説明

隔壁付基板に対するインク皮膜の形成方法

【課題】基板上に隔壁を有する隔壁付基板の開口部にインクが塗布され隔壁内でインクが乾燥する際に、インクを平坦に固化させる手段を提供することを目的とした。
【解決手段】少なくとも、基板上に隔壁12により仕切られた複数の区画(開口部)11を形成する工程と、隔壁側面13のインク15に対する濡れ性を隔壁頂部近傍で低く基部にかけて高くなるように段階的若しくは連続的に変化させる工程と、インク15を区画11内に塗布し乾燥する工程と、を有することを特徴とする隔壁付基板10に対するインク皮膜16の形成方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板上に隔壁を敷設して得られる区画内にインクを塗布し、平坦なインク皮膜を形成する技術に係わり、特には隔壁側面と区画内底面の表面処理技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ等においては、基板上に所定の周期で隔壁パターンを形成し、隔壁で囲まれた区画(以下、開口部とも記す)を着色インクや発光性インクで埋設した基板が用いられる。開口部は画素領域とも呼ばれ、この領域における光の透過や発光を制御することによって所望の画像が表示できるようになる。
【0003】
例えば、LCD用カラーフィルタ基板の場合、遮光性を有する黒色感光性樹脂を用い、開口部の形状が短冊型、正方型、あるいはくの字の形をしたブーメラン型になるように隔壁(ブラックマトリックス)を形成し、各々の開口部には赤(R)、緑(G)、あるいは青(B)の顔料インクの薄膜層が所定パターンに形成される。最終的にはカラーフィルタ基板を液晶を挟んでTFT基板に貼り合わせることにより液晶ディスプレイ化され、光の遮光と透過を電気的に制御して所望のカラー画像が表示される。
【0004】
有機ELディスプレイの場合には、開口部に先ず、PEDOTやポリアニリン等の正孔輸送性インクを塗布・乾燥して正孔輸送性皮膜を形成し、その後赤、緑、青に発光する高分子蛍光インクが所定のパターンで正孔輸送性皮膜の上に塗布される。これら有機発光層が対抗する電極間に保持されているのが有機ELディスプレイである。
【0005】
隔壁で囲まれた開口部に薄膜を形成する方法としては、印刷方式および蒸着方式がある。印刷方式ではインクを塗布・乾燥させるという簡便な工程であるため、設備投資が少なくて済み、大量かつ低コストで製品を生産できる製造方法と言える。一方、蒸着方式は、真空設備を必要とするため大規模な投資が必要であり、加えて、真空装置の規模により生産面積が限定されるため、印刷方式に比べると生産性が低くコストの高い製造方法と言える。
【0006】
一方、開口部に膜厚が均一な薄膜を形成することに関しては、蒸着方式の方が印刷方式よりも優れている。蒸着方式の場合には、原子・分子単位で材料物質が堆積していくので蒸着膜は一般に平坦性が高い。印刷方式の場合、版上のインクが所定量だけバルク状に開口部内に移転され開口部内に押し拡がる。すると、一般にインク表面は表面張力により特定のメニスカス形状を呈するが、インクが隔壁を這い上がった状態でインクが乾燥・固化すると、開口部の隔壁に近い部分でインク皮膜の膜厚が厚くなり、開口部中央で膜厚が薄い皮膜となる。
【0007】
インク皮膜の乾燥膜厚の不均一性は画像の輪郭を不明瞭にするため問題になる。特に、最近の隔壁付基板の開口部サイズは100μm×数10μmと微細になってきており、開口部内の僅かな乾燥膜厚分布が画質に大きく影響する。
【0008】
隔壁付基板の開口部に塗布されたインクの膜厚を均一にする塗布方法として、開口部底面のインクに対する親液性を高め、インクを塗布した後に超音波振動を基板に与えてインクの移動と広がりを促進する技術が開示されている(特許文献1)。しかし、この方法の場合、超音波振動によって開口部内のインクが開口部の外、例えば、隔壁上面や基板外に飛散して周囲を汚染してしまうという問題がある。また、振動を利用しているため、振動
発生機から床に振動が伝わり、周囲の装置に影響を及ぼす可能性がある。特に、周囲に微細な加工・操作を行う機器・装置が配置されている場合、振動は問題になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2003−139934号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで本発明は、基板上に隔壁を有する隔壁付基板の開口部にインクが塗布され隔壁内でインクが乾燥する際に、インクを平坦に固化させる手段を提供することを目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するための請求項1に係る発明としては、少なくとも、基板上に隔壁により仕切られた複数の区画を形成する工程と、隔壁側面のインクに対する濡れ性を隔壁頂部近傍で低く基部にかけて高くなるように段階的若しくは連続的に変化させる工程と、インクを区画内に塗布し乾燥する工程と、を有することを特徴とする隔壁付基板に対するインク皮膜の形成方法としたものである。
【0012】
請求項2に係る発明としては、少なくとも、基板上に隔壁により仕切られた複数の区画を形成する工程と、インクに対する撥液性が隔壁の頂部近傍で高く親液性が隔壁基部で高くなるように、隔壁側面のインクに対する親和性を撥液性から親液性へと段階的若しくは連続的に変化させる工程と、インクを区画内に塗布し乾燥する工程と、を有することを特徴とする隔壁付基板に対するインク皮膜の形成方法としたものである。
【0013】
請求項3に係る発明としては、前記区画内底面のインクに対する濡れ性若しくは親液性が、隔壁基部のインクに対する濡れ性若しくは親液性に比較して高いことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の隔壁付基板に対するインク皮膜の形成方法としたものである。
【0014】
請求項4に係る発明としては、前記隔壁側面のインクに対する濡れ性もしくは親和性を変更する手段がプラズマ照射もしくはフッ素系樹脂処理であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のインク皮膜の形成方法としたものである。
【0015】
請求項5に係る発明としては、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の隔壁付基板に対するインク皮膜の形成方法を使用したことを特徴とするカラーフィルタ基板としたものである。
【0016】
請求項6に係る発明としては、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の隔壁付基板に対するインク皮膜の形成方法を使用したことを特徴とする有機ELディスプレイとしたものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、隔壁側面と底面のインクに対する濡れ性の制御により区画内のインクの平坦化が自発的に行われる。この自発的な平坦化によりインクの乾燥膜厚が区画内で均一になるので、機械的な振動、あるいは電気的な流動のような外力を利用することがない。したがって、これらの方法と比較して開口部以外の箇所をインクで汚染したり、他に悪影響を与えることが少ない。
インク皮膜の乾燥膜厚が均一になる結果、この隔壁付基板を使用したLCD用カラーフィルタ、有機ELディスプレイは画像のボケが少ないシャープで高品質の画像表示が可能と
なる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の隔壁付基板を、インクを塗布する向きから見たとき、およびインクを塗布する方向から切断したときの断面の一例を示す模式図である。
【図2】(a)、(b)本発明の隔壁付基板の開口部にインクを塗布したとき(a)、およびインクが固化した状態の一例を示す模式図である。
【図3】(a)、(b)本発明の隔壁付基板の開口部にインクを一方の隔壁に片寄って塗布したとき(a)、およびインクが固化した状態の一例を示す模式図である。
【図4】(a)、(b)濡れ性の傾斜構造を持たない隔壁を有する隔壁付基板の開口部にインクを塗布したとき(a)、およびインクが固化した状態の一例を示す模式図である。
【図5】(a)、(b)濡れ性の傾斜構造を持たない隔壁を有する隔壁付基板の開口部にインクを一方の隔壁に片寄って塗布したとき(a)、およびインクが固化した状態の一例を示す模式図である。
【図6】本発明のプラズマ照射の実施の一例を示す模式図である。
【図7】本発明のフッ素樹脂処理の実施の一例を示す模式図である。
【図8】本発明の比較例における一例を示す模式図である。
【図9】本発明のプラズマ照射の実施の一例を示す模式図である。
【図10】本発明の比較例における一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、液晶ディスプレイ(LCD)用カラーフィルタ、有機エレクトロルミネッセンス(EL)ディスプレイ等で用いられる画素仕切り用の隔壁を有する隔壁付基板の開口部にインクを塗布した後、隔壁内で溶媒が蒸発しインク固形分が被膜化する際、できるだけ平坦に固化するように隔壁側面と底面を化学的に処理する方法に関するものである。
【0020】
そこで、先ず隔壁付基板上の開口部に塗布されたインクが平坦に固化する原因を図面を使って説明する。隔壁付基板の上面視の図および矢印Aと矢印Bの方向に垂直に切ったときの断面図を図1に示す。断面視の図は、中央の上面視図の右側と下側に記載してある。隔壁付基板10は、縦方向に走る隔壁12と横方向に走る隔壁12’、及びこれらにより区画されることで四方を隔壁に囲まれた開口部11で構成されている。インクは開口部11の底面に塗布されるか滴下される。
【0021】
隔壁12、12’は、隔壁の上端で最も撥液性が高く、開口部11に向かって徐々に親液性が高くなり、隔壁基部で最も親液性が高くなるような濡れ性(親和力)の傾斜構造を有している。このように、隔壁12、12’の上端から基部にかけて表面の濡れ性が撥液性から親液性へと徐々に変化する構造とすることで、図2に示すように開口部11の底面にインク15を塗布した際、隔壁側面13に接するインク15の接触線が隔壁基部の方向に引き付けられるように移動する。その結果、インク15が隔壁側面13を濡れ上がることがなくなる。この状態で乾燥・固化するとインク15は平坦性に優れた皮膜16を形成する。皮膜16の平坦性が優れている場合、画素における色ムラのない、輪郭が明瞭な高品質の画像を得ることができる。
【0022】
加えて、例えば、図3に示すように開口部11内にインク15を塗布した際、開口部11の底面と一方の隔壁12Aに乗り上げた状態で片寄ってインク液滴が存在する場合、隔壁13の濡れ性の傾斜構造、および開口部11の親液性作用により、インク液滴はもう一方の側の隔壁12Bに向かって開口部11の底面を濡れ広がりながら移動するようになる。最終的にはインク15は開口部11の全体に広がり、かつ隔壁における濡れ性の傾斜構造によってインクが濡れ上がることがないため、結果として平坦性に優れた皮膜を形成することができる。
【0023】
一方、図4に示すように、隔壁側面に表面処理を行わなかった場合、開口部11にインク15を塗布すると、インク15は隔壁側面を濡れ上がる(図4(a))。この状態でインク15を乾燥・固化するとインク15は隔壁12により近い部分で厚くなり、開口部11の中央部で最も薄いような谷型となる(図4(b))。皮膜16の平坦性が劣る場合、画素に色ムラが生じ輪郭がぼやけた画質となる。
【0024】
加えて、例えば、開口部11内にインク15を塗布した際、図5に示すように、開口部11の底面と一方の隔壁側面13に乗り上げた状態で片寄ってインク液滴が存在する場合、隔壁13の濡れ性の傾斜構造、および開口部11の親和性が無いため、インク液滴は移動することなく塗布された位置に拘束されたまま乾燥・固化し、結果として不良な画素となる。
【0025】
このように、隔壁上端から基部にかけて表面の濡れ性(親和力)が撥液性から親液性へと徐々に変化するような傾斜構造を有することによって、隔壁側面に接するインク液滴の接触線が自発的に隔壁基部の方向に移動する。この状態でインクを乾燥・固化すると、平坦性に優れた色ムラのない皮膜が得られる。したがって、LCD用カラーフィルタ、有機ELディスプレイ、無機ELディスプレイ等のパネルにおいて色ムラのない、明瞭な輪郭を有する高品質な画像を得ることができる。
【0026】
更には、開口部の底面をインクに対して親和性を持たせているため、底面に着地したインク液滴が濡れ広がり易くなっている。このためインクの拡散不良に起因する画素不良になり難く、しかも機械的な振動、あるいは電気的な流動のような外力を利用した方法と比較して開口部以外の箇所をインクで汚染することがない。
【実施例】
【0027】
以下、先ずカラーフィルタ(CF)を製造する工程を一例として本発明を具体的に説明する。CF用隔壁付基板の開口部にはインクジェット(IJ)法を用いてカラーインクを塗布するものとする。IJ法を用いた開口部の塗布は本発明を説明するための一例に過ぎず、その他、スクリーンコート法、グラビアコート法、ダイコート法、スピンコート法、カーテンコート法、スプレーコート法、エアナイフコート法、ロールブラッシュ法等の従来公知の塗布方法を使用することができる。
【0028】
[実施例1]
まず、基板上に遮光性を有する黒色レジストを塗布した。レジストの材料としては、カルド樹脂やアクリル樹脂にモノマー、重合開始剤、顔料を添加したものが使用できる。レジストの塗布としては、スクリーンコート法、グラビアコート法、ダイコート法、スピンコート法、カーテンコート法、スプレーコート法、エアナイフコート法、IJ法、ロールブラッシュ法等の従来公知の塗布方法を使用することができる。
【0029】
続いて、格子状のマスクで基板を覆って露光した後、現像を行い、基板上にレジストからなる格子状の隔壁および隔壁により区分けされた開口部11を備える隔壁付基板10を得た。
【0030】
前記工程の終了後、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)を隔壁レジスト表面に滴下して液滴の静的接触角を測定したところ5°程度と低く、親液性であった。
【0031】
次に、前記工程で得られた隔壁付基板を微細な貫通孔を有するマスクで覆い、CFプラズマを照射して隔壁側面を撥液処理した。マスク貫通孔の区画内の分布に関しては、図
6のドットの濃淡で示すようになっている。濃く見える部分は貫通孔(黒丸部分)の密度が高い部分であり、隔壁基部になるほど貫通孔密度は低くなっている。したがって、図6の濃淡は、貫通孔密度が隔壁側面の上端ほど高く基部にかけて段階的に低くなっているマスクで被覆してプラズマ照射した後の照射面積に比例するものである。貫通孔に対応する隔壁側面がプラズマ処理されて撥液性を付与される。貫通孔数が多いと親液性から撥液性に変わる部分の面積が広くなる。
【0032】
続いて、隔壁12領域を遮蔽して開口部11の底面領域は開口しているマスクで隔壁付基板10を覆い、プラズマ処理によって開口部11の底面を親液処理し、本発明になる隔壁付基板を得た。プラズマ処理に関しては、真空容器内にブタジエン、および酸素をガス供給系別にかつ同時に導入して行った。プラズマ処理としては、熱印加法、電子ビーム照射法,プラズマCVD法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、イオンビームアシスト法、大気圧プラズマ法等の従来公知の方法を使用できる。
【0033】
上記の隔壁付基板10の開口部11にIJ法を用いてカラーインクを吐出し、開口部11にインクを塗布したところ、四方の隔壁側面13に接したインクの接触線が隔壁基部方向に移動し、インクは隔壁側面13を濡れ上がらなかった。このときの様子はマイクロスコープによって観察・確認した。
【0034】
続いて、カラーインクが隔壁側面13を濡れ上がっていない状態で隔壁付基板10を加熱して、カラーインクを蒸発乾燥させて固化した。皮膜の形状を透過型電子顕微鏡(TEM)で断面観察したところ、平坦であることが確認された。
【0035】
このカラーフィルタを用いてLCDにパネル化にしたところ、画素における色ムラのない、輪郭が明瞭な高品質の画像を得ることができた。
【0036】
[実施例2]
実施例1と同様の手順で隔壁12および開口部11の底面の濡れ性を制御する前の隔壁付基板10を得た。
【0037】
前記工程の終了後、PGMEAをレジスト表面に滴下して液滴の静的接触角を測定したところ5°程度と低く、親液性であった。
【0038】
次に、前記の隔壁付基板の隔壁12の一領域13A以外をマスクで覆い、フッ素含有撥液剤フロロサーフFS−6110(株式会社フロロテクノロジー製)を純水で10重量%に希釈したものをスプレーコート法で塗布・乾燥させ、隔壁12の隔壁の一領域12A表面をフッ素系樹脂で撥液処理した(図7を参照のこと)。
【0039】
続いて、隔壁付基板の隔壁12の隔壁の一領域13B以外をマスクで覆い、フッ素含有撥液剤フロロサーフFS−6110(株式会社フロロテクノロジー製)を純水で5重量%に希釈したものをスプレーコート法で塗布・乾燥させ、隔壁12の隔壁の一領域12B表面をフッ素系樹脂で撥液処理した。
【0040】
続いて、隔壁付基板の隔壁12の隔壁の一領域13C以外をマスクで覆い、フッ素含有撥液剤フロロサーフFS−6110(株式会社フロロテクノロジー製)を純水で2重量%に希釈したものをスプレーコート法で塗布・乾燥させ、隔壁12の隔壁の一領域13C表面をフッ素系樹脂で撥液処理した。
【0041】
続いて、隔壁付基板の隔壁12の隔壁の一領域12D以外をマスクで覆い、フッ素含有撥液剤フロロサーフFS−6110(株式会社フロロテクノロジー製)を純水で1重量%
に希釈したものをスプレーコート法で塗布・乾燥させ、隔壁12の隔壁の一領域13D表面をフッ素系樹脂で撥液処理した。
【0042】
続いて、隔壁付基板の開口部11の底面以外をマスクで覆い、含フッ素系界面活性剤サーフロンS−221(AGCセイミケミカル株式会社製)を純水で0.1重量%に希釈したものをスプレーコート法で塗布・乾燥させることによって親液処理し、本発明に係る隔壁付基板10を得た。
【0043】
上記の隔壁付基板10の開口部11にIJ法を用いてカラーインクを吐出し、開口部11にインクを塗布したところ、四方の隔壁側面13に接したインクの接触線が隔壁基部方向に移動し、インクは隔壁側面13を濡れ上がらなかった。このときの様子はマイクロスコープによって観察・確認した。
【0044】
続いて、カラーインクが隔壁側面13を濡れ上がっていない状態で隔壁付基板10を加熱して、カラーインクを蒸発乾燥させて固化した。皮膜の形状をTEMで断面観察したところ、平坦であることが確認された。
【0045】
このカラーフィルタを用いてLCDにパネル化にしたところ、画素における色ムラのない、輪郭が明瞭な高品質の画像を得ることができた。
【0046】
[比較例1]
実施例1と同様に隔壁12および開口部11の底面の濡れ性を制御する前の隔壁付基板を得た。
【0047】
前記工程の終了後、PGMEAをレジスト表面に滴下して液滴の静的接触角を測定したところ5°程度と低く、親液性であった。
【0048】
上記の隔壁付基板10の開口部11にIJ法を用いてカラーインクを吐出し、開口部11にインクを塗布したところ、四方の隔壁側面13に接したインクの接触線が隔壁側面13を濡れ上がった。濡れ上がりの様子はマイクロスコープによって観察・確認した。
【0049】
続いて、カラーインクが隔壁側面13を濡れ上がっている状態で隔壁付基板10を加熱して、カラーインクを蒸発乾燥させて固化した。皮膜の形状をTEMで断面観察したところ、隔壁12により近い部分で厚くなり、開口部11の中央部で最も薄いような谷型であることが確認された。
【0050】
このカラーフィルタを用いてLCDにパネル化にしたところ、画素に色ムラが生じているため、輪郭がぼやけた画質となった。
【0051】
本発明の実施例1および2では、隔壁の側面においては濡れ性が異なる領域を4つとしたが、領域の分割数は4に限るものではない。一般に、分割数が多いほど隔壁側面のインク液滴の接触線は隔壁基部方向へより円滑に移動するが、目的に合った分割数として構わない。
【0052】
次に,有機ELパネルを製造する工程を一例として本発明を具体的に説明する.有機ELパネルの基板にはTFT基板を使用し,TFT基板の開口部にはIJ法を用いて正孔注入層および発光層を塗布するものとする.IJ法を用いた開口部の塗布は本発明を説明するための一例に過ぎず、その他、スクリーンコート法、グラビアコート法、ダイコート法、スピンコート法、カーテンコート法、スプレーコート法、エアナイフコート法、ロールブラッシュ法等の従来公知の塗布方法を使用することができる。
【0053】
[実施例3]
まず,TFT基板の開口部11以外をマスクで覆い,スパッタリング法によりITO薄膜の陽極層を形成した.ITO層の形成には,熱印加法、電子ビーム照射法,プラズマCVD法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、イオンビームアシスト法、大気圧プラズマ法等のプラズマ処理方法,あるいはスクリーンコート法、グラビアコート法、ダイコート法、スピンコート法、カーテンコート法、スプレーコート法、エアナイフコート法、IJ法、ロールブラッシュ法等の塗布方法のような従来公知の処理方法を使用することができる。
【0054】
次に、前記工程で得られたTFT基板を微細な貫通孔を有するマスクで覆い、CFプラズマを照射して隔壁側面を撥液処理した。マスク貫通孔の区画内の分布に関しては、図9のドットの濃淡で示すようになっている。濃く見える部分は貫通孔(黒丸部分)の密度が高い部分であり、隔壁基部になるほど貫通孔密度は低くなっている。したがって、図9の濃淡は、貫通孔密度が隔壁側面の上端ほど高く基部にかけて段階的に低くなっているマスクで被覆してプラズマ照射した後の照射面積に比例するものである。貫通孔に対応する隔壁側面がプラズマ処理されて撥液性を付与される。貫通孔数が多いと親液性から撥液性に変わる部分の面積が広くなる。
【0055】
続いて、隔壁12領域を遮蔽して開口部11の底面領域は開口しているマスクでTFT基板10を覆い、プラズマ処理によって開口部11の底面を親液処理し、本発明になる隔壁付基板を得た。プラズマ処理に関しては、真空容器内にブタジエン、および酸素をガス供給系別にかつ同時に導入して行った。プラズマ処理としては、熱印加法、電子ビーム照射法,プラズマCVD法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、イオンビームアシスト法、大気圧プラズマ法等の従来公知の方法を使用できる。
【0056】
上記隔壁付基板10の開口部11にIJ法を用いて正孔注入層材料であるポリチオフェン−ポリスチレンスルホン酸(PEDOT−PSS)を水に分散させた溶液を吐出し、開口部11に溶液を塗布したところ、四方の隔壁側面13に接した溶液の接触線が隔壁基部方向に移動し、溶液は隔壁側面13を濡れ上がらなかった。このときの様子はマイクロスコープによって観察・確認した。
【0057】
上記PEDOT−PSS溶液が隔壁側面13を濡れ上がっていない状態で隔壁付基板10を加熱して、溶液を蒸発乾燥させて固化した。
【0058】
続いて,上記隔壁付基板10の開口部11にIJ法を用いて発光層材料である芳香族ポリマーをメチルエチルケトン溶媒に分散させたインクを吐出し、開口部11にインクを塗布したところ、四方の隔壁側面13に接した溶液の接触線が隔壁基部方向に移動し、溶液は隔壁側面13を濡れ上がらなかった。このときの様子はマイクロスコープによって観察・確認した。
【0059】
続いて、インクが隔壁側面13を濡れ上がっていない状態で隔壁付基板10を加熱して、インクを蒸発乾燥させて固化した。皮膜の形状をTEMで断面観察したところ、正孔注入層,および発光層ともに平坦であることが確認された。
【0060】
上記隔壁付基板10の発光層上にAlLi薄膜の陰極層をスパッタリング法により形成し,更に陰極層の上部に乾燥材を挿入し,最後にガラス板で全体を封止して有機ELパネルを得た.
このパネルを発光させたところ、画素における色ムラのない、輪郭が明瞭な高品質の画像を得ることができた。
【0061】
[比較例2]
実施例2と同様に隔壁12および開口部11の底面の濡れ性を制御する前の隔壁付基板を得た。
【0062】
上記の隔壁付基板10の開口部11にIJ法を用いて正孔注入層材料であるPEDOT−PSSを水に分散させた溶液を吐出し、開口部11に溶液を塗布したところ、四方の隔壁側面13に接した溶液の接触線が隔壁側面13を濡れ上がった。濡れ上がりの様子はマイクロスコープによって観察・確認した。
【0063】
上記PEDOT−PSS溶液が隔壁側面13を濡れ上がっている状態で隔壁付基板10を加熱して、溶液を蒸発乾燥させて固化した。
【0064】
上記隔壁付基板10の開口部11にIJ法を用いて発光層材料である芳香族ポリマーをメチルエチルケトン溶媒に分散させたインクを吐出し、開口部11にインクを塗布したところ、四方の隔壁側面13に接したインクの接触線が隔壁側面13を濡れ上がった。濡れ上がりの様子はマイクロスコープによって観察・確認した。
【0065】
続いて、インクが隔壁側面13を濡れ上がっている状態で隔壁付基板10を加熱して、インクを蒸発乾燥させて固化した。皮膜の形状をTEMで断面観察したところ、正孔注入層,および発光層ともに隔壁12により近い部分で厚くなり、開口部11の中央部で最も薄いような谷型であることが確認された。
【0066】
上記隔壁付基板10の発光層上にAlLi薄膜の陰極層をスパッタリング法により形成し,更に陰極層の上部に乾燥材を挿入し,最後にガラス板で全体を封止して有機ELパネルを得た.
このパネルを発光させたところ、画素に色ムラが生じているため、輪郭がぼやけた画質となった。
【0067】
本発明の実施例3では、隔壁の側面においては濡れ性が異なる領域を5つとしたが、領域の分割数は5に限るものではない。一般に、分割数が多いほど隔壁側面のインク液滴の接触線は隔壁基部方向へより円滑に移動するが、目的に合った分割数として構わない。
【0068】
本発明においては、隔壁付基板の隔壁上端で最も撥液性が高く、開口部に向かって隔壁基部に至るまでに徐々に親液性が高くなり、ついに隔壁基部で最も親液性が高くなるような濡れ性の傾斜構造とすることにより、開口部に塗布されたインクの隔壁との接触線が隔壁基部の方向に移動するので、インクが隔壁を濡れ上がることがない。この状態でインクを乾燥・固化すると、平坦性に優れた色ムラのない皮膜を得ることができる。
【0069】
加えて、本発明の隔壁付基板は、開口部に塗布されたインクが開口部全体に自発的に濡れ広がるため、機械的な振動、あるいは電気的な流動のような外力を利用した方法を必要としないことから開口部以外の箇所をインクで汚染することがない。したがって、本発明により、LCD用カラーフィルタ、有機ELディスプレイ、無機ELディスプレイ等の微細な隔壁付基板を用いた製品の印刷品質を向上することが可能になる。
【符号の説明】
【0070】
10、隔壁付基板
11、開口部
12、隔壁
13、隔壁側面
14、隔壁頂部
15、インク
16、皮膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、基板上に隔壁により仕切られた複数の区画を形成する工程と、隔壁側面のインクに対する濡れ性を隔壁頂部近傍で低く基部にかけて高くなるように段階的若しくは連続的に変化させる工程と、インクを区画内に塗布し乾燥する工程と、を有することを特徴とする隔壁付基板に対するインク皮膜の形成方法。
【請求項2】
少なくとも、基板上に隔壁により仕切られた複数の区画を形成する工程と、インクに対する撥液性が隔壁の頂部近傍で高く親液性が隔壁基部で高くなるように、隔壁側面のインクに対する親和性を撥液性から親液性へと段階的若しくは連続的に変化させる工程と、インクを区画内に塗布し乾燥する工程と、を有することを特徴とする隔壁付基板に対するインク皮膜の形成方法。
【請求項3】
前記区画内底面のインクに対する濡れ性若しくは親液性が、隔壁基部のインクに対する濡れ性若しくは親液性に比較して高いことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の隔壁付基板に対するインク皮膜の形成方法。
【請求項4】
前記隔壁側面のインクに対する濡れ性もしくは親和性を変更する手段がプラズマ照射もしくはフッ素系樹脂処理であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のインク皮膜の形成方法。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の隔壁付基板に対するインク皮膜の形成方法を使用したことを特徴とするカラーフィルタ基板。
【請求項6】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の隔壁付基板に対するインク皮膜の形成方法を使用したことを特徴とする有機ELディスプレイ。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図1】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−41136(P2013−41136A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−178289(P2011−178289)
【出願日】平成23年8月17日(2011.8.17)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】