説明

電力ケーブル

【課題】端末処理を効率よく行うことができる電力ケーブルを提供すること。
【解決手段】導体1と、ポリエチレンを含む絶縁体層用樹脂組成物を押出成形したのち架橋してなり、前記導体を包囲する絶縁体層3と、ポリマ及び導電性物質を含む外部半導電層用樹脂組成物を、絶縁体層3を覆うように押出成形したのち架橋してなる外部半導電層4とを備え、絶縁体層用樹脂組成物及び外部半導電層用樹脂組成物の両方にイミダゾール系化合物が含まれている電力ケーブル10。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力ケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
3.3kV以上の高電圧用電力ケーブルは一般に、導体の外側に架橋ポリエチレン絶縁体層及び外部半導電層を有している。上記電力ケーブルの外部半導電層のうち、その端末処理を容易にするため絶縁体層から剥離することの出来るものはフリーストリッピング型半導電層と呼ばれ、通常、3.3〜33kVの電力ケーブルに適用されている。この外部半導電層に対しては、絶縁体層に対する適度な密着性と同時に剥離性を有することが要求される。
【0003】
このようなフリーストリッピング型外部半導電層として、例えば、エチレン酢酸ビニル共重合体などを含む特定の樹脂素材に対して導電性カーボンブラックおよび酸化防止剤を添加した組成物を押出成形してなるものが知られている(下記特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公昭63−32204号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記特許文献1記載の組成物を用いて外部半導電層を形成しても、その外部半導電層を絶縁体層から容易に剥離することができない場合があった。このため、電力ケーブルの端末処理を効率よく行う観点から、外部半導電層用の組成物について未だ改善の余地が残されていた。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、端末処理を効率よく行うことができる電力ケーブルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するため外部半導電層形成用の組成物に添加する酸化防止剤、特にイミダゾール系化合物に着目して鋭意研究を重ねた。その結果、本発明者は、外部半導電層形成用の組成物に添加する酸化防止剤としてイミダゾール系化合物を用いるだけでは外部半導電層を絶縁層から容易に剥離できないものの、イミダゾール系化合物を絶縁体層形成用の組成物にも添加することで、意外にも、外部半導電層を絶縁体層から容易に剥離できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち本発明は、導体と、ポリエチレンを含む絶縁体層用樹脂組成物を押出成形したのち架橋してなり、前記導体を包囲する絶縁体層と、ポリマ及び導電性物質を含む外部半導電層用樹脂組成物を、前記絶縁体層を覆うように押出成形したのち架橋してなる外部半導電層とを備え、前記絶縁体層用樹脂組成物及び前記外部半導電層用樹脂組成物の両方にイミダゾール系化合物が含まれていることを特徴とする電力ケーブルである。
【0009】
この電力ケーブルによれば、絶縁体層用樹脂組成物及び外部半導電層用樹脂組成物の両方にはイミダゾール系化合物が含まれていることで、絶縁体層に対する外部半導電層の剥離を容易に行うことができ、端末処理を効率よく行うことができる。
【0010】
上記電力ケーブルにおいては、前記絶縁体層用樹脂組成物には、イミダゾール系化合物が前記ポリエチレン100質量部に対して0.02〜0.3質量部の割合で配合されていることが好ましい。この場合、イミダゾール系化合物が上記範囲内で含まれている場合に比べて、絶縁体層に対して適度な密着性が付与される傾向がある。
【0011】
また上記電力ケーブルにおいては、前記外部半導電層用樹脂組成物には、イミダゾール系化合物が前記ポリマ100質量部に対して0.02〜0.3質量部の割合で配合されていることが好ましい。この場合、イミダゾール系化合物が上記範囲内で含まれている場合に比べて、絶縁体層に対して適度な密着性が付与される傾向がある。
【0012】
また上記電力ケーブルは、前記導体と前記絶縁体との間に設けられる内部半導電層をさらに備えてもよい。この電力ケーブルは、例えば3〜6kVの高圧用に特に有用である。即ち、この電力ケーブルは、このような高圧の用途に使用されても、絶縁体層の絶縁破壊を抑制することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、端末処理を効率よく行うことができる電力ケーブルが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の電力ケーブルの一実施形態を示す部分側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について図1及び図2を用いて詳細に説明する。
【0016】
図1は、本発明に係る電力ケーブルの一実施形態を示す断面図である。図1に示すように、電力ケーブル10は、導体1と、導体1を被覆する内部半導電層2と、内部半導電層2を被覆する絶縁体層3と、絶縁体層3を被覆する外部半導電層4とを備える。ここで、絶縁体層3は、導体1を包囲し、ポリエチレンを含む絶縁体層用樹脂組成物を押出成形したのち架橋してなるものであり、外部半導電層4は、いわゆるフリーストリッピング型の半導電層であり、ポリマ及び導電性物質を含む外部半導電層用樹脂組成物を、絶縁体層3を覆うように押出成形したのち架橋してなるものである。そして、絶縁体層用樹脂組成物及び外部半導電層用樹脂組成物の両方にはイミダゾール系化合物が含まれている。なお、電力ケーブル10は、外部半導電層4の外側に、図示しない遮蔽層、押えテープ層およびシースをさらに備えていてもよい。また絶縁層3の厚さは例えば3〜10mmであり、外部半導電層4の厚さは例えば0.2〜2mmである。また電力ケーブル10は、使用電圧が3.3〜33kVの高電圧の用途に特に有用である。
【0017】
この電力ケーブル10によれば、絶縁体層用樹脂組成物及び外部半導電層用樹脂組成物の両方にイミダゾール系化合物が含まれていることで、絶縁体層3に対する外部半導電層4の剥離を容易に行うことができ、端末処理を効率よく行うことができる。
また電力ケーブル10は、内部半導電層2を備えているため、例えば3〜6kVの高圧用に使用されても、絶縁体層3の絶縁破壊を抑制することができる。
【0018】
次に、電力ケーブル10の製造方法について説明する。
【0019】
即ち、まず導体1と、ポリマ、導電性物質及びイミダゾール系化合物を含む外部半導電層用の樹脂組成物と、ポリエチレン及びイミダゾール系化合物を含む絶縁体層用の樹脂組成物と、内部半導電層用の樹脂組成物とを準備する。
【0020】
(導体)
導体1としては、銅線、銅合金線、アルミニウム線等の金属線を用いることができる。また、上記金属線の表面にスズや銀等のめっきを施したものを導体1として用いることもできる。また導体1としては、単線または撚線を用いることができる。
【0021】
(外部半導電層用樹脂組成物)
外部半導電層用樹脂組成物は、上述したように、ポリマ、導電性物質及びイミダゾール系化合物を含む。
【0022】
ポリマとしては、通常はエチレン系重合体が用いられる。エチレン系重合体とは、エチレンを繰り返し単位として含む重合体を意味する。このようなエチレン系重合体としては、例えばポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン−エチルアクリレート共重合体(EEA)、エチレン−メチルアクリレート共重合体、エチレン−エチルメタクリレート共重合体、エチレン−1−ブテン共重合体、エチレン−αオレフィン共重合体、エチレン−プロピレンジエンゴム(EPDM)が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0023】
中でも、押し出し加工性を向上させる観点からEVAが好ましい。ここで、ポリマ中のEVAの含有率は、絶縁体層4に対する接着性を上げたりカーボン含有率を上げたりするために、81質量%〜100質量%であることが好ましい。
【0024】
導電性物質としては、通常はカーボンブラックが用いられ、カーボンブラックとしては、例えばアセチレンブラック、ファーネスブラック、ケッチェンブラック、サーマルブラックが挙げられる。中でも、カーボンブラックがアセチレンブラックであることが、不純物が少なく、ポリマの電気特性を悪化させないこと、及び、大きな凝集体を作らず、ポリマと導電性物質との界面において電気的欠陥である導電性突起が発生しないという理由から好ましい。
【0025】
導電性物質は、ポリマ100質量部に対して60〜80質量部の割合で配合されることがより好ましい。この場合、電力ケーブル10の温度が上昇した場合でも安定な電気抵抗(導通性)を維持できる。
【0026】
イミダゾール系化合物としては、例えば2−メルカプトベンズイミダゾール、2−メチルメルカプトベンズイミダゾールなどが挙げられる。
【0027】
イミダゾール系化合物は、ポリマ100質量部に対して0.02〜0.30質量部の割合で配合されていることが好ましく、0.05〜0.20質量部の割合で配合されることがより好ましい。この場合、イミダゾール系化合物が上記範囲内で含まれている場合に比べて、絶縁体層3に対して適度な密着性が付与される傾向がある。
【0028】
なお、外部半導電層用樹脂組成物の架橋が熱によって行われる場合には、外部半導電層用樹脂組成物は架橋剤をさらに含んでもよい。このような架橋剤としては、例えばジクミルパーオキサイドなどが挙げられる。
【0029】
(絶縁体層用の樹脂組成物)
絶縁体層用の樹脂組成物は、上述したように、ポリエチレン及びイミダゾール系化合物を含む。
【0030】
ポリエチレンとしては通常、低密度ポリエチレンが用いられるが、高密度ポリエチレンなどを用いてもよい。
【0031】
イミダゾール系化合物としては、上記と同様のものを用いることができる。
【0032】
イミダゾール系化合物は、ポリエチレン100質量部に対して0.02〜0.30質量部の割合で配合されていることが好ましく、0.05〜0.2質量部の割合で配合されることがより好ましい。この場合、イミダゾール系化合物が上記範囲内で含まれている場合に比べて、イミダゾール系化合物を含有する外部半導電層4と絶縁体層3に対して適度な密着性が付与される傾向がある。
【0033】
また外部半導電層4と絶縁体層3との密着性を向上させる観点からは、絶縁体層用の樹脂組成物中のイミダゾール系化合物の配合割合は、外部半導電層用樹脂組成物中のイミダゾール系化合物の配合割合に応じて以下のようにすることが好ましい。
【0034】
即ち、外部半導電層用樹脂組成物中のイミダゾール系化合物の配合割合が、ポリマ100質量部に対して0.02〜0.05質量部である場合は、絶縁体層用の樹脂組成物中のイミダゾール系化合物の配合割合は、ポリエチレン100質量部に対して0.02〜0.30質量部とすることが好ましい。
【0035】
また外部半導電層用樹脂組成物中のイミダゾール系化合物の配合割合が、ポリマ100質量部に対して0.05質量部より大きく0.15質量部以下である場合は、絶縁体層用の樹脂組成物中のイミダゾール系化合物の配合割合は、ポリエチレン100質量部に対して0.02〜0.20質量部とすることが好ましい。
【0036】
さらに外部半導電層用樹脂組成物中のイミダゾール系化合物の配合割合が、ポリマ100質量部に対して0.15質量部より大きく0.25質量部以下である場合は、絶縁体層用の樹脂組成物中のイミダゾール系化合物の配合割合は、ポリエチレン100質量部に対して0.02〜0.20質量部とすることが好ましい。
【0037】
さらにまた外部半導電層用樹脂組成物中のイミダゾール系化合物の配合割合が、ポリマ100質量部に対して0.25質量部より大きく0.30質量部以下である場合は、絶縁体層用の樹脂組成物中のイミダゾール系化合物の配合割合は、ポリエチレン100質量部に対して0.02〜0.05質量部とすることが好ましい。
【0038】
なお、絶縁体層用樹脂組成物の架橋が熱によって行われる場合には、絶縁体層用樹脂組成物は架橋剤をさらに含んでもよい。このような架橋剤としては、例えばジクミルパーオキサイドなどが挙げられる。
【0039】
(内部半導電層用の樹脂組成物)
内部半導電層用の樹脂組成物は、ポリマ、導電性物質及び老化防止剤を含む。ポリマ及び導電性物質としては、外部半導電層用樹脂組成物のポリマ及び導電性物質と同様のものを用いることができる。
【0040】
老化防止剤としては、イミダゾール系化合物と異なる老化防止剤、例えば2,6−ジ−第三−ブチルフェノール、2,6−ジ−第三−ブチル−4−エチルフェノール等のヒンダードフェノール系、4,4’−チオビス−(6−第三−ブチル−3-メチルフェノール)等のチオビスフェノール系、ホスファイト、トリス(混合物−および−ノニル−フェニル)ホスファイト等のりん系トリス(ノニルフェニル)、ジラウリル・チオジプロピオネート、ジステアリル・チオジプロピオネート、ジステアリル−β,β−チオジブチレート、ラウリル・ステアリル・チオジプロピオネート、含硫黄エステル系化合物、アミル−チオグリコレート、1,1’− チオビス−(2−ナフトール)、ヒドラジン誘導体などを用いることができる。このような老化防止剤を用いることで、内部半導電層2と絶縁体層3との間の密着性を向上させることができる。
【0041】
次に、導体1上に、上記3種類の組成物を、架橋しない温度で(例えば120℃程度)同時押出成形により押し出して3層の積層体を形成し被覆した後、続いて架橋筒に導入して加圧加熱(200℃、約15気圧=約1.5MPa)し、絶縁体層用樹脂組成物、内外半導電層用樹脂組成物を架橋処理する。
【0042】
こうして導体1上に、内部半導電層2、絶縁体層3及び外部半導電層4を形成し、電力ケーブル10が得られる。
【実施例】
【0043】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明の内容をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0044】
(実施例1〜16及び比較例1〜9)
まず外部半導電層用の樹脂組成物と、絶縁体層用の樹脂組成物とを準備した。
【0045】
外部半導電層用樹脂組成物は、ポリマ、導電性物質、架橋剤及び老化防止剤を表1〜3に示す組成で配合し、120℃で混練することにより得た。絶縁体層形成用樹脂組成物は、ポリマ及び老化防止剤を表1〜3に示す組成で配合し、120℃で混練することにより得た。なお、表1〜3において、各成分としては具体的に以下のものを使用した。また表1〜3の数値の単位は質量部である。
(1)ポリマ1
EVA:EV260(商品名、三井・デュポン・ポリケミカル(株)製)
(2)導電性物質
アセチレンブラック:デンカブラック(商品名、電気化学工業(株)製)
(3)架橋剤
ジクミルパーオキサイド:パークミルD(日油(株)製)
(4)老化防止剤
2−メルカプトベンズイミダゾール:ノクラックMB(大内新興化学工業(株)製)
(5)ポリマ2
低密度ポリエチレン(LDPE):UBEC530(宇部丸善ポリエチレン(株)製)
【0046】
そして、外部半導電層用の樹脂組成物及び絶縁体層用の樹脂組成物を2層押出機に投入して120℃で2層同時押し出しを行い、2層の積層体を形成し、その2層の積層体で、導体(直径12mm)を被覆した。このとき、外部半導電層用の樹脂組成物は、架橋後の厚さが1mmの厚さとなるように押し出し、絶縁体層形成用の樹脂組成物は、厚さが3mmの厚さとなるように押し出した。
【0047】
次に、上記積層体を押出に引き続いて架橋筒に導入し加圧加熱(200℃、約15気圧=約1.5MPa、1〜2分)し、外部半導電層用樹脂組成物及び絶縁体層用の樹脂組成物を架橋処理した。こうして電力ケーブルを得た。
【0048】
そして、得られた電力ケーブルから、外部半導電層及び絶縁体層を、電力ケーブルの長手方向に長さ150mm程度、外部半導電層を絶縁体層に密着させたまま幅12.5mmの短冊状で切り出し、絶縁体層に対する外部半導電層の剥離試験を行った。剥離試験では、短冊状試料について、絶縁体層から外部半導電層を引っ張り、剥離したときの力を剥離力として測定した。結果を表1〜3に示す。なお、表1〜3において、剥離ができなかった場合は、「剥離不可」と表示した。

【表1】

【表2】

【表3】

【0049】
表1〜3に示す結果より、実施例1〜16の電力ケーブルでは、絶縁体層に対する外部半導電層の剥離を容易に行うことができた。これに対し、比較例1〜8の電力ケールでは、絶縁体層に対する外部半導電層の剥離を行うことができなかった。
【0050】
このことから、本発明の電力ケーブルによれば、端末処理を効率よく行うことができることが確認された。
【符号の説明】
【0051】
1…導体、2…内部半導電層、3…絶縁体層、4…外部半導電層、10…電力ケーブル。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体と、
ポリエチレンを含む絶縁体層用樹脂組成物を押出成形したのち架橋してなり、前記導体を包囲する絶縁体層と、
ポリマ及び導電性物質を含む外部半導電層用樹脂組成物を、前記絶縁体層を覆うように押出成形したのち架橋してなる外部半導電層とを備え、
前記絶縁体層用樹脂組成物及び前記外部半導電層用樹脂組成物の両方にイミダゾール系化合物が含まれていること、
を特徴とする電力ケーブル。
【請求項2】
前記絶縁体層用樹脂組成物には、イミダゾール系化合物が前記ポリエチレン100質量部に対して0.02〜0.3質量部の割合で配合されている、請求項1に記載の電力ケーブル。
【請求項3】
前記外部半導電層用樹脂組成物には、イミダゾール系化合物が前記ポリマ100質量部に対して0.02〜0.3質量部の割合で配合されている、請求項1又は2に記載の電力ケーブル。
【請求項4】
前記導体と前記絶縁体との間に設けられる内部半導電層をさらに備える、請求項1〜3のいずれか一項に記載の電力ケーブル。

【図1】
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【公開番号】特開2011−119167(P2011−119167A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−277185(P2009−277185)
【出願日】平成21年12月7日(2009.12.7)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】