説明

防食シートの施工方法

【課題】 異種金属の管を接合する三方継ぎ手などの複雑な形状をもった接合部の腐食を防止する。
【解決手段】 熱融着性を持った接着性シート上に、腐食因子となるイオンを捕捉するイオン交換樹脂を分散したフィルム層を形成した防食シートで被覆することにより、水や腐食因子となるイオンの侵入を防ぎ、異種金属管で形成された三方継ぎ手などの複雑な形状の配管接合部の電気化学的腐食を防止する。また、発泡ウレタンフォームを用いた断熱性材料や吸湿性材料を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異なる材質の金属の管の接合部に防食シートを施工する際の方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
各種配管材の接合、特に異種金属管の接合においては、接合部に水分が存在すると異種金属接触腐食を生じ、その進行により配管に貫通孔を形成して製品不具合を発生することがある。このため、異種金属配管の接合では異種金属接触腐食を防止するための種々の手法がとられている。
【0003】
例えば、特許文献1では、銅と鋼等の電位差の大きい異種金属の接合部が淡水中に曝露される水熱交換器において、異種金属の接合部を熱収縮チューブにより淡水から環境遮断している。
【0004】
また、特許文献2では、塗装、収縮チューブまたは防食テープを施すことによって、溶接部の異種金属接合部の腐食を抑制し、冷媒の漏れと発火を防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−312495
【特許文献2】特開2000−220947
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1では熱収縮チューブの収縮が不十分であったり、密着する金属表面の凹凸などによってチューブと金属管とに隙間が生じて水の侵入を遮断できなかったり、という問題がある。また、異種金属接合部が三方継ぎ手のような複雑な形状を持つ場合には、チューブを挿入することができないため腐食防止対策が取れない。
【0007】
また、特許文献2では、塗装作業性の不良により十分な効果が得られないという問題がある。さらに、熱収縮チューブの収縮が不十分であったり、密着する金属表面の凹凸などによってチューブと金属管に隙間が生じて水の侵入を遮断できなかったり、という問題がある。また、防食テープでは粘着材の耐久性の低下に伴い、界面からの水の浸入を長期に亘って防止することが難しいという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、異なる材質の金属の管を接合した接合部を防食する防食シートの施工方法において、接合部を少なくとも2箇所から熱融着性のある接着性シート上にイオン交換樹脂層を形成した防食シートで覆い、防食シートを加熱融着することを特徴とする防食シートの施工方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、異なる材質の金属の管を接合した接合部を防食する防食シートの施工方法において、接合部を少なくとも2箇所から熱融着性のある接着性シート上にイオン交換樹脂層を形成した防食シートで覆い、防食シートを加熱融着するので、配管接合部の電気化学的腐食を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施の形態1における防食シートを概略的に示す断面図である。
【図2】本発明の実施の形態1における防食シートを三方継ぎ手に施工する方法を説明するための図である。
【図3】本発明の実施の形態1における防食シートを三方継ぎ手に施工した状態を説明するための図である。
【図4】本発明の実施の形態2における防食シートを概略的に示す断面図である。
【図5】本発明の実施の形態3における防食シートを概略的に示す断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1における防食シートを概略的に示す断面図である。図1において、防食シートは熱融着性を持つ接着性シート1上に塗布形成されたイオン交換樹脂2を分散したフィルム層3からなる。
【0012】
接着性シート1は、ポリエチレンやポリエステル等の熱融着性を持つものを用いる。
【0013】
イオン交換樹脂2は、陽イオン交換樹脂と陰イオン交換樹脂とに分けられる。陽イオン交換樹脂は腐食の原因となるイオンが陽イオン(例えばNH4+)の場合に用いる。陰イオン交換樹脂は腐食の原因となるイオンが陰イオン(例えばCl-、SO42-、NO3-)の場合に用いる。もちろん、両方のイオン交換性材料を併用することも可能である。
【0014】
イオン交換樹脂2は、腐食の要因となるNH4+イオンやCl-イオンを捕捉するために用いる。これらのイオンが交換された後にはH+イオンやOH-イオンが生成するが、pHが酸性側あるいはアルカリ性側に傾くことになり、アルミ配管に腐食を生じる。このため、捕捉するイオン種に応じて陽イオン交換樹脂のH型とNa型を組み合わせてpHをアルミが腐食しないpH=4〜8の範囲内に調整する。
【0015】
以上のようなイオン交換樹脂をアクリル系樹脂などのフィルム形成材中に分散した溶液を接着性シート1上に塗布、乾燥してイオン交換樹脂が分散されたフィルム層4を形成する。
【0016】
図2は、実施の形態1における防食シートを三方継ぎ手に施工する方法を説明するための図である。作製した防食シートを適度な大きさに切断し、三方継ぎ手6の異種金属接合部を覆った後、対向するシートと重ね合わせることになる。なお、図において、同一の符号を付したものは、同一またはこれに相当するものであり、このことは明細書の全文において共通することである。また、明細書全文に表れている構成要素の形容は、あくまで例示であってこれらの記載に限定されるものではない。
【0017】
図3は、実施の形態1における防食シートを三方継ぎ手に施工した状態を説明するための図である。本防食シートにより三方継ぎ手6の被覆が完了した状態を概略的に示している。図2において重ね合わせた部分を加熱することにより接着性シートの融着部7を形成し、同時に配管材との間でも防食シートが融着され、防食シートで内部の異種金属接合部を密閉する。
【0018】
このような防食シートの施工方法をとることにより、水や腐食因子となるイオンの侵入を防ぎ、異種金属管で形成された三方継ぎ手6などの複雑な形状の配管接合部の電気化学的腐食を防止することができる。
【0019】
以上のように、異なる材質の金属の管を接合した接合部を防食する防食シートの施工方法において、接合部を少なくとも2箇所から熱融着性のある接着性シート上にイオン交換樹脂層を形成した前記防食シートで覆い、防食シートを加熱融着している。
【0020】
また、イオン交換樹脂は、陽イオン交換樹脂及び陰イオン交換樹脂の少なくともどちらか一方である。よって、防食シートは、熱融着性を持った接着性シート上に、腐食因子となるイオンを捕捉するイオン交換樹脂を分散したフィルム層を形成することになる。
【0021】
すなわち、配管側にイオン交換樹脂層を密着させるとともに接着性シートにより配管に融着することにより、水や腐食因子となるイオンの侵入を防ぎ、異種金属管で形成された三方継ぎ手などの複雑な形状の配管接合部の電気化学的腐食を防止できる。
【0022】
さらに、接合部に接続される金属の管は、3本以上であれば、接合部が複雑な形状になるため、特に有効である。
【0023】
防食シートは異種金属を接合した三方継ぎ手のような複雑な形状の接合部を包み、加熱することによって継ぎ手にシートを被覆して水の浸入を抑制できるので、異種金属接合部分において電気化学的な腐食が生じるのを防止することができる。また、配管との融着部が不十分で腐食因子を含んだ空気が内部に侵入し結露を生じた場合も、イオン交換樹脂層により腐食因子となるイオンを捕捉することによって腐食が生じるのを防止することができる。
【0024】
実施の形態2.
図4は、実施の形態2における防食シートを概略的に示す断面図である。図4において、防食シートは熱融着性を持つ接着性シート1上に断熱材4の層を形成し、断熱材4の層の上にイオン交換樹脂2を分散したフィルム層3を備えている。
【0025】
断熱材4は発泡ウレタンフォームであり、配管内を流れる冷媒と外気との差による配管の結露を防止する。例えば、三方継ぎ手を被覆する手順は、実施の形態1と同様にして行うことができるので、ここでは記載を省略する。
【0026】
このような防食シートを用いた防食シートの施工方法をとることにより、配管上に生じる結露を防ぐことができる。異種金属管で形成された三方継ぎ手6などの複雑な形状の配管接合部の電気化学的腐食を実施の形態1に比べてより効果的に防止することができる。
【0027】
また、断熱材4の層にイオン交換樹脂2を練り込むことにより、イオン交換樹脂層2をなくすこともでき、より薄いシートとすることができ、製造コストも低減することができる。
【0028】
防食シートは、熱融着性を持った接着性シート上に、イオンを捕捉するイオン交換樹脂と水分を捕捉する吸湿剤を分散したフィルム形成材を塗布している。これによって、水分を捕捉する吸湿剤を分散することで、融着が不完全で外気が侵入した場合にも結露により生じる水分を吸収し、異種金属管で形成された三方継ぎ手などの複雑な形状の配管接合部の電気化学的腐食を防止できる。
【0029】
実施の形態3.
図5は、実施の形態3における防食シートを概略的に示す断面図である。図5において、防食シートは熱融着性を持つ接着性シート1上に、イオン交換樹脂2および吸湿剤5を分散したフィルム層3からなる。
【0030】
吸湿剤5は、モレキュラーシーブ、シリカゲル等を用い、内部に浸透した水分を除去するため、イオン交換樹脂2の層に添加する。例えば、三方継ぎ手を被覆する手順は、実施の形態1と同様にして行うことができるので、ここでは記載を省略する。
【0031】
このような防食シートを用いた防食シートの施工方法をとることにより、シートの融着が不十分で、内部に浸透した水分を除去できるため、異種金属管で形成された三方継ぎ手6などの複雑な形状の配管接合部の電気化学的腐食を防止できる。
【0032】
防食シートの施工法は、防食シートで異種金属による三方継ぎ手などの複雑な形状をした接合部の金属配管に融着して被覆する。また、防食シートの施工法は、接合部の形状に合致した金型を用いることにより防食シートを隙間無く配管に被覆することができる。
【符号の説明】
【0033】
1 接着性シート、2 イオン交換樹脂、3 フィルム層、4 断熱材、5 吸湿剤、6 三方継ぎ手、7 融着部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
異なる材質の金属の管を接合した接合部を防食する防食シートの施工方法において、
前記接合部を少なくとも2箇所から熱融着性のある接着性シート上にイオン交換樹脂層を形成した前記防食シートで覆い、
前記防食シートを加熱融着することを特徴とする防食シートの施工方法。
【請求項2】
イオン交換樹脂は、陽イオン交換樹脂及び陰イオン交換樹脂の少なくともどちらか一方であることを特徴する請求項1に記載の防食シートの施工方法。
【請求項3】
粘着性シートとイオン交換樹脂層との間には、発泡ウレタンフォームを用いた断熱性材料層を設けたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の防食シートの施工方法。
【請求項4】
イオン交換樹脂層は、吸湿性材料を分散させたシートであることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の防食シートの施工方法。
【請求項5】
接合部に接続される金属の管は、3本以上であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の防食シートの施工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−116163(P2012−116163A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−270363(P2010−270363)
【出願日】平成22年12月3日(2010.12.3)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】