説明

難燃性樹脂シート及び難燃性樹脂シートを用いたワイヤーハーネスプロテクトシート

【課題】難燃性、耐摩耗性、柔軟性に優れる難燃性シートを提供する。
【解決手段】(A)ポリオレフィン系樹脂5〜70重量部、(B)熱可塑性エラストマー30〜95重量部、(A)及び(B)の合計量100重量部に対して、(C)難燃剤として特定の構造式で表される分子量2000以上のヒンダードアミン誘導体0.5〜3重量部を含む樹脂組成物を成形して得られるシートであって、厚みが0.2〜0.5mm、かつ10%モジュラスが5〜25N/10mmであることを特徴とする難燃性樹脂シート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性を要求される電気機器に好適に使用される難燃性樹脂シート、及び該難燃性樹脂シートを用いたワイヤーハーネスプロテクトシートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車、電車、バスなどの車両の他、自動販売機、コピー機などの電気機器に用いられるワイヤーハーネスの保護シート(ワイヤーハーネスプロテクトシート)の分野においては、適度な柔軟性と伸長性を有し難燃性、耐摩耗性、機械的強度、耐熱変形性、電気絶縁性、成形加工性が要求されている。特に、自動車などの電気配線に使用されるワイヤーハーネスプロテクトシートには、高度の難燃性、耐摩耗性が要求され、かかる要求を満たすものとして、ポリ塩化ビニル系樹脂製シートが汎用されてきた。
【0003】
しかし、近年の環境意識の高まりの中で、ポリ塩化ビニル系樹脂の使用を制限し、ハロゲンを含まないポリエチレン系樹脂やポリプロピレン系樹脂等のポリオレフィン系樹脂を難燃シート基材に用いることが検討され、ポリオレフィン系樹脂はポリ塩化ビニル系樹脂に比べ燃えやすいという欠点があることから、難燃剤を添加する難燃性シートの開発がなされている。
【0004】
例えば、下記特許文献1には、A成分:ポリオレフィン系樹脂、B成分:鉱物油系軟化剤及びC成分:無機金属化合物を含んでなるシートであって、厚みが0.2〜0.5mm、かつ10%モジュラスが5〜25N/10mmであるワイヤーハーネスプロテクトシート用基材シートが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−158290号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に記載されたワイヤーハーネスプロテクトシート用基材シートは、十分な難燃性を付与するために無機系難燃剤を多量に配合しなければならず、シートの耐磨耗性、柔軟性等の機械的物性が不十分となることや、その樹脂組成物のシート加工性が低いことが問題であった。
すなわち、本発明の目的は、難燃性に優れるシートであって、優れた耐摩耗性及び柔軟性を有する難燃性シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の要旨は、(1)(A)ポリオレフィン系樹脂5〜70重量部、(B)熱可塑性エラストマー30〜95重量部、(A)及び(B)の合計量100重量部に対して、(C)難燃剤として下記一般式(1)で表される分子量2000以上のヒンダードアミン誘導体0.5〜3重量部を含む樹脂組成物を成形して得られるシートであって、厚みが0.2〜0.5mm、かつ10%モジュラスが5〜25N/10mmであることを特徴とする難燃性樹脂シート、
【化1】

(2)前記樹脂組成物のメルトフローレート(JIS K7210、230℃、2.16kgf)が3〜15g/10分である(1)に記載の難燃性樹脂シート、
(3)上記(1)又は(2)に記載の難燃性樹脂シートを有するワイヤーハーネスプロテクトシートに存する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、難燃性、耐摩耗性及び柔軟性に優れる難燃性樹脂シートを提供することができる。
また、本発明によれば、前記難燃性樹脂シートを用いることにより、製品上、高度に要求される難燃性、耐摩耗性を満たし、且つ、ワイヤーハーネスに巻き付けるために必要な柔軟性を備えるワイヤーハーネスプロテクトシートを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の難燃性樹脂シートは、(A)ポリオレフィン系樹脂5〜70重量部、(B)熱可塑性エラストマー30〜95重量部、(A)及び(B)の合計量100重量部に対し(C)難燃剤として下記一般式(1)で表される分子量2000以上のヒンダードアミン誘導体0.5〜3重量部を含む樹脂組成物を成形して得られる難燃性樹脂シートである。
【化1】

【0010】
本発明の難燃性樹脂シートは、上記(A)〜(C)成分の合計の含有量が、難燃性樹脂シート全体の80〜100重量%であることが好ましい。また、本発明の難燃性樹脂シートには、上記(A)〜(C)成分の他に、必要に応じて、他の樹脂や各種添加剤例えば熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、滑剤、アンチブロッキング剤及び着色剤等を含有させてもよいが、上記(A)〜(C)成分の他の成分の含有量は難燃性樹脂シート全体の20重量%以下であることが難燃性能の点から好ましい。
【0011】
本発明において、前記樹脂組成物の230℃、2.16kgfでのメルトフローレート(MFR)は、3〜15g/10分であるのものが成形性が良いため好ましく、5〜10g/10分であるものがより好ましい。
【0012】
本発明において、(A)及び(B)の合計量100重量部の内訳は、(A)は5〜70重量部、(B)は30〜95重量部であり、好ましくは(A)10〜50重量部、(B)50〜90重量部、より好ましくは(A)20〜40重量部、(B)60〜80重量部である。上記の特定値よりも(A)が多く、(B)が少ない場合、柔軟性が不足する。また、上記の特定値よりも(A)が少なく、(B)が多い場合、シートの加工性が低下する。
【0013】
本発明において、(C)は、(A)及び(B)の合計量100重量部に対し、0.5〜3重量部、好ましくは0.5〜2.5重量部、より好ましくは0.5〜1.5重量部含有する。上記の特定値よりも(C)が多いとシートの加工性が低下し、上記の特定値よりも(C)が少ない場合、難燃性が不十分となる。
【0014】
前記ポリオレフィン系樹脂としては、特に限定されず、ポリエチレン系樹脂やポリプロピレン系樹脂、これらの混合物及びこれらと他の合成樹脂の併用混合物等の一般的なものを用いることができるが、プロピレンの単独重合体(ホモポリプロピレン)、プロピレンとエチレンまたは他のα−オレフィンとのランダム共重合体(ランダムポリプロピレン)、またはブロック共重合体(ブロックポリプロピレン)、ゴム成分を含むブロック共重合体あるいはグラフト共重合体からなる群から選ばれる一種であることが好ましい。
【0015】
前記熱可塑性エラストマーとしては、特に限定されず、一般的なものを用いることができるが、オレフィン系熱可塑性エラストマー及び/又はスチレン系熱可塑性エラストマーから選ばれる熱可塑性エラストマーであることが好ましい。これによれば、シートに十分な柔軟性を付与するとともに、優れた難燃性を付与することができる。
【0016】
また、前記オレフィン系熱可塑性エラストマーが、エチレン−α−オレフィン共重合体ゴム、エチレン−ブテン共重合体ゴム、及びシングルサイト触媒を用いて合成したエチレン−α−オレフィン共重合体からなる群から選ばれる一種のオレフィン系熱可塑性エラストマーであることがより好ましい。
【0017】
また、前記スチレン系熱可塑性エラストマーが、スチレン−ブタジエン−スチレン共重合体(SBS)、スチレン−イソプレン−スチレン共重合体(SIS)、スチレン−イソプレン・ブタジエン−スチレン共重合体(SIBS)、スチレン−エチレン・ブテン−スチレン共重合体(SEBS)、スチレン−エチレン・プロピレン−スチレン共重合体(SEPS)、スチレン−エチレン・エチレン・プロピレン−スチレン共重合体(SEEPS)、及び部分水添スチレン−ブタジエン−スチレン共重合体(SBBS)からなる群から選ばれる一種のスチレン系熱可塑性エラストマーであることがより好ましい。
【0018】
前記難燃剤としては、下記一般式(1)で表される分子量2000以上のヒンダードアミン誘導体を用いる。これによれば、樹脂組成物に無機系難燃剤を配合する場合のように、前記樹脂組成物中に多量に含有する必要がなく、シート加工性の低下や、シートとした場合の機械的特性の低下を抑えることができる。
【化1】

【0019】
次に、本発明の難燃性樹脂シートの製造方法を説明する。本発明の難燃性樹脂シートの製造方法としては、Tダイ押出し成形法等の押出し成形法、インフレーション成形法及びカレンダー成形法等の一般的なポリオレフィン系樹脂フィルムの成形方法を用いることができるが、特に本発明で用いるポリオレフィン系樹脂は、押出し成形法に適している。
【0020】
本発明の難燃性樹脂シートは、厚みが0.2〜0.5mm、かつ10%モジュラスが5〜25N/10mmとする。上記特定値よりもシートの厚みが薄い場合や10%モジュラスが低い場合、難燃性や耐摩耗性が劣り、厚みが厚い場合や10%モジュラスが高い場合は、追従性が劣り、使用時にシートが浮き上がってしまう等実使用上の風合いが損なわれる恐れがある。尚、前記10%モジュラスは、10%歪み時の応力であって、JIS K7127に準じて、前記難燃性樹脂シートから採取した試験片を23℃、60%RHの雰囲気下で、引張試験機にて引張速度:50mm/分で引っ張り、伸びが10%の時点での荷重を測定し、求める値である。
【0021】
こうして得られる本発明の難燃性樹脂シートは、難燃性、耐摩耗性、柔軟性に優れるため、これらの特性が要求される自動車、電車、バスなどの車両の他、自動販売機、コピー機などの電気機器に用いられるワイヤーハーネスプロテクトシートに好ましく用いられる。特に、自動車などの電気配線に使用されるワイヤーハーネスプロテクトシートには、高度の難燃性、耐摩耗性が要求されるため、本発明の難燃性樹脂シートを用いることは極めて有効である。
【0022】
本発明のワイヤーハーネスプロテクトシートは、本発明の難燃性樹脂シートを基材シートとして、シート端部に両面テープを貼り付けた構造を有している。
前記両面テープとしては、特に限定はされないが、例えば、アクリル系粘着剤を使用した両面テープを用いることができる。
本発明によれば、難燃性、耐摩耗性及び柔軟性に優れるなワイヤーハーネスプロテクトシートを提供することができる。
【実施例】
【0023】
以下、本発明の実施形態を実施例を用いて詳述するが、本発明はその要旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
<実施例1〜2、比較例1〜8>
各々表1に記載されている配合により、ペレット状態でドライブレンドし、東芝機械製単軸押出機(50φmm、L/D=32)のホッパーに、ブレンドした原料を投入し、押出機温度をC1:210℃、C2:240℃、C3:240℃、C4:240℃、C5:240℃のように設定し、550mm幅Tダイ(温度設定240℃ リップ開度0.3mm)から押出した。押出された溶融樹脂は、冷却ロールを備えた巻き取り機(冷却ロール700mm幅×φ350mm、ロール温度30℃)にて冷却固化、巻取りし、実施例1〜2および比較例1〜8のシートを各々得た。メルトフローレートは、各シートを組成する樹脂組成物をブレンドした後の原料について、他の評価項目は、得られた各シートについて、以下の要領で評価を行った。
【0024】
<評価>
(1) メルトフローレート
各シートを構成する樹脂組成物のブレンド原料のメルトフローレートをJIS K7210(230℃、2.16kgf)に従って測定した。
【0025】
(2) 成形性
シート成形時の加工性、シート外観を確認し、良好なものは○、ひどく劣るもの、シート化できないものは×で示した。×は実用に供することができない。
【0026】
(3)難燃性の評価
シートから試験片(寸法:長さ350mm、幅150mm)を採取し、この試験片をFMVSS 302(米国連邦自動車安全規格による内装材料の可燃性)に従い燃焼させ、消えるまでの時間、消えるまでの燃焼距離を測定し、下記式(1)により燃焼速度を求め、該燃焼速度で難燃性を評価した。なお、燃焼速度の値が小さいほど難燃性が高い。
下記式(1)より得られる燃焼速度が7.5cm/cm未満を○、7.5cm/cm以上を×とした。
燃焼速度(cm/min)=燃焼距離(cm)/燃焼時間(min) ・・・(1)
【0027】
(4)耐摩耗性の評価
シートから試料(寸法:長さ60mm、幅50mm)を採取し、この試料を5φの金属棒に一重に巻きつけてシートを貼り合わせたものを試験片とし、90°、R0.125mmを持つ刃を毎分50〜60回の速さで10mmの往復運動を行い、刃と導体が接触するまでの回数を測定し(スクレープ試験)、100回以上を○、100回未満を×とした。
【0028】
(5)柔軟性
JIS K7127に準じて、シートから採取した試験片(1号ダンベル)を23℃、60%RHの雰囲気下、引張試験機にて、引張速度:50mm/分で引っ張り、伸びが10%の時点での荷重を測定し、該荷重から10%モジュラス(N/10mm)求めた。
【表1】

【0029】
尚、実施例、比較例において各樹脂および配合剤は、具体的にはそれぞれ次の通りである。
(A)−1;ブロックPP(日本ポリプロ(株)社製、ノバテックPP BC3HF)
(A)−2;ブロックPP(日本ポリプロ(株)社製、ノバテックPP BC8)
(A)−3;ブロックPP(日本ポリプロ(株)社製、ノバテックPP BC03B)
(B−1);オレフィン系エラストマー(ダウケミカル社製、バーシファイ 3300)
(B−2);スチレン系エラストマー(スチレン−エチレン・ブテン−スチレン共重合体(SEBS):旭化成ケミカルズ(株)社製、タフテック H1221)
(C);難燃剤(チバ・ジャパン社製 FLAMESTAB NOR116FF)
本発明に係る組成物は押出成形により外観の良好なシートを作成することができ、得られた本発明の基材シートは、難燃性、耐摩耗性及び柔軟性に優れる(実施例1〜2)。
【0030】
これに対し、比較例1、2のシートは、難燃性及び耐磨耗性は優れるものの、柔軟性が劣る。比較例3のシートは、耐磨耗性及び柔軟性は優れるものの、難燃性が劣る。比較例4のシートは、難燃性、耐摩耗性及び柔軟性に優れるものの、外観が劣る。比較例5のシートは、難燃性及び柔軟性に優れるものの、耐摩耗性が劣る。比較例6のシートは、耐摩耗性は優れるものの、難燃性及び柔軟性が劣る。比較例7〜8は加工性が悪くシートが得られない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリオレフィン系樹脂5〜70重量部、(B)熱可塑性エラストマー30〜95重量部、(A)及び(B)の合計量100重量部に対して、(C)難燃剤として下記一般式(1)で表される分子量2000以上のヒンダードアミン誘導体0.5〜3重量部を含む樹脂組成物を成形して得られるシートであって、厚みが0.2〜0.5mm、かつ10%モジュラスが5〜25N/10mmであることを特徴とする難燃性樹脂シート。
【化1】

【請求項2】
前記樹脂組成物のメルトフローレート(JIS K7210、230℃、2.16kgf)が3〜15g/10分である請求項1記載の難燃性樹脂シート。
【請求項3】
請求項1又は2記載の難燃性樹脂シートを有するワイヤーハーネスプロテクトシート。

【公開番号】特開2010−275383(P2010−275383A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−127530(P2009−127530)
【出願日】平成21年5月27日(2009.5.27)
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【Fターム(参考)】