説明

雨樋

【課題】外表面に形成された光触媒層がクラックを発生しない雨樋を提供する。
【解決手段】雨樋の外表面に厚さ5〜35nmの光触媒層5を設けた構成の雨樋T1とする。この場合、光触媒層5は雨樋を構成する基材4に接着層51と保護層52を介して積層一体化することが好ましい。かかる雨樋は、外気温の変化により熱伸縮をしても、この熱伸縮に光触媒層5が追従してクラックを生じることがない。また、雨樋の外表面に、多孔質無機材で光触媒粒子を被覆した複合光触媒粒子が分散された光触媒層を設けた構成の雨樋としてもよい。この場合、光触媒層は耐候性樹脂中に複合光触媒粒子を分散させたものであることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光触媒機能を有する雨樋に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、セラミックや金属や合成樹脂などの基材の表面に光触媒層を形成し、光触媒機能を付与した種々の製品が開発されている。これらの製品は、表面に露出する光触媒粒子により、悪臭を分解したり、抗菌・防黴作用をなしたり、親水性を発揮したりするため、クーラーや掃除機や鏡等の家庭用品、自動車の部品、カーポートの屋根材等の建築資材、高速道路の防音板等の道路資材などに使用されている。
【0003】
一方、屋根に降った雨水を受けて流下させる雨樋は、化粧を兼ね備えたものが要求されてきているが、雨樋、特に軒樋の外表面に降雨した雨水が該外表面を伝わり落ちる際に、外表面に堆積している塵楳と共に伝わり落ちるために、この伝わり落ちる跡が汚れ筋となって外観を見苦しいものにしていた。
このため、雨樋の外表面に光触媒層を設け、外表面を親水化して塵楳を雨水と共に流れ落として上記の汚れ筋をなくそうとした雨樋が知られている(特許文献1)。この特許文献1の雨樋は、アクリルフィルムの表面に二酸化チタンとシリカ化合物とを含む塗液を塗布・乾燥して光触媒コートアクリルフィルムを形成し、当該フィルムを雨樋の表面に積層してなるものである。
【特許文献1】特開2003−62922号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の光触媒層は、塗液を0.1〜10g/mのコート量で塗布し、乾燥後の皮膜の厚さを0.04〜0.4μmにしたものである。一般的な雨樋は、合成樹脂により作製されていて、軒先に設置され夏冬或いは昼夜の外気温差により伸縮を繰り返すので、光触媒層もこの伸縮を繰り返すこととなる。しかしながら、上記の如く、光触媒層は二酸化チタンとシリカ化合物とよりなる無機組成物を厚さ0.04〜0.4μmに形成した層であるために、伸び縮みがし難くて、雨樋の伸縮に追従できずにクラックが発生する、という問題があった。
本発明は上記問題を解決するためになされたものであり、外表面に形成された光触媒層がクラックを発生しない雨樋を提供することを解決課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するため、本発明に係る第一の雨樋は、雨樋の外表面に、厚さ5〜35nmの光触媒層が設けられていることを特徴とするものである。
この第一の雨樋においては、光触媒層が、雨樋を構成する基材に接着層と保護層とを介して積層一体化されていることが好ましい。
【0006】
また、本発明に係る第二の雨樋は、雨樋の外表面に、多孔質無機材で光触媒粒子を被覆した複合光触媒粒子が分散された光触媒層が設けられていることを特徴とするものである。
この第二の雨樋においては、光触媒層が耐候性樹脂中に複合光触媒粒子を分散させたものであることが好ましい。
【0007】
さらに、本発明のこれらの雨樋は、雨樋が前壁と底壁と後壁とからなる軒樋であり、その少なくとも前壁の外表面に光触媒層が設けられていることが好ましく、また、雨樋が筒状の竪樋であり、その外表面に光触媒層が設けられていることも好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明の第一の雨樋は、雨樋の外表面に厚さ5〜35nmの光触媒層が設けられているので、雨樋が外気温の変化により熱伸縮をしても、この熱伸縮に光触媒層が追従してクラックを生じることがない。そのため、雨樋が微細クラックによって白く変色することがないし、光触媒機能も長期に亘り保持することができて雨樋の外表面を親水性にすることができるので、汚れが降雨時に洗い落とされて汚れ筋をなくして、外観を良好に保つことができる。
【0009】
この第一の雨樋の光触媒層が、雨樋を構成する基材に接着層と保護層とを介して積層一体化されていると、接着層により保護層及び光触媒層を雨樋基材に接着し、保護層により光触媒層の光触媒機能が接着層及び雨樋基材に作用するのを遮断して接着層と雨樋基材との劣化をなくし、長期に亘る耐久性を維持できる。
【0010】
本発明の第二の雨樋は、雨樋の外表面に光触媒粒子を多孔質無機材で被覆した複合光触媒粒子が分散された光触媒層を設けているので、複合光触媒粒子により光触媒機能が発揮されて汚れ筋をなくすことができる。さらに、複合光触媒粒子は光触媒粒子を多孔質無機材で被覆されたものであるので、樹脂中に混合させても当該樹脂が光触媒粒子に直接触れることがなくて光触媒機能により分解されることがない。そのため、複合光触媒粒子を樹脂に混合し成形するだけで光触媒層を簡単に形成することができ、光触媒層を設けた雨樋を効率よく得ることができる。
【0011】
この第二の雨樋の光触媒層が、複合光触媒粒子を耐候性樹脂中に分散させている場合には、光触媒層が太陽光に曝されることにより光触媒機能を発揮すると同時に、光触媒層自体の太陽光に対する劣化を防止することができ、長期に亘り光触媒機能を維持することができる。
【0012】
これらの雨樋が前壁と底壁と後壁とからなる軒樋であり、その少なくとも前壁の外表面に光触媒層が設けられていると、雨樋で一番太陽に曝されると共に汚れが一番目立つ前壁外表面が、光触媒機能が強く発揮されて汚れを洗い落とすことができて、外観を良好に維持することができる。また、雨樋が筒状の竪樋であり、その外表面に光触媒層が設けられていると、竪樋の外表面が光触媒機能を発揮し、その外表面の汚れを洗い落とすことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の具体的な実施形態を図面に基づいて説明するが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。
【0014】
図1は本発明に係る雨樋の一実施形態を示す一部拡大断面図である。
【0015】
図1に示す雨樋は、屋根から流れ落ちる雨水を受け止める軒樋T1であって、前壁1と底壁2と後壁3とよりなる上方が開口する略U状の断面形状の角軒樋であり、その前壁1の外表面と底壁2の外表面とに光触媒層5が設けられている。
【0016】
この軒樋T1は、塩化ビニル樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、全芳香族ポリアミドや全芳香族ポリエステル等の液晶ポリマー、ポリオレフィン樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリスチレン樹脂などの熱可塑性合成樹脂よりなる基材4、或は、鉄やアルミニウムなどの金属、ガラス繊維、カーボン繊維、紙材、フィラー、などを芯材とし、その両面に合成樹脂を被覆してなる基材4により作製されている。その中で、液晶ポリマー以外の上記熱可塑性合成樹脂で作製された基材4であると、外気温による熱伸縮が大きく、光触媒層5のクラックの発生をなくすことが特に必要になる。
【0017】
図1に示す軒樋T1は、前壁1の上端の内側には外耳部12が形成され、後壁3の上端の外側に内耳部31が形成されている。また、上記外耳部12の内下端を下方に延設した突片と前壁1上端の内壁とにより、下方に開口する吊持部13が形成されている。
このような軒樋T1は、これを吊持するための樋吊具(不図示)の先端の支持部により前記吊持部13が支持されると共に、樋吊具の後端の支持部により前記後耳部31が支持されて、屋根軒先に施工され固定される。
なお、軒樋T1の形状は、図1に示す形状に限定されるものではなく、前壁が湾弧状に傾斜した樋形状や、前壁に段差を有する樋形状や、半円形の樋形状などの他の種々の形状の軒樋が使用できる。
【0018】
軒樋T1の前壁1の外表面と底壁2の外表面に形成されている光触媒層5は、それぞれの基材4に接着層51と保護層52とを介して積層一体化されている。この前壁1の外表面は、施工された後に、人が一番よく目にする表面であるので、雨水の流れ落ちる汚れ筋をなくすのが最も必要な箇所であり、光触媒層5を形成し外表面を美麗にすることが少なくとも必要である。一方、底壁2の外表面は下方から見上げるとよく見える表面であり、前壁1を流れ落ちてきた雨水が該外表面から落下する際に汚れ筋となる表面でもあるので、該外表面も美麗にする必要がある。
【0019】
前記接着層51は、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、熱可塑性エポキシ系樹脂、シリコーン系樹脂などの接着性樹脂を用いて形成された層である。この接着層51は、軒樋基材4と保護層52とを接着して一体化するものであり、保護層52と基材4に使用される各材質を懸案して前記接着性樹脂の中から適宜選択されるが、いろいろな材質に良好に接着するアクリル系樹脂が最も好ましく用いられる。その厚みは0.1〜50μmに形成することが好ましい。0.1μmより薄いと接着性が乏しくなり剥離する恐れがあり、また50μmより厚いと接着性の向上がみられないので材料の無駄使いとなる。好ましい厚みは、1〜10μmである。
【0020】
保護層52は、光触媒層5の光触媒作用が接着層51や軒樋基材4に作用しなくするための層であり、シリカなどの無機物とポリジメチルシロキサンやアクリル樹脂やフッ素樹脂などのバインダー樹脂とを均一に混合させた組成物、或はシリコーン樹脂とアクリル樹脂との共重合樹脂などのように、無機物と有機物とからなる組成物で形成してなる無機−有機層、或はシリコーン樹脂が使用できる。そのため、この保護層52は光触媒層5に比べて無機物の量が少なく、伸縮や衝撃や捻りなどが加わってもクラックが生じることはない。この保護層52の厚みは0.01〜10μmに形成することが好ましい。0.01μmより薄いと光触媒機能の効果的な遮断ができず、接着層51や軒樋基材4に光触媒作用が及んで劣化させるし、10μmより厚くても遮断機能の更なる向上がみられないので材料の無駄使いとなる。より好ましい厚みは、0.5〜5μmである。
【0021】
これらの接着層51又は保護層52の少なくとも一方には紫外線吸収剤が含有されていて、紫外線を該接着層51或は保護層52で遮断して軒樋基材4が劣化・黄変するのを防止するのが好ましい。保護層52に紫外線吸収剤が含有されている場合は接着層51の劣化をも防ぎ、接着効果を長期に亘り維持させる効果も具備する。紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、トリアジン系、ベンゾエート系のもの、或は光安定剤(HALS)が用いられる。
【0022】
前記紫外線吸収剤の中でも、その分子量が390以上のものが好ましく用いられる。分子量が390以上の具体的な紫外線吸収剤としては、2,4−ジ−t−ブチルフェニル−3′,5′−ジ−t−ブチル−4′−ヒドロキシベンゾエート(分子量 438)、1,6−ビス(4−ベンゾール−3−ヒドロキシフェノキシ)−ヘキサン(分子量 510)、1,4−ビス(4−ベンゾール−3−ヒドロキシフェノキシ)−ブタン(分子量 483)、2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−〔(ヘキシル)オキシ〕フェノール(分子量 425)、2,4−ジ−t−ブチルフェニル−3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンゾエート(分子量 439)、メチル3−〔3−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−5−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル〕プロピオネートと分子量が約300のポリエチレングリコール300との反応生成物(分子量600)などのベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、トリアジン系、ベンゾエート系の紫外線吸収剤が好ましく用いられる。
【0023】
特に、分子量が500以上の紫外線吸収剤(例えば、メチル3−〔3−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−5−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル〕プロピオネートと分子量が約300のポリエチレングリコールとの反応生成物など)は、後述する移行がよりし難くなるので好ましい。分子量の上限は特に制限はないが、分子量が余り高いと溶剤に溶けにくいので、100000迄であることが好ましい。この紫外線吸収剤は、接着性樹脂或は保護層用樹脂100重量部に対して0.5〜1000重量部、好ましくは3〜100重量部添加含有される。
【0024】
これらの高分子量の紫外線吸収剤は、その分子量が390以上という高分子量があるがゆえに、これが含有されている接着層51或は保護層52からの移行がしにくく当該層内に留まることとなる。そのため、該紫外線吸収剤が光触媒層5に移行することがなく、揮散することもないので、光触媒機能が当初より発揮されるし、耐候性も長期に亘って維持できる。
【0025】
光触媒層5は、光触媒粒子とシリカ若しくはシリコーン樹脂が、また必要に応じて1質量%以下の分散剤やバインダーが、均一に分散されて形成された層であって、そこに含有されている光触媒粒子により親水性を発揮したり、悪臭を分解したり、抗菌・防黴作用をなしたりするなどの光触媒機能を発揮するものである。
【0026】
前記光触媒粒子は、光触媒機能を発揮できるものであれば特に限定されるものではないが、例えば酸化チタン、酸化亜鉛、酸化錫、SrTiO、WOなどの金属酸化物が用いられる。この中でも、酸化チタン、特にアナターゼ型酸化チタンは、光触媒機能を良好に発揮するし、入手もし易いので最も好ましく用いられる。この光触媒粒子は、光触媒層5の中に5〜50重量%含有されている。5重量%以下では光触媒機能を発揮させることが困難であるし、一方50重量%以上であっても光触媒機能がそれ以上向上せずに材料の無駄遣いとなる。
【0027】
前記シリカとしては、シリカ前駆体、水ガラスなどのシリカを主体とした無機材料、或はシリコーン樹脂が単独で或は組み合わせて用いられ、これらは光触媒機能が作用しても劣化することはない。このシリカなどは光触媒層5の中に95〜50重量%含有されていて、光触媒粒子と共に光触媒層5を形成するために使用されている。
【0028】
この光触媒層5の厚みは、5〜35nmにすることが必要である。好ましい厚さは10〜30nmである。
【0029】
該光触媒層5は、前記の如く、光触媒粒子とシリカ若しくはシリコーン樹脂とよりなる無機層であるので、該層内部の残留応力がある一定以上になると、クラックとなって応力を開放しようとする。この傾向は光触媒層5の厚みが厚くなるほど大きくなる傾向にある。そして、軒樋T1は前記の如く合成樹脂若しくは芯材に合成樹脂を被覆した基材4で作製してあり、軒先に固定されて軒樋T1が太陽光に曝されて熱伸縮を繰り返すので、光触媒層5の厚みが厚すぎると、軒樋基材4の熱伸縮に追従することができない。そのため、この熱伸縮に追従できない光触媒層5の内部応力が増大してクラックが発生し、外観的には白濁して色相が変化し、軒樋継ぎ手や集水器などの軒部品との色相差が著しくなるので実使用が困難となる。この傾向は、芯材を合成樹脂を被覆して作製した軒樋T1よりも、熱可塑性合成樹脂で作製した軒樋T1は熱伸縮が大きいので著しい。
【0030】
この欠点を解決するために、本発明者等は種々検討し試験した結果、光触媒層5の厚みを5〜35nmにすることで、光触媒層5の形成時の内部応力を少なくし、たとえ基材4が熱伸縮してもクラックが発生しないようにしたのである。
【0031】
しかし、厚みが5〜35nmと薄いので、厚みが厚い光触媒層に比べて光触媒機能に劣り、発明者等の実験の結果、ブラックライトブルー(BLB)ランプで1mW/cmの紫外線を24時間照射しても水との接触角は80〜50°しか示さない。しかし、72時間照射すると50〜5°にまで低下し親水性を示す。さらに照射を続けて168時間照射すると接触角が10°以下となり、高度の親水性を示す。
【0032】
一般に、水との接触角が40°以下の親水性を示せば防汚性を有すると言われているので、上記程度の親水性を有すれば、太陽光が良好に当たる軒樋では十分使用できる。即ち、軒樋を施工した後に直ちには塵楳が付着しないし、数日後に塵楳が付着しても既に十分太陽に曝されて親水性を発揮しているので、降雨時に、高度の親水性となった軒樋表面から洗い落とされるからである。
【0033】
光触媒層5の厚みが5nm以下であると、クラックは発生しないが、光触媒機能を発揮するまでの時間が非常に長くなり、太陽光に曝される軒樋T1であっても実用的でなくなるし、親水性の程度も低くなり、塵楳を洗い落とすことができなくなる。また、35nm以上になると基材4の伸縮に追従できずにクラックを生じることとなる。このように、クラックの発生防止と光触媒機能(親水性)とを兼備させた軒樋T1を得るためには、光触媒層5の厚みを5〜35nm、好ましくは10〜30nmにする必要があるのである。
【0034】
このような接着層51と保護層52と光触媒層5とを軒樋T1に積層一体化する方法は特に限定されないが、例えば次の方法が用いられる。
一つの方法は、光触媒粒子とシリカ若しくはシリコーン樹脂とを、必要に応じて分散剤やバインダー樹脂の少量(1重量%以下)と共に、溶剤若しくは水に均一に分散した光触媒層用塗料、接着性樹脂を溶剤に均一に分散した接着層用塗料、シリカなどの無機物と樹脂などの有機物とを溶剤に均一に分散した保護層用塗料をそれぞれ作製する。そして、軒樋T1の前壁1の外表面と底壁2の外表面とに、直接接着層用塗料を塗布して接着層51を形成し、その上に保護層用塗料を塗布して保護層52を形成し、その上に光触媒層用塗料を塗布して光触媒層5を形成することで、図1に一部拡大して示すような4層構造の光触媒機能を有する軒樋T1を得ることができる。
【0035】
他の方法は、アクリル系樹脂フィルムに前記保護層用塗料と前記光触媒層用塗料とを塗布して、該フィルムに保護層52、光触媒層5をこの順で形成したラミネートフィルムを作製する。そして、軒樋T1の前壁1の外表面と底壁2の外表面とに、該ラミネートフィルムのアクリル系樹脂フィルムが軒樋基材4側になるように重ねて加熱加圧してラミネートして接着することで、4層構造の光触媒機能を有する軒樋T1を得ることができる。このラミネートの方法では、アクリル系樹脂フィルムが接着層51の作用をなすため、接着層用塗料を塗布する必要ないが、接着層用塗料を併用してもよい。
【0036】
更に他の方法は、ポリエチレンテレフタレートなどの剥離性を有する剥離フィルムの表面に、上記光触媒層用塗料を塗布して光触媒層5を形成し、その上に上記保護層用塗料を塗布して保護層52を形成し、更にその上に接着層用塗料を塗布して接着層51を形成することにより、剥離フィルムに光触媒層5、保護層52、接着層51をこの順で形成した転写フィルムを作製する。そして、軒樋T1の前壁1の外表面と底壁2の外表面とに、作製された転写フィルムの接着層51が軒樋基材4側になるように重ねて加熱加圧し、基材4に接着層51、保護層52、光触媒層5を転写させることで、4層構造の光触媒機能を有する軒樋T1を得ることができる。
【0037】
このようにして得られた軒樋T1は、光触媒層5に含有される光触媒粒子により親水性を発揮し、さらに他の機能である悪臭分解機能や抗菌・坊黴機能を発揮する。そして、軒樋T1が熱伸縮しても光触媒層5にクラックを生じることはない。また、接着層51又は保護層52に紫外線吸収剤を含有させると、その内側の軒樋基材4を保護し変色し難い軒樋T1とすることができるし、更に分子量が390以上の高分子量紫外線吸収剤が接着層51又は保護層52に含まれると、上記の紫外線吸収剤が揮散したり移行したりすることがないので、長期に亘り軒樋T1の変色を防止することができるし、紫外線が光触媒層5に当たると直ちに光触媒機能が発揮されることとなる。
【0038】
図2は本発明に係る雨樋の他の実施形態を示す一部拡大断面図である。
この実施形態の雨樋も、前壁1と底壁2と後壁3とにより上方が開口する略U状の断面形状を有する角軒樋T2であり、軒樋T2の前壁1の外表面と底壁2の外表面とに、光触媒層5aが設けられている。
【0039】
この軒樋T2に於ける光触媒層5aは、接着層も保護層も形成することなく、軒樋T2の基材4に直接積層されている点が前記軒樋T1とは異なるが、その他の構成は前記軒樋T1と同じであるので、同一符号を付して説明を省略する。
この軒樋T2の光触媒層5aは、耐候性を有する樹脂中に、多孔質無機材で光触媒粒子が被覆された複合光触媒粒子を均一に分散させた層であり、その厚さは約1〜100μm程度に形成されている。より好ましくは、30〜70μmである。
【0040】
耐候性を有する樹脂としては、軒樋T2の軒樋基材4に積層一体化できる樹脂であれば限定されるものではないが、例えば、当該基材4が塩化ビニル樹脂、アクリル系樹脂、ポリカーボネート樹脂であれば、紫外線吸収剤含有アクリル系樹脂及び当該各基材樹脂に紫外線吸収剤を2〜10重量部含有させて耐候性を高めた樹脂が好ましく用いられる。
なお、複合光触媒粒子を分散させる樹脂は、必ずしも耐候性を有する樹脂である必要はないが、太陽が当たる軒樋T2の外表面であるので、変色を防ぐためにも耐候性樹脂が用いることが好ましい。また、耐候性を有さない樹脂の場合は、基材4の表面に上記耐候性樹脂などからなる耐候性層を設け、その表面に光触媒層5aを設けることが好ましい。
【0041】
耐候性樹脂に分散含有させる複合光触媒粒子は、前記酸化チタンなどの光触媒粒子の表面が多孔質無機材で被覆されたものであり、光触媒粒子が直接耐候性樹脂に接触しないので耐候性樹脂が光触媒機能によって分解することがなく、樹脂中に練り込んで分散させることができるし、光触媒機能を発揮させることもできるのである。
【0042】
光触媒粒子は、前述の酸化チタン、酸化亜鉛、酸化錫、SrTiO、WOなどの金属酸化物が用いられる。特に酸化チタンは前述の如く、光触媒機能が高く入手し易いので好ましい。そして、これらを被覆する多孔質無機材としては、光触媒機能により劣化しない無機酸化物、炭化物、窒化物、ホウ素化物などの多孔質無機材が用いられる。具体的な多孔質無機材としては、アパタイト、ゼオライト、シリカ(二酸化ケイ素)、アルミナ、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化チタン、リン酸ジルコニウムなどの多孔質の無機材を挙げることができる。
これらの組合せの中でも、特に、光触媒酸化チタンをシリカ又はアパタイトで被覆した複合光触媒粒子を好ましく用いることができる。
【0043】
そして、これらの多孔質無機材を、光触媒粒子表面に数オングストローム〜数μmの厚さで、0.1〜5.0質量%となるように被覆している。そして、その直径は500μm以下、好ましくは50μm以下、更には0.001〜20μmとすることが更に好ましい。このような複合光触媒粒子は光触媒層5a中に3〜20重量%添加させて使用される。
これらの複合光触媒粒子は既に市販されており、例えば昭和電工社製の「ジュピターS」、明成商会社製の「マスクメロン型光触媒」、ライオン社製の「ライオナイトPCシリーズ」などを挙げることができる。
【0044】
このような複合光触媒粒子と樹脂とからなる光触媒層5aを軒樋T2の基材4に積層一体化する方法は特に限定されないが、例えば次の方法が用いられる。
例えば、複合光触媒粒子と樹脂とを混合した組成物を、軒樋T2の基材4を押出し成形する際に、共押出し金型を用いて軒樋T2の前壁1の外表面11と底壁2の外表面21とに共押出し成形することにより、光触媒層5aを容易に成形することができる。
他の方法は、予め、複合光触媒粒子と樹脂とを混合した組成物を用いてフィルムを製作し、このフィルムを雨樋T2の押出し成形中にラミネートすることにより容易に成形することができる。
更に他の方法は、複合光触媒粒子と樹脂と溶剤を混合した塗料を予め作製し、スプレーコーターやディップコーター、ロールコーター、グラビアコーター等の公知の種々の塗工方式にて、この塗料を雨樋T2の表面にコーティングする方法である。
【0045】
図3は本発明に係る雨樋の更に他の実施形態を示す一部拡大断面図である。
この実施形態の雨樋は、雨水を軒樋から地面まで流下させる竪樋T3であって、四隅を面取りした四角筒状の断面形状になされていて、その外表面である周面の全表面に光触媒層5が設けられている。なお、光触媒層5は全周面ではなくて一面であってもよい。
【0046】
この竪樋T3は、前記軒樋T1に使用される樹脂或は樹脂を被覆した芯材の基材4により四角筒状に成形されたものである。この竪樋T3に於ける光触媒層5は、前記軒樋T1と同様に、接着層51と保護層52とを介して基材4に積層一体化されている。
そして、これらの光触媒層5と接着層51と保護層52とは、前記軒樋T1に使用したものと同様であるので、同一符号を付して説明を省略する。
【0047】
このような竪樋T3にあっても、太陽光に曝されると、光触媒層5が光触媒機能を発揮し、竪樋T3に付着した塵楳を降雨時に洗い落として外表面をきれいにする。そして、光触媒層5の厚みが5〜35nmであるので、竪樋T3が伸縮しても当該光触媒層5にクラックが発生することがなく、長期に亘り機能を発揮させることができる。
【0048】
なお、光触媒層5として、前記軒樋T2に用いた複合光触媒粒子を分散させた光触媒層5aを用いてもよく、この場合は、接着層、保護層を設ける必要がないことは前記軒樋T2と同様である。また、竪樋T3の形状は四角筒状をなしているが、その形状は限定されるものではなく、丸筒状、長方形状、その他の種々の異形形状であってもよい。
【0049】
以下、実施例に基づいて具体的に説明する。
(光触媒層の膜厚による水接触角の相違、クラックの有無)
光触媒酸化チタンの微粉末とシリカとを含む市販の光触媒層用塗料を、ポリエチレンテレフタレートフィルムの片面に、厚さ(ドライ)が2nm、5nm、10nm、20nm、30nm、40nm、50nmとなるように塗布し、100℃の雰囲気中で30分間、乾燥・固化させて光触媒層を形成した。そして、この各光触媒層の上に、ポリジメチルシロキサンとアクリル樹脂とを均一に混合して調整した保護層用塗料を1μmの厚さに塗布し、100℃の雰囲気中で30分間、乾燥・固化させて保護層を形成した。さらに、この各保護層の上に、アクリル系接着剤(コニシ(株)製のVP2000)を厚さ3μmに塗布し、100℃の雰囲気中に30分間、乾燥・固化させて接着層を形成することにより、転写フィルムを作製した。
【0050】
厚さ2.5mmの透明のポリカーボネート樹脂板(タキロン(株)製)の上側表面に、上記各転写フィルムの接着層がポリカーボネート樹脂板側となるように重ね合わせて、温度270℃、圧力2MPaの条件で熱圧着し、転写フィルムの接着層、保護層、光触媒層をポリカーボネート樹脂板の表面に転写後、ポリエチレンテレフタレートフィルムを剥離し、板状の透明な光触媒層付きポリカーボネート樹脂板を作製した。これを参考例1〜7とする。
【0051】
この参考例1〜7の光触媒層に、ブラックライトブルー(BLB)ランプにて1mW/cmの紫外線を24時間、48時間、72時間、96時間、120時間、168時間照射して各試験片を作製した。BLBランプの照射前と照射後の各試験片に、マイクロシリンジを用いてイオン交換水20mlを滴下し、各試験片表面の水滴の接触角を画像処理接触角度計(協和界面科学(株)製、CA−A)を用いて3点法で測定した。その結果を表1に記載する。
【0052】
また、上記参考例1〜7の光触媒層に、BLBランプにて1mW/cmの紫外線を24時間照射した後に、これを100℃のギヤーオーブンに1時間入れて加熱した。冷却した参考例1〜7の光触媒層の表面を目視し、クラックの有無を観察した。その結果を表1に併記する。さらに、厚さ20nmの光触媒層を有する参考例4、及び厚さ40nmの光触媒層を有する参考例6について、各光触媒層を株式会社キーエンス製デジタルHFマイクロスコープVH−8000にて100倍に拡大し、その表面状態を観察した。その結果を図4、図5として示す。
【0053】
【表1】

【0054】
この表1より、光触媒層の厚さが2nm、5nm、10nm、20nm、30nmである参考例1〜5は、100℃のギヤーオーブンに入れてポリカーボネート樹脂板を伸縮させたにも拘わらずクラックが発生しないことがわかった。しかし、光触媒層の厚さが40nm、50nmである参考例6,7はクラックが発生していた。そして、図4、図5に拡大して示す表面状態からも、光触媒層の厚さが20nmであればクラックが全く発生していない様子が観察できたが、40nmになるとクラックが発生しているのがはっきりと観察された。この結果から、光触媒層の厚みを薄くすればクラックの発生を防止できることがわかり、そのクラックが発生しない厚さは35nm程度以下の薄い層であることがわかる。
【0055】
また、光触媒層にBLBランプで紫外線を照射後の各試験片の接触角は、光触媒層の厚さが5nm以上である参考例2〜7においては、24時間後では7〜76°と照射前より若干低下し、72時間後には3〜47°と大きく低下して親水性を発揮し、168時間後には全て10°以下となり高度の親水性を発揮することがわかった。しかし、光触媒層の厚さが2nmの参考例1は168時間でも46°の水接触角しか示さず、親水性を有していなかった。
【0056】
また、光触媒層の厚さが40nmである参考例6及び50nmである参考例7は24時間照射後に10°以下(7°)となり、厚さ30nmの参考例5では48時間で10°以下(9°)となり、厚さ20nmの参考例4では96時間で10°以下(8°)となり、厚さ10nmの参考例3では120時間で10°以下(8°)となり、厚さ5nmの参考例2では168時間で10°以下(8°)となり、厚さが厚いほど光触媒機能が良好で、薄くなるほど劣ることがわかった。この結果より、軒先に取り付け後は屋外に放置される雨樋に必要な親水性を有する光触媒層の厚さは3nm程度以上であることがわかる。そして、168時間照射後に接触角が8°となる厚さ5nmの光触媒層であれば、十分使用可能であることがわかった。
【0057】
これらのクラック発生有無と接触角との結果より、光触媒層の厚さが5nm以下では十分な親水性を発揮できず、35nm以上ではクラックが発生するので、光触媒層の厚さは親水性を発揮し且つクラックも生じない5〜35nmの範囲にする必要があることがわかる。
【0058】
(実施例1)
上記参考例4で作製した厚さ20nmの光触媒層を有する転写フィルムを用いて、塩化ビニル樹脂よりなる断面略U字状角軒樋の前壁のフラットな外表面に、温度150℃、圧力2MPaの条件で熱圧着し、転写フィルムの接着層、保護層、光触媒層を雨樋前壁の外表面に転写後、ポリエチレンテレフタレートフィルムを剥離して光触媒層付き軒樋を作製した。
【0059】
この軒樋の光触媒層に、ブラックライトブルー(BLB)ランプにて1mW/cmの紫外線を24時間、48時間、72時間、96時間、120時間、168時間照射した。BLBランプの照射前と照射後の各軒樋の光触媒層に、マイクロシリンジを用いてイオン交換水20mlを滴下し、光触媒層表面の水滴の接触角を画像処理接触角度計(協和界面科学(株)製、CA−A)を用いて、接触角を3点法で測定した。その結果を表2に記載する。
【0060】
また、軒樋の光触媒層に、BLBランプにて1mW/cmの紫外線を24時間照射した後に、これを60℃のギヤーオーブンに4時間入れて加熱した。冷却した軒樋の光触媒層の表面を目視し、クラックの有無を観察した。その結果を表2に併記する。
【0061】
(比較例1)
実施例1に使用した角軒樋(光触媒層を転写していない角軒樋)を用い、実施例1と同様にして、前壁のフラット部分の接触角を測定し、またクラックの有無の観察を行なった。その結果を表2に併記する。
【0062】
【表2】

【0063】
表2からわかるように、光触媒層を有する実施例1の角軒樋の接触角は、紫外線を照射するに従って接触角が減少し、48時間後には35°となり親水性を発揮した。更に照射を続けると、96時間で10°以下となり超親水性となることがわかり、光触媒作用が十分に発揮されていた。この結果、角雨樋の表面に塵媒が付着しても、光触媒層の光触媒機能で塵媒を洗い流せることがわかった。そして、60℃のギヤーオーブンに4時間入れて角軒樋を伸縮させたにも拘わらずクラックが発生しないこともわかり、太陽光に晒される軒先に取付けても、クラックが生じないことも確認できた。
一方、比較例1は、表面が塩化ビニル樹脂であるので、その接触角は紫外線を照射しても減少することなく、80°前後で親水性を示すことはなかった。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明に係る雨樋の一実施形態を示す一部拡大断面図である。
【図2】本発明に係る雨樋の他の実施形態を示す一部拡大断面図である。
【図3】本発明に係る雨樋の更に他の実施形態を示す一部拡大断面図である。
【図4】参考例4におけるBLBランプ照射後の光触媒層の表面状態を示すデジタルマイクロスコープの写真である。
【図5】参考例6におけるBLBランプ照射後の光触媒層の表面状態を示すデジタルマイクロスコープの写真である。
【符号の説明】
【0065】
T1、T2 軒樋(雨樋)
T3 竪樋(雨樋)
1 前壁
2 底壁
3 後壁
4 基材
5、5a 光触媒層
51 接着層
52 保護層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
雨樋の外表面に、厚さ5〜35nmの光触媒層が設けられていることを特徴とする雨樋。
【請求項2】
光触媒層が、雨樋を構成する基材に接着層と保護層とを介して積層一体化されていることを特徴とする請求項1に記載の雨樋。
【請求項3】
雨樋の外表面に、多孔質無機材で光触媒粒子を被覆した複合光触媒粒子が分散された光触媒層が設けられていることを特徴とする雨樋。
【請求項4】
光触媒層が、耐候性樹脂中に複合光触媒粒子を分散させたものであることを特徴とする請求項3に記載の雨樋。
【請求項5】
雨樋が、前壁と底壁と後壁とからなる軒樋であり、その少なくとも前壁の外表面に光触媒層が設けられていることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の雨樋。
【請求項6】
雨樋が筒状の竪樋であり、その外表面に光触媒層が設けられていることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の雨樋。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−152708(P2006−152708A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−346491(P2004−346491)
【出願日】平成16年11月30日(2004.11.30)
【出願人】(000108719)タキロン株式会社 (421)
【Fターム(参考)】