説明

集塵フィルタおよび集塵装置および空調装置

【課題】付着した微生物に対する抗菌効果を持ち、長期間抗菌効果が持続し、洗浄可能で経済性に優れた集塵フィルタおよび集塵装置を提供すること。
【解決手段】一定の間隔で配列され、一枚ごとに異なる電圧が印加される集塵電極10に帯電した塵埃を吸着する集塵フィルタにおいて、前記集塵電極10が導電性の炭素材料14と抗菌性の金属15を有する構成とすることで、集塵フィルタの表面に捕集した塵埃中に含まれる微生物の増殖を抑制し、集塵電極10を清潔に保つことができる集塵フィルタが得られる。また、前記集塵フィルタを用いて、高い空気清浄機能をもつ集塵装置および空調装置を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気中の塵埃に含まれる微生物、その他の有害物質を除去する集塵フィルタおよび集塵装置における、微生物の増殖抑制を行う技術の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
空気中に存在する粒子状浮遊物質、すなわち塵埃や菌、カビなどの微生物は喘息などの疾病の原因として知られており従来から除去の対象となる物質であった。電気集塵技術を用いた集塵装置は粒子径がマイクロメートル以下の小粒径の塵埃を捕集することに優れており、また低圧損な特性を持つことから注目を集め、更なる性能向上が求められている。
【0003】
従来の集塵フィルタおよび装置の一例を、図7および図8に示す。塵埃を帯電させるための荷電部101は放電電極102に高圧端子103から高電圧が印加されており、コロナ放電によって突出端104から集塵部105に向かってイオンが放出されている。集塵部105は金属粉末の焼結体のような多孔体よりなる筒状集塵電極部材106からなり、流入側開口部107から導入された塵埃を含む空気は、流路108を通って流出側開口部109から排出されている。流路108を通過する塵埃は、イオンと衝突することによって帯電され、電気的な作用によって集塵電極部材106に捕捉される。筒状集塵電極106は殺菌剤や消毒剤を含浸したものとなっており、捕捉した塵埃に含まれる微生物を殺菌することができる構成となっている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、下記の特許文献2には、放電によって粉塵を帯電する帯電部を前段に設け、平板電極を積層し交互に異なる電圧を印加して電場を形成し、帯電した粉塵を捕集する集塵部を後段に設けた構成の集塵装置が示されている。図9に示すように、帯電部201は線状イオン化電極202とイオン化極板203の間に高電圧を印加して発生したコロナ放電により塵埃204を帯電させイオン化する。イオン化された塵埃204は、気流によって後段の集塵部205に運ばれる。集塵部205は、平板電極206を積層し交互にプラスおよびマイナスの異なる電圧を印加して電場を形成しており、イオン化された塵埃204は電気的な力によって平板電極206に吸着し、捕集される。イオン化極板203および平板電極206の表面は、抗菌剤を添加した絶縁材207によって被覆されており、吸着した塵埃204は抗菌剤の作用によってカビや細菌類の繁殖が抑えられるようになっているため、再飛散によってカビや細菌類が空気中にまき散らされる恐れが少なく、また、集塵部の洗浄時あるいは交換時に交換者が集塵電極を素手で触っても衛生的な状態とすることができる(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開昭56−78645号公報
【特許文献2】特開平6−134340号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の空気浄化装置では、筒状集塵電極に殺菌剤や消毒剤を含浸したものとなっているため、長期間使用した場合にはコロナ放電によって発生するオゾンの作用によって殺菌剤や消毒剤が酸化されて十分な効果が発揮できない恐れがあり、耐オゾン性に優れ長期間効果が持続する抗菌方法が求められていた。また、集塵電極に付着した塵埃を清掃するために洗浄を行うと、含浸した殺菌剤や消毒剤が溶出してしまうという課題があり、洗浄可能な抗菌方法求められていた。
【0006】
また、特許文献2に記載の方法では、一例として絶縁材の材料中に銀系抗菌剤を添加したものが示されており、この場合洗浄を行うことが可能であるが、電圧を印加するための電極と抗菌性を確保するための銀を有する絶縁材が別の部材となり、両者を一体化させるための接着加工が必要なため、より経済的に簡易な方法で製造できる集塵電極が求められていた。
【0007】
本発明は上記課題を解決するため、付着した微生物に対する抗菌効果を持ち、長期間抗菌効果が持続し、洗浄可能で経済性に優れた集塵フィルタおよび集塵装置および空調装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の集塵フィルタは上記目的を達成するために、請求項1に記載の通り、一定の間隔で配列され、一枚ごとに異なる電圧が印加される集塵電極に帯電した塵埃を吸着する集塵フィルタにおいて、前記集塵電極が導電性の炭素材料と抗菌性の金属を有することを特徴とする。
【0009】
また、請求項2記載の集塵フィルタは、集塵電極が、樹脂と導電性の炭素材料と抗菌性の金属とを導電性を有するように混合して形成されたことを特徴とする。
【0010】
また、請求項3記載の集塵フィルタは、集塵電極が、樹脂と導電性の炭素材料と抗菌性の金属とを分散させた導電性塗料を絶縁性の基材に塗布して形成されたことを特徴とする。
【0011】
また、請求項4記載の集塵フィルタは、樹脂と導電性の炭素材料と抗菌性の金属とを分散させた導電性塗料を絶縁性の板状基材の片面に塗布して形成した板状集塵電極を、同じ向きになるように一定の間隔で配列したことを特徴とする。
【0012】
また、請求項5記載の集塵フィルタは、金属が、酸化還元電位の異なる2種類以上の金属であることを特徴とする。
【0013】
また、請求項6記載の集塵フィルタは、金属が銀、銅、亜鉛のいずれか1つ以上であることを特徴とする。
【0014】
また、請求項7記載の集塵フィルタは、導電性の炭素材料が黒鉛、カーボンブラック、炭素繊維、フラーレン、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、カーボンマイクロコイル、カーボンナノコイル、不飽和結合をもつ導電性ポリマーから選ばれる1つ以上であることを特徴とする。
【0015】
また、請求項8記載の集塵フィルタは、樹脂中に界面活性剤を添加したことを特徴とする。
【0016】
また、請求項9記載の集塵フィルタは、一定の間隔で配列され、一枚ごとに異なる電圧が印加される集塵電極の間に絶縁性のスペーサーを設けたことを特徴とする。
【0017】
また、請求項10記載の集塵フィルタは、集塵電極が耐水性であり、水洗い可能であることを特徴とする。
【0018】
また、請求項11記載の集塵装置は、請求項1乃至10いずれかに記載の集塵フィルタと送風手段を備えた集塵装置において、前記集塵フィルタの風上に空気をイオン化して粉塵を帯電させるイオン化手段を設けることを特徴とする。
【0019】
また、請求項12記載の集塵装置は、請求項1乃至10いずれかに記載の集塵フィルタと送風手段を備えた集塵装置において、前記集塵装置の吹出口に、空気をイオン化して粉塵を帯電させるイオン化手段を設けることを特徴とする。
【0020】
また、請求項13記載の空調装置は、請求項11または12記載の集塵装置を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、付着した微生物に対する抗菌効果を持ち、長期間抗菌効果が持続し、洗浄可能で経済性に優れた集塵フィルタおよび集塵装置および空調装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の集塵フィルタは、一定の間隔で配列され、一枚ごとに異なる電圧が印加される集塵電極に帯電した塵埃を吸着する集塵フィルタにおいて、前記集塵電極の表層部が導電性の炭素材料と抗菌性の金属を有することを特徴とするものである。一定の間隔で配列された集塵電極と、前記集塵電極に一枚ごとに異なる電圧を印加する高圧電源を備えている。帯電した塵埃は、集塵電極周辺に形成された電場の作用によって電気的な力を受け、集塵電極の表面に吸着捕集される。集塵電極は、樹脂と導電性の炭素材料と抗菌性の金属を有し、適量の導電性の炭素材料と抗菌性の金属が樹脂中に分散混合されているため導電性を有している。前記導電性の炭素材料と抗菌性の金属の抗菌作用を受けて集塵電極の表面に吸着捕集された微生物の増殖が抑制されるため、電極の表面を清潔に状態に保つことができる。
【0023】
一般的に知られているアルミニウム板やステンレスを用いた電極では、帯電した塵埃を捕集することはできるが、抗菌作用をもたないため吸着捕集した塵埃に含まれる菌やカビが増殖して再飛散する恐れがあった。銅板を電極にすれば弱いながらも抗菌性を有しているため菌の増殖を抑制することができるが、アルミニウムやステンレスに比べて強度が弱く、腐食しやすいという課題があった。銀は優れた抗菌性を持つが、高価であるため金属板として利用されることはなく、樹脂に微量の銀粒子を分散させた抗菌性樹脂として用いられることがあった。この場合抗菌性樹脂自体には導電性がないため、アルミニウム板等に接着して電極にする必要があり、加工に手間がかかるという課題があった。また、微量の銀粒子では効果が十分発揮されない恐れがあった。本発明の集塵フィルタは樹脂と導電性のカーボンと抗菌性の金属を有するため、樹脂のもつ強度と経済性の高さを利用しながら、導電性と抗菌性をあわせもつ電極を形成することができるという効果が得られる。また、金属板に比べて腐食しにくく、軽量化できるという効果が得られる。また、抗菌性の金属を利用しているため、有機系の抗菌剤を含浸させたものに比べて耐オゾン性に優れているという効果が得られる。なお、集塵電極は全体が均一な組成である必要はなく、少なくとも集塵電極が導電性の炭素材料と抗菌性の金属を有していれば効果に差異を生じない。また、複数の部材を重ねあわせ、表層部が導電性の炭素材料と抗菌性の金属を有する構成であってもよい。
【0024】
本発明の集塵フィルタでは、集塵電極に電場が形成されているため、帯電した粒子が集塵電極の表面に吸着捕集されるが、集塵電極の表面に導電性の炭素材料と抗菌性の金属が分散して存在すると、電気抵抗の差によって電極の表面にも微小な電場のかたよりが生じ、電荷をもった微生物が電場の強い抗菌性の金属が存在する場所に密集して吸着しやすくなる。密集することによって微生物の活動が抑制され金属の抗菌性が有効に働くため、より効率的に微生物の増殖が抑制されるという効果が得られる。
【0025】
また、集塵電極が、樹脂と導電性の炭素材料と抗菌性の金属とを導電性を有するように混合して形成されたことを特徴とするものであり、導電性の炭素材料と金属とを樹脂中に十分に分散させることによって、成形性がよく、電気抵抗が低い集塵電極とすることができる。また、樹脂によって炭素材料と抗菌性の金属が固定化されているため、水などで洗浄しても容易には溶出せず、長期間にわたって抗菌効果を発揮することができるという効果が得られる。樹脂に分散させるために、前記導電性の炭素材料と抗菌性の金属は粒子径が小さく、形のそろったものが望ましい。また、抗菌性の金属を抗菌性が発揮できる量確保した上で、導電性の炭素材料の配合量を決めると、経済性に優れた集塵電極を得ることができる。また、樹脂への分散性を向上させるために、界面活性剤を添加することも効果的である。樹脂としては、ポリエチレン、ポロプロピレン、ポリスチレン、ABS、ポリエステル、ナイロン、アクリル、ウレタン、シリコーン、フッ素などが挙げられ、一般的な樹脂成型が可能なあらゆる樹脂が利用できる。
【0026】
また、本発明の集塵フィルタは、集塵電極が、樹脂と導電性の炭素材料と抗菌性の金属とを分散させた導電性塗料を絶縁性の基材に塗布して形成されたことを特徴とする。一定の間隔で配列された集塵電極と、前記集塵電極に一枚ごとに異なる電圧を印加する高圧電源を備えている。帯電した塵埃は、集塵電極周辺に形成された電場の作用によって電気的な力を受け、集塵電極の表面に吸着捕集される。集塵電極は、樹脂と導電性の炭素材料と抗菌性の金属とを分散させた導電性の塗料を絶縁性の基材に塗布して形成されたものであり、絶縁性の基材の表面に導電性と抗菌性を有している。前記導電性の炭素材料と抗菌性の金属の抗菌作用を受けて、集塵電極の表面に吸着捕集された微生物の増殖が抑制されるため、電極の表面を清潔な状態に保つことができる。
【0027】
樹脂と導電性の炭素材料と抗菌性の金属とを分散させた導電性の塗料を塗布するという簡単な方法で集塵電極を形成することができるため、加工が容易で、かつ必要な抗菌性の金属の量および導電性の炭素材料の量を少なくすることができ、より経済性に優れるという効果を得ることができる。また、絶縁材の表面に導電性と抗菌性を持たせることができるので、樹脂成型のように抗菌性の成分が内部に埋没する恐れがないという効果を得ることができる。樹脂と導電性の炭素材料と抗菌性の金属とを分散させた導電性塗料は、トルエン、キシレン等の有機溶剤に溶解した樹脂、あるいは水に分散させたエマルジョン樹脂からなる塗料に、導電性の炭素材料と抗菌性の金属を混合することによって容易に得ることができる。作成した導電性の塗料を絶縁性の基材に塗布、あるいは絶縁性の基材を導電性塗料の液に浸漬し、その後乾燥させることによって集塵電極を作成することができる。
【0028】
樹脂と導電性の炭素材料と抗菌性の金属とを分散させた導電性塗料を絶縁性の板状基材の片面に塗布して形成した板状集塵電極を、同じ向きになるように一定の間隔で配列した場合、2枚の板状集塵電極は、電圧を印加される導電性の部分と絶縁性の部分が交互に配列するため、外部からの衝撃あるいは成型上のばらつきで、板状集塵電極の間隔が狭くなる部分が生じても電気的に短絡することがなく、より信頼性の高い集塵フィルタを得ることができる。
【0029】
また、金属が、酸化還元電位の異なる2種類以上の金属であることを特徴としたものであり、局所的な電位差の働きによって抗菌作用をより有効に働かせることができる。ここで酸化還元電位とは2種類の金属電極を組み合わせたときに生じる電位差のことであり、各金属の水素電極を基準として求めた標準電極電位から計算することができる。集塵電極に外部の高圧電源から電圧が印加されていないときでも、酸化還元電位の異なる2種類以上の金属の間に微弱な電位差が生じているため、表面電荷をもった微生物が電場の強い金属が存在する場所に密集して吸着しやすくなる。密集することによって微生物の活動が抑制され金属の抗菌性が有効に働くため、より効率的に微生物の増殖が抑制されるという効果が得られる。金属としては、Au、Pt、Ag、Cu、Pb、Ni、Sb、Co、W、Fe、Sn、Cr、Zn、V、Al、Ti、Zr、Mg、これらの合金などが挙げられる。特にAg、Cu、Znは金属自体の抗菌性が強いため好ましい。また、Fe、Zn、Alは比較的安価で安全なものとして利用しやすい。2種類以上の金属の選択としては用途と寿命と経済性を考慮して選択すればよい。なお、金属は粒子状でも繊維状でも効果に差異を生じない。
【0030】
導電性の炭素材料としては、黒鉛、カーボンブラック、炭素繊維、フラーレン、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、カーボンマイクロコイル、カーボンナノコイル、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアニリン、不飽和結合をもつ導電性ポリマーなどが挙げられる。黒鉛とカーボンブラックはもっとも一般的に用いられる導電性の炭素材料であり、経済性が高い。また、導電性塗料として樹脂エマルジョンとカーボンを混合したものが市販されており、容易に入手可能である。炭素繊維、フラーレン、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、カーボンマイクロコイル、カーボンナノコイルなどは樹脂の強度向上や軽量化などの効果を得ることができる。
【0031】
また、樹脂中に界面活性剤を添加したものであり、界面活性剤を添加することによって、導電性の炭素材料と抗菌性の金属を高分散させることができ、成形性がよく、電気抵抗が低い集塵電極とすることができるという効果を得ることができる。また、適量の水分を保持することができるため、電極の導電性を向上させることができるという作用を有する。界面活性剤としては、多価アルコール脂肪酸エステル、脂肪酸アマイドなど樹脂成型に用いられるあらゆるものが利用できる。
【0032】
また、一定の間隔で配列され、一枚ごとに異なる電圧が印加される集塵電極の間に絶縁性のスペーサーを設けることにより、集塵電極の間隔を一定に保つことができ、均一な電場を形成してより集塵性能を安定させることができる。また、撥水性のスペーサーを用いることにより、集塵フィルタを高湿度雰囲気で使用した場合や水洗いした後などに、スペーサーの表面に付着した水分によって電位差のある電極間に短絡が発生する恐れが少なくなり、より信頼性の高い集塵フィルタを得ることができる。
【0033】
また、集塵電極が耐水性であり、水洗い可能であることを特徴としたものであり、集塵電極の表面に吸着した塵埃や微生物の死骸などを洗浄することにより、電極の表面を清潔にすることができる。また洗浄によって、たばこのヤニや油粒子などの皮膜を形成しやすい油性成分を除去して、集塵性能を回復させるとともに抗菌性能の低下を回復させることができる。また、仮に電極表面の一部分の抗菌性金属が性能低下しても、電極の性能低下していない部分から水洗い時に溶出した抗菌性の金属が集塵電極の表面に広く分散付着するため、フィルタ全体に対して長期間抗菌効果を持続させることができる。
【0034】
また、集塵フィルタと送風手段を備えた集塵装置において、集塵フィルタの風上に空気をイオン化して粉塵を帯電させるイオン化手段を設けることを特徴としたものである。送風手段によって吸い込まれた空気に含まれる塵埃は、集塵フィルタの風上、すなわち上流側に備えられたイオン化手段を通過する際に、イオン化された空気の作用によって帯電した塵埃となり、そして帯電した塵埃を集塵フィルタに送り込んで捕集することで集塵性能を高めることができるという作用を有する。
【0035】
また、集塵フィルタと送風手段を備えた集塵装置の吹出口に、空気をイオン化して粉塵を帯電させるイオン化手段を設けることを特徴としたものである。吹出口に設けられたイオン化手段と送風手段によって、室内にイオン化された空気を放出している。室内に浮遊している塵埃はイオン化された空気の作用によって帯電した塵埃となり、そして帯電した塵埃を送風手段によって集塵フィルタに送り込んで捕集することで集塵性能を高めることができるという作用を有する。ここで集塵装置のほかにコイルやヒーターなどの熱交換手段を備えていれば温度や湿度を制御できる空調装置を得ることができる。空調装置は熱交換手段の前に集塵フィルタが設けられていると、熱交換手段が汚れにくくなり、空調装置に安定して高い空気清浄機能と温湿度制御機能を持たせることができるという作用を有する。
【0036】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0037】
(実施の形態1)
図1は本発明の集塵フィルタの一例であり、一定の間隔で配列された板状の集塵電極10と、前記集塵電極10に一枚ごとに異なる電圧を印加する高圧電源11を備えている。帯電した塵埃12は、集塵電極10周辺に形成された電場の作用によって電気的な力を受け、集塵電極10の表面に吸着捕集される。集塵電極10は、樹脂13としてのナイロンと導電性の炭素材料14としてのカーボンと抗菌性の金属15としての銀を有し、適量の導電性の炭素材料14と抗菌性の金属15が樹脂13中に分散混合されているため導電性を有している。材料の混合比は電極の形状に成型でき強度と耐水性を確保できる範囲であれば特に制約はなく、例えば、樹脂:金属:導電性の炭素材料を26:60:14の割合(重量比)で混合した組成などが挙げられる。前記導電性の炭素材料14と抗菌性の金属15の抗菌作用を受けて集塵電極10の表面に吸着捕集された微生物の増殖が抑制されるため、電極の表面を清潔な状態に保つことができる。
【0038】
(実施の形態2)
図2は本発明の集塵フィルタの別の一例であり、一定の間隔で配列された板状の集塵電極10と、前記集塵電極10に一枚ごとに異なる電圧を印加する高圧電源11を備えている。帯電した塵埃12は、集塵電極10周辺に形成された電場の作用によって電気的な力を受け、集塵電極10の表面に吸着捕集される。集塵電極10は、樹脂13としてのアクリルと導電性の炭素材料14としてのカーボンと抗菌性の金属15としての銅とを分散させた導電性の塗料を、絶縁性の基材としてのポリプロピレン板16に塗布して形成されたものであり、絶縁性の基材16の表面に導電性と抗菌性を有している。前記導電性の炭素材料14と抗菌性の金属15の抗菌作用を受けて、集塵電極10の表面に吸着捕集された微生物の増殖が抑制されるため、電極の表面を清潔な状態に保つことができる。
【0039】
(実施の形態3)
図3は、集塵フィルタ18と送風手段を備えた集塵装置において、集塵フィルタ18の風上に空気をイオン化して粉塵を帯電させるイオン化手段を設けることを特徴とした集塵装置の一例である。送風手段としてのファン17によって吸い込まれた空気に含まれる塵埃12は、集塵フィルタ18の風上に備えられた線状放電電極19と対向電極20と第二の高圧電源21によって構成されたイオン化手段22を通過する際に、イオン化された空気の作用によって帯電した塵埃となり、そして帯電した塵埃を集塵フィルタ18に送り込んで捕集することで集塵性能を高めることができるという作用を有する。
【0040】
(実施の形態4)
図4は、集塵フィルタ18と送風手段としてのファン17を備えた集塵装置において、前記集塵装置の吹出口に、空気をイオン化して粉塵を帯電させるイオン化手段22を設けることを特徴とした集塵装置の一例である。送風手段としてのファン17の下流には針状放電電極23と対向電極24と第二の高圧電源25によって構成されたイオン化手段26を備えており、室内にイオン化された空気を放出している。室内に浮遊している塵埃はイオン化された空気の作用によって帯電した塵埃12となり、そして帯電した塵埃を集塵フィルタ18に送り込んで捕集することで集塵性能を高めることができるという作用を有する。ここで集塵装置のほかにコイルやヒーターなどの熱交換手段27を備えていれば温度や湿度を制御できる空調装置を得ることができる。前記空調装置は熱交換手段27の前に集塵フィルタ18が設けられているので、熱交換手段27が汚れにくくなり、空調装置に安定して高い空気清浄機能と温湿度制御機能を持たせることができるという作用を有する。
【0041】
以下、本発明を実施例にて詳細に説明するが、本発明は、以下の記載に何ら限定して解釈されるものではない。
【実施例1】
【0042】
(1)金属として平均粒子径50μmの亜鉛粉末と、市販の導電性カーボン塗料(導電性のカーボンとポリエステル樹脂を溶剤に分散させたもの)とを、亜鉛とカーボンの重量比が11:5になる割合でよく混練してペースト状にし、抗菌性塗料を作成した。作成した抗菌性塗料をPETフィルムに塗布し、130℃で1時間乾燥させることによって集塵電極Znを作成した。
【0043】
(2)次に、金属を75〜150μmの銅粉末に変更した以外は(1)と同様の方法で集塵電極Cuを作成した。
【0044】
(3)金属の代わりに金属酸化物である0.1〜0.3μmのTiO2粉末を添加した以外は(1)と同様の方法で、比較電極TiO2を作成した。
【0045】
(4)さらに金属を混合せず、市販の導電性カーボン塗料(導電性のカーボンとポリエステル樹脂を溶剤に分散させたもの)をPETフィルムに塗布し、100℃で1時間乾燥させることによって比較電極Cを作成した。
【0046】
前記(1)〜(4)の電極の比抵抗は1×10-1〜10-3(Ω・cm)であり良好な導電性を示した。作成した(1)〜(4)の電極をそれぞれ直径85mm(約57cm2)の円形に切り取り、導電性塗料の塗布面が上向きになるようにプラスチックシャーレ内に置いた。精製水で400倍に希釈した普通ブイヨン培地に、大腸菌 (Esherichia coli,IFO3972)が105(cfu/ml)になるように添加した菌液を作成した。菌液をそれぞれ20mlずつプラスチックシャーレに入れ、一定時間ごとに0.1mlの液を採取して培養することにより、菌数の変化を比較した。
【0047】
結果を図5に示す。CuおよびZn金属を添加した集塵電極では菌数の減少が見られ、抗菌効果があるといえる。特にCuを添加した集塵電極Cuでその効果が強くみられた。一方、比較用電極では菌数の減少はわずかであり、金属を添加したものとは明らかに効果の差がみられた。金属酸化物である比較電極TiO2では、比較電極Cよりも若干菌数が少なくTiO2粒子への吸着作用があるものと思われるが、抗菌作用があるとはいえない。
【実施例2】
【0048】
銅や亜鉛などの金属が抗菌作用を持つことは一般的に知られている。樹脂に抗菌性をもつ金属を添加した場合には、添加量に応じて抗菌作用が変化するものと思われる。抗菌性金属の添加量と抗菌作用の関係を調べるため、導電性の炭素材料であるカーボンと樹脂の量を一定にして、金属の添加量を変化させたサンプルを作成した。抗菌性塗料の粘度とかさ高さを制御するために、実施例1で抗菌性を持たないことを確認したTiO2を混合して、金属とTiO2量をあわせた量を一定に制御した。(抗菌性金属+TiO2)とカーボンの重量比は11:5である。
【0049】
作成した電極をそれぞれ直径85mm(約57cm2)の円形に切り取り、導電性塗料の塗布面が上向きになるようにプラスチックシャーレ内に置いた。
【0050】
精製水で400倍に希釈した普通ブイヨン培地に、大腸菌 (Esherichia coli、IFO3972)が105(cfu/ml)になるように添加した菌液を作成した。菌液をそれぞれ20mlずつプラスチックシャーレに入れ、一定時間ごとに0.1mlの液を採取して培養することにより、菌数の変化を比較した。
【0051】
4時間後の残存菌数と金属添加量の関係を図6に示す。横軸は抗菌性金属/(抗菌性金属+TiO2)×100で示し、0%は抗菌性金属なしの場合である。Cu、Znのどちらの場合でも、添加量が増えるほど残存菌数は減少し除菌作用が強くなっていることがわかる。最も良い除菌が得られたのは抗菌性金属100%の場合、つまり抗菌性金属とカーボンの重量比が11:5のときであった。また、CuとZnでは、Cuの方が少量の添加で除菌効果が得られることがわかった。
【実施例3】
【0052】
6−ナイロン樹脂と平均粒子径50μmの亜鉛粉末と黄銅繊維状フィラーとカーボンとを26:40:20:14の割合(重量比)で混練した。混練した材料を樹脂成型機にいれシート状に加工し、表面を研磨して集塵電極ZCを作成した。精製水で400倍に希釈した普通ブイヨン培地に、大腸菌(Esherichia coli,IFO3972)が105(cfu/ml)になるように添加した菌液を作成した。菌液を数滴づつ集塵電極ZCに滴下し、合計1mlの菌を電極表面に接種した状態で一晩保管した。亜鉛と黄銅フィラーを含まない比較用樹脂シートにも同様に菌を接種して保管した。保管後の集塵電極ZCおよび比較用樹脂シートの表面に培地を押し付けて菌数を測定したところ、比較用樹脂シートからは菌が検出されたが、集塵電極ZCからは検出されず、集塵電極の表面で微生物の増殖が抑制されていることがわかった。
【実施例4】
【0053】
平均粒子径50μmの亜鉛粉末と、75〜150μmの銅粉末と、導電性カーボン塗料(導電性のカーボンとポリエステル樹脂を溶剤に分散させたもの)とを、亜鉛と銅とカーボン塗料の重量比が10:1:5になる割合で混合し、各材料の分散性を向上させるための界面活性剤を0.1%加えて混練し、抗菌性塗料を作成した。作成した抗菌性塗料をポロプロピレン製のダンボール板に塗布し、130℃で1時間乾燥させた。作成したダンボール板を同じ形状になるように切断し、塗料の塗布面が同じ向きでかつダンボール両端の開口部の向きが同じになるように積層した。積層した電極の一つおきに異なる電位にて電圧が印加できるように配線し、高圧電源から電位差6kVの電圧を印加して電気集塵フィルタを作成した。そして、通風路内に、線状放電電極と対向電極と第二の高圧電源を備え電位差4kVの電圧を印加したイオン化手段と、作成した集塵フィルタと、ファンを備えた集塵装置を作成した。作成した集塵装置の空気吸い込み口から、105(cfu/ml)になるように調製した黄色ブドウ球菌の菌液をネブライザーで噴霧し、菌液を集塵フィルタに捕集した。比較用として、亜鉛粉末と銅粉末を含まない導電性カーボン塗料を用いて作成した比較用集塵フィルタでも同様の捕集試験を行った。
【0054】
24時間後に、集塵フィルタの電極上を綿棒でふき取り、培地に転写して培養を行った。比較用集塵フィルタでは黄色ブドウ球菌の生育が観察されたが、亜鉛と銅粉末を含む抗菌性塗料を塗布したフィルタからは、黄色ブドウ球菌は検出されず、集塵フィルタの表面で微生物の増殖が抑制されていることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の集塵フィルタでは、付着した微生物に対する抗菌効果を持ち、長期間抗菌効果が持続し、洗浄可能で経済性に優れた集塵フィルタを提供することができ、家庭用、産業用、自動車用エアフィルタとしての展開用途が期待できる。また、本発明の集塵装置では、空気清浄機、熱交換装置、換気装置などへの展開用途が期待できる。また、本発明の集塵装置を備えた空調装置は、室内の冷暖房および湿度制御といった空調を行いながら清浄化された室内空間を提供する用途として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の実施の形態1の集塵フィルタの概略断面図
【図2】同実施の形態2の集塵フィルタの概略断面図
【図3】同実施の形態3の集塵装置の概略断面図
【図4】同実施の形態4の空調装置の概略断面図
【図5】同実施例1の集塵電極を構成する材料と抗菌効果の関係を示すグラフ
【図6】同実施例2の抗菌性金属の添加量と抗菌効果の関係を示すグラフ
【図7】従来例の集塵装置の概略斜視図
【図8】従来例の集塵装置の内部構造を説明するための概略斜視図
【図9】従来例の集塵装置の概略断面図
【符号の説明】
【0057】
10 集塵電極
11 高圧電源
12 塵埃
13 樹脂
14 導電性の炭素材料
15 抗菌性の金属
16 絶縁性の基材
17 ファン
18 集塵フィルタ
19 線状放電電極
20 対向電極
21 第二の高圧電源
22 イオン化手段
23 針状放電電極
24 対向電極
25 第二の高圧電源
26 イオン化手段
27 熱交換手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一定の間隔で配列され、一枚ごとに異なる電圧が印加される集塵電極に帯電した塵埃を吸着する集塵フィルタにおいて、前記集塵電極が導電性の炭素材料と抗菌性の金属を有することを特徴とする集塵フィルタ。
【請求項2】
集塵電極が、樹脂と導電性の炭素材料と抗菌性の金属とを導電性を有するように混合して形成されたことを特徴とする請求項1記載の集塵フィルタ。
【請求項3】
集塵電極が、樹脂と導電性の炭素材料と抗菌性の金属とを分散させた導電性塗料を絶縁性の基材に塗布して形成されたことを特徴とする請求項1記載の集塵フィルタ。
【請求項4】
樹脂と導電性の炭素材料と抗菌性の金属とを分散させた導電性塗料を絶縁性の板状基材の片面に塗布して形成した板状集塵電極を、同じ向きになるように一定の間隔で配列したことを特徴とする請求項3記載の集塵フィルタ。
【請求項5】
金属が、酸化還元電位の異なる2種類以上の金属であることを特徴とする請求項1乃至4いずれかに記載の集塵フィルタ。
【請求項6】
金属が銀、銅、亜鉛のいずれか1つ以上であることを特徴とする請求項1乃至5いずれかに記載の集塵フィルタ。
【請求項7】
導電性の炭素材料が黒鉛、カーボンブラック、炭素繊維、フラーレン、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、カーボンマイクロコイル、カーボンナノコイル、不飽和結合をもつ導電性ポリマーから選ばれる1つ以上であることを特徴とする請求項1乃至6いずれかに記載の集塵フィルタ。
【請求項8】
樹脂中に界面活性剤を添加したことを特徴とする請求項2乃至7いずれかに記載の集塵フィルタ。
【請求項9】
一定の間隔で配列され、一枚ごとに異なる電圧が印加される集塵電極の間に絶縁性のスペーサーを設けたことを特徴とする請求項1乃至8いずれかに記載の集塵フィルタ。
【請求項10】
集塵電極が耐水性であり、水洗い可能であることを特徴とした請求項1乃至9いずれかに記載の集塵フィルタ。
【請求項11】
請求項1乃至10いずれかに記載の集塵フィルタと送風手段を備えた集塵装置において、前記集塵フィルタの風上に空気をイオン化して粉塵を帯電させるイオン化手段を設けることを特徴とする集塵装置。
【請求項12】
請求項1乃至10いずれかに記載の集塵フィルタと送風手段を備えた集塵装置において、前記集塵装置の吹出口に、空気をイオン化して粉塵を帯電させるイオン化手段を設けることを特徴とする集塵装置。
【請求項13】
請求項11または12記載の集塵装置を備えた空調装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−196152(P2007−196152A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−18826(P2006−18826)
【出願日】平成18年1月27日(2006.1.27)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】