説明

除鉄・除マンガン装置、除鉄・除マンガン方法、除鉄・除マンガン用酸化触媒、および除鉄・除マンガン酸化触媒の製法

【課題】本発明は、通水抵抗が小さくしかも高効率で除鉄・除マンガンを行える装置と方法を提供する。
【解決手段】被処理水に酸化剤としての過マンガン酸塩溶液を注入する酸化剤注入装置2と、酸化剤を注入した被処理水を導入し、二酸化マンガンが固定されている酸化触媒Cにより溶存鉄および溶存マンガンを酸化析出し、1次処理水として排出する酸化処理槽3と、1次処理水を導入し酸化鉄粒子および酸化マンガン粒子を膜分離し浄水として排出する膜分離器4とからなる。酸化触媒Cはマンガン量として35mg/L以上用いる。酸化触媒Cには、合成樹脂繊維が相互に絡み合って微細な空孔を形成した状態で融着された空孔内に二酸化マンガンが折出して固定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中の溶存している鉄・マンガンを除去して上水・工業用水・産業用水等を造水するために用いる除鉄・除マンガン装置および方法に関する。また、それに用いられる酸化触媒、その酸化触媒の製法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、鉄やマンガンを含む表流水、伏流水、湖沼水、地下水等(以下、被処理水という)を浄水して上水・工業用水・産業用水等に利用している。ところが、前記のような被処理水には、鉄やマンガンが溶存状態で存在しており、これらは一定量を超えると人の飲用に不適となり、産業にも障害となる。
そこで、溶存している鉄やマンガンの除去が必要となるが、これまでは溶存状態の鉄イオンやマンガンイオンを酸化して水中に析出させた後、これをろ過処理して除去する方法が用いられてきた。そして、マンガンを酸化するための酸化触媒としてマンガン砂を用い、マンガン砂上で酸化するとともに砂ろ過して、マンガンを除くようにしていた。
【0003】
しかるに、この方法では、水中に懸濁物質が多い場合、ろ過抵抗が大きくなるために、加圧型急速砂ろ過器を用いている。
この場合、砂ろ過器は耐圧容器で構成することになり設備費がかかる上、逆洗工程も含めて管理も煩雑である。
また、被処理水中への溶存酸素供給のために前処理として曝気処理、塩素注入などによる酸化剤の添加が必要であった。
さらに、酸化触媒効果を増すために、高ろ過速度をとれず、濾材の設置面積が大きくなってしまうという欠点があった。
【0004】
そこで、砂ろ過によらない方法も提案されてきた。
特開平8−112596号公報に開示された従来技術1では、二酸化マンガンのスラリー触媒層を通過させてマンガンを酸化させたあと、精密ろ過膜もしくは限外ろ過膜で鉄、マンガンの酸化晶析物を分離除去するようにしている。
しかしながらこの方法では二酸化マンガンのスラリー触媒層の維持管理が難しく装置的にも煩雑なものになる。
【0005】
また、特開平7−241562号公報に開示された従来技術2では、透過膜表面に二酸化マンガンの結晶を付着させた精密ろ過膜もしくは限外ろ過膜で、原水中の懸濁物質と共に溶存マンガンをも除去するようにしている。
しかし、この方法では酸化析出させた二酸化マンガンによる膜の目詰まりが起りやすいので、ろ過抵抗が上昇しやすく、特に高濃度のマンガン含有水のろ過を安定的に連続処理できない。
【0006】
さらに、特開平11−128742号公報に開示された従来技術3では、繊維集合体またはウレタン発泡体に二酸化マンガンを固定化した触媒層と膜分離による改良法が提案されている。
しかし、この方法では、繊維集合体またはウレタン発泡体に二酸化マンガンを多量にかつ強固に固定することが困難で実用性に著しく劣る。また、この方法は缶体に二酸化マンガン固定化触媒をいれ、被処理水とともに攪拌して処理することを前提としており、砂ろ過器による場合と同様に耐圧型缶状構造物が必要となり工程合理化にはなりにくい。
【0007】
上記のごとき除鉄・除マンガン方法で用いられる触媒は、前記従来技術3にも開示されている。すなわち、二酸化マンガンを付着固定化する場合に、繊維集合体や発泡体を固定化材とするときは、前者では繊維の間隙に二酸化マンガンを保持するので、二酸化マンガン固定化繊維集合体は塊状を形成しやすく、また後者はそれ自体塊状をなしているのでいずれも構造上水を通しにくく配管にこれらを配置した場合、通水抵抗が大きくなりかつ結果的にいわゆる「みず道」を作りやすくなり被処理水と触媒との接触効率が悪く実用性に欠ける。
【0008】
【特許文献1】特開平8−112596
【特許文献2】特開平7−241562
【特許文献3】特開平11−128742
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記事情に鑑み、本発明は、砂ろ過器を用いず、コンパクトな設備で、効率よく除鉄・除マンガンを行う装置および方法を提供することを目的とする。また、本発明は、通水抵抗が小さくしかも高効率で除鉄・除マンガンを行える触媒と、その製法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1発明の除鉄・除マンガン装置は、被処理水に酸化剤としての過マンガン酸塩溶液を注入する酸化剤注入装置と、酸化剤を注入した被処理水を導入し、二酸化マンガンを固定した酸化触媒により溶存鉄および溶存マンガンを酸化析出し、1次処理水として排出する酸化処理槽と、前記1次処理水を導入し酸化鉄粒子および酸化マンガン粒子を膜分離し浄水として排出する膜分離器とからなることを特徴とする。
第2発明の除鉄・除マンガン装置は、第1発明において、前記酸化触媒をマンガン量として35mg/L以上用いることを特徴とする。
第3発明の除鉄・除マンガン装置は、第1発明において、前記酸化触媒の被処理液に対する接触時間が15秒以上であることを特徴とする。
第4発明の除鉄・除マンガン方法は、被処理水に酸化剤としての過マンガン酸塩溶液を注入する酸化剤注入工程と、酸化剤が注入された被処理水を導入し、二酸化マンガンを固定した酸化触媒によって溶存マンガンおよび溶存鉄を酸化折出し、1次処理水として排出する1次処理工程と、前記1次処理水から酸化マンガン粒子および酸化鉄粒子を膜分離し浄水として排出する2次処理工程とを順に実行することを特徴とする。
第5発明の除鉄・除マンガン用酸化触媒は、合成樹脂繊維が相互に絡み合って微細な空孔を形成した状態で融着された濾材と、該濾材の前記空孔内に二酸化マンガンが折出して固定されていることを特徴とする。
第6発明の除鉄・除マンガン用酸化触媒の製法は、合成樹脂繊維が相互に絡み合って微細な空孔を形成した濾材にマンガン塩化物溶液を含浸させ、ついで過マンガン酸塩溶液で処理して二酸化マンガンを前記濾材の空孔内に折出させて固定することを特徴とする。
第7発明の除鉄・除マンガン用酸化触媒は、多数の微少空孔を有する成形体または発泡成形体の濾材であって、前記空孔内に二酸化マンガンが析出して固定されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
第1発明によれば、酸化剤には酸化力の強い過マンガン酸塩溶液を用いるので、除鉄・除マンガンの反応速度が速くなり、装置をコンパクトにできる。また、酸化処理槽の酸化触媒と複合して使用するので酸化剤の注入量の範囲が広くとれ、水質管理が従来よりも容易となる。そして、酸化折出させた鉄とマンガンは膜分離できるので、上水や工業用水、産業用水を造水することができる。
第2発明によれば、酸化触媒のマンガン量が充分に多いので、高速ろ過が行え、また高濃度の溶存鉄・マンガンも除去することができる。
第3発明によれば、接触時間が充分に取れるので、高濃度の溶存鉄、溶存マンガンでも除去することができる。
第4発明によれば、酸化剤には酸化力の強い過マンガン酸塩溶液を用いるので、除鉄・除マンガンの反応速度が速くなる。また、酸化処理槽の酸化触媒と複合して使用するので酸化剤の注入量の範囲が広くとれ、水質管理が従来よりも容易となる。そして、酸化折出させた鉄とマンガンは膜分離できるので、上水や工業用水、産業用水を造水することができる。
第5発明によれば、濾材は繊維が絡み合って微細な空孔が沢山形成されているので、通水抵抗が小さく高速ろ過に適する。また、空孔の表面積が多く、そこに二酸化マンガンが固定されているので、被処理水との接触面積が多くとれ、溶存鉄や溶存マンガンを効率よく酸化折出でき、二酸化マンガンの脱落も生じにくい。
第6発明によれば、従来の付着法より多量の二酸化マンガンを付着させることができる。すなわち、濾材の重量に対し3〜20%程度の二酸化マンガンを保持することができるので、除鉄・除マンガンを効率よく行うことができる。
第7発明によれば、空孔が沢山あるので、通水抵抗が小さく高速ろ過に適する。また、空孔の表面積が多く、そこに二酸化マンガンが固定されているので、被処理水との接触面積が多くとれ、溶存鉄や溶存マンガンを効率よく酸化折出でき、二酸化マンガンの脱落も生じにくい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
つぎに、本発明の実施形態を説明する。
【0013】
まず、本発明の除鉄・除マンガン装置を図1に基づき説明する。
本実施形態の除鉄・除マンガン装置1は、主として酸化剤注入装置2、酸化処理槽3および膜分離器4から構成されている。
酸化処理槽3には、原水Wbを導入する配管5が接続され、この配管5には、酸化剤注入装置2から酸化剤acを注入するための配管6が接続されている。また、酸化処理槽3と膜分離器4との間は配管7で接続されており、膜分離器4は浄水Waを排出する配管8が接続されている。
【0014】
酸化剤注入装置2は、酸化剤を貯えておくタンク21と酸化剤acを吸引吐出する注入ポンプ22から構成されている。
この酸化剤注入装置2によって、酸化剤acは、酸化処理槽3の手前の配管5に注入される。配管5への注入方法は、エジェクター、オリフィス等の反応促進機構を入れるなど如何なる方法によってもよい。
前記酸化処理槽3には、二酸化マンガンを固定した酸化触媒Cが充填されている。この酸化処理槽3内において、被処理水中の鉄イオンやマンガンイオンは酸化晶析され、次段の膜分離器4において析出された鉄粒子やマンガン粒子は分離除却されることになる。
膜分離器4としては、公知の精密濾過膜や限外濾過膜などが、とくに制限なく用いられる。
【0015】
上記を基本構成とする本発明の除鉄・除マンガン装置において、酸化剤注入装置2で注入される酸化剤acには、過マンガン酸ナトリウムを含む過マンガン酸塩が用いられる。この過マンガン酸塩は、液体過マンガン酸塩、濃縮された過マンガン酸塩溶液として用いられ、主たる用途は鉄およびマンガンの除去であるが、このほかにHAAハロ酢酸とTHMトリハロメタンのコントロールであるためのプレオキシダント、硫化水素のコントロール、脱色、ラジウム除去等が可能である。
【0016】
一般的に、酸化剤としては、酸化力が弱いが管理の容易な次亜塩素酸ナトリウムが使われているが、本発明では酸化力は強いが管理が難しいとされている過マンガン酸塩をあえて用いている。これは本発明では酸化処理槽3と複合的に用いることにより管理の難しさを解消できるからである。
すなわち、本発明では、後段の酸化処理槽3では、二酸化マンガンを固定した酸化触媒を用いているので、酸化剤acの注入量が広くとれ、水質管理が容易となるのである。つまり、二酸化マンガン触媒存在下において過マンガン酸塩による除マンガン処理を行う際には、1)原水中のマンガン成分に対して反応させる過マンガン酸塩の量が不足する場合には、未反応の原水由来のマンガン成分が二酸化マンガン触媒によって吸着される。2)原水中のマンガン成分に対して反応させる過マンガン酸塩の量が過剰になった場合には、過マンガン酸塩由来のマンガン成分が二酸化マンガン触媒によって吸着される。
以上の理由から、二酸化マンガン触媒が存在しない条件に比べて、過マンガン酸塩の注入量を広く許容できるようになるのである。
そして、過マンガン酸塩は、その酸化力の強さから、除鉄・除マンガンの処理反応速度が速く、高速ろ過が出来たり、高濃度の溶存鉄や溶存マンガンも除去できる。そして、除鉄・除マンガン装置をコンパクトにすることができる。
【0017】
つぎに、本発明に用いる酸化触媒Cを、図2に基づき説明する。
酸化処理槽3内には被処理水中の鉄イオンやマンガンイオンを酸化晶析させる二酸化マンガンを固定した酸化触媒Cが充填されている。
二酸化マンガンの固定に使われる濾材は、とくに制限なく、どのようなものを用いてもよいが、繊維状のものや発泡体、成形体などで、空孔を多数形成したものが、通水抵抗が少なく、高速ろ過も可能となるので好ましい。このような濾材の材質には合成樹脂のほか、ガラス、セラミックスなどを利用できる。
濾材の形状と主な材質との関連は、以下のとおりである。
(繊維状の濾材)
ポリエステル、ポリウレタン、ナイロン、アクリル等の合成樹脂
(成形体、発泡体の濾材)
ポリウレタン、ポリエチレン、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、塩化ビニル、ポリプロピレン、ABS、アクリル等の合成樹脂
(その他の成形体、発泡体の濾材)
ガラス、セラミックスなど
【0018】
上記した濾材のうち、繊維状の濾材は、樹脂繊維を相互に絡み合わせて接触点で融着したもので、図2に示すように、繊維と繊維の間には、微細な空孔が多量に形成されている。
このような濾材は、多量の空孔を備えており、通水抵抗が少なくなるという利点がある。また、空孔内壁に付着させる二酸化マンガンの表面積が多くなり、除鉄・除マンガン効率が高くなると共に、二酸化マンガンがこの膜壁内にしっかりと固定され、脱落しにくくなるので触媒自体が安定性に富み、使用しやすいものとなる。
【0019】
上記した酸化触媒のうち繊維状濾材を用いたものの製法を、つぎに説明する。
まず、合成樹脂繊維を絡み合わせた状態で融着した濾材をマンガン塩化物溶液または硫酸マンガン水溶液に浸漬して含浸させる。マンガン塩化物としては、塩化マンガン・四水和物や無水塩化マンガンなどを用いることができる。硫酸マンガンとしては、硫酸マンガン・一水和物、硫酸マンガン・四水和物、硫酸マンガン・五水和物などを用いることができる。
ついで、酸化剤、たとえば過マンガン酸溶液で処理すると、濾材繊維の空孔内に二酸化マンガンを析出させることができる。このようにして析出させた二酸化マンガンは濾材繊維の空孔内に多量にかつ強固に固定化される。これは濾材繊維の空孔内壁が多孔で表面積が著しく大きいことに加え、この空孔内に予め二酸化マンガンの原料としてのマンガン塩化物、例えばMnCl・4HO水溶液を満たした後で析出させることによって可能になったものである。
【0020】
本発明の製法によれば、濾材の重さに対し3〜20%程度の量の二酸化マンガンを保持できることが実証されている。なお、単に二酸化マンガンの水分散液をポリエステル繊維でろ過して、二酸化マンガンを付着させても、ポリエステル繊維の重量の1%内外の量の付着にとどまり、またこの方法で固定した二酸化マンガンは固定力が弱く取り扱い時に落下してしまう。これと比較すると明らかなように、本発明の製法で得られた濾材は、二酸化マンガンの保持量がかなり多く、しかも脱落しにくいという利点をもつのが特徴である。
【0021】
本発明者らは鉄イオン、マンガンイオンを酸化剤存在下で空気吹き込みにより鉄、マンガンの晶析させ、その酸化物の粒子径を分析した結果、粒子系分布はその酸化物濃度にも依るがほとんどの場合0.01μm以上10μm以下に分布しており、多くは0.1μm以上1μm以下に分布していることを確認した。そこで上記したようにマンガン塩化物溶液を繊維に含浸させ次いでこれに酸化剤を作用させて濾材の空孔内で二酸化マンガンを析出させるが、安定して二酸化マンガン固定体を得るには濾材の阻止孔径が100μm以下であることが望ましい。阻止孔径がより大きいと二酸化マンガンの析出が孔内で起こりにくい。
【0022】
また、前記した濾材のうち成形体や発泡体の濾材は公知の方法で製するとよく、成形体の濾材は、予め多数の微小空孔を有するように成形したものが用いられる。また、発泡体の濾材は、図3に示すように、発泡成形時に多数の空孔が形成されたものが用いられる。
図3の(A)にはウレタンスポンジを濾材とするもの、同(B)にはポリウレタン(商品名:アクアポーラスゲル)を濾材とするものを示しているが、これらの濾材は、いずれもリブ構造やウォール構造をとっており、多くの空孔を有するものである。
このような濾材も、多量の空孔を備えており、通水抵抗が少なくなるという利点がある。また、空孔内壁に付着させる二酸化マンガンの表面積が多くなり、除鉄・除マンガン効率が高くなると共に、二酸化マンガンがこの膜壁内にしっかりと固定され、脱落しにくくなるので触媒自体が安定性に富み、使用しやすいものとなる。
【0023】
本発明で用いる酸化触媒Cの形態は、任意であり、とくに制限はないが、つぎの形態が好ましく推奨される。
a)濾材繊維を円柱状にしたものは、直径および高さが5〜30mm、好ましくは、直径12mm、高さ12mmの円筒型の繊維塊が推奨される。
b)濾材繊維を立方体にしたものであり、一辺が5〜30mm、好ましくは一辺が10mmの繊維塊が推奨される。
c)成形体や発泡体の濾材も上記a),b)に準ずる。
そして、上記の寸法および形状であると、酸化処理槽3への酸化触媒の充填効率を高めることができる。
【0024】
つぎに、本発明による除鉄・除マンガン方法を図1に基づき説明する。
(酸化剤注入工程)
配管5に送られてきた原水Wbは酸化処理槽3に導入される。そして、酸化処理槽3に入る前の配管5に酸化剤acが注入ポンプ22で注入される。原水Wbと酸化剤acは配管5から酸化処理槽3に流入する過程で混和する。
(1次処理工程)
ついで、酸化処理槽3内で原水Wbは酸化触媒Cと接触して酸化が促進され、原水Wbに溶存する鉄、マンガンが迅速に酸化鉄、酸化マンガンとして析出する。
(2次処理工程)
酸化処理槽3を出た1次処理水Wmは酸化鉄微粒子、酸化マンガン微粒子が懸濁した状態で配管7を経て膜分離器4に移行する。膜分離器4では酸化鉄微粒子、酸化マンガン微粒子が懸濁物質や細菌類と共に分離除去され、処理水すなわち除鉄、除マンガンされた浄水Waが得られる。
【0025】
前記膜分離器4においては、ろ過処理して酸化マンガン粒子、酸化鉄粒子を水中から阻止分離するが、それらの粒子の孔径分布は先に述べたとおり0.01μm以上10μm以下に分布しており、多くは0.1μm以上1μm以下であって、0.1μm以下の微粒子は極端に少ないことが明確であった。酸化晶析さえ効率よく行なわれれば、それに引き続く粒子のろ過分離は如何なる方法によっても良いが、分画分子量30,000(阻止孔孔0.005μm以上)、阻止孔径5μm以下の限外ろ過膜または精密ろ過膜が酸化晶析物の膜分離速度を考慮すると好ましい。
【0026】
本発明の除鉄・除マンガン装置、方法において好ましい酸化処理槽3の使用条件は、つぎのとおりである。
本発明においては、被処理液体が連続的に通過する槽内に溶存鉄及び溶存マンガンの酸化析出工程を設けており、ここに二酸化マンガンを固定化した酸化処理槽3を配置している。
この酸化処理槽3内の流路に被処理液体が滞在するいわゆる酸化時間は、酸化触媒Cの存在下で15秒以上、好ましくは20秒以上が必要である。
また、酸化触媒Cの触媒量はこの流路の酸化析出工程の流路体積に対してマンガン量として35mg/L以上、好ましくは50mg/L以上であり、25mg/Lより小さいと処理効果の再現性に乏しいものになる。
【0027】
以上述べてきた条件でプラント実用例の一例を以下に示す。
すなわち、図4に示す外径300mm円筒形の酸化処理槽3で、処理流速1.5m/hr仕様の標準設備に組み込むことを想定する。
反応時間すなわち酸化処理槽3内の滞留時間を15秒とすると、
処理槽断面積 S=0.3m×0.3m×3.14/4=0.07m
通水水量:1.5m/hr
LV=1.5m/0.07m=22m/m
(LV:反応管内における水の線速度(Line Velocity = m/hr)で、単位時間あたりに進む水の直線距離)
設定SV値:22
(SV:処理槽内における水の空間速度(Space Velocity = l/hr)で、単位時間あたりに処理槽内を水が入れ替わる回数)
必要体積=1.5m/hr/22=0.0682m
必要高さH1=0.0682/0.07m=0.965m(上部空間H2を0.7mとする)
実高さH=0.965+0.7≒1.7m
上記より、円筒形の酸化処理槽3は、300mm×1.7mとする。
すなわち、15秒の滞留時間を得るために、外径300mmの処理槽では最大1.7mの長さが必要である。
【実施例1】
【0028】
以下さらに実施例より詳しく本発明を説明する。
図1に示す除鉄・除マンガン装置1に、溶解性鉄4.0mg/L、溶解性マンガン0.472mg/Lを含有する地下水を原水Wbとして導入し、酸化剤acとして過マンガン酸ナトリウムを10ppmになるように注入する。次いで、二酸化マンガン0.3% o.w.f(濾材重量に対する二酸化マンガンの重量)を固定化した酸化触媒Cを酸化処理槽3に詰め込んで、酸化処理槽3内の二酸化マンガン量を0.968g−Mn/Lとして配置した。この状態の除鉄・除マンガン装置1に原水Wbを流速0.354m/分で通水させ、280秒間、酸化処理槽3内に滞在させた。酸化処理槽3から出た1次処理水Wmを阻止孔径0.1μmの親水性中空糸膜モジュールによる膜分離器4により処理速度2m/日でろ過した。
【0029】
ポリエチレン繊維を用いた濾材への二酸化マンガンの固定は、0.3g/Lの塩化マンガン・四水和物の水溶液を予めこの濾材に含浸せしめ、次いで0.3ml/Lの過マンガン酸ナトリウム水溶液で処理して濾材の空孔内に約10% o.w.fの二酸化マンガンを析出固定化せしめた。
【0030】
上記処理の結果、浄水Waの鉄濃度は0.01mg/L、マンガン濃度は0.001mg/L以下で安定した除鉄・除マンガン処理ができた。ちなみに浄水Waの濁度は0.01度以下、一般細菌、大腸菌類は0個/mLであった。
【0031】
この処理を1ヵ月間連続し、その間、膜分離器4は浄水Waの一部を用いて逆圧洗浄を1回/2時間で実施した。
1ヵ月後の二酸化マンガンを固定した酸化触媒Cを通水洗浄した後、重量測定した結果、二酸化マンガン固定化量は12% o.w.fに増量していたが、この時点の浄水Waの鉄およびマンガン量は、それぞれ0.01、0.001mg/Lであった。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明によれば、原水中に溶存する鉄、マンガンを酸化析出させ次いで、原水中の濁質や細菌類と共に分離膜で完全除去するので、原水中に鉄、マンガンが溶存する地下水などの原水から簡単に上水、工業用水、産業用水等を造水することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の一実施形態に係わる除鉄・除マンガン装置1のブロック図である。
【図2】繊維状の酸化触媒Cの説明図である。
【図3】発泡材からなる酸化触媒Cの説明図である。
【図4】酸化処理槽3の説明図である。
【符号の説明】
【0034】
1 除鉄・除マンガン装置
ac 酸化剤
2 酸化剤注入装置
3 酸化処理槽
4 膜分離器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理水に酸化剤としての過マンガン酸塩溶液を注入する酸化剤注入装置と、
酸化剤を注入した被処理水を導入し、二酸化マンガンを固定した酸化触媒により溶存鉄および溶存マンガンを酸化析出し、1次処理水として排出する酸化処理槽と、
前記1次処理水を導入し酸化鉄粒子および酸化マンガン粒子を膜分離し浄水として排出する膜分離器とからなる
ことを特徴とする除鉄・除マンガン装置。
【請求項2】
前記酸化触媒をマンガン量として35mg/L以上用いる
ことを特徴とする請求項1記載の除鉄・除マンガン装置。
【請求項3】
前記酸化触媒の被処理液に対する接触時間が15秒以上である
ことを特徴とする請求項1記載の除鉄・除マンガン装置。
【請求項4】
被処理水に酸化剤としての過マンガン酸塩溶液を注入する酸化剤注入工程と、
酸化剤が注入された被処理水を導入し、二酸化マンガンを固定した酸化触媒によって溶存マンガンおよび溶存鉄を酸化折出し、1次処理水として排出する1次処理工程と、
前記1次処理水から酸化マンガン粒子および酸化鉄粒子を膜分離し浄水として排出する2次処理工程とを順に実行する
ことを特徴とする除鉄・除マンガン方法。
【請求項5】
合成樹脂繊維が相互に絡み合って微細な空孔を形成した状態で融着された濾材と、
該濾材の前記空孔内に二酸化マンガンが折出して固定されている
ことを特徴とする除鉄・除マンガン用酸化触媒。
【請求項6】
合成樹脂繊維が相互に絡み合って微細な空孔を形成した濾材にマンガン塩化物溶液を含浸させ、ついで過マンガン酸塩溶液で処理して二酸化マンガンを前記濾材の空孔内に折出させて固定する
ことを特徴とする除鉄・除マンガン用酸化触媒の製法。
【請求項7】
多数の微少空孔を有する成形体または発泡成形体の濾材であって、前記空孔内に二酸化マンガンが析出して固定されている
ことを特徴とする除鉄・除マンガン用酸化触媒。

【図1】
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【図4】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−148696(P2009−148696A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−328421(P2007−328421)
【出願日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【出願人】(505404530)株式会社ダイキアクシス (9)
【Fターム(参考)】