説明

防護材料および防護衣服

【課題】有害化学物質の取り扱い作業者などを保護するための防護材料および防護衣服に関し、防護性のみならず、軽量、柔軟性、透湿性に優れ、着用者の熱ストレスを抑制でき、さらには、洗濯耐久性にも優れる材料を提供する。
【解決手段】有機化学物質に対して透過抑制性があり、水蒸気に対しては透過性がある選択透過層3の両面を透湿膜層2、4で積層した防護膜層6を有し、透湿膜層に硬化型透湿性接着剤を含有したことを特徴とする防護材料7及び防護衣服とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有害化学物質の取り扱い作業者を保護するための防護材料および防護衣服に関する。詳細には、有機リン系化合物等の如く皮膚から吸収されて人体に悪影響を及ぼすガス状および液状有機化学物質から作業者を有効に防護し得る防護材料および防護衣服、さらには、軽量でかつ高度な透湿性により着用者の熱ストレスを抑制でき、洗濯耐久性に優れた衣服用防護材料および防護衣服に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有害化学物質などから人体を保護する防護衣服としては、従来から種々提案されている(特許文献1など参照)。例えばゴム曳き布のように、有害化学物質が全く透過しない材料で構成されたものがあり防護性能に優れている。しかし、この場合、材料(生地)が重いため取扱い性、作業性が悪く、また衣服にすると通気性および透湿度が全くないため、酷暑環境下や過酷な肉体労働環境下での作業に使用すると作業者に多大な熱ストレスが加わり、重篤な健康障害を及ぼす危険性を抱えている。
【0003】
一方、通気性があり活性炭等の吸着材料からなる防護積層布帛も開示されている(例えば特許文献2)。これらは環境の有害化学物質の濃度が高いときなどは、比較的短時間でガス吸着性物質による吸着性能が飽和状態に近づき防護性が低下するという問題や、衣服にした場合には、通気性により体から発散される汗や水蒸気を効果的に衣服外に放出し、熱ストレスを抑制することができるが、長時間防護性能を維持するためには、比較的多くの吸着材料が必要となり、その結果、防護材料および防護衣服の質量が大きくなり熱ストレスの原因になる。
【0004】
また、セルロースをベースにしたポリマーにより選択透過性を有する防護材料が公知である(例えば特許文献3)。かかるポリマーは、ガス状有機化学物質に対する透過抑制性および透湿性能を有してはいるが、ポリマー単独による防護材料では、取扱い時の屈曲、摩耗、キズ、さらには防護衣服として使用した場合や洗濯で受ける屈曲などによる選択透過層の劣化の影響で一旦ガスの透過が生じると、急激に浸透ガス濃度が上昇する危険性がある。そこで屈曲、摩耗、キズなどの劣化を少なくするために選択透過層の厚みを大きくすると、柔軟性が低く、重い材料となり所望とする防護材料や防護衣服となり得ない。
【0005】
【特許文献1】特開平9−651号公報
【特許文献2】特開昭57−156036号公報
【特許文献3】特表平11−505775号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は従来技術の課題を背景になされたもので、ガス状有機化学物質及び液状有機化学物質に対して高い防護性を有し、軽量で柔軟性に富む取扱い性に優れた防護材料であって、更には衣服にした場合には、着用者の熱ストレスを抑制するように軽量で、柔軟性に優れ、かつ高い透湿性を有して着用感に優れ、さらには、洗濯耐久性にも優れた防護材料及び防護衣服を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記課題を解決するため鋭意研究した結果、本発明を完成するに至った。即ち本発明は、以下の通りである。
1.有機化学物質に対しては透過抑制性があり、水蒸気に対しては透過性がある選択透過層の両面に透湿膜層を積層した防護膜層を有し、前記透湿膜層が透湿性接着剤を含有することを特徴とする防護材料。
2.前記選択透過層がセルロース、セルロース誘導体にて構成されている上記1に記載の防護材料。
3.前記透湿膜層構成材料が透湿性ポリウレタンを含む材料である上記1〜2のいずれかに記載の衣服用防護材料。
4.前記透湿性接着剤の構成材料が硬化型ポリウレタンを含む材料上記1〜3のいずれかに記載の衣服用防護材料。
5.前記透湿膜層の構成材料が透湿性ポリウレタンに対して硬化型透湿性ポリウレタンを5質量%以上ブレンドした材料である上記1〜4のいずれかに記載の防護材料。
6.前記防護膜層の少なくとも片側に防護膜保護層を積層した上記1〜5のいずれかに記載の防護材料。
7.前記防護膜層の透湿度が50〜625g/m・hであり、かつ衣服用である上記1〜6のいずれかに記載の防護材料。
8.前記選択透過層の透湿度が60〜850g/m・hであり、かつ衣服用である上記1〜7のいずれかに記載の防護材料。
9.上記1〜8のいずれかに記載の防護材料を用いて縫製し、縫い目が有機化学物質に対して透過抑制性の樹脂でシール加工されてなる防護衣服。
【0008】
上述の防護材料は、前記防護膜層の少なくとも片側に防護膜保護層が積層されていることが好ましく、さらに衣服にする場合には、最外層(衣服にしたときの外層)に外層付加層が、最内層に内層付加層が設けられていることがより好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明の防護膜層を有する防護材料および該防護材料により形成された防護衣服は、使用中に発生する屈曲、摩耗、キズからの有機化学物質の侵入に対しても着用者を保護できる。また、選択透過層の耐久性が向上し、軽量で柔軟で、かつ高い透湿性を有するため、衣服にした場合には熱ストレスを抑制できる効果を有する。また、透湿膜層には硬化型の透湿接着剤を含有するため、水、汗などの液状の有機化学物質に長時間さらされた場合や、洗濯した場合でも選択透過層と透湿膜層の界面で剥離が起こらない効果が得られる。
【0010】
さらに、本発明の防護材料および該防護材料により形成された防護衣服は、防護膜層として無孔質または微多孔質のフィルムまたは被膜を用いたものであるため、液状の有害化学物質や有害な微粉塵、細菌、ウィルスなどのエアロゾルに対しても優れた防護性を示すことができる。
【0011】
上記の防護材料の少なくとも片側に防護膜保護層を設けると、外部から与えられる機械的な力から防護膜層を保護し、機械的強度を補う効果を有する。さらに、防護材料の最外層に外層付加層、最内層に内層付加層を設けると、外部から与えられる機械的な力から防護膜層を保護する効果と、衣服にした場合に防護衣着用者の汗によるべたつき感を抑制する効果も有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
選択透過層を構成する材料としては、皮膜形成後に透湿性を示し有機化学物質に対しては透過抑制性を示す選択透過能を有する材料が限定なく使用可能であり、具体的にはセルロース、セルロース誘導体、再生セルロース、エチレン−ビニルアルコール系共重合体(EVA)、ポリビニルアルコール、ポリアクリレート、ポリアクリロニトリル、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリウレタン、ポリエステル、共重合ポリエステル、ポリオレフィン等の皮膜形成性能を有するポリマーが例示される。これらの材料は単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。皮膜は単層であってもよく、2種類以上積層して形成したものであっても構わない。
【0013】
選択透過層構成材料としては、上記記載のポリマーの中でセルロース誘導体、再生セルロースあるいはポリビニルアルコールが、有機化学物質の透過抑制性と透湿性とのバランスが優れており、より好ましく、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート、再生セルロース(セロハン)から選択される少なくとも1種であることが特に好ましい。ここでいう有機化学物質とは炭素元素を1つ以上持つ化合物のことであり、農薬、殺虫剤、除草剤に使用される有機リン系化合物や塗装作業などに使用されるトルエン、塩化メチレン、クロロホルムなどの一般的な有機溶剤が例示される。
【0014】
セルロース誘導体の酢化度としては50%以上、好ましくは55%以上であることが好ましい。50%未満であると対象とするガス状有機化学物質によっては効果的な透過抑制性が得られない場合がある。
【0015】
セルロース誘導体の重合度の指標である6%粘度は、50 ×10−3Pa・s以上275×10−3Pa・s以下、好ましくは70×10−3Pa・s以上140×10−3Pa・s以下であることが好ましい。50×10−3Pa・s以下であるとガス状有機化学物質に対して効果的な透過抑制性が得られず、275×10−3以上では材料が堅くなり衣服用には適さない。
【0016】
セルロース誘導体又は再生セルロースから選択される少なくとも1種からなる選択透過層は、セルロース誘導体又は再生セルロースなどのセルロース系ポリマーを60質量%以上含むことが好ましく、更に好ましくは80質量%以上含むものである。セルロース系ポリマーの含有量が60質量%未満であると、有機化学物質に対する透過抑制性を維持しながら、高透湿な材料を得ることができない。セルロース系ポリマーに、上記例示の選択透過層構成材料中の例えばガスおよび水蒸気に対し耐透過性を有する柔軟なポリマーをブレンドすることで選択透過層の透湿性及び透過抑制性を保持しながらより柔軟な選択透過層を作製することが出来る。係る柔軟なポリマーとしては、ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール系共重合体(EVA)、ポリウレタン、ポリエチレンテレフタレート等があげられる。また必要に応じポリマーに可塑剤を添加することにより選択透過層の柔軟性を向上させることもできる。係る可塑剤としては、クエン酸トリエチル、フタル酸ジアリール、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、トリエチレングリコール等がある。
【0017】
セルロース系ポリマーにイソシアネート化合物をブレンドすることで透湿膜層との接着性を上げて界面での剥離を抑制することができる。添加量は1質量%以上10質量%未満が好ましく、2質量%以上5質量%未満がさらに好ましい。10質量%以上になると有機化学物質に対する透過抑制性を維持できなくなるためである。
【0018】
ポリマーから選択透過層を形成する方法としては、キャスト法(流延法)、押出法、射出成型法等により一旦ポリマー単独のフィルムとして製膜する方法、メルトブローン法、フラッシュ紡糸法、エレクトロスピン法等により微細繊維不織布を作製した後、熱カレンダー加工して膜とする方法、該ポリマーの溶液あるいは反応性の低重合物を透湿膜層にコーティング等により塗工後に乾燥あるいは重合固化する方法などが挙げられる。
【0019】
本発明で使用する選択透過層の厚さは、3μm以上100μm以下であることが好ましく、5μm以上70μm以下であることがより好ましい。選択透過層の厚さが3μm未満であると、有機化学物質に対しての防護性が満足できないうえ、十分な強度が得られない。選択透過層の厚さが100μmを超えると、透湿性が低下するうえ、材料が堅くなり質量も重くなる。
【0020】
選択透過層の質量としては、100g/m以下であることが好ましく、70g/m以下であることがより好ましい。選択透過膜層の質量が100g/mを超える場合には、本発明の目的とする軽量な防護材料となり得ない。選択透過層の目付の下限は、上記透湿性・ガス透過性の要件が満たされる範囲であれば特に限定されるものではないが、通常5g/m以上である。
【0021】
選択透過層の透湿性は、60g/m・h以上850g/m・h以下であることが好ましく、80g/m・h以上750g/m・h以下であることがより好ましい。選択透過層の透湿性が60g/m・h未満の場合は衣服にした場合に、着用者から発する汗・蒸気を有効に外部へ放出することができず、850g/m・hを超えると有機化学物質に対する透過抑制性を維持することができない。
【0022】
選択透過層の有機化学物質の透過抑制性としては、防護材料に用いて実用上、有機化学物質に対する防護性が発揮できる程度の透過抑制性があればよいが、実施例の図3で示すような有機化学物質浸透性試験において、有機化学物質が検出できない程度に透過抑制性があることが好ましい。
【0023】
選択透過層を保護するための透湿膜層の構成材料は、透湿性のある素材であれば特に限定されるものではないが、透湿性、柔軟性、加工性の面から透湿型ポリウレタンが最も好ましい。
【0024】
選択透過層を保護する透湿膜層の形成方法としては、ポリマーの溶液あるいは反応性の低重合物を選択透過層にコーティング等により塗工後、乾燥あるいは重合固化する方法、あるいは別途製造した透湿膜を透湿性の低下を防止し、かつ材料の柔軟性を維持するラミネート法により接着させる方法があるが、透湿性、柔軟性、質量および加工性の面からコーティング法によることがより好ましい。
【0025】
選択透過層に透湿膜層を積層する場合には、両素材界面での剥離強度を上げるために、透湿膜層となる素材に硬化型透湿性の接着剤を透湿膜層構成素材に対して5質量%以上の割合で含有させることが有効な手段である。硬化型透湿性の接着剤の含有割合が5質量%未満であると十分な接着強度が得られない。
硬化型透湿性の接着剤は、透湿性が得られる素材であれば特に限定されるものではないが、透湿性、柔軟性、加工性の面からポリウレタン系が最も好ましい。
なお、接着剤の透湿性は、選択透過層及び透湿膜層の透湿性を阻害しない程度の透湿性であればよく、少なくとも、60g/m・h、より好ましくは100g/m・h以上あればよい。
【0026】
また、両素材界面での剥離強度を上げるために、透湿膜層となる素材に選択透過層に使用するポリマーを透湿膜層構成素材に対して5質量%以上50質量%以下の割合で混合することも有効な手段である。選択透過層に使用するポリマーの混合割合が5質量%未満であると界面剥離が生じやすく、50質量%を超えると透湿膜層の透湿性が低下する原因となる。又、選択透過層となる素材に透湿膜層に使用する素材を添加しても良い。
【0027】
透湿膜層の透湿性は、200g/m・h以上であることが好ましく、250g/m・h以上であることがより好ましい。透湿膜層の透湿性が200g/m・h未満の場合は防護膜層の透湿性が低下するためである。
【0028】
また、透湿性能を維持し軽量で柔軟な防護材料とするには、透湿膜層の厚さは3μm以上50μm以下であることが好ましい。透湿膜層の厚さが3μm未満の場合は透湿膜層の耐久性が不十分であり、屈曲、摩耗等が不十分となる。また、50μmを超える膜厚の場合は膜全体の質量が大きくなり着用感が悪化する原因となる。
【0029】
図1に積層体とした本発明の防護膜体を含む防護材料を模式断面図にて示した。防護膜層6は選択透過層3の両面に透湿膜層2、4が積層されて形成されており、防護膜体8の内側と外側に防護膜保護層1、5がそれぞれ積層されて防護材料9が構成されている。
【0030】
図2に積層体とした本発明の防護膜体を含む防護材料を模式断面図にて示した。防護膜層8は選択透過層3の両面に透湿膜層2、4が積層されて形成されており、防護膜体8の内側と外側に防護膜保護層1、5がそれぞれ積層されて防護材料9が構成され、最も外側に外層付加層6が、最も内側に内層付加層7が、それぞれ積層されて衣服用防護材料10が構成されている。
【0031】
防護膜保護層の目的は、外部から与えられる機械的な力から防護膜層を保護すること、機械的強度を補うことであり、JIS L1092 6.2に記載のスプレー試験を実施した場合の撥水度が4以上、AATCC Test Method 118による撥油度が4級以上である織物、編物、または不織布などが好適に用いることができるが、柔軟性を考慮したものの使用が推奨される。
【0032】
防護膜層と防護膜保護層を接着剤により積層する場合、使用する接着剤としては、ウレタン系、ビニルアルコール系、エステル系、エポキシ系、塩ビ系、オレフィン系などが挙げられるが、積層による透湿性の低下を抑制するためには透湿型接着剤であるウレタン系、ビニルアルコール系、エステル系の使用が好ましい。
【0033】
また、使用する接着剤のメルトインデックス(MFR)としては、100g/10min以下であることが好ましく、80g/10min以下であることがより好ましい。MFRが100g/10min以下の接着剤を使用することにより防護膜層の表面を被覆する面積が小さくなり透湿性の低下を抑制することができる。
【0034】
外層付加層の目的は、外部から与えられる機械的な力から防護膜層を保護することであり、JIS L1092 6.2に記載のスプレー試験を実施した場合の撥水度が4以上、AATCC Test Method 118による撥油度が4級以上である織物、編物、または不織布などが好適に用いることができるが、柔軟性を考慮したものの使用が推奨される。
【0035】
防護材料と外層付加層とは、予め接着剤により接着されている形態でもよく、透湿性や柔軟性を考慮し、接着せずに重ね合わせた状態で縫製し、フラシの形状で防護衣服の作製に供してもよい。係る方法により接着剤等を使用することなく防護材と外層付加層とを積層することが可能であり、積層後の衣服用防護材料の透湿性や柔軟性が低下しないことからもこの積層方法が好ましい。
【0036】
内層付加層としては、織物、編物、不織布、開孔フィルム等の材料があげられるが、透湿性、柔軟性の面から粗い密度で製織あるいは製編された織物あるいは編物が好ましい。
内層付加層の目的は、外部から与えられる機械的な力から防護膜層を保護する役割と、防護衣着用者の汗によるべたつき感を抑制することである。
【0037】
また、防護膜層にピンホール等が生じた場合にも有機化学物質に対して防護性能を維持できるように、ガス吸着層を防護膜層の下流側であって防護膜保護層の間に併用することは有効な手段となる。尚、ガス吸着層を使用する場合には防護膜保護層とあらかじめラミネートもしくはキルティング等により積層することは柔軟な積層材料を得るために有効である。
【0038】
防護材料と外層付加層および内層付加層を接着剤により積層する場合、使用する接着剤としては、ウレタン系、ビニルアルコール系、エステル系、エポキシ系、塩ビ系、オレフィン系などが挙げられるが、積層による透湿性の低下を抑制するためには透湿性の接着剤であるウレタン系、ビニルアルコール系、エステル系の使用が好ましい。
【0039】
また、使用する接着剤のメルトインデックス(MFR)としては、100g/10min以下であることが好ましく、80g/10min以下であることがより好ましい。MFRが100g/10min以下の接着剤を使用することにより防護膜層の表面を被覆する面積が小さくなり透湿性の低下を抑制することができる。
【0040】
外層付加層、内層付加層の少なくとも1層を付与した積層体の質量は、350g/m以下であることが好ましい。積層体の質量が350g/mを超えると防護衣服の質量が大きくなり熱ストレスの原因となる。
【0041】
上記の防護材料を使用して防護衣服とする場合には、縫い目からのガス状・液状化学物質の浸透や有害な微粉塵、細菌、ウィルスなどのエアロゾルの進入を防止し、かつ透湿性や柔軟性を考慮する目的から、フラシ縫いで縫製することが好ましく、さらに縫い目からの浸透を防止するために、縫い目をシール加工することがより好ましい。
【0042】
シール加工は、特にガス状、液状の化学物質に対して透過抑制性がある樹脂で縫い目部分を被覆して目止めする。加工に使用する材料としては、透過抑制性がある樹脂の溶液、透過抑制性でかつ接着性の樹脂フィルム、透過抑制性樹脂フィルムを用いたシールテープなどを使用することができる。シールテープとしては、ガス透過抑制層と接着層を含む2層以上からなるものが使用でき、接着層の樹脂としては、ホットメルト樹脂、低温(150℃以下)硬化型の接着剤や湿気硬化型の接着剤を用いることができる。加工性と加工後のシールテープの耐剥離性を考慮すると、硬化型の接着剤を用いることがより好ましい。また、樹脂の種類は縫い目のシールができるものであれば特に限定されないが、柔軟性、接着性、透湿性の点でポリウレタン系樹脂が好ましく、ポリウレタン系樹脂の中では硬化型のものが好ましい。
シール加工の方法は、縫い目部分に接着剤を塗布後にラミネートする方法なども採用できるが、上記樹脂で予め作成したフィルムやテープをシール材として使用する方法が、作業性の点で好ましい。
【0043】
防護衣服とする際は、防護衣上衣、ズボン、フード、防護マスク、手袋、シューズ、靴下等から構成される、形状が防護衣上衣とズボンとフードを一体化した1ピース、防護衣上衣とズボンを一体化したものとフードからなる2ピース、防護衣上衣とフードが一体化したものとズボンからなる2ピース、防護衣上衣、ズボン、フードからなる3ピース形状等で構わないが、各接合部分からの進入を防止する気密性を考慮したデザインとすることが必要である。
【0044】
防護衣服とした場合の重さは、3kg以下が好ましい。3kgを超えると着用時の負担が大きくなり熱ストレスの原因となる。
【実施例】
【0045】
次に実施例および比較例を用いて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって制限されるものではない。実施例に記載の評価は以下に記す方法による。
〈有機化学物質浸透性試験〉
試験に用いる容器図を図3に示す。内容積150ccの2つのガラスセル11,12で試験品13を挟み込み、周囲をパラフィン14により密閉する。この試験容器の上方セル11から試験液(酢酸3−メトキシブチル)15を20μL、試験品13上に滴下する。これを25±2℃に設定した恒温ボックスに入れ、下方セル12側のガス濃度を一定時間ごとにサンプリング口16からサンプリングし、ガスクロマトグラフィにより試験片13を透過したガス濃度を測定する。
〈透湿度〉
JIS L1099 4.1.1 塩化カルシウム法に準拠して測定した。
〈質量〉
JIS L1018 8.4及びJIS L1096 8.4により測定した。
〈厚さ〉
JIS L1018 8.5及びJIS L1096 8.5により測定した。
〈剥離試験〉
防護材料をビーカーの水に浸漬し、24hrスターラーで攪拌後の選択透過膜層と透湿膜層の界面の剥離状態を目視した。
【0046】
〈着用感〉
ワンピース型の防護衣服を着用し、32℃、70%RHの恒温恒湿室において10分間、速度5km/hでトレッドミル上を歩行した後の心拍数、血圧、皮膚温、直腸温、衣服内温湿度の測定結果およびアンケート調査結果から総合評価を行った。
〈洗濯試験〉
JIS L1096 G法で10回洗濯した場合の界面の剥離状態を目視した。
【0047】
〔製造例〕
(防護膜層製造例)
防護膜層を以下の方法で作製した。透湿膜層として固形分10質量%の透湿性ポリウレタン樹脂(三洋化成工業(株)製 サンプレンHMP17A)と固形分10質量%の酢酸セルロース(ダイセル化学工業(株)L−30)と固形分30質量%の硬化型透湿性ポリウレタン樹脂(三洋化成工業(株)製 サンプレンLQ120)の質量混合比が50:25:25となるように混合したドープ溶液を使用した。このドープ溶液を離型紙(リンテック(株)製)上に流延し、コーターにより膜厚を調整しながら塗工し、100℃の熱風乾燥器で乾燥させた。選択透過層は上記記載の酢化度55%、6%粘度70×10−3Pa・sの酢酸セルロース(ダイセル化学工業(株)L−30)を使用し、溶媒はメチルエチルケトンとN,Nジメチルホルムアミドの50:50(質量比)混合溶媒を使用し、固形分濃度が10質量%となるように室温で混合撹拌することにより酢酸セルロース溶液を作製した。この溶液を上記で作製した透湿膜層上に流延し、コーターで膜厚を調節しながら塗工し、130℃の熱風乾燥器で乾燥を行った。その後、得られた透湿膜層と選択透過層の積層体上に再度、透湿膜層を上記で記載した同様の方法で作製することにより防護膜層を作製した。作製した防護膜層の厚さは25μm(透湿膜層は各5μm、選択透過膜層は15μm)、質量34g/m、透湿度169g/m・hであった。
【0048】
(外層付加層製造例)
外層付加層を以下の方法で作製した。綿糸40番手を使った平織物に、フッ素系撥水・撥油加工を施し、樹脂固形分で0.54質量%付着させた。得られた織物は、厚さ0.30mm、質量118g/m、剛軟度0.56gf・cmで、通気度は水位計1.27cmの圧力差で80cm/cm・s、撥水度は5、撥油度は6級であった。
【0049】
(内層付加層製造例)
内層付加層を以下の方法で作製した。ハーフトリコット機により、ポリエステルフィラメント(33dtex、18フィラメント)を、2−0/1−3の組織で編成後、定法により精練し、さらに分散染料により染色し、フッ素系加工剤で撥水・撥油加工を施した。このようにして得られた編地は、厚さ0.20mm、質量44g/m、通気性は水位計1.27cmの圧力差で700cm/cm・s、撥水度5、撥油度6級であった。
【0050】
〔実施例1〕
上記の製造例にて得た防護膜層の両面に、防護膜保護層として質量40g/m、厚さ0.34mmのポリブチレンテレフタレート製のメルトブローン不織布(タピルス(株)製)をホットメルトタイプのウレタン接着剤で接着し、防護材料を作成した。防護材料の質量は130g/m、厚さ0.78mm、透湿度145g/m・hであった。この防護材料を用いた有機化学物質浸透性試験結果を表1に示す。また、この防護材料の剥離試験結果については表2に示す。
【0051】
〔実施例2〕
選択透過膜層として再生セルロースフィルム(フタムラ化学(株)製P−5)質量28g/m、厚さ19μmのものを使用し、透湿膜層として固形分10質量%の透湿性ポリウレタン樹脂(三洋化成工業(株)製 サンプレンHMP17A)と固形分30質量%の硬化透湿型ポリウレタン樹脂(三洋化成工業(株)製 サンプレンLQ120)の質量混合比が75:25となるように混合したドープ溶液を使用した。このドープ溶液を再生セルロースフィルム上に流延し、コーターにより膜厚を調整しながら塗工し、100℃の熱風乾燥器で乾燥させた。この操作を選択透過膜の両面に繰り返し行い防護膜層とした。
上記の製造例にて得た防護膜層の両面に、防護膜保護層として質量40g/m、厚さ0.34mmのポリブチレンテレフタレート製のメルトブローン不織布(タピルス(株)製)をホットメルトタイプのウレタン接着剤で接着し防護材料を作成した。得られた防護材料の質量は136g/m、厚さ0.79mm、透湿度140g/m・hであった。この防護材料を用いた有機化学物質浸透性試験結果を表1に示す。また、この防護材料の剥離試験結果については表2に示す。
【0052】
〔比較例1〕
上記の(防護膜層製造例)において透湿膜層に固形分10質量%の透湿性ポリウレタン樹脂(三洋化成工業(株)製 サンプレンHMP17A)と固形分10質量%の酢酸セルロース(ダイセル化学工業(株)L−30)の質量混合比が75:25となるように混合したドープ溶液を使用した以外は同様にして防護膜層を作製し、該防護膜層を使用して実施例1と同様にして防護材料を作製した。得られた防護材料は質量129g/m、厚さ0.78mm、透湿度150g/m・hであった。この防護材料を用いた有機化学物質浸透性試験結果を表1に示す。また、この防護材料の剥離試験結果については表2に示す。
【0053】
〔比較例2〕
上記の(防護膜層製造例)において選択透過層構成材料として透湿性ポリウレタン樹脂(三洋化成工業(株)製 サンプレンHMP17A)を使用した以外は同様にして防護膜層を作製し、該防護膜層を使用して実施例1と同様にして防護材料を作製した。得られた防護材料は、質量128g/m、膜厚が0.78mm、透湿度155g/m・hであった。この防護材料を用いた有機化学物質浸透性試験結果を表1に示す。また、この防護材料の剥離試験結果については表2に示す。
【0054】
【表1】

【0055】
【表2】

【0056】
上記の表1、表2の結果によれば、実施例1、2は、有機化学物質透過抑制性、界面の接着性に優れ好適な防護材料であるのに対し、比較例1は接着性が低く剥離する結果となった。比較例2については、選択透過層の有機化学物質透過抑制性が乏しく本願発明の目的に対しては、充分と言えるものではなかった。
【0057】
〔実施例3〕
上記の製造例にて得た防護膜層の両面に、防護膜保護層として質量40g/m、厚さ0.34mmのポリブチレンテレフタレート製のメルトブローン不織布(タピルス(株)製)を接着し、防護材料を作成した。得られた防護材料を、内層付加層と外層付加層との間に接着せずに配置させることにより衣服用防護材料を得た。衣服用防護材料の質量は292g/m、厚さ1.28mm、透湿度125g/m・hであった。この防護材料を用いた有機化学物質浸透性試験結果を表3に示す。また、この衣服用防護材料の洗濯試験結果並びに該防護材料にて形成した防護衣服の着用感については表4に示す。
【0058】
〔実施例4〕
選択透過膜層として再生セルロースフィルム(フタムラ化学(株)製P−5)質量28g/m、厚さ19μmのものを使用し、透湿膜層として固形分10質量%の透湿性ポリウレタン樹脂(三洋化成工業(株)製 サンプレンHMP17A)と固形分10質量%の酢酸セルロース(ダイセル化学工業(株)L−30)と固形分30質量%の硬化型透湿性ポリウレタン樹脂(三洋化成工業(株)製 サンプレンLQ120)の質量混合比が50:25:25となるように混合したドープ溶液を使用した。このドープ溶液を再生セルロースフィルム上に流延し、コーターにより膜厚を調整しながら塗工し、100℃の熱風乾燥器で乾燥させた。この操作を選択透過膜の両面に繰り返し行い防護膜層とした。
上記の製造例にて得た防護膜層の両面に、防護膜保護層として質量40g/m、厚さ0.34mmのポリブチレンテレフタレート製のメルトブローン不織布(タピルス(株)製)を接着し、防護材料を作成した。得られた防護材料を、内層付加層と外層付加層との間に接着せずに配置させて衣服用防護材料を得た。衣服用防護材料の質量は298g/m、厚さ1.30mm、透湿度118g/m・hであった。この防護材料を用いた有機化学物質浸透性試験結果を表3に示す。また、この衣服用防護材料の洗濯試験結果並びに該防護材料にて形成した防護衣服の着用感については表4に示す。
【0059】
〔比較例3〕
上記の(防護膜層製造例)において透湿膜層に固形分10質量%の透湿性ポリウレタン樹脂(三洋化成工業(株)製 サンプレンHMP17A)と固形分10質量%の酢酸セルロース(ダイセル化学工業(株)L−30)の質量混合比が75:25となるように混合したドープ溶液を使用した以外は同様にして防護膜層を作製し、該防護膜層を使用して実施例3と同様にして衣服用防護材料を作製した。得られた衣服用防護材料は質量290g/m、厚さ1.29mm、透湿度130g/m・hであった。この防護材料を用いた有機化学物質浸透性試験結果を表3に示す。また、この衣服用防護材料の洗濯試験結果並びに該防護材料にて形成した防護衣服の着用感については表4に示す。
【0060】
〔比較例4〕
上記の(防護膜層製造例)において選択透過層構成材料として透湿性ポリウレタン樹脂(三洋化成工業(株)製 サンプレンHMP17A)を使用した以外は同様にして防護膜層を作製し、該防護膜層を使用して実施例3と同様にして衣服用防護材料を作製した。得られた衣服用防護材料は、質量289g/m、膜厚が1.29mm、透湿度146g/m・hであった。この防護材料を用いた有機化学物質浸透性試験結果を表3に示す。また、この衣服用防護材料の洗濯試験結果並びに該防護材料にて形成した防護衣服の着用感については表2に示す。
【0061】
〔比較例5〕
上記の〔実施例4〕において、選択透過膜層にエチレンビニル共重合体フィルム(クラレ(株)製 エバールEF−XL) 質量15g/m、厚さ12μmのものを使用し、透湿膜層として固形分10質量%の透湿性ポリウレタン樹脂(三洋化成工業(株)製 サンプレンHMP17A)と固形分30質量%の硬化型透湿性ポリウレタン樹脂(三洋化成工業(株)製 サンプレンLQ120)の質量混合比が75:25となるように混合したドープ溶液を使用した以外は同様にして防護膜層を作製し、該防護膜層を使用して実施例3と同様にして衣服用防護材料を作製した。得られた衣服用防護材料は、質量280g/m、膜厚が1.27mm、透湿度3g/m・hであった。この防護材料を用いた有機化学物質浸透性試験結果を表3に示す。また、この衣服用防護材料の洗濯試験結果並びに該防護材料にて形成した防護衣服の着用感については表4に示す。
【0062】
【表3】

【0063】
【表4】

【0064】
上記の表3、表4の結果によれば、実施例3、4は、有機化学物質透過抑制性、洗濯耐久性および着用感に優れ好適な防護材料であるのに対し、比較例3は洗濯耐久性が低い結果となった。比較例4については、選択透過層の有機化学物質透過抑制性が乏しく、比較例5については、着用感が悪いため本願発明の目的に対しては、充分と言えるものではなかった。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の防護材料および防護衣服は、有機化学物質の浸透を防護できるとともに、選択透過層に透湿型接着剤をブレンドした透湿膜層で積層することにより、使用時に発生する屈曲、摩耗、傷から選択透過層を保護でき、さらには、水や液状の化学物質に長時間さらされたり、洗濯によっても剥離強度を維持でき、軽量で柔軟で取扱い性、さらには着用感にも優れた防護材料であるので、防護衣服、防護手袋、防護靴下、防護シューズ、防護テント、防護収納袋などに利用することができ、産業界に寄与することが大である。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の防護材料の一例を示す模式断面図である。
【図2】本発明の衣服用の防護材料の一例を示す模式断面図である。
【図3】有機化学物質透過性試験法に用いる試験容器を示す概略図である。
【符号の説明】
【0067】
1:防護膜保護層、 2:透湿膜層、 3:選択透過層、 4:透湿膜層、
5:ガス吸着層、 6:内層付加層、 7:外層付加層、
8:防護膜層、 9:防護材料、 10:衣服用防護材料、
11:上方セル(150cc)、 12:下方セル(150cc)、 13:試験品、
14:パラフィンシーリング、 15:試験液、 16:サンプリング口


【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機化学物質に対しては透過抑制性があり、水蒸気に対しては透過性がある選択透過層の両面に透湿膜層を積層した防護膜層を有し、前記透湿膜層が透湿性接着剤を含有することを特徴とする防護材料。
【請求項2】
前記選択透過層がセルロース、セルロース誘導体または再生セルロースにて構成されてなる請求項1に記載の防護材料。
【請求項3】
前記透湿膜層構成材料が透湿性ポリウレタンを含む材料である請求項1〜2のいずれかに記載の防護材料。
【請求項4】
前記透湿性接着剤の構成材料が硬化型透湿性ポリウレタンを含む材料である請求項1〜3のいずれかに記載の防護材料。
【請求項5】
前記透湿膜層の構成材料が透湿性ポリウレタンに対して硬化型透湿性ポリウレタンを5質量%以上ブレンドした材料である請求項1〜4のいずれかに記載の防護材料。
【請求項6】
前記防護膜層の少なくとも片側に防護膜保護層を積層した請求項1〜5のいずれかに記載の防護材料。
【請求項7】
前記防護膜層の透湿度が50〜625g/m・hであり、衣服用である請求項1〜6のいずれかに記載の防護材料。
【請求項8】
前記選択透過層の透湿度が60〜850g/m・hであり、衣服用である請求項1〜7のいずれかに記載の防護材料。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の防護材料を用いて縫製し、縫い目が有機化学物質に対して透過抑制性の樹脂でシール加工されてなる防護衣服。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−190093(P2008−190093A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−28211(P2007−28211)
【出願日】平成19年2月7日(2007.2.7)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【出願人】(000222255)東洋クロス株式会社 (24)
【Fターム(参考)】