説明

難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂粒子、その製造方法、発泡粒子及び発泡成形体

【課題】断熱性と難燃性を有する発泡成形体を与えうる難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を提供することを課題とする。
【解決手段】有機臭素系難燃剤を含有する難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂粒子であって、前記難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の断面を電子プローブマイクロアナライザー(EPMA)でライン分析した際に、前記有機臭素系難燃剤を構成するBr元素のX線強度値の最大値と最小値との関係が、最大値/最小値≦2.0を示すように、前記難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂粒子中に存在していることを特徴とする難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂粒子により上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂粒子、その製造方法、発泡粒子及び発泡成形体に関する。更に詳しくは、本発明は、有機臭素系難燃剤が均一に存在した難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂粒子、その製造方法、発泡粒子及び発泡成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、発泡成形体を製造するための原料である発泡性粒子として、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子が汎用されている。この発泡性ポリスチレン系樹脂粒子から得られた発泡成形体は、施工性が高く、断熱性が良好である観点から、貯湯タンクや配管の保温材、屋根用断熱材、自動車部材、ソーラーシステム用保温材等に使用されている。
中でも給湯器の貯湯タンク用の保温材に使用される発泡成形体には、貯湯タンクからの放熱ロスを低減させて給湯器の効率を高めること、一定の基準の断熱性をクリアすること、一定の基準の難燃性能を満たすことが要求されている。この要求に応じるために、発泡成形体の製造用の発泡性ポリスチレン系樹脂粒子として難燃剤が含有されたものが用いられる。
【0003】
発泡性ポリスチレン系樹脂粒子へ難燃剤を含有させる方法としては、難燃剤をスチレン系単量体と共に重合時に添加する方法、ポリスチレン系樹脂粒子に発泡剤を含浸させる際に難燃剤を添加する方法等が採用されている。前者の方法としては、特開2003−335891号公報(特許文献1)及び特開2002−194130号公報(特許文献2)に記載された方法があり、後者の方法としては特公平6−18918号公報(特許文献3)、特開2007−246606号公報(特許文献4)及び特開2010−84011号公報(特許文献5)に記載された方法がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−335891号公報
【特許文献2】特開2002−194130号公報
【特許文献3】特公平6−18918号公報
【特許文献4】特開2007−246606号公報
【特許文献5】特開2010−84011号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1〜4では、難燃剤の発泡性ポリスチレン系樹脂粒子中で含有形態が全く検討されていない。また、特許文献5では、難燃剤が均一に分散した発泡性ポリスチレン系樹脂粒子が得られるとされているが、更なる難燃性の改善のためにより均一に難燃剤が存在する発泡性ポリスチレン系樹脂粒子が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の発明者は、前記の課題に鑑み、難燃剤を発泡性ポリスチレン系樹脂粒子に均一に存在させれば、十分な難燃性を発泡成形体に与えうることを意外にも見出し、本発明に至った。
かくして本発明によれは、有機臭素系難燃剤を含有する難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂粒子であって、前記難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の断面を電子プローブマイクロアナライザー(EPMA)でライン分析した際に、
前記有機臭素系難燃剤を構成するBr元素のX線強度値の最大値と最小値との関係が、最大値/最小値≦2.0を示すように、前記難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂粒子中に存在していることを特徴とする難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂粒子が提供される。
【0007】
また、本発明によれば、上記発泡性粒子を発泡して得られる発泡粒子が提供される。
更に、上記発泡粒子を、発泡成形させて得られた発泡成形体が提供される。
また、上記難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の製造方法であり、
発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を保持した閉鎖可能な容器中に、有機臭素系難燃剤を60分以下の時間で添加した後、得られた混合物中の前記発泡性ポリスチレン系樹脂粒子に、発泡剤を含浸することにより、難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を得ることを特徴とする難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、難燃剤を発泡性ポリスチレン系樹脂粒子に均一に存在させることで、十分な断熱性と難燃性を有する発泡成形体を与えうる難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を提供できる。また、この粒子から得られた発泡粒子や発泡成形体の難燃性も向上できる。
また、有機臭素系難燃剤が、テトラブロモシクロオクタンである場合、より断熱性と難燃性を有する発泡成形体を与えうる難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を提供できる。
更に、有機臭素系難燃剤が、難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂粒子100重量部に対して、0.3〜2.0重量部含有されている場合、より断熱性と難燃性を有する発泡成形体を与えうる難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂粒子)
難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂粒子(以下、難燃性発泡性粒子ともいう)は、有機臭素系難燃剤を含有する難燃性発泡性粒子である。難燃性発泡性粒子は、発泡性粒子に有機臭素系難燃剤を含浸させることにより得られる。尚、以下で「発泡性粒子」というときは、難燃剤含浸前の発泡性粒子を意味することとする。発泡性粒子は、ポリスチレン系樹脂と発泡剤とから少なくとも構成される。
【0010】
難燃性発泡性粒子は、有機臭素系難燃剤が均一に存在していることを特徴の1つとしている。
有機臭素系難燃剤が均一に存在していることは、この難燃剤を構成するBr元素のX線強度値を測定することで表現される。具体的な測定方法は、実施例の欄に記載するが、要点を下記する。即ち、粒子を切断することで得られた断面において、表面と中心との間のBr元素のX線強度値を、電子プローブマイクロアナライザー(EPMA)によりプロットする(ライン分析)。得られたプロット中から算出により、Br元素のX線強度値の最大値と最小値を得ることができる。2つのBr元素のX線強度値から(最大値)/(最小値)を算出することで、難燃剤が均一に存在する程度が分かる。
【0011】
本発明においては、(最大値)/(最小値)の算出値が、2.0以下であることが好ましい。算出値が2.0より大きい場合、粒子中に難燃剤が均一に吸収されていないことがある。算出値は、1.8以下であることが更に好ましい。
また、Br元素のX線強度値は、0カウントより大きく、150カウント以下の範囲であることが好ましい。Br元素のX線強度値が150カウントより大きい場合、難燃剤が粒子中に均一に吸収されないことがある。より好ましいBr元素のX線強度値の下限は、1カウントである。
【0012】
(1)有機臭素系難燃剤
有機臭素系難燃剤(単に、難燃剤ともいう)は、臭素原子を構成元素として含む有機系の難燃剤であれば特に限定されない。例えば、テトラブロモシクロオクタン、ヘキサブロモシクロドデカン、トリスジブロモプロピルホスフェート、テトラブロモビスフェノールA、テトラブロモビスフェノールA−ビス(2,3−ジブロモ−2−メチルプロピルエーテル)、テトラブロモビスフェノールA−ビス(2,3−ジブロモプロピルエーテル)等が挙げられる。
上記難燃剤の内、テトラブロモシクロオクタンが生体への影響がより少ない観点から好ましい。
【0013】
難燃剤は、難燃性発泡性粒子中に均一に存在しているが、トータルの難燃剤の含有量は、難燃性発泡性粒子100重量部に対して、0.3〜2.0重量部の範囲であることが好ましい。含有量が0.3重量部未満の場合、十分な難燃性の向上効果が得られないことがある。含有量が2.0重量部より多い場合、難燃剤の含有量に応じた難燃性の向上効果が小さいため、製造コストが高くつくことがある。
【0014】
(2)発泡性粒子
発泡性粒子は、ポリスチレン系樹脂と発泡剤とから少なくとも構成される。
(i)ポリスチレン系樹脂
ポリスチレン系樹脂としては、特に限定されず、公知の樹脂をいずれも使用できる。例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、クロロスチレン、エチルスチレン、イソプロピルスチレン、ジメチルスチレン、ブロモスチレン等のスチレン系単量体由来の樹脂が挙げられる。ポリスチレン系樹脂は、これら単量体の一種類から由来する樹脂でも、複数種の混合物から由来する樹脂であってもよい。また、ポリスチレン系樹脂は、ジビニルベンゼン、アルキレングリコールジメタクリレート等の多官能性単量体に由来する架橋成分を含んでいてもよい。
【0015】
ポリスチレン系樹脂には、他の樹脂が含まれていてもよい。他の樹脂は、スチレン系単量体との共重合の形態で含まれていてもよく、非共重合の形態で含まれていてもよい。
他の樹脂としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレート等の炭素数1〜8のアルキル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロニトリル、ジメチルマレエート、ジメチルフマレート、ジエチルフマレート、エチルフマレート、無水マレイン酸、N−ビニルカルバゾール等の非スチレン系単量体に由来する樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル等が挙げられる。
【0016】
(ii)発泡剤
発泡剤としては、特に限定されず、公知のものをいずれも使用できる。特に、沸点がポリスチレン系樹脂の軟化点以下であり、常圧でガス状又は液状の有機化合物が適している。例えばプロパン、n−ブタン、イソブタン、n−ペンタン、イソペンタン、ネオペンタン、シクロペンタン、シクロペンタジエン、n−ヘキサン、石油エーテル等の炭化水素、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、メチルエチルエーテル等の低沸点のエーテル化合物、トリクロロモノフルオロメタン、ジクロロジフルオロメタン等のハロゲン含有炭化水素、炭酸ガス、窒素、アンモニア等の無機ガス等が挙げられる。これらの発泡剤は、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。この内、炭化水素を使用するのが、オゾン層の破壊を防止する観点、及び空気と速く置換し、発泡成形体の経時変化を抑制する観点で好ましい。炭素水素の内、プロパン、n−ブタン、イソブタン、n−ペンタン、イソペンタン等が更に好ましい。
【0017】
発泡剤は、ポリスチレン系樹脂100重量部に対して、3〜20重量部含まれていることが好ましい。含有量が3重量未満の場合、十分な発泡性が得られないことがある。20重量部より多い場合、多量の含有による発泡性の向上効果が得られず、製造コストが上昇するため好ましくない。
【0018】
(iii)その他
ポリスチレン系樹脂には、物性を損なわない範囲内において、難燃助剤、可塑剤、滑剤、結合防止剤、融着促進剤、帯電防止剤、展着剤、気泡調整剤、架橋剤、充填剤、着色剤等の添加剤が含まれていてもよい。
難燃助剤としては、2,3−ジメチル−2,3−ジフェニルブタン、3,4−ジメチル−3,4−ジフェニルヘキサンや、ジクミルパーオキサイド、クメンヒドロパーオキサイドの有機過酸化物が挙げられる。
可塑剤としては、フタル酸エステルや、グリセリンジアセトモノラウレート、グリセリントリステアレート、ジアセチル化グリセリンモノステアレート等のグリセリン脂肪酸エステル、ジイソブチルアジペートのようなアジピン酸エステル等が挙げられる。
滑剤としては、パラフィンワックス、高級脂肪酸の金属塩(例えば、ステアリン酸亜鉛)等が挙げられる。
【0019】
結合防止剤としては、炭酸カルシウム、シリカ、ステアリン酸亜鉛、水酸化アルミニウム、エチレンビスステアリン酸アミド、第三リン酸カルシウム、ジメチルシリコン等が挙げられる。
融着促進剤としては、ステアリン酸、ステアリン酸トリグリセリド、ヒドロキシステアリン酸トリグリセリド、ステアリン酸ソルビタンエステル、ポリエチレンワックス等が挙げられる。
展着剤としては、ポリブテン、ポリエチレングリコール、シリコンオイル等が挙げられる。
気泡調整剤としては、メタクリル酸エステル系共重合ポリマー、エチレンビスステアリン酸アミド、ポリエチレンワックス、エチレン−酢酸ビニル共重合体等が挙げられる。
【0020】
(3)難燃性発泡性粒子の形状
難燃性発泡性粒子の形状は特に限定されない。例えば、球状、円柱状等が挙げられる。この内、球状であるのが好ましい。難燃性発泡性粒子の平均粒子径は、用途に応じて適宜選択でき、例えば、0.2mm〜5mmの平均粒子径のものを使用できる。また、成形型内への充填性等を考慮すると、平均粒子径は、0.3mm〜2mmがより好ましく、0.3mm〜1.4mmが更に好ましい。
【0021】
(難燃性発泡性粒子の製造方法)
難燃性発泡性粒子は、例えば、
(a)水性媒体中にポリスチレン系樹脂種粒子(以下種粒子)を分散させ、これにスチレン系単量体を連続的又は断続的に供給して種粒子に含浸させ、重合開始剤の存在下で懸濁重合し、得られた粒子に難燃剤を接触させた後、発泡剤を含浸させる方法、いわゆるシード重合法によって得られた粒子、あるいは
(b)スチレン系単量体を連続的又は断続的に水性媒体中に供給して重合開始剤の存在下で懸濁重合し、得られた粒子に難燃剤を接触させた後、発泡剤を含浸させる方法、いわゆる懸濁重合法によって得られた粒子
等を使用できる。前者のシード重合法が、より均一な粒子径の難燃性発泡性粒子が得られる観点から好ましい。シード重合法について、以下で説明する。
【0022】
(1)種粒子
種粒子は、公知の方法で製造されたものを用いることができ、例えば、(i)ポリスチレン系樹脂を押出機で溶融混練し、ストランド状に押し出し、ストランドをカットすることにより種粒子を得る押出方法、(ii)水性媒体、スチレン系単量体及び重合開始剤をオートクレーブ内に供給し、オートクレーブ内において加熱、攪拌しながらスチレン系単量体を懸濁重合させて種粒子を製造する懸濁重合法、(iii)水性媒体及びポリスチレン系樹脂粒子をオートクレーブ内に供給し、ポリスチレン系樹脂粒子を水性媒体中に分散させた後、オートクレーブ内を加熱、攪拌しながらスチレン系単量体を連続的にあるいは断続的に供給して、ポリスチレン系樹脂粒子にスチレン系単量体を吸収させつつ重合開始剤の存在下にて重合させて種粒子を製造するシード重合法等が挙げられる。
【0023】
また、種粒子は一部、又は全部に樹脂回収品を用いることができる。回収品を使用する場合は、押出方法による種粒子の製造が向いている。
種粒子の平均粒子径は、樹脂粒子の平均粒子径に応じて適宜調整できる。更に、種粒子の重量平均分子量は特に限定されないが10万〜70万が好ましく、更に好ましくは15万〜50万である。
【0024】
(2)含浸工程
種粒子を水性媒体中に分散させてなる分散液中に、スチレン系単量体を供給することで、各単量体を種粒子に吸収させる。スチレン系単量体の量は、樹脂粒子中に含まれるスチレン系樹脂成分の量にほぼ対応している。
水性媒体としては、水、水と水溶性溶媒(例えば、アルコール)との混合媒体が挙げられる。
【0025】
使用するスチレン系単量体には、重合開始剤を含ませてもよい。重合開始剤としては、従来からスチレン系単量体の重合に用いられているものであれば、特に限定されない。例えば、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシベンゾエート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、ラウリルパーオキサイド、t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシピバレート、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、t−ブチルパーオキシアセテート、2,2−t−ブチルパーオキシブタン、t−ブチルパーオキシ−3,3,5−トリメチルヘキサノエート、ジ−t−ブチルパーオキシヘキサハイドロテレフタレート等の有機過酸化物、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスジメチルバレロニトリル等のアゾ化合物等が挙げられる。これら開始剤の内、残存単量体を低減させるために、10時間の半減期を得るための分解温度が80〜120℃にある異なった二種以上の重合開始剤を併用することが好ましい。尚、重合開始剤は単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0026】
水性媒体中には、スチレン系単量体の小滴及び種粒子の分散を安定させるために懸濁安定剤が含まれていてもよい。懸濁安定剤としては、従来からスチレン系単量体の懸濁重合に用いられているものであれば、特に限定されない。例えば、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン等の水溶性高分子、第三リン酸カルシウム、ピロリン酸マグネシウム、酸化マグネシウム等の難溶性無機化合物等が挙げられる。そして、前記懸濁安定剤として難溶性無機化合物を用いる場合には、アニオン界面活性剤を併用するのが好ましく、このようなアニオン界面活性剤としては、例えば、脂肪酸石鹸、N−アシルアミノ酸又はその塩、アルキルエーテルカルボン酸塩等のカルボン酸塩、アルキルベンゼンスルフォン酸塩、アルキルナフタレンスルフォン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸エステル塩、アルキルスルホ酢酸塩、α−オレフィンスルフォン酸塩等のスルフォン酸塩;高級アルコール硫酸エステル塩、第二級高級アルコール硫酸エステル塩、アルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸塩等の硫酸エステル塩;アルキルエーテルリン酸エステル塩、アルキルリン酸エステル塩等のリン酸エステル塩等が挙げられる。
【0027】
(3)重合工程
重合工程は、使用する単量体種、重合開始剤種、重合雰囲気種等により異なるが、通常、70〜130℃の加熱を、3〜10時間維持することにより行われる。重合工程は、単量体を含浸させつつ行ってもよい。
重合工程は、使用する単量体全量を1段階で重合させてもよく、2段階以上に分けて重合させてもよい。2段階以上に分けて重合させる場合、通常、含浸工程も2段階に分けて行われる。2段階以上に分けた重合工程の重合温度及び時間は、同一であっても、異なっていてもよい。重合工程は2段階であることが好ましい。
【0028】
2段階で行われる場合、次のように重合工程を調整することが好ましい。
まず、ポリスチレン系樹脂の種粒子に、スチレン系単量体を吸収させて前記種粒子内で重合させる(第1工程)。
次に、第1工程を経て得られた粒子に、再度スチレン系単量体を吸収させつつ重合を行う(第2工程)。
また、第1工程で使用するスチレン系単量体の使用量は、第2工程で使用するスチレン系単量体の使用量の20倍未満であることが好ましい。
【0029】
(4)難燃剤の添加
難燃剤は、ポリスチレン系樹脂粒子を保持した閉鎖可能な容器中に、60分以下の時間で添加される。この時間の範囲で難燃剤を添加することで、以下の工程を経て、均一に難燃剤が存在した難燃性発泡性粒子を得ることができる。難燃剤の添加量は、ポリスチレン系樹脂粒子100重量部に対して、0.3〜2.0重量部の範囲であることが好ましい。
添加時間の上限は、製造コストの観点から、60分以内であることが好ましい。より好ましい添加時間は、1〜60分の範囲である。
【0030】
(5)発泡剤の含浸
発泡剤の含浸を経て、難燃性発泡性粒子が得られる。
発泡剤の含浸は、湿式又は乾式で行ってもよく、常圧下又は加圧下で行ってもよい。
発泡剤の含浸温度は、60〜120℃が好ましい。60℃より低いと、樹脂粒子に発泡剤を含浸させるのに要する時間が長くなって生産効率が低下することがある。また、120℃より高いと、樹脂粒子同士が融着して結合粒が発生することがある。より好ましい含浸温度は、70〜110℃である。
発泡助剤を、発泡剤と併用してもよい。発泡助剤としては、アジピン酸イソブチル、トルエン、シクロヘキサン、エチルベンゼン等が挙げられる。
(6)その他
難燃性発泡性粒子の製造中、難燃助剤、可塑剤、滑剤、結合防止剤、融着促進剤、帯電防止剤、展着剤、気泡調整剤、架橋剤、充填剤、着色剤等の添加剤を適切な段階で使用してもよい。
【0031】
(発泡粒子)
発泡粒子は、水蒸気等を用いて所望の嵩倍数に難燃性発泡性粒子を発泡させることで得られる。発泡粒子は、クッションの充填材等の用途ではそのまま使用でき、更に型内発泡させるための発泡成形体の原料として使用できる。発泡成形体の原料の場合、発泡粒子は予備発泡粒子と、発泡粒子を得るための発泡は予備発泡と、通常称される。
発泡粒子の嵩倍数は、2〜100倍の範囲であることが好ましい。発泡粒子の嵩倍数が100倍より大きい場合、次に得られる発泡成形体に収縮が発生して外観性が低下することがある。加えて発泡成形体の断熱性能及び機械的強度が低下することがある。一方、嵩倍数が2倍より小さい場合、発泡成形体の軽量性が低下することがある。
【0032】
尚、発泡前に、難燃性発泡性粒子の表面に、ステアリン酸亜鉛、ヒドロキシステアリン酸トリグリセリド、中鎖飽和脂肪酸トリグリセライド、硬化牛脂アミド等の粉末状金属石鹸類を塗布しておくことが好ましい。塗布しておくことで、難燃性発泡性粒子の発泡工程において発泡粒子同士の結合を減少できる。
【0033】
(発泡成形体)
発泡成形体は、例えば、魚箱、農産箱、食品用容器、家電製品等の緩衝剤、建材用断熱材等に使用できる。
発泡成形体の倍数は、2〜100倍の範囲であることが好ましい。発泡成形体の倍数が100倍より大きい場合、発泡成形体に収縮が発生して外観性が低下することがある。加えて発泡成形体の断熱性能及び機械的強度が低下することがある。一方、倍数が2倍より小さい場合、発泡成形体の軽量性が低下することがある。
【0034】
発泡成形体は、発泡粒子を多数の小孔を有する閉鎖金型内に充填し、熱媒体(例えば、加圧水蒸気等)で加熱発泡させ、発泡粒子間の空隙を埋めると共に、発泡粒子を相互に融着させることにより一体化させることで、製造できる。その際、発泡成形体の密度は、例えば、金型内への発泡粒子の充填量を調製する等して調製できる。
発泡粒子は、発泡成形体の成形前に、例えば常圧で、熟成させてもよい。発泡粒子の熟成温度は、20〜60℃が好ましい。熟成温度が低いと、発泡粒子の熟成時間が長くなることがある。一方、高いと、発泡粒子中の発泡剤が散逸して成形性が低下することがある。
【実施例】
【0035】
以下、実施例によって本発明の具体例を示すが、以下の実施例は本発明の例示にすぎず、本発明は以下の実施例のみに限定されない。尚、実施例及び比較例の各種測定方法を以下で説明する。
(難燃性発泡性粒子中のBr元素のX線強度値)
難燃性発泡性粒子を略二等分になるように切断する。表面から中心までを含む断面についてEPMA(島津製作所社製EPMA−1610)を用いて、測定距離2mm、ビーム径1μmでBr元素のX線強度値のライン分析を行なう。分析結果から、Br元素のX線強度値(カウント)の最大値と最小値を読み取る。読み取った値から(最大値)/(最小値)の値を算出することで、Br元素の均一存在具合を評価する。Br元素は添加した難燃剤を構成する成分であるとし、Br元素強度値の均一存在具合を難燃剤の均一存在具合とした。
尚、上記以外の測定条件を下記する。
加速電圧:15kv
ビーム電流:50nA
ビーム径:Φ1μm
測定時間:100msec/point
測定範囲:1μmステップ、1000point、約1000μmの範囲
測定元素:Br(BrLα:Wavelength(Å):8.392)
【0036】
(熱融着性)
300mm×400mm×30mmの発泡成形体を24時間乾燥させた後、長さ方向の中央部で半分に破断する。その破断面における発泡粒子について、100〜150個の任意の範囲について粒子内で破断している粒子の数(a)と粒子どうしの界面で破断している粒子の数(b)とを数え、式[(a)/((a)十(b))]×100に代入して得られた値を融着率(%)とする。評価基準は、融着率70%以上を良好(○)とし、70%未満を不良(×)とする。
【0037】
(発泡成形体の外観)
発泡成形体の外観を目視観察し下記の基準に基づいて評価する。
良好(○)・・・発泡粒子同士の融着部分が平滑である。
不良(×)・・・発泡粒子同士の融着部分に凹凸が発生している。
【0038】
(難燃性)
発泡成形体から縦200mm×横25mm×高さ10mmの直方体形状の試験片5個をバーチカルカッターにて切り出す。試験片を、60℃オーブンで1日間養生後、JIS A9511−2006の測定方法Aに準じて消炎時間を測定する。5個の試験片の消炎時間の平均値を平均消炎時間とする。平均消炎時間を下記基準に基づいて総合的に評価する。尚、前記JIS規格では消炎時間が3秒以内の必要があり、2秒以内であれば好ましく、1秒以内であればより好ましい。
難燃性不良(×):平均消炎時間が3秒を超えているか、又は、試験片の1個でも残じんがあるかもしくは燃焼限界指示線を超えて燃焼する。
難燃性良好(○):平均消炎時間が3秒以内であり、5個のサンプル全てにおいて、残じんがなく燃焼限界指示線を超えて燃焼しない。
難燃性極めて良好(◎):平均消炎時間が1秒以内であり、5個のサンプル全てにおいて、残じんがなく燃焼限界指示線を超えて燃焼しない。
【0039】
(予備発泡粒子の嵩倍数)
予備発泡粒子を測定試料としてWkg採取し、この測定試料をメスシリンダー内に自然落下させた後、メスシリンダーの底をたたいて試料の見掛け体積(V)m3を一定にし、その質量と体積を測定し、下記式に基づいて予備発泡粒子の嵩倍数を測定する。
嵩倍数(倍)=測定試料の体積(V)/測定試料の質量(W)
【0040】
(発泡成形体の倍数)
発泡成形体(成形後、40℃で20時間以上乾燥させたもの)から切り出した試験片(例75×300×35mm)の質量(a)と体積(b)をそれぞれ有効数字3桁以上になるように測定し、式(b)/(a)により発泡成形体の倍数(倍)を求める。
【0041】
実施例1
(第1重合)
撹拌装置を備えたステンレス製の内容量100リットルのオートクレーブ内にイオン交換水40kg中に、攪拌しながら、スチレン単量体40kg、リン酸三カルシウム(ブーデンハイム社製 商品名「C13−09」)40g、過硫酸カリウム0.5g、純度75重量%のベンゾイルパーオキサイド140g及びt−ブチルパーオキシベンゾエート30gを供給して懸濁液を作製した。
次に、上記懸濁液を200RPMの攪拌速度で撹拌しながら1時間かけて90℃に昇温し、懸濁液を90℃で6時間に亘って保持して重合した。この後、オートクレーブ内の温度を125℃まで昇温し、125℃で2時間15分に亘って保持することによって、スチレン単量体を懸濁重合した。
【0042】
次いで、オートクレーブ内の温度を25℃まで冷却し、オートクレーブ内からポリスチレン粒子を取り出した。取り出した粒子を洗浄、脱水を複数回に亘って繰り返し行い、乾燥工程を経て、ポリスチレン粒子を得た。得られたポリスチレン粒子を分級して、粒子径が0.2〜1.2mmでかつ重量平均分子量が30万の種粒子を得た。
【0043】
(第2重合・含浸工程)
次に、別の100リットルの攪拌機付オートクレーブにイオン交換水30kg、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム4g、ピロリン酸マグネシウム100gを供給した後、オートクレーブ内に種粒子11kgを供給して攪拌して水中に均一に分散させた。
また、イオン交換水6kgにドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム2g及びピロリン酸マグネシウム20gを分散させてなる分散液を作製した。一方、スチレン単量体5kgに重合開始剤のベンゾイルパーオキサイド(純度75%)132g及びt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキシルモノカーボネート50gを溶解させてなるスチレン単量体溶液を作製した。このスチレン単量体溶液を上記分散液に添加してホモミキサーを用いて攪拌して乳濁化させて乳濁液を得た。
【0044】
そして、オートクレーブ内を75℃に加熱、保持した上でオートクレーブ内に上記乳濁液を添加し、種粒子中にスチレン単量体及びベンゾイルパーオキサイドが円滑に吸収されるように30分間に亘って保持した。この後、オートクレーブ内を75℃から108℃まで0.2℃/分の昇温速度で昇温しながら、オートクレーブ内にスチレン単量体28kgを160分かけて連続的に滴下した。次に、スチレン単量体の滴下が終了してから20分後に、1℃/分の昇温速度で120℃まで昇温して90分間に亘って保持してシード重合法によりポリスチレン粒子を得た。スチレン単量体は全て重合に用いられていた。
【0045】
また、難燃剤としてテトラブロモシクロオクタン(第一工業製薬社製 商品名「ピロガードFR−200」)440gに流動化剤としてシリカ(日本アエロジル社製 商品名「AEROSIL200」)を2.24g加えて乾式混合し(例えばヘンシェルミキサー)難燃剤Aを作製した。
更に、可塑剤であるアジピン酸ジイソブチル(DIBA)(田岡化学工業社製 商品名「DI4A」)を90℃に加熱した。これを攪拌しながら、難燃剤Aを440g、難燃助剤としてジクミルパーオキサイド(1時間半減期温度:136℃を)を140g供給した。難燃剤AがDIBAに完全に溶解して透明になるまで攪拌して難燃剤溶解液を作製した。
【0046】
イオン交換水2kgにドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム6g及び複分解法で得られたピロリン酸マグネシウム112gを供給して攪拌した上で50℃に加熱した。この温度を保持しつつ、上記イオン交換水中に難燃剤溶解液を加え、ホモミキサー(特殊機化工業社製 T.K.ホモミクサーMARK II fmodel)を用いて7000rpmで30分間に旦って攪拌した。この攪拌により、難燃剤溶解液をイオン交換水中に分散させて難燃剤溶解液の分散体を形成した。
【0047】
次にオートクレーブ内を1℃/分の降温速度にて50℃まで冷却した上で、上記難燃剤溶解液を50分かけてオートクレーブ内に供給し、供給後から30分経過後にオートクレーブを密閉した。この後、発泡剤としてブタン(イソブタン/ノルマルブタン(重量比)=30/70)3600gを窒素加圧によってオートクレーブ内に30分間で圧入し、オートクレーブ内を100℃まで昇温させその温度で2時間30分保持した。
【0048】
しかる後、オートクレーブ内を25℃まで冷却し、オートクレーブ内から粒子を取り出して洗浄、脱水を複数回に亘って繰り返し行った。次いで、乾燥工程を経た後、粒子を分級して粒子径が0.30〜1.4mm、平均粒子径が1.0mmの難燃性発泡性粒子を得た。尚、難燃剤Aは全てポリスチレン粒子に含浸されていた。
【0049】
(表面処理・予備発泡工程)
得られた難燃性発泡性粒子を4日間15℃で放置し熟成させた後、難燃性発泡性粒子の表面に表面処理剤としてジンクステアレート及びヒドロキシステアリン酸トリグリセライドを被覆処理した上で予備発泡工程に付した。予備発泡工程の条件は、難燃性発泡性ポリスチレン粒子を予備発泡機に投入し、水蒸気を用いて予備発泡させた。この予備発泡により嵩倍数50倍の予備発泡粒子を得た。
【0050】
(発泡成形体の製造)
予備発泡粒子を24時間常温で放置し、熟成させ、内寸300mm×400mm×30mmの直方体形状のキャビティを有する成形型を備えた発泡ビーズ自動成形機発泡成形機(積水工機社製 商品名「ACE−3SP」)の型内に充填し、0.7kg/cm2の水蒸気で20秒加熱し、10秒間冷却することで300×400×30mmの発泡倍数50倍の難燃性発泡成形体を得た。得られた発泡成形体は収縮もなく、外観良好のものであった。
【0051】
実施例2
難燃剤としてテトラブロモシクロオクタン440gを200g添加したこと以外は実施例1と同様に実施した。
実施例3
難燃剤としてテトラブロモシクロオクタン440gを720g添加したこと以外は実施例1と同様に実施した。
【0052】
比較例1
難燃剤としてテトラブロモシクロオクタン440gを120g添加したこと以外は実施例1と同様に実施した。
比較例2
難燃剤としてテトラブロモシクロオクタン440gを1000g添加したこと以外は実施例1と同様に実施した。
比較例3
難燃剤としてテトラブロモシクロオクタン440gを添加しなかったこと以外は実施例1と同様に実施した。
実施例及び比較例の結果を表1に示す。
【0053】
【表1】

【0054】
表1から、有機臭素系難燃剤が、特定の範囲で均一に存在している場合、外観、熱融着性及び難燃性の全てにおいて優れた難燃性発泡性粒子が得られていることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機臭素系難燃剤を含有する難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂粒子であって、前記難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の断面を電子プローブマイクロアナライザー(EPMA)でライン分析した際に、
前記有機臭素系難燃剤を構成するBr元素のX線強度値の最大値と最小値との関係が、最大値/最小値≦2.0を示すように、前記難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂粒子中に存在していることを特徴とする難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂粒子。
【請求項2】
前記有機臭素系難燃剤が、テトラブロモシクロオクタンである請求項1に記載の難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂粒子。
【請求項3】
前記有機臭素系難燃剤が、前記難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂粒子100重量部に対して、0.3〜2.0重量部含有されている請求項1又は2に記載の難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂粒子。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1つに記載の難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を発泡して得られる発泡粒子。
【請求項5】
請求項4に記載の発泡粒子を、発泡成形させて得られた発泡成形体。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれか1つに記載の難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の製造方法であり、
発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を保持した閉鎖可能な容器中に、有機臭素系難燃剤を60分以下の時間で添加した後、得られた混合物中の前記発泡性ポリスチレン系樹脂粒子に、発泡剤を含浸することにより、難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を得ることを特徴とする難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の製造方法。

【公開番号】特開2013−76021(P2013−76021A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−217643(P2011−217643)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000002440)積水化成品工業株式会社 (1,335)
【Fターム(参考)】