説明

難燃性を有するシート

【課題】押出安定性に優れた芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を押出成形して得られる高度な難燃性を有するシートを提供する。
【解決手段】芳香族ポリカーボネート樹脂(A成分)100重量部に対して、有機アルカリ(土類)金属塩(B成分)0.01〜2重量部、含フッ素滴下防止剤(C成分)0.01〜1重量部、珪酸塩化合物(D成分)2〜20重量部、およびリン系安定剤(E成分)0.001〜1重量部を含む芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を押出成形して得られる厚み0.3〜3.0mmの難燃性を有するシート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリカーボネート樹脂組成物から形成された難燃性を有するシートに関する。更に詳しくは、熱安定性、外観に優れた難燃性ポリカーボネート樹脂組成物を押出成形することにより得られたシートであって、UL規格(米国アンダーライターズラボラトリー規格)−94においてV−0に適合するシートに関する。
【背景技術】
【0002】
芳香族ポリカーボネート樹脂は透明性を有し、かつ優れた難燃性、耐熱性および強度を有することから、広い分野で使用されている。しかしながら、近年の電子・電気機器部品、OA関連部品などの薄肉化に対しては、芳香族ポリカーボネート樹脂の難燃性も十分とはいえない場合がある。更に最近ではUL規格(米国アンダーライターズラボラトリー規格)−94においてV−0に適合するような高度な難燃性が要求される例が多く、厚みも製品の薄肉軽量化が進みより薄い厚みでの高い難燃性が求められるようになってきている。
【0003】
一般的に燃焼時のドリップ抑制には、ポリテトラフルオロエチレンの添加が知られている。しかしながら薄い厚みのシートを溶融押出し成形する場合には、ポリテトラフルオロエチレンを多量に添加すると、ダイスから出てくる樹脂の流れが不均一となりシート厚みが安定しない問題やネッキングの影響によりシートが蛇行するといった問題がある。更にシートの性能に関しても、難燃性UL94規格でV−0を満足する性能を安定して発揮することが非常に困難であったため、有機アルカリ金属(土類)塩を添加することで、UL94規格のVTM−0に対応していた(特許文献1)。
【0004】
また、ポリカーボネート樹脂、シロキサン構造を有する二価のフェノール等から誘導される熱可塑性ポリカーボネート樹脂に、有機アルカリ金属塩とポリオルガノシロキサンを配合した組成物(特許文献2)やポリカーボネート樹脂にアルカリ金属塩、アルコキシシラン化合物およびフッ素ポリマーを配合した組成物(特許文献3)が知られているが、高い難燃性を満足するものではない。
また、ポリカーボネート樹脂に有機酸および/または有機酸誘導体と有機アルカリ金属塩、フロオロポリマー、珪酸塩化合物を配合したもの(特許文献4)が知られているが、熱安定性、耐加水分解性が低下する問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−348454号公報
【特許文献2】特開2005−154663号公報
【特許文献3】特開2002−294063号公報
【特許文献4】特開2007−153983号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、押出安定性に優れた芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を押出成形して得られる高度な難燃性を有するシートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成せんとして鋭意研究を重ねた結果、ポリカーボネート樹脂と有機アルカリ(土類)金属塩、含フッ素滴下防止剤、珪酸塩化合物およびリン系安定剤とを組み合わせることで、UL規格94V−0に適合する高い難燃性を有しつつ、シートの押出安定性にも優れる芳香族ポリカーボネート樹脂組成物からなるシートが得られることを見出し、本発明に到達した。
【0008】
すなわち、本発明によれば、(1)芳香族ポリカーボネート樹脂(A成分)100重量部に対して、有機アルカリ(土類)金属塩(B成分)0.01〜2重量部、含フッ素滴下防止剤(C成分)0.01〜1重量部、珪酸塩化合物(D成分)2〜20重量部、およびリン系安定剤(E成分)0.001〜1重量部を含む芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を押出成形して得られる厚み0.3〜3.0mmの難燃性を有するシートが提供される。
本発明のより好適な態様の一つは、(2)有機アルカリ(土類)金属塩(B成分)が、パーフルオロアルキルスルホン酸アルカリ(土類)金属塩である前項1記載のシートである。
本発明のより好適な態様の一つは、(3)含フッ素滴下防止剤(C成分)が、ポリテトラフルオロエチレン粒子1〜60重量%とスチレン−アクリロニトリル共重合体粒子99〜40重量%との混合物である前項1記載のシートである。
本発明のより好適な態様の一つは、(4)珪酸塩化合物(D成分)が、マイカおよびタルクからなる群より選ばれる少なくとも1種である前項1記載のシートである。
本発明のより好適な態様の一つは、(5)リン系安定剤(E成分)が、ホスフェート化合物である前項1記載のシートである。
本発明のより好適な態様の一つは、(6)シートを180℃で10分間加熱処理した際、押出(MD)方向の加熱収縮率の範囲が3〜15%の範囲である前項1記載のシートである。
本発明のより好適な態様の一つは、(7)UL規格94においてV−0の難燃性を有する前項1記載のシートである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の難燃性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、押出成形性に優れ(押出成形時にネッキングがなく樹脂流れが安定し、樹脂溜(バンク)切れがない)、該樹脂組成物から形成されたシートは、難燃性、外観および機械的物性に優れるものである。したがって、OA機器、電気電子部品材料、自動車部品材料、建築用材料などの各種工業用途に極めて有用であり、その奏する工業的効果は極めて大である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明のシートを製造するための溶融押出装置の簡略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、更に本発明の詳細について説明する。
【0012】
<A成分:芳香族ポリカーボネート樹脂について>
本発明でA成分として使用される芳香族ポリカーボネート樹脂は、二価フェノールとカーボネート前駆体とを反応させて得られるものである。反応方法の一例として界面重合法、溶融エステル交換法、カーボネートプレポリマーの固相エステル交換法、および環状カーボネート化合物の開環重合法などを挙げることができる。
【0013】
ここで使用される二価フェノールの代表的な例としては、ハイドロキノン、レゾルシノール、4,4’−ビフェノール、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(通称ビスフェノールA)、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、4,4’−(p−フェニレンジイソプロピリデン)ジフェノール、4,4’−(m−フェニレンジイソプロピリデン)ジフェノール、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−イソプロピルシクロヘキサン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)オキシド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ケトン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エステル、ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)スルフィド、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレンおよび9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレンなどが挙げられる。好ましい二価フェノールは、ビス(4−ヒドロキシフェニル)アルカンであり、なかでも耐衝撃性の点からビスフェノールAが特に好ましく、汎用されている。
【0014】
本発明では、汎用のポリカーボネートであるビスフェノールA系のポリカーボネート以外にも、他の2価フェノール類を用いて製造した特殊なポリカーボネ−トをA成分として使用することが可能である。
例えば、2価フェノール成分の一部又は全部として、4,4’−(m−フェニレンジイソプロピリデン)ジフェノール(以下“BPM”と略称することがある)、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン(以下“Bis−TMC”と略称することがある)、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン及び9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン(以下“BCF”と略称することがある)を用いたポリカーボネ−ト(単独重合体又は共重合体)は、吸水による寸法変化や形態安定性の要求が特に厳しい用途に適当である。これらのBPA以外の2価フェノールは、該ポリカーボネートを構成する2価フェノール成分全体の5モル%以上、特に10モル%以上、使用するのが好ましい。
【0015】
殊に、高剛性かつより良好な耐加水分解性が要求される場合には、樹脂組成物を構成するA成分が次の(1)〜(3)の共重合ポリカーボネートであるのが特に好適である。
(1)該ポリカーボネートを構成する2価フェノール成分100モル%中、BPMが20〜80モル%(より好適には40〜75モル%、さらに好適には45〜65モル%)であり、かつBCFが20〜80モル%(より好適には25〜60モル%、さらに好適には35〜55モル%)である共重合ポリカーボネート。
(2)該ポリカーボネートを構成する2価フェノール成分100モル%中、BPAが10〜95モル%(より好適には50〜90モル%、さらに好適には60〜85モル%)であり、かつBCFが5〜90モル%(より好適には10〜50モル%、さらに好適には15〜40モル%)である共重合ポリカーボネート。
(3)該ポリカーボネートを構成する2価フェノール成分100モル%中、BPMが20〜80モル%(より好適には40〜75モル%、さらに好適には45〜65モル%)であり、かつBis−TMCが20〜80モル%(より好適には25〜60モル%、さらに好適には35〜55モル%)である共重合ポリカーボネート。
【0016】
これらの特殊なポリカーボネートは、単独で用いてもよく、2種以上を適宜混合して使用してもよい。また、これらを汎用されているビスフェノールA型のポリカーボネートと混合して使用することもできる。
【0017】
これらの特殊なポリカーボネートの製法及び特性については、例えば、特開平6−172508号公報、特開平8−27370号公報、特開2001−55435号公報及び特開2002−117580号公報等に詳しく記載されている。
【0018】
カーボネート前駆体としてはカルボニルハライド、炭酸ジエステルまたはハロホルメートなどが使用され、具体的にはホスゲン、ジフェニルカーボネートまたは二価フェノールのジハロホルメートなどが挙げられる。
【0019】
前記二価フェノールとカーボネート前駆体を界面重合法によって芳香族ポリカーボネート樹脂を製造するに当っては、必要に応じて触媒、末端停止剤、二価フェノールが酸化するのを防止するための酸化防止剤などを使用してもよい。また本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂は三官能以上の多官能性芳香族化合物を共重合した分岐ポリカーボネート樹脂、芳香族または脂肪族(脂環式を含む)の二官能性カルボン酸を共重合したポリエステルカーボネート樹脂、二官能性アルコール(脂環式を含む)を共重合した共重合ポリカーボネート樹脂、並びにかかる二官能性カルボン酸および二官能性アルコールを共に共重合したポリエステルカーボネート樹脂を含む。また、得られた芳香族ポリカーボネート樹脂の2種以上を混合した混合物であってもよい。
【0020】
分岐ポリカーボネート樹脂は、本発明の強化芳香族ポリカーボネート樹脂組成物に、ドリップ防止性能などを付与できる。かかる分岐ポリカーボネート樹脂に使用される三官能以上の多官能性芳香族化合物としては、フロログルシン、フロログルシド、または4,6−ジメチル−2,4,6−トリス(4−ヒドロキジフェニル)ヘプテン−2、2,4,6−トリメチル−2,4,6−トリス(4−ヒドロキシフェニル)ヘプタン、1,3,5−トリス(4−ヒドロキシフェニル)ベンゼン、1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1,1−トリス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,6−ビス(2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェノール、4−{4−[1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エチル]ベンゼン}−α,α−ジメチルベンジルフェノール等のトリスフェノール、テトラ(4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(2,4−ジヒドロキシフェニル)ケトン、1,4−ビス(4,4−ジヒドロキシトリフェニルメチル)ベンゼン、またはトリメリット酸、ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸およびこれらの酸クロライド等が挙げられ、中でも1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1,1−トリス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)エタンが好ましく、特に1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタンが好ましい。
【0021】
分岐ポリカーボネートにおける多官能性芳香族化合物から誘導される構成単位は、2価フェノールから誘導される構成単位とかかる多官能性芳香族化合物から誘導される構成単位との合計100モル%中、0.01〜1モル%、好ましくは0.05〜0.9モル%、特に好ましくは0.05〜0.8モル%である。
【0022】
また、特に溶融エステル交換法の場合、副反応として分岐構造単位が生ずる場合があるが、かかる分岐構造単位量についても、2価フェノールから誘導される構成単位との合計100モル%中、0.001〜1モル%、好ましくは0.005〜0.9モル%、特に好ましくは0.01〜0.8モル%であるものが好ましい。なお、かかる分岐構造の割合についてはH−NMR測定により算出することが可能である。
【0023】
脂肪族の二官能性のカルボン酸は、α,ω−ジカルボン酸が好ましい。脂肪族の二官能性のカルボン酸としては例えば、セバシン酸(デカン二酸)、ドデカン二酸、テトラデカン二酸、オクタデカン二酸、イコサン二酸などの直鎖飽和脂肪族ジカルボン酸、並びにシクロヘキサンジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸が好ましく挙げられる。二官能性アルコールとしては脂環族ジオールがより好適であり、例えばシクロヘキサンジメタノール、シクロヘキサンジオール、およびトリシクロデカンジメタノールなどが例示される。
さらにポリオルガノシロキサン単位を共重合した、ポリカーボネート−ポリオルガノシロキサン共重合体の使用も可能である。
【0024】
本発明のポリカーボネート樹脂の製造方法である界面重合法、溶融エステル交換法、カーボネートプレポリマー固相エステル交換法、および環状カーボネート化合物の開環重合法などの反応形式は、各種の文献及び特許公報などで良く知られている方法である。
【0025】
芳香族ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量(M)は、特に限定されないが、好ましくは1.0×10〜5.0×10であり、より好ましくは1.4×10〜3.0×10であり、さらに好ましくは2.0×10〜2.5×10である。
粘度平均分子量が1.0×10未満の芳香族ポリカーボネート樹脂では、良好な機械的特性が得られない。一方、粘度平均分子量が5.0×10を超える芳香族ポリカーボネート樹脂から得られる樹脂組成物は、射出成形時の流動性に劣る点で汎用性に劣る。
【0026】
本発明でいう粘度平均分子量は、まず、次式にて算出される比粘度(ηSP)を20℃で塩化メチレン100mlに芳香族ポリカーボネート0.7gを溶解した溶液からオストワルド粘度計を用いて求め、
比粘度(ηSP)=(t−t)/t
[tは塩化メチレンの落下秒数、tは試料溶液の落下秒数]
求められた比粘度(ηSP)から次の数式により粘度平均分子量Mを算出する。
ηSP/c=[η]+0.45×[η]c(但し[η]は極限粘度)
[η]=1.23×10−40.83
c=0.7
【0027】
<B成分:有機アルカリ(土類)金属塩>
本発明のB成分として使用される有機アルカリ(土類)金属塩としては、従来ポリカーボネート樹脂を難燃化するのに使用されている各種の金属塩が使用可能であるが、特に有機スルホン酸のアルカリ(土類)金属塩、芳香族系イミドのアルカリ(土類)金属塩、硫酸エステルのアルカリ(土類)金属塩、およびリン酸部分エステルのアルカリ(土類)金属塩を挙げることができる。(ここで、アルカリ(土類)金属塩の表記は、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩のいずれも含む意味で使用する)これらは単独の使用だけでなく、2種以上を混合して使用することも可能である。なお、有機アルカリ(土類)金属塩を構成する金属は、アルカリ金属あるいはアルカリ土類金属であり、より好適にはアルカリ金属である。アルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムが挙げられ、アルカリ土類金属としては、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムが挙げられ、特に好ましくはリチウム、ナトリウム、カリウムである。
【0028】
前記有機スルホン酸のアルカリ(土類)金属塩としては、脂肪族スルホン酸のアルカリ(土類)金属塩、芳香族スルホン酸のアルカリ(土類)金属塩等が挙げられる。
かかる脂肪族スルホン酸のアルカリ(土類)金属塩の好ましい例としては、アルキルスルホン酸アルカリ(土類)金属塩、かかるアルキルスルホン酸アルカリ(土類)金属塩のアルキル基の一部がフッ素原子で置換したスルホン酸アルカリ(土類)金属塩、およびパーフルオロアルキルスルホン酸アルカリ(土類)金属塩を挙げることができ、これらは1種もしくは2種以上を併用して使用することができる。
【0029】
アルキルスルホン酸アルカリ(土類)金属塩の好ましい例としては、メタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、プロパンスルホン酸塩、ブタンスルホン酸塩、メチルブタンスルホン酸塩、ヘキサンスルホン酸塩、へプタンスルホン酸塩、オクタンスルホン酸塩等が挙げられ、これらは1種もしくは2種以上を併用して使用することができる。またかかるアルキル基の一部がフッ素原子で置換した金属塩も挙げることができる。
【0030】
一方、パーフルオロアルキルスルホン酸アルカリ(土類)金属塩の好ましい例としては、パーフルオロメタンスルホン酸塩、パーフルオロエタンスルホン酸塩、パーフルオロプロパンスルホン酸塩、パーフルオロブタンスルホン酸塩、パーフルオロメチルブタンスルホン酸塩、パーフルオロヘキサンスルホン酸塩、パーフルオロヘプタンスルホン酸塩、パーフルオロオクタンスルホン酸塩等が挙げられ、特に炭素数が1〜8のものが好ましい。これらは1種もしくは2種以上を併用して使用することができる。
【0031】
この中で最も好ましいのはパーフルオロアルキルスルホン酸アルカリ金属塩である。かかるアルカリ金属の中でも、難燃性の要求がより高い場合にはルビジウムおよびセシウムが好適である一方、これらは汎用的でなくまた精製もし難いことから、結果的にコストの点で不利となる場合がある。一方、コストの点で有利であるがリチウムおよびナトリウムは逆に難燃性の点で不利な場合がある。これらを勘案してパーフルオロアルキルスルホン酸アルカリ金属塩中のアルカリ金属を使い分けることができるが、いずれの点においても特性のバランスに優れたパーフルオロアルキルスルホン酸カリウム塩が最も好適である。かかるカリウム塩と他のアルカリ金属からなるパーフルオロアルキルスルホン酸アルカリ金属塩とを併用することもできる。
【0032】
パーフルオロアルキルスルホン酸アルカリ金属塩の具体例としては、トリフルオロメタンスルホン酸カリウム、パーフルオロブタンスルホン酸カリウム、パーフルオロヘキサンスルホン酸カリウム、パーフルオロオクタンスルホン酸カリウム、ペンタフルオロエタンスルホン酸ナトリウム、パーフルオロブタンスルホン酸ナトリウム、パーフルオロオクタンスルホン酸ナトリウム、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム、パーフルオロブタンスルホン酸リチウム、パーフルオロヘプタンスルホン酸リチウム、トリフルオロメタンスルホン酸セシウム、パーフルオロブタンスルホン酸セシウム、パーフルオロオクタンスルホン酸セシウム、パーフルオロヘキサンスルホン酸セシウム、パーフルオロブタンスルホン酸ルビジウム、およびパーフルオロヘキサンスルホン酸ルビジウム等が挙げられ、これらは1種もしくは2種以上を併用して使用することができる。これらの中で特にパーフルオロブタンスルホン酸カリウムが好ましい。
【0033】
芳香族スルホン酸アルカリ(土類)金属塩に使用する芳香族スルホン酸としては、モノマー状またはポリマー状の芳香族サルファイドのスルホン酸、芳香族カルボン酸およびエステルのスルホン酸、モノマー状またはポリマー状の芳香族エーテルのスルホン酸、芳香族スルホネートのスルホン酸、モノマー状またはポリマー状の芳香族スルホン酸、モノマー状またはポリマー状の芳香族スルホンスルホン酸、芳香族ケトンのスルホン酸、複素環式スルホン酸、芳香族スルホキサイドのスルホン酸、芳香族スルホン酸のメチレン型結合による縮合体からなる群から選ばれた少なくとも1種の酸を挙げることができ、これらは1種もしくは2種以上を併用して使用することができる。
【0034】
モノマー状またはポリマー状の芳香族サルファイドのスルホン酸アルカリ(土類)金属塩としては、特開昭50−98539号公報に記載されており、例えば、ジフェニルサルファイド−4,4’−ジスルホン酸ジナトリウム、ジフェニルサルファイド−4,4’−ジスルホン酸ジカリウムなどを挙げることができる。
【0035】
芳香族カルボン酸およびエステルのスルホン酸アルカリ(土類)金属塩としては、特開昭50−98540号公報に記載されており、例えば5−スルホイソフタル酸カリウム、5−スルホイソフタル酸ナトリウム、ポリエチレンテレフタル酸ポリスルホン酸ポリナトリウムなどを挙げることができる。
【0036】
モノマー状またはポリマー状の芳香族エーテルのスルホン酸アルカリ(土類)金属塩としては、特開昭50−98542号公報に記載されており、例えば1−メトキシナフタレン−4−スルホン酸カルシウム、4−ドデシルフェニルエーテルジスルホン酸ジナトリウム、ポリ(2,6−ジメチルフェニレンオキシド)ポリスルホン酸ポリナトリウム、ポリ(1,3−フェニレンオキシド)ポリスルホン酸ポリナトリウム、ポリ(1,4−フェニレンオキシド)ポリスルホン酸ポリナトリウム、ポリ(2,6−ジフェニルフェニレンオキシド)ポリスルホン酸ポリカリウム、ポリ(2−フルオロ−6−ブチルフェニレンオキシド)ポリスルホン酸リチウムなどを挙げることができる。
【0037】
芳香族スルホネートのスルホン酸アルカリ(土類)金属塩としては、特開昭50−98544号公報に記載されており、例えばベンゼンスルホネートのスルホン酸カリウムなどを挙げることができる。
【0038】
モノマー状またはポリマー状の芳香族スルホン酸アルカリ(土類)金属塩としては、特開昭50−98546号公報に記載されており、例えばベンゼンスルホン酸ナトリウム、ベンゼンスルホン酸ストロンチウム、ベンゼンスルホン酸マグネシウム、p−ベンゼンジスルホン酸ジカリウム、ナフタレン−2,6−ジスルホン酸ジカリウム、ビフェニル−3,3’−ジスルホン酸カルシウムなどを挙げることができる。
【0039】
モノマー状またはポリマー状の芳香族スルホンスルホン酸アルカリ(土類)金属塩としては、特開昭52−54746号公報に記載されており、例えばジフェニルスルホン−3−スルホン酸ナトリウム、ジフェニルスルホン−3−スルホン酸カリウム、ジフェニルスルホン−3,3’−ジスルホン酸ジカリウム、ジフェニルスルホン−3,4’−ジスルホン酸ジカリウムなどを挙げることができる。
【0040】
芳香族ケトンのスルホン酸アルカリ(土類)金属塩としては、特開昭50−98547号公報に記載されており、例えばα,α,α−トリフルオロアセトフェノン−4−スルホン酸ナトリウム、ベンゾフェノン−3,3’−ジスルホン酸ジカリウムなどを挙げることができる。
【0041】
複素環式スルホン酸アルカリ(土類)金属塩としては、特開昭50−116542号公報に記載されており、例えばチオフェン−2,5−ジスルホン酸ジナトリウム、チオフェン−2,5−ジスルホン酸ジカリウム、チオフェン−2,5−ジスルホン酸カルシウム、ベンゾチオフェンスルホン酸ナトリウムなどを挙げることができる。
【0042】
芳香族スルホキサイドのスルホン酸アルカリ(土類)金属塩としては、特開昭52−54745号公報に記載されており、例えばジフェニルスルホキサイド−4−スルホン酸カリウムなどを挙げることができる。
【0043】
芳香族スルホン酸アルカリ(土類)金属塩のメチレン型結合による縮合体としては、ナフタレンスルホン酸ナトリウムのホルマリン縮合物、アントラセンスルホン酸ナトリウムのホルマリン縮合物などを挙げることができる。
【0044】
前記芳香族系イミドのアルカリ(土類)金属塩としては、例えばサッカリン、N−(p−トリルスルホニル)−p−トルエンスルホンアミド(言い換えるとジ(p−トルエンスルホン)イミド)、N−(N’−ベンジルアミノカルボニル)スルファニルイミド、およびN−(フェニルカルボキシル)スルファニルイミド、ビス(ジフェニルリン酸)イミド等のアルカリ(土類)金属塩などが挙げられる。
【0045】
前記、硫酸エステルのアルカリ(土類)金属塩としては、特に一価および/または多価アルコール類の硫酸エステルのアルカリ(土類)金属塩を挙げることができ、かかる一価および/または多価アルコール類の硫酸エステルとしては、メチル硫酸エステル、エチル硫酸エステル、ラウリル硫酸エステル、ヘキサデシル硫酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルの硫酸エステル、ペンタエリスリトールのモノ、ジ、トリ、テトラ硫酸エステル、ラウリン酸モノグリセライドの硫酸エステル、パルミチン酸モノグリセライドの硫酸エステル、ステアリン酸モノグリセライドの硫酸エステルなどを挙げることができる。これらの硫酸エステルのアルカリ(土類)金属塩として好ましくはラウリル硫酸エステルのアルカリ(土類)金属塩を挙げることができる。
【0046】
前記リン酸部分エステルのアルカリ(土類)金属塩としては、具体的にビス(2,6−ジブロモ−4−クミルフェニル)リン酸、ビス(4−クミルフェニル)リン酸、ビス(2,4,6−トリブロモフェニル)リン酸ビス(2,4−ジブロモフェニル)リン酸、ビス(4−ブロモフェニル)リン酸、ジフェニルリン酸、ビス(4−tert−ブチルフェニル)リン酸等のアルカリ(土類)金属塩を挙げることができる。
【0047】
これらの中で好ましい成分としてパーフルオロアルキルスルホン酸アルカリ(土類)金属塩、芳香族スルホン酸アルカリ(土類)金属塩、および芳香族系イミドのアルカリ(土類)金属塩からなる群より選択される1種以上の化合物が挙げられ、その中でもパーフルオロアルキルスルホン酸アルカリ(土類)金属塩が好ましい。具体的には、パーフルオロブタンスルホン酸カリウム、パーフルオロブタンスルホン酸ナトリウム、ジフェニルスルホンのスルホン酸塩、ジ(p−トルエンスルホン)イミドのカリウム塩、およびジ(p−トルエンスルホン)イミドのナトリウム塩からなる群より選択される1種以上の化合物が好ましく、特に好ましくはパーフルオロブタンスルホン酸カリウムである。
【0048】
本発明で使用される有機アルカリ(土類)金属塩(B成分)の含有量は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A成分)100重量部に対して、0.01〜2.0重量部であり、好ましくは0.05〜1.8重量部であり、より好ましくは0.1〜1.5重量部であり、さらに好ましくは0.3〜1.3重量部であり、特に好ましくは0.6〜1.2重量部である。B成分の含有量が多すぎると押出成形時に樹脂が分解して逆に難燃性が低下する方向となる。添加量が少なすぎると難燃性が不十分となり本発明の目的である難燃性が発揮されない。
【0049】
<C成分:含フッ素滴下防止剤>
本発明のC成分として使用する含フッ素滴下防止剤としては、フィブリル形成能を有するポリテトラフルオロエチレン等が例示される。
【0050】
フィブリル形成能を有するポリテトラフルオロエチレン(PTFE)は極めて高い分子量を有し、せん断力などの外的作用によりPTFE同士を結合して繊維状になる傾向を示すものである。その分子量は、標準比重から求められる数平均分子量において100万〜1000万、より好ましく200万〜900万である。かかるPTFEは、固体形状の他、水性分散液形態のものも使用可能である。またかかるフィブリル形成能を有するPTFEは樹脂中での分散性を向上させ、更に良好な難燃性および機械的特性を得るために他の樹脂との混合形態のPTFE混合物を使用することも可能である。かかるフィブリル形成能を有するPTFEの市販品としては例えば三井・デュポンフロロケミカル(株)のテフロン(登録商標)6J、ダイキン化学工業(株)のポリフロンMPA FA500、F−201Lなどを挙げることができる。PTFEの水性分散液の市販品としては、旭アイシーアイフロロポリマーズ(株)製のフルオンAD−1、AD−936、ダイキン工業(株)製のフルオンD−1、D−2、三井・デュポンフロロケミカル(株)製のテフロン(登録商標)30Jなどを代表として挙げることができる。
【0051】
混合形態のPTFEとしては、(1)PTFEの水性分散液と有機重合体の水性分散液または溶液とを混合し共沈殿を行い共凝集混合物を得る方法(特開昭60−258263号公報、特開昭63−154744号公報などに記載された方法)、(2)PTFEの水性分散液と乾燥した有機重合体粒子とを混合する方法(特開平4−272957号公報に記載された方法)、(3)PTFEの水性分散液と有機重合体粒子溶液を均一に混合し、かかる混合物からそれぞれの媒体を同時に除去する方法(特開平06−220210号公報、特開平08−188653号公報などに記載された方法)、(4)PTFEの水性分散液中で有機重合体を形成する単量体を重合する方法(特開平9−95583号公報に記載された方法)、および(5)PTFEの水性分散液と有機重合体分散液を均一に混合後
、更に該混合分散液中でビニル系単量体を重合し、その後混合物を得る方法(特開平11−29679号などに記載された方法)により得られたものが使用できる。
【0052】
これらの混合形態のPTFEの市販品としては、PIC社製の「POLY TS AD001」(商品名)、三菱レイヨン(株)の「メタブレン A3000」(商品名)、およびGEスペシャリティーケミカルズ社製 「BLENDEX B449」(商品名)などを挙げることができる。特にポリテトラフルオロエチレン粒子とスチレン−アクリロニトリル共重合体粒子との混合物が好適に使用される。
【0053】
混合形態におけるPTFEの割合としては、PTFE混合物100重量%中、PTFEが1〜60重量%が好ましく、より好ましくは5〜55重量%である。PTFEの割合がかかる範囲にある場合は、PTFEの良好な分散性を達成することができる。
本発明で使用される含フッ素滴下防止剤(C成分)の含有量は、A成分100重量部に対して、0.01〜1重量部であり、好ましくは0.05〜0.8重量部であり、より好ましくは0.1〜0.6重量部である。C成分が0.01重量部未満では難燃効果を得ることが難しく、1重量部を超えると成形品外観が悪化し好ましくない。
【0054】
<D成分:珪酸塩化合物>
本発明のD成分として使用する珪酸塩化合物としては、タルク、クレー、マイカワラストナイト、ゾノトライト、モンモリロナイト、ベントナイト、活性白土、セピオライト、セリサイト、およびカオリンなどの珪酸塩化合物を挙げることができる。その中でも特に、タルク、マイカ、およびワラストナイトが好ましい。
【0055】
本発明で使用される珪酸塩化合物(D成分)の含有量は、A成分100重量部に対して、2〜20重量部であり、好ましくは5〜18重量部であり、より好ましくは8〜15重量部である。D成分が2重量部未満では、押し出し時のネッキング安定化効果が少なく且つ難燃効果を得ることが難しく、20重量部を超えると押出成形時に樹脂が分解して逆に難燃性が低下する方向となる。
【0056】
<E成分:リン系安定剤>
本発明のE成分として使用するリン系安定剤としては、亜リン酸、リン酸、亜ホスホン酸、ホスホン酸およびこれらのエステル、並びに第3級ホスフィンなどが例示される。
【0057】
具体的にはホスファイト化合物としては、例えば、トリフェニルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリデシルホスファイト、トリオクチルホスファイト、トリオクタデシルホスファイト、ジデシルモノフェニルホスファイト、ジオクチルモノフェニルホスファイト、ジイソプロピルモノフェニルホスファイト、モノブチルジフェニルホスファイト、モノデシルジフェニルホスファイト、モノオクチルジフェニルホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、トリス(ジエチルフェニル)ホスファイト、トリス(ジ−iso−プロピルフェニル)ホスファイト、トリス(ジ−n−ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−エチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、フェニルビスフェノールAペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ジシクロヘキシルペンタエリスリトールジホスファイトなどが挙げられる。
【0058】
更に他のホスファイト化合物としては二価フェノール類と反応し環状構造を有するものも使用できる。例えば、2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)(2−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ホスファイト、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェニル)(2−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ホスファイト、2,2’−エチリデンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェニル)(2−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ホスファイトなどを挙げることができる。
【0059】
ホスフェート化合物としては、トリブチルホスフェート、トリメチルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクロルフェニルホスフェート、トリエチルホスフェート、ジフェニルクレジルホスフェート、ジフェニルモノオルソキセニルホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、ジブチルホスフェート、ジオクチルホスフェート、ジイソプロピルホスフェートなどを挙げることができ、好ましくはトリフェニルホスフェート、トリメチルホスフェートである。
【0060】
ホスホナイト化合物としては、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,3’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−3,3’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,3’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)−3,3’−ビフェニレンジホスホナイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4−フェニル−フェニルホスホナイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−3−フェニル−フェニルホスホナイト、ビス(2,6−ジ−n−ブチルフェニル)−3−フェニル−フェニルホスホナイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)−4−フェニル−フェニルホスホナイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)−3−フェニル−フェニルホスホナイト等が挙げられ、テトラキス(ジ−tert−ブチルフェニル)−ビフェニレンジホスホナイト、ビス(ジ−tert−ブチルフェニル)−フェニル−フェニルホスホナイトが好ましく、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−ビフェニレンジホスホナイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−フェニル−フェニルホスホナイトがより好ましい。かかるホスホナイト化合物は上記アルキル基が2以上置換したアリール基を有するホスファイト化合物との併用可能であり好ましい。
【0061】
ホスホネイト化合物としては、ベンゼンホスホン酸ジメチル、ベンゼンホスホン酸ジエチル、およびベンゼンホスホン酸ジプロピル等が挙げられる。
【0062】
第3級ホスフィンとしては、トリエチルホスフィン、トリプロピルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリオクチルホスフィン、トリアミルホスフィン、ジメチルフェニルホスフィン、ジブチルフェニルホスフィン、ジフェニルメチルホスフィン、ジフェニルオクチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリ−p−トリルホスフィン、トリナフチルホスフィン、およびジフェニルベンジルホスフィンなどが例示される。特に好ましい第3級ホスフィンは、トリフェニルホスフィンである。
【0063】
上記リン系安定剤は、1種のみならず2種以上を混合して用いることができる。上記リン系安定剤の中でもホスフェート化合物が好ましく、なかでもトリメチルホスフェートに代表されるアルキルホスフェート化合物が配合されることが好ましい。またかかるアルキルホスフェート化合物と、ホスファイト化合物および/またはホスホナイト化合物との併用も好ましい態様である。
【0064】
リン系安定剤(E成分)の含有量は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A成分)100重量部に対して、0.001〜1重量部であり、好ましくは0.01〜0.5重量部であり、より好ましくは0.03〜0.1重量部である。E成分が0.001重量部未満では熱安定性に劣り、シートの色相が悪化し、1重量部を超えると逆に熱安定性が悪化する。
【0065】
<他の添加剤>
本発明で使用される難燃性ポリカーボネート樹脂組成物には、更にヒンダードフェノール系安定剤を配合することができる。かかる配合は例えば成形加工時の色相悪化や長期間の使用における色相の悪化などを抑制する効果が発揮される。ヒンダードフェノール系安定剤としては、例えば、α−トコフェロール、ブチルヒドロキシトルエン、シナピルアルコール、ビタミンE、n−オクタデシル−β−(4’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−ブチルフェル)プロピオネート、2−tert−ブチル−6−(3’−tert−ブチル−5’−メチル−2’−ヒドロキシベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート、2,6−ジ−tert−ブチル−4−(N,N−ジメチルアミノメチル)フェノール、3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホネートジエチルエステル、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−シクロヘキシルフェノール)、2,2’−ジメチレン−ビス(6−α−メチル−ベンジル−p−クレゾール)2,2’−エチリデン−ビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、2,2’−ブチリデン−ビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、トリエチレングリコール−N−ビス−3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート、1,6−へキサンジオールビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ビス[2−tert−ブチル−4−メチル6−(3−tert−ブチル−5−メチル−2−ヒドロキシベンジル)フェニル]テレフタレート、3,9−ビス{2−[3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ]−1,1,−ジメチルエチル}−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、4,4’−チオビス(6−tert−ブチル−m−クレゾール)、4,4’−チオビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2’−チオビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、ビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)スルフィド、4,4’−ジ−チオビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、4,4’−トリ−チオビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、2,2−チオジエチレンビス−[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2,4−ビス(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン、N,N’−ヘキサメチレンビス−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシヒドロシンナミド)、N,N’−ビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル]ヒドラジン、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)ブタン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)イソシアヌレート、トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、1,3,5−トリス(4−tert−ブチル−3−ヒドロキシ−2,6−ジメチルベンジル)イソシアヌレート、1,3,5−トリス2[3(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]エチルイソシアヌレート、およびテトラキス[メチレン−3−(3’,5’−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンなどが例示される。これらはいずれも入手容易である。上記ヒンダードフェノール系安定剤は、単独でまたは2種以上を組合せて使用することができる。
【0066】
ヒンダードフェノール系安定剤の配合量は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A成分)100重量部に対し、好ましくは0.0001〜1重量部、より好ましくは0.001〜0.5重量部、さらに好ましくは0.005〜0.3重量部である。
【0067】
さらに、本発明の目的を損なわない範囲で、その効果が発現する量の各種添加剤、無機充填剤を添加してもよい。各種添加剤としては、帯電防止剤、紫外線吸収剤、離型剤、滑剤、着色剤等が挙げられる。
【0068】
<シート>
本発明のシートの製造に使用される芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、予め上記各成分をタンブラー、V型ブレンダー、ナウターミキサー、バンバリーミキサー、混練ロール、押出機などの混合機により混合して製造することができる。
該樹脂組成物は、押出成形によってシート状に成形される。具体的には、Tダイから押出した溶融樹脂を、挟持加圧(両面タッチ)方式もしくは片面タッチ方式で複数個の冷却ロールで冷却しシート状に成形することができる。この際使用する装置としては、特別な装置である必要はなく、シート、フィルムまたは製膜の製造に使用する装置が任意に採用される。
【0069】
本発明におけるシートの厚みは、0.3〜3.0mmの範囲であり、好ましくは0.35〜2.0mmの範囲であり、さらに好ましくは0.4〜1.5mmの範囲であり、特に好ましくは0.4〜1.0mmの範囲である。0.3mmより薄いと難燃性が低下し、3.0mmを超えると上記芳香族ポリカーボネート樹脂組成物とすることの必要性が無くなる惧れがある。
【0070】
押出成形によって得られるシートを180℃で10分間加熱処理した際、押出(MD)方向の加熱収縮率の範囲が、好ましくは3〜15%の範囲であり、より好ましくは4〜12%の範囲であり、さらに好ましくは5〜10%の範囲である。押出(MD)方向の加熱収縮率の範囲が上記範囲であるとシートの難燃性が良好となる。
【実施例】
【0071】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。尚、実施例中の代表的な物性は下記の方法で測定した。
【0072】
(1)シート外観
Tダイから押出した溶融樹脂を挟時保持(両面タッチ)方式で3個の冷却ロールで冷却した厚み0.5mmのシートの製造時において、樹脂溜(バンク)等を目視で評価した。
(評価)
○:2個の冷却ロールで挟時保持した際の樹脂溜(バンク)切れもなく、押出成形安定性に優れる。
△:樹脂溜(バンク)が不安定であり、押出成形安定性にやや劣る。
×:2個の冷却ロールで挟時保持した際の樹脂溜(バンク)切れによるシートの外観不良が発生し、押出成形安定性に劣る。
【0073】
(2)シート蛇行
シート両端部に蛇行(波打ち)がみられるかどうかを目視で評価した。
(評価)
○:シート両端部には蛇行(波打ち)がなく、まっすぐになっている。
△:シート両端部には蛇行が若干見られ、端部に波打ちによる蛇行が若干見られる。
×:シート両端部にはドローダウンの影響によりネッキングが不安定であり、両端部にかなり波打ちがみられる。
【0074】
(3)厚み変動
シート流れ(MD)方向における厚みの変動を厚さ計により測定した。
(測定方法)
シート流れ(MD)方向にそって各5m毎にサンプルを採取し、そのサンプルの幅方向における各測定位置の厚み測定を行った。サンプルは5m毎に合計10回(50m分)採取し、それぞれにおいて幅方向における各測定位置の厚みの測定を行い、その変動について評価を行った。測定はサンプル幅900mmに対し幅方向にそって50mm毎に計19点実施した。
○:合計10回の測定を行った各測定位置における厚み変動が、すべて5%未満であり押出安定性に優れる。
△:合計10回の測定を行った各測定位置における厚み変動が、いずれかの点において5%以上10%未満であり、押出安定性にやや劣る。
×:合計10回の測定を行った各測定位置における厚みの変動が、いずれかの点において10%以上と大きく、押出安定性に劣る。
厚み変動(%)={(最大厚み−最小厚み)/(10点の平均値)}×100(%)
【0075】
(4)加熱収縮率(押出方向)
シートの加熱収縮率を測定した。加熱収縮率は、JIS K6735の試験方法を参考とし150mm角の試験片にコンパスで100mmの円を描き、熱風乾燥機中の平らなプレートに置き180℃で10分処理した後、変形した円(楕円状)の短径を測定し加熱収縮率を算出した。
加熱収縮率(%)=[{100−短径(mm)}/100]×100(%)
【0076】
(5)難燃性
実施例で得られた厚み0.5mmのシートから難燃性評価用の試験片を作成し、UL規格94に規定されている垂直燃焼試験に従って、その等級を評価した。なお、V−0、V−1、V−2の順に難燃性に優れることを意味しており、判定がV−0、V−1、V−2のいずれの基準も満たすことが出来なかった場合「notV」と示すこととする。
【0077】
[実施例1〜4および比較例1〜4]
図1で示す装置を設けた押出機によりシートを製造した。Tダイは幅1200mm、第1、第2、第3冷却ロールはいずれも直径300mmの鏡面ロールを使用し、表1記載の樹脂組成物をタンブラーにてブレンドし、これをベント式二軸押出機にて、押出温度270〜290℃、ダイス温度280℃に設定した押出し機で溶融しTダイを通して、吐出量250kg/hrで押出し、幅900mmで厚さ0.5mmのシートを得た。
【0078】
なお、表1のA〜E成分は下記のものを示す。
(A成分)芳香族ポリカーボネート樹脂
PC−1;粘度平均分子量 24,000の芳香族ポリカーボネート樹脂
(B成分)有機アルカリ(土類)金属塩
B−1;パーフルオロブタンスルホン酸カリウム塩(大日本インキ(株)製メガファックF−114P)
B−2;ジフェニルスルホンスルホン酸カリウム(ユーシービージャパン製KSS)
(C成分)含フッ素滴下防止剤
C−1;POLY TS AD001(商品名)(PIC社製、該ポリテトラフルオロエチレン系混合体は、懸濁重合にて製造されたポリテトラフルオロエチレン粒子とスチレン−アクリロニトリル共重合体粒子の混合物(ポリテトラフルオロエチレン含有量50重量%))
(D成分)珪酸塩化合物
D−1;タルク(林化成工業(株)製 Upn HS−T0.8)
D−2;マイカ(コープケミカル(株)製 ミクロマイカ MK−100)
(E成分)リン系安定剤
ホスフェート系熱安定剤(大八化学(株)製「TMP」、トリメチルホスフェート)
【0079】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明の難燃性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物から形成されたシートは、OA機器、電気電子部品材料、自動車部品材料、建築用材料などの各種工業用途として有用である。
【符号の説明】
【0081】
A.ダイス
D.ゴムロール
.第一冷却ロール
.第ニ冷却ロール
.第三冷却ロール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ポリカーボネート樹脂(A成分)100重量部に対して、有機アルカリ(土類)金属塩(B成分)0.01〜2重量部、含フッ素滴下防止剤(C成分)0.01〜1重量部、珪酸塩化合物(D成分)2〜20重量部、およびリン系安定剤(E成分)0.001〜1重量部を含む芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を押出成形して得られる厚み0.3〜3.0mmの難燃性を有するシート。
【請求項2】
有機アルカリ(土類)金属塩(B成分)が、パーフルオロアルキルスルホン酸アルカリ(土類)金属塩である請求項1記載のシート。
【請求項3】
含フッ素滴下防止剤(C成分)が、ポリテトラフルオロエチレン粒子1〜60重量%とスチレン−アクリロニトリル共重合体粒子99〜40重量%との混合物である請求項1記載のシート。
【請求項4】
珪酸塩化合物(D成分)が、マイカおよびタルクからなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項1記載のシート。
【請求項5】
リン系安定剤(E成分)が、ホスフェート化合物である請求項1記載のシート。
【請求項6】
シートを180℃で10分間加熱処理した際、押出(MD)方向の加熱収縮率の範囲が3〜15%の範囲である請求項1記載のシート。
【請求項7】
UL規格94においてV−0の難燃性を有する請求項1記載のシート。

【図1】
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【公開番号】特開2011−190347(P2011−190347A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−57633(P2010−57633)
【出願日】平成22年3月15日(2010.3.15)
【出願人】(000215888)帝人化成株式会社 (504)
【Fターム(参考)】