説明

防音装置および加工装置

【課題】軽量で着脱作業性および防音性に優れ、しかも低コストの防音装置およびこれを備えた加工装置を提供する。
【解決手段】ドリフターのシャンクロッド101と、加工用ビット111を有するロッド112とを結合するスリーブ102を覆うように円筒状の断熱カバー32を取り付ける。断熱カバー32の周囲およびロッド112を覆うように、柔軟性を有するシート状材料により形成された蛇腹管状の防音カバー31を取り付ける。スリーブ102から生じる高熱は断熱カバー32により遮断され防音カバー31の熱による損傷が防止される。また、断熱カバー32は防音カバー31とは別個に取り外し可能となっているので、断熱カバー32が劣化した場合には断熱カバー32のみを交換すればよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、地盤や岩石などを加工する装置において、動作時の騒音を防止する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
削岩装置や掘削機など地盤や岩石、コンクリート構造体などを加工対象物とする加工装置においては、動作時に発する騒音が問題となる。この問題に対応するため、本願出願人は、これらの加工装置において生じる騒音を抑制する技術を先に開示した(特許文献1参照)。この技術においては、耐熱性を有する内部カバーと、防音性を有する外部カバーとの二重管によりロッドを覆うことによって、軽量で着脱作業性および防音性に優れた防音装置を構成している。
【0003】
【特許文献1】特開2006−022568号公報(図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来技術は、2種類のシート状材料を二重の蛇腹管状に形成する必要があり、また内部カバーの一部が損傷した場合でも装置全体を取り替える必要があるなど、主に製造コストおよびランニングコストの面で改良の余地が残されていた。
【0005】
この発明は上記課題に鑑みなされたものであり、軽量で着脱作業性および防音性に優れ、しかも低コストの防音装置およびこれを備えた加工装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願発明者は、上記特許文献1に開示した技術を基にさらに研究を進め、以下のような知見を得た。すなわち、ドリフターにロッドを取り付けて岩石等の加工対象物を加工する加工装置においては、ドリフターとロッドとを結合する結合部材で摩擦に起因する熱エネルギーが放出されるため、結合部材が特に高温となる。このため、結合部材およびロッド全体を覆う防音カバーでは、特に結合部材の近傍が熱による損傷を受けやすい一方、結合部材から離れた部分は熱による損傷がほとんどない。このことから、高い耐熱性を要求されるのは結合部材の近傍のみであることがわかった。また、熱で損傷したカバーを仔細に調査すると、シート状材料を縫製して防音カバーを構成している場合、シート自体は耐熱性を有していても、縫い糸の損傷により縫い目が開いたり形状を保てなくなるケースが多いことがわかった。
【0007】
この点に鑑み、この発明にかかる防音装置は、地盤や岩石を加工する加工部を一方端に有するロッドと、前記ロッドを駆動するドリフターと、前記ドリフターと前記ロッドの他方端とを機械的に結合する結合部材とを有する加工装置に装着される防音装置であって、上記目的を達成するため、筒状に形成されてその内面が断熱性を有し、前記結合部材を覆う一方、前記ロッドを露出させる断熱カバーと、柔軟性を有するシート状材料を筒状に縫製して成り、前記断熱カバーおよび前記ロッドを覆う防音カバーとを備えることを特徴としている。
【0008】
このように構成された発明では、最も高温となる結合部材を覆う断熱カバーを設けることで、防音カバーの熱による損傷を防止する。また、断熱カバーおよびロッドを防音カバーで覆うことで外部への騒音の伝播を防止する。すなわち、この発明では、騒音の伝播を防止するための防音カバーと、高熱を発する結合部材との間に断熱カバーを介在させることによって、結合部材の熱による防音カバーの劣化・損傷を防止する。また、防音カバーはシート材によって形成されるので軽量かつ着脱作業性に優れた防音装置を構成することができる。また、断熱カバーは結合部材を覆うのみで済むので小型に構成することができ、カバー全体を二重管にする必要がないので、製造コストを低く抑えることができる。
【0009】
ここで、前記防音カバーと前記断熱カバーとの間を取り外し可能に構成すると、例えば長期の使用により断熱カバーが劣化・損傷した場合には、断熱カバーのみを取り外して交換することが可能となり防音装置全体を交換する必要がないので、装置のランニングコストを大幅に低減させることができる。
【0010】
前記防音カバーについては、前記ロッドの長手方向に伸縮可能な蛇腹管として構成されてもよい。このようにすると、防音カバーを筒状に保持することが容易となる。また、加工装置から取り外された状態での防音カバーの取り扱いの利便性を向上させることができる。また、加工の進行に伴ってドリフタを加工方向に前進・後退させる場合にも、防音カバーが伸縮することによって常にロッド全体を覆い防音効果を得ることができる。この場合において、結合部材を覆う断熱カバーについては伸縮性を要しないので蛇腹管状とする必要はなく、これにより装置の製造コストをさらに抑えることが可能である。
【0011】
また、前記蛇腹管は環状に裁断された複数のシート状材料が縫合されてなるようにしてもよい。このような構成とすることで、平面状のシート材料を立体的な蛇腹管形状に組み立てることができる。より詳しくは、環状のシート状材料を同心に多数枚積層し、隣接するシート同士を縫合することによって管状の構造体を形成することができるが、環の外周部同士の縫合と、内周部同士の縫合とを一層ごとに交互に行うことによって、その積層方向に沿って伸縮可能な蛇腹管を構成することができる。
【0012】
また、前記断熱カバーについては、少なくとも一方面が断熱性を有するとともに略矩形に裁断された断熱シートが、断熱性を有する面が筒の内面になるようにその両端を互いに重ね合わされその合わせ目で縫合された構造としてもよい。このように、断熱カバーをシート状材料で構成することにより、装置を軽量かつ取り扱い容易なものとすることができる。この場合において、断熱シートの断熱性を有する面を筒の内面とすることで結合部材の熱を防音カバーに伝えないという目的は達せられるため、筒の外面に当たる面については必ずしも断熱性を持つ必要はない。
【0013】
さらに、前記断熱シートの合わせ目では、前記断熱シートの両端が、筒の内面に連なる面同士が互いに向かい合うように重ねられていることが望ましい。このようにすると、断熱シート両端を縫合する縫い目を、高熱になる結合部材に臨む筒の内部に露出させないようにすることができる。こうすることによって、シートを縫合する縫い糸の劣化に起因する断熱カバーの劣化や損傷を抑えることができる。また、縫い糸に耐熱性が必要とされないため製造コストを低減させることができる。
【0014】
また、この発明にかかる加工装置は、上記目的を達成するため、地盤や岩石を加工する加工部を一方端に有するロッドと、前記ロッドを駆動するドリフターと、前記ドリフター本体と前記ロッドの他方端とを機械的に結合する結合部材と、筒状に形成されてその内面が断熱性を有し、前記結合部材を覆う一方、前記ロッドを露出させる断熱カバーと、柔軟性を有するシート状材料を筒状に縫製して成り、前記断熱カバーおよび前記ロッドを覆う防音カバーとを備えることを特徴としている。
【0015】
このように構成された発明では、結合部材およびロッドを防音カバーにより覆うことで、作業時の騒音が外部に伝播するのを抑制することができる。また、動作時に高温となる結合部材と防音カバーとの間に断熱カバーを設けているので、熱による防音カバーの劣化・損傷を防止して、装置のランニングコストを抑えることができる。また断熱カバーについては結合部材のみを覆うようにすればよいので、カバー全体を二重管構造にする必要がなく、製造コストを低く抑えることができる。
【発明の効果】
【0016】
以上のように、この発明によれば、ロッドを防音カバーにより覆うことにより、作業時の騒音の外部への伝播を抑えることができる。また、動作時には高温となる結合部材の周囲を断熱カバーによって覆っているので、熱による防音カバーの劣化・損傷を抑えることができる。防音カバーはシート材によって形成されるので軽量で着脱作業性がよく、また断熱カバーは小型でカバー全体を二重管構造とする必要がないので低コストに装置を構成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
図1は本発明にかかる防音装置を備えた削岩機の外観を示す図である。この削岩機1では、アーム121の一方端側に削岩機本体としてのドリフター10が取り付けられている。アーム121の他方端には、岩石やコンクリート構造体などの加工対象物を破砕するためのビット111が設けられている。このビット111はアーム121に沿って延びるロッド112を介してドリフター10に設けられたシャンクロッド101に係合されている。シャンクロッド101とロッド112とは、結合用のスリーブ102によって機械的に結合されている。そして、オペレータの操作に応じ図示を省略する操作盤から与えられる制御指令に基づきドリフター10が作動すると、シャンクロッド101が往復運動または回転運動してロッド112を駆動し、この駆動力がロッド112を介してビット111に伝達されてビット111先端が岩石等を破砕または削孔する。
【0018】
このように、この実施形態においては、削岩機1が、岩石などを加工対象物とする本願発明の「加工装置」に相当する。なお、この削岩機1は、例えば自走式車両のブームに装着されて使用されるものであるが、このような車両としては公知のものを用いることができるので、本明細書においては車両の構成についての説明を省略することとする。
【0019】
この削岩機1では、ドリフター10の作動時に発生する騒音の周囲への伝播を抑えるため、ドリフター10を覆う本体カバー20が設けられている。本体カバー20は、鉄板により形成された函体21の内面に防音シート22が貼り付けられてなる。また、図示を省略するが、本体カバー20内部の空間には、ロックウール、ガラスウールなどの耐熱性繊維からなる充填材が充填されている。このような充填材としては、例えばタクミ産業製セラミックブランケット(商品名)等を好適に使用することができる。このような充填材を充填することにより、騒音抑制効果をさらに高めることができる。またドリフター10が作動時に高温となるため、充填材には耐熱性が求められる。
【0020】
また、ロッド112およびビット111をそれぞれ覆うように、防音カバー31、40が設けられている。このうち、ロッド用の防音カバー31は、ロッド112から発生する騒音が周囲に伝播するのを抑制する。また防音カバー31の内部でスリーブ102の周囲を覆うように、断熱カバー32が設けられている。断熱カバー32は、シャンクロッド101の作動に伴ってスリーブ102に発生する熱から防音カバー31を保護する作用を有する。また、ビット用の防音カバー40は、ビット111が岩石などの加工対象物を打撃または切削する際に発生する騒音の伝播を抑制する。
【0021】
図2は本願発明にかかる防音装置の構造を示す断面図である。また、図3はロッド用防音カバーの構造を示す分解図である。図2に示すように、ロッド用防音カバー31はロッド112を覆う蛇腹管状に形成されている。また、ロッド用防音カバー31の内部には、スリーブ102の周囲を覆うように略円筒状の断熱カバー32が設けられる。ロッド用防音カバー31を構成する素材としては、耐熱性および柔軟性を有するシート状材料を用いることができる。また、断熱カバー32を構成する素材としては、少なくとも筒の内面に当たる面が高い断熱性を有することが必要である。このような素材としては例えばアルミニウムなどの金属箔からなる断熱層と、例えばガラス繊維やアラミド繊維などの耐熱性を有する繊維により織られた布帛層とを積層してなる断熱シートを使用することができる。この場合において、筒状に形成されたとき、シート表面のうち金属箔が貼られている方の面が内側となるのが断熱効果の点からは望ましい。このようなシート材料としては、例えばジェンテックス社製のデュアルミラー(登録商標)ファブリックを使用することができる。また、この素材をロッド用防音カバー31にも使用することが可能である。
【0022】
このようなシート状素材で形成された蛇腹管状の防音カバー31は、ロッド112の軸方向(図2および3において上下方向)に伸縮自在となっている。そこで、蛇腹管が自重により伸び切ってしまうのを防止し蛇腹管形状を維持するため、防音カバー31の外面には、その軸方向に沿って蛇腹管の山部同士をつなぐ4本のベルト33が等角度(90度)間隔に取り付けられている。このベルト33には引っ張りに強い丈夫な布帛または皮革を用いることができるほか、前記した防音カバー31または断熱カバー32と同じ素材を用いてもよい。
【0023】
断熱カバー32は、ドリフター10を覆う本体カバー20のうちシャンクロッドを貫通させるための開口部に設けた下方に突出するリム部20aに嵌め込まれ、さらに耐熱カバー32の外側を覆うように、防音カバー31が装着されている。そして、リム部20aを取り巻くように装着された締結ベルト35が図3にハッチングを付した各部を締め付けることにより、防音カバー31および断熱カバー32が本体カバー20に固定される。一方、締結ベルト35を緩めることにより、防音カバー31および断熱カバー32をそれぞれ本体カバー20から取り外すことができる。このように、この実施形態では、防音カバー31と断熱カバー32とが別体に構成されて取り外し可能となっている。なお、着脱作業性向上のため、防音カバー31に対し断熱カバー32を仮止めすることができるような構成としてもよい。
【0024】
また、ビット用防音カバー40は、アーム121に取り付けられてビット111の位置決め機能を果たすセントラライザー122の外周部にスカート状に巻き付けられた断熱性シートからなる内部カバー43と、さらにその外側を覆うように巻き付けられた遮音性シートからなる外部カバー41とによる二重筒構造を有している。そして、外部カバー41と内部カバー43との間には空隙G2が設けられている。また、外部カバー41および内部カバー43はそれぞれ、ビット111が加工対象物(岩石など)と当接した状態でビット111と加工対象物との当接部Pの周囲をすっぽり覆うように形成されている。こうすることで、当接部Pにおいて発生する打撃音が周囲に伝播するのを抑制する。
【0025】
ビット用防音カバー40においては、カバーが柔軟性のあるシートにより構成されているため、カバーが加工対象物の表面によく密着し、カバーと加工対象物との間の隙間からの音漏れを小さく抑えることができる。さらに、破砕された加工対象物の破片や砂塵が舞い上がるのを抑える効果も有している。なお、防音カバー40を構成する外部カバー41および内部カバー43において加工対象面と接触する側の端部(図2において下側の端部)については、擦過による損傷を防止するとともに加工対象面との間の隙間をなくすために、例えばゴム製のエッジをさらに装着したり、端部をフリンジ状に形成してもよい。
【0026】
図4はロッド用防音カバーの詳細な構造を示す分解図である。また、図5はロッド用防音カバーの詳細な構造を示す部分断面図である。防音カバー31は、上記した断熱シートにより形成された円筒310と、断熱シートを円環状に裁断してなる複数の円環状シート311、312、…とが縫合されたものである。なお、図では6枚の円環状シート311〜316を示しているが、これは防音カバー31を構成する円環状シートの一部を示したものであって、実際にはさらに多くの円環状シートにより蛇腹管が構成されており、蛇腹管の長さに応じてその必要枚数は変わる。
【0027】
円筒310は、断熱性を有する面がその内面310aになるように、帯状に裁断された断熱シートを丸めてその両端を縫合したものである。円筒310の下端部と、円環状シート311の内周部とが縫合により接合される。このとき、円環状シート311は、図5において斜線を付して示す金属箔が貼付されて断熱性を有する面(以下、「断熱面」という)311aが下向きとなるように、言い換えれば断熱面とは反対側の面(以下、「非断熱面」という)311bを円筒310側に向けた状態で、円筒310に縫合される。図5において、破線は縫い目の位置を示している。
【0028】
一方、円環状シート311の外周部は、その下方に位置する円環状シート312の外周部と縫合により接合される。このとき、円環状シート312については断熱面312aを上向きとする。すなわち、外周部同士を縫合された円環状シート311および312は、それぞれの断熱面311aおよび312aが互いに向き合うように配置される。
【0029】
さらに、円環状シート312の内周部は、その下方に位置する円環状シート313の内周部と縫合されている。円環状シート313は非断熱面313bを上向きにして配置されているので、内周部同士を縫合された円環状シート312および313は、それぞれの非断熱面312bおよび313bが互いに向き合うようにして縫合されることとなる。
【0030】
同様にして、円環状シート313の外周部は次のシート314の外周部と、シート314の内周部はシート315の内周部と、シート315の外周部は次のシート316の外周部と、それぞれ縫合されている。このため、防音カバー31の周壁の断面形状は図5に示すようにジグザグ状となり、各円環状シート311等は柔軟性を有しているので、防音カバー31全体は図5の上下方向に伸縮自在の蛇腹管となる。
【0031】
そして、互いに外周部同士を縫合された2枚の円環状シートの間ではそれぞれの断熱面が互いに向き合っている一方、内周部同士を縫合された2枚の円環状シートの間ではそれぞれの非断熱面が互いに向き合っているので、蛇腹管の伸縮状態に関わらず管の内面はほぼ全て断熱面によって構成されることとなる。逆に、蛇腹管の外面はほぼ全面が非断熱面によって構成される。こうすることにより、防音カバー31の内部が高温となった場合でもカバー外部にその熱が伝わることは抑制される。また、熱による防音カバー31の劣化が抑制される。このような構造の防音カバーでは、シートが破れたりその継ぎ目に隙間ができると音漏れが生じその効果が減殺されてしまう。この実施形態では、防音カバーの内面を断熱構造とすることによって、熱によるシートの損傷を防止している。
【0032】
ただし、図5の構成では、円環状シート同士、特にその内周部同士を縫合する縫い糸の一部が蛇腹管内に露出することが避けられず、縫い糸が熱によるダメージを受けるおそれがある。実際に、本願発明者がこのような構造のカバーを削岩機に取り付けて種々の実験を行ったところ、シートにはダメージがないにもかかわらず、カバー内面に露出した縫い糸が熱により損傷し円環状シート間に隙間ができてしまうという事象が多く見つかった。また、この問題を回避するため縫い糸に代えて金属ワイヤでシートの両端を接合したところ、金属は一般に耐熱性を有するものの熱伝導性も高いため、ワイヤ自身が高温となってしまいシートを損傷させることがあった。
【0033】
このような熱による損傷は、最も高温となるスリーブ102の近傍で多発する一方、スリーブから離れた箇所ではほとんど見られなかった。そこで、この実施形態では、スリーブ102の周囲を覆うように断熱カバー32を設けることで防音カバー31がスリーブ102に直接臨むことを回避し、これによって防音カバー31の熱による劣化・損傷を防止している。
【0034】
図6は断熱カバーの断面構造を示す図である。本実施形態の断熱カバー32は、図6(a)に示す断面構造を有している。より具体的には、断熱カバー32は略矩形に裁断された断熱シートを円筒状に丸めてその両端を縫い合わせることにより接合したものである。このとき、断熱シートの断熱面32aが円筒の内面、非断熱面32bが円筒の外面になるようにする。また、両端を接合した接合部32cにおいては、それぞれの端部を外側に向けて突出させた状態で両端部を重ねて縫い合わせることにより、両端の断熱面同士が向かい合って接するようにする。図6において、破線は縫い目の位置を示している。
【0035】
こうすることで、円筒内面は全て断熱シートの断熱面32aのみによって構成されるのに加えて、シートの縫い目S1が円筒内部の空間SPに全く露出しない構造とすることができる。これにより、熱による縫い糸の劣化の問題が解消され、断熱カバー32に高い断熱性と熱に対する耐久性を持たせることが可能となる。また、縫い糸に高い耐熱性を必要としないため特殊な縫い糸を使用する必要がなく、コスト面でも好ましい。また、高耐熱性を有する縫い糸を使用した場合には、カバーの寿命を延ばすことができる。
【0036】
一方、図6(b)は断熱カバーの比較例を示している。この比較例では、断熱シート329を単に円筒状に丸めてその両端を縫合している。すなわち、その合わせ目329cでは、筒の内面に当たる断熱面329aと、非断熱面329bとが接するようにシート両端が重ねられている。このような構造では、縫い目S2が筒内に露出することとなり、スリーブ102の熱により縫い糸が損傷しシートに隙間が生じるおそれがあるので、上記した図6(a)の構造とするのがより好ましい。
【0037】
ところで、スリーブ102は防音カバーで覆われることによりさらに高温となり、時に摂氏数百度にまで達することがある。そのため、上記のように構成された断熱カバー32であっても、長期の使用につれて次第に劣化してくることが考えられる。そこで、この実施形態では、防音カバー31と断熱カバー32とを一体とせず、両者を別体に形成して互いに取り外し可能に構成している。こうすることにより、断熱カバー32が劣化したときには該断熱カバー32のみを交換することが可能となる。これにより、防音装置全体を交換する場合に比べてランニングコストを大幅に低減することができる。また、断熱カバー32によって防音カバー31の熱による損傷を防止する構造としているため防音カバー31を長寿命化することができ、この点もランニングコストの面で有利に作用する。
【0038】
また、図1ないし図3からも明らかなように、断熱カバー32は防音カバー31に比べはるかに小型で構造も単純であるため、防音装置全体に占める製造コストの比率は小さい。このように、低コストで製造可能な断熱カバー32を交換可能な構造としたことによって、ランニングコストの低減効果はさらに大きくなる。
【0039】
上記のように構成された防音装置は、防音カバー31を柔軟性を有するシートで形成した蛇腹管状としているため、長手方向(軸方向)に伸縮可能である。このことは、前記したようにカバーの取り扱いの利便性に寄与するほか、次のような効果も有する。
【0040】
図7は削孔作業の進展に伴う防音カバーの形状変化を示す図である。作業の初期段階では、図7(a)に示すように、ドリフター10を収めた本体カバー20はアーム121の上部にあり、このため防音カバー31は伸びた状態となっている。一方、削孔が進みビット111が地中に進入してゆく際には、図7(b)に示すように、ドリフター10がアーム121に沿って降下するにつれて防音カバー31が収縮してゆくので、この防音装置は、作業を妨げることなく削孔作業の初期から最後まで安定した防音効果を得ることができる。
【0041】
このとき、スリーブ102が地表の加工部分近くにまで進出することはないので、断熱カバー32については伸縮性を持たせる必要がない。このように、この実施形態では、断熱カバー32をスリーブ102の近傍のみを覆う構造としたことにより、断熱カバー32については防音カバー31のような伸縮性を持たせる必要がなく、例えば円筒状の単純な構造でよい。これにより、防音装置全体の製造コストを低減することができる。
【0042】
以上のように、この実施形態では、高温になるスリーブ102を覆う断熱カバー32と、該断熱カバー32およびロッド112全体を覆う防音カバー31とを有する防音装置を削岩機に取り付けることにより、熱による防音カバー31の損傷を防止しながら、削岩機が発生する騒音が外部に伝播するのを防止することができる。防音カバー31は柔軟性を有するシート状材料により蛇腹管状に形成しているので、軽量で取り扱いが容易である。また、防音カバー31は軸方向に伸縮性を有し、作業の進展に応じて伸縮するため、安定した防音効果を得ることができる。
【0043】
また、断熱カバー32については、防音カバー31とは別体に構成し取り外し可能としているので、もし断熱カバー32が劣化・損傷した場合には断熱カバー32のみを取り換えることができ、装置全体のランニングコストを低く抑えることができる。また、断熱カバー32は小型で構造が単純であるため、装置の製造コストおよびランニングコストの低減に寄与することができる。また、縫い目が筒の内側に露出しない構造としているので、縫い糸の劣化を抑えることができる。
【0044】
また、上記のような防音装置を装着した削岩機などの加工装置においては、騒音の発生を抑えながら岩石等に対し破砕、削孔等の加工を行うことができる。
【0045】
以上説明したように、上記実施形態においては、削岩機1が本発明の「加工装置」に相当しており、防音カバー31および断熱カバー32が本発明の「防音装置」として機能している。また、ビット111が本発明の「加工部」に相当する一方、スリーブ102が本発明の「結合部材」に相当している。
【0046】
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したもの以外に種々の変更を行うことが可能である。例えば、上記実施形態の装置は、削岩機本体10に設けられたシャンクロッド101の往復運動または回転運動をロッド112によってビット111に伝達し、ビット111によって岩石を破砕する削岩装置であるが、本発明の適用対象はこれに限定されるものではない。例えば、ドリルまたはクローラドリルなど他の先端工具が取り付けられて地盤や岩石、コンクリート構造体に対し穿孔を行う装置にも本発明を適用することが可能である。
【0047】
また、上記実施形態では、防音カバー31と断熱カバー32を同種のシート状材料によって形成しているが、これに限定されるものではない断熱カバー32については内部の熱を外部へ伝達しないことが要求されるのに対し、防音カバー31に求められるのはある程度の耐熱性と高い遮音性であり、求められる特性は同じではないので、それぞれが異なる素材により形成されてもよい。例えば、防音カバー31については断熱カバー32ほどの耐熱性が要求されないので、耐熱性は劣ってもより遮音性の高い素材を用いるようにしてもよい。
【0048】
また、断熱カバー32については必ずしも柔軟性を要求されないので、上記実施形態のような断熱シート以外にも、例えばガラス繊維布やセラミックス製の筒を用いることができる。この場合において使用可能な素材は単に耐熱性を有するだけでなく、熱を遮断する作用を有することが求められる。この点において金属筒は単独では使用に適しておらず、より断熱性の高い素材と複合的に使用することが望ましい。
【0049】
また、防音カバーを構成する蛇腹管は、上記した円環状のシートを重ね合わせた構造以外に、例えば円筒状に仕立てたシートの外面に螺旋状に成形した金属ワイヤを貼り付けたものであってもよい。
【0050】
また、防音カバー31については、複数種の素材を重ね合わせたり、特許文献1に記載の技術のように二重管としてさらに防音性能を高めるようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は、地盤、岩石およびコンクリート構造体などの加工対象物に対して、破砕、穿孔などの加工を行う加工装置に適用することができ、特に低騒音が求められる環境下で使用される装置に対し好適に適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明にかかる防音装置を備えた削岩機の外観を示す図である。
【図2】本願発明にかかる防音装置の構造を示す断面図である。
【図3】ロッド用防音カバーの構造を示す分解図である。
【図4】ロッド用防音カバーの詳細な構造を示す分解図である。
【図5】ロッド用防音カバーの詳細な構造を示す部分断面図である。
【図6】断熱カバーの断面構造を示す図である。
【図7】削孔作業の進展に伴う防音カバーの形状変化を示す図である。
【符号の説明】
【0053】
1…削岩機(加工装置)
10…ドリフター
20…本体カバー
31…防音カバー
32…断熱カバー
40…ビット用防音カバー
41…遮音性シート
43…断熱性シート
102…スリーブ(結合部材)
111…ビット(加工部)
112…ロッド
121…アーム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤や岩石を加工する加工部を一方端に有するロッドと、前記ロッドを駆動するドリフターと、前記ドリフターと前記ロッドの他方端とを機械的に結合する結合部材とを有する加工装置に装着される防音装置において、
筒状に形成されてその内面が断熱性を有し、前記結合部材を覆う一方、前記ロッドを露出させる断熱カバーと、
柔軟性を有するシート状材料を筒状に縫製して成り、前記断熱カバーおよび前記ロッドを覆う防音カバーと
を備えることを特徴とする防音装置。
【請求項2】
前記防音カバーと前記断熱カバーとの間が取り外し可能に構成された請求項1に記載の防音装置。
【請求項3】
前記防音カバーは、前記ロッドの長手方向に伸縮可能な蛇腹管である請求項1または2に記載の防音装置。
【請求項4】
前記蛇腹管は、環状に裁断された複数のシート状材料が縫合されてなる請求項3に記載の防音装置。
【請求項5】
前記断熱カバーは、少なくとも一方面が断熱性を有するとともに略矩形に裁断された断熱シートが、断熱性を有する面が筒の内面になるようにその両端を互いに重ね合わされその合わせ目で縫合された構造を有する請求項1ないし4のいずれかに記載の防音装置。
【請求項6】
前記断熱シートの合わせ目では、前記断熱シートの両端が、筒の内面に連なる面同士が互いに向かい合うように重ねられている請求項5に記載の防音装置。
【請求項7】
地盤や岩石を加工する加工部を一方端に有するロッドと、
前記ロッドを駆動するドリフター本体と、
前記ドリフター本体と前記ロッドの他方端とを機械的に結合する結合部材と、
筒状に形成されてその内面が断熱性を有し、前記結合部材を覆う一方、前記ロッドを露出させる断熱カバーと、
柔軟性を有するシート状材料を筒状に縫製して成り、前記断熱カバーおよび前記ロッドを覆う防音カバーと
を備える加工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−84812(P2009−84812A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−253139(P2007−253139)
【出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【特許番号】特許第4161116号(P4161116)
【特許公報発行日】平成20年10月8日(2008.10.8)
【出願人】(399048869)株式会社神島組 (10)
【Fターム(参考)】