説明

階調補正方法及びこの方法を実施する画像プリンタ

【課題】Dmaxを上下に調整した場合でもその高濃度領域の階調性が良好に維持できる階調補正技術を提供する。
【解決手段】LUTを用いた階調変換を通じて画像データから導出したプリントエンジン駆動信号用出力値に基づいて出力されたテストプリントの濃度を測定し、求めたセンシトメトリから得られるDmaxを変更設定する。変更設定されたDmaxに基づいてLUTの高濃度領域を調整する。再出力されたテストプリントに対する濃度測定結果から得られた入力−濃度特性の高濃度領域の階調性が許容範囲に入るかどうかを判定する。階調性が許容条件を満たすまで、階調調整と再出力と階調性判定を繰り返す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テストパターンの濃度測定から得られた最高プリント濃度(以下、Dmaxと略称する)を調整することで、画像プリントの特性、特に暗色の色感を好みのものとする階調補正方法及びこの方法を実施する画像プリンタに関する。
【背景技術】
【0002】
画像データに基づいてプリントエンジンを駆動して、例えば、印画紙などのような記録媒体に所定色(カラープリンタではC、M、YまたはC、M、Y,K)を所定の階調で作り出すことにより画像を形成する画像プリンタがある。所定の画像データから記録媒体(例えば、光プリンタでは印画紙、インクジェットプリンタではコーティング紙)上に所定の画像を形成するためには、予め画像データに対して階調補正を行っておく必要がある。
【0003】
一般的な階調補正では、その画像プリンタを用いて濃度の異なる複数のパッチからなるテストパターンを記録媒体に形成した後、そのテストパターンの濃度を測定することで、プリントエンジンに対する駆動信号値である出力値と濃度との関係を示す階調曲線、つまりてセンシトメトリ曲線(必ずしも連続的な曲線で表されるわけではないので、以後は特別に曲線を表現する場合を除いてセンシトメトリと称する)が作り出される。実際のテストプリントを通じて得られたこのセンシトメトリが、使用プリンタと記録媒体との組み合わせで予め作成されている基準センシトメトリとなるように、階調変換曲線が算定される。この階調変換曲線は、画像データの画素値である入力値とプリントエンジンに対する駆動信号値である出力値との関係を示しており、この階調変換曲線がテーブル化され、ルックアップテーブル(以下、LUTと略称する)として階調変換に利用される。セットアップ作業では、定期的又は必要に応じてこのようなテストプリントを通じて階調変換曲線を算定することによりLUTが更新される。
【0004】
上述したようなテストプリントを通じてLUTを更新するカラー画像プリンタのセットアップ技術は、例えば、特許文献1に記載されている。この技術では、異なる複数のテストパターンからなるテストプリントのための画像データに基づいてプリントエンジンを駆動してテストパターンをプリントし、プリントされたテストパターンの濃度値を測定し、この測定濃度値が所定の目標濃度値になるように前記画像データに対する階調補正関係を求める。その際、濃度測定器としての測色計の測定保証外領域の濃度に関しては前記測定濃度値からシミュレートして疑似濃度値として算出し、この疑似濃度値と前記測定濃度値とが目標濃度値になるように階調補正関係を求めている。この特許文献1による技術では、プリント出力されたテストパターンを測色計によって測定することによって得られた測定濃度値(一般的には反射率から算出して得られる)からシミュレートして算出される疑似濃度値を実際に測定によって得られた測定濃度値とともに、階調補正関係を求める際に利用している。つまり、一般的なカラー画像プリンタに組み込まれている標準的な測色計の有効測定濃度範囲が2.2D程度とすると、高濃度タイプの印画紙が2.5D程度の濃度値までの表現が可能とした場合、2.2Dまでの濃度値を組み込みの測色計で測定し、2.2D〜2.5Dの濃度値はその測色計から得られた測定値からシミュレートして擬似的に算定する。その際シミュレート手法として多項近似式を採用しており、出力階調値と測定濃度値の関係を示すセンシトメトリ曲線を多項近似式、特に3次多項式で回帰することにより疑似濃度値を算出することが提案されている。
【0005】
【特許文献1】特開2004−64534号公報(段落番号0002−0013、図5)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
センシトメトリは、最高プリント濃度であるDmaxから最低プリント濃度(通常は記録媒体の白)であるDminまで濃度変化を作り出す出力値を示すものであり、これを基準の入力−濃度特性に合うように画素値−出力値変換テーブル(入力画像―プリンタ制御値変換テーブル、単にLUTとも称する)を調整することで、このプリンタと記録媒体にとって適切な品質の画像が得られる。しかしながら、利用目的や人の好みによっては、Dmaxをさらに上げることにより黒の深みを望むケースや、Dmaxを下げることでソフトな印象をもつ画像を望むケースがある。そのようなケースでは、Dmaxを基準より上げたり下げたりすることになるが、このDmaxの調整は高濃度領域での階調性を損なうという問題を生じる。ここでの「階調性の損ない」とは、入力−濃度曲線の高濃度領域が基準入力−濃度曲線に比べて均等な差分を示しておらず、つまりその領域で黒のグラデーションが不均等となっている現象を意味している。
ここで、本出願で用いられている用語について、簡単に説明する。画像データは画素に割り当てられた画素値(例えばカラーなら8ビットで表されたRGB値)からなる。この画素値は、使用プリンタに応じて設定された画素値−出力値変換テーブル(LUT)によってプリンタ制御値(単に出力または出力値とも称せられる)に変換される。LUTにおいては画像データの画素値が入力値とも称せられる。プリンタ制御値に基づくプリンタの出力結果は濃度測定を通じて画素単位の濃度値で表現することができる。そこで、このプリンタ制御値(出力)と濃度の関係がセンシトメトリ曲線である。LUTの元となっている画素値−出力値曲線とこのセンシトメトリ曲線とから入力−濃度曲線を生成することができる。この入力−濃度曲線ないしは入力−濃度曲線からプリントソースとしての入力画像とプリント出力結果としての出力画像の関係を濃度(輝度)を尺度として把握することができる。
【0007】
上記実情に鑑み、本発明の目的は、Dmaxを上下に調整した場合でもその高濃度領域の階調性が良好に維持できる階調補正方法及びこの方法を実施する画像プリンタを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための、本発明による階調補正方法は、ルックアップテーブル(LUT)を用いた階調変換を通じて画像データから導出したプリントエンジン駆動信号用出力値に基づいてテストプリントを出力するステップと、前記テストプリントのテストパターンの濃度を測定するステップと、前記テストパターンの濃度測定結果からセンシトメトリを求めるステップと、前記センシトメトリから得られる最高プリント濃度を変更設定するステップと、前記変更設定された最高プリント濃度に基づいて前記ルックアップテーブルの高濃度領域を調整する階調調整ステップと、前記階調調整ステップによって調整されたルックアップテーブルを用いてテストプリントを出力する再出力ステップと、再出力されたテストプリントのテストパターンに対する濃度測定結果から得られた入力−濃度特性の高濃度領域の階調性が許容範囲に入るかどうかを判定する階調性判定ステップとを備え、前記階調性が許容条件を満たすまで、前記階調調整ステップと前記再出力ステップと階調性判定ステップとを繰り返す。
【0009】
上記階調補正方法を実施する、本発明による画像プリンタは、ルックアップテーブル(LUT)を用いた階調変換を通じて画像データからプリントエンジン駆動用出力値を導出する階調変換部と、プリントエンジン駆動信号を用いて記録媒体に前記画像データに基づく画像をプリントエンジンと、テストプリント用画像データに基づいて出力されたテストプリントのテストパターンの濃度を測定する濃度測定器と、前記テストパターンの濃度測定結果からセンシトメトリを求めるセンシトメトリ作成部と、前記センシトメトリから得られる最高プリント濃度を変更設定する最大濃度設定部と、前記変更設定された最高プリント濃度に基づいて前記ルックアップテーブルの高濃度領域を調整する階調調整部と、階調調整されたルックアップテーブルを用いて再出力されたテストプリントのテストパターンに対する濃度測定結果から得られた入力−濃度特性の高濃度領域の階調性が許容条件を満たすかどうかを判定する階調性判定部とを備えている。
【0010】
上述した本発明の階調補正方法及びこの方法を実施する画像プリンタでは、現状のLUTを用いて出力したテストプリントから得られたセンシトメトリに基づいて、その最高プリント濃度(Dmax)がユーザの好みに合わせて変更設定することができる。Dmaxが変更設定されると、その変更されたDmaxが実現するように、画像データの画素値である入力値とプリントエンジンに対する駆動信号値である出力値との関係である階調変換曲線を調整し、その調整に合わせてLUTを更新する。さらに、この更新されたLUTを用いて再度テストプリントの入力と、当該テストプリントの濃度測定を通じて入力−濃度特性を作成する。この入力−濃度特性の高濃度領域の階調性が、予め設定されている許容条件を満たしておれば、この階調補正を終了し、本プリントでは更新されたLUTが利用される。これにより、ユーザ好みの黒色の深みをもった画像が得られる。なお、新たに作成された入力−濃度特性が許容条件を満たさなければ、許容条件を満たすまで、階調変換曲線の調整及びその調整に合わせたLUTの更新、テストプリントの出力、入力−濃度特性の作成とその高濃度領域の階調性判定を繰り返す。これにより、ユーザの好みに合わせてDmaxを上下に調整した場合でもその高濃度領域の階調性が良好に維持できる。
【0011】
本発明の好適な実施形態の1つでは、前記高濃度領域を決定する調整範囲決定部が備えられ、前記最高プリント濃度(Dmax)から当該最高プリント濃度の50〜80%までの濃度領域を前記高濃度領域として設定する。Dmaxの上下調整は高濃度つまり黒色の深さを変えたいという要求に応じたものである。従ってDmaxの上下調整に基づくLUTの調整、つまり階調変換曲線の調整は、全範囲ではなく黒色(暗色)領域に限定することが好適である。その際、調整すべき濃度領域である高濃度領域は、本願発明者により、Dmaxの50〜80%、好ましくは70%であるとみなされた。特にこの高濃度領域が、写真画像において黒色深さに影響する領域とみなされた。
【0012】
Dmaxの上下調整にも関わらず、高品質の画像、特に写真画像を維持するためには、Dmax調整された後の入力−濃度特性の階調性が基準の入力−濃度特性と同様な連続性、つまり急激に変化するような箇所がないことが重要である。つまり、基準の入力−濃度曲線と調整後の入力−濃度曲線とのDmaxから低濃度にかけての領域における差が一様に減少して、最終的に一致することが望ましい。このことから、本発明の好適な実施形態の1つでは、前記階調性判定部で用いられる許容条件を、使用記録媒体で規定されている基準入力−濃度曲線の前記高濃度領域における濃度差が前記最高プリント濃度から所定比率で減少して収束することとしている。
【0013】
本発明の好適な実施形態として、前記階調性が前記許容条件を満たすまで前記階調調整部による前記ルックアップテーブルの調整がテストプリントの再出力を通じて自動的に繰り返し行われるように構成するなら、ユーザはDmaxの上下調整を設定するだけで、後は画像プリンタが自動的にセットアップ作業を実行してくれるので、好都合である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る、Dmax調整に基づく階調補正の基本原理を図解する模式図である。
【図2】本発明による階調補正方法を実施する画像プリンタとしての写真プリント装置の外観図である。
【図3】図2による写真プリント装置のプリントステーションを示す模式図である。
【図4】写真プリント装置の排出搬送部と測色計とを示す模式断面図である。
【図5】写真プリント装置に組み込まれたプリント処理コントローラに構築された主な機能を示す機能ブロック図である。
【図6】最大濃度調整手段の各機能を示す機能ブロック図である。
【図7】Dmax調整された濃度変換曲線を示すグラフ図である。
【図8】Dmax調整された入力−濃度曲線を示すグラフ図である。
【図9】Dmax調整に基づく階調補正の階調補正制御の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
まず、本発明に係る、Dmax調整に基づく階調補正の具体的な実施形態を説明する前に、その基本原理を図1の模式図を用いて説明する。
白から黒まで段階的に濃度が変化するテストパターン(パッチ)を記録媒体に形成するためにテストプリント用画像データ(テストプリントデータ)をメモリから読み出し、階調変換用のLUT(画素値/出力値変換テーブル)を用いてそのテストプリントデータを構成する画素値(プリントの1ドットを形成するための入力値)を出力値に変換する(#a)。この出力値は1ドットを形成するためのプリントエンジン駆動信号となるので、この出力値を順次プリントエンジンに与えて、記録媒体にテストパターンを形成し、この記録媒体をテストプリントとして出力する(#b)。出力されたテストプリントを測色計などの濃度測定装置にセットして、そのテストパターンの濃度を測定する(#c)。このテストパターンの濃度測定結果からセンシトメトリを求め、センシトメトリ曲線を作成する(#d)。
【0016】
このセンシトメトリ曲線で示される最大測定濃度がDmaxである。通常のセットアップ作業では、この作成されたセンシトメトリ曲線が基準センシトメトリ曲線に一致するようにLUTが調整される。この発明では、この最大測定濃度:Dmaxが調整可能であり、Dmaxが調整されると、階調変換曲線の最大出力値が調整後のDmaxに対応する出力値に調整されるが、図1では、この調整は、入力−濃度曲線の形態で示されている(#e)。さらに調整後Dmaxに対応する出力値に基づいて、階調変換曲線の高濃度領域が修正される。この高濃度領域の一例は、調整後Dmaxから調整後Dmaxの70%の濃度値となるまでの領域である。Dmaxの調整及びそれに基づく階調変換曲線の高濃度領域の調整が確定されると、この調整量でもってLUTが更新(調整)される(#f)。
【0017】
次いで、更新(調整)されたLUTを用いて、同じテストプリントデータからテストプリントを再出力する(#b)。さらに、再出力されたテストプリントのテストパターンに対する濃度測定結果から得られた入力−濃度特性を求め、入力−濃度曲線を作成する(#d)。この新たに作成された入力−濃度曲線の高濃度領域の階調性が許容範囲に入るかどうかを判定される。この階調性判定は、高濃度領域における階調が一様なグラデーションとなる程度にその高濃度領域の入力−濃度曲線が連続的であるかどうかの判定である。階調性が許容条件を満たすまで、階調変換曲線の調整と、テストプリントの出力と、入力−濃度曲線の作成を繰り返す。これにより、セットアップ後の実際のプリント出力においては、Dmaxを上下に調整した場合でも高濃度領域の階調性が良好に維持される。
【0018】
次に、本発明による階調補正方法を採用した画像プリンタとしての写真プリント装置の実施形態の1つを説明する。写真プリント装置の外観図が図2に、プリント出力を図解する模式図が図3に示されている。この写真プリント装置は、記録媒体の一例である銀塩印画紙P(以下、印画紙Pと称する)に対して露光処理と現像処理とを行う写真プリンタとしてのプリントステーション1Bと、このプリントステーション1Bで使用されるプリントデータの生成・転送などを行う操作ステーション1Aとから構成されている。この写真プリント装置はデジタルミニラボとも称せられるものである。図3からよく理解できるように、プリントステーション1Bは2つの印画紙マガジン11に納められたロール状の印画紙Pのいずれかを引き出してプリントサイズに切断し、切断された印画紙Pに対し、露光処理部13に配置されたプリントエンジンとしての露光ヘッド13aが露光を行う。この露光後の印画紙Pを複数の現像処理槽14aを有した現像処理部14に送って現像する。印画紙Pは、さらに乾燥部15で乾燥された後に装置上部の横送りコンベヤ16に排出され、横送りコンベヤ16によってソータ17に送り込まれる。ソータ17に送り込まれた印画紙P、つまり写真プリントPは、このソータ17の複数のトレイ17aに対してオーダ単位で仕分けられた状態で集積される。印画紙マガジン11から引き出された印画紙Pを、装置内部に配置された、露光処理部13、現像処理部14、乾燥部15に搬送するため、印画紙搬送機構12が配置されている。印画紙搬送機構12は、露光処理部13の前後に配置されたチャッカー式印画紙搬送ユニットを除いて実質的に多数の挟持搬送ローラ対から構成されている。
【0019】
印画紙マガジン11が装着される装着部には印画紙マガジン11に付与されている印画紙IDコードを読み取るIDコードリーダ11aが設けられている。この印画紙IDコードは印画紙Pの種別を一義的に特定するものであり、この印画紙IDコードを認識することにより、印画紙マガジン11に収納されている印画紙Pの種別、つまりプリントに使用される印画紙Pの種別が認識される。
【0020】
プリントヘッドとしての露光ヘッド13aは、操作ステーション1Aから送られてくるプリントデータに基づいて、R(赤)、G(緑)、B(青)の3原色の光線の照射を印画紙Pに対して行う。この露光処理においては、印画紙Pを副走査方向に搬送しながら、この搬送速度と同期して主走査方向に沿ってライン状に露光が行われる。尚、露光ヘッド13aとしては、露光仕様に応じて、レーザビーム方式、蛍光ビーム方式、液晶シャッター方式、DMD方式などの採用が可能であるが、ここではレーザビーム方式が採用されている。
【0021】
この写真プリント装置1は、外側を複数の板金製パネルで覆われた本体フレーム2で形作られている。いくつかの板金製パネルは内部点検のために開放可能な扉として形成されている。特に、現像処理部14の上方を覆っている板金製パネルは、現像処理槽14aに対して上方から手入れすることができるように、ほぼ90度に開放可能な上部カバー10として形成されている。乾燥部15は現像処理部14に隣接して現像処理部14より上方に突き出した突き出しフレーム2aの内部に配置されている。前記横送りコンベヤ16は突き出しフレーム2aから水平方向に延びるように設けられ、上部カバー10との間に空間を作り出している。この上部カバー10と横送りコンベヤ16との間の空間に、図2と図3から明らかなように、レール式移動機構30を介して濃度測定器としても利用される測色計20が突き出しフレーム2aに対して遠近方向に移動可能に取り付けられている。
【0022】
この実施の形態では、上部カバー10は、図2において本体フレーム2の奥側を左右方向に延びている水平軸周りで揺動可能に本体フレーム2に取り付けられている。従って、上部カバー10は、現像処理部14の上方を閉鎖する姿勢と現像処理部14の上方を開放する開放姿勢の間でほぼ90度の揺動が可能となっている。この上部カバー10の開放姿勢への揺動時に、上部カバー10が横送りコンベヤ16と干渉することを避けるため、横送りコンベヤ16も、コンベヤ面が突き出しフレーム2aに接当するまでの、90度の揺動が可能となっている。
【0023】
図4に示すように、突き出しフレーム2aの内部には、乾燥部15を経て印画紙Pを横送りコンベヤ16に排出するとともに、テストプリントTPを測色計20に送り込む排出搬送部60が印画紙搬送機構12の一部として構築されている。排出搬送部60の主要構成要素である挟持搬送ローラ対61は、駆動ローラと従動ローラとを組み合わせて構成されており、2つのローラの間隙に印画紙P又はテストプリントTPを挟みこんで駆動ローラを回転させることで、印画紙Pを下流側へと搬送する。ターンローラ対62は、上流側から上方に向かって搬送されてくる印画紙(写真プリント)P又はテストプリントTPを横方向または斜め下方向に方向転換させるためのローラ群であり、例えば、駆動ローラと複数の従動ローラとで構成されている。写真プリントPを横送りコンベヤ16へ送り出す写真プリント排出搬送経路を作り出す搬送切換ガイド63aと、大判写真プリントPを横送りコンベヤ16の下側の大判写真プリント排出トレイへ送り出す写真プリント排出搬送経路を作り出す搬送切換ガイド63bとがターンローラ対62に隣接して配置されている。搬送切換ガイド63bはさらに、テストプリントTPを測色計20に送り出すテストプリント排出搬送経路を作り出す切替位置を有する。排出ローラ対64aは、搬送切換ガイド63aにより誘導される印画紙(写真プリント)Pを、横送りコンベヤ16に排出するためのローラであり、2つのローラの間隙に印画紙(写真プリント)Pを挟み込んで、駆動ローラを回転することで印画紙(写真プリント)Pを排出口65から搬出する。排出ローラ対64bは、搬送切換ガイド63bにより誘導される印画紙(写真プリント)Pを大判写真プリント排出トレイに排出するためのローラである。ターンガイド66は、搬送切換ガイド63bにより案内されるテストプリントTPを、測色計20に誘導するためにテストプリント排出搬送経路に設けられたガイドである。このターンガイド66により、ターンローラ対62より送り出され垂直上方から搬送されてくるテストプリントTPが略水平方向へ搬送方向を変えられ、排出口67を通過して測色計20の搬入口に送り込まれる。
【0024】
測色計20は、搬送されてくるテストプリントTPをコマ送りしながら、テストプリントTPに形成されているテストパターンの濃度を測定するものである。この測色計20は分光測色計である。測色計20は、ステッピングモータによって駆動される複数の圧着型の搬送ローラ対23とセンサ部22を備えており、センサ部22にはテストプリントTPに白色光を照射し、センシング対象からの反射光を受け、その反射光からR(赤)、G(緑)、B(青)又はC(シアン)、M(マゼンタ)、Y(イエロー)の3原色毎の濃度データを取得するセンサ素子が組み込まれている。取得された濃度データはコントローラ4に転送される。測色計20の筐体21は、測色計20内の温度や明るさを一定にするために設けられており、例えば、合成樹脂部材等で形成されている。搬送ローラ対23は、センサ部22がテストプリントTPのテストパターンの濃度を測定できるようにテストプリントTPを搬送する。センサ部22によってすべてのテストパターンの濃度測定が取得されると、テストプリントTPは、搬送ローラ対23によって排出部24へ搬送される。
【0025】
写真プリント装置1は、毎日の運転開始時ごとにセットアップ用にプリントされたテストプリントTPにおける各テストパターン(濃度パターン)を測色計20に搭載されたセンサ部22を用いて測定する。そして、コントローラ4は、このセンサ部22の測定結果に基づいて露光ヘッド13aの出力状態を調整するセットアップを行う。通常、写真プリント装置1から出力されるプリント品質(プリント濃度)等は、露光ヘッド13aの発光状態、各処理槽14aの状態(処理液温度、酸化状態、活性化度合等)によって変化してしまう。このため、テストプリントTPに形成された濃度の異なる複数のテストパターンのそれぞれの濃度をセンサ部22によって測定し、この測定結果に基づいて露光ヘッド13aの出力状態の調整、いわゆるセットアップが行われる。このようなセットアップ作業を行うことで、再現性の高い写真プリントを出力することができる。
【0026】
前記操作ステーション1Aは、本体フレーム2に隣接して配置された操作テーブルに構築されている。ここでは、操作ステーション1Aは、写真フィルムから画像データを取得するフィルムスキャナ3、各種情報を表示するモニタ5、フィルムスキャナ3を通じて写真フィルムから読み取られた撮影画像や半導体メモリから直接読み取られた画像データの処理、プリントデータの生成、プリントステーション1Bの制御を行うコントローラ4として機能する汎用コンピュータから構成されている。コントローラ4には、操作デバイス6として機能するキーボードやマウス、及びデジタルカメラの撮影画像メモリとして用いられている半導体メモリなどから撮影画像を取得するためのメディアリーダなども接続されている。
【0027】
この写真プリント装置1のプリント出力用コントローラ4としても用いられているパソコンは、CPUを中核部材として、写真プリント装置の種々の動作を行うための機能部がハードウエア又はソフトウエアあるいはその両方で実装されているが、図5に示されているように、本発明に特に関係する機能部として、テストプリントデータ格納部40、画像処理部41、LUT42a、階調変換部42、プリントデータ生成部43、階調調整部44、センシトメトリ作成部45、印画紙種別認識部47、GUI(グラフィックユーザインターフェース)部46、最大濃度調整手段50などが挙げられる。
【0028】
テストプリントデータ格納部40はテストプリント用画像データを格納している。画像処理部41は色調補正やフィルタリング(ぼかしやシャープネスなど)やトリミングなどの各種フォトレタッチ処理をユーザフレンドリーなGUI部46の環境下で行う。階調変換部42はLUT42aを用いた階調変換を通じて画像データからプリントエンジン駆動用出力値を導出する。プリントデータ生成部43は、プリントエンジン駆動用出力値からプリントエンジン駆動用信号を生成する。センシトメトリ作成部45は、テストプリントTPに形成されたテストパターンに対する測色計20による測定濃度値に基づいて出力値(プリント駆動信号値)−濃度関係を示すデータであるセンシトメトリを求め、センシトメトリ曲線を作成する。階調調整部44は、センシトメトリ作成部45や最大濃度調整手段50からの情報に基づいてLUT42aの更新(階調変換係数の調整)を行う。印画紙種別認識部47は、IDコードリーダ11aによって読み取られた印画紙IDコードから現在装填されている印画紙マガジン11に収納されている印画紙の種類を特定する。
【0029】
最大濃度調整手段50は、センシトメトリから得られるDmax(最高プリント濃度)の調整に基づく階調変換曲線の調整を行うために、最大濃度設定部51と、調整範囲決定部52と、階調性判定部53を含んでいる。最大濃度設定部51は、センシトメトリから得られるDmax(最高プリント濃度)をGUI部46の環境下で変更設定する。調整範囲決定部52は、Dmax調整に基づいて再調整される高濃度領域を決定するが、この実施形態では調整されたDmaxの70%までの濃度領域を高濃度領域として設定している。なお調整されたDmaxではなく元のDmaxの70%までの濃度領域を高濃度領域としてもよい。ここでの70%は厳密な数値でなく、プラスマイナスで10%程度の誤差を含む概数値である。階調性判定部53は、階調調整部44によって階調調整されたLUT42aを用いて再出力されたテストプリントTPのテストパターンに対する濃度測定結果から得られた入力−濃度特性の高濃度領域の階調性が許容条件を満たすかどうかを判定する。
【0030】
つまり、最大濃度設定部51によって変更設定された新Dmaxに基づいて更新されたLUT42aを用いてテストプリントTPが再度作成され、当該テストプリントTPから得られる入力−濃度特性の階調性が適切であるかどうかが階調性判定部53によって判定される。図7を用いてこのことを説明する。
まず、出力されたテストプリントTPのテストパターン(白から黒までの多数のパッチ)に対する濃度測定から得られたセンシトメトリからセントメトリ曲線が作成され、モニタ5に表示される。その際の最大濃度であるDmaxが、図では元Dmaxとして示されている。ユーザは、好みの黒領域画質を得るために、マウスなどの操作デバイス6を用いて元Dmaxを選択し、新しい濃度位置に移動する。この新しく変更設定されたDmaxが図では新Dmaxとして示されている。このDmaxの変更設定に基づいて変更対象となる高濃度領域は、Dmaxの70%(新Dmaxまたは元Dmaxのいずれでもよい:70%Dmax)までの領域である。新Dmaxからこの高濃度領域に対応する部分の階調変換曲線が算定される、それに基づいてLUT42aが更新される。なお、このDmax調整を、入力−濃度曲線に置き換えて示しているのが図8である。この図8の入力−濃度曲線から、このDmax調整を通じて入力と濃度の関係がよく理解できる。
次に、更新されたLUT42aによってテストプリントデータが階調変換され、テストプリントTPが出力される。このテストプリントTPの入力−濃度特性が求められ、入力−濃度曲線が作成される。この新たな入力−濃度特性は実質的に新Dmaxを有することになる。図7の拡大部から間接的に又は図8から直接的に理解できるように、階調性判定部53は、新入力−濃度曲線と元入力−濃度曲線とを比較して新入力−濃度曲線の階調性が適切であるかどうか判定する。この判定方法の1つは、高濃度領域における所定出力値間隔での、新入力−濃度特性と元入力−濃度特性との間の濃度差:Δdが一様に減少しているかどうかをチェックすることである。簡単な判定の1つは、DmaxのところからΔd1、Δd2・・・Δdnまで求め、Δd1>Δd2>・・・>Δdnが成立すれば、新入力−濃度特性の階調性が適切であるとみなすことである。新入力−濃度特性の階調性が適切であれば、その時点の階調変換曲線であるLUT42aも適切であるとみなすことができるので、その状態で本番プリント出力を行うことができ、その黒領域の画質はユーザの好みに合ったものとなる。
【0031】
Dmaxの変更設定に基づく階調補正セットアップの場合でもその高濃度領域の階調性が良好に維持できる、階調調整ルーチンの一例を図9のフローチャートを用いて説明する。
まず、テストプリントデータ格納部40からテストプリント用画像データを読み出して階調変換部42に送り込む(#01)。このテストプリント用画像データは、異なる出力階調値で複数のカラーパッチからなるテストパターンを印画紙P上に形成するものである。R・G・Bの出力階調値を変えることで黒と白を含む複数のグレー階調が形成される。階調変換部42で標準に設定されたLUT42aを用いて濃度変換されたテストプリント用画像データはプリントデータ生成部43によってプリント駆動信号に変換される(#02)。このプリント駆動信号により露光ヘッド13aが駆動制御され、印画紙Pを露光する。露光された印画紙Pは現像処理部14で現像された後乾燥され、テストプリントTPとして横送りコンベヤ16上に排出される(#03)。
【0032】
このようにして作成されたテストプリントTPを測色計20に投入することにより、テストパターンの測色値が得られ、直ちにこの測色値は予め求められている測色値と濃度値との変換関係を用いて、C・M・Yの濃度値に変換される。この濃度値が測定濃度値となる(#04)。この測定濃度値からセンシトメトリと呼ばれる測定濃度値と出力階調(出力値:露光量)の関係がセンシトメトリ作成部45によって作成される(#05)。この関係を表すセンシトメトリ曲線は図1に模式的に示されている。なお、センシトメトリ曲線はC・M・Yの三色で得ることができるが、全ての色に関して同様に考えることができるので、C・M・Yで区別した説明はせずに、単に1つのセンシトメトリ曲線や階調変換曲線といった語句で共通的に説明する。
【0033】
センシトメトリ曲線が作成されると、そのDmaxを変更するためのDmax変更設定画面が表示され(#06)、操作デバイス6を用いてDmaxの新たな値が設定される(#07)。新規のDmaxが設定されると、高濃度領域が算定され、その領域における階調が調整される(#08)。この調整値の算定を通じて対応する階調変換曲線、つまりLUT42aが調整される(#09)。
【0034】
次に、調整されたLUT42aを用いて再度テストプリント用画像データからプリントデータが生成され(#12)、新たなテストプリントTPが再度出力される(#13)。このテストプリントTPに対しても濃度測定を行い(#14)、新たな入力−濃度曲線が作成される(#15)。さらにこの新たな入力−濃度曲線の階調性が、上述したようなアルゴリズムを用いて適切であるかどうか、つまり所定の許容範囲に入っているかどうかが判定される(#16)。その階調性判定結果、その階調性が適切でなければ(#21No)、階調を修正するさらなる調整が行われて(#38)、算定された階調の修正量に基づいてLUT42aが再調整される(#39)。さらに、ステップ#12にジャンプして、新たなテストプリントTPによる入力−濃度曲線の階調性判定が繰り返される。階調性判定結果、その階調性が適切であれば(#21Yes)、LUT42aの調整が確定され、このルーチンが終了する(#22)。
【0035】
〔別実施の形態〕
上述した実施の形態では、画像プリンタとして、露光式のカラープリント方式を用いたカラー画像プリンタが採用されていたが、モノクロ画像プリンタにも本発明は同様に適用可能である。さらに、その他のプリント方式、例えばレーザ感光トナー方式の画像プリンタにも適用可能である。
【符号の説明】
【0036】
13a 露光ヘッド(プリントエンジン)
20 測色計(濃度測定器)
40 テストプリントデータ格納部
42 階調変換部
42a ルックアップテーブル(LUT)
44 階調調整部
45 センシトメトリ作成部
46 GUI部
50 最大濃度調整手段
51 最大濃度設定部
52 調整範囲決定部
53 階調性判定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ルックアップテーブルを用いた階調変換を通じて画像データから導出したプリントエンジン駆動信号用出力値に基づいてテストプリントを出力するステップと、
前記テストプリントのテストパターンの濃度を測定するステップと、
前記テストパターンの濃度測定結果からセンシトメトリを求めるステップと、
前記センシトメトリから得られる最高プリント濃度を変更設定するステップと、
前記変更設定された最高プリント濃度に基づいて前記ルックアップテーブルの高濃度領域を調整する階調調整ステップと、
前記階調調整ステップによって調整されたルックアップテーブルを用いてテストプリントを出力する再出力ステップと、
再出力されたテストプリントのテストパターンに対する濃度測定結果から得られた入力−濃度特性の高濃度領域の階調性が許容範囲に入るかどうかを判定する階調性判定ステップと、
を備え、
前記階調性が許容条件を満たすまで、前記階調調整ステップと前記再出力ステップと階調性判定ステップとを繰り返す階調補正方法。
【請求項2】
ルックアップテーブルを用いた階調変換を通じて画像データからプリントエンジン駆動信号値を導出する階調変換部と、
プリントエンジン駆動信号を用いて記録媒体に前記画像データに基づく画像をプリントエンジンと、
テストプリント用画像データに基づいて出力されたテストプリントのテストパターンの濃度を測定する濃度測定器と、
前記テストパターンの濃度測定結果からセンシトメトリを求めるセンシトメトリ作成部と、
前記センシトメトリから得られる最高プリント濃度を変更設定する最大濃度設定部と、
前記変更設定された最高プリント濃度に基づいて前記ルックアップテーブルの高濃度領域を調整する階調調整部と、
階調調整されたルックアップテーブルを用いて再出力されたテストプリントのテストパターンに対する濃度測定結果から得られた入力−濃度特性の高濃度領域の階調性が許容条件を満たすかどうかを判定する階調性判定部と、
を備えた画像プリンタ。
【請求項3】
前記高濃度領域を決定する調整範囲決定部が備えられ、前記最高プリント濃度から当該最高プリント濃度の50〜80%までの濃度領域を前記高濃度領域として設定する請求項2に記載の画像プリンタ。
【請求項4】
前記階調性判定部で用いられる許容条件が、使用記録媒体で規定されている基準入力−濃度曲線の前記高濃度領域における濃度差が前記最高プリント濃度から所定比率で減少して収束することである請求項2または3に記載の画像プリンタ。
【請求項5】
前記階調性が前記許容条件を満たすまで前記階調調整部による前記ルックアップテーブルの調整がテストプリントの再出力を通じて自動的に繰り返し行われる請求項2から4のいずれか一項に記載の画像プリンタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−62743(P2013−62743A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−200999(P2011−200999)
【出願日】平成23年9月14日(2011.9.14)
【出願人】(311001347)NKワークス株式会社 (96)
【Fターム(参考)】