0046】
尚、シリカゾルの調製方法としては、上記の方法に限定されるものではないが、上記のような酸化ケイ素前駆体物質を溶媒で希釈したものと、溶媒で希釈した酸性水溶液を徐々に混合する方法は、急激な反応を避けることができ、より均質な反応が得られるので好ましい。
【0047】
酸触媒には、用いられるアルコキシシランのアルコキシ基の加水分解速度に応じて、塩酸、硫酸、硝酸などの無機酸、酢酸、フタル酸、コハク酸などの有機酸等を使用することができる。そして、シリカゾル溶液中でのpH値が0乃至5となるように酸触媒が添加されることが好ましい。
【0048】
前記有機溶媒は、原料液を構成するアルコキシシラン、およびアルコキシシランの加水分解後に生成するシラノール基、水に相溶性を有するものが好ましく用いられる。使用可能な有機溶媒としては、炭素数1〜4の一価アルコール、炭素数1〜4の二価アルコール、グリセリンやペンタエリスリトールなどの多価アルコール等のアルコール類;ジエチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、2−エトキシエタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート等、前記アルコール類のエーテルまたはエステル化物;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類;ホルムアミド、N−メチルホルムアミド、N−エチルホルムアミド、N, N−ジメチルホルムアミド、N, N−ジエチルホルムアミド、N−メチルアセトアミド、N−エチルアセトアミド、N, N−ジメチルアセトアミド、N, N−ジエチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、N−メチルピロリドン、N−ホルミルモルホリン、N−アセチルモルホリン、N−ホルミルピペリジン、N−アセチルピペリジン、N−ホルミルピロリジン、N−アセチルピロリジン、N, N’−ジホルミルピペラジン、N, N’−ジアセチルピペラジンなどのアミド類;γ−ブチロラクトンのようなラクトン類;テトラメチルウレア、N, N’−ジメチルイミダゾリジンなどのウレア類;ジメチルスルホキシドなどが挙げられる。これらの有機溶媒を、単独または混合物として用いても良い。
【0049】
前記中で、防眩性に必須な相分離現象を際立たせるために好ましい有機溶媒としては、アセトン、メチルエチルケトン、炭素数1〜4の一価アルコールなどが挙げられる。中でも、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロピルアルコール、アセトンが更に好ましく、メタノールまたはエタノールが最も好ましい。
【0050】
そして、シリカゾル(A)中のオリゴマーを得るための酸化ケイ素前駆体物質には、テトラクロロシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラ(n−プロポキシ)シラン、テトライソプロポキシシラン、テトラ(n−ブトキシ)シラン等の4官能の加水分解性基を有するシラン類等を使用することができる。
【0051】
また、シリカゾル(B)中のオリゴマーを得るための酸化ケイ素前駆体物質には、フェニルトリクロロシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ナフチルトリクロロシラン、ナフチルトリメトキシシラン、ナフチルトリエトキシシラン、ジフェニルジクロロシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、ジナフチルジクロロシラン、ジナフチルジメトキシシラン、ジナフチルジエトキシシラン等のアリール基および加水分解性基を有するシラン類等を使用することができる。これらの中でも反応性と分子量の制御の観点から、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン等のケイ素原子にフェニル基が一つ結合した3官能性のアルコキシシランが好ましく、特にフェニルトリエトキシシランが最も好ましく用いられる。
【0052】
さらに、シリカゾル(C)中のオリゴマーを得るための酸化ケイ素前駆体物質には、メチルトリクロロシラン、エチルトリクロロシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、ジメチルジクロロシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジエチルジクロロシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン等を有するものを使用することができる。この中でも特に反応性の制御の観点から、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン等のケイ素原子にメチル基が一つ結合した3官能性のアルコキシシランが好ましく、特にメチルトリエトキシシランが最も好ましく用いられる。
【0053】
本発明で使用されるガラス基板には、ソーダライム珪酸塩ガラス、硼珪酸ガラス、アルミノ珪酸ガラス、バリウム硼珪酸ガラス、石英ガラス等の板状のガラス基板で特にはフロート法で製造されたガラス基板が好ましい。さらには、これらガラス基板は、クリアガラス品、グリーン、ブロンズ等の着色ガラス品、UV、IRカットガラス等の機能性ガラス品、強化ガラス、半強化ガラス、合せガラス等の安全ガラス品等も使用されうる。又これら無機系のガラス以外にも、有機系ガラスとして使用されうるポリカーボネート(PC)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のプラスティックガラス種も使用されうる。
【0054】
使用されるガラス基板の厚みは、防眩性ガラス基板の用途により選択される。例えば、0.1〜10.0mmの厚みを有するガラス基板が使用され得る。特にガラスの強度および重量のバランスの観点から、タブレットPC等のLCD用途としては0.1〜1.3mmの板厚を有するガラス基板が好ましい。
【0055】
そして塗布液は、スピンコートでガラス基板に塗布される。この塗布時のスピンの回転速度を制御することで、薄膜の表面粗さ等を調整することができる。回転速度と該平均高さとは、逆比例する傾向がある。さらに、塗布液に導入されるオリゴマー総量と該平均高さとは、比例する傾向がある。
【0056】
従って、凸状体が前項で述べたような所望な大きさ、配置度合いとなるように制御することを容易とするために、塗布液の塗布時の回転速度を100〜2000rpm、さらには100〜1000ppmとすることが好ましい。又、同様の観点から、塗布液を得る工程にて、塗布液に導入される固形分である総オリゴマー量が、塗布液中の濃度として1〜30重量%、さらには5〜10重量%の範囲に調整されることが好ましい。
【0057】
さらには、塗布液の塗布後に塗布された液がレベリングされるようにレベリング工程が設けられることが好ましい。該レベリング工程では、スピンの回転速度を0(回転停止)〜100rpmとすることが好ましい。そして、これら工程が終了後に加熱工程が行われ、防眩性ガラス基板が得られる。
【実施例】
【0058】
以下に本発明の実施例について説明する。防眩性ガラス基板の評価方法を以下に示す。
【0059】
1.シリカゾル中のオリゴマーの数平均分子量の測定
分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィー法(GPC)により、ポリスチレン換算の数平均分子量として測定を行った。GPC測定は東ソー製高速GPC装置HLC−8020を用いた。カラムは東ソー製TSKgel G4000H−HR、G3000H−HR、G2000H−HRおよびG2000H−HRの4つのカラム(各30cm)を直列に繋いだものを用い、検出器は示差屈折計を用いた。また、カラムおよび検出器の温度を40.0℃および38.0℃に保持した。溶出液はテトラヒドロフラン(THF)で流量を1ml/分とした。得られたGPCチャートからポリスチレン換算の数平均分子量としての値を求めた。
【0060】
2.薄膜表面の観察
薄膜の表面形状は触針式表面走査計(SURFCORDER ET4000A;小坂研究所製)により100μm×100μmの面内の形状を測定した。高さデータは1μm刻みで取得し、100μm×100μm面内で合計10000ポイントの高さデータを取得した。実測した高さの数値データを2次元面に対してプロットし、表面形状を3次元的に描画した。これを図1〜5に示す。凸状体の平均面積はこの観察結果をもとに行った。
【0061】
3.表面粗さの測定
前記2の薄膜表面観察による100μm×100μm面内の合計10000ポイントの高さデータから「JIS B0601(2001年)」に準拠して得られる算術平均の表面粗さRa値を表面粗さ値とした。
【0062】
4.単位面積当たりでの凸状体の数
前記2の薄膜表面観察による100μm×100μmの面内の高さデータから、平均面よりも高い部分を凸部とし、凸部を正面視した場合に観測される円の同面内に配置される凸状体の数を数えた。
【0063】
5.凸状体の平均直径
前記2の薄膜表面観察による100μm×100μmの面内の高さデータから、平坦面よりも高い部分を凸部とし、凸部を正面視した場合に観測される円の直径を一つの凸状体の直径とし、同面内に観察されるすべての凸状体の直径を合計し、これを同面内に観察される凸状体の数で除すことにより、凸状体の平均直径とした。
【0064】
6.凸状体の平均面積
前記2の薄膜表面観察による100μm×100μmの面内の高さデータから、平坦面よりも高い部分を凸部とし、凸部を正面視した場合に観測される円の面積を一つの凸状体の面積とし、同面内に観察されるすべての凸状体の面積を合計し、これを同面内に観察される凸状体の数で除すことにより、凸状体の平均面積とした。
【0065】
7.60°鏡面光沢度
JIS−Z8741(1997年)に記載の方法により、日本電色製鏡面光沢度測定機(Σ80COLOR MEASURING SYSTEM VGS)を用いて、ガラス基板の裏面に黒色塗料を塗り裏面の反射防止処理を行った上で、試料の中心点の60°鏡面光沢度を測定した。
【0066】
8.干渉によって生じる部分的な光彩の評価
干渉によって生じる部分的な光彩は次に示す官能試験により評価した。防眩性ガラス基板の防眩のための凸状体が形成されていない面側を、LCDパネル上に接触させ、LCDパネルが白表示時の干渉によって生じる部分的な光彩の程度を5段階(1〜5点)で評価した。評価は、10人の被験者の平均値が1.5未満であれば良(○)とし、1.5以上3未満であれば可(△)とし、3以上であれば不合格(×)とした。尚、本試験でのLCDパネルには、富士通株式会社製のノートパソコン(型式:FMV-830NU/L)に搭載されたL
CDパネルを使用し、評価は、照度が1000ルックスの室内にて行った。
【0067】
9.LCDの表示像の見え方評価
防眩性ガラス基板の防眩のための凸状体が形成されていない面側を、LCDパネル上に接触させ、表示像の見栄えを5段階(1〜5点)で評価した。評価は、防眩性ガラス基板がない場合を3点とし、これとの比較で評価付けを行い、10人の被験者の平均値が1.5未満であれば良(○)とし、1.5以上3未満であれば可(△)とし、3以上であれば不合格(×)とした。尚、本試験でのLCDパネルには、富士通株式会社製のノートパソコン(型式:FMV-830NU/L)に搭載されたLCDパネルを使用し、評価は、照度が1000
ルックスの室内にて行った。
【0068】
10.膜硬度の評価
「JIS K5400(1990年)」に準じて、鉛筆芯の硬さによる傷の有無を評価した。なお、傷の付かない一番硬い鉛筆芯を鉛筆硬度とし、6H以上を優(○)、5H以上を可(△)とした。
【0069】
11.易洗浄性の評価
汚れとして、ほこりや指紋などの有機汚れを意図的に付着させた後、(1)濡れ雑巾で軽く払拭(5往復)→(2)濡れ雑巾で強く払拭(10往復)→(3)硬いスポンジで強く払拭(100往復)→(4)スチールウール研磨(1分)→(5)セリア研磨(2分)の順で表面を洗浄し、汚れを完全に除去できる作業レベルにより易洗浄性と定義し、本防眩膜の評価としては(1)の場合に優(○)とし、それ以外を可(△)とした。
【0070】
12.薄膜の厚み評価
薄膜形成後に膜表面をカッターナイフで傷付けることにより、薄膜からガラス板表面が露出する部分を形成した。触針式表面走査計(SURFCORDER ET4000A;小坂研究所製)で該露出する部分を含めて薄膜を走査することにより、薄膜の平坦面を基準とする薄膜の厚みを測定した。
【0071】
実施例1
1.塗布液の調製
シリカゾル(A)の調製:テトラエトキシシラン(Si(OC254)を出発アルコキシドとし、加水分解用の水を水/アルコキシドのモル比が8となるよう加え、さらに酸触媒としての硝酸を硝酸/水のモル比が0.01となるよう加え、さらに加水分解後のSiO2換算の固形分濃度が9wt%となるように溶媒としてのエタノールを加えた。この混合液を室温で24時間攪拌することにより加水分解・重縮合反応させることでシリカゾル(A)を得た。得られたシリカゾル(A)の数平均分子量は613であった。
【0072】
シリカゾル(B)の調製:フェニルトリエトキシシラン(C65Si(OC253)を出発アルコキシドとし、加水分解用の水を水/アルコキシドのモル比が8となるよう加え、さらに酸触媒としての硝酸を硝酸/水のモル比が0.01となるよう加え、さらに加水分解後のC65SiO3/2換算の固形分濃度が9wt%となるように溶媒としてのエタノールを加えた。この混合液を60℃で24時間攪拌することにより加水分解・重縮合反応させることでシリカゾル(B)を得た。得られたシリカゾル(B)の数平均分子量は861であった。
【0073】
シリカゾル(C)の調製:メチルトリエトキシシラン(CH3Si(OC253)を出発アルコキシドとし、加水分解用の水を水/アルコキシドのモル比が8となるよう加え、さらに酸触媒としての酢酸を硝酸/水のモル比が0.01となるよう加え、さらに加水分解後のCH3SiO3/2換算の固形分濃度が9wt%となるように溶媒としてのエタノールを加えた。この混合液を65℃で24時間攪拌することにより加水分解・重縮合反応させることでシリカゾル(C)を得た。得られたシリカゾル(C)の数平均分子量は812であった。
【0074】
前記でえられたシリカゾル(A)、シリカゾル(B)、シリカゾル(C)の数平均分子量を表1にも示す。そして、前記のシリカゾル(A)、シリカゾル(B)、シリカゾル(C)を、重量比率でシリカゾル(A):シリカゾル(B):シリカゾル(C)=4:3:2となるように混合し10分間攪拌を行い、防眩薄膜を形成するための塗布液を得た。
【0075】
【表1】

【0076】
2.防眩性ガラス基板の作製
縦200mm、横200mm、厚み0.7mmの長方形のフロート法によるソーダ石灰ケイ酸塩ガラスを基板とし、該基板の中央部に前記1で得た塗布液を30ml滴下した後、300rpmで100秒間の条件で基板を回転させるスピンコートにより塗布を行った。塗布後、300℃で10分間加熱し、防眩性ガラス基板を得た。
【0077】
このようにして得た防眩性ガラス基板の薄膜について薄膜表面の観察、表面粗さの測定、単位面積あたりでの凸状体の配置度合い、60°鏡面光沢度、干渉によって生じる部分的な光彩、膜硬度、易洗浄性についてそれぞれ評価を行った。
【0078】
薄膜表面を観察した結果を図1に、その他の結果を表1に示す。本実施例で
得られた防眩性ガラス基板は、防眩性能(60°鏡面光沢度)、干渉によって生じる部分的な光彩、膜硬度、易洗浄性について良好な性能を有し、ペン入力装置等LCD表示素子用の防眩性ガラス基板として好適に使用できるものであった。尚、本実施例での薄膜の厚みは、1.7μmであった。
【0079】
実施例2
塗布後の加熱温度を650℃とする以外はすべて実施例1と同じ手順により防眩性ガラス基板を作製した。得られた防眩性薄膜の表面を観察した結果を図2に示す。実施例1でみられたような半球状の凸状体では無く、半球状のくぼみが観察された。上記手順により得られた防眩性薄膜について表面粗さの測定、単位面積あたりでのくぼみの配置度合い、60°鏡面光沢度、干渉によって生じる部分的な光彩、膜硬度、易洗浄性についてそれぞれ評価を行い、その結果を表1に示した。易洗浄性が△とはなったが、LCD表示素子用の防眩性ガラス基板として使用できる十分な光学特性等を有していた。尚、本実施例での薄膜の厚みは、1.5μmであった。
【0080】
実施例3
実施例1と同様の手順で調製したシリカゾル(A)とシリカゾル(B)を重量比率でシリカゾル(A):シリカゾル(B)=2:1となるよう混合し、シリカゾル(C)を加えないこと以外はすべて実施例1と同じ手順により防眩性ガラス基板を作製した。上記手順により作製した防眩性薄膜の表面を観察した結果を図3に示した。凸状体と凸状体の間の膜部分に微細な亀裂が生じているものの、バイノーダル状の分相に起因した凹凸パターンが観察された。
【0081】
また上記手順により作製した防眩性薄膜について、表面粗さの測定、単位面積あたりでの凸状体の配置度合い、60°鏡面光沢度、干渉によって生じる部分的な光彩、膜硬度、易洗浄性についてそれぞれ評価を行った。それらの結果を表1に示した。膜硬度が5Hで△となったが、60°鏡面光沢度、干渉によって生じる部分的な光彩、易洗浄性については合格であり、LCD表示素子用の防眩性ガラス基板としては、十分な光学特性を有していた。尚、本実施例での薄膜の厚みは、1.7μmであった。
【0082】
比較例1
シリカゾル(B)の調製時の攪拌温度を室温とする以外はすべて実施例1と同じ手順により防眩性ガラス基板を作製した。得られたシリカゾル(B)の数平均分子量は480であった。また得られた膜について薄膜表面の観察、表面粗さの測定、単位面積あたりでの凸状体の配置度合い、60°鏡面光沢度、干渉によって生じる部分的な光彩、膜硬度、易洗浄性についてそれぞれ評価を行った。薄膜表面を観察した結果を図4に、その他の結果を表1に示した。上記手順により得た膜については相分離による凹凸が小さく、結果として防眩機能を有しないものであり、LCD表示素子用の防眩性ガラス基板としては適用し難いものであった。尚、本比較例での薄膜の厚みは、1.8μmであった。
【0083】
比較例2
シリカゾル(B)の調製時の攪拌時間を3時間とする以外はすべて実施例1と同じ手順により防眩性ガラス基板を作製した。得られたシリカゾル(B)の数平均分子量は455であった。また得られた膜について薄膜表面の観察、表面粗さの測定、単位面積あたりでの凸状体の配置度合い、60°鏡面光沢度、干渉によって生じる部分的な光彩、膜硬度、易洗浄性についてそれぞれ評価を行った。薄膜表面を観察した結果を図5に、その他の結果を表1に示した。上記手順により得た膜については100μm×100μmの単位面積あたりでの凸状体の数は3つであった。その結果、防眩機能自体は有していたが、LCDパネル上に設置し白表示時に干渉によって生じる部分的な光彩が見られ、LCD表示素子用の防眩性ガラス基板としては適用し難いものであった。尚、本実施例での薄膜の厚みは、1.6μmであった。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】本発明の実施例1の防眩性ガラス基板について、小丘体状の凸状体を有する面を、触針式表面走査計で測定したときの高さの数値データを2次元面に対してプロットして得られる形状を3次元的に描画したときの描画像を示す図面である。
【図2】本発明の実施例2の防眩性ガラス基板について、小丘体状の凸状体を有する面を、触針式表面走査計で測定したときの高さの数値データを2次元面に対してプロットして得られる形状を3次元的に描画したときの描画像を示す図面である。
【図3】本発明の実施例3の防眩性ガラス基板について、小丘体状の凸状体を有する面を、触針式表面走査計で測定したときの高さの数値データを2次元面に対してプロットして得られる形状を3次元的に描画したときの描画像を示す図面である。
【図4】本発明の比較例1の防眩性ガラス基板について、小丘体状の凸状体を有する面を、触針式表面走査計で測定したときの高さの数値データを2次元面対してプロットして得られる形状を3次元的に描画したときの描画像を示す図面である。
【図5】本発明の比較例2の防眩性ガラス基板について、小丘体状の凸状体を有する面を、触針式表面走査計で測定したときの高さの数値データを2次元面対してプロットして得られる形状を3次元的に描画したときの描画像を示す図面である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
[SiO4/2]が架橋単位として架橋が形成され、そしてポリスチレン換算の数平均分子量が300〜1000であるオリゴマーを有するシリカゾル(A)と、アリール基とケイ素との結合を有する酸化ケイ素が架橋単位として形成され、そしてポリスチレン換算の数平均分子量が500〜1000であるオリゴマーを有するシリカゾル(B)とを混合して塗布液を得る工程と該塗布液をスピンコートでガラス基板に塗布する工程を有することを特徴とする防眩性ガラス基板の製法。
【請求項2】
前記シリカゾル(A)及び(B)に加え、アルキル基とケイ素との結合を有する酸化ケイ素が架橋造単位として架橋が形成され、そしてポリスチレン換算の数平均分子量が500〜1000であるオリゴマーを有するシリカゾル(C)も混合することで塗布液を得ることを特徴とする請求項1に記載の防眩性ガラス基板の製法。
【請求項3】
塗布液のガラス基板への塗布後にガラス基板を100〜600℃で加熱することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の防眩性ガラス基板の製法。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の製法で得られた液晶表示素子用防眩性カバーガラス。
【請求項5】
液晶表示素子がペン入力装置に組み込まれたものであることを特徴とする請求項4に記載の液晶表示素子用防眩性カバーガラス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−107755(P2008−107755A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−340973(P2006−340973)
【出願日】平成18年12月19日(2006.12.19)
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)
【Fターム(参考)】