隔膜電解による金属電解採取方法
【課題】 隔膜電解槽を用いた電解採取法において、陰極室内の液組成不均一が生じるのを防止して、電着不良無く安定した金属ニッケルを製造する方法を提供することを目的とする。
【解決手段】陽極室液面より高く維持した陰極室液面よりさらに高い位置まで隔膜を設けて、陰極室上部の液を滞留させずに側面の隔膜から安定して流すことで液組成分布の不均一発生を防ぐ方法。
【解決手段】陽極室液面より高く維持した陰極室液面よりさらに高い位置まで隔膜を設けて、陰極室上部の液を滞留させずに側面の隔膜から安定して流すことで液組成分布の不均一発生を防ぐ方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、隔膜電解により金属を電解採取する方法に関するものであり、より詳しく述べるなら、硫酸浴系の電解液を用いて金属ニッケルを製造する隔膜電解装置において、電解液の流れを妨げずに均一に流通できるように隔膜を設置することで、陰極室内の液組成分布を均一化して電着不良の発生を防ぐための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電解採取法は各種の金属製造に用いられているが、特にニッケルの製造では乾式精錬法とともに工業的に主要な生産方法となっている。ニッケルは水素過電圧が小さいため、液のpHが低下すると陰極(カソード)上で水素ガス発生が起こり電流効率は著しく低下する。このためニッケル電解では、液を弱酸性ないし中性付近に維持しながら電解する必要がある。
ニッケル電解採取方法には、原料鉱石を乾式処理して作った硫化ニッケルを可溶性の陽極(アノード)として使う場合と、原料を湿式処理して作ったニッケル溶液から不溶性電極をアノードとして電解する場合がある。後者ではカソード側で電着により液のニッケル濃度が低下し、アノード側で酸濃度が増加するため、金属ニッケル製造にあたりカソード側とアノード側とを隔膜で分離して、酸を含むアノライトがカソライトに混合するのを防ぐ方法、すなわち隔膜電解が公知の技術として広く用いられている。具体的には、鉱石などの原料からニッケル溶液を、隔膜を取り付けたカソード室にニッケル液を供給し、ニッケル濃度の低下したカソライトを、隔膜を介してアノード室に流出させる際、ニッケル電着速度や給液量に応じた通液性を有する隔膜を使うことでカソード室の液面を常にアノード室より高く維持して、アノード側からの酸の混入を防ぐ。このように隔膜電解において隔膜の通液性を考慮して液面差をつけることでカソード側にアノライト中の成分が混入することを防ぐ技術は、酸(水素イオン)に限ったことではなく特許文献1(特開H6-322575 住友金属鉱山「硫黄含有電気ニッケルの製造方法」)においてカソライトに添加した薬剤がアノライト成分(塩素ガス)により分解するのを防ぐ目的で使われているように、公知の技術である。
ニッケル電解採取の液系としては、塩化浴と硫酸浴があるが、隔膜電解を用いるのは共に同じである。塩化浴は電解でアノードから有害な塩素ガスが生じる一方、この塩素を原料鉱石の浸出に繰り返すことで効率的に原料処理ができる特色がある。一方、硫酸浴はアノードから発生するのは酸素ガスであり、ガスの回収や除害の問題がなく、電解設備が簡便となる点が特長となる。
【0003】
ニッケル電解においては、隔膜を用いても水素イオンの逆拡散とカソード室内でのニッケル濃度低下に伴うカソライトのpH変動が避けられない。この点を解決する公知の技術としては、ニッケルめっき液のようにホウ酸あるいは各種の有機酸を緩衝剤として添加する方法があるが、ホウ素は排水処理の点で環境問題を起こす懸念があるほか、添加剤を含む電解後液の循環利用時に分解物の蓄積やニッケル原料溶解阻害などの制約が生じる。より簡便な形式としては、電解槽への給液中に移動度が高くカソード上で電着しない金属イオンの塩、実用的にはナトリウム塩を適切な濃度共存させることで、カソライト中、特に実際に電着が進むカソード表面近傍での電荷バランスを取り、液のpH変動を緩和することができる。
たとえば、硫酸ニッケル液から電解採取する場合、カソライト中のニッケル濃度が低下する一方、隔膜を介して液がアノードに流出する際に、ナトリウムの一部がカソード室内に残り給液に対して濃度が増加し、その分カソライトのpH低下が抑制される。
【特許文献1】特開H6-322575 住友金属鉱山「硫黄含有電気ニッケルの製造方法」
【特許文献2】特開2007-46157 日鉱金属「高純度ニッケル、高純度ニッケルターゲット及び高純度ニッケル薄膜」
【特許文献3】特開S53-5019 インコ「ニッケルの電解採取法」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、ニッケルの隔膜電解では、カソード室内の液流動に不均一があると、液組成が局部的に不均一となり、電着不良を生じる場合がある。カソード室内上部にはニッケル濃度が低下して密度が下がった液が滞留するおそれがある。極端な場合、最上層の液のニッケル濃度が著しく低下して粉末状に電着したり、ナトリウムだけがカソード上で放電しpHが上昇してニッケル水酸化物が沈着する問題を起こす。こうした問題を防ぐには、カソード室内の液を強制循環して撹拌混合するなどの方法も利用できるが、設備が複雑になる。
【0005】
本発明は、上記の液濃度分布不均一の問題を防ぐため、ニッケルの隔膜電解採取において濃度の低下した液が滞留しやすいカソード室最上層部の液が、隔膜を介して安定してアノード室に流出する方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明者は、カソード室最上層の液がカソード室内で滞留せずに隔膜を介して安定してアノード室に流出するよう、隔膜を少なくともカソライト液面の位置まで設置することで、カソライト上層部の液が安定してアノード側に流出するようになり前述の液組成の不均一発生無しに安定してニッケルが電着することを見出した。隔膜電解に関する先行発明、たとえば前述の特許文献1(特開H6-322575)では、カソードとアノードの液面差の確保の重要性については述べているが、液面に対する隔膜の配置の影響については規定していない。
【0007】
すなわち本発明は、
(1) 液およびイオンを透過する素材を隔膜として用い陽極室と陰極室とを隔離し、陰極室に液を供給して陰極側の液面を陽極側より高く保つことで陰極室への陽極側からの液混入を防ぎながら金属を電解採取する装置において、隔膜を陰極液面以上の高さまで設置して陰極からの液を均一に陽極室に流出させることにより陰極室内で高さ方向の液組成分布を均一化する、隔膜電解による金属電解採取方法。
(2) 上記(1)において、電解に用いる液がニッケルとアルカリ金属の塩を主成分とし、電解採取する金属がニッケルである、隔膜電解による金属電解採取方法。
(3) 上記(1)において、電解に用いる液が硫酸ニッケルと硫酸ナトリウムを主成分とし、陰極室内の液pHが2.5以上5以下である、隔膜電解による金属電解採取方法
である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、簡便な構造の電解装置で、液濃度の不均一を解消し、安定した外観の電着物を製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
ニッケル電解の場合、隔膜には公知のとおり、耐酸テトロンやポリプロピレンなどの耐食性のろ布を利用する。隔膜には、ろ布のほか、他の多孔質の素材も利用できる。特許文献2 (特開2007-46157 日鉱金属「高純度ニッケル、高純度ニッケルターゲット及び高純度ニッケル薄膜」)におけるように高品位の製品を得る目的で、あるいは特許文献3(特開S53-5019 インコ「ニッケルの電解採取法」)におけるようにアノライトに含まれる成分のカソライトへの混入を完全に防ぐ目的としてイオン交換膜を用い、膜に導電性を持たせるが隔膜を介した液透過のない構造として電解する技術もあるが、これらはカソライト・アノライトを完全に分離した上でそれぞれを別個に循環する機構を組み入れて利用するものであって、本発明の狙いとは目的が異なる。本特許の場合、電流量と処理する通液流量に応じた液透過性を有する隔膜を用いる必要がある。
隔膜は、カソード室内の液が滞留せずにそのまま側面から流出できるよう、アノード側より高くしたカソライト液面より以上に高い位置まで設置する。この場合、カソード全体を覆う部屋を作りアノードとの対向面に開けた窓に隔膜を貼り付けてもよいし、より簡便には、ろ布で袋を作りその上部を枠に固定して中にカソードを挿入する形としてもよい。
【0010】
電解にあたってはカソライトの液組成のうち、特にpHをニッケルが安定して電着する範囲内に調節する。前記のとおりカソライトのpHが低下しすぎるとカソード上のガス発生が多くなり電流効率が低下する。一方、pHをあまり高くするとカソード近傍に局部的にpHが高くなった領域が生じ電着状態が悪化し、極端な場合、ニッケルの水酸化物が沈着する他、給液のpHと流量だけでコントロールするのが困難となる。実用的にはカソライトpHは2.5以上、5以下の範囲とすれば、電着外観の問題なしに、金属ニッケルが電着する。
硫酸ニッケル液の系で、実際にカソライトのpHをコントロールするには、給液の組成を実用的な濃度、たとえばニッケル濃度標準100g/L(80-110g/L)で送り電解後のニッケル濃度が60-80g/Lに低下した液を排出する場合、給液にナトリウム5-30g/Lを共存させて、pHを目安として1.8-5.5、より好ましくは1.8-2.5の範囲として供給する。イオンの輸率の影響で、給液pHが高くかつナトリウム濃度が低い場合ではアノライトの酸濃度とのバランスでカソライトのpHは給液より低くなり、一方pHの低い側ではカソライトへのナトリウムイオン蓄積によるバランスで給液よりやや高い値でバランスする。
【0011】
前記の方法で、カソード室内に液組成の不均一発生を防止して、安定した外観の電気ニッケルを製造できる。
【実施例】
【0012】
(実施例1)
片面を絶縁テープで被覆した有効寸法300mm角の鉛アノード2枚と、これに対向した300mm幅のSUS304製カソード1枚を、図1に示す隔膜電解槽に入れた。カソードを入れた箱には、幅280mmで、図2(A)に示すように給液時のカソード室液面より上の位置まで開いた窓をくり抜き耐酸性ポリプロピレン製のろ布(通気度1cm3 / cm2・sec)を貼り付け固定した。
この電解槽に、表1に示す組成の硫酸ニッケル液をカソード側・アノード側合計15L入れて50−55℃の温度を保ちながら、ニッケル液を流量27mL/minで流した。この状態で36A(電流密度200A/m2)の電流を流した。アノード室から流出した、ニッケル濃度の低下したアノライトには別途調製した炭酸ニッケルを追加してNi濃度およびpHを元に戻した後、再度電解の給液として繰り返し使用した。カソード室内の液面はアノード室内液面に対して約13mm高い状態を保った。給液の組成変動を図3に、カソライト中央部分の組成変動と平均組成を図4および表2に示す。カソード室内部の液は次第にNi濃度が低下し給液の平均94.1g/Lに対して中央部のカソライトで平均74.8g/Lで低い状態を保ち、反対にNa濃度は増加し給液の平均12.34g/Lに対して平均15.87g/Lとなった。一方pHは給液の平均2.04に対して2.92と高い値となり、で推移した。電解中のカソード室内の上(液面から8-10mm下)、中(中央)、底(カソード下端位置)から液のサンプルを取り分析したが、表3に示すようにpH・Ni濃度・Na濃度とも大差は無く、給液に対してNa濃度およびpHが高く推移する状態は同様であった。
290h後にカソードを引き上げたが、図5に示すとおり、電流の集中するカソードエッジ部分に盛り上がった電着が見られたものの、全体として平らな金属ニッケルが電着した。
【0013】
【表1】
【表2】
【表3】
【0014】
(比較例) (上層の液流れが妨げられる隔膜配置での電着状態)
実施例と同様の装置で、図2(B)に示すように、カソード室の窓開口部がアノード室液面より10mm下の位置まで開いていて、カソライト・アノライトの最上部が板で区切られた状態で、同じろ布を隔膜として実施例1と同様の方法でニッケル液を送り電解を行った。カソード室内の液面はアノード側に対して15-17mm高い状態を保った。図6、図7に示すように、カソード室最上部のカソライトは中央部のカソライトに比べてニッケル濃度が著しく低くなる一方、pHが高い状態で推移した。途中一度カソードを取出しカソード室内の液を撹拌したが、時間が経つと再び液濃度とpHの不均一が生じた。67.5h後にカソードを取り出したところ、図8に示すとおり、カソード上部のニッケル濃度低下部分(液面から約30mmまでの隔膜の固定板で液の横方向への流れが阻害された部分)では黒色をした粉末状のニッケルと緑色をした沈殿(ニッケルの水酸化物ないしは塩基性硫酸塩)が混じった物質がこびりつき隔膜に接触する状態となり、著しい不良電着を生じた。
【0015】
(実施例2) (小型試験による Ni電解pH域の条件範囲の説明)
隔膜電解で安定した電着が得られるカソライトのpH範囲を確認するため、図9に示した、有効電着面100mm角電極を使用する小型の隔膜電解装置(液量、カソライト・アノライト各0.6L)を用いて、実施例1と同じ原料から調製した、ニッケルおよびナトリウム濃度が同様の液(Ni 98-100g/L, Na 12g/L)に硫酸を添加してpHを2から4まで変えて給液し、電流2A(電流密度200A/m2 )で18-24h電解し、電着状態や液組成の変化を調べた。最終的な液pHと電着状態を表4のNo1-No5に示す。また電着後の外観を図10に示す。いずれもpHは給液より上昇したが、特に給液pH4ではカソライトpHが6以上に上昇して電着物に縦筋模様が入り外観不良となった。それ以外のカソライトpHが4以下を維持したものでは電着外観には不良は無かったが、図11に示すとおりpH低下と共に急激にカソード電流効率が低下した。給液pHをさらに下げてカソライトpHを2.0まで下げても目立った電着不良は生じないが、カソードでのガス発生が激しくなり電流効率がさらに低下するため実用性は乏しいものと判断した。
液のナトリウム濃度の薄い液(Ni 98-100g/L,
Na 5g/L)でpH5.5の液を調製し同様に実験した。表4のNo6に示すように、カソライトpHは給液よりやや低下して5弱となったが、電着状態は平滑で正常であった。
以上のように、カソライトpH2.5〜4.7の範囲で正常な電着をしたが、pHが6.3と高く上昇した状態では電着が悪化した。
【表4】
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施例1および比較例における隔膜電解槽の構造 を示す。
【図2】実施例1および比較例における隔膜と液面の関係 を示す。
【図3】実施例1における給液組成の変化 を示す。
【図4】実施例1におけるカソライト(中央) 組成の変化 を示す。
【図5】実施例1における ニッケル電着状態 (290h後) を示す。
【図6】比較例における カソライトのpH推移の槽内位置による比較 を示す。
【図7】比較例における カソライトのニッケル濃度の槽内位置による比較 を示す。
【図8】比較例における電着状態 を示す。
【図9】実施例2における隔膜電解槽の構造 を示す。
【図10】実施例2におけるカソライトpHによる電着状態の比較 を示す。
【図11】実施例2におけるカソライトpHと電流効率の関係 を示す。
【技術分野】
【0001】
本発明は、隔膜電解により金属を電解採取する方法に関するものであり、より詳しく述べるなら、硫酸浴系の電解液を用いて金属ニッケルを製造する隔膜電解装置において、電解液の流れを妨げずに均一に流通できるように隔膜を設置することで、陰極室内の液組成分布を均一化して電着不良の発生を防ぐための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電解採取法は各種の金属製造に用いられているが、特にニッケルの製造では乾式精錬法とともに工業的に主要な生産方法となっている。ニッケルは水素過電圧が小さいため、液のpHが低下すると陰極(カソード)上で水素ガス発生が起こり電流効率は著しく低下する。このためニッケル電解では、液を弱酸性ないし中性付近に維持しながら電解する必要がある。
ニッケル電解採取方法には、原料鉱石を乾式処理して作った硫化ニッケルを可溶性の陽極(アノード)として使う場合と、原料を湿式処理して作ったニッケル溶液から不溶性電極をアノードとして電解する場合がある。後者ではカソード側で電着により液のニッケル濃度が低下し、アノード側で酸濃度が増加するため、金属ニッケル製造にあたりカソード側とアノード側とを隔膜で分離して、酸を含むアノライトがカソライトに混合するのを防ぐ方法、すなわち隔膜電解が公知の技術として広く用いられている。具体的には、鉱石などの原料からニッケル溶液を、隔膜を取り付けたカソード室にニッケル液を供給し、ニッケル濃度の低下したカソライトを、隔膜を介してアノード室に流出させる際、ニッケル電着速度や給液量に応じた通液性を有する隔膜を使うことでカソード室の液面を常にアノード室より高く維持して、アノード側からの酸の混入を防ぐ。このように隔膜電解において隔膜の通液性を考慮して液面差をつけることでカソード側にアノライト中の成分が混入することを防ぐ技術は、酸(水素イオン)に限ったことではなく特許文献1(特開H6-322575 住友金属鉱山「硫黄含有電気ニッケルの製造方法」)においてカソライトに添加した薬剤がアノライト成分(塩素ガス)により分解するのを防ぐ目的で使われているように、公知の技術である。
ニッケル電解採取の液系としては、塩化浴と硫酸浴があるが、隔膜電解を用いるのは共に同じである。塩化浴は電解でアノードから有害な塩素ガスが生じる一方、この塩素を原料鉱石の浸出に繰り返すことで効率的に原料処理ができる特色がある。一方、硫酸浴はアノードから発生するのは酸素ガスであり、ガスの回収や除害の問題がなく、電解設備が簡便となる点が特長となる。
【0003】
ニッケル電解においては、隔膜を用いても水素イオンの逆拡散とカソード室内でのニッケル濃度低下に伴うカソライトのpH変動が避けられない。この点を解決する公知の技術としては、ニッケルめっき液のようにホウ酸あるいは各種の有機酸を緩衝剤として添加する方法があるが、ホウ素は排水処理の点で環境問題を起こす懸念があるほか、添加剤を含む電解後液の循環利用時に分解物の蓄積やニッケル原料溶解阻害などの制約が生じる。より簡便な形式としては、電解槽への給液中に移動度が高くカソード上で電着しない金属イオンの塩、実用的にはナトリウム塩を適切な濃度共存させることで、カソライト中、特に実際に電着が進むカソード表面近傍での電荷バランスを取り、液のpH変動を緩和することができる。
たとえば、硫酸ニッケル液から電解採取する場合、カソライト中のニッケル濃度が低下する一方、隔膜を介して液がアノードに流出する際に、ナトリウムの一部がカソード室内に残り給液に対して濃度が増加し、その分カソライトのpH低下が抑制される。
【特許文献1】特開H6-322575 住友金属鉱山「硫黄含有電気ニッケルの製造方法」
【特許文献2】特開2007-46157 日鉱金属「高純度ニッケル、高純度ニッケルターゲット及び高純度ニッケル薄膜」
【特許文献3】特開S53-5019 インコ「ニッケルの電解採取法」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、ニッケルの隔膜電解では、カソード室内の液流動に不均一があると、液組成が局部的に不均一となり、電着不良を生じる場合がある。カソード室内上部にはニッケル濃度が低下して密度が下がった液が滞留するおそれがある。極端な場合、最上層の液のニッケル濃度が著しく低下して粉末状に電着したり、ナトリウムだけがカソード上で放電しpHが上昇してニッケル水酸化物が沈着する問題を起こす。こうした問題を防ぐには、カソード室内の液を強制循環して撹拌混合するなどの方法も利用できるが、設備が複雑になる。
【0005】
本発明は、上記の液濃度分布不均一の問題を防ぐため、ニッケルの隔膜電解採取において濃度の低下した液が滞留しやすいカソード室最上層部の液が、隔膜を介して安定してアノード室に流出する方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明者は、カソード室最上層の液がカソード室内で滞留せずに隔膜を介して安定してアノード室に流出するよう、隔膜を少なくともカソライト液面の位置まで設置することで、カソライト上層部の液が安定してアノード側に流出するようになり前述の液組成の不均一発生無しに安定してニッケルが電着することを見出した。隔膜電解に関する先行発明、たとえば前述の特許文献1(特開H6-322575)では、カソードとアノードの液面差の確保の重要性については述べているが、液面に対する隔膜の配置の影響については規定していない。
【0007】
すなわち本発明は、
(1) 液およびイオンを透過する素材を隔膜として用い陽極室と陰極室とを隔離し、陰極室に液を供給して陰極側の液面を陽極側より高く保つことで陰極室への陽極側からの液混入を防ぎながら金属を電解採取する装置において、隔膜を陰極液面以上の高さまで設置して陰極からの液を均一に陽極室に流出させることにより陰極室内で高さ方向の液組成分布を均一化する、隔膜電解による金属電解採取方法。
(2) 上記(1)において、電解に用いる液がニッケルとアルカリ金属の塩を主成分とし、電解採取する金属がニッケルである、隔膜電解による金属電解採取方法。
(3) 上記(1)において、電解に用いる液が硫酸ニッケルと硫酸ナトリウムを主成分とし、陰極室内の液pHが2.5以上5以下である、隔膜電解による金属電解採取方法
である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、簡便な構造の電解装置で、液濃度の不均一を解消し、安定した外観の電着物を製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
ニッケル電解の場合、隔膜には公知のとおり、耐酸テトロンやポリプロピレンなどの耐食性のろ布を利用する。隔膜には、ろ布のほか、他の多孔質の素材も利用できる。特許文献2 (特開2007-46157 日鉱金属「高純度ニッケル、高純度ニッケルターゲット及び高純度ニッケル薄膜」)におけるように高品位の製品を得る目的で、あるいは特許文献3(特開S53-5019 インコ「ニッケルの電解採取法」)におけるようにアノライトに含まれる成分のカソライトへの混入を完全に防ぐ目的としてイオン交換膜を用い、膜に導電性を持たせるが隔膜を介した液透過のない構造として電解する技術もあるが、これらはカソライト・アノライトを完全に分離した上でそれぞれを別個に循環する機構を組み入れて利用するものであって、本発明の狙いとは目的が異なる。本特許の場合、電流量と処理する通液流量に応じた液透過性を有する隔膜を用いる必要がある。
隔膜は、カソード室内の液が滞留せずにそのまま側面から流出できるよう、アノード側より高くしたカソライト液面より以上に高い位置まで設置する。この場合、カソード全体を覆う部屋を作りアノードとの対向面に開けた窓に隔膜を貼り付けてもよいし、より簡便には、ろ布で袋を作りその上部を枠に固定して中にカソードを挿入する形としてもよい。
【0010】
電解にあたってはカソライトの液組成のうち、特にpHをニッケルが安定して電着する範囲内に調節する。前記のとおりカソライトのpHが低下しすぎるとカソード上のガス発生が多くなり電流効率が低下する。一方、pHをあまり高くするとカソード近傍に局部的にpHが高くなった領域が生じ電着状態が悪化し、極端な場合、ニッケルの水酸化物が沈着する他、給液のpHと流量だけでコントロールするのが困難となる。実用的にはカソライトpHは2.5以上、5以下の範囲とすれば、電着外観の問題なしに、金属ニッケルが電着する。
硫酸ニッケル液の系で、実際にカソライトのpHをコントロールするには、給液の組成を実用的な濃度、たとえばニッケル濃度標準100g/L(80-110g/L)で送り電解後のニッケル濃度が60-80g/Lに低下した液を排出する場合、給液にナトリウム5-30g/Lを共存させて、pHを目安として1.8-5.5、より好ましくは1.8-2.5の範囲として供給する。イオンの輸率の影響で、給液pHが高くかつナトリウム濃度が低い場合ではアノライトの酸濃度とのバランスでカソライトのpHは給液より低くなり、一方pHの低い側ではカソライトへのナトリウムイオン蓄積によるバランスで給液よりやや高い値でバランスする。
【0011】
前記の方法で、カソード室内に液組成の不均一発生を防止して、安定した外観の電気ニッケルを製造できる。
【実施例】
【0012】
(実施例1)
片面を絶縁テープで被覆した有効寸法300mm角の鉛アノード2枚と、これに対向した300mm幅のSUS304製カソード1枚を、図1に示す隔膜電解槽に入れた。カソードを入れた箱には、幅280mmで、図2(A)に示すように給液時のカソード室液面より上の位置まで開いた窓をくり抜き耐酸性ポリプロピレン製のろ布(通気度1cm3 / cm2・sec)を貼り付け固定した。
この電解槽に、表1に示す組成の硫酸ニッケル液をカソード側・アノード側合計15L入れて50−55℃の温度を保ちながら、ニッケル液を流量27mL/minで流した。この状態で36A(電流密度200A/m2)の電流を流した。アノード室から流出した、ニッケル濃度の低下したアノライトには別途調製した炭酸ニッケルを追加してNi濃度およびpHを元に戻した後、再度電解の給液として繰り返し使用した。カソード室内の液面はアノード室内液面に対して約13mm高い状態を保った。給液の組成変動を図3に、カソライト中央部分の組成変動と平均組成を図4および表2に示す。カソード室内部の液は次第にNi濃度が低下し給液の平均94.1g/Lに対して中央部のカソライトで平均74.8g/Lで低い状態を保ち、反対にNa濃度は増加し給液の平均12.34g/Lに対して平均15.87g/Lとなった。一方pHは給液の平均2.04に対して2.92と高い値となり、で推移した。電解中のカソード室内の上(液面から8-10mm下)、中(中央)、底(カソード下端位置)から液のサンプルを取り分析したが、表3に示すようにpH・Ni濃度・Na濃度とも大差は無く、給液に対してNa濃度およびpHが高く推移する状態は同様であった。
290h後にカソードを引き上げたが、図5に示すとおり、電流の集中するカソードエッジ部分に盛り上がった電着が見られたものの、全体として平らな金属ニッケルが電着した。
【0013】
【表1】
【表2】
【表3】
【0014】
(比較例) (上層の液流れが妨げられる隔膜配置での電着状態)
実施例と同様の装置で、図2(B)に示すように、カソード室の窓開口部がアノード室液面より10mm下の位置まで開いていて、カソライト・アノライトの最上部が板で区切られた状態で、同じろ布を隔膜として実施例1と同様の方法でニッケル液を送り電解を行った。カソード室内の液面はアノード側に対して15-17mm高い状態を保った。図6、図7に示すように、カソード室最上部のカソライトは中央部のカソライトに比べてニッケル濃度が著しく低くなる一方、pHが高い状態で推移した。途中一度カソードを取出しカソード室内の液を撹拌したが、時間が経つと再び液濃度とpHの不均一が生じた。67.5h後にカソードを取り出したところ、図8に示すとおり、カソード上部のニッケル濃度低下部分(液面から約30mmまでの隔膜の固定板で液の横方向への流れが阻害された部分)では黒色をした粉末状のニッケルと緑色をした沈殿(ニッケルの水酸化物ないしは塩基性硫酸塩)が混じった物質がこびりつき隔膜に接触する状態となり、著しい不良電着を生じた。
【0015】
(実施例2) (小型試験による Ni電解pH域の条件範囲の説明)
隔膜電解で安定した電着が得られるカソライトのpH範囲を確認するため、図9に示した、有効電着面100mm角電極を使用する小型の隔膜電解装置(液量、カソライト・アノライト各0.6L)を用いて、実施例1と同じ原料から調製した、ニッケルおよびナトリウム濃度が同様の液(Ni 98-100g/L, Na 12g/L)に硫酸を添加してpHを2から4まで変えて給液し、電流2A(電流密度200A/m2 )で18-24h電解し、電着状態や液組成の変化を調べた。最終的な液pHと電着状態を表4のNo1-No5に示す。また電着後の外観を図10に示す。いずれもpHは給液より上昇したが、特に給液pH4ではカソライトpHが6以上に上昇して電着物に縦筋模様が入り外観不良となった。それ以外のカソライトpHが4以下を維持したものでは電着外観には不良は無かったが、図11に示すとおりpH低下と共に急激にカソード電流効率が低下した。給液pHをさらに下げてカソライトpHを2.0まで下げても目立った電着不良は生じないが、カソードでのガス発生が激しくなり電流効率がさらに低下するため実用性は乏しいものと判断した。
液のナトリウム濃度の薄い液(Ni 98-100g/L,
Na 5g/L)でpH5.5の液を調製し同様に実験した。表4のNo6に示すように、カソライトpHは給液よりやや低下して5弱となったが、電着状態は平滑で正常であった。
以上のように、カソライトpH2.5〜4.7の範囲で正常な電着をしたが、pHが6.3と高く上昇した状態では電着が悪化した。
【表4】
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施例1および比較例における隔膜電解槽の構造 を示す。
【図2】実施例1および比較例における隔膜と液面の関係 を示す。
【図3】実施例1における給液組成の変化 を示す。
【図4】実施例1におけるカソライト(中央) 組成の変化 を示す。
【図5】実施例1における ニッケル電着状態 (290h後) を示す。
【図6】比較例における カソライトのpH推移の槽内位置による比較 を示す。
【図7】比較例における カソライトのニッケル濃度の槽内位置による比較 を示す。
【図8】比較例における電着状態 を示す。
【図9】実施例2における隔膜電解槽の構造 を示す。
【図10】実施例2におけるカソライトpHによる電着状態の比較 を示す。
【図11】実施例2におけるカソライトpHと電流効率の関係 を示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液およびイオンを透過する素材を隔膜として用い陽極室と陰極室とを隔離し、陰極室に液を供給して陰極側の液面を陽極側より高く保つことで陰極室への陽極側からの液混入を防ぎながら金属を電解採取する装置において、
隔膜を陰極液面以上の高さまで設置して陰極からの液を均一に陽極室に流出させることにより陰極室内で高さ方向の液組成分布を均一化することを特徴とする、隔膜電解による金属電解採取方法。
【請求項2】
請求項1において、電解に用いる液がニッケルとアルカリ金属の塩を主成分とし、電解採取する金属がニッケルであることを特徴とする、隔膜電解による金属電解採取方法。
【請求項3】
請求項1および2の何れかの方法において、電解に用いる液が硫酸ニッケルと硫酸ナトリウムを主成分とし、陰極室内の液pHが2.5以上5以下であることを特徴とする、隔膜電解による金属電解採取方法
【請求項1】
液およびイオンを透過する素材を隔膜として用い陽極室と陰極室とを隔離し、陰極室に液を供給して陰極側の液面を陽極側より高く保つことで陰極室への陽極側からの液混入を防ぎながら金属を電解採取する装置において、
隔膜を陰極液面以上の高さまで設置して陰極からの液を均一に陽極室に流出させることにより陰極室内で高さ方向の液組成分布を均一化することを特徴とする、隔膜電解による金属電解採取方法。
【請求項2】
請求項1において、電解に用いる液がニッケルとアルカリ金属の塩を主成分とし、電解採取する金属がニッケルであることを特徴とする、隔膜電解による金属電解採取方法。
【請求項3】
請求項1および2の何れかの方法において、電解に用いる液が硫酸ニッケルと硫酸ナトリウムを主成分とし、陰極室内の液pHが2.5以上5以下であることを特徴とする、隔膜電解による金属電解採取方法
【図10】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図11】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図11】
【公開番号】特開2009−203487(P2009−203487A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−43963(P2008−43963)
【出願日】平成20年2月26日(2008.2.26)
【出願人】(591007860)日鉱金属株式会社 (545)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年2月26日(2008.2.26)
【出願人】(591007860)日鉱金属株式会社 (545)
【Fターム(参考)】
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