説明

防錆添加剤および防錆油組成物、並びに金属材の防錆処理法

【課題】 金属材を水洗等処理する場合において、該水処理後の金属材に付着した水分の除去と防錆処理を1工程で行うことのできる、水切り兼用の防錆添加剤および防錆油組成物を提供すること。
【解決手段】 下記1),2)および3)に規定される成分を含む水切り兼用の防錆添加剤、およびこれを基油に配合した防錆油組成物を開示する。
1)炭素数4〜20の脂肪酸および/または酸化ワックス、
2)炭素数4〜18の脂肪族アミン、
3)炭素数8〜24の飽和または不飽和アルキル基(水酸基を1つ以上有するものを含む)を有する有機リン酸エステルのナトリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、バリウム塩、亜鉛塩、脂肪族アミン塩、および、酸化ワックスのマグネシウム塩、カルシウム塩、バリウム塩、脂肪族アミン塩よりなる群から選ばれる少なくとも1種。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車や電車、船舶などの輸送機械や家庭用電化製品などの外板材などとして使用される鋼板等の鉄鋼部品をはじめとする金属材を水洗等処理する場合において、該水処理後の金属材に付着した水分の除去と防錆処理を1工程で行うことができ、或いは上記の様な金属材を例えば一時的に屋内もしくは屋外に保管する際に、一時的な防錆に有用な防錆添加剤と、該添加剤が配合された防錆油組成物、更にはこれを用いた防錆処理法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、原料鉄や石油系原料の価格が軒並み上昇する中で、各社鉄鋼関連メーカー等におけるコスト削減の要請はあらゆる工程に及んできている。たとえば、鋼板などの金属部品の製造乃至加工工程で水洗を行なった場合などで金属部品の表面に付着した水は、ブロアーによる乾燥や遠心処理、あるいは水切り剤を添加した油浴に浸漬する等によって除去し、その後に防錆油を塗油することで防錆処理を行い、一時保管の際の酸化防止を図っている。ここで、水切りと防錆処理を1工程で行うことができれば、工程数の低減によって大幅なコスト削減が可能になると思われる。
【0003】
しかしその様な着想を実現するには、水切り剤と防錆剤を1つの油浴に混合状態で溜めておくことが必要になるが、それらを混合状態で共存させると個々の性質が低下し、或いは混合液の安定性が低下するなどの問題を生じる。
【0004】
また、上記の様に水切りを兼ねた防錆油浴で金属を処理しようとした場合、前工程から持ち込まれてくる水分の影響で油浴が乳化するなど防錆成分が劣化し、防錆処理能が低下するといった問題が生じてくる。従って、この様な水切りと防錆処理を並行して実施するには、水切りを兼ねた防錆油が優れた水切り性を発揮すると共に、抗乳化性や防錆能においても優れた性能を持続することが必須となる。
【0005】
一般に、日本国内で金属材を屋内保管する際の防錆や工程間の一時防錆に使用される防錆油は、さび止め油に関するJIS K 2246に規定されているNP−3タイプに分類される。該NP−3タイプの防錆油に要求される性能の1つに水置換性があり、これは、金属材の表面に付着している水と置き換わって錆を防ぐ性質であると定義されている。現に、上記JISに規定された水置換性を有するNP−3タイプの防錆油は多数製品化されている。
【0006】
しかし、それら従来の防錆油に水分が付着した金属材を浸漬処理しても、概して親水性の高い金属材の表面で水分が凝集する程度であり、金属材の表面から水分を短時間のうちに離脱除去させる性能(すなわち、水切り性)は十分といえない。
【0007】
例えば特許文献1には、ヒマシ油の酸性リン酸エステルの金属塩やアミン塩を使用したNP−3タイプの防錆油が開示され、高い防錆性を有すると記載されているが、水切り性や抗乳化性に関しては必ずしも満足し得るものとはいえない。
【0008】
この様に、充分な防錆性能を有すると共に水切り性に優れ、且つ抗乳化性が良好で水分と分離し易い性能を兼ね備えた防錆油は、現在のところ見出されていない。
【特許文献1】特開2004−67770号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明はこうした事情に着目してなされたものであって、その目的は、鋼板や鉄鋼部品などの金属材を水洗等で水と接触させる場合、その後の水分除去と防錆処理を1工程で並行実施することができ、JISのNP−3タイプに匹敵する防錆力を発揮しつつ、従来剤では得ることのできない優れた水切り性と抗乳化性を兼ね備えた防錆油組成物を提供し、またその様な防錆油組成物の添加成分となる防錆添加剤を提供し、更には該防錆油組成物を用いた効率のよい金属材の水切りを兼ねた防錆処理法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決することのできた本発明に係る防錆添加剤とは、下記1),2)および3)に規定される成分を含有するところに要旨が存在する。
【0011】
1)炭素数4〜20の脂肪酸および/または酸化ワックス、
2)炭素数4〜18の脂肪族アミン、
3)炭素数8〜24の飽和または不飽和アルキル基(水酸基を1つ以上有するものを含む)を有する有機リン酸エステルのナトリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、バリウム塩、亜鉛塩、脂肪族アミン塩、および、酸化ワックスのマグネシウム塩、カルシウム塩、バリウム塩、脂肪族アミン塩よりなる群から選ばれる少なくとも1種。
【0012】
前記1)で規定される成分の中でも特に好ましいのは、炭素数8〜12の飽和脂肪酸であり、また、前記2)で規定される成分の中でも特に好ましいのはn−オクチルアミンである。
【0013】
更に、上記3)で規定される有機リン酸エステル塩の中でも特に好ましいのは、オレイル基を有する有機リン酸エステルのカルシウム塩、および、オレイルリン酸エステルのN−牛脂アルキル置換トリメチレンジアミン塩であり、上記3)で規定される酸化ワックスの塩の中でも特に好ましいのは、酸化ワックスのマグネシウム塩またはカルシウム塩である。
【0014】
また本発明に係る防錆油組成物は、上述した防錆添加剤を水切り兼用の防錆成分として基油に添加してなるもので、基油としては、鉱油、精製鉱油、合成油などが挙げられる。
【0015】
上記防錆油組成物を得る際の上記防錆添加剤成分の好ましい配合量は、防錆油組成物全体を100質量部としたとき、上記1)で規定される脂肪酸および/または酸化ワックスの含有量が0.2〜10質量部、上記2)で規定される脂肪族アミンの含有量が0.1〜10質量部、上記3)で規定される有機リン酸エステル塩および/または酸化ワックスの塩の含有量が0.05〜10質量部の範囲である。
【0016】
本発明の更に他の構成は、上記防錆油組成物を使用し、金属材の水切りと防錆処理を同時に行うところに要旨が存在する。
【発明の効果】
【0017】
本発明の防錆添加剤は、上記成分1)〜3)を有効成分として含有することで、金属材に対し優れた水切り性と防錆能を有し、これを金属加工油などの基油に適量添加することで、金属材表面に付着した水を速やかに離脱すると共に当該金属材表面に油膜形成して優れた防錆能を発揮する。従って、この防錆油組成物を金属材の水処理後の水切りと防錆を兼ねて使用することで、金属材の水処理とその後の防錆を効率よく実施することができる。しかも、本発明の防錆添加剤は優れた抗乳化性を有しており、優れた水切り性と防錆効果を長期的に持続するので、連続使用乃至繰返し使用にも適しており、水処理に伴うその後の防錆処理の作業効率を大幅に高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の防錆添加剤は、上記1),2),3)で規定される3種の成分を含有するところに特徴を有するもので、それら3成分を併用することで、表面が概して親水性である金属材の表面に付着した水分と速やかに置換して離脱させると共に、表面に油膜を形成して優れた防錆能を発揮するので、これを金属加工などに使用する鉱油などの基油に適量配合することによって、優れた性能の水切り防錆処理剤を提供できる。
【0019】
本発明における上記成分1)、即ち炭素数4〜20の脂肪酸および/または酸化ワックスは、主として水切り性および抗乳化性を高める作用を発揮する成分であり、その作用を有効に発揮させるには炭素数が4以上でなければならない。炭素数が4未満のものでは、付着水分を金属表面から離脱させる能力(水切り性)が不十分になる。逆に炭素数が20を超えると、抗乳化性が不十分になる。水切り性と抗乳化性を両立させる上でより好ましい炭素数は6以上、14以下、更に好ましくは8以上、12以下である。
【0020】
こうした要件に叶う好ましい脂肪酸としては、例えば酪酸、吉草酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、カプリル酸、2−エチルヘキサン酸、ペラルゴン酸、イソノナン酸、カプリン酸、イソデカン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ヘプタデシル酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキン酸等が挙げられ、これらは夫々単独で使用し得る他、必要時応じて2種以上を併用しても構わない。これらの中でも特に好ましいのは、水切り性、抗乳化性を考慮すると、カプリル酸、カプリン酸、イソデカン酸、ラウリン酸である。
【0021】
また酸化ワックスは、石油留分の精製時に得られるパラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ペトロラタム等を酸化することによって得られる酸価を有するワックスであり、中でも特に好ましいのは、直鎖成分の含有量が多く、酸価(反応性)の高い酸化ワックスである。
【0022】
次に、上記成分2)、即ち炭素数4〜18の脂肪族アミンは、上記成分1)と同様に主に水切り性と抗乳化性を高める作用を発揮する成分であり、炭素数が4未満では水切り性が有効に発揮されず、逆に炭素数が18を超えると、抗乳化性が不十分となる。水切り性と抗乳化性の観点からより好ましい脂肪族アミンの炭素数は6以上、12以下、より好ましくは8以上、10以下である。
【0023】
これらの要件に叶う好ましい脂肪族アミンの具体例としては、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、オクチルアミン、2−エチルヘキシルアミン、ノニルアミン、デシルアミン、ウンデシルアミン、ラウリルアミン、トリデシルアミン、テトラデシルアミン、ペンタデシルアミン、ヘキサデシルアミン、ヘプタデシルアミン、ステアリルアミン等が挙げられ、これらは夫々単独で使用し得る他、必要時応じて2種以上を併用しても構わない。これらの中でも特に好ましいのは、水切り性、抗乳化性を考慮すると、オクチルアミンである。
【0024】
次に、前記成分3)は、本発明の中で主に水切り後の防錆油膜形成成分となって防錆能を高める作用を発揮する成分である。その中でも前記有機リン酸エステルの塩においては、有機リン酸エステル構造中に有する飽和もしくは不飽和アルキル基(水酸基を1つ以上有するものを含む)の炭素数が8未満では防錆能が有効に発揮されず、逆に炭素数が24を超えると、製造時のハンドリング性が悪くなる他、アルキル鎖が長いため抗乳化性にも悪影響を及ぼす。防錆性とハンドリング性の観点からより好ましい炭素数は10以上、20以下、更に好ましくは12以上、18以下である。
【0025】
この有機リン酸エステル塩として使用される有機リン酸エステルは、飽和または不飽和アルキル基(水酸基を1つ以上有するものを含む)を有する有機リン酸エステルであり、通常市販されているモノエステル/ジエステル混合物が使用できる他、必要に応じて高級アルコールと無水リン酸とを反応させて任意の有機リン酸エステルを合成して使用することも可能である。
【0026】
好ましい飽和または不飽和アルキル基(水酸基を1つ以上有するものを含む)としては、オクチル基、2−エチルへキシル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ラウリル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、ステアリル基、アラキニル基、オレイル基、9,12−オクタデカジエニル基、9,12,15−オクタデカトリエニル基、9,11,13−オクタデカトリエニル基、12−ヒドロキシ−9−オクタデセニル基等が挙げられ、これらのリン酸エステルは単独で使用できる他、必要に応じて混合して使用することも可能である。これらの中でも特に好ましいのは、防錆性、ハンドリング性を考慮すると、オレイル基である。
【0027】
上記有機リン酸エステル塩において有機リン酸エステルの塩のタイプとしては、ナトリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、バリウム塩、亜鉛塩、脂肪族アミン塩等が挙げられる。ここで、脂肪族アミン塩として使用できるものの例としては、ラウリルアミン、トリデシルアミン、テトラデシルアミン、ペンタデシルアミン、ヘキサデシルアミン、ヘプタデシルアミン、ステアリルアミン、およびヤシ油脂肪酸、オレイン酸、大豆油脂肪酸、牛脂脂肪酸から誘導されたアルキル基を有するN−アルキルトリメチレンジアミン等が挙げられ、これらは夫々単独で使用し得る他、必要に応じて2種以上を併用しても構わない。この中でも特に好ましいのは、防錆性を考慮すると、N−牛脂アルキル置換トリメチレンジアミンである。
【0028】
上記有機リン酸エステル塩の中で特に好ましいものはオレイルリン酸エステルカルシウム塩およびオレイルリン酸エステルのN−牛脂アルキル置換トリメチレンジアミン塩である。オレイルリン酸エステルカルシウム塩は、100℃以上の高温下で鉱物油を媒体としてオレイルリン酸エステルを高塩基性カルシウムスルホネートで全中和することにより得られる。また、オレイルリン酸エステルのN−牛脂アルキル置換トリメチレンジアミン塩は、60〜100℃の条件下でオレイルリン酸エステルをN−牛脂アルキル置換トリメチレンジアミンで全中和させることにより得られる。
【0029】
また上記成分3)として使用される酸化ワックスの塩は、マグネシウム塩、カルシウム塩、バリウム塩、脂肪族アミン塩等が挙げられ、これらは夫々単独で使用し得る他、必要に応じて2種以上を併用しても構わない。これらの中でも特に好ましいのは、防錆性、安全性を考慮すると、酸化ワックスのマグネシウム塩およびカルシウム塩である。酸化ワックスのマグネシウム塩およびカルシウム塩は、100℃以上の高温下で酸化ワックスを高塩基性マグネシウムスルホネートまたは高塩基性カルシウムスルホネートで全中和することにより得られる。
【0030】
本発明の防錆添加剤は、上記成分1)〜3)を必須成分として含有するもので、各成分の含有量は、追って詳述する如く、基油に配合した状態、即ち実際の使用状態を考慮して基油に配合した状態での各成分の含有量で規定するのが最善であるが、防錆添加剤として基油配合後の水切り性と防錆性などを考慮して、防錆添加剤としての各成分の好ましい配合比率は、該添加剤中に占める比率で成分1):5〜50質量部、より好ましくは20〜40質量部、成分2):5〜50質量部、より好ましくは10〜30質量部、成分3):1〜30質量部、より好ましくは2〜20質量部の範囲である。
【0031】
本発明の防錆油組成物は、上記防錆添加剤を基油に添加することで当該基油に水切り性と防錆能を与えた組成物で、該基油としては、防錆油や金属加工油の基油として一般に使用されているものを使用できる。具体的には、灯油等のミネラルスピリット、鉱油、合成油が挙げられ、これらは単独または2種以上を組み合わせて使用することができる。更に鉱油としては、例えば、原油を蒸留して得られた留分を精製したパラフィン系、ナフテン系等の精製鉱油を使用することができる。
【0032】
該防錆油組成物における上記成分の好ましい含有量は、防錆油組成物全体としての量を100質量部としたとき、前記成分1)の脂肪酸および/または酸化ワックスの含有量は0.2〜10質量部、好ましくは0.5〜5質量部であり、前記成分2)の脂肪族アミンの含有量は0.1〜10質量部、好ましくは0.2〜5質量部であり、前記成分3)の有機リン酸エステル塩および/または酸化ワックスの塩の含有量は0.05〜10質量部、好ましくは0.1〜5質量部である。
【0033】
ちなみに、上記成分1)の脂肪酸や酸化ワックス、成分2)の脂肪族アミンの含有量が不足する場合は、水切り性あるいは抗乳化性が不足となり、逆にこれら成分1),2)の含有量が多過ぎると、抗乳化性不足となる他、コストも高くなる。一方、成分3)の有機リン酸エステル塩および/または酸化ワックスの塩の含有量が不足する場合は、防錆能不足となり、逆に該成分3)の含有量が多過ぎると、防錆性は向上するものの水切り性や抗乳化性が低下する。
【0034】
本発明の防錆油組成物を実用化するに当たっては、前述した様な基油に高粘度の鉱物油やパラフィンワックス等の油膜調整剤を配合し、防錆効果を発揮するのに適切な塗油量(膜厚)を確保できるように粘性を調整することが望ましく、金属材表面への油膜量で0.5μm以上、好ましくは1.0μm以上を確保できる様にすることが望ましい。
【0035】
本発明に係る上記防錆添加剤を適量配合した水切り兼防錆能を備えた防錆油組成物を使用すれば、水洗など水を使用する工程を経た金属材に適用することで、水に濡れた金属材を遠心やブロアー等による水切り処理や乾燥などをせずとも、水分が付着したままの状態で上記防錆油組成物が入れられた浴に一定時間浸漬するだけで、金属材表面の水分を除去すると共に、該水に置換して防錆油膜を形成することができ、その後の酸化腐食などを可及的に防止できる。
【実施例】
【0036】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0037】
実施例
下記表1に示す配合比率(質量比)で防錆添加剤および防錆油組成物の試料を調製し、夫々について、下記の方法で防錆試験、水切り性試験、抗乳化性試験を行い、結果を表2,3に示した。
【0038】
防錆試験:
JIS K 2246に規定されている「さび止め油 5.34」湿潤試験方法に準拠して行った。
【0039】
試験片:冷間圧延鋼板SPCC−SB #240研磨(寸法:60×80×1.2mm)、
試験条件:温度49±1℃、相対湿度95%以上、
さび発生度の判定:試験片の中央部5cm角の範囲を、一辺が5mmの正方形の碁盤目100個に区画し、所定時間放置後に錆が発生している碁盤目の数を数え、その数をパーセントで表わす。
A級:0%、B級:1〜10%、C級:11〜25%、D級:26〜50%、E級:51〜100%。
【0040】
水切り性試験:
試験片:目開き355μm、寸法15cm×3cmのステンレス製金網を、3cm間隔で4回折り畳んで3cm角にしたものをアルカリ脱脂し、イオン交換水で十分に洗浄したものを使用する。
【0041】
試験法:上記表1に示した各組成の供試油200gを300mlビーカーに入れ、イオン交換水で濡らした試験片を垂直に吊り下げて浸漬する。浸漬開始から試験片に付着した水分が水滴としてほぼ完全に落下するまでの時間を計測する。
【0042】
抗乳化性試験:100mlの有栓比色管に、上記表1に示した組成の供試油40mlと水道水40mlを入れて栓をし、1分間激しく振り混ぜてから静置する。そして、静置してから油層と水層に分離するまでの時間を計測する。
【0043】
【表1】

【0044】
【表2】

【0045】
【表3】

【0046】
表1〜3より次の様に考えることができる。
【0047】
実施例1〜5は本発明の規定要件を全て満たす実施例であり、優れた防錆効果を有すると共に、水切り性や抗乳化性においても優れた結果が得られている。
【0048】
これらに対し、添加剤が全く加えられていない基油単独(比較例1)は、当然のことながら防錆効果および水切り性が共に劣悪であり、また前記成分1),2)を含んでいても成分3)が含まれていないもの(比較例2)は、水切り性と抗乳化性は良好であるが防錆性が殆ど発揮されない。
【0049】
また、成分3)に包含される種々の化合物を単独添加した比較例3〜6は、防錆性には優れているものの、水切り性と抗乳化性が劣悪である。更に、従来から油溶性防錆添加剤として幅広く使用されている高塩基性カルシウムスルホネートを含有する比較例7は、防錆性と水切り性が非常に悪く、高塩基性バリウムスルホネートを含有する比較例8は、防錆性には優れているものの水切り性が劣悪で本発明の目的は達成できない。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記1),2)および3)に規定される成分を含有することを特徴とする防錆添加剤。
1)炭素数4〜20の脂肪酸および/または酸化ワックス、
2)炭素数4〜18の脂肪族アミン、
3)炭素数8〜24の飽和または不飽和アルキル基(水酸基を1つ以上有するものを含む)を有する有機リン酸エステルのナトリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、バリウム塩、亜鉛塩、脂肪族アミン塩、および、酸化ワックスのマグネシウム塩、カルシウム塩、バリウム塩、脂肪族アミン塩よりなる群から選ばれる少なくとも1種。
【請求項2】
前記1)で規定される成分が炭素数8〜12の飽和脂肪酸であり、前記2)で規定される脂肪族アミンがn−オクチルアミンである、請求項1に記載の防錆添加剤。
【請求項3】
前記3)で規定される有機リン酸エステルの塩が、オレイル基を有する有機リン酸エステルのカルシウム塩である請求項1または2に記載の防錆添加剤。
【請求項4】
前記3)で規定される有機リン酸エステルの塩が、オレイルリン酸エステルのN−牛脂アルキル置換トリメチレンジアミン塩である請求項1または2に記載の防錆添加剤。
【請求項5】
前記3)で規定される酸化ワックスの塩が酸化ワックスのマグネシウム塩またはカルシウム塩である請求項1または2に記載の防錆添加剤。
【請求項6】
前記請求項1〜5のいずれかに記載された防錆添加剤が、基油に添加されたものである防錆油組成物。
【請求項7】
前記基油が、鉱油、精製鉱油または合成油である請求項6に記載の防錆油組成物。
【請求項8】
前記防錆油組成物全体を100質量部としたとき、前記1)で規定される脂肪酸および/または酸化ワックスの含有量が0.2〜10質量部、前記2)で規定される脂肪族アミンの含有量が0.1〜10質量部、前記3)で規定される有機リン酸エステル塩および/または酸化ワックスの塩の含有量が0.05〜10質量部である、請求項6または7に記載の防錆油組成物。
【請求項9】
前記請求項6〜8のいずれかに記載の防錆油組成物を使用し、金属材の水切りと防錆処理を同時に行うことを特徴とする金属の防錆処理法。


【公開番号】特開2006−219744(P2006−219744A)
【公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−36004(P2005−36004)
【出願日】平成17年2月14日(2005.2.14)
【出願人】(596148629)中部キレスト株式会社 (31)
【出願人】(592211194)キレスト株式会社 (30)
【Fターム(参考)】