電力ケーブルの劣化診断方法
【課題】ガス絶縁開閉装置等の密閉型機器を課電端として、損失電流法を用いて電力ケーブルの劣化診断を行う電力ケーブルの劣化診断方法であって、密閉型装置の開封及び密封作業を必要とせず、かつ、精度良く電力ケーブルの劣化診断を行う電力ケーブルの劣化診断方法を提供すること。
【解決手段】ガス絶縁開閉装置1内のES端子部21の接地側を診断装置3と接続し、該接地側にダミーケーブル5を接続し、ES端子部21を閉じて、診断装置3からES端子部21を介して電力ケーブル1に課電して第1の劣化信号を測定し、ES端子部21を開いてES端子部21及びダミーケーブル5に課電して第2の劣化信号を測定し、第1の劣化信号から第2の劣化信号を減じて得られる信号を用いて電力ケーブル1の劣化を診断する。
【解決手段】ガス絶縁開閉装置1内のES端子部21の接地側を診断装置3と接続し、該接地側にダミーケーブル5を接続し、ES端子部21を閉じて、診断装置3からES端子部21を介して電力ケーブル1に課電して第1の劣化信号を測定し、ES端子部21を開いてES端子部21及びダミーケーブル5に課電して第2の劣化信号を測定し、第1の劣化信号から第2の劣化信号を減じて得られる信号を用いて電力ケーブル1の劣化を診断する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水トリー劣化した電力ケーブルの絶縁劣化を診断する電力ケーブルの劣化診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水トリー劣化したケーブル絶縁体の劣化診断は、絶縁体の絶縁性能という電気的な特性を把握するという観点から、ケーブル絶縁体に電圧を加えてその応答を評価する方法が用いられている。例えば、電力ケーブルに交流電圧を加えたときに流れる電流から損失電流を抽出し、この損失電流中に含まれる第三高調波成分を劣化指標に用いて該電力ケーブルの劣化を診断する損失電流法がある。
ここで、電力ケーブルへの課電方法としては、課電端の形態により、主に下記の2つに分類される。一つの方法は、図8に示すように、気中端子EB−Aに課電装置100を接続して電力ケーブル1に課電する方法である。なお、図8中の2はガス絶縁開閉装置(GIS)である。ガス絶縁開閉装置2は、絶縁性が高い6フッ化硫黄(SF6 )ガスが充填された密閉容器内に設置された密閉型機器である。もう一つの方法は、図9に示すように、ガス絶縁開閉装置2を開封した上で、該ガス絶縁開閉装置2に課電装置100を接続して電力ケーブル1に課電する方法である。
【0003】
従来の電力ケーブルの劣化診断方法には、電力ケーブルが電力系統に接続された状態で、運転電圧により流れる接地線電流を捉え評価する手法があったが、大半の手法においては、診断対象ケーブルを電力系統から切り離す必要があった。特に、上述した図9に示す方法を用いる場合は、試験電圧を課電するために、ガス絶縁開閉装置2内に設けられた電力ケーブルの終端部を露出させなければならないことから、電力ケーブルの劣化診断前に、該ガス絶縁開閉装置2を開封する作業が必要である。また、劣化診断後に開封箇所を密封する作業が必要である。さらに、上記開封、密封作業においてSF6 ガス処理を行う必要がある。その結果、電力ケーブルの劣化診断の付帯作業に多くの労力とコストを要する。
【0004】
ガス絶縁開閉装置2の開封及び密封作業を要することなく電力ケーブル1に試験電圧を課電して、損失電流法を用いた劣化診断を行う方法として、図10に示す試験回路を用いて、ガス絶縁開閉装置2のES端子部21に診断装置3を接続し、該診断装置3から試験電圧を該ES端子部21を介して課電する方法が考えられる。
診断装置3は、試験電圧発生装置を有し、電圧ケーブル1に試験電圧を課電して得られる損失電流に基づいて該電力ケーブル1の劣化を診断する装置である。また、ES端子部21は、ガス絶縁開閉装置2の外部筐体20の内部に設けられ、電力ケーブル導体を接地させるための開閉器210を有する接地機構である。ES端子部21の接地側は、通常は図示を省略する接地電位に接続されており、上記方法の実施時に、図10に示すように、診断装置3に接続される。22は電力ケーブルの終端部であり、23は断路器(DS)である。
下記の特許文献1には、機構接地を利用した電力ケーブルの劣化診断方法が記載されている。特許文献1に記載のものは、外部筐体の内部にケーブルの終端部及びこれと接続される機構接地が設けられた密閉型開閉装置において、上記外部筐体から電気的に絶縁された状態で外部に取り出された機構接地の接地側と接地電位間を切り離して、その接地側と試験電圧発生装置を接続し、試験電圧を機構接地を介してケーブルの導体に印加し、該ケーブルから生じる劣化信号を測定して劣化状態を診断するものである。
【特許文献1】特開2004−361293号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、図10に示す試験回路を用いて課電した場合、以下に図11を参照して説明するように、本来捉えたい電力ケーブル1からの損失電流が、ES端子部21の内部において発生する損失電流の影響を受けてしまうという問題がある。
【0006】
図11は、損失電流に対するES端子部からの影響を示すグラフである。図11のグラフには、図10に示す試験回路においてES端子部21の開閉器210を閉じて(ONにして)、ES端子部21から課電したときの測定波形(同図太線)と、その比較として、相手端であるEB−A端子から課電したときの測定波形(同図細線)を示している。なお、該グラフの縦軸は損失電流[A]、横軸は時間[sec]である。
図11のグラフ中に示すES端子部21から課電したときの測定波形と、相手端であるEB−Aから課電したときの測定波形とを比較すると、ES端子部21から課電したときの測定波形は大きく歪んでいることが観測される。
これは、課電に伴い、ES端子部21内部において第三高調波成分(150Hz信号)を含む損失電流が発生するためと考えられ、本来捉えたい電力ケーブル1からの損失電流がES端子部21の影響を受け、ES端子部21内部において発生した第三高調波成分と、電力ケーブル1の水トリー劣化に起因した損失電流中の第三高調波とが区別できなくなっている。
従って、図10に示す試験回路を用いて電力ケーブル1に課電した場合には、本来捉えたい該電力ケーブル1からの損失電流のみを捉えることが難しく、精度良く劣化診断を行うことが困難になると考えられる。
【0007】
本発明は、上述した事情を考慮してなされたものであって、その目的は、電力ケーブル導体を接地させるための接地機構が設けられたガス絶縁機器などの密閉型機器において、その接地機構を課電端として、損失電流法を用いて電力ケーブルの劣化診断を行うに際し、上記接地機構で発生する損失電流の影響を受けずに、精度よく電力ケーブルの劣化診断を行なうことができる密閉型装置の開封及び密封作業を必要としない電力ケーブルの劣化診断方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明は、次のようにして前記課題を解決する。
(1)外部筐体の内部に、電力ケーブルの終端部及び該電力ケーブル導体を接地させるための開閉器を有する接地機構が設けられた密閉型機器を終端部とする電力ケーブルの劣化診断方法を用いる。上記外部筐体とは電気的に絶縁された状態で、外部筐体から引き出された上記接地機構の接地側と接地電位間を切り離し、その接地側と試験電圧発生装置を接続するとともに、上記接地側に劣化していないダミーケーブルを接続する。そして、上記接地機構の開閉器を閉じた状態で、試験電圧を上記接地機構を介して電力ケーブルの導体に印加して、電力ケーブル、ダミーケーブル及び接地機構により生ずる第1の劣化信号を測定する。次に、上記接地機構の開閉器を開にして、上記試験電圧発生装置から試験電圧を上記接地機構およびダミーケーブルの導体に印加して、接地機構及びダミーケーブルにより生ずる第2の劣化信号を測定する。そして、上記第1の劣化信号から第2の劣化信号を減算し、この減算した信号を用いて上記電力ケーブルの劣化を診断する。
(2)上記密閉型機器の外部筐体の内部に、一方の端子が上記終端部と接続され、他方の端子が、外部筐体から引き出されて接地された電力機器が設置されている。上記電力機器の接地側と、接地電位間を切り離し、この接地側と接地電位との間に信号検出器を設置する。上記第1の劣化信号の測定に際し、上記信号検出器により、電力機器の接地側から生じる機器信号を検出する。そして、上記試験電圧を上記接地機構を介して電力ケーブルの導体に印加することにより生ずる第1の劣化信号から上記機器信号を差し引いて第3の劣化信号を求め、この第3の劣化信号から上記第2の劣化信号を減算し、この減算した信号を用いて上記電力ケーブルの劣化を診断する。
【発明の効果】
【0009】
本発明においては、以下の効果を得ることができる。
(1)本発明の電力ケーブルの劣化診断方法は、密閉型機器の外部筐体と電気的に絶縁された状態で、外部筐体から引き出された接地機構の接地電位間を切り離し、その接地側に課電するが、その際、接地側に劣化していないダミーケーブルを接続して、損失電流を測定する。これにより、接地機構から発生する損失電流が、診断対象である電力ケーブルと上記ダミーケーブルとに分流されるため、診断装置に流入する接地機構からの損失電流を低減させることができる。
(2)また、上記のようにダミーケーブルを接続し、電力ケーブル、ダミーケーブル及び接地機構により生ずる第1の劣化信号を測定し、次に接地機構及びダミーケーブルにより生ずる第2の劣化信号を測定し、上記第1の劣化信号から第2の劣化信号を減算して、電力ケーブルのみにより生ずる劣化信号(損失電流)を取得し、取得した劣化信号を用いて、電力ケーブルの劣化を診断することにより、密閉型機器の開封及び密封等の作業を行なうことなく、密閉型機器を課電端として電力ケーブルの劣化診断を精度よく行なうことができる。
(3)本発明の電力ケーブルの劣化診断方法は、密閉型機器の外部筐体の内部に、電力機器が設置されている場合、上記第1の劣化信号の測定に際し、電力機器の接地側から生じる機器信号を検出して、検出された機器信号を測定された第1の劣化信号から減じて、第3の劣化信号を求め、この第3の劣化信号から上記第2の劣化信号を減算して、電力ケーブルのみにより生ずる劣化信号(損失電流)を取得し、取得した劣化信号を用いて、電力ケーブルの劣化を診断する。従って、本発明によれば、密閉型機器の外部筐体の内部に、電力機器が設置されている場合であっても、精度良く電力ケーブルの劣化診断を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に、図を用いて、本発明の実施の形態について説明する。図1は、本発明の第1の実施の形態に係る電力ケーブルの劣化診断方法を実施する試験回路の構成例である。図1中、2、2−1はガス絶縁開閉装置である。ガス絶縁開閉装置2、2−1は、図10を参照して説明したガス絶縁開閉装置2と同様の構成を有する。
ガス絶縁開閉装置2の外部筐体20の内部に設けられているES端子部21の接地側は、外部筐体20から電気的に絶縁された状態で、外部筐体20から引き出されており、通常は、接地電位に接続されている。
本発明の電力ケーブルの劣化診断方法の実施時には、ES端子部21の接地側が接地電位から切り離され、ES端子部21の接地側と診断装置3が高圧配線4により接続され、ダミーケーブル5がES端子部21の接地側に接続される。
ダミーケーブル5は、例えばケーブルドラム6に収容され、前述したように、接地機構から発生する損失電流を分流し、診断装置に流入する接地機構からの損失電流を低減させるためのものである。
【0011】
図1に示す例では、ダミーケーブル5として、例えば劣化していない長さ50m、断面積100mm2 の22kVCVケーブルを用いているが、本発明の実施の形態において用いられるダミーケーブル5は、上記の規格のケーブルに限定されない。
診断装置3に流入するES接地部21からの劣化信号が、電力ケーブルの劣化信号に対して相対的に小さくなるように、診断対象となる電力ケーブル1とダミーケーブル5との静電容量比を選定すればよく、ダミーケーブル5としては、診断対象となる電力ケーブル1の静電容量に応じて、予め決められた様々な規格のケーブルを用いることができる。
例えば、診断対象となる電力ケーブル1の静電容量が50nFの場合、ダミーケーブル5として長さ200〜400m、断面積14mm2 の6kVCVケーブルを用いる。また、診断対象となる電力ケーブル1の静電容量が100nFの場合、ダミーケーブル5として長さ400〜1000m、断面積14mm2 の6kVCVケーブルを用いる。
【0012】
診断装置3は、試験電圧発生器31、電流検知器32、測定器33を備える。試験電圧発生器31は、電圧ケーブル1の劣化診断に適応する試験電圧を発生する。電流検知器32は、配線4に流れる損失電流を検出する。測定器33は、検出された損失電流を測定解析して、該電力ケーブル1の劣化状態を診断する。
上記試験回路を用いた電力ケーブル1の劣化診断方法を説明すると、まず、ES端子部21の接地側と接地電位間を切り離す。そして、図1に示すように、その接地側と診断装置3とを高圧配線4を介して接続する。
次に、ダミーケーブル5を上記ES端子部21の接地側と診断装置3とに接続する。これによりダミーケーブル5が電力ケーブル1に並列に接続され静電容量が大きくなる。
次に、図2(A)に示すように、ES接地部21の開閉器210を閉じた状態(ON)とする。この状態で、診断装置3が備える試験電圧発生器31から試験電圧を発生し、高圧配線4、ES端子部21を介して電力ケーブル1の導体に課電する。該課電により発生する損失電流を診断装置3の電流検知器32により検出して、測定器33に取り込み、第1の劣化信号として例えば図示を省略する所定のバッファ内に記憶する。
【0013】
上記第1の劣化信号には、診断対象となる電力ケーブル1から発生する損失電流とES端子部21から発生する損失電流とダミーケーブル5から発生する損失電流が含まれている。但し、上述したように、ダミーケーブル5が、電力ケーブル1に並列に接続され、静電容量が大きくなっているので、ダミーケーブル5を接続せずに課電する場合と比べて、ES端子部21からの損失電流の影響が緩和されている。
すなわち、ES端子部21の静電容量は小さいため、上記ダミーケーブル5がないと、診断装置において検出されるES端子部21の劣化信号の電流測定感度が、電力ケーブルの劣化信号の電流測定感度に対して大きくなり、前述したように電力ケーブル1の劣化信号を検出するのが難しくなる。
一方、ダミーケーブル5を接続することにより、ES端子部21から発生する損失電流が、電力ケーブル1とダミーケーブル5とに分流(静電容量比)され、これにより診断装置3に流入するES端子部21からの損失電流が相対的に低減されるものと考えられ、電力ケーブル1の劣化信号を検出し易くなる。
【0014】
次に、図2(B)に示すように、ES接地部21の開閉器210を開く(OFFにする)。この状態で、診断装置3が備える試験電圧発生器31から試験電圧を課電し、ES端子部21及びダミーケーブル5の導体に印加する。該課電により発生する損失電流を診断装置3が備える電流検知器32で検出し、測定器33に取り込み第2の劣化信号として、例えば所定のバッファ内に記憶する。上記第2の劣化信号には、ES端子部21から発生する損失電流とダミーケーブル5から発生する損失電流とが含まれている。
そして、診断装置3が備える測定器33において、上記バッファに記憶された第1の劣化信号から第2の劣化信号を減算して、電力ケーブル1のみから発生した損失電流を求める。そして、測定器3は、求まった該損失電流に基づいて、該電力ケーブル1の劣化状態を診断する。
【0015】
図3は、本発明の第1の実施の形態に係る損失電流算出処理フローを示す図である。まず、ES接地部21の開閉器210を閉じた状態で、試験電圧をES端子部21を介して電力ケーブル1の導体に課電し、電力ケーブル1、ES端子部21、ダミーケーブル5から発生する損失電流を第1の劣化信号として取得する(ステップS1)。
次に、ES接地部21の開閉器210を開いて、試験電圧をES端子部21及びダミーケーブル5の導体に課電し、ES端子部21、ダミーケーブル5から発生する損失電流を第2の劣化信号として取得する(ステップS2)。
そして、第1の劣化信号から第2の劣化信号を減算して、電力ケーブル1のみから発生した損失電流を算出する(ステップS3)。
【0016】
図4は、ダミーケーブル接続の効果を説明する図である。
図4(A)は、ダミーケーブル5を接続しないで、開いた状態のES端子部21に課電した場合に測定される損失電流波形を示し、図4(B)は、ダミーケーブル21を接続して、開いた状態のES端子部21に課電した場合に測定される損失電流波形を示している。また、図4(C)は、ダミーケーブルを接続して、閉じた状態のES端子部21に課電した場合に測定される損失電流波形を示している。課電する試験電圧は、いずれも12kVである。
図4(A)の測定結果と図4(B)の測定結果とを比較すると、ダミーケーブル21を接続したことによって、損失電流の大きさが小さくなっていることがわかる。
【0017】
図5は、本発明の第1の実施の形態に係る電力ケーブルの劣化診断方法による診断結果の検証例を示す図である。図5中に示すグラフの縦軸は、測定された損失電流に含まれる第三高調波の大きさを示し、横軸は、該第三高調波の位相を示す。
この例では、試験電圧12kVを課電して検証を行った。図5中に示す四角形の表示は、撤去ケーブル(診断対象となる電力ケーブル1)のみから発生する劣化信号(真値の信号)を示している。この例では、撤去ケーブルとして、長さ10m、断面積150mm2 の66kVCVケーブルを用いた。
円形の表示は、前述した第1の劣化信号を示し、×印の表示は、前述した第2の劣化信号を示し、三角形の表示は、前述した図3のステップS3の処理によって算出された信号(第1の劣化信号から第2の劣化信号を減算した結果得られる信号)を示している。
【0018】
図5中の点線の円で囲った部分に示すように、第1の劣化信号から第2の劣化信号を減算した結果得られる信号は、真値の信号とほぼ一致している。従って、本発明の第1の実施の形態に係る電力ケーブルの劣化診断方法によれば、真値の信号に極めて近い損失電流を取得することができ、その結果、精度のよい劣化診断結果を得られることがわかる。
【0019】
本発明によれば、ガス絶縁開閉装置2の開封及び密封等の作業を行なうことなく、ガス絶縁開閉装置2の接地機構を課電端として、精度よく電力ケーブルの劣化検出を行なうことができる。このため、ガス絶縁開閉装置2のガス処理を回避することができ、従来のようにガス絶縁開閉装置2の開封及び密封等の作業をする場合に比べ、大幅のコストダウンが実現できる。
さらに、ガス絶縁開閉装置2のガス処理に伴う発注手続、工事管理業務等の労働拘束時間を削減することができる。また、線路停止時間の短縮による客先に対する信頼を確保することができる。
【0020】
図6は、本発明の第2の実施の形態に係る電力ケーブルの劣化診断方法を実施する試験回路の構成例である。図6に示す試験回路の構成要素のうち、前述した図1に示す試験回路の構成要素と同符号のものは、図1に示す試験回路の構成要素と同様である。図1に示すガス絶縁開閉装置10の外部筐体20内には、例えば計器用変圧器241及び避雷器242からなる電力機器24が、外部筐体20から電気的に絶縁された状態で設けられている。
該電力機器24の一方の端子は電力ケーブルの終端部22と接続され、他方の端子は、通常、外部筐体20から引き出されて図示を省略する接地電位に接続されている。
本発明の電力ケーブルの劣化診断方法の実施時には、信号検出器25が上記電力機器24の接地側と接地間に接続される。該信号検出器25は、診断装置3からES接地部21への課電に伴って上記電力機器24の接地側から生じる機器信号を検出するものであり、この検出信号は、診断装置3の測定装置33に送られる。なお、前述したように、ES端子部21の接地側は、外部筐体20から電気的に絶縁されており、通常は接地電位に接続されている。
【0021】
上記試験回路を用いた電力ケーブル1の劣化診断方法を説明すると、まず、ES端子部21の接地側と接地電位間を切り離す。そして、図8に示すように、その接地側と診断装置3とを高圧配線4を介して接続する。次に、ダミーケーブル5を上記ES端子部21の接地側に接続する。
次に、ES接地部21の開閉器210を閉じた状態(ON)とする。この状態で、診断装置3が備える試験電圧発生器31から試験電圧を、高圧配線4、ES端子部21を介して電力ケーブル1の導体に課電する。該課電により発生する損失電流を診断装置3が備える電流検知器32が検出し、測定器33は第1の劣化信号として例えば図示を省略する所定のバッファ内に記憶する。また、信号検出器25が、該課電に伴って上記電力機器24の接地側から生じる機器信号を検出し、検出した機器信号を診断装置3の測定装置33に送る。測定装置33は送信された機器信号を例えば所定のバッファ内に記憶する。
【0022】
上記第1の劣化信号には、診断対象となる電力ケーブル1から発生する損失電流とES端子部21から発生する損失電流と電力機器24から発生する機器信号とダミーケーブル5から発生する損失電流が含まれている。したがって、上記第1の劣化信号から上記機器信号を減算することにより、診断対象となる電力ケーブル1から発生する損失電流とES端子部21から発生する損失電流とダミーケーブル5から発生する損失電流を求めることができる。
【0023】
次に、ES接地部21の開閉器210を開く(OFFにする)。この状態で、診断装置3が備える試験電圧発生器31が、試験電圧を発生し、ES端子部21及びダミーケーブル5の導体に課電する。該課電により発生する損失電流(第2の劣化信号)を診断装置3が備える電流検知器32が検出し、測定器33が、該第2の劣化信号を所定のバッファ内に記憶する。上記第2の劣化信号には、ES端子部21から発生する損失電流とダミーケーブル5から発生する損失電流とが含まれている。なお、ここでは、ES接地部21の開閉器210を開いているので、電力機器24には機器信号は流れず、信号検出器25により、機器信号は検出されない。
診断装置3が備える測定器33が、上記バッファに記憶された第1の劣化信号から機器信号を減算して、電力ケーブル1から発生する損失電流とES端子部21から発生する損失電流とダミーケーブル5から発生する損失電流とからなる第3の劣化信号を算出する。 そして、測定器33が、上記第3の劣化信号から第2の劣化信号を減算して、電力ケーブル1のみから発生した損失電流を求める。そして、測定器3は、求まった該損失電流に基づいて、該電力ケーブル1の劣化状態を診断する。
【0024】
図7は、本発明の第2の実施の形態に係る損失電流算出処理フローを示す図である。まず、ES接地部21の開閉器210を閉じた状態で、試験電圧をES端子部21を介して電力ケーブル1の導体に課電し、電力ケーブル1、ES端子部21、電力機器24、ダミーケーブル5から発生する損失電流を第1の劣化信号として取得するとともに、電力機器24から発生する機器信号を取得する(ステップS11)。
次に、ES接地部21の開閉器210を開いて、試験電圧をES端子部21及びダミーケーブル5の導体に課電し、ES端子部21、ダミーケーブル5から発生する損失電流を第2の劣化信号として取得する(ステップS12)。
次に、第1の劣化信号から機器信号を減算して第3の劣化信号を取得する(ステップS13)。そして、第3の劣化信号から第2の劣化信号を減算して、電力ケーブル1のみから発生した損失電流を算出する(ステップS14)。
【0025】
本発明の第2の実施の形態によれば、ガス絶縁開閉装置2が、外部筐体20の内部に電力機器24が設けられた構成をとる場合においても、課電に伴って電力機器24から発生する機器信号を検出し、上記第1の劣化信号から該検出された機器信号を差し引いた第3の劣化信号を求め、該第3の劣化信号から上記第2の劣化信号を減算して電力ケーブル1のみから発生した損失電流を取得することができる。その結果、精度良く電力ケーブル1の劣化診断を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る電力ケーブルの劣化診断方法を実施する試験回路の構成例である。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係る電力ケーブルの劣化診断方法を説明する図である。
【図3】本発明の第1の実施の形態に係る損失電流算出処理フローを示す図である。
【図4】ダミーケーブル接続の効果を説明する図である。
【図5】本発明の第1の実施の形態に係る電力ケーブルの劣化診断方法による診断結果の検証例を示す図である。
【図6】本発明の第2の実施の形態に係る電力ケーブルの劣化診断方法を実施する試験回路の構成例である。
【図7】本発明の第2の実施の形態に係る損失電流算出処理フローを示す図である。
【図8】従来の電力ケーブルへの課電方法を示す図(1)である。
【図9】従来の電力ケーブルへの課電方法を示す図(2)である。
【図10】従来の試験回路を示す図である。
【図11】損失電流に対するES端子部からの影響を示すグラフである。
【符号の説明】
【0027】
1 電力ケーブル
2、2−1、10 ガス絶縁開閉装置
3 診断装置
4 高圧配線
5 ダミーケーブル
6 ケーブルドラム
7 配線
20 外部筐体
21 ES端子部
22 電力ケーブルの終端部
23 断路器
24 電力機器
25 信号検出器
31 試験電圧発生器
32 電流検知器
33 測定器
100 課電装置
210 開閉器
241 計器用変圧器
242 避雷器
EB−A 気中端子
【技術分野】
【0001】
本発明は、水トリー劣化した電力ケーブルの絶縁劣化を診断する電力ケーブルの劣化診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水トリー劣化したケーブル絶縁体の劣化診断は、絶縁体の絶縁性能という電気的な特性を把握するという観点から、ケーブル絶縁体に電圧を加えてその応答を評価する方法が用いられている。例えば、電力ケーブルに交流電圧を加えたときに流れる電流から損失電流を抽出し、この損失電流中に含まれる第三高調波成分を劣化指標に用いて該電力ケーブルの劣化を診断する損失電流法がある。
ここで、電力ケーブルへの課電方法としては、課電端の形態により、主に下記の2つに分類される。一つの方法は、図8に示すように、気中端子EB−Aに課電装置100を接続して電力ケーブル1に課電する方法である。なお、図8中の2はガス絶縁開閉装置(GIS)である。ガス絶縁開閉装置2は、絶縁性が高い6フッ化硫黄(SF6 )ガスが充填された密閉容器内に設置された密閉型機器である。もう一つの方法は、図9に示すように、ガス絶縁開閉装置2を開封した上で、該ガス絶縁開閉装置2に課電装置100を接続して電力ケーブル1に課電する方法である。
【0003】
従来の電力ケーブルの劣化診断方法には、電力ケーブルが電力系統に接続された状態で、運転電圧により流れる接地線電流を捉え評価する手法があったが、大半の手法においては、診断対象ケーブルを電力系統から切り離す必要があった。特に、上述した図9に示す方法を用いる場合は、試験電圧を課電するために、ガス絶縁開閉装置2内に設けられた電力ケーブルの終端部を露出させなければならないことから、電力ケーブルの劣化診断前に、該ガス絶縁開閉装置2を開封する作業が必要である。また、劣化診断後に開封箇所を密封する作業が必要である。さらに、上記開封、密封作業においてSF6 ガス処理を行う必要がある。その結果、電力ケーブルの劣化診断の付帯作業に多くの労力とコストを要する。
【0004】
ガス絶縁開閉装置2の開封及び密封作業を要することなく電力ケーブル1に試験電圧を課電して、損失電流法を用いた劣化診断を行う方法として、図10に示す試験回路を用いて、ガス絶縁開閉装置2のES端子部21に診断装置3を接続し、該診断装置3から試験電圧を該ES端子部21を介して課電する方法が考えられる。
診断装置3は、試験電圧発生装置を有し、電圧ケーブル1に試験電圧を課電して得られる損失電流に基づいて該電力ケーブル1の劣化を診断する装置である。また、ES端子部21は、ガス絶縁開閉装置2の外部筐体20の内部に設けられ、電力ケーブル導体を接地させるための開閉器210を有する接地機構である。ES端子部21の接地側は、通常は図示を省略する接地電位に接続されており、上記方法の実施時に、図10に示すように、診断装置3に接続される。22は電力ケーブルの終端部であり、23は断路器(DS)である。
下記の特許文献1には、機構接地を利用した電力ケーブルの劣化診断方法が記載されている。特許文献1に記載のものは、外部筐体の内部にケーブルの終端部及びこれと接続される機構接地が設けられた密閉型開閉装置において、上記外部筐体から電気的に絶縁された状態で外部に取り出された機構接地の接地側と接地電位間を切り離して、その接地側と試験電圧発生装置を接続し、試験電圧を機構接地を介してケーブルの導体に印加し、該ケーブルから生じる劣化信号を測定して劣化状態を診断するものである。
【特許文献1】特開2004−361293号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、図10に示す試験回路を用いて課電した場合、以下に図11を参照して説明するように、本来捉えたい電力ケーブル1からの損失電流が、ES端子部21の内部において発生する損失電流の影響を受けてしまうという問題がある。
【0006】
図11は、損失電流に対するES端子部からの影響を示すグラフである。図11のグラフには、図10に示す試験回路においてES端子部21の開閉器210を閉じて(ONにして)、ES端子部21から課電したときの測定波形(同図太線)と、その比較として、相手端であるEB−A端子から課電したときの測定波形(同図細線)を示している。なお、該グラフの縦軸は損失電流[A]、横軸は時間[sec]である。
図11のグラフ中に示すES端子部21から課電したときの測定波形と、相手端であるEB−Aから課電したときの測定波形とを比較すると、ES端子部21から課電したときの測定波形は大きく歪んでいることが観測される。
これは、課電に伴い、ES端子部21内部において第三高調波成分(150Hz信号)を含む損失電流が発生するためと考えられ、本来捉えたい電力ケーブル1からの損失電流がES端子部21の影響を受け、ES端子部21内部において発生した第三高調波成分と、電力ケーブル1の水トリー劣化に起因した損失電流中の第三高調波とが区別できなくなっている。
従って、図10に示す試験回路を用いて電力ケーブル1に課電した場合には、本来捉えたい該電力ケーブル1からの損失電流のみを捉えることが難しく、精度良く劣化診断を行うことが困難になると考えられる。
【0007】
本発明は、上述した事情を考慮してなされたものであって、その目的は、電力ケーブル導体を接地させるための接地機構が設けられたガス絶縁機器などの密閉型機器において、その接地機構を課電端として、損失電流法を用いて電力ケーブルの劣化診断を行うに際し、上記接地機構で発生する損失電流の影響を受けずに、精度よく電力ケーブルの劣化診断を行なうことができる密閉型装置の開封及び密封作業を必要としない電力ケーブルの劣化診断方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明は、次のようにして前記課題を解決する。
(1)外部筐体の内部に、電力ケーブルの終端部及び該電力ケーブル導体を接地させるための開閉器を有する接地機構が設けられた密閉型機器を終端部とする電力ケーブルの劣化診断方法を用いる。上記外部筐体とは電気的に絶縁された状態で、外部筐体から引き出された上記接地機構の接地側と接地電位間を切り離し、その接地側と試験電圧発生装置を接続するとともに、上記接地側に劣化していないダミーケーブルを接続する。そして、上記接地機構の開閉器を閉じた状態で、試験電圧を上記接地機構を介して電力ケーブルの導体に印加して、電力ケーブル、ダミーケーブル及び接地機構により生ずる第1の劣化信号を測定する。次に、上記接地機構の開閉器を開にして、上記試験電圧発生装置から試験電圧を上記接地機構およびダミーケーブルの導体に印加して、接地機構及びダミーケーブルにより生ずる第2の劣化信号を測定する。そして、上記第1の劣化信号から第2の劣化信号を減算し、この減算した信号を用いて上記電力ケーブルの劣化を診断する。
(2)上記密閉型機器の外部筐体の内部に、一方の端子が上記終端部と接続され、他方の端子が、外部筐体から引き出されて接地された電力機器が設置されている。上記電力機器の接地側と、接地電位間を切り離し、この接地側と接地電位との間に信号検出器を設置する。上記第1の劣化信号の測定に際し、上記信号検出器により、電力機器の接地側から生じる機器信号を検出する。そして、上記試験電圧を上記接地機構を介して電力ケーブルの導体に印加することにより生ずる第1の劣化信号から上記機器信号を差し引いて第3の劣化信号を求め、この第3の劣化信号から上記第2の劣化信号を減算し、この減算した信号を用いて上記電力ケーブルの劣化を診断する。
【発明の効果】
【0009】
本発明においては、以下の効果を得ることができる。
(1)本発明の電力ケーブルの劣化診断方法は、密閉型機器の外部筐体と電気的に絶縁された状態で、外部筐体から引き出された接地機構の接地電位間を切り離し、その接地側に課電するが、その際、接地側に劣化していないダミーケーブルを接続して、損失電流を測定する。これにより、接地機構から発生する損失電流が、診断対象である電力ケーブルと上記ダミーケーブルとに分流されるため、診断装置に流入する接地機構からの損失電流を低減させることができる。
(2)また、上記のようにダミーケーブルを接続し、電力ケーブル、ダミーケーブル及び接地機構により生ずる第1の劣化信号を測定し、次に接地機構及びダミーケーブルにより生ずる第2の劣化信号を測定し、上記第1の劣化信号から第2の劣化信号を減算して、電力ケーブルのみにより生ずる劣化信号(損失電流)を取得し、取得した劣化信号を用いて、電力ケーブルの劣化を診断することにより、密閉型機器の開封及び密封等の作業を行なうことなく、密閉型機器を課電端として電力ケーブルの劣化診断を精度よく行なうことができる。
(3)本発明の電力ケーブルの劣化診断方法は、密閉型機器の外部筐体の内部に、電力機器が設置されている場合、上記第1の劣化信号の測定に際し、電力機器の接地側から生じる機器信号を検出して、検出された機器信号を測定された第1の劣化信号から減じて、第3の劣化信号を求め、この第3の劣化信号から上記第2の劣化信号を減算して、電力ケーブルのみにより生ずる劣化信号(損失電流)を取得し、取得した劣化信号を用いて、電力ケーブルの劣化を診断する。従って、本発明によれば、密閉型機器の外部筐体の内部に、電力機器が設置されている場合であっても、精度良く電力ケーブルの劣化診断を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に、図を用いて、本発明の実施の形態について説明する。図1は、本発明の第1の実施の形態に係る電力ケーブルの劣化診断方法を実施する試験回路の構成例である。図1中、2、2−1はガス絶縁開閉装置である。ガス絶縁開閉装置2、2−1は、図10を参照して説明したガス絶縁開閉装置2と同様の構成を有する。
ガス絶縁開閉装置2の外部筐体20の内部に設けられているES端子部21の接地側は、外部筐体20から電気的に絶縁された状態で、外部筐体20から引き出されており、通常は、接地電位に接続されている。
本発明の電力ケーブルの劣化診断方法の実施時には、ES端子部21の接地側が接地電位から切り離され、ES端子部21の接地側と診断装置3が高圧配線4により接続され、ダミーケーブル5がES端子部21の接地側に接続される。
ダミーケーブル5は、例えばケーブルドラム6に収容され、前述したように、接地機構から発生する損失電流を分流し、診断装置に流入する接地機構からの損失電流を低減させるためのものである。
【0011】
図1に示す例では、ダミーケーブル5として、例えば劣化していない長さ50m、断面積100mm2 の22kVCVケーブルを用いているが、本発明の実施の形態において用いられるダミーケーブル5は、上記の規格のケーブルに限定されない。
診断装置3に流入するES接地部21からの劣化信号が、電力ケーブルの劣化信号に対して相対的に小さくなるように、診断対象となる電力ケーブル1とダミーケーブル5との静電容量比を選定すればよく、ダミーケーブル5としては、診断対象となる電力ケーブル1の静電容量に応じて、予め決められた様々な規格のケーブルを用いることができる。
例えば、診断対象となる電力ケーブル1の静電容量が50nFの場合、ダミーケーブル5として長さ200〜400m、断面積14mm2 の6kVCVケーブルを用いる。また、診断対象となる電力ケーブル1の静電容量が100nFの場合、ダミーケーブル5として長さ400〜1000m、断面積14mm2 の6kVCVケーブルを用いる。
【0012】
診断装置3は、試験電圧発生器31、電流検知器32、測定器33を備える。試験電圧発生器31は、電圧ケーブル1の劣化診断に適応する試験電圧を発生する。電流検知器32は、配線4に流れる損失電流を検出する。測定器33は、検出された損失電流を測定解析して、該電力ケーブル1の劣化状態を診断する。
上記試験回路を用いた電力ケーブル1の劣化診断方法を説明すると、まず、ES端子部21の接地側と接地電位間を切り離す。そして、図1に示すように、その接地側と診断装置3とを高圧配線4を介して接続する。
次に、ダミーケーブル5を上記ES端子部21の接地側と診断装置3とに接続する。これによりダミーケーブル5が電力ケーブル1に並列に接続され静電容量が大きくなる。
次に、図2(A)に示すように、ES接地部21の開閉器210を閉じた状態(ON)とする。この状態で、診断装置3が備える試験電圧発生器31から試験電圧を発生し、高圧配線4、ES端子部21を介して電力ケーブル1の導体に課電する。該課電により発生する損失電流を診断装置3の電流検知器32により検出して、測定器33に取り込み、第1の劣化信号として例えば図示を省略する所定のバッファ内に記憶する。
【0013】
上記第1の劣化信号には、診断対象となる電力ケーブル1から発生する損失電流とES端子部21から発生する損失電流とダミーケーブル5から発生する損失電流が含まれている。但し、上述したように、ダミーケーブル5が、電力ケーブル1に並列に接続され、静電容量が大きくなっているので、ダミーケーブル5を接続せずに課電する場合と比べて、ES端子部21からの損失電流の影響が緩和されている。
すなわち、ES端子部21の静電容量は小さいため、上記ダミーケーブル5がないと、診断装置において検出されるES端子部21の劣化信号の電流測定感度が、電力ケーブルの劣化信号の電流測定感度に対して大きくなり、前述したように電力ケーブル1の劣化信号を検出するのが難しくなる。
一方、ダミーケーブル5を接続することにより、ES端子部21から発生する損失電流が、電力ケーブル1とダミーケーブル5とに分流(静電容量比)され、これにより診断装置3に流入するES端子部21からの損失電流が相対的に低減されるものと考えられ、電力ケーブル1の劣化信号を検出し易くなる。
【0014】
次に、図2(B)に示すように、ES接地部21の開閉器210を開く(OFFにする)。この状態で、診断装置3が備える試験電圧発生器31から試験電圧を課電し、ES端子部21及びダミーケーブル5の導体に印加する。該課電により発生する損失電流を診断装置3が備える電流検知器32で検出し、測定器33に取り込み第2の劣化信号として、例えば所定のバッファ内に記憶する。上記第2の劣化信号には、ES端子部21から発生する損失電流とダミーケーブル5から発生する損失電流とが含まれている。
そして、診断装置3が備える測定器33において、上記バッファに記憶された第1の劣化信号から第2の劣化信号を減算して、電力ケーブル1のみから発生した損失電流を求める。そして、測定器3は、求まった該損失電流に基づいて、該電力ケーブル1の劣化状態を診断する。
【0015】
図3は、本発明の第1の実施の形態に係る損失電流算出処理フローを示す図である。まず、ES接地部21の開閉器210を閉じた状態で、試験電圧をES端子部21を介して電力ケーブル1の導体に課電し、電力ケーブル1、ES端子部21、ダミーケーブル5から発生する損失電流を第1の劣化信号として取得する(ステップS1)。
次に、ES接地部21の開閉器210を開いて、試験電圧をES端子部21及びダミーケーブル5の導体に課電し、ES端子部21、ダミーケーブル5から発生する損失電流を第2の劣化信号として取得する(ステップS2)。
そして、第1の劣化信号から第2の劣化信号を減算して、電力ケーブル1のみから発生した損失電流を算出する(ステップS3)。
【0016】
図4は、ダミーケーブル接続の効果を説明する図である。
図4(A)は、ダミーケーブル5を接続しないで、開いた状態のES端子部21に課電した場合に測定される損失電流波形を示し、図4(B)は、ダミーケーブル21を接続して、開いた状態のES端子部21に課電した場合に測定される損失電流波形を示している。また、図4(C)は、ダミーケーブルを接続して、閉じた状態のES端子部21に課電した場合に測定される損失電流波形を示している。課電する試験電圧は、いずれも12kVである。
図4(A)の測定結果と図4(B)の測定結果とを比較すると、ダミーケーブル21を接続したことによって、損失電流の大きさが小さくなっていることがわかる。
【0017】
図5は、本発明の第1の実施の形態に係る電力ケーブルの劣化診断方法による診断結果の検証例を示す図である。図5中に示すグラフの縦軸は、測定された損失電流に含まれる第三高調波の大きさを示し、横軸は、該第三高調波の位相を示す。
この例では、試験電圧12kVを課電して検証を行った。図5中に示す四角形の表示は、撤去ケーブル(診断対象となる電力ケーブル1)のみから発生する劣化信号(真値の信号)を示している。この例では、撤去ケーブルとして、長さ10m、断面積150mm2 の66kVCVケーブルを用いた。
円形の表示は、前述した第1の劣化信号を示し、×印の表示は、前述した第2の劣化信号を示し、三角形の表示は、前述した図3のステップS3の処理によって算出された信号(第1の劣化信号から第2の劣化信号を減算した結果得られる信号)を示している。
【0018】
図5中の点線の円で囲った部分に示すように、第1の劣化信号から第2の劣化信号を減算した結果得られる信号は、真値の信号とほぼ一致している。従って、本発明の第1の実施の形態に係る電力ケーブルの劣化診断方法によれば、真値の信号に極めて近い損失電流を取得することができ、その結果、精度のよい劣化診断結果を得られることがわかる。
【0019】
本発明によれば、ガス絶縁開閉装置2の開封及び密封等の作業を行なうことなく、ガス絶縁開閉装置2の接地機構を課電端として、精度よく電力ケーブルの劣化検出を行なうことができる。このため、ガス絶縁開閉装置2のガス処理を回避することができ、従来のようにガス絶縁開閉装置2の開封及び密封等の作業をする場合に比べ、大幅のコストダウンが実現できる。
さらに、ガス絶縁開閉装置2のガス処理に伴う発注手続、工事管理業務等の労働拘束時間を削減することができる。また、線路停止時間の短縮による客先に対する信頼を確保することができる。
【0020】
図6は、本発明の第2の実施の形態に係る電力ケーブルの劣化診断方法を実施する試験回路の構成例である。図6に示す試験回路の構成要素のうち、前述した図1に示す試験回路の構成要素と同符号のものは、図1に示す試験回路の構成要素と同様である。図1に示すガス絶縁開閉装置10の外部筐体20内には、例えば計器用変圧器241及び避雷器242からなる電力機器24が、外部筐体20から電気的に絶縁された状態で設けられている。
該電力機器24の一方の端子は電力ケーブルの終端部22と接続され、他方の端子は、通常、外部筐体20から引き出されて図示を省略する接地電位に接続されている。
本発明の電力ケーブルの劣化診断方法の実施時には、信号検出器25が上記電力機器24の接地側と接地間に接続される。該信号検出器25は、診断装置3からES接地部21への課電に伴って上記電力機器24の接地側から生じる機器信号を検出するものであり、この検出信号は、診断装置3の測定装置33に送られる。なお、前述したように、ES端子部21の接地側は、外部筐体20から電気的に絶縁されており、通常は接地電位に接続されている。
【0021】
上記試験回路を用いた電力ケーブル1の劣化診断方法を説明すると、まず、ES端子部21の接地側と接地電位間を切り離す。そして、図8に示すように、その接地側と診断装置3とを高圧配線4を介して接続する。次に、ダミーケーブル5を上記ES端子部21の接地側に接続する。
次に、ES接地部21の開閉器210を閉じた状態(ON)とする。この状態で、診断装置3が備える試験電圧発生器31から試験電圧を、高圧配線4、ES端子部21を介して電力ケーブル1の導体に課電する。該課電により発生する損失電流を診断装置3が備える電流検知器32が検出し、測定器33は第1の劣化信号として例えば図示を省略する所定のバッファ内に記憶する。また、信号検出器25が、該課電に伴って上記電力機器24の接地側から生じる機器信号を検出し、検出した機器信号を診断装置3の測定装置33に送る。測定装置33は送信された機器信号を例えば所定のバッファ内に記憶する。
【0022】
上記第1の劣化信号には、診断対象となる電力ケーブル1から発生する損失電流とES端子部21から発生する損失電流と電力機器24から発生する機器信号とダミーケーブル5から発生する損失電流が含まれている。したがって、上記第1の劣化信号から上記機器信号を減算することにより、診断対象となる電力ケーブル1から発生する損失電流とES端子部21から発生する損失電流とダミーケーブル5から発生する損失電流を求めることができる。
【0023】
次に、ES接地部21の開閉器210を開く(OFFにする)。この状態で、診断装置3が備える試験電圧発生器31が、試験電圧を発生し、ES端子部21及びダミーケーブル5の導体に課電する。該課電により発生する損失電流(第2の劣化信号)を診断装置3が備える電流検知器32が検出し、測定器33が、該第2の劣化信号を所定のバッファ内に記憶する。上記第2の劣化信号には、ES端子部21から発生する損失電流とダミーケーブル5から発生する損失電流とが含まれている。なお、ここでは、ES接地部21の開閉器210を開いているので、電力機器24には機器信号は流れず、信号検出器25により、機器信号は検出されない。
診断装置3が備える測定器33が、上記バッファに記憶された第1の劣化信号から機器信号を減算して、電力ケーブル1から発生する損失電流とES端子部21から発生する損失電流とダミーケーブル5から発生する損失電流とからなる第3の劣化信号を算出する。 そして、測定器33が、上記第3の劣化信号から第2の劣化信号を減算して、電力ケーブル1のみから発生した損失電流を求める。そして、測定器3は、求まった該損失電流に基づいて、該電力ケーブル1の劣化状態を診断する。
【0024】
図7は、本発明の第2の実施の形態に係る損失電流算出処理フローを示す図である。まず、ES接地部21の開閉器210を閉じた状態で、試験電圧をES端子部21を介して電力ケーブル1の導体に課電し、電力ケーブル1、ES端子部21、電力機器24、ダミーケーブル5から発生する損失電流を第1の劣化信号として取得するとともに、電力機器24から発生する機器信号を取得する(ステップS11)。
次に、ES接地部21の開閉器210を開いて、試験電圧をES端子部21及びダミーケーブル5の導体に課電し、ES端子部21、ダミーケーブル5から発生する損失電流を第2の劣化信号として取得する(ステップS12)。
次に、第1の劣化信号から機器信号を減算して第3の劣化信号を取得する(ステップS13)。そして、第3の劣化信号から第2の劣化信号を減算して、電力ケーブル1のみから発生した損失電流を算出する(ステップS14)。
【0025】
本発明の第2の実施の形態によれば、ガス絶縁開閉装置2が、外部筐体20の内部に電力機器24が設けられた構成をとる場合においても、課電に伴って電力機器24から発生する機器信号を検出し、上記第1の劣化信号から該検出された機器信号を差し引いた第3の劣化信号を求め、該第3の劣化信号から上記第2の劣化信号を減算して電力ケーブル1のみから発生した損失電流を取得することができる。その結果、精度良く電力ケーブル1の劣化診断を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る電力ケーブルの劣化診断方法を実施する試験回路の構成例である。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係る電力ケーブルの劣化診断方法を説明する図である。
【図3】本発明の第1の実施の形態に係る損失電流算出処理フローを示す図である。
【図4】ダミーケーブル接続の効果を説明する図である。
【図5】本発明の第1の実施の形態に係る電力ケーブルの劣化診断方法による診断結果の検証例を示す図である。
【図6】本発明の第2の実施の形態に係る電力ケーブルの劣化診断方法を実施する試験回路の構成例である。
【図7】本発明の第2の実施の形態に係る損失電流算出処理フローを示す図である。
【図8】従来の電力ケーブルへの課電方法を示す図(1)である。
【図9】従来の電力ケーブルへの課電方法を示す図(2)である。
【図10】従来の試験回路を示す図である。
【図11】損失電流に対するES端子部からの影響を示すグラフである。
【符号の説明】
【0027】
1 電力ケーブル
2、2−1、10 ガス絶縁開閉装置
3 診断装置
4 高圧配線
5 ダミーケーブル
6 ケーブルドラム
7 配線
20 外部筐体
21 ES端子部
22 電力ケーブルの終端部
23 断路器
24 電力機器
25 信号検出器
31 試験電圧発生器
32 電流検知器
33 測定器
100 課電装置
210 開閉器
241 計器用変圧器
242 避雷器
EB−A 気中端子
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部筐体の内部に、電力ケーブルの終端部及び該電力ケーブル導体を接地させるための開閉器を有する接地機構が設けられた密閉型機器を終端部とする電力ケーブルの劣化診断方法であって、
前記外部筐体とは電気的に絶縁された状態で、外部筐体から引き出された上記接地機構の接地側と接地電位間を切り離し、その接地側と試験電圧発生装置を接続するとともに、上記接地側に劣化していないダミーケーブルを接続し、
上記接地機構の開閉器を閉じた状態で、試験電圧を上記接地機構を介して電力ケーブルの導体に印加して、電力ケーブル、ダミーケーブル及び接地機構により生ずる第1の劣化信号を測定し、
次に、上記接地機構の開閉器を開にして、上記試験電圧発生装置から試験電圧を上記接地機構およびダミーケーブルの導体に印加して、接地機構及びダミーケーブルにより生ずる第2の劣化信号を測定し、
上記第1の劣化信号から第2の劣化信号を減算し、この減算した信号を用いて上記電力ケーブルの劣化を診断する
ことを特徴とする電力ケーブルの劣化診断方法。
【請求項2】
上記密閉型機器の外部筐体の内部に、一方の端子が上記終端部と接続され、他方の端子が、外部筐体から引き出されて接地された電力機器が設置されており、
上記電力機器の接地側と、接地電位間を切り離し、この接地側と接地電位との間に信号検出器を設置し、
上記第1の劣化信号の測定に際し、上記信号検出器により、電力機器の接地側から生じる機器信号を検出し、
上記試験電圧を上記接地機構を介して電力ケーブルの導体に印加することにより生ずる第1の劣化信号から上記機器信号を差し引いて第3の劣化信号を求め、この第3の劣化信号から上記第2の劣化信号を減算し、この減算した信号を用いて上記電力ケーブルの劣化を診断する
ことを特徴とする請求項1に記載の電力ケーブルの劣化診断方法。
【請求項1】
外部筐体の内部に、電力ケーブルの終端部及び該電力ケーブル導体を接地させるための開閉器を有する接地機構が設けられた密閉型機器を終端部とする電力ケーブルの劣化診断方法であって、
前記外部筐体とは電気的に絶縁された状態で、外部筐体から引き出された上記接地機構の接地側と接地電位間を切り離し、その接地側と試験電圧発生装置を接続するとともに、上記接地側に劣化していないダミーケーブルを接続し、
上記接地機構の開閉器を閉じた状態で、試験電圧を上記接地機構を介して電力ケーブルの導体に印加して、電力ケーブル、ダミーケーブル及び接地機構により生ずる第1の劣化信号を測定し、
次に、上記接地機構の開閉器を開にして、上記試験電圧発生装置から試験電圧を上記接地機構およびダミーケーブルの導体に印加して、接地機構及びダミーケーブルにより生ずる第2の劣化信号を測定し、
上記第1の劣化信号から第2の劣化信号を減算し、この減算した信号を用いて上記電力ケーブルの劣化を診断する
ことを特徴とする電力ケーブルの劣化診断方法。
【請求項2】
上記密閉型機器の外部筐体の内部に、一方の端子が上記終端部と接続され、他方の端子が、外部筐体から引き出されて接地された電力機器が設置されており、
上記電力機器の接地側と、接地電位間を切り離し、この接地側と接地電位との間に信号検出器を設置し、
上記第1の劣化信号の測定に際し、上記信号検出器により、電力機器の接地側から生じる機器信号を検出し、
上記試験電圧を上記接地機構を介して電力ケーブルの導体に印加することにより生ずる第1の劣化信号から上記機器信号を差し引いて第3の劣化信号を求め、この第3の劣化信号から上記第2の劣化信号を減算し、この減算した信号を用いて上記電力ケーブルの劣化を診断する
ことを特徴とする請求項1に記載の電力ケーブルの劣化診断方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2008−224217(P2008−224217A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−58338(P2007−58338)
【出願日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【Fターム(参考)】
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