説明

集合住宅

【課題】天然のエネルギーを利用して、既存エネルギーの消費削減効果を高めるとともに、エネルギーを有効活用することができる集合住宅を提供する。
【解決手段】二重管構造の基礎杭3の内管3a内側と外側を流路とする地中循環路4に流体W1を循環させ、地中熱用ヒートポンプ5を用いて地中熱を回収し、排水貯留槽10に接続する排水循環路11に生活排水W2を循環させ、排水熱用ヒートポンプ12を用いて排水熱を回収し、太陽集熱パネル13に接続した集熱循環路14に流体を循環させ、太陽熱を回収し、これら回収した熱を躯体側熱交換器18により温調に利用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、集合住宅に関し、さらに詳しくは、天然のエネルギーを利用して、既存エネルギーの消費削減効果を高めるとともに、エネルギーを有効活用することができる集合住宅に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、二酸化炭素の排出量を削減するために、ガス、電気等の既存エネルギーの消費を低減する様々な取り組みがなされ、例えば、マンション等の集合住宅では、基礎杭内部に熱交換パイプを設け、この熱交換パイプ内に流体を循環させて、地中熱を回収し、回収した地中熱を暖房や冷房等の熱源する提案がされている(例えば、特許文献1参照)。また、地中熱に加えて太陽熱で集熱して、両方の熱を蓄熱槽に貯蔵して住宅で利用するシステムが提案されている(例えば、特許文献2参照)。また、浴室、台所等から排出される排熱を回収して住宅の給水の加熱に利用する装置が提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【0003】
しかしながら、これら従来の提案では、必要とされるエネルギーを十分に補うことができずに、既存エネルギーの消費を削減するには、不十分であるという問題があった。
【特許文献1】特開2003−240358号公報
【特許文献2】特開2002−81763号公報
【特許文献3】特開平5−99501号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、天然のエネルギーを利用して、既存エネルギーの消費削減効果を高めるとともに、エネルギーを有効活用することができる集合住宅を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため本発明の集合住宅は、地中に基礎杭を埋設した基盤上に構築された複数階層を有する躯体で構成された集合住宅において、前記基礎杭を二重管にして、該二重管の内管と外管とを下端部で連通し、該内管の内側と外側とで流体を逆方向の流通させる流路を備えた地中循環路を形成し、該地中循環路の中途に配置した地中熱用ヒートポンプと、前記躯体に配設された排水管と下水管との間に排水貯留槽を設け、該排水貯留槽に貯留した排水を循環させる排水循環路を形成し、該排水循環路の中途に配置した排水熱用ヒートポンプと、前記躯体の外側に設置した太陽熱集熱手段とを備え、前記地中熱用ヒートポンプ、前記排水熱用ヒートポンプ、前記太陽熱集熱手段に接続した躯体側熱交換器を設けたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明の集合住宅によれば、地中熱、生活排水の有する排水熱、太陽熱の3つの熱源を集合住宅の内部の温調に利用するので、より多くのエネルギーを得ることができ、既存エネルギーの消費削減効果が大きくなる。熱源が3つとなることで、それぞれの熱源から得られるエネルギーの時期、時間による変化があっても、互いの熱源で補完して安定したエネルギーを得ることができるので、熱源不足を補うために使用する既存エネルギーの消費を、更に抑えることができる。
【0007】
また、集合住宅であるので、戸建住宅に比べて、まとまった量の生活排水を得ることができ、排水熱から得られるエネルギーが安定し、有効に活用することが可能となる。大規模団地であれば、さらにまとまった量の生活排水を得ることができ、地中熱、排水熱、太陽熱の量が多く、各棟で回収したエネルギー統括的にコントロールすることにより、さらに有効に活用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の集合住宅を図に示した実施形態に基づいて説明する。図1は実施形態の集合住宅1の全体構成を例示し、図2は基礎杭3の周辺を例示している。
【0009】
この集合住宅1は、基礎杭3が埋設された基盤19上に構築されていて、複数階層の鉄筋コンクリート躯体2が基本構造体となっている。躯体2の外側表面には断熱材7が配設され、断熱材7の外側が外壁材8で覆われる外断熱構造となっている。躯体2の内側に断熱材7を配設した内断熱構造とすることもできるが、断熱効果に優れた外断熱構造にすることが好ましい。
【0010】
基礎杭3は、鋼管である内管3aと外管3bとの二重管となっており、下端部では外管3bは閉口し、内管3aは開口して外管3bと内管3aとが連通している。上端部では外管3bは閉口し、内管3a上端部は、外管3bの周壁を貫通して延びる接続管4aの一端部と接続している。この接続管4aは中途にポンプP1を備え、地中熱用ヒートポンプ5を通過して、他端部が外管3bの周壁を貫通して、その周壁に開口している。
【0011】
即ち、内管3a(内管3aの内側)、内管3aと外管3bとの間(内管3aの外側)、接続管4aとにより、流体W1が循環する地中循環路4が形成されて、その中途に地中熱用ヒートポンプ5と循環用のポンプP1が配置された構造となっている。
【0012】
基礎杭3は、例えば、長さ30m程度、外管3bの外径60cm程度、内管3aの外径30cm程度であり、躯体2の大きさ等に応じて決定される。
【0013】
地中熱用ヒートポンプ5には、圧縮機5aと膨張弁5bとを備えた冷媒Mが循環する冷媒循環路5cが備わっている。この冷媒循環路5cの上下両側は、螺旋状となっていて、一方側が地中循環路4の接続管4aと接触し、他方側が躯体側熱交換器18の循環路18aと接触している。
【0014】
躯体2内部の各戸には、浴室や台所等からの生活排水を流通させる排水管9が配設されている。この排水管9と下水管17との間に排水W2を一時的に貯留させる排水貯留槽10が躯体2の近傍基盤19に埋設されている。排水貯留槽10は、貯留した排水W2の水温の低下を抑えるために、例えば、躯体2の南側となる日の当たる基盤19に埋設する。
排水貯留槽10からは上方に向かって、貯留している排水W2を循環させる排水循環路11が形成されている。排水循環路11には、排水循環用のポンプP2が備わり、中途には排水熱用ヒートポンプ12が設置されている。排水熱用ヒートポンプ12は、地中熱用ヒートポンプ5と同構造である。
【0015】
躯体2の屋上には、太陽熱集熱パネル13が設置されている。太陽熱集熱パネル13には、内部に流路が配設され、この流路にポンプP3を備えた接続管14aが接続して集熱部循環路14が形成されている。太陽熱集熱パネル13は、屋上に限らず、長時間強い日照が得られる場所に設置するようにする。
【0016】
この躯体2の内部を暖房する場合について説明する。まず、地中熱の利用については以下のようになる。地中循環路4のポンプP1を稼動して、基礎杭3の内管3aと外管3bの間を流体W1が流下すると、この流体W1が冬でも比較的暖かい地中の地中熱を回収し、加温された流体W1が内管3aの内側を上方に流通し、接続管4aを流通して地中熱用ヒートポンプ5を通過する。地中熱用ヒートポンプ5の循環路5cと接続管4aとの接触部では、熱交換が行なわれ、流体W1が回収した地中熱が冷媒Mを加温する。熱交換により排熱した流体W1は再び、接続管4aを介して内管3aと外管3bの間を流下して循環する。
【0017】
吸熱により加温された冷媒Mは、冷媒循環路5cの圧縮機5aによって圧縮されて、更に高温となる。次いで、冷媒循環路5cと躯体側熱交換器18の循環路18aとの接触部では、熱交換が行なわれて、高温になった冷媒Mの熱が躯体2の内部の暖房に利用される。躯体側熱交換器18としては、エアコンや床暖房装置等が用いられる。
【0018】
熱交換により排熱した冷媒Mは、冷媒循環路5cの膨張弁5bの操作により減圧されて低温になり、再び接続管4aとの接触部で吸熱、加温されて循環する。
【0019】
冷房する場合は、地中熱用ヒートポンプ5での冷媒Mの循環方向が反対となる。冷媒循環路5cの圧縮機5aで圧縮されたて高温となった冷媒Mは、接続管4aとの接触部で熱交換により排熱する。排熱して温度が下がった冷媒Mは、膨張弁5bの操作により減圧されて、更に低温となる。次いで、冷媒循環路5cと躯体側熱交換器18の循環路18aとの接触部では、熱交換が行なわれて、低温になった冷媒Mの冷熱が躯体2の内部の冷房に利用される。
【0020】
熱交換により吸熱して水温が上がった流体W1は、接続管4aを介して内管3aと外管3bの間を流下して地中に放熱し、再び循環する。
【0021】
排水熱の利用については以下のようになる。尚、排水熱用ヒートポンプ12は、地中熱用ヒートポンプ5と同じ構造なので重複する説明は省略する。排水循環路11のポンプP2を稼動して、貯留している比較的暖かい排水W2を汲み上げて排水循環路11を循環させる。排水熱用ヒートポンプ12を通過する際に熱交換により、排水W2は排熱し、排水熱用ヒートポンプ12の冷媒Mは加温される。この冷媒Mは、圧縮されて更に高温になり、この高温になった冷媒Mの熱が、躯体側熱変換器18の循環路を介して躯体2の内部の暖房に利用される。排熱して温度が下がった排水W2は、排水循環路11を経て再度、排水貯水槽10に貯留されて循環する。
【0022】
排水貯留槽10には、逐次、排水管9から新たな排水W2が流入するので、所定の貯留量になると図示しないドレン弁や排出ポンプの作動により、貯留している排水W2が下水管17に排出される。一時的に貯留する排水W2の量は、例えば、集合住宅1の1日分の排水量とする。貯留量が多すぎると、衛生的に好ましくなく、貯留量が少ないと安定した排水熱を得られなくなる。したがって、この貯留量の容積を有する適切なサイズを採用する。
【0023】
太陽熱の利用については以下のようになる。集熱部循環路14のポンプP3を稼動させて太陽熱集熱パネル13の内部で太陽熱を回収して加温された流体W3を循環させる。この集熱部循環路14を躯体2の内部に配設すると、その集熱部循環路14の一部がそのまま躯体側熱交換器18として機能して、加温された流体W3の熱を暖房に直接利用することができる。集熱部循環路14の中途に太陽熱用ヒートポンプを設け、太陽熱用ヒートポンプに躯体側熱交換器18を接続して、太陽熱用ヒートポンプを用いて回収した太陽熱を躯体2内部の温調に利用してもよい。
【0024】
尚、躯体側熱交換器18は、図1に示すように別個に設けずに共通化することもできる。
【0025】
以上のように、本発明では天然エネルギーの地中熱、太陽熱と、利用されずに無駄にされていた排水熱との3つの熱源により、躯体2内部の温調を行なうので、より多くのエネルギーを得ることができ、電気、ガス等の既存エネルギーの消費を大幅に削減することが可能となる。
【0026】
また、熱源が3つあるので、それぞれの熱源から得られるエネルギーの時期、時間による変化を互いの熱源で補完して、エネルギー供給の安定性を高めることができる。これにより、熱源不足となる状態(時間)を極力減らすことができ、熱源不足を補うために使用する既存エネルギーの消費を従来に比べて抑えることができる。
【0027】
生活排水は、多戸数の集合住宅1であるので、戸建住宅に比べて、まとまった量を確保することができる。したがって、排水熱から得られるエネルギーを無駄に安定して有効に活用することができる。集合住宅1は、例えば、10階〜15階建て程度で50〜80戸程度の規模とすることができる。
【0028】
図3に排水循環路11およびその周辺の変形例を示す。図1の排水循環路11は、構造が簡素であるという利点があるが、排水熱用ヒートポンプ12により熱交換されて、低温になった排水W2が繰り返し排水貯留槽10に還流することにより、貯留している排水W2の水温が低下する。
【0029】
ここでは、排水循環路11の排水熱用ヒートポンプ12よりも下流側に第1切換弁15を設け、排水熱用ヒートポンプ12と第1切換弁15との間には、第1水温計11aが設置されている。また、第1切換弁15と下水管17とを接続する第1排水バイパス路16が設置されている。排水貯留槽10には、第2水温計10aが設置され、制御装置6が第1切換弁15、第1水温計11a、第2水温計10aと接続されている。第1水温計11aおよび第2水温計10aによる検知温度データは制御装置6に入力され、第1切換弁15の切換操作は制御装置6により制御される。
【0030】
この構成では、排水熱用ヒートポンプ12で熱交換されて低温となった排水W2の水温が第1水温計11aで検知され、排水貯留槽10に貯留している排水W2の水温が第2水温計10aで検知される。両水温計10a、11aの検知した温度差が、予め設定した温度差以上となった際には、第1切換弁15の切換により、低温となった排水W2を第1排水パイバス路16にバイパスさせる。これにより、貯留されている排水W2の温度低下を防止し、排水熱の損失を減らすことができる。
【0031】
第2水温計10aを省略することもできる。この場合は、第1水温計11aで検知した排水W2の水温が、予め設定した水度以下となった際に、制御装置6により第1切換弁15が切換されて、低温となった排水W2を第1排水パイバス路16にパイパスさせる。これにより、貯留されている排水熱の損失を減らすことができる。
【0032】
図4に他の変形例を示す。尚、図4は説明を明確にするため、排水熱用ヒートポンプ12や排水循環路11等を省略している。図示するように、排水管9の排水貯留槽10側端部よりもやや上流位置に第2切換弁9aを設けるとともに、第2切換弁9aの上流側に第3水温計9bを設け、第2切換弁9aと下水管17とを接続する第2排水バイパス路16aを形成する。この構成では、第3水温計9bで検知した排水管9からの排水W2の水温が、予め設定した水温以下の際には、第2切換弁9aを制御装置6により切換えて、低温の排水W2を第2排水バイパス路16aにバイパスさせる。このように、排水W2を選択的に貯留させることにより、所定温度以下の低温の排水W2を初めから排水貯留槽10に貯留させないようにして、排水貯留槽10の排水W2を比較的高温に保ち、排水熱の損失を減らすことができる。
【実施例】
【0033】
本発明を図5に示す平気気温となる寒冷地に立地する鉄筋コンクリート地上13階建て、48戸の集合住宅(マンション)に適用した際にその効果を、所定の仮定の下で試算し、その結果を図4に示した。
【0034】
試算条件は以下の通りである。マンションは所定の断熱性を有し、暖房面積が約3500m、基礎杭は深さ30m、外管外径60cm、内管外径30cm、埋設本数30本とした。排水については利用できる適切なデータを利用した。太陽熱集熱パネルは、設置面積168mであり、集熱量は利用できる適切なデータを用した。その他のデータについても、利用できる限り適切なものを採用した。
【0035】
図5に示すように、このマンションの年間暖房負荷は、躯体が外断熱構造の場合は約350MWh、内断熱構造の場合は約400MWhとなる。
【0036】
地中熱により得られる年間熱量は約70MWh、排水熱により得られる年間熱量は約100MWh、太陽熱により得られる年間熱量は約40MWhとなる。これにより、3つの熱源により得られる年間熱量は約210MWhとなり、年間暖房負荷の約60%が得られることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の集合住宅の全体構成を例示する説明図である。
【図2】図1の基礎杭の構造およびその周辺を示す縦断面図である。
【図3】図1の排水用循環路およびその周辺の変形例を示す説明図である。
【図4】図1の排水管およびその周辺の変形例を示す説明図である。
【図5】本発明のエネルギー削減効果を示すグラフ図である。
【符号の説明】
【0038】
1 集合住宅
2 躯体
3 基礎杭 3a 内管 3b 外管
4 地中循環路 4a 接続管
5 地中熱用ヒートポンプ
5a 圧縮機 5b 膨張弁 5c 冷媒循環路
6 制御装置
7 断熱材
8 外壁材
9 排水管 9a 第2切換弁 9b 第3水温計
10 排水貯水槽 10a 第2水温計
11 排水循環路 11a 第1水温計
12 排水熱用ヒートポンプ
5a 圧縮機 5b 膨張弁 5c 冷媒循環路
13 太陽熱集熱パネル
14 集熱部循環路 14a 接続管
15 第1切換弁
16 第1排水バイパス路 16a 第2排水バイパス路
17 下水管
18 躯体側熱交換器 18a 循環路
19 基盤


【特許請求の範囲】
【請求項1】
地中に基礎杭を埋設した基盤上に構築された複数階層を有する躯体で構成された集合住宅において、前記基礎杭を二重管にして、該二重管の内管と外管とを下端部で連通し、該内管の内側と外側とで流体を逆方向の流通させる流路を備えた地中循環路を形成し、該地中循環路の中途に配置した地中熱用ヒートポンプと、前記躯体に配設された排水管と下水管との間に排水貯留槽を設け、該排水貯留槽に貯留した排水を循環させる排水循環路を形成し、該排水循環路の中途に配置した排水熱用ヒートポンプと、前記躯体の外側に設置した太陽熱集熱手段とを備え、前記地中熱用ヒートポンプ、前記排水熱用ヒートポンプ、前記太陽熱集熱手段に接続した躯体側熱交換器を設けたことを特徴とする集合住宅。
【請求項2】
前記排水循環路の前記排水熱用ヒートポンプよりも下流側に切換弁を設けるとともに、前記排水用ヒートポンプと前記切換弁との間に循環する排水の水温を検知する第1水温計を設け、前記切換弁と前記下水管とを接続する排水バイパス路を設け、前記第1水温計の検知水温データが入力され、前記切換弁の切換操作を制御する制御装置を設けた請求項1に記載の集合住宅。
【請求項3】
前記排水貯留槽に貯留している排水の水温を検知する第2水温計を設け、該第2水温計の検知水温データが前記制御装置に入力される請求項2に記載の集合住宅。
【請求項4】
前記躯体の外側に断熱材を配設して断熱構造とする請求項1〜3のいずれかに記載の集合住宅。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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