説明

防護布帛およびその製造方法

【課題】
ガラスに対する突き刺し性と耐切創性および溶融塊による難燃性を兼ね備えた、特にガラス工場の作業服に好適に用いることができる、高度な防護機能を有する防護布帛の提供を目的とする。
【解決手段】
一方の表面を含む布帛が液晶性高分子繊維を含み、他方の表面を含む布帛がフィブリル化した液晶性高分子繊維を含んで構成された多層構造であることを特徴とする防護布帛。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主としてガラスや液晶などの製造工場の作業服に使用される防護布帛に関する。
【背景技術】
【0002】
一般にガラスや液晶などの製造工場では、ガラスを取り出したり、切断したり、組み立てたり、製品を運搬したりする作業が行われており、機械化できない作業には人間が手でガラスを扱っている。このような切創事故や刺創事故を起こしやすい作業環境下では、従来から耐切創性の優れた防護布帛として、全芳香族ポリアミド繊維や全芳香族ポリエステル繊維などの高弾性繊維で製造される手袋、足首カバー、エプロン、作業服などの防護材が当該作業者の手や腕を保護するために用いられてきた。しかしながら、当該作業者からは、より一層安全な防護材として、耐切創性と耐突き刺し性の両特性を満足し、さらには高温のガラス塊の取り扱いに耐えられるよう難燃性も備えたものが求められている。
【0003】
特許文献1ではアラミド繊維からなる布帛に高圧水流加工を施した防護用布帛が提案されている。さらに、特許文献2では、アラミド繊維を一部含む布帛に高圧水流加工を施し、該布帛を含む多層積層体からなる防護衣料が提案されている。
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示された防護用布帛は、優れた耐突き刺し性を有するものの、十分な耐切創性を得るためには布帛枚数を増やす必要があり、そうすると厚地となり、作業性が低下してしまう。
【0005】
特許文献2に開示された防護衣料も、優れた耐突き刺し性を有するが、耐切創性は不十分であり、さらに高温のガラス塊には溶解したり、燃焼したりする恐れがある。
【0006】
さらに、特許文献3では、アラミド繊維で編まれた編地を複数枚重ねた防刺素材が提案されているが、布帛が厚くなるので作業性が低下する。
【0007】
従って、耐突き刺し性や耐切創性に優れ、難燃性や作業性を兼ね備えた防護布帛を得るために、高強度・高弾性率の素材を用いた緻密な織物を製造する方法が提案されているが、かかる優れた防護布帛は得られていないのが実状である。
【特許文献1】特開2007−107139号公報
【特許文献2】特開2007−321262号公報
【特許文献3】特開2005−144886号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、かかる従来技術の背景に鑑みてなされたものであり、耐突き刺し性と耐切創性および難燃性を兼ね備えた、高度な機能性を有する防護布帛およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、かかる従来技術の問題点を解消するため、次の(1)〜(4)のいずれかの構成を特徴とするものである。
【0010】
(1) 一方の表面を含むA層がフィブリル化していない液晶性高分子繊維を含み、他方の表面を含むB層がフィブリル化した液晶性高分子繊維を含んで構成された多層構造であることを特徴とする防護布帛。
【0011】
(2) 前記B層表面のフィブリル数が、フィブリル化されていない液晶性高分子繊維の繊維径の平方範囲内に、3本〜200本であり、前記A層表面のフィブリル数が前記B層表面のフィブリル数よりも少ない、(1)に記載の防護布帛。
【0012】
(3) 前記液晶性高分子繊維がアラミド繊維である、(1)または(2)に記載の防護布帛。
【0013】
(4) 前記A層の切創抵抗値が3.5N〜10N、前記B層の突き刺し抵抗値が0.05N〜1Nである(1)〜(3)のいずれかに記載の防護布帛。
【0014】
(5) 一方の表面を含むA層がフィブリル化していない液晶性高分子繊維を含み、他方の表面を含むB層がフィブリル化した液晶性高分子繊維を含んで構成された多層構造であることを特徴とする防護布帛を製造する方法であって、高圧水流加工により液晶性高分子繊維をフィブリル化する工程を含むことを特徴とする防護布帛の製造方法。
【0015】
(6)(1)〜(4)のいずれかに記載の防護布帛または(5)記載の製造方法で製造した防護布帛により縫製された防護衣料。
【発明の効果】
【0016】
本発明の防護布帛よれば、フィブリル化していない液晶性高分子繊維を含むA層が耐切創性に対応し、フィブリル化した液晶性高分子繊維を含むB層が耐突き刺し性に対応するので、高性能な両特性を同時に満足することができる。
【0017】
また、特に耐切創性を重視する場合は、A層を複数積層したり、耐突き刺し性を重視する場合はB層を複数積層し、目的や用途により適宜布帛を設計することができる。
【0018】
本発明の防護布帛に含まれる液晶性高分子繊維は難燃性であるため、ガラス工場の火花、溶けたガラス塊などに対して防護でき、安全性や安心を得ることができる。
【0019】
更に、本発明の防護布帛はB層がフィブリル化した液晶性高分子繊維からなるため、通気度が低く、ガラスの微細粉や空気中の粉塵を通過させにくい。従って、健康被害などへの影響が少なくなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明の防護布帛は、一方の表面を含むA層がフィブリル化していない液晶性高分子繊維を含み、他方の表面を含むB層がフィブリル化した液晶性高分子繊維を含んで構成された多層構造であることを特徴とする。
【0021】
前記A層はフィブリル化していない液晶性高分子繊維を含む布帛からなり、耐切創性に優れた特徴を有する。布帛構成は編織物や不織布が、糸形態ではフィラメント糸や紡績糸あるいは短繊維など、いずれであってもよいが、ガラス工場用布帛としては粉塵やゴミが発生させない布帛が要求されることから、フィラメント糸使いの高密度織物の設計が適している。
【0022】
耐切創性の大きさは高いほど優れることはいうまでもないが、ガラス工場用途の衣料としては、JIS法 T8052(ISO 13776)切創抵抗値法において、3.5N〜10Nが好ましい。より好ましくは3.8N〜10Nであり、さらに好ましくは3.8N〜9Nである。3.5N以上で十分な耐切創性が得られ、10N以下とすることで、防護布帛の重量を軽くすることができるので作業性が向上する。
【0023】
前記B層は、フィブリル化した液晶性高分子繊維を含む布帛からなり、耐突き刺し性に優れた特徴を有する。布帛構成は編織物や不織布からなり、繊維表面がフィブリル化し、細繊度繊維が高密度に絡んだ構造を有している。
【0024】
編織物や不織布の糸形態はフィラメント糸や紡績糸あるいは短繊維などから、いずれの組み合わせであってもよいが、高度な耐突き刺し性が要求されることから、布帛設計としては紡績糸使いの高密度織物であって、かつ、フィブリル化していることが好ましい。フィブリル化することにより高密度化した布帛は、耐突き刺し性が高くなる。
【0025】
耐突き刺し性は突き刺し抵抗値を指標に測定することができるが、突き刺し抵抗値は針を突き刺す速度や針先端の鋭利さなどにより大きく変わるので、本発明の防護布帛がガラスや液晶の製造工場で使用される防護作業服に使用されることを想定して、以下の条件で測定する。
【0026】
つまり、本発明で用いる突き刺し抵抗値(N)とは、オートグラフSD−100装置(島津製作所製)を用いて、針が試料を突き刺さる時の抵抗値(N)を測定する。試料の固定は、次の治具を使用し測定する。中央部に幅10mm長さ18mmのスリットを有する板状の試料支持板2枚の間に、しわ及びたるみが生じないように試料を挟んで固定し、針を試料に90度(垂直)の角度で突き刺さるように固定し、針先を試料に100mm/分の速度で押し付け、針が試料を突き刺ささるときの最大応力を測定する。n=5の平均値で示し、針は工業用ミシン針(#11 オルガン針社製)を使用する。
【0027】
B層はかかる方法による突き刺し抵抗値(明細書記載方法)が0.05N以上〜1N以下の両特性を満足する防護布帛であることが好ましい。さらに好ましくは、0.06N〜0.5Nである。突き刺し抵抗値が0.05N以上であれば、十分な耐突き刺し性が得られ、1N以下とすることで、防護布帛の厚さが薄くなり、目付が軽くなるので作業性が向上する。
【0028】
B層はフィブリル化した繊維により緻密化されていることから、針による直接の突き刺し抵抗値を測定する代わりに、空気の通過性を測定し簡易的に比較評価してもよい。一般的に突き刺し抵抗値が高くなると通気度は低くなるので、通気度としてJIS法L−1906(フラジール形法 125Pa)により測定することができる。通気度としては15cm/cm/sec以下0以上の範囲が適しており、一般的には低い方がより好ましいことはいうまでもない。
【0029】
本発明の防護布帛は、前記A層と前記B層とが接合されたものである。A層とB層の接合については、縫い糸や接着剤などを用いる。
【0030】
前記防護布帛を構成する前記液晶性高分子繊維としては、例えば、アラミド繊維、全芳香族ポリエステル繊維(例えば株式会社クラレ製、「ベクトラン」(登録商標))、ポリパラフェニレンベンゾビスオキザゾール繊維(例えば東洋紡株式会社製、「ザイロン」(登録商標))、超高分子量ポリエチレン繊維(例えば東洋紡株式会社製、「ダイニーマ」(登録商標))などが挙げられる。
【0031】
なかでも、フィブリル化し易い点から、アラミド繊維が好ましい。
【0032】
アラミド繊維にはメタ系アラミド繊維とパラ系アラミド繊維とがある。メタ系アラミド繊維としては例えば、ポリメタフェニレンイソフタールアミド繊維(デュポン社製、「ノーメックス」(登録商標))などのメタ系全芳香族ポリアミド繊維が挙げられる。また、パラ系アラミド繊維としては例えば、ポリパラフェニレンテレフタールアミド繊維(東レ・デュポン株式会社製、「ケブラー」(登録商標))およびコポリパラフェニレン−3,4−ジフェニールエーテルテレフタールアミド繊維(帝人株式会社製、「テクノーラ」(登録商標))などのパラ系全芳香族ポリアミド繊維が挙げられる。
【0033】
これらの中でも、高強度および高弾性率であり、耐熱性、耐摩耗性に優れるとともに、フィブリル化し易い点から、ポリパラフェニレンテレフタールアミド繊維が好ましい。一方、特に耐熱性を要求される用途では、ポリメタフェニレンイソフタールアミド繊維が好適である。用途によって、適宜使い分けることができる。
【0034】
また、本発明の防護布帛は、液晶性高分子繊維の1種類を単独で用いたものであってもよいし、素材や品種、繊維構成が異なる2種以上が混繊したものであってもよい。
【0035】
本発明の防護布帛では、前記B層に含まれる液晶性高分子繊維の繊維径の平方視野範囲内に、3本〜200本のフィブリルを有することが好ましく、より好ましくは5本〜80本である。
【0036】
前記B層のフィブリル数が3本以上である場合、優れた耐突き刺し性が得られ、フィブリル数を200本以下とすることで、衣料用途に適した布帛としての柔軟性を保持できる。
【0037】
次に本発明の製造方法について説明する。
【0038】
本発明において、A層に用いる布帛としては、長繊維や短繊維からなる編織物や、ニードルパンチ加工、軽い熱プレス加工、樹脂加工などが施された不織布を挙げることができる。これらのうち、短繊維からなる編織物や不織布などが耐切創性に優れるが、ガラス工場の作業性やゴミ、粉塵発生など作業環境を考慮すると長繊維から製造された編織物を用いることがより好ましい。
【0039】
本発明において、B層に用いる布帛としては、A層に用いる布帛と同様の構成であって、高圧水流などの物理的衝撃によってフィブリル化させることによって、製造したものである。
【0040】
たとえば、液晶性高分子短繊維からなる紡績糸の編織物にウオータージェットパンチ等の高圧水流加工を施すことにより、液晶性高分子繊維を効率よくフィブリル化させることができる。片面のみあるいは両面ともに施すことにより、フィブリルを形成させることができる。
【0041】
高圧水流加工の流体圧力は5〜30MPaが好ましく、安全性や製造コストおよび均一性などから、10〜20MPaがより好ましい。5MPa未満ではフィブリル化の度合いが不十分となり易く、フィブリル化した液晶性高分子繊維どうしの絡みも不十分となり易い。一方、30MPaを超えると、短繊維あるいはフィブリル化した液晶性高分子繊維が飛散したり、水流噴射孔筋が生じやすくなるので品質上好ましくない。
【0042】
水流噴射孔の孔径としては、0.05〜2.0mmが好ましい。水流噴射孔の孔間隔としては、0.3〜10mmが好ましい。このような間隔で並べたものを一列に、あるいは複数列に配列した高圧水流加工装置を用いるとよい。
【0043】
水流噴射孔と処理対象の布帛との間隔としては、1〜10cmが好ましい。処理対象の布帛を相対的に移動させる加工速度としては、0.1〜10m/minが好ましく、より好ましくは1〜3m/minである。加工速度が遅い方がフィブリル化の効果は大きくなるが、0.1m/min未満では短繊維あるいはフィブリル化した液晶性高分子繊維の脱落や噴射孔筋が生じやすく、10m/minを超えるとフィブリルが少なくなる。
【0044】
B層となる液晶性高分子繊維を含む布帛には高圧水流加工を複数回繰り返し施すことが好ましい。そうすることでフィブリル化度合いの高い布帛を得ることができる。1回のみの高圧水流加工では、均一なフィブリル化は達成し難いので、望ましくは複数回の高圧水流加工を施すことが好ましい。片面または両面に2回〜7回程度に繰り返すことが好ましいが、多くすれば製造コスト高につながる。
【0045】
上記のようなA層を構成する布帛とB層を構成する布帛とを縫製や接着剤などで接合することで、本発明の防護布帛となる。
【0046】
本発明の防護布帛の主な用途は、前記したようにガラス板工場や液晶板工場などの防護用ユニフォームや前掛けなどにあるいは部分防護当て布などに好適に用いられる。
【実施例】
【0047】
[測定方法]
(1)目付(g/m
JIS L 1906:2000 5.2に基づき、20cm×25cmの試験片を3枚採取し、標準状態におけるそれぞれの質量(g)を量り、その平均値を1m当たりの質量(g/m)で表す。
【0048】
(2)厚さ(mm)
JIS L 1906:2000 8.5に基づき、20cm×20cmの試験片を3枚採取し、NAKAYAMA ERECTORIC IND Ltd.製の圧縮弾性率測定機を用いて、240gf/cmの(23.535KPa)加圧下で10秒後における各試験片の厚さを5箇所測り、その平均値を厚さ(mm)で表す。
【0049】
(3)通気量(cm/cm/s)
JIS L 1096:1999 8.27.1 A法(フラジール形法)に準じて測定する。すなわち、試料から20cm×20cmの試験片を5枚採取し、フラジール形試験機を用いて、円筒の一端(吸気側)に試験片を取り付ける。試験片の取り付けに際し、円筒の内径と同一の内径を有する平面状ゴム製リングパッキン(厚さ1mm)を円筒の試験片取り付け側に設置し、その上に試験片を置き試験片上から吸気部分を塞がないように均等に約98N(10kgf)の荷重を加え試験片の取り付け部におけるエアーの漏れを防止する。試験片を取り付けた後、加減抵抗器によって傾斜形気圧計が125Paの圧力を示すように吸込みファンを調整し、そのときの垂直形気圧計の示す圧力と、使用した空気孔の種類とから、試験機に付属の表によって試験片を通過する空気量を求め、5枚の試験片についての平均値を算出する。
【0050】
(4)切創抵抗値(N)
JIS T8052:2005(ISO13997)に準じて測定する。
すなわち、RIG社(カナダ)型式TDM−100の耐切創試験機を用いて、布帛の45度方向に10cm×4cmの小片を採取する。鋭利な刃物を押し当て、1分間20cmの速度で移動させる。押し圧力を変更し布帛が切断された圧力と切断長の関係から、切断長20mmにおける圧力を算出する。
【0051】
n数5回の平均値を採用した。
【0052】
(5)突き刺し抵抗値(N)
オートグラフSD−100装置(島津製作所製)を用いて、針が試料を突き刺さる時の抵抗値(N)を測定する。試料の固定に、次の治具を使用した。中央部に幅10mm長さ18mmのスリットを有する板状の試料支持板2枚の間に、しわ及びたるみが生じないように試料を挟んで固定し、針を試料に90度(垂直)の角度で突き刺さるように固定し、針先を試料に100mm/分の速度で押し付け、針が試料を突き刺ささるときの最大応力を測定し、n=5の平均値で示す。針は工業用ミシン針(#11 オルガン針社製)を使用する。
【0053】
(6)フィブリル数
防護布帛のB層を、走査型電子顕微鏡(日立製作所製 S−3500N)にて1000〜3000倍に拡大して撮影し、フィブリル化されていない繊維の繊維径を実測する。測定は10本の繊維について行い、それらの平均値d0(μm)を算出し、フィブリル化されていない繊維の繊維径とする。
【0054】
撮影した写真からフィブリル化されていない繊維の繊維径の平方範囲を無作為に10抽出し、当該平方範囲内のフィブリル本数を測定し、平均値を算出する。図1に平方範囲内におけるフィブリル数の数え方の例を示す。
【0055】
[実施例1]
(液晶性高分子繊維/A層およびB層)
繊度が1110dtex、単繊維フィラメント本数が670本のポリパラフェニレンテレフタールアミド(東レ・デユポン株式会社製「ケブラー」(登録商標))フィラメント糸を用いた。
【0056】
(製織/A層およびB層)
上記フィラメント糸およびレピアー織機(津田駒工業株式会社製)により、タテ糸本数およびヨコ糸本数をそれぞれ2.54cm当たり31本とし、幅130cmの平組織の織物を2枚製造した。
【0057】
(ウオータージェットパンチ加工工程/B層)
上記織物のうち1枚に、下記条件でウオータージェットパンチ加工を施し、図2に示すフィブリル化した布帛を製造した。フィブリル化した繊維径は細いもので80nm〜150nm、太いもので0.5μm〜1μmであった。
PERFOJET社製:「JETLACE」(登録商標)装置
ノズル孔径:0.1mm、ノズル列:1列、ノズルピッチ:0.6mm
ノズル噴射孔と不織布の距離:1.5cm
不織布移動速度 :1m/分
最大水圧 :20MPa
処理面 :両面
処理回数 :片面5回ずつ、合計計10回
(縫製加工)
前記ウォータージェットパンチ加工を施していない織物をA層に、前記フィブリル化した布帛をB層に用いてタテ・ヨコ各5cm間隔の正方形状にキルティング縫製し、防護布帛を製造した。
【0058】
[実施例2]
(液晶性高分子繊維/A層)
繊度が1110dtex、単繊維フィラメント本数が670本のポリパラフェニレンテレフタールアミド(東レ・デユポン株式会社製「ケブラー」(登録商標))フィラメント糸を用いた。
【0059】
(製織/A層)
レピアー織機(津田駒工業株式会社製)により、タテ糸本数およびヨコ糸本数をそれぞれ2.54cm当たり31本とし、幅130cmの平組織の織物を製造した。
【0060】
(液晶性高分子繊維/B層)
平均繊維長が51mm、繊度が2.5dtex(断面直径15.1μm)のポリパラフェニレンテレフタールアミド(東レ・デユポン株式会社製「ケブラー」(登録商標))短繊維を用いた。
【0061】
(ウエブ加工/B層)
上記短繊維およびカード機によりシートを得た。
【0062】
(ニードルパンチ加工工程/B層)
上記シートに、下記条件でニードルパンチ加工を施し、目付が305g/m、見掛け密度が0.145g/cmの不織布を得た。
【0063】
(ニードルパンチ加工条件/B層)
有限会社大和機工製:上針間欠型装置
ニードル種類 :9バーブニードル(オルガン社製 FPD−1)
ニードル間隔 :10mm間隔1列に幅方向80針、長さ方向に40列
パンチング回数 :1分間に200回
シート移動速度 :1分間に1.2m
(フィブリル化する工程/B層)
ニードルパンチ加工が施された不織布に、高圧流体噴射加工として下記条件でウオータージェットパンチ処理を施し、フィブリル化した布帛を得た。
【0064】
(ウオータージェットパンチ処理条件/B層)
PERFOJET社製:商標登録名「JETLACE」(登録商標)装置
ノズル孔径:0.1mm、ノズル列:1列、ノズルピッチ:0.6mm
ノズル噴射孔と不織布の距離:1.5cm
不織布移動速度 :1m/分
最大水圧 :20MPa
処理面 :両面
処理回数 :片面5回ずつ、合計計10回
(縫製加工)
前記平組織の織物をA層に、前記フィブリル化した布帛をB層に用いて
タテ・ヨコ各5cm間隔の正方形状にキルティング縫製し、防護布帛を製造した。
【0065】
[実施例3]
実施例1の(ウオータージェットパンチ処理条件/B層)における最大水圧を10MPaに変更した以外は同条件にて防護布帛を製造した。
【0066】
[実施例4]
実施例1の(ウオータージェットパンチ処理条件/B層)における最大水圧を23MPaに変更した以外は同条件にて防護布帛を製造した。
【0067】
[比較例1]
(液晶性高分子繊維/A層およびB層)
繊度が1110dtex、単繊維フィラメント本数が670本のポリパラフェニレンテレフタールアミド(東レ・デユポン株式会社製「ケブラー」(登録商標))フィラメント糸を用いた。
【0068】
(製織/A層およびB層)
レピアー織機(津田駒工業株式会社製)により、タテ糸本数およびヨコ糸本数をそれぞれ2.54cm当たり31本とし、幅130cmの平組織の織物を製造した。
【0069】
(縫製加工)
前記平組織の織物を2枚重ねて、タテ・ヨコ各5cm間隔の正方形状にキルティング縫製し、防護布帛を製造した。
【0070】
[比較例2]
(液晶性高分子繊維/A層およびB層)
繊度が1110dtex、単繊維フィラメント本数が670本のポリパラフェニレンテレフタールアミド(東レ・デユポン株式会社製「ケブラー」(登録商標))フィラメント糸を用いた。
【0071】
(製織/A層およびB層)
レピアー織機(津田駒工業株式会社製)により、タテ糸本数およびヨコ糸本数をそれぞれ2.54cm当たり31本とし、幅130cmの平組織の織物を製造した。
【0072】
(ウオータージェットパンチ加工工程/A層およびB層)
前記平組織の織物に、下記条件でウオータージェットパンチ加工を施した。
PERFOJET社製:商標登録名「JETLACE」(登録商標)装置
ノズル孔径:0.1mm、ノズル列:1列、ノズルピッチ:0.6mm
ノズル噴射孔と不織布の距離:1.5cm
不織布移動速度 :1m/分
最大水圧 :20MPa
処理面 :両面
処理回数 :片面5回ずつ、合計計10回
(縫製加工)
ウオータージェットパンチ加工を施しフィブリル化した布帛を2枚重ねて、タテ・ヨコ各5cm間隔の正方形状にキルティング縫製し、防護布帛を製造した。
【0073】
[比較例3]
実施例1の(ウオータージェットパンチ処理条件/B層)における最大水圧を25MPaに変更した以外は同条件にて防護布帛を製造した。
【0074】
[評価結果]
実施例1〜4で得られた防護布帛に対して、前記の方法により諸特性を測定し、表1に各物性を示した。比較例1〜3で得られた防護布帛に対して、前記の方法により諸特性を測定し、表2に各物性を示した。
【0075】
【表1】

【0076】
【表2】

【0077】
実施例1〜4のA層は切創抵抗値に、B層は突き刺し抵抗値にそれぞれ優れた防護布帛であるのに対し、比較例1のA層およびB層は切創抵抗値に優れた防護布帛であるが、突き刺し抵抗値が低く両特性を満足していない。
【0078】
また、比較例2のA層およびB層は突き刺し抵抗値に優れた防護布帛であるが、切創抵抗値がやや低く両特性を満足していない。
【0079】
さらに、比較例3のA層は切創抵抗値に優れるが、B層の切創抵抗値は低く切創抵抗値を満足していない。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明の防護布帛は、A層が切創抵抗値に、B層が突き刺し抵抗値にそれぞれ優れた複合布帛であることから、ガラス製造工場や液晶基盤製造工場における、作業服に最適である。たとえば、帽子や前掛けあるいは頭巾の耳から首にかけての下がり部分、首の周囲、胸周りをガラスの破片やガラス溶融塊などによる切創と突き刺しさらに火傷などから防護補強するための部分使用に優れている。
【0081】
その他、溶接の火花や鉄工の金属片飛散などが発生する作業服の防護補強に、さらに、防刃用旅行カバン、空港などの荷物運搬ケースなどに安全に用いることができる。
【0082】
また、本発明の防護布帛は、A層とB層とが積層されたものであるが、特殊な積層例として、前記A層と前記B層との間に極薄防水機能フィルムなどを挿入し、前記旅行用カバンに防水機能を付与することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】フィブリル数の算出事例である。図1左:フィブリル数4本の事例。フィブリル化した液晶性高分子繊維1がさらにフィブリル化され、3本の細繊度繊維2、3、4が形成された状態。図1中央:フィブリル数2本の事例。液晶性高分子繊維1がフィブリル化され、細繊度繊維2が形成された状態。図1右:フィブリル数1本の事例。液晶性高分子繊維1の一部が割れた状態。
【図2】フィブリル化した液晶性高分子繊維とフィブリル化されていない液晶性高分子繊維の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【符号の説明】
【0084】
1 フィブリル化した液晶性高分子繊維
2 フィブリル化した細繊度繊維
3 フィブリル化した細繊度繊維
4 フィブリル化した細繊度繊維

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の表面を含むA層がフィブリル化していない液晶性高分子繊維を含み、他方の表面を含むB層がフィブリル化した液晶性高分子繊維を含んで構成された多層構造であることを特徴とする防護布帛。
【請求項2】
前記B層表面のフィブリル数が、フィブリル化されていない液晶性高分子繊維の繊維径の平方範囲内に、3本〜200本であり、前記A層表面のフィブリル数が前記B層表面のフィブリル数よりも少ない、請求項1に記載の防護布帛。
【請求項3】
前記液晶性高分子繊維がアラミド繊維である、請求項1または2に記載の防護布帛。
【請求項4】
前記A層の切創抵抗値が3.5N〜10N、前記B層の突き刺し抵抗値が0.05N〜1Nである請求項1〜3のいずれかに記載の防護布帛。
【請求項5】
一方の表面を含むA層がフィブリル化していない液晶性高分子繊維を含み、他方の表面を含むB層がフィブリル化した液晶性高分子繊維を含んで構成された多層構造であることを特徴とする防護布帛を製造する方法であって、高圧水流加工により液晶性高分子繊維をフィブリル化する工程を含むことを特徴とする防護布帛の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載の防護布帛または請求項5記載の製造方法で製造した防護布帛により縫製された防護衣料。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−241365(P2009−241365A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−89673(P2008−89673)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【出願人】(000219266)東レ・デュポン株式会社 (288)
【Fターム(参考)】