説明

電力供給を伴うAM通信方法および通信システム

【課題】 電力を効率的に伝達しつつ、情報の伝送効率を向上させる。
【解決手段】 3ビットのデータを送信するための1通信周期φを4個の期間T1〜T4に分割し、この4個の期間のうちのいずれか1期間に、谷状パルスを配置する。谷状パルスが配置されていない期間のレベルは、高レベル(論理「0」)に維持する。谷状パルスを配置する期間を、区間αと区間βとに分け、区間αには、中レベル(論理「1」)の参照指標パルスを配置し、区間βには、中レベル(論理「1」)もしくは低レベル(論理「2」)の位置指標パルスを配置する。位置指標パルスが、期間T1〜T4のうちのいずれに配置されているかによって、2ビットの情報を表現し、位置指標パルスが、中レベルか低レベルかによって、1ビットの情報を表現する。位置指標パルスのレベル判定は、参照指標パルスのレベルと比較することにより行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力供給を伴うAM通信方法および通信システムに関し、特に、非接触通信機能をもったICデバイスとリーダライタ装置との間での通信に適した新規なAM通信方式を提案するものである。
【背景技術】
【0002】
一方のデバイスから他方のデバイスに電力供給を行いながら、両デバイス間での相互通信を行う通信方法は、非接触通信機能をもったICデバイス(ICカードやICタグなど)とリーダライタ装置との間などで広く利用されている。たとえば、ICタグ内のデータを外部に読み出したり、外部からICタグ内にデータを書き込んだりする場合、リーダライタ装置からICタグへ電力を供給することによりICタグを動作させた状態にし、両者間での無線通信を行うことになる。リーダライタ装置からICタグへの情報送信は、リーダライタ装置側で発生させた搬送波に情報パルスを乗せることにより行い、ICタグからリーダライタ装置への情報送信は、ICタグ側の回路の抵抗値や容量値を変化させて情報パルスを負荷変調して乗せてやることにより行われる。
【0003】
このように、一方のデバイスから他方のデバイスに電力供給を行いながら、AM変調波を用いて両者間での無線交信を行う場合、通常、パルス位置変調という方法で、データの符号化が行われる。この符号化方法では、1単位のデータを送信するために割り当てられた1通信周期φが複数N個の期間に分割され、このN個の期間のうちのいずれか1期間に、振幅レベルが標準より小さなパルスが配置される。このパルスは位置指標として利用され、このパルスが1通信周期φのどの位置に配置されているかによって、送信対象となるデータの情報が表現されることになる。このような符号化方法は、電力を効率的に伝達できる特徴を有しており、電力供給を伴うAM通信を行う際に便利である。
【0004】
非接触通信機能をもったICデバイスとリーダライタ装置との間の通信方式としては、たとえば、ISO/IEC15693などの規格が定められており、下記の非特許文献1には、この規格に基づいた具体的な通信方式が説明されている。
【非特許文献1】Klaus Finkenzeller著、ソフト工学研究所訳「RFIDハンドブック−非接触ICカードの原理と応用−」日刊工業新聞社出版、2001年2月26日発行、p.187〜195「§9.2.3:ISO/IEC15693−近傍型ICカード」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したISO/IEC15693などの規格に基づくパルス位置変調方式は、電力を効率的に伝達できるという利点はあるが、情報の伝送効率が低いという問題がある。たとえば、1通信周期φを4つの期間に分割し、個々の期間に「1」または「0」のビット情報を配置する一般的なAM通信方式の場合、1通信周期φの間に4ビットの情報を伝送することができる。ところが、上述したパルス位置変調方式では、4つの期間のいずれか1期間にパルスが配置され、このパルスの配置位置に基づいて情報伝達を行う仕組のため、1通信周期φの間に2ビットの情報を伝送することしかできない。
【0006】
そこで本発明は、電力供給を伴うAM通信を行う際に、電力を効率的に伝達しつつ、かつ、情報の伝送効率を向上させる手法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1) 本発明の第1の態様は、無線による電力供給を行う機能をもった第1の装置と、この第1の装置からの電力供給を受けて動作する第2の装置と、の間で電力供給を伴うAM通信を行うために、1単位のデータを送信するために割り当てられた1通信周期φを複数N個の期間に分割し、このN個の期間のうちのいずれか1期間に、振幅レベルが標準より小さな位置指標を配置し、前記位置指標の配置位置によって、送信対象となるデータの情報を表現する電力供給を伴うAM通信方法において、
送信波の振幅レベルを、高レベル、中レベル、低レベルの3通りに設定し、標準となる振幅レベルを高レベルとし、位置指標の振幅レベルを中レベルもしくは低レベルのいずれかとし、位置指標の配置位置に加えて、位置指標が中レベルか低レベルかにより、送信対象となるデータの情報を表現するようにしたものである。
【0008】
(2) 本発明の第2の態様は、上述した第1の態様に係る電力供給を伴うAM通信方法において、
N=2に設定し、位置指標の配置位置に基づいてmビットの情報を表現し、位置指標が低レベルか中レベルかにより1ビットの情報を表現し、1通信周期φの間に、(m+1)ビットからなる1単位のデータを送信するようにしたものである。
【0009】
(3) 本発明の第3の態様は、上述した第1または第2の態様に係る電力供給を伴うAM通信方法において、
位置指標とは別に、振幅レベルが中レベルである参照指標を用いるようにし、参照指標配置用区間αと位置指標配置用区間βとをそれぞれ定め、
送信時には、参照指標配置用区間αに参照指標を配置し、位置指標配置用区間βのうちの送信対象となるデータに応じた所定箇所に位置指標を配置し、
受信時には、参照指標配置用区間αにおける振幅レベルと、位置指標配置用区間βにおける振幅レベルと、を比較し、両振幅レベルの差が所定の許容範囲内であった場合には、位置指標配置用区間βに中レベルの位置指標が配置されているものと判断し、位置指標配置用区間βにおける振幅レベルが参照指標配置用区間αにおける振幅レベルよりも許容範囲を越えるほど小さかった場合には、位置指標配置用区間βに低レベルの位置指標が配置されているものと判断し、位置指標配置用区間βにおける振幅レベルが参照指標配置用区間αにおける振幅レベルよりも許容範囲を越えるほど大きかった場合には、位置指標配置用区間βには位置指標が配置されていないと判断するようにしたものである。
【0010】
(4) 本発明の第4の態様は、上述の第3の態様に係る電力供給を伴うAM通信方法において、
1通信周期φを構成する複数N個の期間ごとに、それぞれ参照指標配置用区間αと位置指標配置用区間βとを設け、個々の期間ごとに、参照指標配置用区間αにおける振幅レベルと位置指標配置用区間βにおける振幅レベルとの比較を行うようにしたものである。
【0011】
(5) 本発明の第5の態様は、上述の第3の態様に係る電力供給を伴うAM通信方法において、
1通信周期φを構成する複数N個の期間のうち、第1の期間には、参照指標配置用区間αと位置指標配置用区間βとを設け、第2〜第Nの期間には、位置指標配置用区間βのみを設け、第1の期間に設けられた参照指標配置用区間αにおける振幅レベルと、各期間に設けられた位置指標配置用区間βにおける振幅レベルとの比較を行うようにしたものである。
【0012】
(6) 本発明の第6の態様は、上述の第3の態様に係る電力供給を伴うAM通信方法において、
1通信周期φを構成する複数N個の期間のうち、位置指標を配置すべき期間についてのみ、参照指標配置用区間αと位置指標配置用区間βとを設け、参照指標と位置指標とを配置するようにし、同一期間内の参照指標配置用区間αにおける振幅レベルと位置指標配置用区間βにおける振幅レベルとの比較を行うようにしたものである。
【0013】
(7) 本発明の第7の態様は、無線による電力供給を行う機能をもった第1の装置と、この第1の装置からの電力供給を受けて動作する第2の装置と、を備えたAM通信システムにおいて、
第1の装置および第2の装置は、
1単位のデータを送信するために割り当てられた1通信周期φを複数N個の期間に分割し、このN個の期間のうちのいずれか1期間に、振幅レベルが標準より小さな位置指標を配置し、この位置指標の配置位置によって、送信対象となるデータの情報を表現して送信するデータ送信手段と、
受信した信号の1通信周期φを構成するN個の期間内のいずれの期間に位置指標が配置されているかを判定し、この判定結果に基づいて、受信したデータの情報を認識するデータ受信手段と、
を備えており、
データ送信手段は、送信波の振幅レベルを、高レベル、中レベル、低レベルの3通りに設定し、標準となる振幅レベルを高レベルとし、位置指標の振幅レベルを中レベルもしくは低レベルのいずれかとし、位置指標の配置位置に加えて、位置指標が中レベルか低レベルかにより、送信対象となるデータの情報を表現する処理を行い、
データ受信手段は、受信波の振幅レベルが、高レベル、中レベル、低レベルの3通りのいずれであるかを判定する機能を有し、位置指標の配置位置に加えて、位置指標が中レベルか低レベルかにより、受信したデータの情報を認識する処理を行うようにしたものである。
【0014】
(8) 本発明の第8の態様は、上述した第7の態様に係る電力供給を伴うAM通信システムにおいて、
データ送信手段が、N=2に設定することにより、1通信周期φを2個の期間に分割し、送信対象となるビット情報の連続からなる2値データを、(m+1)ビットからなる1単位のデータに分け、この1単位のデータのうちのmビットの情報を、2個の期間についての位置指標の配置位置によって表現し、残りの1ビットの情報を、位置指標が低レベルか中レベルかによって表現することにより、送信対象となる2値データを3値データに変換し、これを送信する処理を行う機能を有し、
データ受信手段が、受信した3値データについて、位置指標の配置位置に基づいてmビットの情報を認識し、当該位置指標が低レベルか中レベルかに基づいて1ビットの情報を認識し、(m+1)ビットからなるデータを生成することにより、3値データを2値データに変換する機能を有するようにしたものである。
【0015】
(9) 本発明の第9の態様は、上述した第7または第8の態様に係る電力供給を伴うAM通信システムにおいて、
データ送信手段が、位置指標とは別に、振幅レベルが中レベルである参照指標を用い、参照指標配置用区間αと位置指標配置用区間βとをそれぞれ定め、参照指標配置用区間αに参照指標を配置し、位置指標配置用区間βのうちの送信対象となるデータに応じた所定箇所に位置指標を配置する機能を有し、
データ受信手段が、参照指標配置用区間αにおける振幅レベルと、位置指標配置用区間βにおける振幅レベルと、を比較し、両振幅レベルの差が所定の許容範囲内であった場合には、位置指標配置用区間βに中レベルの位置指標が配置されているものと判断し、位置指標配置用区間βにおける振幅レベルが参照指標配置用区間αにおける振幅レベルよりも許容範囲を越えるほど小さかった場合には、位置指標配置用区間βに低レベルの位置指標が配置されているものと判断し、位置指標配置用区間βにおける振幅レベルが参照指標配置用区間αにおける振幅レベルよりも許容範囲を越えるほど大きかった場合には、位置指標配置用区間βには位置指標が配置されていないと判断する機能を有するようにしたものである。
【0016】
(10) 本発明の第10の態様は、上述した第9の態様に係る電力供給を伴うAM通信システムにおいて、
データ送信手段が、1通信周期φを構成する複数N個の期間ごとに、それぞれ参照指標配置用区間αと位置指標配置用区間βとを設け、
データ受信手段が、個々の期間ごとに、参照指標配置用区間αにおける振幅レベルと位置指標配置用区間βにおける振幅レベルとの比較を行うようにしたものである。
【0017】
(11) 本発明の第11の態様は、上述した第9の態様に係る電力供給を伴うAM通信システムにおいて、
データ送信手段が、1通信周期φを構成する複数N個の期間のうち、第1の期間には、参照指標配置用区間αと位置指標配置用区間βとを設け、第2〜第Nの期間には、位置指標配置用区間βのみを設け、
データ受信手段が、第1の期間に設けられた位置指標配置用区間βにおける振幅レベルと、各期間に設けられた参照指標配置用区間αにおける振幅レベルとの比較を行うようにしたものである。
【0018】
(12) 本発明の第12の態様は、上述した第9の態様に係る電力供給を伴うAM通信システムにおいて、
データ送信手段が、1通信周期φを構成する複数N個の期間のうち、位置指標を配置すべき期間についてのみ、参照指標配置用区間αと位置指標配置用区間βとを設け、参照指標と位置指標とを配置するようにし、
データ受信手段が、同一期間内の参照指標配置用区間αにおける振幅レベルと位置指標配置用区間βにおける振幅レベルとの比較を行うようにしたものである。
【0019】
(13) 本発明の第13の態様は、上述した第9〜12の態様に係る電力供給を伴うAM通信システムにおいて、
データ受信手段が、低電圧範囲内の入力に対しては高電圧レベルの出力を与え、中電圧範囲内の入力に対しては中電圧レベルの出力を与え、高電圧範囲内の入力に対しては低電圧レベルの出力を与える機能をもった3値インバータを含む3値コンパレータ回路により、振幅レベルの比較処理を行うようにしたものである。
【0020】
(14) 本発明の第14の態様は、上述した第9〜12の態様に係る電力供給を伴うAM通信システムにおいて、
データ受信手段が、低電圧範囲内の入力に対しては低電圧レベルの出力を与え、中電圧範囲内の入力に対しては中電圧レベルの出力を与え、高電圧範囲内の入力に対しては高電圧レベルの出力を与える機能をもった3値バッファを含む3値コンパレータ回路により、振幅レベルの比較処理を行うようにしたものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る電力供給を伴うAM通信方法および通信システムによれば、送信波の振幅レベルを、高レベル、中レベル、低レベルの3通りに設定した3値通信を行うようにしたため、電力を効率的に伝達しつつ、かつ、情報の伝送効率を向上させることが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明を図示する実施形態に基づいて説明する。
【0023】
<<< §1.従来の一般的なパルス位置変調式のAM通信方法 >>>
既に述べたとおり、非接触通信機能をもったICデバイス(ICカードやICタグなど)とリーダライタ装置との間での通信方式としては、ISO/IEC15693などの規格が定められており、通常は、パルス位置変調式のAM通信が行われている。これは、図1のブロック図に示すとおり、リーダライタ装置100と非接触型ICデバイス200との間では、双方向通信を行うとともに、リーダライタ装置100から非接触型ICデバイス200に対して、電力供給を行う必要があるからである。
【0024】
具体的には、リーダライタ装置100側で発生させた電磁波を非接触型ICデバイス200側で受け、非接触型ICデバイス200側では、この電磁波に含まれているエネルギーを電力として利用するとともに、この電磁波にAM変調信号として含まれている情報を、リーダライタ装置100から送信されてきたデータとして認識する処理が行われる。一方、非接触型ICデバイス200からリーダライタ装置100への送信データは、非接触型ICデバイス200側の受信回路の抵抗値や容量値を変化させて、リーダライタ装置100側から送信されてくる電磁波に負荷変調を施すことにより行われる。
【0025】
通常、AM通信方式によりデジタルデータを送信する場合、送信対象となる2値信号に基づいて、搬送波の振幅をそのまま変調する符号化方法がとられる。図2は、このような一般的なAM通信方式によるデジタルデータの変調方法の一例を示す波形図である。図2(a) は、送信対象となるデジタルデータに対応する2値信号を示し、図2(b) は、AM変調波を示している。図示の例では、2値信号における「0」は高レベル、「1」は低レベルの信号を示しており、AM変調波では、2値信号の「0」に対応する部分は高レベルの振幅、「1」に対応する部分は低レベルの振幅を対応させることにより、もとの2値信号のビットを表現している。
【0026】
しかしながら、電力供給を伴うAM通信を行う場合、図2に示すような一般的な符号化方法は好ましくない。なぜなら、2値信号のデータ「1」に対応するビットは、AM変調波上、低レベルの振幅として表現されるので、「1」に対応するデータが多ければ多いほど、電力の伝送効率が低下してしまうからである。実際、データ「1」が連続するようなデジタルデータを、この通常の符号化方法で送信すると、非接触型ICデバイス200側では、電力供給不足が生じるおそれがある。
【0027】
そこで、ISO/IEC15693などの規格で定められているAM通信では、パルスを配置する位置によって情報を示すパルス位置変調方式という符号化方法が採られる。この符号化方法では、1単位のデータを送信するために割り当てられた1通信周期φが複数N個の期間に分割され、このN個の期間のうちのいずれか1期間に、振幅レベルが標準より小さなパルスが配置される。たとえば、N=4に設定した場合、図3に示されているように、1通信周期φが4個の期間T1〜T4に分割され、この4個の期間のうちのいずれか1期間にデータ「1」を示すパルス(低レベルの振幅パルス)が配置され、残りの3つの期間にはデータ「0」(高レベルの振幅を維持)が配置される。
【0028】
図4は、N=4に設定したパルス位置変調方式において、位置変調信号上のデータと、本来の送受信データとの関係を示す表である。位置変調信号は、4個の期間T1〜T4のうちの、いずれか1期間にデータ「1」を示すパルスを配置してなる信号である。データ「1」を示すパルスは、期間T1〜T4のいずれかに配置されるので、全部で4通りの情報を示すことができ、2ビットの情報表現が可能になる。図示の例では、期間T1にデータ「1」を示すパルスを配置した場合は送受信データ「00」を表現し、期間T2にデータ「1」を示すパルスを配置した場合は送受信データ「01」を表現し、期間T3にデータ「1」を示すパルスを配置した場合は送受信データ「10」を表現し、期間T4にデータ「1」を示すパルスを配置した場合は送受信データ「11」を表現している。
【0029】
図5は、実際の位置変調信号の波形と送受信データとの関係を示す図である。図5(a) 〜(d) のいずれにおいても、データ「1」を表現する期間のみが、低レベルのパルスを形成し、データ「0」を表現する期間は高レベルを維持している。したがって、この位置変調信号に対応するAM変調波では、4つの期間のうち、1期間だけ振幅が低レベルになるが、残りの3期間では振幅が高レベルを維持するため、十分な電力を安定して供給することができる。一方、このような位置変調信号を受信した側では、各期間T1〜T4のそれぞれに対応する所定のタイミングt1〜t4(図示の例では、各期間の中心時点)で、信号レベルをサンプリングし、表現されているデータが「0」であるか「1」であるかを判定し、図4の表に基づいて、2ビットの送受信データ「00」,「01」,「10」あるいは「11」を認識することになる。
【0030】
結局、位置変調信号上においてデータ「1」を示す低レベルのパルスは、4つの期間T1〜T4のうちのいずれか1つの位置を示す位置指標として利用され、この位置指標がどの期間に配置されているかによって、送信対象となるデータの情報が表現されることになる。このような符号化方法は、電力を効率的に伝達できる特徴を有しており、電力供給を伴うAM通信を行う際に便利である。
【0031】
しかしながら、この符号化方法には、情報の伝送効率が低いという問題がある。たとえば、図2に示す一般的なAM通信の場合、4期間からなる1通信周期φの間に4ビットの情報を伝送することができるのに対し、図5に示す位置変調式のAM通信の場合、同じ1通信周期φの間に2ビットの情報しか伝送することができない。もちろん、1通信周期φをより長く設定し、分割数Nを増やせば、更に多くの情報を送信することができるが、単位時間あたりの情報伝送効率の改善にはならない。本発明は、このような問題を解決するための新規な符号化方法を提案するものであり、電力供給を伴うAM通信を行う際に、電力を効率的に伝達しつつ、情報の伝送効率を向上させることを可能にする。
【0032】
<<< §2.本発明に係るAM通信方法 >>>
本発明に係るAM通信方法の特徴は、§1で述べた従来のパルス位置変調方式の通信方法に、多値論理通信の手法を組み込むことにある。すなわち、従来のパルス位置変調方式では、図5に示すように、「0」もしくは「1」の2値論理により位置変調信号を構成しているが、本発明では、「0」,「1」,「2」の3値論理により位置変調信号を構成することになる。具体的には、図6に示すように、高レベル「0」、中レベル「1」、低レベル「2」の3通りのレベルをもった位置変調信号を用意し、これをAM変調することにより、3段階の振幅レベルをもった送信波を伝送するのである。
【0033】
もちろん、本発明に係るAM通信方法は、一方の装置から他方の装置に情報伝達を行うために、あくまでもパルス位置変調方式をとるので、「1単位のデータを送信するために割り当てられた1通信周期φを複数N個の期間に分割し、このN個の期間のうちのいずれか1期間に、振幅レベルが標準より小さな位置指標を配置し、この位置指標の配置位置によって、送信対象となるデータの情報を表現する」という点では、§1で述べた従来の通信方式と変わりない。しかしながら、§1で述べたパルス位置変調方式では、図5に示す例のように、論理「1」で示される位置指標を「谷状パルス」によって構成し、この「谷状パルス」がどの位置に配置されているかによって、データの情報を表現しているのに対し、本発明では、2通りの位置指標を用い、位置指標の配置位置だけでなく、どちらの位置指標を用いたか、という情報により、送信対象となるデータを表現することになる。
【0034】
具体的には、図6に示す3つのレベルについて、高レベル「0」を標準レベル(位置指標が配置されていないことを示す振幅レベル)とし、中レベル「1」を第1の位置指標を示す振幅レベルとし、低レベル「2」を第2の位置指標を示す振幅レベルとするのである。別言すれば、第1の位置指標は「浅い谷状パルス」で構成され、第2の位置指標は「深い谷状パルス」で構成されることになり、「谷状パルス」の配置位置という情報に加えて、「谷状パルス」が浅いか深いかという情報によって、送信データが表現されることになる。
【0035】
図7は、1通信周期φを4分割した場合の本発明に係るパルス位置変調方式の原理を示す図である。図3に示す原理図と同様に、1通信周期φが4個の期間T1〜T4に分割され、この4個の期間のうちのいずれか1期間に、位置指標が配置される。ただし、位置指標としては、データ「1」を示すパルス(中レベルの振幅パルス)とデータ「2」を示すパルス(低レベルの振幅パルス)との2種類が選択的に用いられる。残りの3つの期間にはデータ「0」(高レベルの振幅を維持)が配置される。
【0036】
図8は、N=4に設定した本発明に係るパルス位置変調方式において、位置変調信号上のデータと、本来の送受信データとの関係を示す表である。位置変調信号は、4個の期間T1〜T4のうちの、いずれか1期間にデータ「1」または「2」を示すパルスからなる位置指標を配置してなる信号である。位置指標は、期間T1〜T4のいずれかに配置されるので、全部で4通りの情報を示すことができ、2ビットの情報表現が可能になる。一方、位置指標としては、データ「1」および「2」の2種類のパルスが用意されているので、位置指標の区別により、更に1ビットの情報表現が可能になる。結局、図8の表に示すように、この方式を用いると、4個の期間T1〜T4から構成される1通信周期φの間に、3ビットのデータ(「000」〜「111」までの8通りのデータ)を伝送することが可能になる。
【0037】
図9(a) 〜(h) は、本発明に係るパルス位置変調方式において、実際の位置変調信号の波形と送受信データとの関係を示す図である。データ「1」を表現する期間は中レベルのパルス(浅い谷状パルス)、データ「2」を表現する期間は低レベルのパルス(深い谷状パルス)を形成し、データ「0」を表現する期間は高レベルを維持している。したがって、この位置変調信号に対応するAM変調波では、4つの期間のうち、1期間だけ振幅が中レベルもしくは低レベルになるが、残りの3期間では振幅が高レベルを維持するため、十分な電力を安定して供給することができる。一方、このような位置変調信号を受信した側では、各期間T1〜T4のそれぞれに対応する所定のタイミングt1〜t4(図示の例では、各期間の中心時点)で、信号レベルをサンプリングし、表現されているデータが「0」,「1」,「2」のいずれであるかを判定し、図8の表に基づいて、3ビットの送受信データ「000」〜「111」を認識することになる。
【0038】
このように、本発明では、送信波の振幅レベルを、高レベル、中レベル、低レベルの3通りに設定し、標準となる振幅レベルを高レベルとし、位置指標の振幅レベルを中レベルもしくは低レベルのいずれかとしたため、位置指標の配置位置に加えて、当該位置指標が中レベルか低レベルかにより、送信対象となるデータの情報を表現することが可能になるため、情報の伝送効率を向上させることができる。
【0039】
実際、図5に示す従来の位置変調信号では、1通信周期φの間に2ビットのデータしか伝送できなかったのに対し、図9に示す本発明の位置変調信号では、同じ1通信周期φの間に3ビットのデータを伝送することができるようになっており、伝送効率は50%も向上している。しかも、本発明に係るAM通信方法は、あくまでもパルス位置変調方式をとっているので、十分な電力を安定して供給することが可能である。
【0040】
一般に、1通信周期φの分割数Nを、N=2に設定した場合、本発明によれば、位置指標の配置位置に基づいてmビットの情報を表現することができ、位置指標が低レベルか中レベルかにより1ビットの情報を表現することができるので、1通信周期φの間に、(m+1)ビットからなる1単位のデータを送信することが可能になる。図9に示す例は、m=2とした場合であり、1通信周期φの間に、(m+1)=3ビットからなるデータを送信することができる。
【0041】
なお、実際には、図9に示す1通信周期φを次々と繰り返すことにより、3ビットからなるデータを1単位データとして、多数の単位データを連続して伝送することになる。したがって、送信開始時には、通信周期φの同期をとるための同期信号を送信し、サンプリングタイミングt1〜t4の正しい時期を決定する処理が必要になる。このような同期処理は、従来の一般的なパルス位置変調方式のAM通信方法と同様であるので、ここでは詳しい説明は省略する。
【0042】
<<< §3.位置指標とともに参照指標を送信する方法 >>>
本発明に係るAM通信方法の特徴は、従来のパルス位置変調方式では、「0」もしくは「1」の2値論理により位置変調信号を構成していたのに対し、本発明では、「0」,「1」,「2」の3値論理により位置変調信号を構成する点にある。このように、2値論理の代わりに多値論理を用いると、単位時間あたりの伝送情報量を増加させることができるが、伝達情報の信頼性は低下せざるを得ない。
【0043】
たとえば、図5に示す2値論理からなる位置変調信号の場合、受信側では、「0」か「1」か(振幅が高レベルか低レベルか)を判断すれば足りるが、図9に示す3値論理からなる位置変調信号の場合、受信側では、「0」か「1」か「2」か(振幅が高レベルか中レベルか低レベルか)を判断する必要がある。このように振幅レベルの判断基準が多岐にわたると、無線によるAM通信を行う場合、伝達情報の信頼性は低下してしまう。これは、AM受信波のゲインが必ずしも安定していないためである。たとえば、通信中に、リーダライタ装置100と非接触型ICデバイス200との間の距離が小さくなれば、受信波のゲインは大きくなり、距離が大きくなれば、受信波のゲインは小さくなる。また、通信路に干渉波がノイズ成分として混入しても、受信波のゲインに影響が及ぶ。このため、従来の2値論理を用いた通信に比べて、本発明の3値論理を用いた通信は、予期せざる現象による振幅変動の影響を受け、振幅レベルの判断に誤まりが生じやすい。
【0044】
そこで、本発明を実施する上では、位置指標とは別に、参照指標を用いるようにするのが好ましい。ここで、位置指標は、既に述べたとおり、1通信周期φを複数N個の期間に分割したときに、このN個の期間のうちのいずれか1つの位置を示すための指標であり、本発明の場合§2で述べたとおり、中レベル「1」もしくは低レベル「2」のいずれかの振幅レベルをもったパルスによって構成されている。一方、参照指標は、振幅レベルが中レベル「1」であるパルスによって構成されており、受信側の装置に対して、中レベル「1」の振幅を示す参照値を与える機能を有する。
【0045】
このような参照指標を用いるようにすれば、受信側の装置では、この参照指標によって示されている振幅レベルを基準として、これよりも十分に大きな振幅レベルを高レベル「0」、ほぼ同じ振幅レベルを中レベル「1」、これよりも十分に小さな振幅レベルを低レベル「2」と判断することができる。このような判断は、相対的な判断であるため、受信波のゲイン全体が増減したとしても、その影響を受けることはない。
【0046】
参照指標を用いる場合には、予め、1通信周期φ内に、参照指標配置用区間αと位置指標配置用区間βとをそれぞれ定めておけばよい。そして送信時には、参照指標配置用区間αに参照指標を配置し、位置指標配置用区間βのうちの送信対象となるデータに応じた所定箇所に位置指標を配置するようにすればよい。一方、受信時には、参照指標配置用区間αにおける振幅レベルと、位置指標配置用区間βにおける振幅レベルと、を比較し、両振幅レベルの差が所定の許容範囲内であった場合には、位置指標配置用区間βに中レベル「1」の位置指標が配置されているものと判断し、位置指標配置用区間βにおける振幅レベルが参照指標配置用区間αにおける振幅レベルよりも許容範囲を越えるほど小さかった場合には、位置指標配置用区間βに低レベル「2」の位置指標が配置されているものと判断し、位置指標配置用区間βにおける振幅レベルが参照指標配置用区間αにおける振幅レベルよりも許容範囲を越えるほど大きかった場合には、位置指標配置用区間βには位置指標が配置されていない(高レベル「0」)と判断すればよい。
【0047】
参照指標配置用区間αと位置指標配置用区間βとは、互いに同じ位置を占めることはできないが、それぞれの機能を果たすことができる位置であれば、どのような位置に配置してもかまわない。まず、位置指標配置用区間βは、必要に応じて位置指標を配置するための位置を示すものであるから、1通信周期φをN個の期間に分割した場合、N個の期間のそれぞれに設けておく必要がある。一方、参照指標配置用区間αは、必要に応じて振幅レベルを参照するのに便利な位置に設けておけば足りるが、実用上は、受信波のゲイン変動に十分に対応できるように、1通信周期φ内の最低1箇所に設けておくようにするのが好ましい。以下、図9に示す実施形態に、参照指標を付加した3通りの実施例を述べる。
【0048】
図10(a) 〜(h) は、第1の実施例を示す波形図である。この実施例では、1通信周期φを構成する複数N個の期間ごとに(図示の例では4個の期間T1〜T4ごとに)、それぞれ参照指標配置用区間αと位置指標配置用区間βとを設け、受信側において、個々の期間ごとに、参照指標配置用区間αにおける振幅レベルと位置指標配置用区間βにおける振幅レベルとの比較を行うことができるようにしたものである。
【0049】
すなわち、図示のとおり、個々の期間T1〜T4は、それぞれ一点鎖線により前半期間と後半期間とに区分けされており、前半期間に参照指標配置用区間αが設定され、後半期間に位置指標配置用区間βが設定されている。そして、すべての参照指標配置用区間αに、参照指標が配置されている。別言すれば、すべての参照指標配置用区間αには、中レベル「1」を示す「浅い谷状パルス」が配置されている。図では、この参照指標についての論理値「1」を○で囲うことにより、参照指標であることを示している。
【0050】
一方、位置指標配置用区間βには、必要に応じて位置指標が配置されている。位置指標は、4つの期間T1〜T4のうちのどれか1期間にだけ配置されるべきものであるから、いずれか1つの期間の位置指標配置用区間βに、位置指標を示す「谷状パルス」が配置されており、残りの3つの期間の位置指標配置用区間βには、位置指標は配置されていない。たとえば、図10(a) では、期間T1内の位置指標配置用区間βにのみ、位置指標(中レベル「1」)が配置されており、期間T2,T3,T4内の位置指標配置用区間βは、高レベル「0」を維持している。また、図10(b) では、期間T2内の位置指標配置用区間βにのみ、位置指標(中レベル「1」)が配置されており、期間T1,T3,T4内の位置指標配置用区間βは、高レベル「0」を維持している。一方、図10(e) では、期間T1内の位置指標配置用区間βにのみ、位置指標(低レベル「2」)が配置されており、期間T2,T3,T4内の位置指標配置用区間βは、高レベル「0」を維持している。
【0051】
このように、位置指標は、中レベル「1」を示す「浅い谷状パルス」か、低レベル「2」を示す「深い谷状パルス」かのいずれかであるが、参照指標は、常に中レベル「1」を示す「浅い谷状パルス」であるため、図10(a) 〜(d) に示すように、中レベル「1」を示す位置指標が配置されている場合、参照指標と位置指標とが連続した「浅い谷状パルス」を形成することになるが、図10(e) 〜(h) に示すように、低レベル「2」を示す位置指標が配置されている場合、参照指標と位置指標とは「浅い谷に深い谷が隣接したステップ状のパルス」を形成することになる。
【0052】
この第1の実施例に係る位置変調信号を受信した場合、図10の下段に示すように、各期間T1〜T4の参照指標配置用区間αおよび位置指標配置用区間βのそれぞれに対応する所定のタイミングt1〜t8(図示の例では、αおよびβと記した各区間の中心時点)で、信号レベルをサンプリングし、個々の期間T1〜T4のそれぞれについて、前述したとおり、区間αの振幅レベルと区間βの振幅レベルとの比較を行えばよい。すなわち、期間T1についてはタイミングt1,t2においてサンプリングした振幅レベルが比較され、期間T2についてはタイミングt3,t4においてサンプリングした振幅レベルが比較され、期間T3についてはタイミングt5,t6においてサンプリングした振幅レベルが比較され、期間T4についてはタイミングt7,t8においてサンプリングした振幅レベルが比較される。
【0053】
たとえば、図10(a) の期間T1のように、両振幅レベルの差が同一(所定の許容範囲)であった場合には、位置指標配置用区間βに中レベル「1」の位置指標が配置されているものと判断すればよい。また、図10(e) の期間T1のように、位置指標配置用区間βにおける振幅レベルが参照指標配置用区間αにおける振幅レベルよりも(所定の許容範囲を越えるほど)小さかった場合には、位置指標配置用区間βに低レベル「2」の位置指標が配置されているものと判断すればよい。そして、図10(a) の期間T2〜T4のように、位置指標配置用区間βにおける振幅レベルが参照指標配置用区間αにおける振幅レベルよりも(許容範囲を越えるほど)大きかった場合には、位置指標配置用区間βには位置指標が配置されていない(高レベル「0」)と判断すればよい。こうして、最終的には、図8の表に基づいて、3ビットの送受信データ「000」〜「111」を認識することができる。
【0054】
この図10に示す実施例では、個々の期間ごとに、それぞれ参照指標が配置されているので、受信波のゲイン変動が急激に生じた場合でも十分に対処できる。しかしながら、参照指標を多く配置すればするほど、電力の伝送効率が低下することは否めない。電力の伝送効率をできるだけ高める上では、参照指標配置用区間αの区間幅を、位置指標配置用区間βの区間幅に比べて、できるだけ小さく設定するのが好ましい。
【0055】
図11(a) 〜(h) は、第2の実施例を示す波形図である。この実施例では、1通信周期φを構成する複数N個の期間のうち(図示の例では4個の期間T1〜T4のうち)、第1の期間T1には、参照指標配置用区間αと位置指標配置用区間βとを設け、第2〜第Nの期間(図示の例では、第2の期間T2,第3の期間T3,第4の期間T4)には、位置指標配置用区間βのみを設け、受信側において、第1の期間T1に設けられた参照指標配置用区間αにおける振幅レベルと、各期間に設けられた位置指標配置用区間βにおける振幅レベルとの比較を行うことができるようにしたものである。
【0056】
図示のとおり、第1の期間T1は、一点鎖線により前半期間と後半期間とに区分けされており、前半期間に参照指標配置用区間αが設定され、後半期間に位置指標配置用区間βが設定されている。やはり、すべての参照指標配置用区間αには、中レベル「1」を示す「浅い谷状パルス」が配置されている。この図でも、参照指標についての論理値「1」を○で囲って示している。一方、第2の期間T2,第3の期間T3,第4の期間T4は、それぞれ期間全体が位置指標配置用区間βとなっており、参照指標配置用区間αは設定されていない。
【0057】
この第2の実施例に係る位置変調信号を受信した場合、図11の下段に示すように、第1の期間T1の参照指標配置用区間αおよび位置指標配置用区間βのそれぞれに対応する所定のタイミングt1,t2と、第2の期間T2,第3の期間T3,第4の期間T4の位置指標配置用区間βにそれぞれ対応する所定のタイミングt3,t4,t5において、信号レベルをサンプリングし、個々の期間T1〜T4のそれぞれについて、前述したとおり、区間αの振幅レベルと区間βの振幅レベルとの比較を行えばよい。すなわち、まず、タイミングt1において、参照指標のサンプル値が取り込まれて一時記憶され、続いて、この一時記憶されたサンプル値に対して、タイミングt2,t3,t4,t5において取り込まれたサンプル値が比較される。
【0058】
この図11に示す実施例では、1通信周期φの最初に参照指標が配置されており、この参照指標の振幅レベルが、当該通信周期φ内の判定に共通して利用されることになる。したがって、1通信周期φ内に生じた急激なゲイン変動には対処することができないが、電力の伝送効率という点では、図10に示す実施例に比べて優れている。
【0059】
図12(a) 〜(h) は、第3の実施例を示す波形図である。この実施例では、1通信周期φを構成する複数N個の期間のうち(図示の例では4個の期間T1〜T4のうち)、位置指標を配置すべき期間についてのみ、参照指標配置用区間αと位置指標配置用区間βとを設け、参照指標と位置指標とを配置するようにし、受信側において、同一期間内の参照指標配置用区間αにおける振幅レベルと位置指標配置用区間βにおける振幅レベルとの比較を行うことができるようにしたものである。
【0060】
たとえば、図12(a) では、送受信データ「000」を表現するために、第1の期間T1内に位置指標を配置する必要がある。そこで、この第1の期間T1を、一点鎖線により前半期間と後半期間とに区分けし、前半期間に参照指標配置用区間αを設定し、後半期間に位置指標配置用区間βを設定している。そして、参照指標配置用区間αには、中レベル「1」を示す「浅い谷状パルス」を配置し、位置指標配置用区間βには、やはり中レベル「1」を示す「浅い谷状パルス」を配置している。なお、この図でも、参照指標についての論理値「1」を○で囲って示している。この図12(a) に示す位置変調信号では、第2の期間T2,第3の期間T3,第4の期間T4には、参照指標配置用区間αも位置指標配置用区間βも設定されていない。
【0061】
この第3の実施例に係る位置変調信号を受信した場合、これまで述べた実施例とは異なり、サンプリングを行う前の準備処理が必要になる。それは、4つの期間T1〜T4のうち、どの期間に参照指標配置用区間αおよび位置指標配置用区間βが設定されているかを確認する処理である。この第3の実施例の場合、「谷状パルス」は、4つの期間T1〜T4のうちのいずれか1つの期間のみに配置されている。そこで、まず、各期間ごとに予備的なサンプリングを行い、4つの期間T1〜T4のうち、どの期間に「谷状パルス」が含まれているかを確認する準備処理を行う。この準備処理では、「谷状パルス」の有無を検出すれば足り、「谷状パルス」が浅いか深いかまでを確認する必要はない。したがって、振幅レベルが高レベルか否かを確認することができれば足りる。
【0062】
そして、「谷状パルス」の存在が確認された場合にだけ、当該期間について、正式なサンプリング処理を行えばよい。たとえば、図12(a) ,(e) に示すような位置変調信号の場合、期間T1において「谷状パルス」の存在が確認されるので、この期間T1について正式なサンプリング処理が行われる。すなわち、図示のタイミングt1,t2において、サンプリング処理が行われ、両サンプリング処理で得られた振幅レベルの比較が行われることになる。後続する期間T2,T3,T4では、「谷状パルス」の存在は確認されないので、サンプリング処理を行う必要はない。
【0063】
同様に、図12(b) ,(f) に示すような位置変調信号の場合、期間T2のタイミングt3,t4において、サンプリング処理が行われ、図12(c) ,(g) に示すような位置変調信号の場合、期間T3のタイミングt5,t6において、サンプリング処理が行われ、図12(d) ,(h) に示すような位置変調信号の場合、期間T4のタイミングt7,t8において、サンプリング処理が行われる。
【0064】
この図12に示す実施例では、位置指標は同一期間内に配置された参照指標と比較されるので、1通信周期φ内に生じた急激なゲイン変動にも十分対処することができる。しかも、参照指標は位置指標が配置された期間についてのみ配置されるので、電力の伝送効率という点においても、図10に示す実施例に比べて優れている。特に、中レベルおよび低レベルの振幅レベルと、高レベルの振幅レベルとの差を十分に確保しておくようにすれば、上述した準備処理において、「谷状パルス」の存在を十分な精度で確認することができる。また、中レベルと低レベルとの相違は、正式なサンプリング処理において、参照指標との比較を行うことにより、十分な精度で区別が可能である。
【0065】
以上、参照指標の配置態様を3通りの実施例について述べたが、もちろん、参照指標を配置する態様はこれらの実施例に限定されるものではない。たとえば、K通信周期(K≧2)ごとに1つの参照指標を配置し、これをK通信周期内の位置指標の判定に共通して利用するようなことも可能である。
【0066】
<<< §4.本発明に係るAM通信システム >>>
続いて、ここでは、本発明に係るAM通信システムを述べる。図13は、本発明の一実施形態に係るAM通信システムの基本構成を示すブロック図である。図示の例は、リーダライタ装置100と非接触型ICデバイス200とによって構成されるAM通信システムであり、リーダライタ装置100側から非接触型ICデバイス200側に対して無線による電力供給が行われ、非接触型ICデバイス200は、この供給電力に基づいて動作する。
【0067】
リーダライタ装置100には、メモリ110,制御部120,2値/3値変換部130,信号変調部140,送受信部150,検波増幅部160,3値/2値変換部170なる各構成要素が組み込まれている。これらと同様の構成要素が、非接触型ICデバイス200側にも組み込まれている。すなわち、非接触型ICデバイス200には、メモリ210,制御部220,2値/3値変換部230,信号変調部240,送受信部250,検波増幅部260,3値/2値変換部270なる各構成要素が組み込まれている。更に、非接触型ICデバイス200には、電力供給のための構成要素として、整流回路280および電源回路290が組み込まれている。
【0068】
リーダライタ装置100側から非接触型ICデバイス200側へのデータ送信および電力供給は、次のようにして行われる。まず、送信対象となるデータが、メモリ110から制御部120へと読み出され、送信信号として2値/3値変換部130へ与えられる。このメモリ110から読み出された段階の送信信号は、2値論理データであり、「0」または「1」を示すビットの集合である。2値/3値変換部130は、この2値論理データを3値論理データに変換する処理を行い、位置変調信号として出力する処理を行う。たとえば、前述した実施形態の場合、メモリ110から読み出された2値論理データは、3ビットずつ分けられ、図8に示す表に基づいて、位置変調信号上のデータに変換される。また、必要に応じて、§3で述べた参照指標が付加され、位置変調信号が生成される。こうして、生成された位置変調信号は、信号変調部140へと与えられ、搬送波に乗せることにより、送信波として送受信部150へと与えられる。送受信部150は、アンテナを介して、送信波を電磁波として外部へ放出する。
【0069】
こうしてリーダライタ装置100側の送受信部150から放出された電磁波は、非接触型ICデバイス200側の送受信部250により、受信波として受信される。この受信波の電磁エネルギーにより生じた交流電流は、整流回路280により整流された後、電源回路290に与えられる。電源回路290は、こうして与えられた電力に基づいて、非接触型ICデバイス200に対する電源供給を行うことになる。
【0070】
一方、送受信部250で受信された受信波は、検波増幅部260において検波および増幅され、元の位置変調信号に戻される。この位置変調信号は、まだ、3値論理データの状態である。3値/2値変換部270は、この位置変換信号を所定タイミングでサンプリングして振幅レベルを検出し、たとえば、図8に示す表に基づいて、これを2値論理データからなる受信信号に変換する。前述した実施形態の場合、1通信周期φに相当する位置変換信号が、3ビットの受信信号に変換されることになる。こうして得られた受信信号は、順次、制御部220に与えられ、メモリ210に対して受信データとして書き込まれる。
【0071】
逆に、非接触型ICデバイス200側からリーダライタ装置100側へのデータ送信処理は、次のようにして行われる。まず、送信対象となるデータが、メモリ210から制御部220へと読み出され、送信信号として2値/3値変換部230へ与えられる。続いて、2値/3値変換部230において、2値論理データを3値論理データに変換する処理が行われ、位置変調信号が生成される。こうして、生成された位置変調信号は、信号変調部240へと与えられ、AM変調が行われる。送受信部250は、このAM変調された送信波をリーダライタ装置100側へと伝達するわけであるが、自発的に電磁波を放出するわけではなく、送受信部150から放出された電磁波を受信する機能をもった送受信部250の回路に対して、負荷変調をかけることにより、送受信部150から放出される電磁波の振幅に変動を生じさせるという方法で、リーダライタ装置100側への信号伝達を行う。
【0072】
このような非接触型ICデバイス200側の負荷変調による振幅変動は、リーダライタ装置100側の送受信部150において受信波として受信された後、検波増幅部160において検波および増幅され、元の位置変調信号に戻される。この位置変調信号は、3値/2値変換部170により、2値論理データからなる受信信号に変換されて、制御部120に与えられ、メモリ110に対して受信データとして書き込まれる。
【0073】
なお、制御部120は、メモリ110に対して制御信号を与え、メモリ110に対するデータの読み出しおよび書き込み処理を制御するとともに、送受信部150に対して制御信号を与え、送受信の処理を制御する。同様に、制御部220は、メモリ210に対して制御信号を与え、メモリ210に対するデータの読み出しおよび書き込み処理を制御するとともに、送受信部250に対して制御信号を与え、送受信の処理を制御する。
【0074】
結局、リーダライタ装置100内の2値/3値変換部130,信号変調部140,送受信部150と、非接触型ICデバイス200内の2値/3値変換部230,信号変調部240,送受信部250とは、それぞれデータ送信手段として機能し、リーダライタ装置100内の送受信部150,検波増幅部160,3値/2値変換部170と、非接触型ICデバイス200内の送受信部250,検波増幅部260,3値/2値変換部270とは、それぞれデータ受信手段として機能することになる。
【0075】
ここで、データ送信手段は、1単位のデータを送信するために割り当てられた1通信周期φを複数N個の期間に分割し、このN個の期間のうちのいずれか1期間に、振幅レベルが標準より小さな位置指標を配置し、この位置指標の配置位置によって、送信対象となるデータの情報を表現して送信する機能をもった手段ということができる。ここで、このデータ送信手段は、送信波の振幅レベルを、高レベル、中レベル、低レベルの3通りに設定し、標準となる振幅レベルを高レベルとし、位置指標の振幅レベルを中レベルもしくは低レベルのいずれかとし、位置指標の配置位置に加えて、位置指標が中レベルか低レベルかにより、送信対象となるデータの情報を表現する処理を行う。
【0076】
より具体的には、このデータ送信手段は、N=2に設定することにより、1通信周期φを2個の期間に分割し、送信対象となるビット情報の連続からなる2値データを、(m+1)ビットからなる1単位のデータに分け、この1単位のデータのうちのmビットの情報を、2個の期間についての位置指標の配置位置によって表現し、残りの1ビットの情報を、位置指標が低レベルか中レベルかによって表現することにより、2値データを3値データに変換し、これを送信する処理を行う。
【0077】
一方、データ受信手段は、受信した信号の1通信周期φを構成するN個の期間内のいずれの期間に位置指標が配置されているかを判定し、この判定結果に基づいて、受信したデータの情報を認識する手段ということができる。ここで、このデータ受信手段は、受信波の振幅レベルが、高レベル、中レベル、低レベルの3通りのいずれであるかを判定する機能を有し、位置指標の配置位置に加えて、位置指標が中レベルか低レベルかにより、受信したデータの情報を認識する処理を行う。
【0078】
より具体的には、このデータ受信手段は、受信した3値データについて、位置指標の配置位置に基づいてmビットの情報を認識し、当該位置指標が低レベルか中レベルかに基づいて1ビットの情報を認識し、(m+1)ビットからなるデータを生成することにより、3値データを2値データに変換する処理を行う。
【0079】
<<< §5 本発明に適した3値コンパレータ回路 >>>
最後に、本発明に係るAM通信システムのデータ受信手段に用いるのに適した3値コンパレータ回路の構成を述べておく。§3で述べたとおり、本発明を実施する上では、位置指標とは別に、参照指標を用いるようにするのが好ましい。ここで、位置指標は、前述したとおり、標準の振幅レベルである高レベル「0」に対して、中レベル「1」もしくは低レベル「2」のいずれかの振幅レベルをもったパルスによって構成されており、参照指標は、中レベル「1」の振幅レベルをもったパルスによって構成されている。そして、本発明に係るデータ受信手段では、参照指標配置用区間αに配置された参照指標の振幅レベルを、位置指標配置用区間βの振幅レベルと比較することにより、当該区間βに、位置指標が配置されているか否か、配置されているとしたら、中レベル「1」の位置指標であるのか、低レベル「2」の位置指標であるのか、を判定する必要がある。
【0080】
図14は、このような判定を行うために用いることができる3値コンパレータ回路の一例を示す回路図である。ここで、入力端子Vrefは、参照指標配置用区間αの電圧を入力するための端子であり、入力端子Vinは、位置指標配置用区間βの電圧を入力するための端子である。これらの各入力端子から与えられた電圧は、スイッチS1,S2を介して容量素子Cの一方の電極に加えられる。この容量素子Cの他方の電極は、3値インバータIの入力端子Viに接続されており、この3値インバータIの出力端子Voは、この3値コンパレータ回路自身の出力端子Voutに接続されている。また、3値インバータIの入力端子Viと出力端子Voは、スイッチS3を介して短絡できるようになっている。
【0081】
3値インバータIは、この3値コンパレータ回路における重要な役割を担っており、図15の太線グラフに示すような入出力特性を有している。すなわち、低電圧範囲W(L)内の入力に対しては高電圧レベルV(H)の出力を与え、中電圧範囲W(M)内の入力に対しては中電圧レベルV(M)の出力を与え、高電圧範囲W(H)内の入力に対しては低電圧レベルV(L)の出力を与える機能をもっている。このような入出力特性をもった3値インバータIを含む3値コンパレータ回路を利用すると、振幅レベルの比較処理を、図16に示すようなプロセスで行うことができる。
【0082】
まず、図16(a) に示すように、この3値コンパレータ回路のスイッチS3のみをON状態にする。すると、3値インバータIの入出力端子が短絡された状態になり、3値インバータIの入力電圧Viと出力電圧Voは等しくなる。このときの電圧をVmidとすると(Vi=Vo=Vmid)、図16(a) に示す点Qの電圧はVmidになる。図15に示すとおり、電圧Vmidは、この入出力特性を示す太線グラフと、図に一点鎖線で示すVi=Voなるグラフとの交点として与えられる。
【0083】
続いて、図16(b) に示すように、スイッチS3をON状態に維持したまま、スイッチS1をON状態にし、入力端子Vrefに、参照指標配置用区間αの電圧、すなわち、参照指標の振幅レベルに相当する電圧(ここでは、端子名と同じ符号を用いてVrefと記すことにする)を入力する。すると、図16(b) に示す点Pの電圧はVrefになる。このとき、点Qの電圧はVmidに維持されているので、容量素子Cには、電圧Vrefと電圧Vmidとの差電圧に相当する電荷が蓄積される。これは、参照指標の振幅レベルを、容量素子Cに一時的に記憶させておくための処理である。
【0084】
次に、図16(c) に示すように、スイッチS1,S3をOFF状態にし、スイッチS2をON状態にする。そして、入力端子Vinに、位置指標配置用区間βの電圧(ここでは、端子名と同じ符号を用いてVinと記すことにする)を入力する。すると、点Pの電圧はVinになる。一方、点Qの電圧は、電圧Vrefと電圧Vinとの大小関係に応じて、それぞれ異なる値となる。
【0085】
まず、Vin<Vrefの場合は、図16(b) に示す状態から図16(c) に示す状態に遷移したことにより、点Pの電圧が降下したことになるので、容量素子Cを介して接続された点Qの電圧も下がることになる。すると、3値インバータIの入力電圧Viが低電圧範囲W(L)内の値まで下がることになり、図15の特性グラフに示されているとおり、3値インバータIの出力電圧Voは、高電圧レベルV(H)を示すことになり、3値コンパレータ回路の出力電圧VoutはV(H)になる。これは、位置指標配置用区間βに、低レベル「2」の位置指標が配置されていた場合の動作に相当し、3値コンパレータ回路の出力電圧VoutがV(H)の場合、低レベル「2」の位置指標が検出されたことを示す。
【0086】
次に、Vin=Vrefの場合は、図16(b) に示す状態から図16(c) に示す状態に遷移しても、点Pの電圧に変化は生じなかったことになるので、容量素子Cを介して接続された点Qの電圧もそのまま維持される。すると、3値インバータIの入力電圧Viも中電圧範囲W(M)のままなので、図15の特性グラフに示されているとおり、3値インバータIの出力電圧Voは、中電圧レベルV(M)を示すことになり、3値コンパレータ回路の出力電圧VoutはV(M)になる。これは、位置指標配置用区間βに、中レベル「1」の位置指標が配置されていた場合の動作に相当し、3値コンパレータ回路の出力電圧VoutがV(M)の場合、中レベル「1」の位置指標が検出されたことを示す。もっとも、図15のグラフに示すとおり、中電圧範囲W(M)はある程度の幅を有しているため、完全にVin=Vrefでなくても、両者の相違が所定の許容範囲内であれば、やはり3値コンパレータ回路の出力電圧VoutはV(M)を示すことになる。
【0087】
最後に、Vin>Vrefの場合は、図16(b) に示す状態から図16(c) に示す状態に遷移したことにより、点Pの電圧が上昇したことになるので、容量素子Cを介して接続された点Qの電圧も上がることになる。すると、3値インバータIの入力電圧Viが高電圧範囲W(H)内の値まで上がることになり、図15の特性グラフに示されているとおり、3値インバータIの出力電圧Voは、低電圧レベルV(L)を示すことになり、3値コンパレータ回路の出力電圧VoutはV(L)になる。これは、位置指標配置用区間βの振幅レベルが、高レベル「0」を示しており、位置指標が配置されていない場合の動作に相当し、3値コンパレータ回路の出力電圧VoutがV(L)の場合、位置指標が存在しないことを示す。
【0088】
このように、図14に示す3値コンパレータ回路を用いた比較を行えば、参照指標配置用区間αの電圧Vrefを基準として、位置指標配置用区間βの電圧が高いか、等しいか、低いか、という3通りの判断を行うことができ、各判断結果をそれぞれ所定の電圧値として出力することができる。なお、各スイッチS1,S2,S3のON/OFF操作は、参照指標配置用区間αおよび位置指標配置用区間βの時間軸上の配置に基づいて行う必要があり、たとえば、図10〜図12に示す各実施例では、それぞれ各スイッチの操作タイミングは異なったものになる。なお、この3値コンパレータ回路は、参照指標の振幅レベルの記憶が、1期間ごとに失なわれてしまうため、このままでは図11に示す実施例には適用できない。この3値コンパレータ回路を図11に示す実施例に適用する場合には、図12に示す実施例と同様に、各期間ごとに予備的なサンプリングを行い、4つの期間T1〜T4のうち、どの期間に「谷状パルス」が含まれているかを確認する準備処理を行うようにし、「谷状パルス」の存在が確認された期間についてのみサンプリングが行われるように、各スイッチの操作タイミングを調整すればよい。
【0089】
図14の回路図では、3値インバータIをブロック図として示したが、その具体的な回路構成例を図17に示す。この図17に示す3値インバータ回路は、8組のFET10〜80と、2組のインバータ(通常の2値インバータ)91,92によって構成されている。この回路の特徴は、回路図中の各部に記載したとおり、個々の位置の電圧をV1〜V4としたときに、入力電圧Viと電圧V1〜V4との関係が、図18(a) ,(b) に示すような関係になる点である。すなわち、FET10,20から構成されるインバータ回路と、FET30,40から構成されるインバータ回路とは、回路図上は同一の構成を有しているが、個々のFETの特性を若干変えることにより、図18(a) に示すように、論理反転のしきい値電圧を若干ずらしている。なお、インバータ91,92は、全く同一の特性をもった素子であり、電圧V3は電圧V1を反転したものになり、電圧V4は電圧V2を反転したものになる。
【0090】
もちろん、図17に示す回路図は、3値インバータIの一構成例を示すものであり、図14に示す3値コンパレータ回路に利用する3値インバータIは、図15に示すような入出力特性をもったインバータであれば、どのような回路で構成してもかまわない。なお、この図17に示す3値インバータ回路についての詳細は、特願2003−393650号明細書に説明があるので、ここでは、これ以上の説明は省略する。
【0091】
図19は、3値インバータIの代わりに、3値バッファBを用いることにより、3値コンパレータ回路を構成した例を示す回路図である。この図19に示す3値コンパレータ回路の動作は、図14に示す3値コンパレータ回路の動作とほぼ同様である。ただ、3値バッファBは、図20の太線グラフに示すような入出力特性を有している。すなわち、低電圧範囲W(L)内の入力に対しては低電圧レベルV(L)の出力を与え、中電圧範囲W(M)内の入力に対しては中電圧レベルV(M)の出力を与え、高電圧範囲W(H)内の入力に対しては高電圧レベルV(H)の出力を与える機能をもっている。
【0092】
したがって、この図19に示す3値コンパレータ回路を用いた場合、出力電圧VoutがV(L)の場合、低レベル「2」の位置指標が検出されたことを示し、V(M)の場合、中レベル「1」の位置指標が検出されたことを示し、V(H)の場合、位置指標が存在しないことを示す。
【0093】
図19の回路図では、3値バッファBをブロック図として示したが、その具体的な回路構成例を図21に示す。この図21に示す3値バッファ回路は、8組のFET10〜80と、1組のインバータ(通常の2値インバータ)91によって構成されている。この回路も、図17に示す回路とほぼ同様の特徴を有しており、個々の位置の電圧をV1,V2としたときに、入力電圧Viと電圧V1,V2との関係が、図18(a) に示すような関係になる。すなわち、FET10,20から構成されるインバータ回路と、FET30,40から構成されるインバータ回路とは、回路図上は同一の構成を有しているが、個々のFETの特性を若干変えることにより、図18(a) に示すように、論理反転のしきい値電圧を若干ずらしている。
【0094】
もちろん、図21に示す回路図は、3値バッファBの一構成例を示すものであり、図19に示す3値コンパレータ回路に利用する3値バッファBは、図20に示すような入出力特性をもったバッファであれば、どのような回路で構成してもかまわない。なお、この図21に示す3値バッファ回路についての詳細も、前掲の特願2003−393650号明細書に説明がある。
【0095】
以上、本発明を図示するいくつかの実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではなく、この他にも種々の形態で実施可能である。たとえば、これまで述べた実施形態では、1通信周期φを4つの期間T1〜T4に分割してパルス位置変調を行う例を示したが、本発明は、1単位のデータを送信するために割り当てられた1通信周期φを複数N個の期間に分割し、このN個の期間のうちのいずれか1期間に、振幅レベルが標準より小さな位置指標を配置し、この位置指標の配置位置によって、送信対象となるデータの情報を表現する通信方法に広く適用可能であり、たとえば、N=256に設定し、1通信周期φを256の期間T1〜T256に分割してパルス位置変調を行う場合にも、本発明を同様に適用可能である。
【0096】
また、これまで述べた実施形態では、位置指標配置用区間βの長さ、あるいは、参照指標配置用区間αと位置指標配置用区間βとの和の長さを、1つの期間T1〜T4の長さに等しく設定し、1つの期間全体にわたるようなパルス幅をもった「谷状パルス」を配置する例を示したが、所定タイミングで行われるサンプリングに支障がない限り、「谷状パルス」の幅をより狭めることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】一般的なリーダライタ装置100と非接触型ICデバイス200との間における通信状態を示すブロック図である。
【図2】一般的なAM通信方式によるデジタルデータの変調方法の一例を示す波形図である。
【図3】1通信周期φを4分割した従来のパルス位置変調方式の原理を示す図である。
【図4】従来のパルス位置変調方式における位置変調信号上のデータと送受信データとの関係を示す表である。
【図5】従来のパルス位置変調方式において、実際の位置変調信号の波形と送受信データとの関係を示す図である。
【図6】本発明に係るAM通信方法で用いられる位置変調信号がとるべき3つのレベルを示す波形図である。
【図7】1通信周期φを4分割した場合の本発明に係るパルス位置変調方式の原理を示す図である。
【図8】本発明に係るAM通信方法における位置変調信号上のデータと送受信データとの関係を示す表である。
【図9】本発明に係るパルス位置変調方式において、実際の位置変調信号の波形と送受信データとの関係を示す図である。
【図10】本発明に係るパルス位置変調方式において、参照指標を配置する第1の実施例を示す波形図である。
【図11】本発明に係るパルス位置変調方式において、参照指標を配置する第2の実施例を示す波形図である。
【図12】本発明に係るパルス位置変調方式において、参照指標を配置する第3の実施例を示す波形図である。
【図13】本発明の一実施形態に係るAM通信システムの基本構成を示すブロック図である。
【図14】本発明に係るAM通信システムにおいて、受信波に対する判定を行うために用いることができる3値コンパレータ回路の一例を示す回路図である。
【図15】図14に示す3値コンパレータ回路内の3値インバータIの入出力特性を示すグラフである。
【図16】図14に示す3値コンパレータ回路を利用した、振幅レベルの比較処理のプロセスを説明する回路図である。
【図17】図14に示す3値コンパレータ回路に利用されている3値インバータIの回路構成例を示す回路図である。
【図18】図17に示す3値インバータ回路の各部の特性を示すグラフである。
【図19】本発明に係るAM通信システムにおいて、受信波に対する判定を行うために用いることができる3値コンパレータ回路の別な一例を示す回路図である。
【図20】図19に示す3値コンパレータ回路内の3値バッファBの入出力特性を示すグラフである。
【図21】図19に示す3値コンパレータ回路に利用されている3値バッファBの回路構成例を示す回路図である。
【符号の説明】
【0098】
10〜80…FET
91,92…インバータ素子
100…リーダライタ装置
110…メモリ
120…制御部
130…2値/3値変換部
140…信号変調部
150…送受信部
160…検波増幅部
170…3値/2値変換部
200…非接触型ICデバイス(ICカード・ICタグなど)
210…メモリ
220…制御部
230…2値/3値変換部
240…信号変調部
250…送受信部
260…検波増幅部
270…3値/2値変換部
280…整流回路
290…電源回路
B…3値バッファ
C…容量素子
I…3値インバータ
P…回路図上の1点
Q…回路図上の1点
S1〜S3…スイッチ
T1〜T4…1通信周期φを分割した個々の期間
t1〜t8…サンプリングを行うタイミング
V1〜V4…回路図上の特定点の電圧
Vi…3値インバータ/バッファの入力端子/入力電圧
Vo…3値インバータ/バッファの出力端子/出力電圧
Vin…3値コンパレータ回路の位置指標配置用区間βの電圧入力端子/入力電圧
Vref…3値コンパレータ回路の参照指標配置用区間αの電圧入力端子/入力電圧
Vout…3値コンパレータ回路の出力端子/出力電圧
Vmid…スイッチS3短絡時の電圧
V(L)…低電圧レベル
V(M)…中電圧レベル
V(H)…高電圧レベル
W(L)…低電圧範囲
W(M)…中電圧範囲
W(H)…高電圧範囲
α…参照指標配置用区間
β…位置指標配置用区間
φ…1通信周期

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無線による電力供給を行う機能をもった第1の装置と、この第1の装置からの電力供給を受けて動作する第2の装置と、の間で電力供給を伴うAM通信を行うために、1単位のデータを送信するために割り当てられた1通信周期φを複数N個の期間に分割し、このN個の期間のうちのいずれか1期間に、振幅レベルが標準より小さな位置指標を配置し、前記位置指標の配置位置によって、送信対象となるデータの情報を表現する通信方法において、
送信波の振幅レベルを、高レベル、中レベル、低レベルの3通りに設定し、標準となる振幅レベルを前記高レベルとし、前記位置指標の振幅レベルを前記中レベルもしくは前記低レベルのいずれかとし、前記位置指標の配置位置に加えて、前記位置指標が前記中レベルか前記低レベルかにより、送信対象となるデータの情報を表現することを特徴とする電力供給を伴うAM通信方法。
【請求項2】
請求項1に記載のAM通信方法において、
N=2に設定し、位置指標の配置位置に基づいてmビットの情報を表現し、位置指標が低レベルか中レベルかにより1ビットの情報を表現し、1通信周期φの間に、(m+1)ビットからなる1単位のデータを送信するようにしたことを特徴とする電力供給を伴うAM通信方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載のAM通信方法において、
位置指標とは別に、振幅レベルが中レベルである参照指標を用いるようにし、参照指標配置用区間αと位置指標配置用区間βとをそれぞれ定め、
送信時には、前記参照指標配置用区間αに参照指標を配置し、前記位置指標配置用区間βのうちの送信対象となるデータに応じた所定箇所に位置指標を配置し、
受信時には、前記参照指標配置用区間αにおける振幅レベルと、前記位置指標配置用区間βにおける振幅レベルと、を比較し、両振幅レベルの差が所定の許容範囲内であった場合には、前記位置指標配置用区間βに中レベルの位置指標が配置されているものと判断し、前記位置指標配置用区間βにおける振幅レベルが前記参照指標配置用区間αにおける振幅レベルよりも前記許容範囲を越えるほど小さかった場合には、前記位置指標配置用区間βに低レベルの位置指標が配置されているものと判断し、前記位置指標配置用区間βにおける振幅レベルが前記参照指標配置用区間αにおける振幅レベルよりも前記許容範囲を越えるほど大きかった場合には、前記位置指標配置用区間βには位置指標が配置されていないと判断することを特徴とする電力供給を伴うAM通信方法。
【請求項4】
請求項3に記載のAM通信方法において、
1通信周期φを構成する複数N個の期間ごとに、それぞれ参照指標配置用区間αと位置指標配置用区間βとを設け、個々の期間ごとに、参照指標配置用区間αにおける振幅レベルと位置指標配置用区間βにおける振幅レベルとの比較を行うようにしたことを特徴とする電力供給を伴うAM通信方法。
【請求項5】
請求項3に記載のAM通信方法において、
1通信周期φを構成する複数N個の期間のうち、第1の期間には、参照指標配置用区間αと位置指標配置用区間βとを設け、第2〜第Nの期間には、位置指標配置用区間βのみを設け、第1の期間に設けられた参照指標配置用区間αにおける振幅レベルと、各期間に設けられた位置指標配置用区間βにおける振幅レベルとの比較を行うようにしたことを特徴とする電力供給を伴うAM通信方法。
【請求項6】
請求項3に記載のAM通信方法において、
1通信周期φを構成する複数N個の期間のうち、位置指標を配置すべき期間についてのみ、参照指標配置用区間αと位置指標配置用区間βとを設け、参照指標と位置指標とを配置するようにし、同一期間内の参照指標配置用区間αにおける振幅レベルと位置指標配置用区間βにおける振幅レベルとの比較を行うようにしたことを特徴とする電力供給を伴うAM通信方法。
【請求項7】
無線による電力供給を行う機能をもった第1の装置と、この第1の装置からの電力供給を受けて動作する第2の装置と、を備えたAM通信システムであって、
前記第1の装置および前記第2の装置は、
1単位のデータを送信するために割り当てられた1通信周期φを複数N個の期間に分割し、このN個の期間のうちのいずれか1期間に、振幅レベルが標準より小さな位置指標を配置し、前記位置指標の配置位置によって、送信対象となるデータの情報を表現して送信するデータ送信手段と、
受信した信号の1通信周期φを構成するN個の期間内のいずれの期間に前記位置指標が配置されているかを判定し、この判定結果に基づいて、受信したデータの情報を認識するデータ受信手段と、
を備えており、
前記データ送信手段は、送信波の振幅レベルを、高レベル、中レベル、低レベルの3通りに設定し、標準となる振幅レベルを前記高レベルとし、前記位置指標の振幅レベルを前記中レベルもしくは前記低レベルのいずれかとし、前記位置指標の配置位置に加えて、前記位置指標が前記中レベルか前記低レベルかにより、送信対象となるデータの情報を表現する処理を行い、
前記データ受信手段は、受信波の振幅レベルが、高レベル、中レベル、低レベルの3通りのいずれであるかを判定する機能を有し、前記位置指標の配置位置に加えて、前記位置指標が前記中レベルか前記低レベルかにより、受信したデータの情報を認識する処理を行うことを特徴とする電力供給を伴うAM通信システム。
【請求項8】
請求項7に記載のAM通信システムにおいて、
データ送信手段が、N=2に設定することにより、1通信周期φを2個の期間に分割し、送信対象となるビット情報の連続からなる2値データを、(m+1)ビットからなる1単位のデータに分け、この1単位のデータのうちのmビットの情報を、2個の期間についての位置指標の配置位置によって表現し、残りの1ビットの情報を、位置指標が低レベルか中レベルかによって表現することにより、前記2値データを3値データに変換し、これを送信する処理を行う機能を有し、
データ受信手段が、受信した前記3値データについて、位置指標の配置位置に基づいて前記mビットの情報を認識し、当該位置指標が低レベルか中レベルかに基づいて前記1ビットの情報を認識し、(m+1)ビットからなるデータを生成することにより、前記3値データを2値データに変換する機能を有することを特徴とする電力供給を伴うAM通信システム。
【請求項9】
請求項7または8に記載のAM通信システムにおいて、
データ送信手段が、位置指標とは別に、振幅レベルが中レベルである参照指標を用い、参照指標配置用区間αと位置指標配置用区間βとをそれぞれ定め、前記参照指標配置用区間αに参照指標を配置し、前記位置指標配置用区間βのうちの送信対象となるデータに応じた所定箇所に位置指標を配置する機能を有し、
データ受信手段が、前記参照指標配置用区間αにおける振幅レベルと、前記位置指標配置用区間βにおける振幅レベルと、を比較し、両振幅レベルの差が所定の許容範囲内であった場合には、前記位置指標配置用区間βに中レベルの位置指標が配置されているものと判断し、前記位置指標配置用区間βにおける振幅レベルが前記参照指標配置用区間αにおける振幅レベルよりも前記許容範囲を越えるほど小さかった場合には、前記位置指標配置用区間βに低レベルの位置指標が配置されているものと判断し、前記位置指標配置用区間βにおける振幅レベルが前記参照指標配置用区間αにおける振幅レベルよりも前記許容範囲を越えるほど大きかった場合には、前記位置指標配置用区間βには位置指標が配置されていないと判断する機能を有することを特徴とする電力供給を伴うAM通信システム。
【請求項10】
請求項9に記載のAM通信システムにおいて、
データ送信手段が、1通信周期φを構成する複数N個の期間ごとに、それぞれ参照指標配置用区間αと位置指標配置用区間βとを設け、
データ受信手段が、個々の期間ごとに、参照指標配置用区間αにおける振幅レベルと位置指標配置用区間βにおける振幅レベルとの比較を行うことを特徴とする電力供給を伴うAM通信システム。
【請求項11】
請求項9に記載のAM通信システムにおいて、
データ送信手段が、1通信周期φを構成する複数N個の期間のうち、第1の期間には、参照指標配置用区間αと位置指標配置用区間βとを設け、第2〜第Nの期間には、位置指標配置用区間βのみを設け、
データ受信手段が、第1の期間に設けられた位置指標配置用区間βにおける振幅レベルと、各期間に設けられた参照指標配置用区間αにおける振幅レベルとの比較を行うことを特徴とする電力供給を伴うAM通信システム。
【請求項12】
請求項9に記載のAM通信システムにおいて、
データ送信手段が、1通信周期φを構成する複数N個の期間のうち、位置指標を配置すべき期間についてのみ、参照指標配置用区間αと位置指標配置用区間βとを設け、参照指標と位置指標とを配置するようにし、
データ受信手段が、同一期間内の参照指標配置用区間αにおける振幅レベルと位置指標配置用区間βにおける振幅レベルとの比較を行うことを特徴とする電力供給を伴うAM通信システム。
【請求項13】
請求項9〜12のいずれかに記載のAM通信システムにおいて、
データ受信手段が、低電圧範囲内の入力に対しては高電圧レベルの出力を与え、中電圧範囲内の入力に対しては中電圧レベルの出力を与え、高電圧範囲内の入力に対しては低電圧レベルの出力を与える機能をもった3値インバータを含む3値コンパレータ回路により、振幅レベルの比較処理を行うことを特徴とする電力供給を伴うAM通信システム。
【請求項14】
請求項9〜12のいずれかに記載のAM通信システムにおいて、
データ受信手段が、低電圧範囲内の入力に対しては低電圧レベルの出力を与え、中電圧範囲内の入力に対しては中電圧レベルの出力を与え、高電圧範囲内の入力に対しては高電圧レベルの出力を与える機能をもった3値バッファを含む3値コンパレータ回路により、振幅レベルの比較処理を行うことを特徴とする電力供給を伴うAM通信システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2006−108833(P2006−108833A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−289621(P2004−289621)
【出願日】平成16年10月1日(2004.10.1)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】