説明

難燃化熱可塑性組成物

本発明は、難燃剤として有機リン化合物を含む難燃化熱可塑性組成物に関するものである。当該組成物は、腐食又は付着による金属部品表面の外観の悪化を生じさせない熱可塑性部分を作製することを可能にする。また、本発明は、難燃化熱可塑性部品と金属部品とを備える物品に関するものでもある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃剤として有機リン化合物を含む難燃化熱可塑性組成物に関するものである。これらの組成物は、腐食又は付着による金属部品の外観の悪化を生じさせない熱可塑性部品を製造することを可能にする。また、本発明は、難燃化熱可塑性部品と金属部品とを備える物品に関するものでもある。
【背景技術】
【0002】
従来技術
熱可塑性樹脂を主成分とする組成物は、様々な成形方法により物品を製造するために使用されている。これらの物品は、高い機械的性質だけでなく、耐化学性、電気絶縁性、またこれら部材に引火したときには良好な難燃性などの特性も有しなければならない。重要な側面の一つは、これらの部材が発火してはならないことである。すなわち、炎を生じてはならないこと、或いは引火はするが最大限に高い温度で引火することである。
【0003】
熱可塑性マトリックスを主成分とする組成物の難燃性が非常に長期にわたり研究されてきた。一例として、使用される主な難燃剤は、赤リン、ハロゲン化化合物、例えば、ポリブロムジフェニル、ポリブロムジフェニルエーテル、臭素化ポリスチレン、メラミン又はその誘導体、例えばシアヌル酸メラミン及び近年ではリン酸メラミンといったトリアジン類に属する窒素含有化合物、ポリホスフェート及びピロホスフェート又は有機亜リン酸及びそれらの塩である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第6255371号明細書
【特許文献2】欧州特許第0699708号明細書
【特許文献3】国際公開第98/39306号パンフレット
【特許文献4】米国特許第6255371号明細書
【特許文献5】国際公開第98/45364号パンフレット
【特許文献6】国際公開第98/08898号パンフレット
【特許文献7】仏国特許第2743077号明細書
【特許文献8】仏国特許第2779730号明細書
【特許文献9】米国特許第5959069号明細書
【特許文献10】欧州特許第0632703号明細書
【特許文献11】欧州特許第0682057号明細書
【特許文献12】欧州特許第0832149号明細書
【特許文献13】国際公開第99/03909号パンフレット
【特許文献14】国際公開第00/68298号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本願出願人は、難燃化熱可塑性部品と接触した状態にある又はその周辺にある金属部品の外観の悪化に至る特定の腐食機構の存在を明らかにした。つまり、熱可塑性部品に含まれる難燃剤のほとんどが、特に温度、水及び/又は酸素などの外部要因の影響を受けて、金属部品の表面の腐食をもたらすことが分かった。さらに、これらの難燃剤又はそれらの誘導体は、熱可塑性マトリックスにおける移動現象及び/又は抽出現象により、金属部品の表面上に付着する。
【0006】
金属部品上のこれらの腐食及び付着の痕跡により、最終的にはそれらの耐用年数が減少し、また、それらの固有の特性のいくつか、例えばそれらの導電性が変化する。
【0007】
この問題から、難燃化された熱可塑性難燃組成物に完全に適しており、しかも接触する又は周辺にある金属部品の表面を悪化させる可能性もない難燃剤を見出す要望、また、特に水及び/又は酸素を含む様々な温度の環境中であっても良好な外観を有する、プラスチック部品及び金属部品を備える物品を見出す要望が存在する。
【0008】
熱可塑性組成物の転化及びその溶融状態への変化の間に赤リンやハロゲン化誘導体といった難燃剤により引き起こされる腐食現象は、当業者に知られていることであることを明示しておく必要がある。これは、難燃化熱可塑性組成物の製造に必要な温度又は当該組成物を含む物品を成形するのに必要な温度の変化が、多くの場合その分解温度に近い温度で難燃剤に熱応力を加えるためである。その結果、時として長期間の熱応力にさらされる難燃剤は、溶融媒体中で、押出器のスクリュー及びバレル、射出成形用プレスのスクリュー及びバレル並びにチャンネル又はホットブロック及び型といった金属部品の腐食に関与する、当該部品と接触する腐食性種を生成して分解する可能性がある。
【0009】
さらに、ハロゲン化型の難燃剤及び赤リンの大部分は、熱可塑性組成物中において補強充填剤と結合して物品に所定の剛性が生じる。そして、これを行うために、好ましくは、ガラス繊維などの硬度の高い針状充填剤だけでなく、ウォラストナイトなどの縦横比が大きくかつ硬度が高い無機充填剤も使用される。また、無機充填剤は、溶融媒体中において、押出器及び射出成形用プレスの金属部品の機械的摩耗及び摩擦という現象を生じさせるものとしても知られている。したがって、このタイプの組成物にとって、その溶融流れの運搬中に補強充填剤によって機械的に生じる摩擦現象を、難燃剤の分解近くの温度で生じる化学的腐食現象から切り離すことは困難である。これは、実際には、これら2つの作用機構が溶融媒体中において腐食現象を生じさせる複合現象である。というのは、充填剤が関わる機械摩耗によって金属部品内部に欠陥が生じ、その後、この金属部品は、所定の化学的プロセスによって容易に腐食され得るからである。
【0010】
本発明に従う出願人により明らかにされた腐食機構は異なる。というのは、この腐食機構は、難燃剤の分解及び腐食性種の生成を引き起こす可能性のある熱応力が存在しない状態で、かつ、金属部品内に表面欠陥を創り出す可能性のある流れ輸送現象、すなわち機械摩耗現象が存在しない状態で生じるからである。実際に、本発明において、熱可塑性部品及び金属部品は、固体の状態であり、かつ、接触した状態又は近くにある。したがって、その腐食現象の性質及び作用方法は、溶融媒体中では起こり得ない腐食性種の抽出現象及び/又は移動現象を伴わなければならないことからして、本質的に相違する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明
本出願人は、思いがけず、熱可塑性マトリックスに難燃性有機リン化合物を使用すると、熱可塑性部品と接触した状態で設置された又は当該部品付近に設置された金属部品の表面の悪化に至らない又はその悪化を制限する熱可塑性部品を製造することが可能になることを見出した。
【0012】
さらに、これらの熱可塑性組成物は、非常に満足のいくレベルの難燃性と良好な機械的性質とを示す。
【0013】
したがって、本発明の主題の一つは、熱可塑性部品と接触した状態で設置された又は該部品付近に設置された金属部品の外観の悪化を防ぐ、少なくする又は低減することのできる熱可塑性部品を製造するための熱可塑性マトリックスにおける有機リン化合物の使用である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
該金属部品と該熱可塑性部品との間隔は、概して1cm以下、好ましくは0.5cm以下、より好ましくはさらに0.1cm以下である。
【0015】
金属部品は、金属又は各種金属の合金であって、金属めっきが全体的に又は部分的に覆われていてよいものから構成できる。この金属部品は、例えば、銅、亜鉛、ニッケル及び銀よりなる群から選択される1種以上の金属を含むことができる。例としては、銀、銀とニッケルとの混合物又は銀と錫との混合物のめっきで部分的に覆われていてよい銅と亜鉛の合金が挙げられる。
【0016】
本発明によれば、有機リン化合物の全て、特に熱可塑性マトリックス用の難燃剤として従来から使用されているものを用いることができる。表現「有機リン化合物」とは、少なくとも1個のリン/炭素共有結合、及び/又はリン/酸素二重結合に関わるリン/酸素共有結合を有する化合物を意味するものとする。
【0017】
25℃の温度で固体状態である有機リン化合物が特に好ましい。
【0018】
有機リン化合物としては、次のものが特に好ましい:ホスフィン酸又はそれらの塩、例えば2−カルボキシエチル(フェニル)ホスフィン酸、ホスホン酸又はそれらの塩、亜リン酸エステル、例えば亜リン酸トリフェニル又は亜リン酸トリメチル、有機リン酸エステル、例えばレソルシノールビス(ジフェニルホスフェート)及びビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)、ホスホン酸エステル、例えばホスホン酸ジメチル、ポリホスフェート、例えばメラミンポリホスフェート又はアンモニウムポリホスフェート、並びにホスフィンオキシド、例えばトリフェニルホスフィンオキシド、トリ(3−ヒドロキシプロピル)ホスフィンオキシド及びビス(p−ヒドロキシフェニル)アルキルホスフィンオキシド。
【0019】
有機リン化合物として特に好ましいものは、次式(I)のホスフィン酸塩:
【化1】

(式中:
・R1及びR2は同一のもの又は異なるものであり、そして1〜6個の炭素原子、好ましくは1〜3個の炭素原子を有する線状又は分岐のアルキル鎖及び/又はアリール基を表し;
・Mは、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、アルミニウムイオン及び/又は亜鉛イオン、好ましくはマグネシウムイオン及び/又はアルミニウムイオンを表し;及び
・Zは2又は3、好ましくは3を表す。)
である。
【0020】
1及びR2は、同一のもの又は異なるものであってよく、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、t−ブチル、n−ペンチル及び/又はフェニルなどのアリールを表す。Mは、好ましくはアルミニウムイオンである。
【0021】
有機リン化合物として特に好ましいものは、例えば、ジメチルホスフィン酸、エチルメチルホスフィン酸、ジエチルホスフィン酸、メチル−n−プロピルホスフィン酸、及び/又はそれらの混合物よりなる群から選択されるホスフィン酸又はそれらの塩である。
【0022】
特に、各種ホスフィン酸を組み合わせて使用することができる。
【0023】
これらの化合物は、例えば米国特許第6255371号に記載されている。これらのホスフィン酸塩は、当業者に周知の一般的な方法、例えば欧州特許第0699708号に記載されたような方法に従って製造できる。これらのホスフィン酸塩は、重合体の性質と所望の特性とに応じて様々な形態で使用できる。例えば、重合体への良好な分散を得るために、ホスフィン酸塩は、微粒子の形態にあることができる。
【0024】
本発明に従う熱可塑性部品は、1〜30重量%、好ましくは5〜25重量%の有機リン化合物を含むことができる。
【0025】
特に、有機リン化合物、特にホスフィン酸又はその塩と共に、リン酸とメラミンとの反応生成物及び/又はリン酸とメラミン縮合誘導体との反応生成物である化合物を使用することができる。この化合物は、例えば、次の反応生成物:メラミンポリホスフェート、メラムポリホスフェート及びメレムポリホスフェート、及び/又はそれらの混合物よりなる群から選択できる。2を超える長さ、特に10を超える長さを持つ鎖を有するメラミンホスフェートを使用することが特に好ましい。これらの化合物は、特にWO98/39306号及び米国特許第6255371号に記載されている。また、これらの化合物は、リン酸との直接反応に基づく方法以外の方法でも得られる。例えば、メラミンポリホスフェートは、メラミンとポリリン酸との反応により製造できる(WO98/45364号参照)だけでなく、メラミンホスフェートとメラミンピロホスフェートとの縮合により製造することもできる(WO98/08898号参照)。
【0026】
本発明に従う熱可塑性マトリックスとしては、特に、オレフィン樹脂、例えばポリエチレン、ポリプロピレン及びポリブチレン、ポリイソブチレン、スチレン樹脂、例えばポリスチレン及びアクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体、ポリアミド、ポリアセタール、ポリエステル、例えばポリエチレンテレフタレート及びポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリエステルカーボネート、ポリスルホン樹脂、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、ビニル重合体及びその共重合体、例えばポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、それらの誘導体及び/又はそれらのブレンドを使用することができる。
【0027】
本発明に従うポリアミドとしては、半晶質又は非晶質ポリアミド及び半晶質又は非晶質コポリアミド、例えば脂肪族ポリアミド、半芳香族ポリアミド、より一般的には、脂肪族又は芳香族飽和二酸と芳香族又は脂肪族飽和第一アミンとの重縮合により得られた直鎖ポリアミド、ラクタムの縮合、アミノ酸の縮合又はこれら様々な単量体の混合物の縮合によって得られた直鎖ポリアミドの縮合によって得られたポリアミドが挙げられる。さらに特定すると、これらのコポリアミドは、例えば、ポリヘキサメチレンアジパミド、テレフタル酸及び/又はイソフタル酸から得られたポリフタルアミド、アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとカプロラクタムとから得られたコポリアミドであることができる。
【0028】
本発明の好ましい一実施形態によれば、該熱可塑性マトリックスは、ポリアミドPA−6、ポリアミドPA−6,6、ポリアミドPA−11、ポリアミドPA−12、ポリメタキシリレンジアミン(MXD6)、並びにこれらのポリアミドを主成分とするブレンド及び共重合体よりなる群から選択されるポリアミドである。
【0029】
ポリアミドは、好ましくは、直鎖状のカルボン二酸(diacide carboxylique)と直鎖状若しくは環状ジアミンとの重縮合によって得られるポリアミド、例えば、PA−6,6、PA−6,10、PA−6,12、PA−12,12、PA−4,6、MXD−6、又は芳香族カルボン二酸と直鎖状又は芳香族ジアミンとの重縮合によって得られるポリアミド、例えば、ポリテレフタルアミド、ポリイソフタルアミド、ポリアラミド、アミノ酸自体の重縮合によって得られるポリアミド(該アミノ酸は、ラクタム環の加水分解による開環により生成され得る)、例えば、PA−6、PA−7、PA−11若しくはPA−12よりなる群から選択される。
【0030】
また、本発明の組成物は、特に上記ポリアミドから誘導されるコポリアミド又はこれらのポリアミド若しくはコポリアミドのブレンドを含むこともできる。
【0031】
好ましいポリアミドは、ポリヘキサメチレンアジパミド、ポリカプロラクタム又はポリヘキサメチレンアジパミドとポリカプロラクタムとの共重合体及びブレンドである。
【0032】
通常、射出成形方法に好適な分子量を有するポリアミドが使用されるが、それよりも粘度の低いポリアミドも使用できる。
【0033】
ポリアミドマトリックスは、特に、1種以上の星形又はH形マクロ分子鎖、適切な場合には1種以上の線状マクロ分子鎖を有する重合体であることができる。このような星形又はH形マクロ分子鎖を有する重合体は、例えば、仏国特許第2743077号、仏国特許第2779730号、米国特許第5959069号、欧州特許第0632703号、欧州特許第0682057号及び欧州特許第0832149号に記載されている。
【0034】
本発明の別の特定の変形例によれば、本発明のポリアミドマトリックスは、ランダム樹木状の重合体、好ましくはランダム樹木状構造を有するコポリアミドであることができる。ランダム樹木状構造のこれらのコポリアミド、またそれらの製造方法は、特にWO99/03909号パンフレットに記載されている。また、本発明のマトリックスは、直鎖状熱可塑性重合体と、上記の星形、H形及び/又は樹木状熱可塑性重合体を含む組成物であることもできる。また、本発明のマトリックスは、WO00/68298号パンフレットに記載されたタイプの超分岐コポリアミドを含むこともできる。さらに、本発明の組成物は、上記のような直鎖状、星形、H形、樹木状の熱可塑性重合体又は超分岐コポリアミドの任意の組合せを含むこともできる。
【0035】
本発明に従う組成物は、該組成物の総重量に対して、好ましくは40〜80重量%のポリアミドを有する。
【0036】
また、本発明の組成物は、熱可塑性マトリックスを主成分とする組成物に一般的に使用される他の化合物や添加剤、例えば、補強充填剤又は増量剤、熱安定剤、核形成剤、可塑剤、難燃剤、防煙剤、ホウ酸亜鉛、酸化防止剤、UV安定剤、染料、光学的光沢剤、潤滑剤、ブロッキング防止剤、酸化チタンなどの艶消剤、加工助剤、エラストマー、接着剤、分散剤、顔料、衝撃改質剤、脱活性酸素剤又は活性酸素吸収剤、レーザーマーキング用の試剤及び/又は触媒を含むこともできる。
【0037】
本発明の組成物は、特に、ガラス繊維、アラミド繊維及び炭素繊維などの繊維充填剤;及び/又はアルミノ珪酸塩クレー、カオリン、ウォラストナイト、タルク、炭酸カルシウム、フルオロマイカ、リン酸カルシウムとそれらの誘導体及びガラスフリットなどの無機充填剤よりなる群から選択される補強充填剤又は増量剤を含むことができる。補強充填剤の重量濃度は、該組成物の総重量に対して、有利には1重量%〜50重量%、好ましくは15重量%〜50重量%である。
【0038】
衝撃改質剤の種類に制限はない。これらのものは、一般に、この目的で使用できるエラストマーの重合体である。弾性改質剤は、一般的に、およそ500MPa未満のASTM D−638引張係数を有するものであると定義されている。好適なエラストマーの例は、エチレン/アクリル酸エステル/無水マレイン酸、エチレン/プロピレン/無水マレイン酸及び無水マレイン酸がグラフトしていてよいEPDM(エチレン・プロピレン・ジエン単量体)である。エラストマーの重量濃度は、該組成物の総重量に対して、有利には0.1〜30%である。
【0039】
本発明の材料及び組成物は、概して、様々な成分を、例えば一軸又は二軸押出器内でポリアミド樹脂を溶融状態に維持するのに十分な温度でホットブレンドすることによって得られる;或いは、特に機械ミキサーでコールドブレンドすることによって得られる。一般に、得られたブレンドは、棒の状態に押し出され、これを断片に切断して顆粒を形成させる。有機リン化合物は、プラスチック材料の製造過程の任意の時点で、特に熱可塑性マトリックスとのホットブレンド又はコールドブレンドにより添加できる。
【0040】
これらの化合物及び添加剤の添加は、これらの化合物を溶融熱可塑性マトリックスに純粋な形態で又は例えば熱可塑性マトリックスなどのマトリックスでの濃縮ブレンドの形態で添加することにより実施できる。
【0041】
次いで、得られた顆粒は、射出成形、押出又は押出吹込成形プロセスなどの物品の製造プロセスに供給するための原料として使用される。
【0042】
本発明は、少なくとも金属部品と熱可塑性部品とをそれらが接触した状態又は近辺にある状態で備える物品であって、該熱可塑性部品が難燃剤として有機リン化合物を含むものに関するものでもある。
【0043】
また、本発明は、有機リン化合物を熱可塑性マトリックスに混合させる少なくとも一つの工程を含む、前記物品の製造方法に関するものでもある。先に説明したように、有機リン化合物は、プラスチック材料の製造過程の任意の時点で、特に熱可塑性マトリックスとのホットブレンド又はコールドブレンドにより添加できる。
【0044】
これらの物品は、本発明の組成物を、プラスチック加工技術又はプラスチック成形技術、例えば、押出、例えば圧縮成形、熱成形又は回転成形などの成形;例えば射出成形又は射出吹込成形などの射出により成形することによって得ることができる。
【0045】
表現「熱可塑性部品」とは、少なくとも1種の熱可塑性マトリックスと有機リン化合物とを含む本発明の組成物を成形することによって得られる一体型部品を意味するものとする。
【0046】
本発明は、特に、少なくとも1個の熱可塑性部品と少なくとも1個の金属部品とを備える電気部品又は電子部品、例えば電源コンセント、電路遮断器、特に家庭用電気器具用のプログラマ、盗難防止警報器、電気スイッチ、電気アダプタ、ケーブル、バッテリー及びバッテリーテスター、電話機及びコイルに関するものである。
【0047】
本発明の原理の理解を容易にするために特定の用語を用いている。しかしながら、この特定の用語の使用により本発明の範囲の限定を想定すべきではない。当該技術分野において通常の知識を有するものであれば、当該当業者の知識に基づいて改変、改良及び発展を想起することができる。
【0048】
用語「及び/又は」は、及び、又はという意味だけではなく、この用語に関連する要素の考えられる他の組合せも全て包含する。
【0049】
本発明の他の内容及び利点は、以下において専ら例示の目的で与える実施例を考慮すればさらに明らかになるであろう。
【実施例】
【0050】
実験の部
例1:ポリアミド顆粒の製造
270℃の温度で200rpmのスクリュー速度及び35kg/時の出力を有するWerner&Pfleiderer ZSK40二軸押出器において、複数の成分を以下の表1に示した割合で混合させることにより組成物を製造した。この押出器のスロートからこの混合物にガラス繊維を添加した。この混合物を棒の状態に押出し、そしてこれらを切断して顆粒を得た。
製造された組成物は次のとおりである:
A:この組成物は、
・140mL/gの粘度数(ISO307基準法に従い、蟻酸中で測定)及び17600g/molのMn(GPCで測定)を有するポリアミド6,6(PA−6,6)と、
・30重量%のVetrotex社製983ガラス繊維と
を含む。
B:この組成物は、
・組成物Aと同じPA−6,6と、
・7重量%の赤リン(10%のマスターバッチの導入による:Masteret 24470 − マスターバッチ70/30Italmatch社)と、
・25重量%のVetrotex社製983ガラス繊維と
を含む。
C:この組成物は、
・組成物Aと同じPA−6,6と、
・21重量%の臭素化ポリスチレン:PDBS 80(Chemtura)と、
・30重量%のVetrotex社製983ガラス繊維と、
・6重量%のホウ酸亜鉛と
を含む。
D:この組成物は、
・組成物Aと同じPA−6,6と、
・11.6重量%のアルミニウムジエチルホスフィネート(Clariant)と、
・5.8重量%のM200メラミンポリホスフェート(Ciba)と、
・30重量%のVetrotex社製983ガラス繊維と
を含む。
【0051】
例2:金属部品の表面の悪化に対する抵抗性の試験
10gの顆粒状重合体を、6cm2の表面積を有する金属部品1gと、蒸留水2mLとを有するガラスフラスコに導入した。このフラスコに栓をし、そしてこれを80〜90℃のオーブン内に7日間放置した。例C1においては、顆粒を金属物品の存在下には置かなかった。
次いで、金属物品を回収し、腐食や付着の痕跡が存在するかどうかを観察した。腐食の性質を、Philips XL30走査電子顕微鏡を定量X線微量分析とともに使用した観察(SEM/EDAX)により評価した。
それらの結果を以下の表にまとめる。
【0052】
【表1】

【0053】
このように、金属部品の腐食の有意な減少だけでなく、その表面での付着物の有意な減少が、最も悪い赤燐難燃剤系から最良の本願発明の有機リン化合物まで観察される;性能について、難燃性に関しては、本願発明の有機リン化合物は、同等又はさらに良好である(1mmでGWFT960℃及び0.8mmでUL−V0)。
【0054】
これらの試験後の金属部品表面の定量的評価から、有機リン系の化学的性質は、腐食性種の生成及び/又は付着の発生に対して、従来の臭素化型又は赤リン型の難燃剤系よりも有意に低い影響しか及ぼさず、その結果、これらの金属部品の耐用年数に対して有意に低い影響しか及ぼさないことは明らかである。
【0055】
さらに、本発明の組成物Dが0.8mmの厚さを有する成形試験片によるUL94試験においてVOと分類されるのに対し、組成物Aは、UL94試験に従いNC(分類不能)に分類されることに留意すべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性部品と接触した状態で設置された又は該部品付近に設置された金属部品の外観の悪化を防ぐ、少なくする又は低減することのできる熱可塑性部品を製造するための熱可塑性マトリックスへの有機リン化合物の使用。
【請求項2】
前記有機リン化合物が25℃の温度で固体状態であることを特徴とする、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記有機リン化合物が、2−カルボキシエチル(フェニル)ホスフィン酸、ホスホン酸又はそれらの塩などのホスフィン酸又はそれらの塩、亜リン酸トリフェニル又は亜リン酸トリメチルなどの亜リン酸エステル、レソルシノールビス(ジフェニルホスフェート)及びビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)などの有機リン酸エステル、ホスホン酸ジメチルなどのホスホン酸エステル、メラミンポリホスフェート又はアンモニウムポリホスフェートなどのポリホスフェート、並びにトリフェニルホスフィンオキシド、トリ(3−ヒドロキシプロピル)ホスフィンオキシド及びビス(p−ヒドロキシフェニル)アルキルホスフィンオキシドなどのホスフィンオキシドよりなる群から選択されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の使用。
【請求項4】
前記有機リン化合物が次式(I):
【化1】

(式中:
・R1及びR2は同一のもの又は異なるものであり、そして1〜6個の炭素原子、好ましくは1〜3個の炭素原子を有する線状又は分岐のアルキル鎖及び/又はアリール基を表し;
・Mは、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、アルミニウムイオン及び/又は亜鉛イオン、好ましくはマグネシウムイオン及び/又はアルミニウムイオンを表し;及び
・Zは2又は3、好ましくは3を表す。)
のホスフィン酸塩であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の使用。
【請求項5】
前記有機リン化合物がジメチルホスフィン酸、エチルメチルホスフィン酸、ジエチルホスフィン酸、メチル−n−プロピルホスフィン酸、及び/又はそれらの混合物よりなる群から選択されるホスフィン酸又はその塩であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の使用。
【請求項6】
前記熱可塑性部品が1〜30重量%の有機リン化合物を含むことを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の使用。
【請求項7】
前記熱可塑性部品がリン酸とメラミンとの反応生成物及び/又はリン酸とメラミン縮合誘導体との反応生成物である化合物も含むことを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の使用。
【請求項8】
前記熱可塑性部品が、ポリエチレン、ポリプロピレン及びポリブチレン、ポリイソブチレンなどのオレフィン樹脂、ポリスチレン及びアクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体などのスチレン樹脂、ポリアミド、ポリアセタール、ポリエチレンテレフタレート及びポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル、ポリカーボネート、ポリエステルカーボネート、ポリスルホン樹脂、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニルなどのビニル重合体及びその共重合体、それらの誘導体及び/又はそれらの混合物よりなる群から選択される熱可塑性マトリックスを含むことを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載の使用。
【請求項9】
前記熱可塑性部品が、ポリアミドPA−6、ポリアミドPA−6,6、ポリアミドPA−11、ポリアミドPA−12、ポリメタキシリレンジアミン(MXD6)、並びにこれらのポリアミドを主成分とするブレンド及び共重合体よりなる群から選択されるポリアミドマトリックスを含むことを特徴とする、請求項1〜8のいずれかに記載の使用。
【請求項10】
少なくとも金属部品と熱可塑性部品とをそれらが接触した状態又は近辺にある状態で備える物品であって、該熱可塑性部品が難燃剤として有機リン化合物を含む物品。
【請求項11】
有機リン化合物を熱可塑性マトリックスに混合させる少なくとも一つの工程を含む、請求項10に記載の物品の製造方法。
【請求項12】
電源コンセント、電路遮断器、特に家庭用電気器具用のプログラマ、盗難防止警報器、電気スイッチ、電気アダプタ、ケーブル、バッテリー及びバッテリーテスター、電話機及びコイルよりなる群から選択される、請求項10に記載の物品。

【公表番号】特表2010−539248(P2010−539248A)
【公表日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−512666(P2010−512666)
【出願日】平成20年6月17日(2008.6.17)
【国際出願番号】PCT/EP2008/057588
【国際公開番号】WO2008/155319
【国際公開日】平成20年12月24日(2008.12.24)
【出願人】(508076598)ロディア オペレーションズ (98)
【氏名又は名称原語表記】RHODIA OPERATIONS
【住所又は居所原語表記】40 rue de la Haie Coq F−93306 Aubervilliers FRANCE
【Fターム(参考)】