説明

防護材料及び防護衣服

【課題】選択透過層を透過した微量なガス状有機化学物質をガス吸着層により吸着除去できるとともに、使用で発生する摩耗やキズあるいは接合部やファスナー部からのガスの侵入に対しても着用者を保護でき、さらに着用者の熱ストレスを抑制するために軽量、柔軟で高透湿な防護材料及び防護衣服を提供することにある。
【解決手段】ガス状有機化学物質に対して透過抑制能があり、透湿度300g/m2・h以上16000g/m2・h以下の選択透過層およびガス吸着性物質を含む層(ガス吸着層)をそれぞれ少なくとも1層以上有し、かつ衣服の内側から見てガス吸着層の外側には少なくとも1層以上の選択透過層を配置させる防護材料および防護衣服。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有害化学物質の取り扱い作業者を保護する為の防護材料および防護衣服に関する。詳細には、有機リン系化合物等の如く皮膚から吸収されて人体に悪影響を及ぼすガス状および液状有機化学物質から作業者を有効に防護し得ると共に、軽量かつ高度な透湿度により着用者の熱ストレスを抑制できる防護材料および防護衣服に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有害化学物質などから人体を保護する防護衣服としては、従来から種々提案されている。例えばゴム曳き布のように、有害化学物質が全く透過しない材料で構成されたものがあり防護性能に優れている。しかし、この場合、生地が重いため作業性が劣り、また通気性および透湿度が全くないため、酷暑環境下や過酷な肉体労働環境下で作業すると作業者に多大な熱ストレスが加わり、重篤な健康障害を及ぼす危険性を抱えている。
【0003】
一方、通気性があり活性炭等の吸着材料からなる防護積層布帛が例示されている。それらは通気性により体から発散される汗や水蒸気を効果的に衣服外に放出し、熱ストレスを抑制することができるが、環境の有害化学物質の濃度が高いときなどは、比較的短時間でガス吸着性物質による吸着が飽和状態に近づき防護性が低下するという問題を生じる。また長い時間防護性能を維持するためには、比較的多くの吸着材料が必要となり、その結果、防護材料および防護衣服の質量が大きくなり熱ストレスの原因となる。
【0004】
またセルロースをベースにしたポリマーにより選択透過性を有する防護材料が開示されている(例えば特許文献1参照)。このポリマーは、ガス状有機化学物質に対する透過抑制能および透湿性能を有してはいるが、ポリマー単独による防護材料では、ガス状有機化学物質の微量な透過は抑制しきれず、透過量を少なくするために選択透過層の厚さを大きくすると、透湿度が低くなりさらに堅くて重い材料となる。また防護衣服の使用で発生する摩耗やキズなどポリマーの劣化の影響で一旦ガスの透過が生じると急激に衣服内のガス濃度が上昇する危険性がある。さらに防護衣服を着用した状態において、袖口、裾口、襟元等の接合部やファスナーから有害化学物質の侵入があった場合は、それらを2次的に除去できる手段はなく着用者を保護できなくなる。
【特許文献1】特表平11−505775
【0005】
また、ポリアルキレンイミン又はポリアリルアミンを透湿性のある基材にコーティングすることによって得られる防護材料が開示されている(例えば特許文献2参照)。かかる防護材料は、活性炭のような他の吸着材料を接着剤により固定させると記載されている。しかしながら、一般的な接着剤による吸着材料の固定では吸着材料が接着剤に含まれるガス吸着性を劣化させる成分を吸着する、あるいは細孔が接着剤により被覆され、本来吸着材料がもつ吸着速度および吸着容量が低下するといった問題があった。
【特許文献2】特表平7−504580
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は従来技術の課題を背景になされたもので、選択透過層を透過した微量なガス状有機化学物質をガス吸着層により吸着除去できるとともに、使用で発生する摩耗やキズあるいは接合部やファスナー部からのガスの侵入に対しても着用者を保護でき、さらに着用者の熱ストレスを抑制するために軽量、柔軟で高透湿な防護材料及び防護衣服を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記課題を解決するため、鋭意研究した結果、本発明を完成するに至った。すなわち本発明は、(1)選択透過層とガス吸着性物質を含む層(ガス吸着層)をそれぞれ少なくとも1層以上有し、かつ衣服の内側から見てガス吸着層の外側には少なくとも1層以上の選択透過層が配置されていることを特徴とする防護材料(但し選択透過層は、ガス状有機化学物質に対して透過抑制能があり、JIS L 1099 酢酸カリウム法(B−1法)による透湿度300g/m2・h以上16000g/m2・h以下である)、(2) 選択透過層とガス吸着層からなる積層体の目付けが200g/m2以下であることを特徴とする(1)に記載の防護材料、(3)(1)又は(2)に記載の防護材料からなることを特徴とする防護衣服である。
【発明の効果】
【0008】
本発明による防護材料は、選択透過層とガス吸着層を有することを特徴とする防護材料および防護衣服であり、従来問題となっていた選択透過層をわずかに透過するガス状有機化学物質や使用で発生する摩耗やキズあるいは接合部やファスナー部から侵入するガス状有機化学物質を2次的に吸着除去できることにより着用者の安全性を高め、またガス吸着層の外側に選択透過層が配置されていることにより長時間の使用が可能であるとともに、軽量で柔軟かつ高度な透湿性能により熱ストレスを抑制できる効果がある。
さらに、選択透過層として無孔質または微多孔質のフィルムまたは被膜を用いるため、液状の有害化学物質や有害な微粉塵、細菌、ウィルスなどのエアロゾルに対しても優れた防護性を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の選択透過層の素材としてはポリアクリレート、ポリアクリロニトリル、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリウレタン、ポリエステル、共重合ポリエステル、ポリオレフィン、エチレン−ビニルアルコール系共重合体、ポリビニルアルコール、セルロース、セルロース誘導体等の皮膜形成性能を有するポリマーで皮膜形成後に透湿性とガス状有機化学物質に対して選択透過能を有する材料であればよい。これらの材料を単独、混合、あるいは順次積層して皮膜を形成しても構わない。
【0010】
選択透過層は皮膜を形成し単独で用いても構わないが、皮膜の補強あるいは保護のために透湿性のある基材と複合しても良い。基材の透湿性については、選択透過層の透湿性能を損なわないために300g/m2・h以上、好ましくは400g/m2・h以上である必要がある。強度を維持しながら軽量で柔軟な防護材料とするには、基材の厚さは0.05mm以上0.50mm以下が好ましい。基材にはシート状繊維集合体あるいは透湿性のある微多孔あるいは無孔質のフィルム又は膜を用いることが出来る。
シート状繊維集合体としては綿、麻、毛、絹等の天然繊維、レーヨン、ポリノジック、キュプラ、リヨセル等の再生繊維、アセテート、トリアセテート等の半合成繊維、ナイロン、アラミド、ビニロン、ビニリデン、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、アクリル、アクリル系、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリウレタン、ポリクラール、ポリアリレート、ポリベンザゾール、ポリイミド、ポリフェニレンスルフィド等の合成繊維からなる織物、編物、不織布等が挙げられる。これら繊維は単独あるいは混紡、交織、交編等により組み合わせてシート状繊維集合体としても良い。
透湿性のある微多孔あるいは無孔質のフィルム又は膜としてはポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、共重合ポリエステル、ポリウレタン、ポリエーテルポリウレタン、アクリレート等のシート状物が挙げられる。
【0011】
上記の選択透過層を形成するポリマーはキャスト法、押出法、射出成型法等により一旦ポリマー単独のフィルムとして製膜する方法、メルトブローン法、フラッシュ紡糸法、エレクトロスピン法等による微細繊維不織布を膜とする方法、該ポリマーの溶液あるいは低重合物を基材にコーティング、ディッピング等により塗工後に乾燥あるいは重合固化する方法などが挙げられる。
【0012】
選択透過層を基材と複合させて防護材料とする場合、透湿性の低下を防ぎ且つ材料の柔軟性を維持したうえでラミネート法により積層できる。選択透過層と基材の間をポリウレタン系あるいはアクリル酸エステル系エマルジョンで接着する場合や選択透過層あるいは基材の一部を溶着あるいは融着する場合は全面接着するのではなくドット状に部分接着することが好ましい。低融点の共重合ポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィンから成る低目付の不織布、網状体あるいは粉体を介して熱接着することも可能である。
【0013】
選択透過層としてはガス状有機化学物質の透過抑制能と透湿性能とのバランスから鑑みるとセルロース誘導体あるいはポリビニルアルコールが好ましい。その中でも、ガス状有機化学物質に対する透過抑制能が優れているという点でセルロースジアセテート又はセルローストリアセテートが特に好ましい。
【0014】
セルロース誘導体の酢化度としては50%以上、好ましくは55%以上であることが好ましい。50%未満であると対象とするガス状有機化学物質によっては効果的な透過抑制能が得られない場合がある。
【0015】
セルロース誘導体の重合度の指標である6%粘度は、50 ×10-3Pa・S以上275 ×10-3Pa・S以下、好ましくは70 ×10-3Pa・S以上140 ×10-3Pa・S以下であることが好ましい。50 ×10-3Pa・S以下であるとガス状有機化学物質に対して効果的な透過抑制能が得られず、275 ×10-3以上では材料が堅くなり衣服用には適さない。
【0016】
セルロース誘導体からなる選択透過層は、セルロース誘導体を60wt%以上含むことが好ましく、更に好ましくは80wt%以上含むものである。セルロース誘導体の含有量が60wt%未満であると、ガス状有機化学物質に対する透過抑制能を維持しながら、高透湿な材料を得ることができない。ブレンドするポリマーとしては、例えばガスおよび水蒸気に対し耐透過性を有する柔軟なポリマーとブレンドすることにより選択透過層の透湿性及び透過抑制能をある程度保持しながらより柔軟な選択透過層が作製できる。柔軟なポリマーとしては、ポリビニルアルコール、エチレン-ビニルアルコール系共重合体、ポリウレタン、ポリエチレンテレフタレート等があげられる。また必要に応じ可塑剤を併用することにより選択透過層の柔軟性を向上させることもできる。可塑剤としては、クエン酸トリエチル、フタル酸ジアリール、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル等がある。
【0017】
セルロース誘導体の溶媒としては、アセトンなどのケトン類、酢酸エチルなどのエステル類、ジメチルホルムアミド等の含窒素化合物、グリコール類、エーテル類、ハロゲン化炭化水素およびジメチルスルホキシド等が挙げられるが、対象とする有害化学物質や生産設備などにより適宜選定できる。
【0018】
セルロース誘導体からなるポリマー固形分濃度は5wt%以上30wt%以下の範囲が、加工性に優れる。5wt%未満あるいは30wt%を超えると加工性が悪くなる。
【0019】
本発明で使用する選択透過層の厚さとしては、3μm以上100μm以下であることが好ましく、5μm以上70μm以下であることが更に好ましい。3μm以下であると、ガス状有機化学物質に対しての防護性が満足できないうえ、十分な強度が得られ難い。一方、100μmを超えると、透湿性が低下するうえ、材料が堅くなり衣服材料には適さなくなる。
【0020】
選択透過層の質量としては、100g/m2以下、好ましくは70g/m2以下であることが好ましい。100g/m2以上では、本発明の目的とする軽量な防護材料となり得ない。
【0021】
選択透過層の透湿性としては、JIS L 1099 酢酸カリウム法(B−1法)による透湿度300g/m2・h以上16000g/m2・h以下であることが好ましく、400g/m2・h以上10000g/m2・h以下であることが更に好ましい。300g/m2・h以下では着用者から発する汗・蒸気を有効に外部へ放出できず、16000g/m2・hを超えるとガス状有機物質に対して透過抑制能を維持できない。
【0022】
選択透過層の透湿性能を向上させるために、高吸放湿吸湿発熱性微粒子等を膜表層部もしくは膜内部等に、付与することが出来るが、選択透過層のガス透過抑制能を低下せず、また布帛のざらつき抑制の観点より平均粒径30μm以下であることが好ましく、10μm以下がより好ましく、5μm以下がさらに好ましい。さらに同様の理由により、最大粒径が50μm以下であることが好ましく、20μm以下であることが更に好ましく、10μm以下であることがより好ましい。しかし、平均粒径が0.01μmより小さくなると、乾燥時及び樹脂添加時の取扱性が悪くなるため好ましくない。
【0023】
本発明の防護材料に用いられる選択透過層は、透過するガス状有機化学物質の透過濃度が20ppm以下であることが好ましく。さらに好ましくは10ppm以下である。20ppmを超えるとガス吸着層への負荷が多くなり防護できる時間が短くなる。
【0024】
ここでいうガス状有機化学物質とは炭素元素を1つ以上持つ化合物のことである。50以上の比較的大きな分子量をもち、活性炭等のガス吸着性物質が吸着可能なガス状化学物質である。一例を挙げると、農薬、殺虫剤、除草剤に使用される有機リン系化合物や塗装作業などに使用されるトルエン、塩化メチレン、クロロホルムなどの一般的な有機溶剤があげられる。
【0025】
本発明に使用するガス吸着性物質としては、活性炭やカーボンブラックなどの炭素系吸着材、あるいは、シリカゲル、ゼオライト系吸着材、炭化ケイ素、活性アルミナなどの無機系吸着材から対象とする被吸着物質に応じ適宜選定することができる。その中でも広範囲なガスに対応できる活性炭は好ましく、特に吸着速度や吸着容量が大きく少量の使用で効果的な透過抑制能が得られることから繊維状活性炭はより好ましい。
【0026】
本発明に使用する活性炭のBET比表面積としては700m2/g以上3000m2/g以下が好ましく、少量の使用で十分な透過抑制能を得るためには、1000m2/g以上2500m2/g以下がさらに好ましい。BET比表面積が700m2/g未満であると十分な防護性を得るために多くの活性炭が必要となり防護材料が重くなる。一方、3000m2/gより大きくなると吸着したガス状有機化学物質を脱離する問題が起こる。
【0027】
活性炭の質量としては5g/m2以上100g/m2以下が好ましく、さらに好ましくは10g/m2以上50g/m2以下であることが好ましい。5g/m2未満であると、吸着できる容量が小さくなり使用時間が制限される。一方100g/m2より大きくなると防護材料が重くなり熱ストレスの原因となる。
【0028】
少量の使用で効果的な透過抑制能を得るために繊維状の活性炭を使用する方法は有効な手段であるが、その際、使用する繊維状活性炭の原料としては、綿、麻といった天然セルロース繊維の他、レーヨン、ポリノジック、溶剤紡糸法によるといった再生セルロース繊維、さらにはポリビニルアルコール繊維、アクリル系繊維、芳香族ポリアミド繊維、リグニン繊維、フェノール繊維、石油ピッチ繊維等の合成繊維が挙げられるが、得られる繊維状活性炭の物性(強度等)や吸着性能から再生セルロース繊維、フェノール系繊維、アクリル系繊維が好ましい。これらの原料繊維の短繊維あるいは長繊維を用いて製織、製編、不織布化した布帛を必要に応じて適当な耐炎化剤を含有させた後、450℃以下の温度で耐炎化処理を施し、次いで500℃以上1000℃以下の温度で炭化賦活する公知の方法によって繊維状活性炭を製造することができる。
【0029】
繊維状活性炭をシート化する方法としては、シート基材にガス吸着性物質をバインダーにより接着する方法、あるいは吸着剤を適当なパルプおよびバインダーを含めスラリー状とし、湿式抄紙機により抄造する方法、あるいは活性炭素繊維の原料繊維をあらかじめ製織、製編、不織布化し、必要に応じて耐炎化処理したのち炭化・賦活する公知の方法により吸着シートを得ることができる。
【0030】
したがって、繊維状活性炭シートの形態としては、織物状、編物状、不織布状、フェルト状、紙状、フィルム状などあげられるが、防護衣着用時の運動作業性、身体へのフィット性、柔軟性、積層の容易性から織物状、編物状であることが好ましい。
【0031】
選択透過層とガス吸着層の積層手段としては、次の2つが上げられる。第1の方法としては、選択透過層にシート状または粒状または粉状のガス吸着性物質を接着剤により接着する。第2の方法は、選択透過層とガス吸着層のいずれかをあらかじめ作製した後、他方をコーティングまたはディッピングする方法があげられる。
【0032】
使用する接着剤としては、ウレタン系、ビニルアルコール系、エステル系、エポキシ系、塩ビ系、オレフィン系など挙げられるが、積層による透湿性の低下を抑制するためには透湿性の接着剤であるウレタン系、ビニルアルコール系、エステル系が好ましい。
【0033】
また使用する接着剤のメルトインデックスとしては、100g/10min以下であることが好ましく、80g/10min以下であることが更に好ましい。100g/10min以下とすることにより接着の際、ガス吸着性物質の表面を接着剤が被覆する面積が小さくなり積層によるガス吸着性能の低下を抑制することができる。
【0034】
内層付加層とガス吸着層をあらかじめキルティングにより積層することは、積層によるガス吸着層の性能低下を抑え、より柔軟な積層材料を得るのに有効な手段である。前記2層をあらかじめキルティングにより積層した後、選択透過膜層を接着剤により積層することにより防護材料を得ることができる。
【0035】
選択透過層およびガス吸着層の層数は、それぞれ少なくとも1層は必要であるが、柔軟性を高める目的や対象ガスが複数にわたるときなどは、選択透過層とガス吸着層をそれぞれ必要数選定し重ね合わせて使用することは有効な手段である。
【0036】
選択透過層とガス吸着層の積層順序としては、ガス吸着層の寿命を考えると、衣服の内側から見てガス吸着層の外側に少なくとも1層の選択透過層があることが好ましい。また、選択透過層を複数用いる場合は、ガス吸着層を保護するために、選択透過層によりガス吸着層を挟み込む構造としてもよい。
【0037】
選択透過層とガス吸着層からなる積層体の質量としては、200g/m2以下が好ましく、さらに好ましくは100g/m2以下が好ましい。200g/m2を超えると着用者への負荷が大きくなり、体から発散される汗・蒸気を透湿性だけでは処理できなくなる。
【0038】
図1に示すように選択透過層とガス吸着層からなる積層材料の最も外側に外層付加層を設けてもよい。外層付加層の目的としては、外部から与えられる機械的な力から選択透過層およびガス吸着層を保護すること、機械的強度を補うことであり、撥水性と撥油性が付与されている織物、編物あるいは不織布などが好ましい。
外層付加層としては、JIS L 1092に記載の5.2スプレー試験を実施した場合の撥水度が4以上、AATCC Test Method 118による撥油度が4級以上である織物、編物、または不織布などが好適に用いることができるが、柔軟性を考慮したものの使用が推奨される。
【0039】
選択透過層とガス吸着層からなる積層材料と外層付加層とは、あらかじめ接着剤により接着されている形態でもよいし、柔軟性を考慮し、接着せずに重ね合わせた状態で縫製加工し、衣服を作製してもよい。
【0040】
図1に示すように選択透過層とガス吸着層からなる積層材料の最も内側に内層付加層を設けてもよい。内層付加層としては、織物、編物、不織布、開孔フィルム等の材料があげられるが、透湿性、柔軟性の面から粗い密度で製織あるいは製編された織物あるいは編物が好ましい。
内層付加層の目的としては、外部から与えられる機械的な力からガス吸着性物質及び選択透過層を保護する役割と、防護衣着用者の汗によるべたつき感を抑制する役割である。
【0041】
外層付加層および/また内層付加層を付与した積層体の質量としては、400g/m2以下が好ましく、さらに好ましくは350g/m2以下である。400g/m2を超えると防護衣服の質量が大きくなり熱ストレスの原因となる。
【実施例】
【0042】
次に実施例および比較例を用いて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって制限されるものではない。尚、実施例に記載の評価は以下に記す方法による。
【0043】
ガス透過性試験:試験に用いる容器図を図2に示す。内容積150ccの2つのガラス セルで試験品を挟み込み、周囲をパラフィンにより密閉する。この試験容器の上方セル から酢酸3メトキシブチルを20μL、試験品上に滴下する。これを25±2℃に設定 した恒温ボックスに入れ、下方セル側のガス濃度を一定時間ごとにサンプリングし、ガ スクロマトグラフィにより試験片を透過したガス濃度を測定する。
【0044】
透湿性:JIS L 1099 酢酸カリウム法(B−1法)による。
【0045】
比表面積:窒素の吸着等温線を求め、これを基にしてBET法により算出する。
【0046】
質量:JIS L 1018 8.4及びJIS L 1096 8.4による。
【0047】
厚さ:JIS L 1018 8.5及びJIS L 1096 8.5による。
【0048】
メルトインデックス:JIS K 7210による。
【0049】
通気性:JIS L 1018 8.33及びJIS L 1096 8.4による。
【0050】
剛軟度:JIS L 1096 8.27による。
【0051】
着用感:ワンピース型の防護衣服を着用し、32℃70%RHの恒温恒湿室において、 10分間、速度5km/hでトレッドミル上を歩行した後の心拍数、血圧、皮膚温、直 腸温、衣服内温湿度の測定およびアンケート調査からの総合評価。
【0052】
(選択透過層の製造例)
選択透過層を以下の方法で作製した。酢化度55%、6%粘度70×10-3Pa・Sの酢酸セルロース(ダイセル化学工業(株)L−30)を使用し、溶媒はメチルエチルケトンとN、Nジメチルホルムアミドの1:1混合溶液を使用し、固形分濃度が10wt%となるように室温で混合撹拌することにより酢酸セルロース溶液を作製した。この溶液を離型紙(リンテック(株)製)上に流延し、コーティングナイフにより膜厚を調節しながら塗工し、オーブン中で乾燥を行った。70℃で1分間乾燥させた後、120℃で2分間乾燥を行った。得られた選択透過層の厚さは20μm、質量20g/m2、透湿度1060g/m2・hであった。
【0053】
(ガス吸着層の製造例)
ガス吸着層として繊維状活性炭織物を以下の方法で作製した。単糸2.2デシテックス20番手のノボラック系フェノール樹脂繊維紡績糸からなる質量85g/m2の平織物を410℃の不活性雰囲気中で30分間加熱し、次に870℃まで20分間、不活性雰囲気中で加熱し炭化を進行させ、次に水蒸気を12容量%含有する雰囲気中、870℃の温度で2時間賦活した。得られた織物状の繊維状活性炭の質量は、50g/m2、比表面積1400m2/g、厚さ0.40mm、通気性は水位計1.27cmの圧力差で470cm3/cm2・sであった。
【0054】
(外層付加層の製造例)
外層付加層を以下の方法で作製した。綿糸40番手を使った平織物に、フッ素系撥水・撥油加工を施し、樹脂固形分で0.54wt%付着した。得られた織物は、厚さ0.22mm、質量120g/m2、剛軟度0.56gf・cmで、通気性は水位計1.27cmの圧力差で50cm3/cm2・s、撥水度は5、撥油度は6級であった。
【0055】
(内層付加層の製造例)
内層付加層を以下の方法で作製した。28ゲージ2枚筬トリコット機により、フロント筬にポリエステルフィラメント(82.5dtex、36フィラメント)を、またバック筬にポリエステルフィラメント(22dtex、モノフィラメント)を各々セットして、フロント1−2/1−0、バック1−0/2−3の組織で経編地を編成後、定法により精練し、更に分散染料により染色した。このようにして得られた編地は、厚さ0.28mm、質量60g/m2、通気性は水位計1.27cmの圧力差で700cm3/cm2・s、撥水度5、撥油度6級であった。
【0056】
(実施例1)
前記選択透過層とガス吸着層を、質量20g/m2、メルトインデックス60g/10minの通気性不織布状ホットメルト接着剤(呉羽テック(株)製ダイナック)により接着後、外層付加層と内層付加層をホットメルトタイプのウレタン接着剤を使用し点接着により積層した。得られた防護材料は、質量284g/m2、厚さ1.00mmであった。この防護材料を用いたガス透過性試験結果を表1に示す。
【0057】
(比較例1)
実施例1においてガス吸着層を除いた防護材料を作製した。得られた防護材料は質量214g/m2、厚さ0.70mmであった。この防護材料を用いたガス透過性試験結果を表1に示す。
【0058】
(比較例2)
実施例1と同様の処方により膜厚が110μmである選択透過層を作製し、透湿度は、250g/m2・hであった。得られた防護材料は、質量374g/m2、厚さ1.02mmであった。この防護材料を用いたガス透過性試験結果を表1に示す。
【0059】
(比較例3)
実施例1における選択透過膜層と繊維状活性炭層の接着を、メルトインデックス120g/10minのウレタン樹脂により点接着した。質量304g/m2、厚さ1.03mmであった。この防護材料を用いたガス透過性試験結果を表1に示す。
【0060】
【表1】

【0061】
【表2】

【0062】
実施例1は、ガス透過抑制能および着用感に優れ好適な防護材料であるのに対し、比較例1は時間の経過と共にガスの透過が生じ十分な防護性が得られない。比較例2については、選択透過層の透湿度が低く着用感が損なわれ、比較例3については、活性炭の吸着能の低下により微量なガス透過を抑制できない結果となった。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の防護材料及び防護衣服は、選択透過膜層とガス吸着層を積層することにより、選択透過層を透過した微量なガス状有機化学物質をガス吸着層により吸着除去できるとともに、さらに軽量で柔軟で着用感に優れた防護材料に関するものであり、防護衣服、農業用資材、防護テント、メディカル用品などに利用することができ、産業界に寄与することが大である。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の積層体とした防護材料を示した断面図
【図2】ガス透過性試験法に用いる試験容器を示した概略図
【符号の説明】
【0065】
1:外層付加層
2:選択透過層
3:ガス吸着層
4:内層付加層
5:上方セル(150cc)
6:サンプリング口
7:試験液
8:試験品
9:パラフィンシーリング
10:下方セル(150cc)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記選択透過層とガス吸着性物質を含む層(ガス吸着層)をそれぞれ少なくとも1層以上有し、かつ衣服の内側から見てガス吸着層の外側には少なくとも1層以上の選択透過層が配置されていることを特徴とする防護材料。
選択透過層:ガス状有機化学物質に対して透過抑制能があり、JIS L 1099 酢酸カリウム法(B−1法)による透湿度300g/m2・h以上16000g/m2・h以下である。
【請求項2】
選択透過層とガス吸着層からなる積層体の目付けが200g/m2以下であることを特徴とする請求項1に記載の防護材料。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の防護材料からなることを特徴とする防護衣服。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−83584(P2007−83584A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−275834(P2005−275834)
【出願日】平成17年9月22日(2005.9.22)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】