説明

電力増幅器

【課題】 様々な出力チャンネル数で様々な定格出力電力を出力しても、使用するスピーカの損傷を防止する。
【解決手段】 定格出力電力が15WのD級アンプ6、8と、60W、30WのD級アンプ2、4に、これら定格電力の和である120Wよりも小さい60Wの定格出力に対応した電源容量の電源部18が、動作電力を供給する。D級アンプ2、4の入力側にリミッタ40、42が設けられている。D級アンプ2、4を30Wで出力させる場合、D級アンプ2の出力電力が30Wを超えると出力波形が歪むように、リミッタ40にパターンコントローラ30から制限信号が供給される。D級アンプ2、4、6、8を15Wで出力させる場合、D級アンプ2、4の出力電力が15Wを超えると出力波形が歪むように、リミッタ40、42にパターンコントローラ30から制限信号を供給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力増幅器に関し、特に出力数及び定格出力電力を変更可能なものに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、出力数を調整することができる電力増幅器が、例えば特許文献1に開示されている。特許文献1は、4出力チャンネルと2出力チャンネルとに切換えることが可能なもので、4出力チャンネルで出力する場合には、第1の信号源の信号を第1の増幅器で増幅して、第1のスピーカ端子に出力し、第2の信号源の信号を第2の増幅器で増幅して、第2のスピーカ端子に出力し、第3の信号源の信号を第3の増幅器で増幅して、第3のスピーカ端子に出力し、第4の信号源の信号を第4の増幅器で増幅して、第4のスピーカ端子に出力するように、複数のスイッチを開閉する。2出力チャンネルで出力する場合には、第1の信号源の信号を第1及び第2の増幅器でそれぞれ増幅して、第1のスピーカ端子に供給し、第2の信号源の信号を第3及び第4の増幅器でそれぞれ増幅して、第2のスピーカ端子に供給するように複数のスイッチを開閉する。
【0003】
【特許文献1】特開2006−237928号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の技術では、例えば第1乃至第4の増幅器の定格出力電力をそれぞれ60W、30W、15W、15Wとすると、4出力チャンネルの場合、各出力チャンネルの定格出力が60W、30W、15W、15Wとなり、2出力チャンネルの場合、定格出力電力が90Wと、30Wとなる。即ち、出力チャンネル数と定格出力電力とを異なったものとすることができる。
【0005】
この技術を応用して、例えば第1の増幅器のみを使用して60Wの1出力チャンネル、第1及び第2の増幅器を使用して30Wの2出力チャンネル、第1乃至第4の増幅器を使用して15Wの4出力チャンネルといった複数の出力パターンを1台の電力増幅器から出力することが考えられる。
【0006】
しかし、この場合、30Wの2出力チャンネルという出力パターンにすると、一方の出力チャンネルは60Wの定格出力の第1の増幅器を用いるため、入力信号のレベルが大きいと、第1の増幅器は、30Wを超えた電力を出力可能である。このとき、第1の増幅器に接続されているスピーカが定格30Wのものであると、このスピーカが損傷する。また、第1及び第2の増幅器合わせて最大90Wの電力を出力する可能性がある。そのため、電源ユニットとしては、60Wの定格出力に対応した電源容量のものではなく、90Wの定格出力に対応したものを準備しなければならない。同様に、15Wの4出力チャンネルの場合でも、第1及び第2の増幅器は60W、30Wまでそれぞれ出力可能である。このとき、第1及び第2の増幅器に接続されているスピーカが定格15Wのものの場合、これらスピーカが損傷する可能性がある。又、第1乃至第4の増幅器は、これらの定格出力電力の和である120Wの電力を出力する可能性があるので、電源ユニットとしては、120Wの定格出力に対応した電源容量のものが必要となる。即ち、どのような出力パターンで使用された場合にでも対応できるようにするため、電源ユニットの電源容量は、使用する増幅器の定格出力電力の和以上の定格出力電力に対応したものとする必要があり、電源ユニットに大型のものを使用しなければならず、コストアップを招いていた。
【0007】
本発明は、様々な出力チャンネル数及び各出力チャンネルを様々な定格出力電力として使用される場合、使用されるスピーカの損傷を防止した上に、電源ユニットの小型化を図ることができ、出力数及び定格出力電力を変更可能な電力増幅器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様の電力増幅器は、複数の電力増幅手段を有している。これら電力増幅手段のうち少なくとも1台の定格出力電力が他の電力増幅手段の定格出力電力よりも小さくされている。電源手段が、前記各電力増幅手段に動作電力を供給可能とされている。各電力増幅手段のうち、定格出力電力が小さいもの以外の電力増幅手段の入力側に入力制限手段が設けられている。これら入力制限手段は、制限信号によって指示された値以上の入力信号が供給されたとき、その入力信号を歪ませて対応する電力増幅手段に供給する。前記複数の電力増幅手段のうち少なくとも1台のいずれかの電力増幅手段を、その定格出力電力以下の所定出力電力で動作させるように動作仕様指示手段が指示する。前記動作を指示された電力増幅手段であってその定格出力電力が前記所定出力電力よりも大きい電力増幅手段が、前記所定出力電力よりも大きい出力電力を発生する場合には、その出力波形が歪むように該電力増幅手段の前記入力制限手段が前記入力信号を歪ませる前記制限信号が該入力制限手段に、動作仕様指示手段が供給する。前記電源手段の電源容量は、前記動作を指示された電力増幅手段の所定出力電力の和に対応した電源容量以上であり、かつ前記複数の電力増幅手段全ての定格出力電力の和に対応した電源容量よりも小さい。
【0009】
このように構成された電力増幅器では、動作仕様指示手段によって、各電力増幅手段のうち少なくとも1台の電力増幅手段が、所定電力で動作するように指示される。これに伴って、この指示された電力増幅手段の入力側の入力制限手段へ制限信号が供給される。その結果、指示された電力増幅手段において、所定出力電力を超える出力電力を発生するような入力信号が供給されると、入力制限手段によって、入力信号が歪まされ、出力信号も歪む。その結果、使用者は、指示された電力増幅手段が、入力オーバーになっていることが判るので、入力信号を絞る。従って、この指示された電力増幅手段に接続されているスピーカが、この所定電力に対応したものであっても、所定電力を超えた電力が長時間にわたって供給されることが防止でき、スピーカの損傷を防止できる。また、動作している電力増幅手段に供給される全電力を、電源手段の容量以下に抑えることができる。このように電源手段の電源容量を、全ての電力増幅手段の定格出力電力の和に対応した電源容量よりも小さくすることが可能であるので、電源手段を小型化することができる。
【0010】
前記動作仕様指示手段は、動作指示される電力増幅手段の数や所定出力電力の値が異なる前記電源手段の電源容量に対応した複数の動作仕様パターンを記憶し、そのうちの1つが選択されるものにすることができる。
【0011】
このように構成すると、1台の電力増幅器でありながら、動作させる電力増幅手段の数や所定出力電力の値が異なる複数の動作仕様パターンのうち、動作仕様指示手段で指定された動作仕様パターンで、各電力増幅手段を動作させることができる。従って、出力チャンネル数や定格出力電力が異なる複数種類の電力増幅器を個別に製造する必要が無く、使用者の要望に応じた出力チャンネル数や定格出力電力の電力増幅器を、電源容量に対応した範囲内で1種類の電力増幅器で実現することができる。
【0012】
前記各電力増幅手段における電力用半導体素子を共通の放熱体に取り付けることができる。この場合、放熱体は、動作を指示された電力増幅手段の所定出力電力の和に対応したものである。電力用半導体素子としては、例えばMOSFET等を使用することができる。
【0013】
動作を指示された電力増幅手段の最大出力電力は、所定出力電力の和であるので、各電力増幅手段の電力半導体素子に共通の放熱体も、動作を指示された電力増幅手段の所定出力電力の和に対応したものを使用すれば充分であり、各電力増幅手段の定格出力電力の和に対応したものとする必要がなく、放熱体も小型化することができる。
【0014】
各電力増幅手段は、D級増幅手段とすることができる。D級増幅手段は、例えばアナログオーディオ信号をパルス幅変調信号に変換し、このパルス幅変調信号に応じてスイッチング動作するパルス増幅手段によって増幅し、この増幅された信号をローパスフィルタに供給してアナログオーディオ信号に変換して出力するものである。D級増幅手段を使用すると、その効率が高く、入力制限手段を制限電力増幅手段の入力側に設けるだけでよく、制限電力増幅手段であるD級増幅手段を、その制限される入力信号のレベルに応じて改造する必要がない。
【発明の効果】
【0015】
以上のように、本発明によれば、様々な出力チャンネル数及びこれら出力チャンネルを様々な定格出力電力として使用する場合でも、これらに接続されるスピーカの損傷を防止することができ、また電源手段の容量を使用される全ての電力増幅手段の定格出力電力の和に対応した容量よりも小さくして、電源手段の小型化及びコスト低減を図ることもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の第1実施形態の電力増幅器は、1台でありながら、出力チャンネル数と各出力チャンネルでの定格出力電力とが異なる複数のパターンのうち、選択されたパターンの出力チャンネル数及び定格出力電力とすることができるものである。例えば、60Wの1出力チャンネルの第1パターン、30Wの2出力チャンネルの第2パターン、15Wの4出力チャンネルの第3パターンのうちから、ユーザーの希望に沿う1パターンにすることができる。
【0017】
そのため、この電力増幅器は、複数、例えば4台の電力増幅手段、例えばD級アンプ2、4、6、8を有している。D級アンプ2は、定格出力電力が60Wのもので、D級アンプ4は、定格出力電力が30Wのもので、D級アンプ6、8は、定格出力電力が15Wのものである。即ち、全てのD級アンプ2、4、6、8の定格出力電力が同一ではなく、一部異なっている。D級アンプ2、4、6、8は、公知のように、アナログオーディオ信号をパルス幅変調手段によってパルス幅変調信号に変換し、このパルス幅変調信号に応じてスイッチング動作するフルブリッジまたはハーフブリッジ構成のパルス増幅手段によって増幅し、この増幅された信号をローパスフィルタに供給して、アナログオーディオ信号に変換し、出力する。これらD級アンプ2、4、6、8は、それぞれ対応するスピーカ10、12、14、16に出力信号を供給する。また、D級アンプ2、4、6、8は、それぞれユーザーがつまみを操作することによって、ゲインコントロール可能である。
【0018】
これらD級アンプ2、4、6、8に対して動作電力を供給する電源手段、例えば電源部18が設けられている。この電源部18の電源容量は、上述した第1乃至第3のパターンのいずれかで使用することを考えると、各D級アンプ2、4、6、8の定格出力電力の和である120W(=60W+30W+15W+15W)に対応した電源容量よりも小さく、前記動作を指示された電力増幅手段の所定出力電力の和に対応した電源容量以上である電源容量、例えば上述した3つのパターンそれぞれにおける定格出力電力の総和に対応した電源容量である60Wとされている。
【0019】
第1パターン(60Wの1出力チャンネル)の場合、D級アンプ2のみを動作させる。この場合に必要な電源容量は、電源部18の電源容量に等しい60Wである。
【0020】
第2パターン(30Wの2出力チャンネル)の場合、D級アンプ2、4のみを動作させればよい。但し、D級アンプ2は、そのまま使用すると、例えば入力信号の大きさによっては、30Wを超えて、定格出力電力の60Wまで出力可能である。なんらかの処置をしない場合、例えば、D級アンプ2に接続されているスピーカが定格30Wのものの場合、このスピーカが破損する可能性がある。また、電源部18としては、60W+30Wの90Wの定格出力に対応した電源容量を持つものを準備しなければならない。各D級アンプ2、4、6、8のスイッチングする電力用の半導体素子、例えばMOSFET等を共通のヒートシンクに取り付けている場合、このヒートシンクは、90Wに対応したものとしなければならない。
【0021】
同様に、第3パターン(15Wの4出力チャンネル)の場合、全てのD級アンプ2、4、6、8を使用する。但し、D級アンプ2は、そのまま使用すると、上述したように定格出力電力の60Wまで出力可能であり、D級アンプ4も、そのまま使用すると、定格出力電力の30Wまで出力可能である。なんらかの処置をしない場合、例えばD級アンプ2、4に接続されているスピーカが定格15Wのものの場合、こらスピーカが破損する可能性がある。また電源部18としては、15W*2+30W+60W=120Wの定格出力に対応した電源容量を持つものを準備しなければならない。また、各D級アンプ2、4、6、8の電力用のMOSFET等を共通のヒートシンクに取り付けている場合、このヒートシンクは、120Wに対応したものとしなければならない。
【0022】
従って、なんらかの処置を行わない場合、使用されるスピーカが損傷する可能性がある。また電源部18としては、第3パターンで使用されることを想定して、120Wの定格出力に対応した電源容量を持つものとしなければならず、さらに各MOSFET等に共通のヒートシンクは、120W対応のものとしなければならず、電源部18は、非常に大型になるし、ヒートシンクも非常に大型になる。
【0023】
そこで、この実施形態では、いずれのパターンで使用する場合でも、定格出力電力が大きいD級アンプが、そのD級アンプにとっての所定の出力電力、例えば疑似定格出力電力(真の定格電力よりも小さく使用パターンの関係上定められた出力電力)を超える出力電力を発生している場合、その出力波形を歪ませて、疑似定格出力電力を超えた状態でスピーカを駆動していることを報知している。従って、接続されているスピーカが疑似定格電力に等しい定格電力のスピーカであっても、使用者が出力波形が歪んでいることから入力オーバーであることに気付き、入力信号のレベルを絞るので、スピーカの損傷を防止できる。その上に、電源部18の電源容量を、上述したいずれのパターンでも定格出力電力の総和である60Wに対応した電源容量とし、またヒートシンクも60W対応のものとして、電源部18及びヒートシンクの小型化を図っている。
【0024】
電源部18から電源スイッチ20、22、24、26を介して動作電力が供給される。これら電源スイッチ20、22、24、26の制御は、パターンコントローラ30によって行われる。パターンコントローラ30は、第1パターンの場合、電源スイッチ20を閉じて、D級アンプ2のみを動作させる。第2パターンの場合、電源スイッチ20、22のみを閉じて、D級アンプ2、4のみを動作させる。第3パターンの場合、電源スイッチ20、22、24、26を閉じて、D級アンプ2、4、6、8を動作させる。
【0025】
この電源の切換のみでは、上述した問題は解決できない。各D級アンプ2、4、6、8には、それぞれ入力端子32、34、36、38からアナログオーディオ信号が供給される。ただし、各D級アンプ2、4、6、8のうち最も定格出力電力が小さいD級アンプ6、8には、入力端子36、38から直接にアナログオーディオ信号が供給されているが、定格出力電力が大きく、上述した第2、第3パターンにおいて動作させる場合に、上述した問題を生じるD級アンプ2、4には、入力制限手段、例えばリミッタ40、42を介してアナログオーディオ信号が供給されている。
【0026】
リミッタ40、42は、いわゆるクランプ回路であり、パターンコントロール回路30から制限信号、例えば正負の閾値信号が供給され、アナログオーディオ信号が正の閾値よりも値が大きくなったとき、アナログオーディオ信号を正の閾値にクランプし、アナログオーディオ信号が負の閾値よりも値が小さくなったとき(アナログオーディオ信号の絶対値が負の閾値の絶対値よりも大きくなったとき)、アナログオーディオ信号を負の閾値にクランプする。従って、このとき、リミッタ40、42から出力されるアナログオーディオ信号は歪んだものとなる。
【0027】
そして、第2パターンの場合、D級アンプ2は、その定格出力電力である60Wまで電力を出力する必要がなく、その出力電力が制限される制限出力電力増幅手段に相当する。従って、パターンコントローラ30は、D級アンプ2のリミッタ40に対する閾値信号を、第2パターンにおける最大出力電力(擬似定格出力電力)である30Wを超える出力電力を生じる入力信号のレベルに設定している。これによって、D級アンプ2は、擬似定格出力電力を超える出力電力を出力しているとき、その波形は歪んでいる。定格出力が30WであるD級アンプ4も定格出力電力を超える出力電力を出力しているとき、その波形は歪んでいる。従って、D級アンプ2、4の入力信号のレベルが共に出力電力がそれぞれ30Wを超えるものである場合、D級アンプ2、4の出力波形が共に歪んでいるので、ユーザーは、擬似定格出力電力及び定格出力電力である30Wを超えた状態で、D級アンプ2、4を動作させていることが判り、それらの入力信号のレベルを、擬似定格出力電力及び定格出力電力である30W以下の出力波形が歪まない状態にまで低下させる。その結果、接続されている定格電力が30Wのスピーカの損傷が防止される。また、D級アンプ2、4において必要とされる電力は、60W以内に収まり、定格出力60Wに対応した電源部18を使用することができる。また、各D級アンプ2、4、6、8のMOSFET等に共通のヒートシンクは、60W対応のものでよい。
【0028】
同様に、第3パターンの場合、パターンコントローラ30は、D級アンプ2、4のリミッタ40、42に対する閾値信号を、出力電力が第3パターンにおけるD級アンプ2、4の擬似定格出力電力である15Wを超える値になる入力信号のレベルに設定している。これによって、D級アンプ2、4は、擬似定格出力電力を超える出力電力で出力しているとき、その波形は歪んでいる。同時に、定格出力が15WであるD級アンプ6、8も定格出力電力を超える出力電力で出力しているとき、その波形は歪んでいる。従って、D級アンプ2、4、6、8の出力波形が全て歪んでいるので、ユーザーは、擬似定格出力電力及び定格出力電力である15Wを超えた状態で、電力アンプ2、4を動作させていることが判り、それらの入力信号のレベルを、定格出力電力以下の出力波形が歪まない状態にまで低下させる。その結果、接続されている定格電力が15Wのスピーカの損傷が防止される。また、D級アンプ2、4、6、8において必要とされる電力は、60W以内に収まり、定格出力60Wに対応した電源部18を使用することができる。さらに、各D級アンプ2、4、6、8の各MOSFET等に共通のヒートシンクは、60W対応のものでよい。
【0029】
パターンコントローラ30は、上述した第1乃至第3のパターンに対応して、どのような閾値信号をリミッタ40、42に与えるか、電源スイッチ20、22、24、26のいずれを閉じるかについて記憶している。そして、パターンコントローラ30に第1乃至第3のパターンに対応して、指示スイッチ44、46、48が設けられている。そして指示スイッチ44、46、48のいずれが操作されると、操作された指示スイッチに対応するパターンの閾値信号がリミッタ40、42に供給され、かつ電源スイッチ20、22、24、26のうち操作された指示スイッチに対応するパターンのものが閉じられる。従って、パターンコントローラ30、指示スイッチ44、46、48が動作仕様指示手段として機能する。
【0030】
また、D級アンプ2、4、6、8を用いているので、入力信号がリミッタによって制限された状態で増幅を行っても、効率がよく、使用するD級アンプ2、4、6、8の設計が容易になる。仮にA級、B級、AB級のアナログアンプを使用した場合、入力信号をリミッタによって制限した状態で増幅を行うと、効率が悪くなり、入力信号が制限された状態でも効率を向上させるためには、アナログアンプに供給する電源電圧も変更できるように調整可能に各アナログアンプを設計しなければならず、設計が困難になる。
【0031】
さらに、1台の電力増幅器でありながら、第1乃至第3のパターンのいずれか任意のパターンで動作させることができるので、電力増幅器のメーカーとしては、この電力増幅器を1種類製造しておけば、第1乃至第3のパターンのいずれの電力増幅器をユーザーが要望しても、指示スイッチ44、46、48の操作によるパターンコントローラ30の設定の変更という簡単な作業のみで対応することができる。
【0032】
上記の実施形態では、入力信号としてアナログオーディオ信号を使用した。しかし、デジタルオーディオ信号を使用することもできる。例えば図2に示す第2の実施形態では、各デジタルオーディオ信号入力端子50、52、54、56に、それぞれデジタルオーディオ信号が供給され、これらはCPU58に供給され、これから各デジタル−アナログ変換器62、64、66、68に供給され、アナログオーディオ信号に変換され、上述した第1の実施形態の各入力端子32、34、36、38に供給される。他の構成は、第1の実施形態の電力増幅器と同様であるので、詳細な説明は省略する。
【0033】
上記の両実施形態では、最大4チャンネルの出力が可能な電力増幅器を示したが、これに限ったものではなく、最大出力チャンネル数は任意に変更することができる。また、上記の実施形態では、各D級アンプの定格出力電力を60W、30W、15W、15Wとしたが、これは単なる一例に過ぎず、各D級アンプの定格出力電力は任意の値にすることができる。
【0034】
また、選択可能なパターンとして第1乃至第3の3つのパターンを示したが、これに限ったものではない。例えば、15Wの3出力チャンネルを新たなパターンとして追加することもできるし、45Wの1出力チャンネルも新たなパターンとして追加することができる。この場合、定格出力電力が60WであるD級アンプ2のリミッタ40の閾値信号を、出力電力が45Wを超えると出力波形が歪むように入力信号を歪ませる値とする。
【0035】
また、上記の実施形態では、マルチチャンネルとする場合、各チャンネルの定格出力電力及び擬似定格出力電力の値を、例えば15Wの4チャンネルのように全て同じ値としたが、これに限ったものではなく、例えば15Wの2チャンネルと30Wの2チャンネルとで出力することもできる。この場合、電源部18の電源容量は90Wの定格出力に対応した電源容量とする必要があるが、それでも各D級アンプ2、4、6、8の定格出力電力の和120W(=15W*2+30W+60W)に対応した電源容量よりも小さい電源容量であり、電源部18の小型化を図ることはできる。
【0036】
なお、これら実施形態において、D級アンプにおいてユーザーが調整できるつまみの移動域と歪むレベルとにアンバランスが生じることがある。この場合、D級アンプのゲインをつまみの操作以外の手法によってコントロールすることによって上記のアンバランスを調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の第1の実施形態の電力増幅器のブロック図である。
【図2】本発明の第2の実施形態の電力増幅器の一部のブロック図である。
【符号の説明】
【0038】
2 4 6 8 D級アンプ(電力増幅手段)
18 電源部(電源手段)
40 42 リミッタ(入力制限手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1台の定格出力電力が他のものよりも小さい複数の電力増幅手段と、
前記各電力増幅手段に動作電力を供給可能な電源手段と、
前記各電力増幅手段のうち、前記定格出力電力が小さいもの以外の電力増幅手段の入力側に設けられ、制限信号によって指示された値以上の入力信号が供給されたとき、その入力信号を歪ませて対応する電力増幅手段に供給する入力制限手段と、
前記複数の電力増幅手段のうち少なくとも1台のいずれかの電力増幅手段を、その定格出力電力以下の所定出力電力で動作させるよう指示する動作仕様指示手段とを、
具備し、
前記動作を指示された電力増幅手段であってその定格出力電力が前記所定出力電力よりも大きい電力増幅手段が前記所定出力電力よりも大きい出力電力を発生する場合には、その出力波形が歪むように該電力増幅手段の前記入力制限手段が前記入力信号を歪ませる前記制限信号を該入力制限手段に前記動作仕様指示手段が供給し、
前記電源手段の電源容量は、前記動作を指示された電力増幅手段の所定出力電力の和に対応した電源容量以上であり、かつ前記複数の電力増幅手段全ての定格出力電力の和に対応した電源容量よりも小さいことを特徴とする電力増幅器。
【請求項2】
請求項1記載の電力増幅器において、前記動作仕様指示手段は、動作指示される電力増幅手段の数や所定出力電力の値が異なる前記電源手段の電源容量に対応した複数の動作指示パターンを記憶し、そのうちの1つが選択されるものであることを特徴とする電力増幅器。
【請求項3】
請求項1または2記載の電力増幅器において、前記各電力増幅手段における電力用半導体素子が共通の放熱体に取り付けられ、この放熱体は、前記動作を指示された電力増幅手段の所定出力電力の和に対応したものである電力増幅器。
【請求項4】
請求項1または2記載の電力増幅器において、前記各電力増幅手段が、D級増幅手段によって構成されている電力増幅器。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−89316(P2009−89316A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−259816(P2007−259816)
【出願日】平成19年10月3日(2007.10.3)
【出願人】(000116068)ローランド株式会社 (175)
【Fターム(参考)】