説明

陰イオン吸着材、その製造方法、陰イオンの除去方法、陰イオン吸着材の再生方法および元素回収方法

【課題】より優れた除去能と取り扱い性能を有する陰イオン吸着材、その製造方法、陰イオンの除去方法、陰イオン吸着材の再生方法および元素回収方法を提供する。
【解決手段】鉄イオン溶液にアルカリを加えてpH4〜8に中和することにより得られる沈殿生成物を60〜100℃で乾燥させて得られた微結晶質の水酸化鉄系物質と合成樹脂粉末との混合物を、加熱・焼結することにより得られることを特徴とし、該陰イオン吸着材を、陰イオンを含有する溶液に接触させ、該陰イオン吸着材に該溶液中に含まれる陰イオンを吸着させて陰イオンを除去できる。陰イオンを吸着した該陰イオン吸着材を、アルカリ性溶液で処理することにより、吸着した陰イオンを溶離させることもできる。さらに、陰イオンを吸着した該陰イオン吸着材を、アルカリ性溶液で処理することにより、吸着した陰イオンを溶離させ、陰イオンに含まれる元素を回収することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、陰イオン吸着材、その製造方法、陰イオンの除去方法、陰イオン吸着材の再生方法および元素回収方法に関し、詳細には、廃液からヒ素等の陰イオン種を有効に吸着することのでき、かつ取り扱い性に優れた陰イオン吸着材、その製造方法、陰イオンの除去方法、陰イオン吸着材の再生方法および元素回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、科学技術の発展に伴って、多種多様な化学物質が製造・使用されている。このような物質は、人の健康や生態系に有害な影響を及ぼすものも多く存在している。そこで、日本では平成5年3月に水質環境基準が改訂され、要監視項目が付け加えられ、重金属類としてモリブデン、アンチモン、及びニッケル等が新たに指定された。
これらモリブデン、アンチモン等に代表されるクロム、セレン、ヒ素等を含む重金属陰イオンなどを廃液から除去する実用可能な手法の確立が急務であった。
【0003】
無機ヒ素化合物は、強い急性毒性と共に慢性毒性、発ガン性を有する物質である。また、ヒ素化合物は化学形態の違いによって毒性が異なり、浄水処理における処理効率も異なる。
ヒ素は古くから金属精錬、医薬品、石油工業によく使われてきた。近年半導体、IC、セラミックス、新金属などを製造する工程でもヒ素が使用されている。一方、ヒ素による被害が多発し、各地の報道で取り上げられるなど全国的にヒ素に対する意識が高まっている。さらに、近年の研究によると水や土壌、河川などに入り込む例が少なくない。これは日本だけの問題ではなく、全世界にわって、被害が次から次に出て報告されている。
【0004】
環境問題が益々厳しくなってきた今日では、環境中で広く汚染が認められる元素としてのヒ素を最も注目し、それらの除去法は数多く挙げられている。現在日本国内では、ヒ素の処理除去に関して最も多く採用されているのは共沈法と呼ばれている方法である。これは原水に鉄塩やアルミニウム塩などを添加し、ヒ素を抱き込ませて沈める方法であるが、沈殿には大きな槽を必要とし、また汚泥が大量に発生し、そのまま埋め立てている。一方、水溶液の条件によって結果が大きく変わり、系統的な研究も少なく、その挙動は不明な点が多い。共沈法によるヒ素の除去については、廃液pH、初期濃度等より汚泥処理等に難題が残っている。
【0005】
また、他の処理法として、活性炭、活性アルミナ、二酸化マンガンおよび希土類酸化物(セリウムおよびランタン)や樹脂を用いてヒ素を除去する方法も報告されている。しかしながら、活性炭を用いる方法においても活性炭の特性を考慮すると、良好な活性炭を使用しなければならない上に、処理により発生する大量の活性炭の処理が問題となり、これらの吸着剤およびメンテナンスに費用がかかり、実用されるに至っていない。活性アルミナや希土類酸化物の処理法では吸着剤の再生およびコストなどの問題で実用されていないのは事実である。
このような背景の基でヒ素化合物を含有する廃水の処理方法としては、効率的、安価、容易に水からヒ素を除く方法が強く望まれている。
また、本発明者らは、先に実用化しうる重金属陰イオンの吸着剤を提案している(例えば、特許文献1参照。)。
【0006】
【特許文献1】特開2003−334542号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記特許文献1に開示の陰イオン吸着剤は、低pH域で陰イオン、特にヒ素イオンの除去能が劣るという問題があった。また、上記特許文献1に開示の陰イオン吸着剤は、粉体状であり、除去対象の陰イオンを含む被処理液への投入、処理後の被処理液からの回収、吸着剤の再生等の作業において、取り扱い性上不都合であった。
従って、本発明の目的は、上記した問題点に着目してなされたもので、より優れた除去能と取り扱い性能を有する陰イオン吸着材、その製造方法、陰イオンの除去方法、陰イオン吸着材の再生方法および元素回収方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記した問題を解決するために、工業廃水などに含まれる重金属陰イオンを効率よく吸着し、しかも一度吸着した重金属陰イオンを溶離でき、また吸着材料として繰り返し使用できる形態のものを開発するために、種々検討を重ねた結果、本発明に到達した。
【0009】
即ち、本発明は以下の通りである。
(1)鉄イオン溶液にアルカリを加えてpH4〜8に中和することにより得られる沈殿生成物を60〜100℃で乾燥させて得られた微結晶質の水酸化鉄系物質と合成樹脂粉末との混合物を、加熱・焼結することにより得られた陰イオン吸着材。
(2)前記沈殿生成物の乾燥温度が80℃である前記(1)記載の陰イオン吸着材。
(3)前記水酸化鉄系物質が、前記沈殿生成物からアルカリ塩を除去した後に乾燥されたものである前記(1)記載の陰イオン吸着材。
(4)前記鉄イオン溶液が塩化第二鉄水溶液である前記(1)記載の陰イオン吸着材。
【0010】
(5)前記アルカリが水酸化ナトリウムである請求項1記載の陰イオン吸着材。
(6)前記合成樹脂粉末がポリオレフィンである前記(1)記載の陰イオン吸着材。
(7)前記焼結温度が150〜230℃で、焼結時間が0.5〜2時間である前記(1)記載の陰イオン吸着材。
(8)前記水酸化鉄系物質の混合割合が10〜70質量%である前記(1)記載の陰イオン吸着材。
【0011】
(9)鉄イオン溶液にアルカリを加えてpH4〜8に中和することにより得られる沈殿生成物を60〜100℃で乾燥させて得られた微結晶質の水酸化鉄系物質と合成樹脂粉末との混合物を、加熱・焼結する陰イオン吸着材の製造方法。
(10)請求項1〜8のいずれかの陰イオン吸着材を、陰イオンを含有する溶液に接触させ、該陰イオン吸着材に該溶液中に含まれる陰イオンを吸着させる陰イオンの除去方法。
(11)陰イオンがヒ素を含むイオンである前記(10)記載の陰イオンの除去方法。
(12)ヒ素を含むイオンが3価イオンまたは5価イオンである前記(11)記載の陰イオンの除去方法。
【0012】
(13)陰イオンを吸着した前記(1)〜(8)のいずれかの陰イオン吸着材を、アルカリ性溶液で処理することにより、吸着した陰イオンを溶離させることを特徴とする陰イオン吸着材の再生方法。
(14)陰イオンを吸着した前記(1)〜(8)のいずれかの陰イオン吸着材を、アルカリ性溶液で処理することにより、吸着した陰イオンを溶離させ、陰イオンに含まれる元素を回収する元素回収方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の陰イオン吸着材は、その吸着能力が優れ、特にヒ素イオンは広い範囲のpH域あり、優れた吸着能を有している。
また、本発明の陰イオン吸着材は、微結晶質の水酸化鉄系物質と合成樹脂粉末との混合物を、加熱・焼結することにより得られ、多数の細孔による優れた高比表面積を十分保持しており、そのため、前記粉末状の陰イオン吸着剤の担持量も多くなり重金属イオン吸着能に優れており、また、イオン吸着材の洗浄、処理液からの分離・回収等の取り扱い性にも優れている。
この陰イオン吸着材に一度吸着された陰イオン(例えば、ヒ素)は再び解吸着(溶離)でき、また吸着材として繰り返し使用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に本発明の陰イオン吸着材、その製造方法、陰イオンの除去方法、陰イオン吸着材の再生方法および元素回収方法について詳細に説明する。
本発明の陰イオン吸着材は、鉄イオン溶液にアルカリを加えてpH4〜8に中和することにより得られる沈殿生成物を60〜100℃で乾燥させて得られた微結晶質の水酸化鉄系物質と合成樹脂粉末との混合物を、加熱・焼結することにより、得られることを特徴とする。
【0015】
本発明の陰イオン吸着材における、微結晶質の水酸化鉄系物質(以下、陰イオン吸着剤と称する)の作製において、鉄イオン溶液にアルカリを加えて中和する際のpHが4未満ではヒ素含有イオンを吸着し難くなり、pHが8を超えて、高くなると同様にヒ素含有イオンを吸着し難くなり、共に不適である。
本発明に用いる陰イオン吸着剤において、鉄イオン溶液にアルカリを加えて中和する際のpHは、上記の通り、4〜8であれば特に限定されないが、好ましくはpH7である。
【0016】
また本発明に用いる陰イオン吸着剤において、鉄イオン溶液にアルカリを加えて中和することにより得られる沈殿生成物の乾燥温度が60℃未満では非晶質となり、乾燥温度が100℃を超えて、高くなるとより結晶化が進み、共に不適である。
上記乾燥温度は60〜100℃あれば特に限定されないが、70〜90℃が好ましく、最も好ましくは80℃である。
また、上記乾燥における乾燥時間としては、沈殿生成物量及び乾燥温度等によって適宜選択されるものであるが、具体的には10〜100時間が好ましく、最も好ましくは48時間である。
【0017】
本発明に用いる陰イオン吸着剤を得るために用いられる鉄イオン溶液としては、特に限定されないが、塩化第二鉄、硝酸第二鉄、硫酸第二鉄等の各水溶液が挙げられ、中でも塩化第二鉄水溶液が好ましい。
また、上記鉄イオン溶液の濃度(鉄イオン濃度)としては、特に限定されないが、0.01〜1.0mol/リットルが好ましく、最も好ましくは0.1mol/リットルである。
本発明に用いる陰イオン吸着剤を得るために、鉄イオン溶液を中和するために加えるアルカリとしては、特に限定されないが、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の水溶液等を用いることができ、中でも水酸化ナトリウム水溶液が好ましい。
【0018】
また、本発明の陰イオン吸着材に担持させる微結晶質の水酸化鉄系物質は、前記沈殿生成物からアルカリ塩を除去したものであることが好ましい。アルカリ塩を除去することにより、陰イオンの吸着能をさらに向上させることができる。前記沈殿生成物からのアルカリ塩の除去する方法としては、特に限定されないが、具体的には該沈殿生成物の水洗、乾燥を繰り返すことによって行うことができる。
【0019】
また、本発明の陰イオン吸着材に担持させる微結晶質の水酸化鉄系物質は、上記沈殿生成物の水洗、乾燥後に適度な粒径に粉砕し、使用することができる。具体的には、1〜1000μmが好ましく、より好ましくは10〜100μmの範囲である。
【0020】
本発明の陰イオン吸着材中に用いられる合成樹脂粉末としては、特に限定されないが、特公昭64−5934号公報、特表昭61−502381号公報、特開2002−336619号公報等に記載のもの等が挙げられるが、使用目的に合わせて適切なものを適宜選択する。
【0021】
具体的には、超高分子量ポリエチレンと高密度ポリエチレンとの組合せが挙げられる。超高分子量ポリエチレンは溶融流動性が小さく核となって焼結体の形状を保持し、高密度ポリエチレンは融け合いバインダー的な融着結合の働きをする。超高分子量ポリエチレンだけでは脆くなり、逆に高密度ポリエチレンだけでは融け流れてソリッド化しやすくなることがある。どちらか一方の樹脂だけでは燒結体にするのが難しくなる場合があり、両者を適当な比率で配合するのが好ましい。なお、この系の場合、焼結温度条件としては、150℃以下では焼結不足となり、焼結体が脆く、また陰イオン吸着剤が脱落しやすくなることがある。230℃以上では樹脂の酸化劣化や陰イオン吸着剤の分解の恐れがある。また焼結過剰となり樹脂が融け流れすぎ多孔質性が低下する場合もある。好ましい温度範囲は150〜230℃、特に好ましくは180〜210℃の範囲である。
【0022】
本発明の陰イオン吸着材は、微結晶質の水酸化鉄系物質と合成樹脂粉末との混合物を、金型に充填し、加熱・焼結することにより得られ、合成樹脂粉末による連通多孔性成形体中に陰イオン吸着剤の微粒子が均一に固化され担持させた形態で形成される。
【0023】
焼結温度は樹脂の融点より高く且つそれより100℃を越えない温度範囲にて焼結したものが好ましく、特に限定されないが、焼結温度が150〜230℃で、焼結時間が0.5〜2時間の範囲が好ましい。
焼結温度及び焼結時間が上記の範囲を超えると、合成樹脂が過度に溶融し連通多孔性成形体が形成できず、また、水酸化鉄系物質の陰イオン吸着能が劣化することがあり、不適である。詳細には、使用目的に合わせて適切な焼結温度、焼結時間を適宜選択すればよい。
【0024】
前記微結晶質の水酸化鉄系物質と合成樹脂粉末との混合物における水酸化鉄系物質の混合割合は10〜70質量%の範囲がこのましい。水酸化鉄系物質の混合割合が上記の範囲を超えると、強度が弱くなることがあり、上記の範囲未満では陰イオン除去能が不十分であり、共に不適である。詳細には、使用目的に合わせて適切な混合割合を適宜選択すればよい。
【0025】
本発明の陰イオン吸着材は、陰イオンを含有する溶液に接触させ、該イオン吸着材に該溶液中に含まれる陰イオンを吸着させることにより陰イオンを除去することができる。
ここで、除去対象となる陰イオンとしては、特に限定されないが、具体的には、モリブデン、クロム、アンチモン、セレン、ヒ素、ホウ素を含む陰イオンやフッ素イオン等が挙げられる。その中でも、本発明の陰イオン吸着材およびそれらを用いる陰イオンの除去方法においては、ヒ素を含む陰イオンを除去対象とすることが好適である。
【0026】
なお、水中のヒ素は5価のヒ素イオンおよび3価の亜ヒ素イオンとして溶解している。3価の亜ヒ素イオンは普通の凝集沈殿方法で沈殿せず廃水から除去できないことがよく知られている。一般に、無機ヒ素化合物は有機ヒ素化合物よりも毒性が強く、また、ヒ素(III)化合物はヒ素(V)化合物よりも毒性が強い。一方、ヒ素(III)イオンは吸着反応によって除去し難く、また沈殿除去反応も有効でもないことがよく知られている。よって、毒性が最も強いヒ素(III)の除去を行うことが、技術的に意義あることであり、本発明では、そのような毒性が最も強いヒ素を含む3価の陰イオンを除去対象とするものである。
本発明において、ヒ素(III)の除去のメカニズムは、明確ではないが、難溶性の塩基性ヒ酸(III)(Fex(OH)y(AsO9.5)z)としての沈殿形成反応と、オキシ水酸化鉄(III)(Fexy(OH)z)コロイドへのヒ酸イオンの吸着の二つであると考えられる。
【0027】
本発明の陰イオン吸着材は、陰イオンを吸着したあと、該陰イオンを溶離することにより再生・再利用することができる。
陰イオンを吸着した吸着材を再生する方法としては、該吸着材をアルカリ性溶液で処理することにより、吸着した陰イオンを溶離させるものである。
上記吸着材を再生する方法において用いられるアルカリ性溶液としては、特に限定されないが、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の水溶液等を用いることができる。またアルカリ性溶液で処理される際の処理液のpHは、13〜14の範囲とされることが好ましく、より好ましくはpH13.5〜14である。
また、陰イオンを吸着した吸着材を、アルカリ性溶液で処理することにより、吸着した陰イオンを溶離させ、陰イオンに含まれる元素を回収することができる。
【実施例】
【0028】
以下に本発明を実施例によって更に詳細に説明するが、勿論本発明の範囲は、これらによって限定されるものではない。
〔陰イオン吸着剤(粉末)の製造方法〕
塩化第二鉄FeCl3・6H2Oを0.1モル/リットルになるように、水に溶解し、撹拌しながら、NaOH水溶液によって、pHを7に中和調整する。この操作によって得られた沈殿物をろ過し、沈殿物を定温乾燥機中で80℃で48時間乾燥する。更に乾燥した沈殿物を、水に10,000mgdm-3の濃度で懸濁・洗浄し、15分後にろ過して回収することにより塩化ナトリウム等を除去後、再び80℃で48時間乾燥した。
乾燥により固形化した沈殿物をメノウ乳鉢で粉砕して固形粉末を得た。その固形粉末を、陰イオン吸着剤IHとして、後述する実験において使用した。
この陰イオン吸着剤のX線回折パターンを図1に示す。これより、鉄元素に関しては若干のピークが現れたことから得られた吸着剤は非晶質ではなく微結晶質であると確認した。
【0029】
〔実施例1〕
陰イオン吸着材1の作製
下記に示す組成の樹脂粉末1(配合比率:25.0質量%)、樹脂粉末2(25.0質量%)及び上記陰イオン吸着剤IH(50.0質量%)をミキサーにより混合し混合物とした。
この混合物を成形体になる金型に振動を与えながら充填し、加圧することなく被せ蓋をし、焼結炉(オーブン)に装填して焼結した。焼結炉は180℃に温度制御され、1時間放置した後、加熱を止め、樹脂温度が70℃以下になってから焼結体を取り出し、陰イオン吸着材1を得た。
【0030】
(樹脂粉末1)
超高分子量ポリエチレン
分子量:約300万
粒度:50〜500μm
平均粒径:150μm
融点:135℃
【0031】
(樹脂粉末2)
高密度ポリエチレン
メルトフローインデックス:0.8g/10分
粒度:50〜500μm
平均粒径:210μm
融点:124℃
【0032】
なお、この連通多孔性成形体(陰イオン吸着材1)のフラジール型通気度試験機による通気度は1.6cm3/cm2・secであり、比較的緻密な焼結体となった。
【0033】
〔実施例2〕
陰イオン吸着材2の作製
下記に示す組成の樹脂粉末3(配合比率:17.5質量%)、樹脂粉末4(52.5質量%)及び上記陰イオン吸着剤IH(30.0質量%)をミキサーにより混合し混合物とした。
この混合物を成形体になる金型に振動を与えながら充填し、加圧することなく被せ蓋をし、焼結炉(オーブン)に装填して焼結した。焼結炉は180℃に温度制御され、1.5時間放置した後、加熱を止め、樹脂温度が70℃以下になってから焼結体を取り出し、陰イオン吸着材2を得た。
【0034】
(樹脂粉末3)
超高分子量ポリエチレン
分子量:約400万
粒度:250〜1,000μm
平均粒径:500μm
融点:130℃
【0035】
(樹脂粉末4)
高密度ポリエチレン
メルトフローインデックス:0.5g/10分
粒度:250〜810μm
平均粒径:420μm
融点:120℃
【0036】
得られた陰イオン吸着材2の表面と断面の拡大(顕微鏡)像写真をそれぞれ図2及び図3に示す。
なお、この連通多孔性成形体(陰イオン吸着材2)のフラジール型通気度試験機による通気度は118.0cm3/cm2・secであり、樹脂粉末の粒度を粗くすることにより、通気度は数段大きくなった(但し、陰イオン吸着剤IH配合比率は低減)。
【0037】
〔実施例3〕
陰イオン吸着材3の作製
実施例2と同じ操作を行った。但し、超高分子量ポリエチレン(樹脂粉末3)の配合比率を17.5質量%から12.5質量%、高密度ポリエチレン(樹脂粉末4)の配合比率を52.5質量%から37.5質量%及び上記陰イオン吸着剤IHの配合比率を30.0質量%から50.0質量%に代えた。
【0038】
なお、この連通多孔性成形体(陰イオン吸着材3)のフラジール型通気度試験機による通気度は55.0cm3/cm2・secであり、陰イオン吸着剤IH配合比率を増大することにより、通気度が実施例1と実施例2の間のものが得られた。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】陰イオン吸着剤IHのXRDの結果を示す図である。
【図2】実施例2の陰イオン吸着剤2の表面拡大像である。
【図3】実施例2の陰イオン吸着剤2の断面拡大像である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄イオン溶液にアルカリを加えてpH4〜8に中和することにより得られる沈殿生成物を60〜100℃で乾燥させて得られた微結晶質の水酸化鉄系物質と合成樹脂粉末との混合物を、加熱・焼結することにより得られた陰イオン吸着材。
【請求項2】
前記沈殿生成物の乾燥温度が80℃である請求項1記載の陰イオン吸着材。
【請求項3】
前記水酸化鉄系物質が、前記沈殿生成物からアルカリ塩を除去した後に乾燥されたものである請求項1記載の陰イオン吸着材。
【請求項4】
前記鉄イオン溶液が塩化第二鉄水溶液である請求項1記載の陰イオン吸着材。
【請求項5】
前記アルカリが水酸化ナトリウムである請求項1記載の陰イオン吸着材。
【請求項6】
前記合成樹脂粉末がポリオレフィンである請求項1記載の陰イオン吸着材。
【請求項7】
前記焼結温度が150〜230℃で、焼結時間が0.5〜2時間である請求項1記載の陰イオン吸着材。
【請求項8】
前記水酸化鉄系物質の混合割合が10〜70質量%である請求項1記載の陰イオン吸着材。
【請求項9】
鉄イオン溶液にアルカリを加えてpH4〜8に中和することにより得られる沈殿生成物を60〜100℃で乾燥させて得られた微結晶質の水酸化鉄系物質と合成樹脂粉末との混合物を、加熱・焼結する陰イオン吸着材の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれかの陰イオン吸着材を、陰イオンを含有する溶液に接触させ、該陰イオン吸着材に該溶液中に含まれる陰イオンを吸着させる陰イオンの除去方法。
【請求項11】
陰イオンがヒ素を含むイオンである請求項10記載の陰イオンの除去方法。
【請求項12】
ヒ素を含むイオンが3価イオンまたは5価イオンである請求項11記載の陰イオンの除去方法。
【請求項13】
陰イオンを吸着した請求項1〜8のいずれかの陰イオン吸着材を、アルカリ性溶液で処理することにより、吸着した陰イオンを溶離させることを特徴とする陰イオン吸着材の再生方法。
【請求項14】
陰イオンを吸着した請求項1〜8のいずれかの陰イオン吸着材を、アルカリ性溶液で処理することにより、吸着した陰イオンを溶離させ、陰イオンに含まれる元素を回収する元素回収方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−117923(P2007−117923A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−315161(P2005−315161)
【出願日】平成17年10月28日(2005.10.28)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【出願人】(000227250)日鉄鉱業株式会社 (82)
【Fターム(参考)】