説明

防護柵における矢板の固定具

【課題】 矢板60を腹起し80bへ固定して防護柵70を構成する際に、該矢板60と腹起し80bとを溶接することなく強固に固定することのできる固定具1を提供する。
【解決手段】
本発明の固定具1は、腹起しに係止される係止体31と、該係止体31を有する連結部3とを備え、前記二枚の矢板60,60の隣接する二つの継ぎ手63,63を前記矢板60の腹起し80bに当接する面とは反対側の面より嵌合可能な凹部21を有する嵌合体2を、前記連結部3に進退自在に固定して成る。
前記嵌合体2は、凹部21と連結し該凹部側から前記連結部3側へと突出する突出部材41を備えると共に、前記連結部3に該突出部材41を挿入可能な連結孔33を備え、前記連結孔33に挿入された前記突出部材41を前記連結部3に対して所定の挿入長さで固定可能とすることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば建築現場を囲う壁、土留め、山留め、その他の壁・柵等(本願においてこれらを総称して「防護柵」という)を鋼矢板等の矢板を使用して構成する際に、この矢板を支持する横架材(本願において「腹起し」という)に固定するための固定具に関する。
【背景技術】
【0002】
建築現場を囲う壁、土留め、山留め、その他の防護柵を構成するに際しては、矢板が広く使用されている。
【0003】
この矢板60は、一般にその長さ方向を成す二辺に継ぎ手63,63が設けられており、例えば図8に示すように、同一形状の継ぎ手63,63が幅方向の両端に形成された矢板60を交互に逆向きとなるよう幅方向に複数枚配置し、隣接する矢板60,60の前記継ぎ手63,63を嵌合して前記矢板60,60同士を連結可能とした鋼矢板60や、図9に示すように、長さ方向の一辺に形成された継ぎ手63と、他辺の継ぎ手63’とを逆形状と成し、隣接する矢板60,60を交互に逆方向に配置することなく全て同一方向に配置し得るよう構成された鋼矢板60がある(特許文献1参照)。
【0004】
この発明の先行技術文献情報としては次のものがある。
【特許文献1】特開2003−90020号公報(第5頁、図3及び図7)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述のような鋼矢板60は、一般には地面に打設して使用するものであるが、このような鋼矢板60により構成される防護柵70が道路脇や住宅地等の建築物近くに設置する必要がある場合には、前記鋼矢板60を直接地面に打設することができず、地面に穴を開けて立設したH型鋼等の支柱80aと、この支柱80aを水平方向に掛け渡す腹起し80bとにより支保工80を構成し、この支保工80に鋼矢板60を溶着する等して、鋼矢板60を打設することなく防護柵70を構成している。
【0006】
しかし、図8に示す鋼矢板60はその構造上、隣接する鋼矢板60,60が前述のように交互に逆向きとなるよう配置されるために、腹起し80bにはウェブ61を腹起し80b側に向けて配置された鋼矢板60のみが当接することとなる。
【0007】
そして、この腹起し80bと当接するウェブ61部分において鋼矢板60を腹起し80bに溶着する等して固定しているが、防護柵70に使用する鋼矢板60の半分は、腹起し80bには溶着されないこととなり、強固な防護柵70を得ることができない。
【0008】
また、前述のように隣接する鋼矢板60,60が交互に逆向きとなるため、図8に示す鋼矢板60を使用する場合、鋼矢板60の高さh(ウェブ61と継ぎ手63間の高さ)の倍の設置幅が必要となる。
【0009】
これに対し、図9に示す鋼矢板60を使用する場合には、隣接する鋼矢板60,60を交互に逆方向に配置することなく全て同一方向に配置することが可能であり、鋼矢板60の設置幅も図8のものに比べて少なくて済む。
【0010】
しかし、この構造の鋼矢板60にあっては、その向きを適切に配置しなければ隣接する鋼矢板60,60間を連結することができないために、防護柵70の組み立てに際して鋼矢板60を配置する向きには細心の注意が必要である。
【0011】
また、前述のように構成された従来の防護柵70にあっては、いずれも腹起し80bに対して鋼矢板60を溶着等して直接固着しているために設置作業に多大な労力と時間を費やすだけでなく、解体、撤去に際しても多大な労力と時間を必要とする。
【0012】
その一方で、解体作業を容易とするために腹起し80bと鋼矢板60間の溶接を簡易なものとする場合、両者間の固定強度が低下して、防護柵70の倒壊等の事故の原因ともなりかねない。
【0013】
さらに、腹起し80bと鋼矢板60とは直接溶着されているために、解体された鋼矢板60や腹起し80bとして使用されたH型鋼には溶接ビードが残るが、この溶接ビードは、H型鋼や鋼矢板60を再度防護柵70の材料として使用する際の障害となることから、解体作業後にH型鋼や鋼矢板60に残ったこれらの溶接ビードを例えばグラインダ等により除去しておく作業が必要であり、煩雑である。
【0014】
本発明は、上記従来技術の欠点を解消するためになされたものであり、図8に示すような、長さ方向の二辺に共通の形状の継ぎ手63,63が形成された鋼矢板60を使用する場合においても、鋼矢板60の向きを一定の方向として配置することができると共に、隣接する鋼矢板60,60間を幅方向に連結することができ、溶接に代わり鋼矢板60,60を防護柵に強固に固定することのできる固定具1を提供することにより、防護柵70の設置、解体作業を容易と成すと共に、解体後に鋼矢板60や腹起し80bに付着した溶接ビードを除去する等の煩雑な作業を省略可能と成すことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するために、本発明の固定具1は、
例えば、地面に対して垂直方向に立設されたH型鋼等から成る複数本の支柱80aと、前記支柱80aに対して直交方向に配置され前記支柱80a間を連結するH型鋼等の腹起し80bから成る支保工80に、長さ方向の二辺に継ぎ手63,63が形成された鋼矢板等の矢板60を、幅方向に複数枚配置して固定して成る防護柵70において、
所定の間隔を介して隣接配置された二枚の前記矢板60,60間を連結すると共に、前記矢板60の幅方向に配置される腹起し80bへ前記矢板60を当接して固定するための固定具1であって、
前記腹起し80bの例えばフランジ84に係止される係止体31と、
該係止体31を有する連結部3とを備え、
前記二枚の矢板60,60の隣接する二つの継ぎ手63,63を前記矢板60の腹起し80bに当接する面とは反対側の面より嵌合可能な凹部21を有する嵌合体2を、前記連結部3に進退自在に固定して成ることを特徴とする(請求項1)。
【0016】
本発明の固定具1は、前記嵌合体2が、前記凹部21と連結して該凹部21側から前記連結部3側へと突出するボルト等の突出部材41を備えると共に、前記連結部3が該突出部材41を挿入可能な連結孔33を備え、
前記連結孔33に挿入した前記突出部材41を前記連結部3に対して所定の挿入長さで固定可能に構成することができる(請求項2)。
【0017】
前記突出部材41と前記嵌合体2の凹部21との連結は、例えば、前記突出部材41を前記凹部21へ直接固着するほか、前記凹部21に、該凹部21と嵌合する前記矢板60,60の継ぎ手63,63間に挿入される固定片27を設け、該固定片27と前記突出部材41とを固着することによって行なうことができる。このように、前記突出部材41が前記嵌合体2の凹部21に対して直接乃至は間接的に固着されて連結されている場合には、前記突出部材41を前記連結部3の連結孔33へ所定の長さ挿入し、例えば、前記突出部材41の挿入方向先端側にて該突出部材41をナット42等と螺合して、前記突出部材41と前記連結部3を固定することができ、これによって前記突出部材41と連結する前記嵌合体2と、前記連結部3とが相対的に位置決めされて連結固定される。
【0018】
さらに、本発明の固定具1は、前記係止体31が、前記腹起し80bの前記矢板60との当接面とは反対面側に配置される係止片31aと、前記腹起し80bの前記矢板60との当接面側に配置される挟持片31bとを備え、前記係止片31aと前記挟持片31bとの間に前記腹起し80bを挿入可能としたものとしてもよい(請求項3)。
【0019】
このように、係止片31a及び挟持片31bを有する固定具1にあっては、
前記係止片31aに、該係止片31aから前記挟持片31bに向かって突出し、該係止片31a内で螺合して固定される挟持用ボルト等の挟持部材46を備え、前記係止片31aと前記挟持片31bとの間に挿入された前記腹起し80bを、前記挟持部材46の先端と前記挟持片31bとの間で挟持可能とすることが好ましい(請求項4)。
【0020】
また、本発明の固定具1は、前記嵌合体2が、前記矢板60への取付時において前記矢板60の幅方向と平行を成す凸条22又は凹溝を有することが好ましい(請求項5)。
【発明の効果】
【0021】
上述の構成を有する本発明の固定具1によれば、鋼矢板60を連結する嵌合体2と、腹起し80bに係止される係止体31を備えた連結部3とを相対的に位置決めして連結することによって、前記鋼矢板60と前記腹起し80bとを溶接等することなく強固に固定することができ、強度の高い防護柵70を構成することができる。
【0022】
また、前記嵌合体2と前記連結部3との連結は、例えば前記嵌合体2と連結するボルト等の突出部材41にナット42等を螺合することによって行なうことができるため、鋼矢板60と腹起し80bとの固定が簡単に行なえ、防護柵70の組み立て作業が容易であるほか、該ナット42等を緩めることによって前記鋼矢板60と腹起し80bの固定を簡単に解くことができ、解体作業も極めて容易に行なうことができる。
【0023】
また、前記腹起し80bと鋼矢板60とを溶接により固定した場合のように、解体後の鋼矢板60や腹起し80bに溶接ビードが残ることがなく、これをグラインダで削り取る等の面倒な作業を必要としない。したがって、解体後の作業を簡略化することができ、該鋼矢板60及び腹起し80bを複数回にわたって好適に使用することができる。また、本発明の固定具1自体も繰り返し使用することができる。そのため、防護柵70の組み立て、解体における労力やコストを大幅に低減することができる。
【0024】
また、防護柵70に使用する鋼矢板60についても、防護柵70の構成に際して隣接する鋼矢板の継ぎ手を相互に嵌合するという煩雑な作業を経る必要がなく、これらの鋼矢板60の継ぎ手63を本発明の固定具1の嵌合体2に嵌合することによって鋼矢板60,60を強固に連結することができる。
【0025】
したがって、図9に示すような、幅方向の両端に相互に逆形状を成す継ぎ手63,63を有する鋼矢板60を使用することなく、図8に示すような、幅方向の両端に共通の形状の継ぎ手63,63が形成された鋼矢板60を使用する場合においても、鋼矢板60の向きを逆向きとすることなく一定の方向に配置することができ、これらの鋼矢板60,60を幅方向に強固に連結して防護柵70を構成することができる。
【0026】
また、本発明の固定具1が係止片31aと挟持片31bとを有する場合には、該係止片31aと挟持片31bとの間に形成された間隙に腹起し80bを挿入することにより前記腹起し80bとの係止状態を良好に維持することができ、さらに、前記係止片31aに挟持用ボルト等の挟持部材46を備え、前記間隙において腹起し80bを挟持する構成としている場合には、前記腹起し80bに対して固定具1の連結部3が強固に係止された状態とすることができるため、該腹起し80bと鋼矢板60との固定も強固なものとすることができる。
【0027】
さらに、前記嵌合体2を前記連結部3に対して位置決めするための突出部材41を凹部21側に設けることにより、前記嵌合体2の前記凹部21に継ぎ手63,63が嵌合された前記矢板60,60を前記腹起し80bへ当接して固定する作業を、前記腹起し80b側から行なうことができる。したがって、前記固定具1が前記腹起し80bを挟持する挟持部材46を有する場合には、前記腹起し80b側から前記突出部材41及び挟持部材46を螺合することとなり、螺合の作業を同一方向にて行なうことができるため、作業が容易となる。
【0028】
また、前記嵌合体2に、該嵌合体2を鋼矢板60の継ぎ手63と嵌合させた状態において前記鋼矢板60の幅方向と略平行を成す凸条22又は凹溝を設けることにより、該嵌合体2の強度を向上させることができ、鋼矢板60の固定状態を強固なまま維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
本発明の固定具1は、例えば図6(A)及び図6(B)に示すような幅方向の両端に鍵状に曲折して形成された継ぎ手63,63を有する鋼矢板60を、地面に対して垂直方向に複数本立設されたH型鋼等の支柱80aと前記支柱80aに対して直交方向に固設され前記支柱80a間を連結するH型鋼等の腹起し80bから成る支保工80に連結して防護柵70を構成する際に、長さ方向を高さ方向として所定間隔で並べられた前記鋼矢板60の継ぎ手63,63間を連結すると共に、この継ぎ手63,63を前記腹起し80bに係止して前記鋼矢板60と前記腹起し80bとを当接状態で固定するためのものである。
【0030】
〔固定具〕
前記固定具1は、図1〜図3に示すように、隣接して配置された鋼矢板60,60の継ぎ手63,63をその凹部21内に嵌合して該鋼矢板60,60間を連結する嵌合体2が、前記腹起し80bに係止される係止体31を備えた連結部3に進退自在に固定されて成り、これによって前記嵌合体2に嵌合された鋼矢板60,60と前記連結部の係止体31が係止された腹起し80bとが当接して連結固定されるよう構成されている。
【0031】
(1)嵌合体
嵌合体2は、隣接して配置された鋼矢板60,60を連結すると共に、後述する連結部3の係止体31が係止された腹起し80b側へと移動して、連結された前記鋼矢板60,60を前記腹起しに圧接するもので、鋼矢板60,60の継ぎ手63,63を嵌合するための凹部21が形成されているほか、後述の突出部材41と連結しており、該突出部材41によって腹起し80bに係止された連結部3へ近付けられて、該連結部3と相対的に位置決めされる。
【0032】
本実施形態において、嵌合部2は、図1〜図3に示すように、取付時において前記腹起し80bと略平行を成す略矩形状の基部2aと、この基部2aの幅方向、すなわち前記矢板60への取付時において前記矢板60の幅方向と平行を成す方向の両端において曲折し、鋼矢板60,60の継ぎ手63,63部分が嵌合される凹部21を形成する抱持片2b,2cとを備える。
【0033】
前記嵌合体2は、その幅方向に、強度を向上させるための凸条22又は凹溝を例えば圧印加工等によって形成されていることが好ましく、本実施形態にあっては、前記嵌合体2の前記凹部21形成面とは反対の面に、一方の前記抱持片2bから前記基部2aを通じて他方の前記抱持片2cに至る2本の平行な凸条22が形成されている。なお、前記凸条22又は凹溝は、前記嵌合体2の強度を向上させることができるものであれば、その高さ(深さ)、幅、本数、形成方法等は特に限定されず、また、前記嵌合体2の全体でなく一部に形成されているものであってもよい。
【0034】
また、前記嵌合体2の形状は、隣接する鋼矢板60,60の継ぎ手63,63を同時に嵌合し得る形状であれば、図1〜図3に示す形状に限定されず各種形状を採ることができ、例えば、平面において半円弧状を成す縦割れ円筒状(図4の(A))や、平面において幅方向中央で曲折された略L字状(図4の(B))であっても良い。
【0035】
このほか、本実施形態にあっては、前記基部2aの幅方向両端に前記抱持片2b,2cのみを有する構成としたが、これにさらに、前記基部2aの高さ方向を成す両端において前述の抱持片2b,2cよりも短い長さで曲折し、凹部21内に嵌合された継ぎ手63,63の頂の部分を押圧する押圧片を有する構成としてもよい。
【0036】
(2)突出部材
突出部材41は前記嵌合体2を後述する連結部3に近付け、前記嵌合体2と嵌合した前記鋼矢板60,60を該嵌合体2と共に連結部3の係止されている腹起し80b方向へ移動させるためのもので、前記嵌合体2に連結していると共に、連結部3に対して所定の挿入長さで固定可能に構成されて成る。
【0037】
前記突出部材41は、例えば、前記嵌合体2の前記凹部21に連結され、該凹部21から腹起し80b配置側へと突出するボルト等の棒状部材とすることができる。
【0038】
図1〜3に示す実施形態にあっては、前記嵌合体2を構成する前記基部2aの凹部21を形成する面の幅方向中央に、該凹部21と嵌合する前記矢板60,60の継ぎ手63,63間へ挿入される薄板状の固定片27を、前記基部2aに対して直交方向を成すよう固設し、突出部材であるボルト41を、前記固定片27延長上に配置される状態で該固定片27へ溶着等により固着して、前記ボルト41と前記嵌合体2とを連結させている。
【0039】
前記突出部材であるボルト41と前記嵌合体2との連結は、前述のように固定片27を介して間接的に固着する場合のほか、該ボルト41を前記嵌合体2の前記凹部21へ直接固着することによって行うこともできる。また、例えば、図5に示すように、前記ボルト41の先端部近傍に括れを形成すると共に、前記嵌合体の前記基部2aの凹部21形成面にソケット48を設け、前記ボルト41の括れよりも先端の部分47を該ソケット48により抱持することによって、前記ボルト41を前記嵌合体2に対して回転自在に連結することとしてもよい。
【0040】
このように前記嵌合体2に連結された突出部材41は、後述する連結部3の有する連結孔33へと挿入され、所定の挿入長さで螺合により固定される。
【0041】
(3)連結部
連結部3は、腹起し80bに係止されると共に、前記嵌合体2と所定の間隔を介して固定されて、前記嵌合体2と嵌合する前記鋼矢板60,60を前記腹起し80bへ当接させて該鋼矢板60,60と腹起し80bとを連結固定するものであり、前記腹起し80bに係止される係止体31を有するほか、前記嵌合体2を所定間隔で連結固定するための構成として、本実施形態にあっては、前記嵌合体2と連結した前記突出部材41を挿入可能な連結孔33を有し、該連結孔33に挿入された前記突出部材41を所定の挿入位置で固定して前記連結部3と前記嵌合体2とを位置決めするべく、位置決め手段として前記突出部材41と螺合するナット42を備える。また、図1において連結部3は、係止体31の上方に作業者が該連結部3を把持しやすいよう、凹部から成る把持部38を有している。
【0042】
(3−1)係止体
前記係止体31は、前記嵌合体2と嵌合する前記鋼矢板60,60を支持するための腹起し80bへと係止されるもので、図1〜図3に示す実施形態にあっては、前記腹起し80bに係止された状態で、前記腹起し80bの前記鋼矢板60との当接面とは反対面側に配置される係止片31aと、前記腹起し80bの前記鋼矢板60との当接面側に配置される挟持片31bとを備えている。
【0043】
前記係止片31aと前記挟持片31bとは、前記腹起し80bを挿入可能な間隙32を介して該腹起し80bと直交する方向に一体的に形成され、全体として下向きに開口する略コの字状を成しており、腹起し80bであるH型鋼のフランジ84が、前記係止片31aと前記挟持片31b間の間隙に挿入されることによって、前記係止体31が前記腹起し80bに係止されるよう構成されている。
【0044】
また、本実施形態の前記係止体31は、腹起し80bのフランジ84に単に係止されるのみならず、該フランジ84を挟持して強固な係止状態を維持すべく、前記係止片31a内を挿通し、該係止片31aから前記挟持片31bに向かって突出する挟持部材46として挟持用ボルトを備えている。図1において34は前記係止片31aに設けられ、前記挟持用ボルト46を挿通させるための挿通孔であり、前記挿通孔34の内周には、前記挟持用ボルト46と螺合する雌ネジを形成し、前記挟持用ボルト46を前記挿通孔34の雌ネジと螺合させて前記係止片31aに固定することとしている。
【0045】
そのため、前記係止片31aから突出する挟持用ボルト46を締め付けると、前記係止片31aと前記挟持片31bとの間に挿入された前記腹起し80bが、前記挟持用ボルト46に押圧されて前記挟持片31bと当接し、前記挟持用ボルト46の先端と前記挟持片31bとの間で挟持される。
【0046】
なお、本実施形態にあっては、前記係止体31は係止片31a及び挟持片31bを備え、前記係止片31a、挟持片31b間に腹起し80bを挿入して前記係止体31が前記腹起し80bに係止されるよう構成しているが、前記腹起し80bに好適に係止され、前記嵌合体2と所定間隔で固定された際に、前記腹起し80bが前記嵌合体2に嵌合する前記鋼矢板60と所望の当接状態で連結固定されるものであれば、前記係止体31の形態はこれに限定されるものでなく、前記挟持片31bを有さずに前記係止片31aのみを有し、例えば該係止片31aが腹H型鋼である腹起し80bのウェブ82と当接した状態で前記腹起し80bのフランジ84に係止されるよう構成すること等も可能である。
【0047】
また、前記係止片31aと前記挟持片31bを備える係止体31でも前記挟持用ボルトのような挟持部材46及び該挟持部材46の挿通孔34を必ずしも設ける必要はなく、これらを備えていない構成とすることもできる。この場合には、例えば板状の金属体に、H型鋼80bのフランジ84を挿入可能な幅を成す略矩形状の切欠32を設けて、前記係止片31a及び挟持片31bを形成するものとしても良い。
【0048】
(3−2)連結孔
前記連結部3は、前記係止体31が係止された前記腹起し80bと、前記嵌合体2に嵌合した鋼矢板60,60とを連結固定すべく、前記嵌合体2と連結する前記突出部材41を挿入可能な連結孔33を有しており、該連結孔33に前記突出部材41を挿入し、前記連結部3を前記突出部材41上で移動させることによって前記嵌合体2と前記連結部3の相対位置を変化させ、前記嵌合体2が前記連結部3に対して進退自在となるよう構成している。
【0049】
また、前記連結孔33に挿入された前記突出部材41を所定の挿入長さで前記連結部3に固定することによって、前記嵌合体2と前記連結部3とを相対的に位置決めして連結固定することができる。
【0050】
図1〜3に示す実施形態にあっては、前記連結部3のうち、前記係止体31の前記係止片31a寄りの上方が立ち上がって凸部36が形成されており、この凸部36に、前記突出部材41を挿入可能な連結孔33が前記係止片31aと挟持片31bによる前記腹起し80bの挟持方向と略平行に設けられている。
【0051】
(3−3)位置決め手段
前記連結部3の連結孔33に挿入された前記突出部材41を所定の挿入長さで固定し、前記嵌合体2と前記連結部3とを位置決めする位置決め手段としては、前記突出部材であるボルト41に螺合するナット42を挙げることができる。
【0052】
前記ナット42を、前記ボルト41の挿入方向先端側にて螺合して固定することにより、前記嵌合体2と連結部3とが相対的に位置決めされ、前記嵌合体2が前記連結部3から離間する方向へ移動することを規制できるため、前記嵌合体2と嵌合した前記鋼矢板60と前記連結部3の係止体31が係止された前記腹起し80bとを当接させた状態で強固に連結させることができ、さらにその連結状態を好適に維持することができる。
【0053】
これにより、前記嵌合体2と前記連結部3とを所定の位置で連結固定することができる。
【0054】
前記位置決め手段は、前述のボルト41に螺合されて、ボルト41上を移動する前記連結部3を所定位置で固定することが可能なものであれば、その構成は特に限定されず、例えば、工具等を使用することなく前記ボルト41に螺合できるよう、前記ナット42に回転用のハンドル等が固着されたものを使用してもよい。
【0055】
また、前記ボルト41が前記嵌合体2に対して回転自在に連結されているような場合には、前記連結孔33の内周に前記ボルト41と螺合する雌ネジを形成して、該雌ネジを前記ボルト41と螺合させることにより位置決めを行なうことができる。この場合には、前記ボルト41の前記嵌合体2との連結側とは反対側の端部又は該ボルト41の外周に締結用孔49を形成し、この締結用孔49内に金属棒等から成る締付工具を挿入して回転させることによって前記ボルト41と前記連結孔33とを螺合可能とするよう構成しても良い。
【0056】
〔取付例〕
以上のように構成された本発明の固定具1により鋼矢板60,60を固定する方法について説明する。
【0057】
先ず、防護柵70を構成する位置に、例えばウェブ82の両端にフランジ84,84を備えたH型鋼80a,80b等を用いて支保工80を構成する(図7参照)。該支保工80は、支柱80aと、この支柱80aに対して直交方向に交叉して配置された腹起し80bから成り、前記支柱80aと前記腹起し80bとは、お互いのフランジ面を接触させ、該接触部分が固着されて組み合わされている。
【0058】
次に、鋼矢板60を、その長さ方向を高さ方向として前記腹起し80bへと係止する。前記鋼矢板60は、前記腹起し80bの前記支柱80aとの接触面とは反対のフランジ面に取り付けられる。
【0059】
前記鋼矢板60としては、その幅方向の両端が鈎状に曲折されて継ぎ手63が形成されたものを使用し、図2に示す実施形態にあっては図6(B)に示す所謂「軽量鋼矢板」を使用しているが、ウェブ61の幅方向の両端にフランジ62,62が形成され、このフランジ62,62の端部を鈎状に曲折して形成された継ぎ手63,63を備えたものであれば、図6(A)に示す、所謂「U型鋼矢板」、その他の各種の鋼矢板60を使用することができる。
【0060】
前記鋼矢板60を前記腹起し80bに対して当接配置する向きは、図7(A)に示すように、鋼矢板60のウェブ61が腹起し80b(腹起し80bのフランジ84)に接するように配置しても良いが、図7(B)に示すように、鋼矢板60の継ぎ手63部分が腹起し80bと接触するように配置しても良く、いずれかの向きで幅方向に複数の鋼矢板60が並べて配置される。
【0061】
隣接する前記鋼矢板60,60間には、前述の固定具1の挟持片31b、及び、固定片27を挿入可能な所定の間隙が設けられており、本発明の固定具1は、該鋼矢板60,60間の間隙に前記挟持片31b及び固定片27が配置されるよう取り付けられる。
【0062】
前記挟持片31bは、該挟持片31bを備える連結部3の係止体31を前記腹起し80bのフランジ84に係止させることによって前記鋼矢板60,60間の隙間に配置される。
【0063】
鋼矢板60,60間に固定具1の連結部3の挟持片31bを配置する方法としては、例えば、挟持片31bと向かい合う係止片31aに挿通孔34とこれに螺合される挟持用ボルト46が設けられている場合には、この挟持用ボルト46と挟持片31b間で前記腹起し80bのフランジ84を挟持して、予め腹起し80bに連結部3を取り付けておき、この連結部3の取り付け位置を中心としてその両側に鋼矢板60,60を配置することにより行っても良く、又は、予め所定間隔を介して配置された2枚の鋼矢板60,60間の間隔に、例えば支柱80aの配置側から前記連結部3を挿入し、その後前記連結部3の係止体31を前記腹起し80bのフランジ84に係止することにより行っても良い。
【0064】
前記腹起し80bに当接する前記鋼矢板60,60は、前記固定具1の嵌合体2に所定の間隙を介して幅方向に配置された二枚の前記鋼矢板60,60の隣接する継ぎ手63,63を嵌合することよって連結される(図2参照)。この際、前記嵌合体2の凹部21に固設された固定板27は、該凹部21に嵌合された前記鋼矢板60,60間の所定の間隙に挿入配置される。
【0065】
その後、前記鋼矢板60,60を連結した前記嵌合体2を、前記腹起し80bに係止された前記連結部3と連結させることによって、前記鋼矢板60を前記腹起し80bへと固定する。
【0066】
前記嵌合体2と前記連結部3との連結は、前記連結部3に設けられた連結孔33に前記嵌合体2と連結するボルト41を挿入し、該ボルト41の挿入方向先端側にてナット42を螺合して行なうことができる。
【0067】
前記ナット42の締め付けにより、前記連結部3に対する前記ボルト41の挿入長さが変化して該ボルト41に連結する前記嵌合体2が腹起し80b側へと移動し、前記ボルト41上に位置する前記連結部3と、前記嵌合体2との相対的な距離が縮まる。この際、前記嵌合体2が前記鋼矢板60,60を前記腹起し80bに押圧するので、鋼矢板60,60が腹起し80bに固定される。
【0068】
このように、本発明の固定具1により鋼矢板60を長さ方向の複数箇所において腹起し80bに対して固定すると、鋼矢板60は腹起し80bに強固に固定されて支柱80a、腹起し80b、鋼矢板60とが組み合わされた防護柵70が構成される。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明の固定具1の正面図。
【図2】本発明の固定具1の使用状態(鋼矢板60及び腹起し80bとの連結状態)を示す平面図。
【図3】本発明の固定具1の側面図。
【図4】本発明の嵌合体2の変形例を示す図。(A)は縦割れ円筒状、(B)は平面L字状のもの。
【図5】本発明の他の実施形態の固定具1の正面図。
【図6】鋼矢板60の説明図。(A)はU型鋼矢板、(B)は軽量鋼矢板。
【図7】本発明の固定具1を取り付ける前の防護柵70の平面図及び拡大図。(A)は鋼矢板60のウェブ61部分を腹起し80bへ当接させた場合、(B)は鋼矢板60の継ぎ手63部分を腹起し80bへ当接させた場合。
【図8】従来の防護柵70の組み立て例を示す図。
【図9】非対称形状の継ぎ手63,63’を有する鋼矢板60を示す図。
【符号の説明】
【0070】
1 固定具
2 嵌合体
2a 基部
2b,2c 抱持片
21 凹部
22 凸条
27 固定片
3 連結部
31 係止体
31a 係止片
31b 挟持片
32 間隙
33 連結孔(突出部材41挿入用)
34 挿通孔(挟持用部材46挿入用)
36 凸部(連結部3の)
38 把持部
41 突出部材(ボルト)
41’突出部材の括れより先端の部分
42 ナット(位置決め手段)
46 挟持用部材(挟持用ボルト)
48 ソケット
49 締結用孔(ボルト41に設けた)
60 矢板(鋼矢板)
61 ウェブ(鋼矢板の)
62 フランジ(鋼矢板の)
63 継ぎ手
70 防護柵
80 支保工
80a 支柱(H型鋼)
80b 腹起し(H型鋼)
82 ウェブ(H型鋼の)
84 フランジ(H型鋼の)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長さ方向の二辺に継ぎ手が形成された矢板を、幅方向に複数枚配置して成る防護柵において、所定の間隔を介して隣接配置された二枚の前記矢板間を連結すると共に、前記矢板の幅方向に配置される腹起しへ前記矢板を当接して固定する固定具であって、
前記腹起しに係止される係止体と、
該係止体を有する連結部とを備え、
前記二枚の矢板の隣接する二つの継ぎ手を前記矢板の腹起しに当接する面とは反対側の面より嵌合可能な凹部を有する嵌合体を、前記連結部に進退自在に固定して成ることを特徴とする防護柵における矢板の固定具。
【請求項2】
前記嵌合体が、前記凹部と連結し該凹部側から前記連結部側へと突出する突出部材を備えると共に、前記連結部に該突出部材を挿入可能な連結孔を備え、
前記連結孔に挿入された前記突出部材を前記連結部に対して所定の挿入長さで固定可能としたことを特徴とする請求項1記載の防護柵における矢板の固定具。
【請求項3】
前記係止体が、前記腹起しの前記矢板との当接面とは反対面側に配置される係止片と、前記腹起しの前記矢板との当接面側に配置される挟持片とを備え、
前記係止片と前記挟持片との間に前記腹起しを挿入可能としたことを特徴とする請求項1又は2項記載の防護柵における矢板の固定具。
【請求項4】
前記係止片に、該係止片から前記挟持片に向かって突出し、該係止片内で螺合して固定される挟持部材を備え、前記係止片と前記挟持片との間に挿入された前記腹起しを、前記挟持部材の先端と前記挟持片との間で挟持可能としたことを特徴とする請求項3記載の防護柵における矢板の固定具。
【請求項5】
前記嵌合体が、前記矢板への取付時において前記矢板の幅方向と平行を成す凸条又は凹溝を有することを特徴とする請求項1〜4いずれか1項記載の防護柵における矢板の固定具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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