説明

電力ケーブルの劣化診断方法及びその装置

【課題】GISに接続された電力ケーブル線路に対して残留電荷法を実施する場合でも、GIS内部の清掃を不要として劣化診断に係るコストや時間を大幅に低減する。
【解決手段】劣化診断装置において、切替スイッチ4をパルス発生器10側に切り替えて、CVケーブル1の心線側に、立ち上がり周波数が200kHz以上で、パルス幅が100μs以下の波形となるパルス電圧を印加する。次に、切替スイッチ4を接地側に切り替えてCVケーブル1に接地(短絡)を行った後、切替スイッチ4を交流電源7側に切り替えてCVケーブル1に商用周波電圧を印加し、放出された直流成分電流をローパスフィルタ8を介して残留電荷測定装置9で測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力ケーブルにおいて、水トリー劣化等に起因する劣化を診断するための方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電力用ケーブルとして、架橋ポリエチレン絶縁ケーブル(以下「CVケーブル」という。)が実用化されている。このCVケーブルでは、湿潤下における長期使用により水トリーという劣化現象が絶縁体内に発生して、絶縁性能の低下を引き起こす。
この水トリー劣化を検出する方法として、残留電荷法がよく知られている。図3は、残留電荷法の測定回路を示すもので、1は電力系統から切り離されたCVケーブル、2は接地線、3はケーブルヘッドで、一方のケーブルヘッド3には、切替スイッチ4によって、直流電源5、接地用抵抗6を備えた接地側、交流電源7が夫々切替接続可能となっている。
【0003】
この測定回路においては、切替スイッチ4を直流電源5側に切り替えてCVケーブル1に最初に直流電圧を印加する。これにより、CVケーブル1の絶縁体内には電荷が蓄積される。その後、切替スイッチ4を接地側に切り替えてCVケーブル1を接地させる。この接地により、CVケーブル1の絶縁体の内、健全部に蓄積されていた電荷は全て放出されるが、絶縁体内の水トリー劣化部に蓄積されていた電荷の一部は、水トリー内に残留する。
そして、CVケーブル1の接地を開放した後に、今度は切替スイッチ4を交流電源7側に切り替えて商用周波電圧を印加する。仮に直流電圧が負極性だった場合は、商用周波電圧の正極性の時間領域で水トリー内部に残留している電荷には逆極性の電圧がかかることになり、その結果、残留電荷は水トリー内部から直流電流成分として放出される。この商用周波電圧印加時の直流成分電流をローパスフィルタ8を通して残留電荷測定装置9で検出することにより、CVケーブル1の水トリー劣化の程度を評価することができる。従って、残留電荷法は、その原理上、最初に直流電圧をケーブルに印加する必要がある。
その他にも、残留電荷法としては特許文献1,2に開示の方法も知られているが、何れも電荷の蓄積に直流電圧を印加している。
【0004】
【特許文献1】特開2005−181208号公報
【特許文献2】特開2001−153913号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、変電設備においては、狭隘な土地や地下に設置する必要性から、ガス絶縁開閉装置(Gas Insulated Switchgear、以下「GIS」と略称する。)を採用する場合が多くなってきている。特に、都市中心部においては、GISに直接接続されたCVケーブルで電力を供給する場合が多い。GISは内部に母線切り離しのためのスイッチを持っているが、一番ケーブル寄りのスイッチで切り離した場合でも、母線の一部はケーブルと接続されたままの場合が多い。従って、CVケーブルの水トリー劣化診断のために、GISに接続されたCVケーブルに直流電圧を印加しようとすると、少なくとも一番ケーブル寄りのスイッチの片端まではGIS母線に対しても直流電圧が印加されることになる。多くのGISは、新品時は直流印加が許容されているが、経年品については、可動部等から発生した微小な金属物が直流印加時に帯電し、SF6ガス中において起立、浮上、クロッシング、絶縁スペーサへの付着等を生じて、絶縁性能の低下が危惧される。このため、直流が印加される箇所については直流印加前にGIS内部の清掃が必要とされている。よって、GISが接続されたCVケーブル線路に残留電荷法を適用する場合、清掃が必要となってしまい、劣化診断に係るコストや時間が増大する(例えばGISの清掃費は一台当たり200〜500万円程度となっている。)問題があった。
【0006】
そこで、本発明は、GISに接続された電力ケーブル線路に対して残留電荷法を実施する場合でも、GIS内部の清掃を不要として劣化診断に係るコストや時間を大幅に低減可能となる電力ケーブルの劣化診断方法及びその装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、電力ケーブルに所定の電圧を印加した後に接地し、その後交流電圧を印加することで、前記所定の電圧の印加によって蓄積された電荷を放出させ、測定された残留電荷量に基づいて前記電力ケーブルの劣化を診断する方法であって、前記所定の電圧を、波形の立ち上がり周波数が200kHz以上、パルス幅が100μs以下のパルス波形としたことを特徴とするものである。
上記目的を達成するために、請求項2に記載の発明は、電力ケーブルに所定の電圧を印加する第1電圧印加手段と、その第1電圧印加手段による電圧印加後に前記電力ケーブルを接地する接地手段と、その接地手段による接地後に前記電力ケーブルに交流電圧を印加する第2電圧印加手段と、その第2電圧印加手段による電圧印加後に前記電力ケーブルから放出される残留電荷量を測定する測定手段とを備えた電力ケーブルの劣化診断装置であって、前記第1電圧印加手段は、前記所定の電圧として、波形の立ち上がり周波数が200kHz以上、パルス幅が100μs以下となるパルス電圧を印加することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、電荷蓄積用にパルス電圧を利用するので、GISに接続された電力ケーブル線路に対して残留電荷法を実施する場合でも、GIS内部の清掃が不要となって劣化診断に係るコストや時間を大幅に低減可能となる。特に、パルス電圧の立ち上がり周波数を200kHz以上、パルス幅を100μs以下としたことで、商用周波数よりも高い電圧を電力ケーブルに印加することが可能となる上、パルス発生器を用いる等して繰り返しの電圧印加も容易となるため、残留電荷量が増加して信号が検出されやすくなり、診断精度の向上が期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の劣化診断方法を実施する劣化診断装置の一例を示すもので、図3と同じ構成部には同じ符号を付している。
この劣化診断装置においては、図3の直流電源に代えてパルス発生器10を利用し、残留電荷法の印加電圧波形として直流の代わりに、波形の立ち上がり周波数が200kHz以上、パルス幅100μs以下のパルス波形を出力するようにしている。この波形は、標準雷インパルス波形(1.2/50μs)に匹敵するため、直流印加時のようにGIS内部に発生する微小金属物の帯電による絶縁性能の低下を危惧する必要がない。この切替スイッチ4及びパルス発生器10が第1電圧印加手段、切替スイッチ4及び接地側が接地手段、切替スイッチ4及び交流電源7側が第2電圧印加手段、ローパスフィルタ8及び残留電荷測定装置9が測定手段となる。
【0010】
このように構成された劣化診断装置においては、まず切替スイッチ4をパルス発生器10側に切り替えて、図2に示すように、CVケーブル1の心線側に、立ち上がり周波数が200kHz以上で、パルス幅が100μs以下の波形となるパルス電圧11を印加する。この時、ケーブル絶縁体への蓄積電荷量の増加を促すために、繰り返しのパルス電圧印加も可能である。
次に、切替スイッチ4を接地側に切り替えてCVケーブル1に接地(短絡)を行う。これにより、絶縁体健全部に蓄積された電荷は放出される。この時、水トリー内部に蓄積された電荷も放出されるが、その内の一部は水トリー内部に残留する。
【0011】
その後、切替スイッチ4を交流電源7側に切り替えて、CVケーブル1に商用周波電圧12を印加する。すると、パルス電圧と逆極性の時間領域で水トリー内部に蓄積された電荷は、直流成分電流として水トリー内部から放出される。放出された電荷は交流電流に重畳した直流成分電流として観測されるため、ローパスフィルタ8を通して商用周波数を遮断した後に、残留電荷測定装置9において直流成分電流のみを測定する。この得られた信号は水トリーの数や大きさの情報を持っているため、劣化判定に用いることができる。
【実施例】
【0012】
25年間使用されている全長1.5kmの33kV電力用CVケーブル線路を電力系統から切り離して上記劣化診断装置にセットし、残留電荷法による劣化診断を実施した。ここではCVケーブルに、波高値−40kV、立ち上がり周波数が200kHz、パルス幅100μsのパルス電圧を印加した。この時、パルス電圧は10秒周期で10回の印加を行った。
その後、接地を取った後に、実効値15kV、60Hzの交流電圧を印加して、残留電荷測定装置において残留電荷による直流成分電流を測定した。この時、直流成分電流は波高値100nAで約20秒間継続した。この結果より、このCVケーブルには水トリー劣化が進展していることを確認できた。
【0013】
このように、上記劣化診断方法及びその装置によれば、電荷蓄積用の所定の電圧を、波形の立ち上がり周波数が200kHz以上、パルス幅が100μs以下のパルス波形としたことで、GISに接続されたCVケーブル線路に対して残留電荷法を実施する場合でも、GIS内部の清掃が不要となる。よって、劣化診断に係るコストや時間を大幅に低減可能となる。
特に、パルス電圧の立ち上がり周波数を200kHz以上、パルス幅を100μs以下としたことで、以下の利点が得られる。
1.経年CVケーブルの絶縁破壊電界は、商用周波数電圧よりも標準雷インパルス電圧の方が高い。例えば、経年10〜20年の22kV級CVケーブルの平均破壊電界は、商用周波数では6〜60kV/mmなのに対して、標準雷インパルスでは15〜150kV/mm程度となる。従って、標準雷インパルス波形と同程度の立ち上がり周波数、パルス幅のものとして、立ち上がり周波数が200kHz以上でパルス幅が100μs以下の波形を用いることにより、商用周波数よりも高い電圧をCVケーブルに印加することが可能となる。今までの知見より、直流電圧値が高くなるほど水トリー内部に残留する電荷量は増加することが分かっているため、立ち上がり周波数が200kHz以上、パルス幅100μs以下のパルス波形を印加した方がより信号が検出されやすくなり、結果として診断精度の向上が期待できる。
2.パルス発生器を用いることにより、繰り返しの電圧印加が容易となる。繰り返してパルス電圧を印加することにより、水トリー内部の残留電荷量を増加させることができるため、結果として信号が検出されやすくなり、診断精度の向上が期待できる。
【0014】
なお、電荷蓄積用のパルス電圧は、立ち上がり周波数が200kHz以上、パルス幅が100μs以下であれば上記形態の数値に限定されず、適宜変更可能である。また、上記実施例では、電荷蓄積時のパルス電圧を複数回印加して残留電荷量の増加を図っているが、この数の増減は勿論可能であるし、パルス電圧を一回だけ印加する場合も本発明は含む。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】劣化診断装置の説明図である。
【図2】パルス電圧の印加形態を示す説明図である。
【図3】従来の残留電荷法の測定回路を示す説明図である。
【符号の説明】
【0016】
1・・CVケーブル、2・・接地端、3・・ケーブルヘッド、4・・切替スイッチ、5・・直流電源、6・・接地用抵抗、7・・交流電源、8・・ローパスフィルタ、9・・残留電荷測定装置、10・・パルス発生器、11・・パルス電圧、12・・商用周波電圧。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力ケーブルに所定の電圧を印加した後に接地し、その後交流電圧を印加することで、前記所定の電圧の印加によって蓄積された電荷を放出させ、測定された残留電荷量に基づいて前記電力ケーブルの劣化を診断する方法であって、
前記所定の電圧を、波形の立ち上がり周波数が200kHz以上、パルス幅が100μs以下のパルス波形としたことを特徴とする電力ケーブルの劣化診断方法。
【請求項2】
電力ケーブルに所定の電圧を印加する第1電圧印加手段と、その第1電圧印加手段による電圧印加後に前記電力ケーブルを接地する接地手段と、その接地手段による接地後に前記電力ケーブルに交流電圧を印加する第2電圧印加手段と、その第2電圧印加手段による電圧印加後に前記電力ケーブルから放出される残留電荷量を測定する測定手段とを備えた電力ケーブルの劣化診断装置であって、
前記第1電圧印加手段は、前記所定の電圧として、波形の立ち上がり周波数が200kHz以上、パルス幅が100μs以下となるパルス電圧を印加することを特徴とする電力ケーブルの劣化診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−186335(P2009−186335A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−26869(P2008−26869)
【出願日】平成20年2月6日(2008.2.6)
【出願人】(000213297)中部電力株式会社 (811)
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
【Fターム(参考)】