説明

除細動電極および植込み型除細動システム

【課題】開胸を伴わずに取り付けることができ、より小さいエネルギーで除細動を行うことができる除細動電極を提供する。
【解決手段】本発明の除細動電極21は、電極面23Aを有する電極部23と、先端側が電極部に接続され、自身への回転操作を電極部に伝達可能なリード部24と、リード部の基端側において、リード部の周方向の一部に形成された指標部28Aと、リード部の基端部に設けられ、植込み型除細動器と接続されるコネクタ30とを備え、電極面は、リード部の周方向の一部に形成されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、心臓の除細動を行うための電極を体内に留置するための除細動電極留置システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、神経刺激装置、疼痛緩和装置、てんかん治療装置、および筋肉刺激装置等の、電気的刺激を直接または間接的に神経組織および筋肉等の各種生体組織に与え、治療を行う刺激発生装置が知られている。これらの刺激発生装置は内部に電源を有し、通常電気的刺激を伝達する刺激電極とともに生体に埋め込まれて使用される。
【0003】
一般に、刺激電極は、生体組織に電気的刺激を与え、もしくは生体組織に生じる電気的興奮を検出するための少なくとも1つの電極と、刺激発生装置と電気的に接続するための電気コネクタと、電極と刺激発生装置との間に設けられ電気的刺激を伝達するためのリード部とを有している。
【0004】
例えば、特許文献1には、刺激発生装置として植込み型自動除細動器を備える除細動システムが記載されている。この除細動システムは、皮下に植込むのに好適な一対の皮下パッチ電極(除細動電極)と、各皮下パッチ電極と除細動器とを接続する一対の電気リード線とを有している。
一対の皮下パッチ電極の一方は、患者の前胸部側にて、胸郭の外側に形成した皮下ポケットに植込まれる。他方は、患者の背側にて、胸郭の外側に形成した皮下ポケットに植込まれる。このため、植え込む際に開胸が必要なく、患者に与える侵襲を抑えて取り付けることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2005−523786号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の除細動システムは、取り付け時の侵襲を低く抑えることができるものの、一対の皮下パッチ電極間には、胸腔内の空間や、肺等の他臓器が存在しているため、心室細動を停止させるために必要とされる除細動エネルギーは比較的大きいと推測される。したがって、除細動システムの電源の持続期間が短くなったり、交換頻度等が多くなったりする恐れがある。
【0007】
本発明は、上述したような事情に鑑みてなされたものであって、開胸を伴わずに取り付けることができ、より小さいエネルギーで除細動を行うことができる除細動電極を提供することを目的としている。
本発明の他の目的は、開胸を伴わずに取り付け手技を行うことができ、より小さいエネルギーで除細動を行うことができる植込み型除細動システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第一の態様である除細動電極は、電極面を有する電極部と、先端側が前記電極部に接続され、自身への回転操作を前記電極部に伝達可能なリード部と、前記リード部の基端側において、前記リード部の周方向の一部に形成された指標部と、前記リード部の基端部に設けられ、植込み型除細動器と接続されるコネクタとを備え、前記電極面は、前記リード部の周方向の一部に形成されていることを特徴とする。
【0009】
本発明の除細動電極は、前記電極部および前記リード部の少なくとも一方に設けられ、前記リード部の径方向における最大寸法が前記電極部および前記リード部よりも大きいストッパをさらに備えてもよい。
また、前記ストッパは、前記リード部の軸線方向に見て非軸対称な形状であってもよい。
【0010】
本発明の第二の態様である除細動電極は、本発明の除細動電極と、前記コネクタが接続される植込み型除細動器と、前記除細動電極を挿通可能または並走するように取り付け可能であり、先端側が生体組織を鈍的切開可能に構成された導入部材と、前記導入部材の前方を観察する観察手段とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の除細動電極によれば、開胸を伴わずに取り付けることができ、より小さいエネルギーで除細動を行うことができる。
また、本発明の植込み型除細動システムによれば、開胸を伴わずに取り付け手技を行うことができ、より小さいエネルギーで除細動を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第一実施形態に係る除細動電極の取り付け位置を示す図である。
【図2】除細動電極の取り付け位置を異なる断面で示す図である。
【図3】除細動電極の取り付け位置を異なる断面で示す図である。
【図4】同除細動電極の正面図である。
【図5】同除細動電極の左側面図である。
【図6】同除細動電極のリード部における導線の断面図である。
【図7】リード部と電極部との接続部位における断面図である。
【図8】同除細動電極の留置手技の準備状態を示す図である。
【図9】同留置手技の一動作を示す図である。
【図10】同留置手技における各除細動電極の導入経路を示す図である。
【図11】同留置手技の一動作を示す図である。
【図12】指標部の他の例を示す図である。
【図13】指標部の他の例を示す図である。
【図14】本発明の第二実施形態に係る除細動電極の正面図である。
【図15】同除細動電極の左側面図である。
【図16】同除細動電極の変形例を示す正面図である。
【図17】同変形例を示す正面図である。
【図18】他のストッパを備えた変形例の除細動電極の先端側拡大図である。
【図19】同除細動電極の先端側を異なる角度から見た拡大図である。
【図20】他のストッパを備えた変形例の除細動電極の先端側拡大図である。
【図21】本発明の第三実施形態に係る除細動電極の正面図および底面図である。
【図22】同除細動電極の左側面図である。
【図23】本発明の変形例の植え込み型除細動システムにおける内視鏡を示す図である。
【図24】同内視鏡の先端側を示す断面図である。
【図25】本発明の変形例の植え込み型除細動システムにおける内視鏡の他の例を示す図である。
【図26】本発明の変形例の植え込み型除細動システムにおける内視鏡の他の例を示す図である。
【図27】同内視鏡の先端側を示す断面図である。
【図28】本発明の変形例の植え込み型除細動システムにおける内視鏡の他の例を示す図である。
【図29】同内視鏡の先端側を示す拡大図である。
【図30】同植え込み型除細動システムに用いられるホルダを示す図である。
【図31】同ホルダとキャップを通常の内視鏡に取り付けた例を示す図である。
【図32】除細動電極の留置位置の他の例を示す図である。
【図33】除細動電極の留置位置の他の例を示す図である。
【図34】除細動電極の留置位置の他の例を示す図である。
【図35】同例における除細動電極の導入経路を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の第一実施形態について、図1から図13を参照して説明する。
図1から図3は、本実施形態における除細動電極の取り付け(留置)位置を示す図である。図1および図2に示すように、本実施形態の植込み型除細動システム(以下、単に「除細動システム」と称する。)1は、除細動のための電気刺激を発生する植込み型除細動器(以下、単に「除細動器」と称する。)10と、心臓のHtの周囲に留置される一対の除細動電極21、22とを備えている。一対の除細動電極21、22は、本発明の除細動電極であり、それぞれ除細動器10と接続されている。
【0014】
一対の除細動電極のうち、一方の除細動電極21は、心臓Htよりも背側であって左心房LAの近傍に留置される。他方の除細動電極22は、心臓Htよりも前胸部側であって左心室LVの近傍に留置される。図3に示すように、除細動電極21、22が留置されるのは、胸腔内の空間ではなく、心臓Htの周囲に存在する組織内である。この組織(以下、「周辺組織」と称する。)は比較的柔らかい疎性結合組織を多く含んでおり、後述する留置時の手技において、比較的容易に鈍的切開を行って留置位置まで到達することができる。
【0015】
図4は、除細動電極21を示す正面図、図5は同左側面図であり、いずれも底面図を併せて示している。ここでは除細動電極21についてのみ説明するが、除細動電極22についても構造は同一である。
【0016】
除細動電極21は、心臓に電気刺激を印加する電極部23と、電極部23と除細動器10とを接続するリード部24とを備えている。電極部23は、生体適合性の高い金属素線、例えばφ0.3ミリメートル(mm)の白金イリジウム線を巻いてコイル26とし、その外周面の一部を絶縁性材料からなる被覆層25で被覆して形成されている。被覆層25の材料としては、生体適合性の高い、例えばシリコーンゴム等を用いることができる。本実施形態の被覆層はシリコーンゴム製であり、円筒状のコイル26の外周面を略半周分被覆している。これにより、コイル26の外周面は、半周分程度だけ露出されて電極面23Aとなっており、電極面23Aのみから電気エネルギーが印加される。
【0017】
リード部24は、コイル状に巻かれた導線27と、導線27を被覆する絶縁性のチューブ28とを備えている。導線27は、公知の35NLT線を図6に示すような1×7の撚り線とし、外周面を絶縁層29で覆って形成されている。絶縁層29の材料としては、例えばETFE等の各種樹脂等を用いることができる。コイル状の導線27のループの外径は、コイル26のループの内径より小さく、導線27からなるコイルの端部が、絶縁層29が除去された状態でコイル26の内腔に進入し、レーザー溶接等により接合されることで、図7に示すように、導線27とコイル26を形成する金属素線とが電気的に接合されている。なお、図7では、図を見やすくするため、導線27の詳細な断面構造は省略して示しているが、上述の通り、導線27とコイル26との接続部位では絶縁層29は除去されている。
【0018】
チューブ28としては、例えばφ2mm程度のポリウレタン製又はシリコーンゴム製のものを好適に用いることができる。図7に示すように、導線27がコイル状に巻かれてチューブ28内に収容されているため、リード部24は屈曲耐性が高く、屈曲されても断線等が起きにくく構成されている。また、リード部24に対する軸線回りの回転操作は、電極部に好適に伝達されるため、リード部24を軸線回りに回転させることで、電極面23Aの向きを調節することができる。
【0019】
チューブ28の外周面には、他の部位と識別可能な指標部28Aが周方向の一部に印刷により設けられている。指標部28Aが設けられた部位は、電極部23の電極面23Aと周方向における位相が略一致している。したがって、術者は、指標部28Aを目安に電極面23Aの向きを調節することができる。導線27はリード部24の基端部に設けられたコネクタ30まで延びており、コネクタ30を介して除細動電極21と除細動器10とが接続される。コネクタ30は、除細動器の種類等に応じて、適宜IS1、DF1等の各種規格に基づいたものを用いることができる。
【0020】
上記のように構成された除細動システム1の、本実施形態における留置手技について説明する。
まず術者は、手技前の準備作業として、図8に示すように、筒状の導入部材101に内視鏡等の観察手段102および一方の除細動電極21を挿入する。導入部材101は、例えば樹脂製の外径φ8mm、内径φ7mm、長さ200mmの円筒管であり、生体へ先に導入される先端部101Aは軸線に対して角度をなす斜面状に形成されており、反対側の基端部には誤挿入を防ぐフランジ101Bが形成されている。導入部材101の材質としては、後述するように周辺組織を鈍的切開して前進できる程度の剛性を有するものであれば特に制限はなく、樹脂等を好適に用いることができる。すなわち、公知のトロッカー等も寸法等を考慮して適宜使用することができる。
【0021】
観察手段102は、例えば径4〜5mmの硬性の内視鏡であり、生体外に設置されたモニター103、光源104、および画像出力アンプ105等に接続されている。
以上で準備作業は終了するが、除細動電極21は、必ずしもこのときに挿入する必要はなく、導入部材101が留置位置付近に到達した後に挿入されてもよい。
【0022】
次に術者は、図9に示すように、患者Pの胸郭上口Ti付近の生体表面に小切開(挿入部位)を形成し、導入部材101の先端部101Aを挿入する。導入部材101の挿入後、術者は、観察手段102で導入部材101の前方およびその周囲の様子を確認しながら、導入部材101のフランジ101Bを持って軸線方向に力を加え、体内に向かって押し込む。
【0023】
図10に示すように、胸郭上口Tiは気管Tcに近い位置にあるため、導入部10を挿入すると、程なくして観察手段102の視野内に、白っぽい管状の気管が見えてくる。導入部10を気管Tcに沿って進めることで、容易に左心房LAの背側に到達することができるため、気管Tcをガイドとして利用することができる。
【0024】
導入部材101の周囲には比較的柔らかい疎性結合組織が多く存在しているため、斜面状の先端部101Aを先頭にして押し込むことで、前方に存在する周辺組織を鈍的に切開して前進させることができる。したがって、導入部材として金属パイプのような剛性の高いものを用いる必要はなく、前進させるために押し込む際にも大きな力量は必要ない。また、導入部材101を気管に沿って進めると、気管と気管周囲の周辺組織との界面が裂けやすいため、さらに容易に鈍的切開を進めることができる。気管は周囲を軟骨に覆われているため、先端部101Aが過剰に鋭くない限り、その前進によって気管を傷つける恐れはない。疎性結合組織には血管は少なく、先端部101Aが鋭利でなければ血管等を切断することもほとんどないため、前進させている間の出血はそれほど多くなく、患者に与える侵襲も小さい。
【0025】
導入部材101に挿入された観察手段102は、導入部材101に対して軸方向に進退可能であり、かつ自身の軸線回りに回転可能である。したがって、術者は導入部材101内で観察手段102を適宜操作することにより、導入部材101の前方および周囲全体を好適に観察できる。したがって、周辺組織や臓器等を確認しながら、留置位置である左心房の近傍背側まで容易に導入部材101の先端部101Aを進めることができる。
【0026】
導入部材101の先端部101Aが留置位置付近に到達したら、術者は導入部材101の先端開口から除細動電極21を突出させる。このとき、除細動電極21のリード部24の内腔にスタイレット(芯金)を挿入し、除細動電極21の剛性を一時的に高めて操作しやすくしてもよい。
【0027】
術者は、指標部28Aを見ながら除細動電極21を軸線回りに所望量回転させ、電極面23Aが前胸部側に向き、左心房LAに対向するように除細動電極21の向きを調節する。なお、除細動電極21の留置時等に、図示しないシリンジを用いて導入部材101の基端側から生理食塩液(生食)を注入すると、観察手段102の視野を明瞭にすることができる。また、生食に代えて二酸化炭素ガスを供給してもよい。この場合、導入部材の基端側にOリング等の水密部材を取り付け、水密部材を観察手段および除細動電極と密着させて導入部材基端側の気密、水密状態を確保してもよい。
【0028】
除細動電極21の向きを調節したら、術者は除細動電極21を保持しつつ、導入部材101および観察手段102を除細動電極21に対して後退させて体外に抜去する。導入部材101が進入したアクセス経路には、もともと周辺組織が隙間なく配置されていたため、導入部材101の抜去に伴い、導入部材101の通った経路は、周辺組織等により隙間なく埋められる。したがって、導入部材101の抜去後は、保持された除細動電極21の周囲にもほぼ隙間なく周辺組織等が配置され、除細動電極21は、周辺組織等により位置決めされた状態で留置位置に留置される。このため、除細動電極21の留置後に、除細動電極21を組織に固定するための縫合等を行う必要はない。また、胸郭上口付近は、患者の体動による動きも少ないため、電極位置が安定しやすい。
【0029】
次に術者は、上述と概ね同様の手順でもう一方の除細動電極22を留置する。このときは、図11に示すように、患者Pの剣状突起Xp付近の生体表面に小切開を形成し、導入部材101の先端部101Aを挿入する。その後、肋骨に沿って鈍的剥離を行いながら肋骨の背側を進ませ、留置位置である左心室の近傍前胸部側に導入部材101の先端部101Aを到達させる。このとき術者は、胸骨体Bsをガイドとして利用することができる。
【0030】
除細動電極21および22の留置後、各除細動電極21、22のリード部は生体皮下を経由して、コネクタ30が胸部皮下に植え込まれる除細動器10と接続される。除細動器10が皮下に植え込まれると、除細動システム1の留置が終了する。
【0031】
留置後の除細動システム1の動作は、公知の除細動システムと概ね同様である。すなわち、除細動電極21および22により患者Pの心電波形が常時監視され、心室細動等の所定の波形が検出されると、除細動器10から除細動のための電気エネルギーが除細動電極21、22間に印加される。一対の除細動電極は、心臓Htを患者Pの前後方向から挟むように心臓Htの近傍に留置されているため、比較的少ない電気エネルギーで除細動を行うことができる。
【0032】
以上説明したように、本実施形態の除細動電極および除細動システム1によれば、電極部23においてコイル26の外周面の一部が絶縁被覆されることにより、周方向の一部にだけ電極面23Aが露出されているため、電極面23Aを心臓Htに向けて留置することにより、除細動のための電気エネルギーを、もっぱら心臓のみに印加することができる。したがって、電気エネルギーが他の組織を刺激したり、除細動に必要な電気エネルギーが増大したりすることを好適に抑制することができる。
【0033】
また、リード部24の外周面には、電極面23Aと略同一の位相の位置に指標部28Aが設けられているため、術者は指標部28Aを見ながら除細動電極を回転操作することで、容易に電極面の向きを調節することができる。
指標部がない場合、例えば被覆層25がシリコーンゴムで形成されていると、X線透視下ではほとんど被覆層を視認できないため、X線透視像を見ながら電極面の向きを調節することは非常に困難である。X線不透過剤をシリコーンゴムに混入した材料で被覆層を形成することも考えられるが、除細動電極自体が通常径数mm程度と小さいため、電極面の向きの識別および調節には術者の熟練と高解像度のX線透視装置が必要となると思われる。本発明の除細動電極は、これを解決するものであり、熟練や高解像度のX線透視装置を必要とせずに好適な留置を可能とするものである。
【0034】
また、上述した除細動電極の留置方法によれば、特許文献1に記載のように心臓を挟むように一対の除細動電極を皮下に留置する方法に比して、遥かに心臓に近い位置で心臓を挟むように一対の除細動電極を留置することができるため、より少ない電気エネルギーで除細動を行うことが可能となり、除細動システムの電源の持続時間延長や交換頻度の低減が可能となる。さらに、胸膜をトロッカー等で貫通して胸腔内からアクセスする方法や、血管を切開して血管内に電極を留置する等の方法に比べて、より短時間かつ低侵襲で電極を留置することができる。
【0035】
本発明の除細動電極において、リード部24のチューブとして、絶縁性のチューブの肉厚内にステンレス等の金属素線からなる円筒網組体(ブレード)を内装して剛性を高めたものが使用されてもよい。このようにすると、絶縁性および柔軟性を保持しつつ、リード部に対する術者の回転操作(トルク)を電極部に好適に伝達でき、生体内で電極部を容易に回転させることができる。
【0036】
また、指標部の具体的態様は、上述のものに限定されず、他の部位と識別可能であれば特に制限はない。例えば、図12に示すように、色彩の異なる部材28Bを取り付けて指標部としたり、図13に示すように、所定の形状の模様28Cを印刷等により形成して指標部としたりしてもよい。また、金属からなる薄板状の部材を用いて電極部23付近のリード部に指標部を設ければ、X線透視下で視認可能な指標部とすることもできる。このとき、当該部材をチューブの肉厚内に配置して、X線透視下のみで視認できる指標部としてもよい。
【0037】
次に、本発明の第二実施形態について、図14から図20を参照して説明する。本実施形態の除細動電極は、ストッパを備えている点で第一実施形態のものと異なっている。なお、以降の説明において、すでに説明したものと共通する構成については、同一の符号を付して重複する説明を省略する。
【0038】
図14は、本実施形態における除細動電極41の正面図であり、図15は除細動電極41の左側面図である。電極部23の先端部には、例えば径4mm程度の球状のストッパ42が取り付けられており、径方向の寸法が増大されている。ストッパ42は絶縁性の材料で形成されており、被覆層25と同一の材料で形成されてもよい。
【0039】
上記のように構成された除細動電極41は、上述した手順で生体内に留置された後、体動等により体外に引き出されるような力が作用すると、径方向の寸法が増大されたストッパ42が周囲の組織と干渉し、除細動電極41が体外に抜け出ることを好適に防止することができる。したがって、留置後、より安全に使用することができる。
【0040】
ストッパ42を設ける位置は、電極部の先端部に限られず、例えば図16および図17に示す変形例のように、リード部24に設けられてもよい。また、径方向の最大寸法が電極部またはリード部における円筒状の基本形状部分よりも増大されていれば、その形状および個数に特に制限はない。したがって、円盤状等の他の形状であってもよい。
【0041】
図18および図19に示す変形例では、電極部23の先端に棒状のストッパ43が設けられている。ストッパの形状を、除細動電極の軸線方向に見て軸対称でない形状にすることで、留置後に除細動電極が軸線方向に移動するのを規制するだけでなく、軸線回りに回転することも規制することができる。したがって、留置後に電極面23Aの向きが留置直後の状態から変化し、心臓に正対しなくなる等の不都合を好適に抑制することができる。また、ストッパの外面は曲面状のものに限られず、図20に示すようにエッジ44Aを有するようなストッパ44が設けられてもよい。
【0042】
次に、本発明の第三実施形態について、図21および図22を参照して説明する。本実施形態の除細動電極は、電極面の形状が上述の各実施形態のものと異なっている。
【0043】
図21は、本実施形態の除細動電極51の正面図および底面図であり、図22は除細動電極51の左側面図である。電極部52はコイル26を備えず、基本形状部分は、被覆層25と同様の材料で例えば幅4mm、長さ50mmの平坦な長円形に形成されている。電極部52の厚さ方向の一方の面である正面には、コイル26の素線と同様の金属素線53が例えばピッチ1mm程度で格子状に配置されており、電極面52Aが形成されている。除細動電極51の正面視において、電極部52の幅方向の寸法はリード部24よりも大きく、電極面52Aの面積は第一実施形態における電極面23Aの面積よりも大きくなっている。
【0044】
本実施形態の除細動電極51によれば、電極面を大きく形成できるだけでなく、平坦にすることで電極面のうち心臓と正対する領域の割合を増加させることができるため、より効率よく心臓に電気エネルギーを印加することができる。
また、電極部の形状が回転対称ではないため、第二実施形態と同じく留置後に除細動電極が軸線方向に移動するのを規制するだけでなく、軸線回りに回転することも規制することができる。
【0045】
本実施形態においては、電極面に配置する金属素線を必ずしも格子状に配置する必要はなく、例えば除細動電極の軸線方向に平行な方向や軸線方向に直交する方向等の所定の一方向にのみ延びるように配置してもよい。
また、電極面を心臓表面と同程度の曲率を有する凹面状に形成して、心臓と正対する領域の割合をさらに増加させてもよい。
【0046】
以上、本発明の各実施形態を説明したが、本発明の技術範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において構成要素の組み合わせを変えたり、各構成要素に種々の変更を加えたり、削除したりすることが可能である。
【0047】
まず、本発明の除細動システムにおいては、導入部材および観察手段について、様々な変更が可能である。以下にその変形例をいくつか示す。
【0048】
図23に示す変形例の除細動システム110では、観察手段である内視鏡111の挿入部112が導入部材を兼ねている。除細動電極21は、内視鏡111の挿入部112に設けられたチャンネル112Aに基端側の開口から挿入されて留置位置まで導入される。
【0049】
図24に断面で示すように、内視鏡111において、CCD等からなる撮像部113の先端には、組織内における視野を確保するために、樹脂等で透明に形成されたキャップ114が取り付けられている。キャップ114は、撮像部113からキャップ114の周囲を観察可能な程度の透明性を有するものであれば、所望の着色が施されていてもよい。キャップ114は、挿入部112に接続される基端側の円筒部114Aと、より先端側の円錐部114Bとを有している。
【0050】
円錐部114Bは、先端の曲率半径が、例えば0.2mm程度に設定されており、鋭利でない先端を有する。円錐部114Bを先頭にして内視鏡111を押し込むことにより、キャップ114の周囲に存在する組織を鈍的に切開しながら留置位置付近まで導入することができる。また、チャンネル112Aの開口が円錐部114Bと略平行となるように挿入部112の先端側が斜めにカットされており、生体内への導入時に組織と引っかかりを生じにくくなっている。
【0051】
この変形例では、挿入部112が導入部材を兼ねているため、作業前の準備が簡略化され、留置手技中の操作性も向上させることができる。
なお、内視鏡の先端部に撮像部を設ける代わりに、挿入部に配置された光ファィバーにより観察像を伝送する構成としても構わない。
【0052】
また、図25に示す除細動システム120のように、挿入部122が湾曲可能な、いわゆる軟性の内視鏡121が用いられてもよい。このようにすると、留置位置までの経路が湾曲や蛇行している場合でも、挿入部122が良好に追従することによりスムーズに導入することができる。
【0053】
さらに、図26に示すように、内視鏡111Aの挿入部115の先端が斜面状に形成されてもよい。この場合、図27に示すように、挿入部115先端の斜面115Aの基端側にチャンネル112Aの先端開口を形成し、斜面115Aの先端側に撮像面113Aが斜面と平行となるように撮像部113を配置すると、先端開口から突出する除細動電極21が観察しやすく、好適に手技を行うことができる。
【0054】
図28に示す変形例の除細動システム130では、内視鏡131が導入部材をかねているが、除細動電極21はチャンネルに挿通されず、内視鏡131の挿入部132と並走するように配置される。
図29に内視鏡131の先端側を拡大して示す。挿入部132の先端には、キャップ114とほぼ同様のキャップ133が装着されている。本実施形態のキャップ133は、キャップ114と異なり、内視鏡132の先端部全体を覆うため、内視鏡132の視野を照明するLEDやライトガイド等の照明部(不図示)もキャップ133内に位置することになる。したがって、照明部から照射された照明光のハレーション等を防ぐため、必要に応じて、円筒部133A内腔の先端側の面を、所定の曲率を有するように形成したり、光学的なコーティング膜を形成したりして、照明光が観察の妨げとならないように構成してもよい。
【0055】
挿入部132の先端付近には、除細動電極を並走するように保持するためのホルダが取り付けられている。図30に示すように、ホルダ134には、挿入部132が挿通される貫通孔134Aと、貫通孔134Aと平行に延びる取り付け溝134Bとが設けられている。取り付け溝134Bの幅は、電極部23の径と略同一であり、電極部23を取り付け溝134Bにはめ込むことで、除細動電極が挿入部と並走するように保持される。
【0056】
この変形例を用いた留置手技では、電極部23を取り付け溝134Bにはめ込んだ状態で内視鏡131を留置位置付近まで導入する。内視鏡132の先端部が留置位置付近に到達したら、除細動電極21を内視鏡131に対して後退させて電極部23をホルダ134から外す。このとき、除細動電極21を保持して内視鏡131を前進させてもよいし、内視鏡131を保持して除細動電極21を後退させてもよいが、除細動電極を単独で前進させることは、その剛性に鑑みて容易でない場合があるため、いずれの操作を行うかは内視鏡と留置位置との位置関係等を考慮して決定すればよい。
【0057】
除細動電極21とホルダ134との係合が外れたら、術者は内視鏡131の挿入部132を軸線回りに回転させ、ホルダ134を除細動電極21と干渉しない位置に移動させてから抜去する。その後、必要に応じて除細動電極21の位置および向きを微調整すると、除細動電極21の留置が完了する。
【0058】
上述のキャップ133およびホルダ134を既存の内視鏡に取り付けると、図31に示すように、一般的な内視鏡を導入部材および観察手段として利用しつつ、除細動電極の留置を行うことができるため、専用の内視鏡等を準備する必要がなく、簡便である。なお、図31には内視鏡の例として、軟性の内視鏡121を示しているが、硬性の内視鏡に取り付けることももちろん可能である。
【0059】
また、電極の留置手技においても、様々な変更が可能である。
図32および図33に示す変形例では、胸郭上口側から2つの除細動電極が留置されている。除細動電極21に加えて留置された第三の除細動電極140は、胸郭上口から導入されて右心房RAの近傍背側に留置されている。このようにすると、右心房RA側にも電気エネルギーを印加することができ、病態に応じたより適切な電気刺激を行うことができる。
【0060】
図34および図35に示す変形例では、一対の除細動電極21、22の両方が胸郭上口Tiから導入されている。左心室LVの前胸部側に留置される除細動電極22は、図35に示すように、胸郭上口Tiから肋骨の裏側(背側)に入り、肋骨に沿って導入部材を進めることで留置位置に到達させることができる。この場合は、胸骨体Bsをガイドとして利用することができる。なお、胸骨体Bsの背側には、胸腺Thが存在している。一般的に胸腺は成人では退縮していることが多いが、成人でも比較的胸腺が大きい場合や、患者が小児である等の場合は、観察手段で胸腺Thの位置を確認し、胸腺Thを損傷しないように導入するよう注意する。
【0061】
さらに、本発明は、以下の技術思想を含むものである。
(付記項1)
先端部が生体組織を鈍的切開可能に構成された導入部材を用いて心臓の周辺組織内の所定位置ヘアプローチするアプローチ方法であって、
胸部を切開して前記導入部材の挿入部位を形成し、
前記挿入部位に前記導入部材の先端部を挿入し、
前記先端部で周囲の周辺組織を鈍的に切開しつつ前記導入部材を前進させ、
観察手段で前記切開部材の周囲を観察し、前記所定位置付近まで前記先端部を移動させる。
(付記項2)
付記項1に記載のアプローチ方法であって、前記挿入部位を胸郭上口に形成する。
(付記項3)
付記項2に記載のアプローチ方法であって、導入部を気管に沿って前進させる。
(付記項4)
付記項2に記載のアプローチ方法であって、導入部を胸骨体に沿って前進させる。
(付記項5)
付記項2から4のいずれか一項に記載のアプローチ方法であって、前記先端部が前記所定位置付近に位置しているか否かを、X線透視画像を用いて判断する。
【符号の説明】
【0062】
1、110、120、130 植え込み型除細動システム
10 植え込み型除細動器
21、22、41、51、140 除細動電極
23、52 電極部
23A、52A 電極面
24 リード部
30 コネクタ
42、43、44 ストッパ
101、導入部材
102 観察手段
111、121、131 内視鏡(導入部材、観察手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極面を有する電極部と、
先端側が前記電極部に接続され、自身への回転操作を前記電極部に伝達可能なリード部と、
前記リード部の基端側において、前記リード部の周方向の一部に形成された指標部と、
前記リード部の基端部に設けられ、植込み型除細動器と接続されるコネクタと、
を備え、
前記電極面は、前記リード部の周方向の一部に形成されていることを特徴とする除細動電極。
【請求項2】
前記電極部および前記リード部の少なくとも一方に設けられ、前記リード部の径方向における最大寸法が前記電極部および前記リード部よりも大きいストッパをさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の除細動電極。
【請求項3】
前記ストッパは、前記リード部の軸線方向に見て非軸対称な形状であることを特徴とする請求項2に記載の除細動電極。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の除細動電極と、
前記コネクタが接続される植込み型除細動器と、
前記除細動電極を挿通可能または並走するように取り付け可能であり、先端側が生体組織を鈍的切開可能に構成された導入部材と、
前記導入部材の前方を観察する観察手段と、
を備えることを特徴とする植込み型除細動システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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