説明

陽イオン交換膜及びその製造方法

【課題】製塩に用いられる陽イオン交換膜について、従来使用されている膜と比較し、電気抵抗を増加させずに、濃縮性能を向上させる。
【解決手段】ポリオレフィンからなる多孔性基材の細孔内に、スチレンとジビニルベンゼンとを少なくとも共重合成分とした共重合体を充填して、電離放射線を照射した後、スルホン酸基を導入することを特徴とする製塩用陽イオン交換膜。前記細孔内に、スルホン酸基を導入可能な官能基を有するスチレン及びジビニルベンゼンを含有する重合性混合物を充填して、熱重合を行い、電離放射線を照射した後、スルホン酸基を導入することを特徴とする製塩用陽イオン交換膜。その製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製塩に用いられる陽イオン交換膜及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
イオン交換膜製塩法における海水濃縮工程には、陽及び陰イオン交換膜を利用した電気透析槽が用いられている。電気透析槽に利用するイオン交換膜は、食塩の製造費低減のために、膜の電気抵抗を増加させることなく、濃縮性能を向上させることが必要である。
【0003】
製塩用イオン交換膜の製法については従来から数多くの方法が提案されている(例えば特許文献1〜3参照)が、それらの中でもイオン交換基が導入可能な官能基を有する単量体、架橋剤及び重合開始剤を主たる成分として含有する混合物をポリ塩化ビニル製の織布等に塗布して重合した後、必要に応じてイオン交換基を導入する方法が広く知られている。
【0004】
しかしながら、この方法により得られたイオン交換膜は、膜の電気抵抗を増加させることなく、濃縮性能を向上させることは困難であった。
かかる問題点を解決するため、ポリプロピレン繊維基材等に重合性単量体を含浸担持させた後、電離放射線でグラフト重合しイオン交換膜を得る方法や、ポリオレフィン製基材等に重合性単量体を含浸担持させた後、電離放射線で一部重合を行い、続いて重合開始剤の存在下で加熱することにより、重合を完結させてイオン交換膜を得る方法が提案されている(例えば特許文献4〜6参照)。
【0005】
しかし、いずれの方法も、膜の濃縮性能については満足のいく成果は見られなかった。
【特許文献1】特公昭39−27861号公報
【特許文献2】特公昭40−28951号公報
【特許文献3】特公昭44−19253号公報
【特許文献4】特開昭51−52489号公報
【特許文献5】特開昭60−238327号公報
【特許文献6】特開平06−271687号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、製塩に用いられる陽イオン交換膜について、従来使用されている膜と比較し、電気抵抗を増加させずに、濃縮性能を向上させることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、前記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、ポリエチレン等からなる多孔性基材の細孔内に、ポリスチレン系共重合体等を充填して、電離放射線を照射した後、スルホン酸基を導入した陽イオン交換膜が、従来使用されている製塩用の陽イオン交換膜と比較して、電気抵抗を増加させずに、濃縮性能を向上させることを見出した。より具体的には、超高分子量ポリエチレンからなる多孔性基材の細孔内に、スチレン及びジビニルベンゼン等の単量体を充填して熱重合し、電子線を照射した後、スルホン酸基を導入した陽イオン交換膜が、従来使用されている製塩用の陽イオン交換膜と比較し、電気抵抗を増加させずに、濃縮性能を向上させることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は、下記の構成とすることにより上記の目的を達成するに至った。
(1)ポリオレフィンからなる多孔性基材の細孔内に、スチレンとジビニルベンゼンとを少なくとも共重合成分とした共重合体を充填して、電離放射線を照射した後、スルホン酸基を導入することを特徴とする製塩用陽イオン交換膜。
(2)前記細孔内に、スルホン酸基を導入可能な官能基を有するスチレン及びジビニルベンゼンを含有する重合性混合物を充填して、熱重合を行い、電離放射線を照射した後、スルホン酸基を導入することを特徴とする前記(1)に記載の製塩用陽イオン交換膜。
(3)前記ポリオレフィンがポリエチレンであることを特徴とする前記(1)又は(2)記載の製塩用陽イオン交換膜。
(4)前記ポリオレフィンが超高分子量ポリエチレンであることを特徴とする前記(1)又は(2)記載の製塩用陽イオン交換膜。
(5)前記スルホン酸基を導入可能な官能基自体がスルホン酸基でない場合には、熱重合後に電離放射線を照射し、スルホン酸基を付与できる化合物で処理したものであることを特徴とする前記(2)〜(4)のいずれか1項に記載の製塩用陽イオン交換膜。
【0009】
(6)前記スルホン酸基を導入可能な官能基自体がスルホン酸基であることを特徴とする前記(2)〜(4)のいずれか1項に記載の製塩用陽イオン交換膜。
(7)前記電離放射線が電子線であることを特徴とする前記(1)〜(6)のいずれか1項に記載の製塩用陽イオン交換膜。
(8)前記電子線の照射量が50〜1000kGyであることを特徴とする前記(7)に記載の製塩用陽イオン交換膜。
(9)ポリオレフィンからなる多孔性基材の細孔内に、スルホン酸基を導入可能な官能基を有するスチレン及びジビニルベンゼンを含有する重合性混合物を充填して、熱重合を行い、電離放射線を照射した後、スルホン酸基を導入することを特徴とする製塩用陽イオン交換膜の製造方法。
【0010】
上記から明らかなように、本発明の骨子は、下記(1)〜(3)に存する。
(1)ポリオレフィンからなる多孔性基材の細孔内に、スチレンとジビニルベンゼンとを少なくとも共重合成分とした共重合体を充填して、電離放射線を照射した後、スルホン酸基を導入することを特徴とする製塩用陽イオン交換膜。
(2)前記細孔内に、スルホン酸基を導入可能な官能基を有するスチレン及びジビニルベンゼンを含有する重合性混合物を充填して、熱重合を行い、電離放射線を照射した後、スルホン酸基を導入することを特徴とする前記(1)に記載の製塩用陽イオン交換膜。
(3)ポリオレフィンからなる多孔性基材の細孔内に、スルホン酸基を導入可能な官能基を有するスチレン及びジビニルベンゼンを含有する重合性混合物を充填して、熱重合を行ない、電離放射線を照射した後、スルホン酸基を導入することを特徴とする製塩用陽イオン交換膜の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、現在製塩に用いられている陽イオン交換膜と比較して、電気抵抗を増加させずに、濃縮性能を向上させた陽イオン交換膜を提供できることから、製塩コスト低減に寄与できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の陽イオン交換膜製造方法は、包括的には、ポリオレフィンからなる多孔性基材の細孔内に陽イオン交換基を導入可能な官能基を有する重合性単量体、架橋性単量体を含有する重合性混合物を充填して、熱重合を行い、得られた共重合体が充填された多孔性基材に電離放射線を照射した後、必要に応じてクロロスルホン酸等を用いてスルホン酸基を導入することが特徴である。
より具体的には、ポリエチレンや超高分子量ポリエチレンからなる多孔性基材の細孔内に、スチレン及びジビニルベンゼン等の単量体を充填して、熱重合を行い、得られた共重合体が充填された多孔性基材に電子線を照射した後、共重合体にスルホン酸基を導入することを特徴とするものである。
【0013】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
本発明においてポリオレフィンとは、分子中に二重結合を有する有機化合物の重合体である。具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン、ポリブタジエン等の脂肪族オレフィンの重合体、ポリスチレン、ポリα−メチルスチレン、ポリジビニルベンゼン等の芳香族オレフィンの重合体、ポリメタクリル酸メチル、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール等の含酸素オレフィンの重合体、ポリアクリロニトリル、ポリ−N−ビニルピロリドン等の含窒素オレフィンの重合体、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン等の含ハロゲンオレフィンの重合体等が挙げられる。これらのポリオレフィンを単独で使用してもよいし、複数のポリオレフィンを混合してもよい。また、上記の2種以上のオレフィンの共重合体、あるいはグラフト共重合体でもよい。2個以上の二重結合を有する化合物との共重合あるいは電子線照射、プラズマ照射、紫外線照射、化学反応等により架橋構造を有するものでもよい。その中でも化学的安定性やコストの面等からポリエチレンが好ましく、特に分子量が100万以上の超高分子量ポリエチレンが好適である。また、本発明において、ポリオレフィンには、その望ましい特性を損なわない範囲において、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤等の種々の添加剤を含んでいてもよい。
【0014】
本発明での多孔性基材とは、平均孔径が0.001〜50μm、厚みが1〜300μm、空孔率が1〜95%のフィルム状物である。多孔性基材の平均孔径は、0.005〜5μmが好ましく、特に0.01〜2μmが好適である。また、多孔性基材の厚みは、5〜200μmが好ましく、特に10〜150μmが好適である。多孔性基材の空孔率は、10〜90%が好ましく、特に20〜80%が好適である。ここでいう空孔率とは、多孔性基材の単位面積あたりの重量と厚みからみかけの密度ρa(g/cm)を求め、多孔性基材を構成するポリオレフィン(添加剤を含む場合は、添加剤も含めたもの)の真の密度ρt(g/cm)から次式により算出された値である。
空孔率(%)=(1−ρa/ρt)×100
【0015】
本発明において多孔性基材の製造方法は、従来行われている広範な方法が何の制限もなく使用できる。例えば、溶融ポリマーをシート化して、さらに熱処理によって積層ラメラ構造を形成させ、一軸延伸によって結晶界面の剥離を行う延伸開孔法や、ポリマーと溶剤を加熱溶融してシート化することでミクロ相分離させ、その溶剤を抽出除去しながら一軸あるいは二軸延伸する相分離法等があげられる。
本発明にかかる多孔性基材としては、例えば旭化成ケミカルズ株式会社製ハイポア(製品名)、東燃化学那須株式会社製セティーラ(製品名)等が挙げられる。
【0016】
本発明において共重合体とは、2種又は2種以上の単量体を構成単位としているような重合体をいう。例えば、スチレンとクロロメチルスチレンのように二重結合を有する化合物が付加重合することにより生成した共重合体、ジカルボン酸とジアルコールとの反応のように重縮合することにより生成した共重合体、ジイソシアナートとジアルコールとの反応のように重付加することにより生成した共重合体等が挙げられる。また、スチレンとジビニルベンゼンの共重合体のように架橋構造を有するものも含まれる。
【0017】
本発明において共重合体は、スチレンとジビニルベンゼンとを少なくとも共重合成分とするが、その他の共重合成分としては、スチレン及びジビニルベンゼンと共重合するものであれば特に制限を受けない。例えば、クロロメチルスチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、p−メトキシスチレン、p−エチルスチレン、m−エチルスチレン、o−エチルスチレン等のスチレン系単量体、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリルアミド、アクリロニトリル等のアクリル酸あるいはメタクリル酸系単量体、ジビニルトルエン、ジビニルナフタレン、1,2−ビス(ビニルフェニル)エタン等の芳香族ジエン類、トリビニルベンゼン等の芳香族ポリエン類、エチレングリコールジメタクリレート、N,N−メチレンビスアクリルアミド等のアクリル酸系ジエン類、ペンタエリスリトールトリアクリレート等のアクリル酸系ポリエン類等が挙げられる。
【0018】
本発明において、多孔性基材の細孔内に共重合体を充填する方法は、従来行われている広範な方法が何の制限もなく使用できる。例えば、共重合体溶液に多孔性基材を浸漬した後、溶媒を除去する方法、重合性単量体、架橋性単量体を含有する重合性混合物を多孔性基材の細孔内に充填した後、光照射により重合する方法、重合性単量体、架橋性単量体を含有する重合性混合物を多孔性基材の細孔内に充填して、熱重合を行う方法等がある。この中で特に多孔性基材の細孔内に重合性単量体、架橋性単量体を含有する重合性混合物を充填して、熱重合を行う方法が好適である。また、多孔性基材の細孔内に重合性単量体、架橋性単量体を含有する重合性混合物を充填する方法としては、重合性単量体、架橋性単量体を含有する重合性混合物またはその溶液に多孔性基材を浸漬する方法が好適である。
【0019】
本発明において電離放射線とは、物質を透過する際、電離作用を起こす性質を持つ高速度で運動している粒子線や電磁波のことをいい、具体的には、α線、β線、γ線、X線、陽子線、電子線、中性子線、紫外線等が挙げられ、特にγ線と電子線が好適である。
【0020】
電離放射線に電子線を用いる場合、照射量は1〜3000kGyが好適であり、50〜1000kGyが特に好適である。照射量が少な過ぎると製塩用陽イオン交換膜の濃縮性能の向上が小さく、また、照射量が多くなり過ぎると製塩用陽イオン交換膜が脆くなり機械的強度が低下する。照射時の温度は、−10〜130℃、好ましくは10〜50℃である。照射時の雰囲気は、空気中でも可能であるが、酸化反応を防止するため窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性気体の雰囲気中、あるいは真空下で行うことが好適である。
【0021】
また、共重合体が充填された多孔性基材に電子線を照射した後、多孔性基材や共重合体に残存するラジカルを消滅させて反応を完結させるため、加熱処理することが有効である。加熱処理の温度は30〜180℃、好ましくは50〜130℃、加熱時間は5秒〜3日、好ましくは30分〜1日である。加熱処理は、空気中でも可能であるが、酸化反応を防止するため窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性気体の雰囲気中、あるいは真空下で行うことが好適である。
【0022】
スチレンとジビニルベンゼンとを少なくとも共重合成分とした共重合体が充填されたポリオレフィンからなる多孔性基材に電離放射線を照射することにより、どのような反応が起こるかは必ずしも明確ではないが、電離放射線を照射することにより多孔性基材や共重合体にラジカルが発生し、それらがカップリングすることにより多孔性基材と共重合体との間に化学結合が起こると考えられる。そのことにより、多孔性基材と共重合体との密着性が向上して、スルホン酸基を導入して製塩用陽イオン交換膜にした場合の濃縮性能が向上するものと推定している。
【0023】
電離放射線を照射した後、多孔性基材に充填された共重合体にスルホン酸基を導入する方法としては、従来製塩用陽イオン交換膜の製造方法として用いられてきた方法が制限なく適用できる。例えば、スチレンとジビニルベンゼンを含有する重合性混合物を共重合して、濃硫酸、発煙硫酸、クロロスルホン酸、三酸化硫黄、塩化スルフリル等のスルホン化剤でスルホン化する方法、芳香族環を有する単量体をスチレンとジビニルベンゼンを含有する重合性混合物と共重合して、芳香族環を濃硫酸等のスルホン化剤でスルホン化する方法、スルホン酸誘導体の単量体をスチレンとジビニルベンゼンを含有する重合性混合物と共重合して、加水分解等によりスルホン酸基を導入する方法、エポキシ基を有する単量体をスチレンとジビニルベンゼンを含有する重合性混合物と共重合して、亜硫酸ナトリウム等との反応によりスルホン酸基を導入する方法、スルホン酸基を有する単量体をスチレンとジビニルベンゼンを含有する重合性混合物と共重合する方法等が挙げられる。その中で、スチレンとジビニルベンゼンを含有する重合性混合物を共重合して、濃硫酸、発煙硫酸、クロロスルホン酸、三酸化硫黄、塩化スルフリル等のスルホン化剤でスルホン化する方法が特に好適である。
【0024】
濃硫酸等のスルホン化剤によるスルホン化は、スルホン化剤のみで行うこともできるが、1,2−ジクロロエタン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素等の溶媒を用いることが有効である。スルホン化の温度は−20〜100℃、好ましくは0〜80℃である。
【0025】
本発明において重合性混合物とは、重合性単量体、架橋性単量体、ゴム、線状高分子物質、可塑剤、重合開始剤等の混合物をいう。
【0026】
本発明においてスルホン酸基を導入可能な官能基を有する重合性単量体とは、スルホン酸基を導入しやすい官能基を有するか、あるいはスルホン酸基を有する重合性単量体であり、具体的には、以下に列記する単量体が挙げられる。
(1)スルホン酸基を導入しやすい芳香族環を有する単量体。例えば、スチレン、クロロメチルスチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、p−メトキシスチレン、p−エチルスチレン、m−エチルスチレン、o−エチルスチレン等。
(2)スルホン酸基を導入しやすいスルホン酸誘導体の単量体。例えば、ビニルスルホン酸エチル、アリルスルホン酸メチル、p−スチレンスルホン酸エチル、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸メチル等。
(3)スルホン酸基を導入しやすいエポキシ基を有する単量体。例えば、グリシジルメタクリレート、エポキシスチレン、ブタジエンモノオキシド等。
(4)スルホン酸基を有する単量体。例えば、ビニルスルホン酸、ビニルスルホン酸ナトリウム、アリルスルホン酸、アリルスルホン酸ナトリウム、p−スチレンスルホン酸、p−スチレンスルホン酸ナトリウム、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸ナトリウム等。
【0027】
本発明において架橋性単量体は、分子中に二重結合を少なくとも2個有するものであれば特に制限なく使用できる。例えば、ジビニルベンゼン、ジビニルトルエン、ジビニルナフタレン、1,2−ビス(ビニルフェニル)エタン等の芳香族ジエン類、トリビニルベンゼン等の芳香族ポリエン類、エチレングリコールジメタクリレート、N,N−メチレンビスアクリルアミド等のアクリル酸系ジエン類等、ペンタエリスリトールトリアクリレート、テトラメチロールメタンテトラアクリレート等のアクリル酸系ポリエン類等が挙げられ、特にジビニルベンゼンが好適である。
【0028】
合成された陽イオン交換膜に柔軟性を付与するために、重合性混合物にゴム等の弾性体を添加することも有効である。ゴムとしては、従来製塩用イオン交換膜に使用されているものが何の制限もなく使用できる。例えば、ニトリルブタジエンゴム(NBR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、天然ゴム、エチレンプロピレンゴム、ブチルゴム、クロロプレンゴム、アクリルゴム、水素添加ニトリルブタジエンゴム、エピクロロヒドリンゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、塩素化ポリエチレン、ノルボンネンゴム等を用いることができ、単独もしくは2種以上混合して用いることができる。その中で、特にNBRとSBRが好適である。
【0029】
また、合成された陽イオン交換膜に柔軟性を付与するために、重合性混合物に線状高分子物質として、例えば、ポリ塩化ビニル微粉末、ポリエチレン微粉末、ポリプロピレン微粉末等を添加することも有効であり、使用に際しては、単独もしくは2種以上混合して用いることができる。また、同様の目的で重合性混合物に可塑剤として、ジオクチルフタレート、ジ−2−エチルヘキシルフタレート、ジブチルフタレート、リン酸トリブチルあるいは、脂肪族酸、芳香族酸のアルコールエステル等を添加することも有効である。
【0030】
以下の説明及び実施例において、部は全て重量部を示す。スチレンとジビニルベンゼンを含有する重合性混合物に添加するゴム、線状高分子物質、可塑剤の量は、特に制限するものではないが、スチレンとジビニルベンゼンを含む重合性単量体と架橋性単量体の合計を100部とした時、ゴムは50部以下、線状高分子物質は30部以下、可塑剤は50部以下が好ましく、特にゴムは30部以下、線状高分子物質は20部以下、可塑剤は30部以下が好適である。
【0031】
本発明において熱重合は、従来行われている広範な方法が何の制限もなく使用できる。重合開始剤を使用せず、加熱のみで重合することも可能であるが、重合開始剤を添加したスチレンとジビニルベンゼンを含有する重合性混合物に多孔性基材を浸漬した後、多孔性基材をガラス板、ポリエステルフィルムに挟んで、乾燥機中で加熱する方法等が好適である。
【0032】
熱重合に使用する重合開始剤は、特に限定されないが、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、1,1’−アゾビスシクロヘキサン−1−カルボニトリル、ジメチル−2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネ−ト)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)等のアゾ系重合開始剤、過酸化ベンゾイル(BPO)、ペルオキシ安息香酸t−ブチル、過酸化ジラウリル、過酸化ジ−t−ブチル、過酸化ジコハク酸等の過酸化物系重合開始剤等が使用でき、特にAIBN、BPOが好適である。
【0033】
熱重合の具体例を以下に示す。スチレン80部、ジビニルベンゼン20部、NBR5部、AIBN1部を混合した重合性混合物中に多孔性基材を室温で3秒〜12時間浸漬する。所定時間後、多孔性基材を取り出し、ガラス板、ポリエステルフィルムに挟んで、乾燥機に入れる。熱重合の温度は30〜120℃、好ましくは50〜100℃であり、3〜24時間保つ。
【0034】
スチレンとジビニルベンゼンの共重合体等を細孔内に充填した多孔性基材に、次の段階として電離放射線を照射する。電離放射線として電子線を照射する場合の具体例を以下に示す。
スチレンとジビニルベンゼンの共重合体等を細孔内に充填した多孔性基材を酸素不透過性ポリエチレン系袋中に挿入後、この袋内を窒素置換し、袋をヒートシールして閉じる。次いでこの基材を含む袋に電子線を窒素雰囲気下、室温で50〜1000kGy照射する。電子線照射後、袋内にスチレンとジビニルベンゼンの共重合体等を細孔内に充填した多孔性基材を入れたまま、50〜130℃で30分〜1日加熱処理をする。加熱処理した後、袋からスチレンとジビニルベンゼンの共重合体等を細孔内に充填した多孔性基材を取り出して、スルホン酸基を導入する。
【0035】
多孔性基材の細孔内に充填されたスチレンとジビニルベンゼンの共重合体等へのスルホン酸基の導入は、従来行われている広範な方法が何の制限もなく使用できるが、具体例を以下に示す。
【0036】
クロロスルホン酸濃度が1〜50重量%の1,2−ジクロロエタン溶液に、スチレンとジビニルベンゼンの共重合体等を細孔内に充填した多孔性基材を0〜80℃で1〜72時間浸漬して反応させる。所定時間反応後、膜を十分に水洗する。その後、濃度1〜10重量%の水酸化ナトリウム水溶液に1〜24時間浸漬することで加水分解した後、膜を十分に水洗する。
【実施例】
【0037】
以下、本発明の陽イオン交換膜及びその製造方法を実施例に基づいてさらに詳細に説明する。なお、本発明はかかる実施例に限定されるものではない。
【0038】
(実施例1)
ガラス容器にスチレン75部、ジビニルベンゼン(和光純薬工業株式会社製55%ジビニルベンゼン(異性体混合物)(製品名))25部、AIBN1部からなる混合物を入れ、超高分子量ポリエチレンからなる多孔性基材である東燃化学那須株式会社製セティーラE30MMS(膜厚31μm、孔径0.051μm、空孔率38%)を3時間浸漬した。浸漬後、セティーラE30MMSを取り出し、ガラス板、ポリエステルフィルムに挟んで、乾燥機に入れて60℃で16時間、90℃で3時間熱重合を行った。
【0039】
熱重合により共重合体が充填されたセティーラE30MMSを酸素不透過性ポリエチレン系袋である旭化成パックス株式会社製ポリフレックスバッグ飛竜(製品名)に挿入後、この袋内を窒素置換し、袋内の酸素を除去した後、ヒートシールして閉じた。次いで電子線照射装置岩崎電気株式会社製エレクトロカーテンEC250/30/90L(製品名)で、この共重合体が充填されたセティーラE30MMSの入った袋に電子線を25℃、加速電圧250keVで、100kGy照射した。次いで、袋を開けることなく60℃で19時間加熱処理を行い、その後、袋から電子線を照射したセティーラE30MMSを取り出した。
【0040】
次にクロロスルホン酸濃度が10重量%の1,2−ジクロロエタン溶液に、電子線を照射したセティーラE30MMSを室温で24時間浸漬した後、膜を十分に水洗した。その後、濃度10重量%の水酸化ナトリウム水溶液に24時間浸漬した。得られた陽イオン交換膜をよく水洗し、0.5N−NaCl水溶液中に保存した。
【0041】
(濃縮試験)
さらに、該陽イオン交換膜と市販の陰イオン交換膜(旭硝子(株)ASA)を小型電気透析装置(膜面積8cm)に装着し、25℃で濃縮試験を実施した。脱塩室流速は6cm/s、電流密度3A/dmの濃縮条件で供給液は0.5N−NaCl水溶液を用いた。
【0042】
(他の実施例、比較例)
実施例1とは電子線の照射量のみ変えて合成した陽イオン交換膜を実施例2〜4、電子線を照射せずに合成した陽イオン交換膜を比較例1、現在製塩用陽イオン交換膜として使用されている膜(旭硝子(株)CSO)を比較例2、3とし、実施例1とあわせ、前記陽イオン交換膜の合成に用いた多孔性基材の物性を第1表、熱重合条件を第2表、電子線照射条件及び得られた陽イオン交換膜の膜特性を第3表に示す。第2表中、クロロメチルスチレンは「CMS」、ジビニルベンゼンは「DVB」と、略号で示した。
【0043】
また、同様の操作で多孔性基材、重合性単量体、ゴム、電子線の照射量あるいは加熱処理条件等を変えて合成した陽イオン交換膜を実施例5〜15、電子線を照射せずに合成した陽イオン交換膜を比較例4〜7とし、陽イオン交換膜の合成に用いた多孔性基材の物性を第1表、熱重合条件を第2表、電子線照射条件及び得られた陽イオン交換膜の膜特性を第3表に示す。なお、クロロメチルスチレンは、AGCセイミケミカル株式会社製クロロメチルスチレンCMS−P(製品名)を用いた。また、膜抵抗は、膜抵抗用測定セル(膜面積1.8cm)に該陽イオン交換膜を装着し、膜の両側を0.5N−NaCl水溶液で満たし、25℃でミリオームメーターにより周波数1kHzで電気抵抗を測定し、その後、該陽イオン交換膜を外して、同条件でブランクの電気抵抗を測定し、両者の差を膜抵抗とした。かん水濃度は、濃縮試験で得られた濃縮NaCl水溶液のCl濃度を測定し、かん水濃度とした。
【0044】
【表1】

【0045】
【表2】

【0046】
【表3】

【0047】
【表4】

【0048】
【表5】

【0049】
濃縮試験の結果として膜抵抗とかん水濃度との関係を図1〜5に示す。図1中に示した実線は、市販イオン交換膜と同等の濃縮性能を示す直線であり、破線は実線の傾きを変えることなく比較例1を通るように引いた直線である。同様に図2〜5中に示した実線も市販イオン交換膜と同等の濃縮性能を示す直線であり、破線も市販イオン交換膜と同等の濃縮性能を示す直線の傾きを変えることなく比較例4〜7を通るように引いた直線である。破線より上部に示される膜性能は、いずれも比較例(電子線を照射しない膜)と比較して高い濃縮性能であるといえる。
第3表及び図1〜5に示したとおり、本発明に従って合成したいずれの膜も、市販イオン交換膜より濃縮性能が高く、また、電子線を照射しない膜と比較して、高い濃縮性能を示した。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の製塩用陽イオン交換膜は、従来使用されている膜と比較し、電気抵抗を増加させずに、濃縮性能を向上させることが可能となり、長期にわたって安定して運転できるので、製塩コストの低減に寄与できる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の実施例1〜4及び比較例1〜3における陽イオン交換膜の膜抵抗とかん水濃度との関係を表すグラフである。
【図2】本発明の実施例5及び比較例4における陽イオン交換膜の膜抵抗とかん水濃度との関係を表すグラフである。
【図3】本発明の実施例6〜9及び比較例5における陽イオン交換膜の膜抵抗とかん水濃度との関係を表すグラフである。
【図4】本発明の実施例10〜11及び比較例6における陽イオン交換膜の膜抵抗とかん水濃度との関係を表すグラフである。
【図5】本発明の実施例12〜15及び比較例7における陽イオン交換膜の膜抵抗とかん水濃度との関係を表すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィンからなる多孔性基材の細孔内に、スチレンとジビニルベンゼンとを少なくとも共重合成分とした共重合体を充填して、電離放射線を照射した後、スルホン酸基を導入することを特徴とする製塩用陽イオン交換膜。
【請求項2】
前記細孔内に、スルホン酸基を導入可能な官能基を有するスチレン及びジビニルベンゼンを含有する重合性混合物を充填して、熱重合を行い、電離放射線を照射した後、スルホン酸基を導入することを特徴とする請求項1に記載の製塩用陽イオン交換膜。
【請求項3】
前記ポリオレフィンがポリエチレンであることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の製塩用陽イオン交換膜。
【請求項4】
前記ポリオレフィンが超高分子量ポリエチレンであることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の製塩用陽イオン交換膜。
【請求項5】
前記スルホン酸基を導入可能な官能基自体がスルホン酸基でない場合には、熱重合後に電離放射線を照射し、スルホン酸基を付与できる化合物で処理したものであることを特徴とする請求項2〜4のいずれか1項に記載の製塩用陽イオン交換膜。
【請求項6】
前記スルホン酸基を導入可能な官能基自体がスルホン酸基であることを特徴とする請求項2〜4のいずれか1項に記載の製塩用陽イオン交換膜。
【請求項7】
前記電離放射線が電子線であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の製塩用陽イオン交換膜。
【請求項8】
前記電子線の照射量が50〜1000kGyであることを特徴とする請求項7に記載の製塩用陽イオン交換膜。
【請求項9】
ポリオレフィンからなる多孔性基材の細孔内に、スルホン酸基を導入可能な官能基を有するスチレン及びジビニルベンゼンを含有する重合性混合物を充填して、熱重合を行い、電離放射線を照射した後、スルホン酸基を導入することを特徴とする製塩用陽イオン交換膜の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−173828(P2009−173828A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−16197(P2008−16197)
【出願日】平成20年1月28日(2008.1.28)
【出願人】(396021483)財団法人塩事業センター (18)
【Fターム(参考)】