説明

難溶化用組成物の製造方法、難溶化用組成物、及び環境浄化方法

【課題】工場廃液を利用しうる難溶化用組成物の製造方法の提供
【解決手段】アルミニウム、リン酸、及び硫酸を含有する溶液に、カルシウム及び第1のアルカリ溶液を添加すること、前記第1のアルカリ溶液添加により生じた沈殿物を回収して回収物を得ること、並びに、前記回収物を第2のアルカリ溶液に浸漬することを含む難溶化用組成物の製造方法。アルミニウム、リン酸、及び硫酸を含有する溶液は、エッチング廃液を含んでもよい。前記難溶化用組成物は、好ましくは、汚染物質の難溶化に使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難溶化用組成物の製造方法、難溶化用組成物、及び環境浄化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
工場から排出されるエッチング廃液は、通常、産業廃棄物として処分される。その一方で、エッチング廃液の処分方法及び有効利用方法の開発も試みがなされている。例えば、エッチング廃液を再生する方法、エッチング廃液処理コストを低減できる処理方法、及び、エッチング廃液を重金属含有廃水の凝集沈殿処理用凝結剤として有効再利用する方法(特許文献1)等が開示される。
【0003】
また、アパタイト等のリン酸カルシウム化合物を吸着剤として用いた重金属類の不溶化処理方法も開示されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−312804号公報
【特許文献2】特許第4079225号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
工場廃水を利用しうる難溶化剤の開発は、環境面からもコスト面からも好ましく、新たな技術の開発が期待されている。本発明は、工場廃液を利用しうる難溶化用組成物の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、アルミニウム、リン酸、及び硫酸を含有する溶液に、カルシウム及び第1のアルカリ溶液を添加すること、カルシウム及び第1のアルカリ溶液添加により生じた沈殿物を回収して回収物を得ること、並びに、前記回収物を第2のアルカリ溶液に浸漬することを含む難溶化用組成物の製造方法に関する。
【0007】
本発明は、その他の態様において、本発明の難溶化用組成物の製造方法により製造されうる難溶化用組成物に関する。本発明は、さらにその他の態様において、コンデンサ製造工程から排出される廃液における固形成分に由来する難溶化用組成物であって、前記コンデンサ製造工程は、アルミニウム電極のエッチング処理及び又はアルミニウム電極の酸化被膜形成処理を含み、前記固形成分は、アルミニウム、リン酸、及び硫酸を含有する溶液に、カルシウム及びアルカリ溶液を添加することにより得られうる固形成分であり、前記固形成分をアルカリ溶液に浸漬させることで製造されうる難溶化用組成物に関する。本発明は、さらにその他の態様において、本発明の難溶化用組成物の製造方法により製造された難溶化用組成物又は本発明の難溶化用組成物を汚染された土壌、地下水、廃水、及びこれらの組合せに添加することを含む環境浄化方法に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の難溶化用組成物の製造方法であれば、好ましくは、汚染物質を難溶化できる難溶化用組成物を製造できる。また、本発明の難溶化用組成物の製造方法は、好ましくは、原料の少なくとも一部として工場廃水を利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、実施例で製造した難溶化用組成物をXRDにより結晶構造解析した結果の一例を示す。
【図2】図2は、実施例で製造した難溶化用組成物のFの難溶化の評価実験の結果の一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、アルミニウム、リン酸、及び硫酸を含有する溶液をカルシウム含有アルカリ液で中和して沈殿物を形成させ、回収した前記沈殿物をさらにアルカリ液に浸漬すれば、リン酸カルシウム化合物、とりわけヒドロキシアパタイトの含有量を高めた難溶化用組成物を得ることができるという知見に基づく。
【0011】
すなわち、本発明の難溶化用組成物の製造方法(以下、「本発明の製造方法」ともいう)は、アルミニウム、リン酸、及び硫酸を含有する溶液にカルシウム及び第1のアルカリ溶液を添加すること、カルシウム及び第1のアルカリ溶液の添加により生じた沈殿物を回収して回収物を得ること、並びに、前記回収物を第2のアルカリ溶液に浸漬することを含む。本発明の製造方法によれば、好ましくはリン酸カルシウム化合物、より好ましくはヒドロキシアパタイトを含む難溶化用組成物を製造できる。本発明の製造方法によれば、さらに好ましくは、ヒドロキシアパタイトの含有量が高い難溶化用組成物を製造できる。また、本発明の製造方法によれば、好ましくは、原料の少なくとも一部として工場廃水を利用でき、コスト面及び環境保護面に優れる。
【0012】
[難溶化]
本発明において、難溶化とは、好ましくは不溶化を含み、より好ましくは汚染された環境における汚染物質の移動度を低減させることをいう。また、本発明において、汚染物質の不溶化及び難溶化は、難溶化用組成物に汚染物質を吸着させること、及び又は、難溶化用組成物により汚染物質をより溶解度の低い化合物にすることを含みうる。前記吸着は、電気的吸着(外圏錯体形成)及び化学吸着(内圏錯体形成)を含みうる。また、汚染物質をより低溶解度の化合物にすることは、イオン状態の汚染物質を析出させることを含みうる。
【0013】
[環境浄化]
本発明において、環境浄化とは、汚染された環境の浄化をいう。本発明において、汚染された環境の浄化とは、好ましくは、汚染物質の難溶化を含む。前記環境は、特に制限されないが、例えば、土壌、地下水、湖水、海水、川水、廃水、排水などを含む。本発明において浄化対象になる汚染物質は、本発明の製造方法で製造されうる難溶化用組成物により難溶化することができる物質であれば特に制限されない。浄化対象の汚染物質としては、フッ素、ホウ素、及び重金属、並びにこれらの化合物が挙げられ、前記重金属としては、ヒ素、クロム、鉛、亜鉛、カドミウム、セレン、水銀、銅、マンガン、コバルト、ニッケル、モリブデン、タングステン、錫、ビスマス、及びこれらの組合せが挙げられる。汚染浄化の効率の点からは、浄化対象の汚染物質としては、フッ素、ホウ素、ヒ素、クロム、鉛、亜鉛、カドミウム、セレン、水銀、銅、若しくはこれらの組合せ、又はこれらの化合物が好ましい。
【0014】
[アルミニウム、リン酸、及び硫酸を含有する溶液]
本発明の製造方法で使用するアルミニウム、リン酸、及び硫酸を含有する溶液は、アルミニウムイオン、リン酸イオン、及び硫酸イオンを含む溶液をいう。なお、本発明において、アルミニウムイオンは、Al3+、AlOH2+、Al(OH)2+、Al(OH)30、Al(OH)4-を含み、リン酸イオンは、H3PO40に加え、リン酸ニ水素イオン(H2PO4-)、リン酸水素イオン(HPO42-)、及びリン酸イオン(PO43-)を含み、硫酸イオンは、硫酸イオン(SO42-)及び硫酸水素イオン(HSO4-)を含みうる。また、アルミニウム、リン酸、及び硫酸を含有する溶液は、アルミニウムイオンと硫酸イオンが結合した、AlSO4+、Al(SO42-などのイオン種形態であっても良い。
【0015】
アルミニウム、リン酸、及び硫酸を含有する溶液におけるアルミニウムイオン濃度としては、難溶化用組成物における吸着力向上の点から、より多いことが好ましく、0.1〜100mmol/Lがより好ましい。前記溶液におけるリン酸イオン濃度としては、難溶化用組成物における吸着力向上の点から、より多いことが好ましく、0.1〜100mmol/Lがより好ましい。また、前記溶液における硫酸イオン濃度としては、難溶化用組成物における吸着力向上の点から、より多いことが好ましく、0.1〜100mmol/Lがより好ましい。また、アルミニウム、リン酸、及び硫酸を含有する溶液のpHとしては、難溶化用組成物における難溶化能向上の点から、2〜4が好ましい。アルミニウム、リン酸、及び硫酸を含有する溶液は、一実施形態において、アルミニウム含有溶液、リン酸含有溶液、及び硫酸含有溶液を混合して調製してもよい。その他の実施形態として、前記溶液は、アルミニウム含有溶液とリン酸及び硫酸を含有する溶液とを混合して調製してもよい。
【0016】
アルミニウム、リン酸、及び硫酸を含有する溶液は、コスト及び環境保護の点から、工場の廃液を含むことが好ましく、30、40、50、60、70、80又は90%(V/V)以上が廃液であることがより好ましく、実質的に廃液であることがさらに好ましく、廃液そのものであってもよい。使用する廃液は、1種類でもよく複数種類でもよい。使用する廃液としては、コスト及び環境保護の点から、アルミニウム、リン酸、及び硫酸のいずれかを含む廃液又は廃液の混合物が好ましく、アルミニウム、リン酸、及び硫酸のうち2つを含む廃液又は廃液の混合物がより好ましく、アルミニウム、リン酸、及び硫酸のすべてを含む廃液又は廃液の混合物がさらに好ましい。
【0017】
アルミニウム、リン酸、及び硫酸を含有する廃液としては、一実施形態として、アルミニウム電極をエッチング処理及び又は絶縁性酸化被膜形成処理した後のエッチング廃液(アルミニウムエッチング廃液)が好ましい。アルミニウム電極のエッチング処理及び又は絶縁性酸化被膜形成処理では、リン酸及び硫酸を含む酸溶液が使用されるため、その廃液には、アルミニウム電極から溶出したアルミニウムイオン、並びに、リン酸及び硫酸が含まれうる。なお、本発明において、アルミニウムエッチング廃液は、エッチング後のアルミニウム電極の洗浄処理に使用したリンス水をさらに含みうる。
【0018】
アルミニウム、リン酸、及び硫酸を含有する廃液としては、その他の実施形態として、コンデンサ製造工程から排出される廃液が好ましい。アルミニウム電極を使用するコンデンサ製造工程は、アルミニウム電極のエッチング処理及び又は絶縁性酸化被膜形成処理を含みうるため、前記コンデンサ製造工程からであれば、前述したアルミニウム、リン酸、及び硫酸を含有する溶液を廃液として得ることができる。すなわち、本発明の製造方法は、好ましくは、コンデンサ製造工程における廃液の有効利用という優れた効果を奏しうる。したがって、本発明は、さらにその他の態様として、廃液処理として本発明の製造方法を行って難溶化用組成物を製造することを含むコンデンサの製造方法に関する。
【0019】
[カルシウム及び第1のアルカリ溶液]
本発明において、カルシウム及び第1のアルカリ溶液の添加とは、一実施形態として、カルシウムを含有する第1のアルカリ溶液を添加することを含み、その他の実施形態として、カルシウムと第1のアルカリ溶液とを別個に添加することを含む。カルシウムの添加は、カルシウム化合物の添加及び又はカルシウム含有溶液の添加を含みうる。添加するカルシウム化合物としては、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、酸化カルシウム、塩化カルシウム、リン酸カルシウム、硫酸カルシウムなどが挙げられる。また、カルシウム含有溶液及びカルシウムを含有する第1のアルカリ溶液としては、水酸化カルシウム溶液などが挙げられる。
【0020】
[第2のアルカリ溶液]
前記回収物を浸漬する第2のアルカリ溶液は、難溶化用組成物における難溶化能向上の点から、pH8〜14が好ましく、pH9〜14がより好ましく、pH10〜14がさらに好ましい。第2のアルカリ溶液における塩基は特に制限されないが、例えば、水酸化ナトリウム、第1のアルカリ溶液と同様に水酸化カルシウム溶液などを使用できる。
【0021】
[難溶化用組成物の製造方法]
本発明の製造方法では、まず、アルミニウム、リン酸、及び硫酸を含有する溶液、カルシウム及び第1のアルカリ溶液を添加する(以下、この工程を中和工程ともいう)。前述したとおり、この工程における一実施形態として、カルシウムと第1のアルカリ溶液とを一つの溶液として添加してもよく、或いは、この工程におけるその他の実施形態として、カルシウムと第1のアルカリ溶液とは別個に添加してもよい。アルミニウム、リン酸、及び硫酸を含有する溶液を、カルシウム及びアルカリ溶液を添加して中和することにより水酸化アルミニウム、リン酸カルシウム化合物及び硫酸カルシウム化合物を含む組成物の沈殿物が形成されうる。前記沈殿物は、水酸化アルミニウムのようにコロイド状の形態をとりそれのみでは沈降しにくい物質も含む。これらの物質は、後述するとおり、凝集剤等を用いて凝集させることができる。
【0022】
本発明において、リン酸カルシウム化合物は、カルシウムイオンとリン酸基又はピロリン酸基とを化学組成に含む化合物を含む。また、本発明においてリン酸カルシウム化合物はアパタイトであってもよい。また、本発明において、硫酸カルシウム化合物は、硫酸カルシウムの無水和物及び水和物を含む。また、本発明において、硫酸カルシウム化合物は、石膏であってもよい。
【0023】
カルシウムを含有する第1のアルカリ溶液及び又は第1のアルカリ溶液の添加量は、難溶化用組成物の吸着効果の向上の点から、添加後のpHが好ましくは4.5〜10、より好ましくは5〜9、さらに好ましくは6〜8となる量であることが好ましい。
【0024】
[回収工程]
前記中和工程で得られた沈殿物を回収して回収物を得る。前記回収物には、前述したように、水酸化アルミニウム、リン酸カルシウム化合物及び硫酸カルシウム化合物が含まれうる。回収の形態は特に制限されず、スラリー状態として回収してもよく、適宜フィルターを用いて固液分離することで回収してもよい。固液分離して得られた組成物は、適宜乾燥してもよい。
【0025】
回収工程におけるその他の実施形態として、回収工程は、前記カルシウム及び第1のアルカリ溶液の添加後(中和工程後)に高分子凝集剤を添加することを含むことが好ましい。高分子凝集剤の使用により、水酸化アルミニウム、リン酸カルシウム化合物及び硫酸カルシウム化合物を含む組成物の沈殿を凝縮することができる。これにより、好ましくは、回収の操作性が向上する。したがって、前記回収物のその他の実施形態は、前記凝縮物を含む。
【0026】
回収工程におけるさらにその他の実施形態として、回収工程は、前記高分子凝集剤の添加後、凝集物をさらに後段で脱水手段(例えば、フィルタープレス、遠心分離装置等)を用いて固液分離することを含むことが好ましい。加えて、風乾、又は加熱により水分を完全に除去してもよい。さらに、高温で焼成してもよい。これらの操作により、凝縮物中の水分を除去でき、また凝集物の結晶状態を改善することができ、難溶化用組成物の効能に加え、輸送性及び操作性を向上できる。
【0027】
高分子凝集剤としては、例えば、アニオン系高分子凝集剤、カチオン系高分子凝集剤、ノニオン系高分子凝集剤等が挙げられる。アニオン系高分子凝集剤及びノニオン系高分子凝集剤としては、ポリアクリルアミドが主体のものが挙げられる。カチオン系高分子凝集剤としては、ポリアクリル酸エステル系のものが挙げられる。
【0028】
[浸漬工程]
前記回収物を第2のアルカリ溶液に浸漬して難溶化用組成物を得る。浸漬時間としては、難溶化用組成物においてヒドロキシアパタイトの含有量が高くなる時間まで浸漬することが好ましい。難溶化用組成物におけるヒドロキシアパタイトの含有量向上の点から、浸漬時間は、1時間以上が好ましく、6時間以上がより好ましく、0.5日以上がさらに好ましく、1.5日以上がさらより好ましい。浸漬時間の上限は特に制限されず、例えば、10日以下や5日以下が挙げられる。使用する第2のアルカリ溶液は、前述のとおりである浸漬後の難溶化用組成物の回収の形態は特に制限されず、スラリー状態として回収してもよく、適宜フィルターを用いて固液分離することで回収してもよい。固液分離して得られた難溶化用組成物は、適宜乾燥してもよい。
【0029】
[難溶化用組成物]
本発明の難溶化用組成物は、一実施形態において、本発明の製造方法により製造されうる難溶化用組成物である。本発明の難溶化用組成物は、その他の実施形態において、コンデンサ製造工程から排出される廃液における固形成分に由来する難溶化用組成物であって、前記コンデンサ製造工程は、アルミニウム電極のエッチング処理及び又はアルミニウム電極の酸化被膜形成処理を含み、前記固形成分は、アルミニウム、リン酸、及び硫酸を含有する溶液にカルシウム及びアルカリ溶液を添加することにより得られうる固形成分であり、前記固形成分をアルカリ溶液に浸漬させることで製造されうる難溶化用組成物である。
【0030】
本発明の難溶化用組成物は、好ましくは、リン酸カルシウム化合物を含む組成物であり、より好ましくは、リン酸カルシウム化合物を主成分する組成物であり、さらに好ましくは、リン酸カルシウム化合物の合計重量が、組成物全体の重量に対して、50%、60%、70%、80%、90%、95%、又は98%以上である組成物である。
【0031】
本発明の難溶化用組成物は、さらに好ましい形態において、ヒドロキシアパタイトを含む組成物であり、より好ましくは、ヒドロキシアパタイトを主成分する組成物であり、さらに好ましくは、ヒドロキシアパタイトの合計重量が、組成物全体の重量に対して、50%、60%、70%、80%、90%、95%、又は98%以上である組成物である。
【0032】
本発明の難溶化用組成物におけるリン酸カルシウム化合物及び又はヒドロキシアパタイトは、好ましくは、フッ素、ホウ素、ヒ素、クロム、鉛、亜鉛、カドミウム、セレン、水銀、及び銅などのイオンに対してイオン交換能を有し、これらの物質を難溶化させることができる。本発明の難溶化用組成物が難溶化効果を発揮するメカニズムは、上記のように推測されるが、本発明は上記メカニズムに限定されない。
【0033】
[環境浄化方法]
本発明の環境浄化方法は、本発明の製造方法により得られた難溶化用組成物及び又は本発明の難溶化用組成物を、汚染環境に添加することを含む方法である。本発明の難溶化用組成物により汚染環境を浄化できるメカニズムは前述のように推測されるが、本発明はこれに限定されない。本発明の浄化方法によれば、汚染環境中の汚染物質の吸着、難溶化及び又は不溶化が可能となる。
【0034】
浄化対象の環境としては、土壌、地下水、湖水、海水、川水、廃水、排水、及びこれらの組合せが挙げられる。また、浄化対象になる汚染物質としては、フッ素、ホウ素、及び重金属が挙げられ、前記重金属としては、ヒ素、クロム、鉛、亜鉛、カドミウム、セレン、水銀、銅、マンガン、コバルト、ニッケル、モリブデン、タングステン、錫、ビスマス、及びこれらの組合せ、並びにこれらの化合物が挙げられる。汚染浄化の効率の点からは、浄化対象の汚染物質としては、フッ素、ホウ素、ヒ素、クロム、鉛、亜鉛、カドミウム、セレン、水銀、銅、若しくはこれらの組合せ、又はこれらの化合物が好ましい。
【0035】
[不溶化又は難溶化方法]
本発明は、さらにその他の態様において、本発明の製造方法により得られた難溶化用組成物及び又は本発明の難溶化用組成物を、汚染環境に添加することを含む汚染物質の不溶化又は難溶化方法に関する。本発明の不溶化又は難溶化方法によれば、好ましくは、汚染環境中の汚染物質を難溶化及び又は不溶化することができる。汚染環境としては、土壌、地下水、湖水、海水、川水、廃水、排水、及びこれらの組合せが挙げられる。また、汚染物質としては、前述のとおりのものが挙げられる。
【実施例】
【0036】
以下、実施例を用いて本発明をさらに説明する。
【0037】
[難溶化用組成物の製造]
以下のアルミニウム、リン酸、硫酸含有溶液、カルシウムを含有する第1のアルカリ溶液、及び第2のアルカリ溶液を用いて難溶化用組成物を製造した。
【0038】
〔アルミニウム、リン酸、硫酸含有溶液〕
アルミニウムイオン:0.03mM
リン酸イオン:0.63mM
硫酸イオン:6.48mM
pH:2.58
〔カルシウム含有第1アルカリ溶液〕
水酸化カルシウム水溶液(0.1wt%)
〔第2のアルカリ溶液〕
水酸化ナトリウム水溶液(1mM)
【0039】
前記アルミニウム、リン酸、硫酸含有溶液に前記水酸化カルシウム溶液をpHが6.0になるまで滴下して混合した。反応が平衡に達すると、析出した物質が沈殿するが、水酸化アルミニウムはコロイド状であり、非常に分散性が高く、沈降しにくいため、高分子凝集剤を添加して、水酸化アルミニウムも沈殿させた。用いた高分子凝集剤はアクリルアミド・アクリル酸ソーダ共重合品であり、5%ゲルを添加した。高分子凝集剤添加により、析出物が十分に沈降したのを確認した後、沈殿を回収し、フィルタープレスで水分を除去した。
【0040】
上記の方法で得られた回収物を1wt%になるよう第2のアルカリ溶液である1mM水酸化ナトリウム溶液に浸して0.5日、1.7日、2.7日、4.7日後に回収し、蒸留水で3回洗浄することで、難溶化用組成物を得た。
【0041】
[難溶化用組成物の分析]
上記の製造方法により得られた難溶化用組成物について、以下のようにして結晶構造解析及び化学組成分析を行った。
【0042】
〔化学組成分析〕
第2のアルカリ溶液(水酸化ナトリウム溶液)に浸す前の難溶化用組成物(前記回収物)を105℃で乾燥させて水分を十分飛ばした後、600℃で3時間強熱し、熱しゃく減量を測定した。また、前記難溶化用組成物を風乾させた後、めのう乳鉢で磨り潰して、カーボンコーティングした試料を作製した。前記試料を、エネルギー分散型X線分析装置(EDX)を搭載した電界放射型走査電子顕微鏡(FE−SEM)で分析することにより、元素分析を行った。
【0043】
〔結晶構造解析〕
第2のアルカリ溶液への浸漬前の前記回収物、及び、浸漬後0.5日、1.7日、2.7日、4.7日後に得られた難溶化用組成物を風乾させた後、めのう乳鉢で磨り潰した試料を用いて、X線回折分析(XRD)により結晶構造を分析した。測定には、CuKα線(λ=1.458Å、加速電圧30Kv、40mA)を用い、走査角度2から60°/2θ、走査速度2°/分、発散スリット10mmで行った。得られたX線チャートは、JCPDSデータベースを参照して同定を行った。
【0044】
第2のアルカリ溶液への浸漬前の前記回収物をEDXにより元素分析した結果を下記表1に示す。主要な含有元素はAl、Ca、P、Sであり、その他微量成分としてMg、Siが検出された。これらの元素は製造過程において混入したものであり、難溶化用組成物の性能には何ら影響はないと考えられる。
【0045】
【表1】

【0046】
第2のアルカリ溶液への浸漬前の前記回収物、及び、浸漬後0.5日、1.7日、2.7日、4.7日後に得られた難溶化用組成物をXRDにより結晶構造解析した結果を図1に示す。図1に示すとおり、第2のアルカリ溶液への浸漬前の前記回収物の主成分は石膏(CaSO4・2H2O)であった。水酸化ナトリウム溶液に浸して0.5日のX線チャートは、エトリンガイトが見られた。また、水酸化ナトリウム溶液に浸して1.7日のX線チャートは、エトリンガイト、ヒドロキシアパタイトが見られた。また、水酸化ナトリウム溶液に浸して2.7、4.7日のX線チャートは、ヒドロキシアパタイト、カルサイトが見られた。
【0047】
[難溶化用組成物の難溶化能の確認]
前述のように第2のアルカリ溶液である水酸化ナトリウム溶液に浸す工程を抜いた難溶化用組成物、第2のアルカリ溶液である水酸化ナトリウム溶液に浸して2.7日の難溶化用組成物について、難溶化能の確認を行った。具体的には、下記条件で汚染物質(フッ素:F)の溶液に前記難溶化用組成物を添加して難溶化を行い、下記の方法で難溶化を評価した。
【0048】
〔実験条件〕
対象汚染物質:F(NaF)
汚染濃度:1mM(水中)
浄化用組成物添加量:0.1wt%
pH:6〜10
バックグラウンド溶液:1mM NaCl
反応時間:24時間
反応条件:25℃、水平振とう
〔評価測定方法〕
反応終了後、遠心分離(3000rpm、10分)により、固液分離を行い、液相のF濃度をイオンクロマト法により計測した。
【0049】
<Fの難溶化能>
pH6から10の間に調整したF溶液に0.1wt%の前記難溶化用組成物を添加し、Fの難溶化能を評価した。この結果を図2に示す。第2のアルカリ溶液である水酸化ナトリウムに2.7日間浸した難溶化用組成物のほうが、Fイオンの難溶化能が高かった。これは、XRDの結果からも分かるように、難溶化用組成物に含まれるヒドロキシアパタイトの画分が、第2のアルカリ溶液である水酸化ナトリウム溶液に浸すことにより増加したためであると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、例えば、環境保全及び環境浄化の分野で有用である。また、本発明は、好ましくは、工場廃液の有効利用の分野で有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム、リン酸、及び硫酸を含有する溶液に、カルシウム及び第1のアルカリ溶液を添加すること、
カルシウム及び第1のアルカリ溶液の添加により生じた沈殿物を回収して回収物を得ること、並びに、
前記回収物を第2のアルカリ溶液に浸漬することを含む、難溶化用組成物の製造方法。
【請求項2】
前記難溶化は、フッ素、ホウ素、ヒ素、クロム、鉛、亜鉛、カドミウム、セレン、水銀、銅、及びこれらの化合物からなる群から選択される少なくも1つの物質の難溶化を含む、請求項1記載の難溶化用組成物の製造方法。
【請求項3】
前記アルミニウム、リン酸、及び硫酸を含有する溶液のアルミニウムイオン濃度は0.1〜100mmol/Lであり、リン酸イオン濃度は0.1〜100mmol/Lであり、かつ、硫酸イオン濃度は0.1〜100mmol/Lである、請求項1又は2記載の難溶化用組成物の製造方法。
【請求項4】
前記第2のアルカリ溶液のpHは8以上である、請求項1から3のいずれかに記載の難溶化用組成物の製造方法。
【請求項5】
前記アルミニウム、リン酸、及び硫酸を含有する溶液は、リン酸及び若しくは硫酸を用いてアルミニウム電極をエッチング処理並びに又は酸化被膜形成処理した後の廃液を含む、請求項1から4のいずれかに記載の難溶化用組成物の製造方法。
【請求項6】
前記アルミニウム、リン酸、及び硫酸を含有する溶液は、コンデンサ製造工程から排出されうる廃液を含む、請求項1から5のいずれかに記載の難溶化用組成物の製造方法。
【請求項7】
前記カルシウム及び第1のアルカリ溶液は、添加後にpH5〜9となる範囲で添加される、請求項1から7のいずれかに記載の難溶化用組成物の製造方法。
【請求項8】
前記沈殿物の回収が、
前記カルシウム及び第1アルカリ溶液の添加後に高分子凝集剤を添加して前記沈殿物を凝集させること、及び、
前記凝集物を脱水することを含む、請求項1から7のいずれかに記載の難溶化用組成物の製造方法。
【請求項9】
請求項1から8のいずれかに記載の製造方法により製造され得る難溶化用組成物。
【請求項10】
リン酸カルシウム化合物を含む、請求項9記載の難溶化用組成物。
【請求項11】
コンデンサ製造工程から排出される廃液における固形成分に由来する難溶化用組成物であって、
前記コンデンサ製造工程は、アルミニウム電極のエッチング処理及び又はアルミニウム電極の酸化被膜形成処理を含み、
前記固形成分は、アルミニウム、リン酸、及び硫酸を含有する溶液に、カルシウム及びアルカリ溶液を添加することにより得られうる固形成分であり、
前記固形成分をアルカリ溶液に浸漬させることで製造されうる、難溶化用組成物。
【請求項12】
前記難溶化用組成物は、リン酸カルシウム化合物を含む、請求項11記載の難溶化用組成物。
【請求項13】
請求項1から8のいずれかに記載の製造方法により製造された難溶化用組成物又は請求項9から12のいずれかに記載の難溶化用組成物を、汚染された土壌、地下水、廃水、及びこれらの組合せに添加することを含む、環境浄化方法。
【請求項14】
前記汚染が、フッ素、ホウ素、ヒ素、クロム、鉛、亜鉛、カドミウム、セレン、水銀、銅、及びこれらの化合物からなる群から選択される少なくも1つの物質による汚染である、請求項13記載の環境浄化方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−254903(P2010−254903A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−109395(P2009−109395)
【出願日】平成21年4月28日(2009.4.28)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】