説明

防食被覆鋼材および防食被覆鋼材の製造方法

【課題】鋼材との密着性に優れた防食被覆を有する防食被覆鋼材および防食被覆鋼材の製造方法を提供する。
【解決手段】鋼材の少なくとも1面に改質硫黄を含む防食被覆層を有する防食被覆鋼材において、前記改質硫黄のポリマー比は、改質硫黄質量の8〜20質量%である。前記防食被覆層中の改質硫黄の含有量が20〜70質量%である。前記防食被覆層は、骨材を30〜80質量%含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として土木・建築用の資材に適用される防食被覆鋼材および防食被覆鋼材の製造方法に関し、特に改質された硫黄と硅砂等の骨材とを主成分とする防食被覆層を有する、密着性に優れた防食被覆鋼材および防食被覆鋼材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
防食被覆鋼材において求められる防食被覆の特性として、被覆層の強度、鋼材との密着性がある。防食被覆の材料としてはポリエチレンやポリウレタンなどの樹脂が一般的であるが、近年強度、耐酸性に優れる硫黄を用いた材料が注目されている。例えば特許文献1には改質された硫黄と硅砂等の骨材からなる耐酸性、強度に優れる材料が提案されており、防食被覆材料に適すると考えられる。しかし、鋼材との密着性に関しては検討されていない。
【0003】
鋼材との密着性を向上させるためには鋼材と改質硫黄を用いた材料の間にエポキシ樹脂やポリウレタン等のプライマ−などによる中間層を設ける方法があるが、被覆工程が複雑になり被覆コストがかかってしまう問題がある。
【0004】
そのため、簡便な被覆方法で密着性にすぐれる防食被覆鋼材の発明が望まれている。
【0005】
なお、特許文献2については、発明を実施するための最良の形態の項で説明する。
【特許文献1】特開2001−163649号公報
【特許文献2】特公平2−28529号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、鋼材との密着性に優れた防食被覆を有する防食被覆鋼材および防食被覆鋼材の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する本発明の手段は、下記の通りである。
【0008】
[1]鋼材の少なくとも1面に改質硫黄を含む防食被覆層を有する防食被覆鋼材において、前記改質硫黄のポリマー比は、改質硫黄質量の8〜20質量%であることを特徴とする防食被覆鋼材。
【0009】
[2]防食被覆層中の改質硫黄の含有量が20〜70質量%であることを特徴とする、[1]記載の防食被覆鋼材。
【0010】
[3]前記防食被覆層は、骨材を30〜80質量%含むことを特徴とする、[1]又は[2]記載の防食被覆鋼材。
【0011】
[4]前記防食被覆層の厚みが10〜50mmであることを特徴とする、[1]〜[3]の何れかに記載の防食被覆材。
【0012】
[5]鋼材の少なくとも1面に、ポリマー比が改質硫黄質量の8〜20質量%の範囲内にある改質硫黄を含有する防食被覆材料を被覆することを特徴とする防食被覆鋼材の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、鋼材との密着性に優れた防食被覆鋼材を提供することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の構成と限定理由を説明する。本発明の防食被覆鋼材の例を、図1に模式的に示す。図1の本発明に係る防食被覆鋼材は、鋼材1と、この鋼材1の少なくとも1面を覆うように被覆された防食被覆層2を備える。
【0015】
(鋼材)
本発明の防食被覆鋼材の母材となる鋼材としては、例えば、炭素鋼、低合金鋼及びステンレス鋼等が挙げられる。形状について特に限定はないが、土木建築資材に適用できるのもの、例えば、鉄筋、鋼管、鋳鉄管、鋼板(厚板など)、形鋼等が好ましい。また、素地鋼材に予め表面処理を施していてもよく、必要に応じて、ブラスト、ケレン、酸洗等を施してもよい。
【0016】
(防食被覆層)
本発明の防食被覆層は、改質硫黄を含み、該改質硫黄のポリマー比が改質硫黄全体を100質量%とした場合8〜20質量%である。改質硫黄は、防食被覆層のバインダーとして作用する。
【0017】
硫黄の改質方法は特許文献1に記載されている通りで、改質硫黄は、例えば135〜155℃で硫黄を溶融させ、硫黄100質量部に対して、ジシクロペンタジエン2〜20質量部を混合し、140℃における粘度が0.05〜1.2Pa・sになるように重合反応させた後に135℃以下に冷却する方法等により得ることができる。
【0018】
この改質により一部の硫黄がポリマー化し、硫黄ポリマーになる。硫黄のポリマー化については特許文献2に記載されている。この硫黄の一部ポリマー化により難燃性、耐硫黄酸化細菌性、圧縮強度等の性能を改善することが出来るが、溶融固化による被覆時やその後に熱サイクルを受けた場合に被覆が剥離する問題があった。本発明者らは、上記の問題を解決すべく種々検討し、硫黄がポリマー化すると線膨張係数が増大し、この線膨張係数の増大により被覆が剥離すること、また改質硫黄のポリマー比を適切な範囲に制御することで、防食被覆層の線膨張係数を鋼材の線膨張係数に近づき、それによって上記の問題を解決できることがわかった。
【0019】
本発明では、改質硫黄のポリマー比(改質硫黄中の硫黄ポリマーの比)を、改質硫黄全体を100質量%とした場合の8〜20質量%の範囲内に規定する。改質硫黄のポリマー比が8質量%未満では被覆剥離の問題を防止できなくなる。改質硫黄のポリマー比が20質量%を超えると融解時の流動性が低くなり被覆ができず、被覆材料に適さない。改質硫黄のポリマー比が8〜20質量%の範囲内にあると、防食被覆層の線膨張係数が鋼材の線膨張係数に近づくことで、被覆の剥離を防止して密着性に優れた防食被覆鋼材を得ることができ、また難燃性、耐硫黄酸化細菌性、圧縮強度等の改善効果を損なうこともない。
【0020】
また、用いる改質硫黄には、取扱いを容易にするための難燃性の無機資材やその他添加物を、本発明の効果を妨げない程度に、添加してもよい。ただし添加物の重量は改質硫黄中のポリマー比の計算には含めない。改質硫黄は、必要なポリマー比に調節してある市販品を使用することができ、例えば、ポリマー比が前記範囲内になるように調整した新日本石油社製のレコサール(登録商標)中間資材を用いることができることが判明している。
【0021】
また耐衝撃性の観点から、防食被覆層の固化時の厚さは10mmで以上あることが望ましく、50mm以下であることが好ましい。10mm未満では耐衝撃性に劣り、50mmを超える場合耐衝撃性を含めた防食性能の向上はみられず、経済的でないからである。
【0022】
防食被覆層には、本発明の効果を妨げない範囲で、必要に応じて骨材等の改質硫黄以外の添加物が含まれていて良い。
【0023】
特に、防食被覆層に強度を付与するために、防食被覆層への骨材の添加が好ましく、この目的にためには、硅砂、シリカ、製鋼スラグ、砕石、砂利等の公知の骨材を使用できる。その粒径は5mm以下が望ましく、5mmを超える場合被覆する際の材料の流動性が低くなり、扱いが困難になることや被覆自体に空隙ができ易くなってしまうなどの問題がある。なお、骨材の上記粒径は、その骨材がJIS Z 8801−1(2006年)に規定する公称目開き4.75mmのふるいを全て通ることで確認できる。
【0024】
本発明における骨材として、コンクリートやモルタル用の骨材として利用される市販品を用いることができる。これら市販品を使用する場合は、内容物や粒径をその市販品の仕様から決定しても問題ない。
【0025】
前述した骨材の防食被覆層中の含有量は、30質量%以下、80質量%以上であることが好ましい。30質量%未満の場合、強度不足による剥離等が生じ、80質量%を超える場合では、融解時の流動性が低くなり被覆ができず、被覆材料としては望ましい状態ではなくなる。
【0026】
次に、上記の防食被覆鋼材の製造方法の一例について、説明する。
【0027】
母材となる鋼材は、例えば、炭素鋼、低合金鋼及びステンレス鋼等が挙げられ、これらを厚鋼板、薄鋼板、形鋼および鋼管などの種々の形状にしたものを用いることが出来る。鋼の化学成分、鋼材の製造方法は特に限定されない。
【0028】
次に防食被覆層の被覆方法を示す。まず防食被覆層との密着性確保のため前記鋼材の清浄化処理を行う。鋼材表面に残る汚れや酸化スケールを取り除き、また表面に適度な凹凸を与えるためブラスト処理を行う。清浄化処理の方法はブラスト処理に限定されず、鋼材表面の汚れや酸化スケールを除去して鋼材表面に適度な凹凸を付与する機能があればブラスト処理以外の方法でもよい。
【0029】
次に防食被覆層の被覆を行う。防食被覆層中のバインダーとなる改質硫黄は、ポリマー比が本発明範囲内にあるの市販品をそのまま使用することができ、例えば、ポリマー比が本発明範囲内にあるの新日本石油社製のレコサール(登録商標)中間資材を用いることができる。このポリマー比が本発明範囲内にあるの改質硫黄を120〜150℃に加熱融解させ、そこに骨材や必要に応じてその他の添加物を加え、防食被覆層の材料とする。骨材は前述の通りコンクリートやモルタル用の骨材として利用される市販品を用いることができる。骨材の量は防食被覆層を100質量%とした場合に対し30〜80質量%であるのが望ましい。30質量%未満であると強度不足による剥離等が生じる可能性があり、80質量%を超えると被覆する際融解した状態での流動性が低くなり被覆することができなくなる場合がある。
【0030】
被覆方法としては、特に限定されず型枠流し込みや吹付け塗布などで行うことが出来る。防食被覆層の固化時の厚さは、10mm以上、50mm以下であることが好ましい。固化時の厚さが10mm未満では耐衝撃性に劣り、50mmを超えると耐衝撃性を含めた防食性能の向上はみられず、経済的でないからである。防食被覆層の被覆後、数時間放冷することで本発明の防食被覆鋼材が得られる。
【0031】
上述したところは、この発明の実施形態の一例を示したにすぎず、特許請求の範囲内において種々の変更を加えることができる。
【実施例】
【0032】
本発明の実施例について説明する。
被覆される鋼材として、熱延鋼板(JIS SS400)を選んだ。この鋼材を100mm×100mm×6mmの寸法に切断後、スチールグリッドブラストによりその表面粗さを十点平均粗さで50μm程度とした。
【0033】
一方、表1に示すポリマー比の新日本石油社製レコサール(登録商標)中間資材を150℃に加熱融解し、そこに骨材として、硅砂3号と硅砂7号とを表1の含有量になるように加え混練した。
【0034】
本実施例で使用した硅砂3号は粒径が0.6〜2.4mm程度、硅砂7号は粒径が50〜400μm程度で、JIS Z 8801−1(2006年)に規定する公称目開き4.75mmのふるいをすべて通過する粒径である。硅砂には統一規格がないため、同じ号数であっても業者間で多少の差があるが、硅砂3号、硅砂7号といえばほぼ同様のものを入手可能である。
【0035】
この混練物を防食被覆層の材料とした。次に、上記熱延鋼板を150℃の加熱炉で10分加熱した。これを型枠中に設置し、そこに溶融状態の上述の防食被覆層材料を流し込み、所定の乾燥膜厚となるように被覆した。その後、室温まで冷却した後型枠をはずして、No.1〜No.7の防食被覆鋼板を得た。
【0036】
比較例として、改質硫黄のポリマー比が8質量%未満の場合をNo.8、9として作成した。また改質硫黄のポリマー比が20質量%を超える場合をNo.10として作成した。
【0037】
以上のようにして得られた各防食被覆鋼板について各種試験を行った。本実施例で行った試験の評価方法を以下に示す。
【0038】
(評価方法)
(1)密着性
図2に示すように、上記で作製した各防食被覆鋼板3の鋼板部分1を固定具4で固定し、被覆2断面上面に100×20×3mmtの鋼板5をあて、それを鋼板面に平行に下方に一定速度(1mm/min)で押しこみ、被覆剥離時の荷重Pを測定し、これを防食被覆鋼板の面積で割ったものを付着強度とした。試験は室温で行った。
【0039】
(2)耐衝撃性
ASTM G14に準拠し、先端径15.9mm、重量5kgfの落錘を用いた−20℃での落錘衝撃試験で行った。防食被覆層の破壊は目視、および20kVの通電試験で確認し、破壊の生じない限界高さから衝撃強度を求めた。
【0040】
上記各試験の評価結果を表1に示す。
【0041】
【表1】

【0042】
No.1〜7は、付着強度が1.1MPa以上と良好であった。No.8、9は、ポリマー比が8%未満であったため、線膨張係数が大きくなり付着強度に劣る。No.10はポリマー比が20%を超えたため融解時の粘度が高くなり被覆出来なかった。
【0043】
また、No.1〜7は、防食被覆層中の骨材量が、防食被覆層全体に対し30質量%以上、80質量%以下の範囲内であるので、衝撃強度が50J以上となり、強度を確保できた。
【0044】
以上より、本発明の範囲内であれば、密着性に優れた防食被覆鋼材が得られることが、明らかになった。さらに、骨材量が本発明の範囲内であれば、強度を確保できるので、さらに望ましいことが明らかになった。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明によれば、鋼材との密着性に優れた防食被覆を有する防食被覆鋼材を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の防食被覆鋼材の一構成例を示す断面図である。
【図2】実施例の密着性の評価方法を示す模式図である。
【符号の説明】
【0047】
1 鋼材(熱延鋼板)
2 防食被覆層
3 防食被覆鋼材(防食被覆鋼板)
4 固定具
5 鋼板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼材の少なくとも1面に改質硫黄を含む防食被覆層を有する防食被覆鋼材において、前記改質硫黄のポリマー比は、改質硫黄質量の8〜20質量%であることを特徴とする防食被覆鋼材。
【請求項2】
防食被覆層中の改質硫黄の含有量が20〜70質量%であることを特徴とする、請求項1記載の防食被覆鋼材。
【請求項3】
前記防食被覆層は、骨材を30〜80質量%含むことを特徴とする、請求項1又は2記載の防食被覆鋼材。
【請求項4】
前記防食被覆層の厚みが10〜50mmであることを特徴とする、請求項1〜3の何れかの項に記載の防食被覆材。
【請求項5】
鋼材の少なくとも1面に、ポリマー比が改質硫黄質量の8〜20質量%の範囲内にある改質硫黄を含有する防食被覆材料を被覆することを特徴とする防食被覆鋼材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−149442(P2010−149442A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−331765(P2008−331765)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】