説明

除電装置およびこれを用いたマイクロホンのエレクトレット化方法およびエレクトレット化装置

【課題】エレクトレット化された誘電体膜のイオナイザ照射による着電量変化を抑制し、マイクロホンの感度変化を低減させること。
【解決手段】導電物4をアース接地させないことにより、イオナイザ1への電流パスを阻止しループ回路形成によって発生した電界によるイオナイザから照射されたイオンが誘電体膜32への引き込みを抑制することができるため、イオナイザ1による着電量変化を低減させる効果が得られ、着電量ばらつきが減少し、マイクロホンの感度変化の抑制に繋げることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロホンのエレクトレット化方法およびエレクトレット化装置に係り、特にエレクトレット化によって電荷チャージのなされた誘電体膜へのイオナイザ照射による着電量変化に伴う感度変化の抑制に関するものである。
【背景技術】
【0002】
MEMSマイクロホンは、エレクトレット化によって、電荷をチャージして半永久的な分極を持つエレクトレット膜を形成することで、コンデンサの直流バイアスを不要とした音響電気変換装置である。エレクトレット膜は、誘電体膜に電荷を注入して固定することで形成され、注入された電荷によって発生する電界によりコンデンサの両極に電位差が生ずる。なお、誘電体膜に電荷を注入して固定することを、エレクトレット化、固定された電荷の量を着電量という。
【0003】
近年、半導体プロセス技術を用いて、シリコン基板を加工することで、製造されるMEMS(微小電気機械システム)マイクが注目されている。MEMSマイクロホンにおけるエレクトレット化は、シリコン基板を微細加工することで形成されるMEMSマイク用チップを実装基板上に実装状態、或いは個片化したMEMSマイク用チップ単体で誘電体膜をエレクトレット化する方法であり、一つの針状電極或いはワイヤ電極による少なくても1回のコロナ放電を、一つ或いは複数の前記MEMSマイク用チップに対して実施することにより、前記誘電体膜をエレクトレット化するものである。(特許文献1)
【0004】
また高精度エレクトレット化方法として、コンデンサマイクロホンの誘電体膜を接地電位にし、且つ固定電極を接地電位と異なる電位にした状態で、固定電極の上方においてコロナ放電を行い、それによって誘電体膜をエレクトレット化する方法がある。(特許文献2)
【0005】
【特許文献1】WO2006132193
【特許文献2】特開2007−294858号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、電子デバイスは静電気放電(ESD:electrostatic discharge)による影響(回路系の絶縁破壊、異物吸着等)を無視することができないことから、イオナイザによる帯電物の除電が必要不可欠である。
そこで、不要電荷を除去するための除電工程が実施され、エレクトレット化された誘電体膜にイオナイザによりイオン照射している。
しかしながら、エレクトレット化された誘電体膜にイオナイザによりイオン照射すると着電量が変化することが実験からわかっている。これはエレクトレット化された誘電体膜の電荷が抜けるためであると考えられる。
さらに、着電量はマイクロホンの感度に比例することから、イオナイザからの照射イオンによる着電量の変化はマイクロホンの感度ばらつきに繋がり、着電量変化を抑制することが求められていた。
【0007】
本発明は、前記実情に鑑みてなされたもので、エレクトレット化された誘電体膜の着電量変化を抑制しつつ、イオナイザによる帯電物の除電を実現し、感度ばらつきの少ないマイクロホンを提供することを目的とする。
また、本発明は、不要電荷の除電を行なうことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで本発明では、イオナイザを用いて、エレクトレット化された誘電体膜にイオナイザからのイオンを照射する工程において、前記誘電体膜が、電気的に非接地状態すなわち浮遊状態となるように構成される。
【0009】
イオナイザによる除電効果を保ちつつ、エレクトレット化された誘電体膜の着電量変化を抑制させるため、本発明による装置構造とすることで、着電によりエレクトレット化された誘電体膜の電荷が抜けにくくなり、イオナイザによる着電変化の影響を低減させることができ、マイクロホンの感度ばらつきを抑制させることが可能となる。
【0010】
また着電量変化は、着電によりエレクトレット化された誘電体膜にイオナイザからのイオンが直接照射され且つ誘電体膜下にアースに接続された導電物を設置された場合のみ、発生することが実験からわかっている。さらに、誘電体膜と導電物間に絶縁物を介しても、着電量変化が生じることがわかっている。
このように、エレクトレット化された誘電体膜下にある導電物を非接地状態に維持するようにし、アースに接続しない構造体とすることにより、アース接続による導電物からイオナイザへ電流が流れループ回路を形成されることで発生する電界による誘電体膜へのイオンの引き込みを阻止することができる。その結果、誘電体膜に保持された電荷が抜けにくくなることから、着電量変化を抑制させ、マイクロホンの感度変化を減少させることができる。
またエレクトレット化された誘電体膜下に導電物を設置しない構造体とした場合においても、ループ回路の形成による電界が発生せず、上記と同等の効果を得ることができる。
なおここで非接地状態とは、誘電体膜に電流が流れないように、電位接続されない状態をいうものとする。
【発明の効果】
【0011】
以上説明してきたように、本発明によれば、エレクトレット化された誘電体の近傍にある導電物を接地しないようにすることで、導電物からイオナイザへ電流が流れループ回路を形成するのを防ぐことができる。したがって、導電物からイオナイザへ電流が流れループ回路が形成されることで発生する電界による、誘電体膜へのイオンの引き込みを阻止することができ、イオナイザによる着電量変化を低減することで、着電量ばらつきが減少し、製品であるマイクロホンの感度変化の抑制に繋げることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。図1は本発明の実施の形態におけるイオナイザ設置設備の概略図である。図2はエレクトレット化工程におけるイオナイザ設置設備を示す図、図3はMEMSマイクロホン装置を示す図、図4はその実装状態を示す図である。
本実施の形態では、図1に示すように、エレクトレット化された誘電体膜32の着電量の安定化と不要電荷の除去を目的とする除電工程において、エレクトレット化された誘電体膜32を固定している基台42(絶縁物)に接触している設備筐体等の導電物4をアース5への接続を行わないで非接地状態とした構造体を用いたことを特徴とするものである。非接地状態にすることにより、導電物4からイオナイザ1へ電流が流れずループ回路が形成されないことから電界が生じず、電界による誘電体膜32へのイオンの引き込みを抑制することができ、着電量変化を抑制しマイクロホンの感度変化を低減することができる。
【0013】
なお、本実施の形態では、図2に示すように、MEMSマイクロホンを載置する導電物4を接地するとともに、イオナイザ1と誘電体膜32との距離を14mm、コンデンサマイクロホン用チップにおける固定電極34を接地電位と異なる電位にした状態で、固定電極34の上方においてイオナイザ1を用いてコロナ放電を行い、誘電体膜32をエレクトレット化し、この後の工程については、図1に示すように、導電物4をアース5への接続を行わない構造体とし、イオナイザ1によるイオン照射を行い、不要電荷を除去する(除電工程)ようにしたものである。
【0014】
エレクトレット化工程においては、コロナ放電によって発生するイオンは、固定電極34の電位によって制御されながら固定電極34の音孔35を経由して誘電体膜32に達し、それによって誘電体膜をエレクトレット化することができる。さらに、着電による誘電体膜32の電位が固定電極34の電位と等しくなるまで、誘電体膜34がエレクトレット化される。そのため、エレクトレット着電の条件と誘電体膜34にエレクトレット化される電圧(着電による誘電体膜の電位)との関係を事前に調べることなしに、誘電体膜を目的の着電量に精度よくエレクトレット化できる。
【0015】
なお、以上の説明では、図1のように材料3(絶縁物)下に導電物4が設置された構造について説明したが、筐体の底部を、ポリカードネート等の耐熱性絶縁物で構成し、誘電体膜2近傍の導電物4を除去した場合についてもループ回路の形成による電界の発生が生じないことから、同様の効果を得ることが可能である。
【0016】
次に、本発明の実施の形態1に係るエレクトレット化方法について図面を参照しながら説明する。
【0017】
図3は、シリコン基板をマイクロ加工して製造されるMEMSマイクロホン(シリコンマイクロホン)の構造を説明するためのデバイスの断面図である。
【0018】
図3に示すように、シリコンマイクロホン43は、シリコン基板(シリコンダイヤフラム)34と、シリコン基板34の除去領域を覆うように設けられ且つコンデンサの一極として機能する振動膜33と、振動膜33上に設けられ且つエレクトレット化対象の膜となる誘電体膜32と、振動膜33と対向するようにシリコン基板34上にスペーサ部37によって支持されており且つコンデンサの他極として機能する固定電極31とを備えている。固定電極31には、複数の音孔(音波を振動膜33に導くための開口部)35が設けられている。また、振動膜33と固定電極31との間には、犠牲層のエッチングにより形成されるエアギャップ36が介在する。シリコンマイクロホン43を構成する振動膜33、固定電極31及び無機誘電体膜32は、シリコンの微細加工技術とCMOS(相補型電界効果トランジスタ)の製造プロセス技術とを利用して製造される。
【0019】
本実施の形態では、このMEMSマイクロホンチップに対してエレクトレット化を行なう。
図2および図1のエレクトレット化に用いられるイオナイザ1は、1つのシリコンマイクロホンに対して、1つの針状電極を用いたコロナ放電によりイオンを照射してエレクトレット化を行う。
【0020】
図2に示すように、本実施形態のエレクトレット化処理には、針状電極11を用いたコロナ放電を利用する。すなわち、シリコンマイクロホン(半導体デバイス)43の上方に針状電極11を位置させる。針状電極11には、コロナ放電を生じさせるための高電圧電源12が接続されている。高電圧電源12は例えば5〜10kV程度の高電圧を針状電極11に印加する。
【0021】
尚、エレクトレット着電工程時には、シリコンマイクロホン43に対して、実装態様時とは異なる配線がなされる。
【0022】
以上に述べた図2に示す状態で、シリコンマイクロホン43の内部の誘電体膜32(図3参照)に対して、針状電極51によるコロナ放電によって生じたイオンを照射する。これにより、シリコンマイクロホン43の誘電体膜32(図1参照)を、固定電極31に印加している電圧でエレクトレット化することができる。
【0023】
このとき、固定電極は接地されているか、所定電位に設定されている。シリコンマイクロホン43の固定電極31を接地電位と異なった電位にすることによって、振動膜33と固定電極31との間に電位差が生じ、その結果、針状電極51によるコロナ放電によって生じたイオンが、固定電極31に設けられた複数の音孔35を経由して誘電体膜32に引き付けられる。
【0024】
そして、誘電体膜32が徐々にエレクトレット化されてその電位(エレクトレット電位)が大きくなっていき、最終的には振動膜33上の誘電体膜32表面の電位と固定電極35の電位とが等しくなる。
【0025】
誘電体膜32の電位と固定電極35の電位とが等しくなると、イオンは誘電体膜32まで照射されなくなるため、誘電体膜32は、エレクトレット電位が固定電極35に印加した電位と等しくなるまでエレクトレット化されることになる。
【0026】
着電工程においては、イオナイザ−誘電体膜間距離14mm、イオナイザ照射時間2.5sec、エアー流量0L/minで導電物4をアース接地しておこなった(図2参照)。
【0027】
続いて、導電物4のアース接地を外し図1の状態にして不要電荷の除電を実施した。
不要電荷の除電においては、イオナイザ条件として、イオナイザ−誘電体膜間距離80mm、イオナイザ照射時間180min、エアー流量10L/minで行った際、従来のように導電物4をアース接地した場合、着電変化量が平均−0.83dB(感度換算)であったのに対し、アース接続を行わないことにより着電変化量が平均−0.04dBに減少することを確認した。
【0028】
図4は、シリコン基板を用いたエレクトレットマイクロホンの実装構造(ケース封入後の構造)を示す断面図である。尚、4において、図3と共通する部分には同じ符号を付すことにより、重複する説明を省略する。また、図4において、シリコンマイクロホン(半導体デバイス)43については簡略化して描いている(実際の構造は図3に示すとおりである)。
【0029】
図4に示すように、プラスチック又はセラミックよりなる実装基板42上に、シリコンマイクロホン(半導体デバイス)43とその他の素子である電子部品(FET、抵抗、アンプ等)45が実装されている。
【0030】
実装基板42の裏面には接地パターン46とマイク信号出力パターン47とが配置されている。図3に示すように、実装態様ではシリコンマイクロホン43は実装基板42上に実装されている。コンデンサの一極をなす振動膜33は、ボンディングワイヤ44aを介してその他の電子部品45に電気的に接続されている。また、その他の電子部品45は、ボンディングワイヤ44cを介して、実装基板42上の配線パターン60bに電気的に接続されている。コンデンサの他極をなす固定電極31は、ボンディングワイヤ44bを介して、実装基板42上の配線パターン60aに電気的に接続されている。また、各配線パターン60a及び60bはそれぞれ、実装基板42の内部の配線L1及びL2を介して、実装基板42の裏面に設けられた接地パターン46及びマイク信号出力パターン47に電気的に接続されている。
【0031】
シールドケース41は、エレクトレット化処理が済んだ後に、実装基板42上に取り付けられる。このシールドケース41には、音波を導く音孔としての広い開口部49が設けられている。
【0032】
以上に説明したように、本実施の形態によれば、シリコン基板をマイクロ加工して形成されるコンデンサマイクロホンにおいて、目的の着電量に誘電体膜32を高精度でエレクトレット化し、この後、アース接続を外して除電を行なうことで、着電量変化を招くことなく、不要電荷の除電を実現することができ、マイクロホンの感度変化を抑制することができ、着電された誘電体膜の着電量変化を抑制することが可能となる。
【0033】
なお前記実施の形態では、MEMSマイクロホンチップに対して、エレクトレット化を行なう方法について説明したが、ウェハレベルでエレクトレット化する場合、あるいは実装後にエレクトレット化を行う場合にも適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明の除電装置は、着電された誘電体膜の着電量変化を抑制することができ、着電されたデバイスに不要な電荷を除電することができることから、MEMSマイクロホンをはじめ種々のデバイスの除電に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の実施の形態におけるイオナイザ設置設備の概略図
【図2】同イオナイザ設置設備を用いて着電工程を実施する際の概略図
【図3】本発明の実施の形態で形成されるMEMSマイクロホンチップを示す図
【図4】同マイクロホン装置の実装状態を示す図
【符号の説明】
【0036】
1 イオナイザ
11 針状電極
12 電源
32 誘電体膜
3 絶縁物
4 導電物
5 アース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオナイザを用いて、エレクトレット化された誘電体膜以外の帯電物の除電を行なう除電装置であって、
前記誘電体膜が、電気的に非接地状態となるようにして、イオナイザからのイオンを照射するように構成された除電装置。
【請求項2】
請求項1に記載の除電装置であって、
前記誘電体膜に当接された導電物を具備し、前記導電物が非接地状態である除電装置。
【請求項3】
イオナイザを用いて、誘電体膜をエレクトレット化するエレクトレット化装置であって、
除電に際しては、前記誘電体膜が、電気的に非接地状態で、イオナイザからのイオンを照射するように、誘電体膜を支持する支持部またはその近傍が非接地電位となるように構成されたマイクロホンのエレクトレット化装置。
【請求項4】
イオナイザを用いて、イオン照射を行い、誘電体膜をエレクトレット化するエレクトレット化工程と、
エレクトレット化以外の不要電荷を除電する除電工程とを含み、
前記除電工程が、前記誘電体膜が、電気的に非接地状態で、イオナイザからのイオンを照射するマイクロホンのエレクトレット化方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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