電力変換器
【課題】あらゆる動作モードにおいて安定に制御可能なモジュラーマルチレベルPWM変換器型の電力変換器を実現する。
【解決手段】モジュラーマルチレベルPWM変換器型の電力変換器1は、所定のコンデンサ電圧指令値に、全ての直流コンデンサの電圧値を平均して得られた値を追従させる制御を実行する第1の制御手段と、コンデンサ電圧指令値に、各直流コンデンサの電圧値をそれぞれ追従させる制御を実行する第2の制御手段と、第1のアーム内の全ての直流コンデンサの電圧値を平均して得られた値と、第2のアーム内の全ての直流コンデンサの電圧値を平均して得られた値と、を一致させる制御を実行する第3の制御手段と、を備える。
【解決手段】モジュラーマルチレベルPWM変換器型の電力変換器1は、所定のコンデンサ電圧指令値に、全ての直流コンデンサの電圧値を平均して得られた値を追従させる制御を実行する第1の制御手段と、コンデンサ電圧指令値に、各直流コンデンサの電圧値をそれぞれ追従させる制御を実行する第2の制御手段と、第1のアーム内の全ての直流コンデンサの電圧値を平均して得られた値と、第2のアーム内の全ての直流コンデンサの電圧値を平均して得られた値と、を一致させる制御を実行する第3の制御手段と、を備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力変換器に関し、特に、モジュラーマルチレベルPWM変換器型の電力変換器に関する。
【背景技術】
【0002】
実装が容易で大容量・高圧用途に適した次世代トランスレス電力変換器として、二重スターチョッパセル(Double−Star Chopper−Cell:DSCC)構成のモジュラーマルチレベルPWM変換器(Modular Multilevel PWM Converter:MMC)がある。
【0003】
モジュラーマルチレベルPWM変換器は、各アームをモジュールで構成する点に特長があり、各モジュールはチョッパセルのカスケード接続により構成される。モジュラーマルチレベルPWM変換器は、実装が容易で、装置の小型軽量化を実現できることから、系統連系用電力変換器や、誘導電動機のためのモータドライブ装置などの用途が想定されている。
【0004】
図14は、モジュラーマルチレベルPWM変換器の主回路構成を示す回路図であり、図15は、モジュラーマルチレベルPWM変換器の一構成要素であるチョッパセルを示す回路図、図16は、モジュラーマルチレベルPWM変換器の一構成要素である3端子結合リアクトルを示す回路図である。以降、異なる図面において同じ参照符号が付されたものは同じ機能を有する構成要素であることを意味するものとする。また、各相の回路構成、動作原理および制御方法は同様であるため、以下、主としてu相について説明する。
【0005】
図14に示すモジュラーマルチレベルPWM変換器1は、u相、v相およびw相の電圧形フルブリッジ電力変換器である。モジュラーマルチレベルPWM変換器1の直流側(直流リンク)には、大容量の平滑コンデンサ(図示せず)が接続され、直流電圧が印加される。直流電圧は必ずしも固定値である必要はなく、例えばダイオード整流器に起因する低次高調波成分やスイッチングリプル成分を含んでいても構わない。したがって、平滑コンデンサは省略可能である。
【0006】
図14に示すモジュラーマルチレベルPWM変換器1のu、vおよびw各相は、図15に示すチョッパセル11−jと、図16に示す3端子結合リアクトル12とで構成される。ここでは一例として、各相におけるチョッパセルの個数を16としており(つまりj=1〜16)、このため、モジュラーマルチレベルPWM変換器1の出力は、相電圧が17レベル、線間電圧が33レベルのPWM波形となる。なお、図14におけるチョッパセル11−jについては、理解を容易にするために、図15に示すチョッパセル11−jにおける直流コンデンサCを当該チョッパセル11−jの外側に記載している。
【0007】
図15に示すように、チョッパセル11−jは、2つの半導体スイッチSW1およびSW2と、直流コンデンサCとを有する2端子回路であり、双方向チョッパの一部とみなせる。チョッパセル11−jは、2つの半導体スイッチSW1およびSW2は互いに直列接続され、これに、直流コンデンサCが並列接続されることで構成される。2つの半導体スイッチSW1およびSW2のうち、図示の例では半導体スイッチSW2の各端子が、当該チョッパセル11−jの出力端となる。本明細書では、u相の場合、直流コンデンサの電圧値をvCju(ただし、j=1〜16)、チョッパセル11−jの出力電圧(すなわち、半導体スイッチSW2の両端の電圧)の値を、vju(ただし、j=1〜16)と定義する。
【0008】
上述のように、モジュラーマルチレベルPWM変換器1は電圧形インバータとしても機能するため、各半導体スイッチSW1およびSW2は、それぞれ、オン時に一方向に電流を通す半導体スイッチング素子Sと、この半導体スイッチング素子に逆並列に接続された帰還ダイオードDと、で構成される。半導体スイッチング素子Sは例えばIGBT(Insulated Gate Bipopar Transistor)である。
【0009】
u相における16個のチョッパセル11−1〜11−16のうち、チョッパセル11−1〜11−8は、それぞれの出力端を介してカスケード接続される。本明細書では、これを第1のアーム(arm)2u−Pと称する。また、チョッパセル11−9〜11−16は、それぞれの出力端を介してカスケード接続される。本明細書では、これを第2のアーム2u−Nと称する。v相およびw相についても同様であり、それぞれ、第1のアーム2v−Pおよび第2のアーム2v−N、ならびに第1のアーム2w−Pおよび第2のアーム2w−Nが構成される。本明細書では、u相については、第1のアームに流れる電流をiPu、第2のアームに流れる電流をiNu、v相については、第1のアームに流れる電流をiPv、第2のアームに流れる電流をiNv、w相については、第1のアームに流れる電流をiPw、第2のアームに流れる電流をiNw、と定義し、以下、「アーム電流」と称する。
【0010】
3端子結合リアクトル12(以下、単に「結合リアクトル12」と称する。)は、第1の端子a、第2の端子b、および、第1の端子aと第2の端子bとの間の巻線上に位置する第3の端子cを有する。u相について言えば、結合リアクトル12の第1の端子aには第1のアーム2u−Pが、結合リアクトル12の第2の端子bには第2のアーム2u−Nが、それぞれ接続される。結合リアクトル12の第3の端子cは、モジュラーマルチレベルPWM変換器1のu相の交流側入出力端子として動作する。同様に、v相について言えば、結合リアクトル12の第1の端子aには第1のアーム2v−Pが、結合リアクトル12の第2の端子bには第2のアーム2v−Nが、それぞれ接続され、結合リアクトル12の第3の端子cは、モジュラーマルチレベルPWM変換器1のv相の交流側入出力端子として動作する。また、w相について言えば、結合リアクトル12の第1の端子aには第1のアーム2w−Pが、結合リアクトル12の第2の端子bには第2のアーム2w−Nが、それぞれ接続され、結合リアクトル12の第3の端子cは、モジュラーマルチレベルPWM変換器1のw相の交流側入出力端子として動作する。つまり、u、vおよびw各相の各結合リアクトル12の第3の端子cが、モジュラーマルチレベルPWM変換器1のu、vおよびw各相の交流側入出力端子として動作する。これら交流側入出力端子には、モジュラーマルチレベルPWM変換器1を、例えば系統連系用電力変換器として用いる場合には連系リアクトルが接続され、またあるいはモータドライブ装置として用いる場合には誘導電動機が接続される。
【0011】
本明細書では、モジュラーマルチレベルPWM変換器1のu相、v相およびw相の各交流側入出力端子を介して流入する電流を、それぞれ、iu、ivおよびiwで表わし、以下、「交流電源電流」と称する。
【0012】
また、u相において、第1のアーム2u−Pおよび第2のアーム2u−Nの、結合リアクトル12が接続されない側の各端子は、直流側入出力端子として動作する。同様に、v相においては、第1のアーム2v−Pおよび第2のアーム2v−Nの、結合リアクトル12が接続されない側の各端子が、w相においては、第1のアーム2w−Pおよび第2のアーム2w−Nの、結合リアクトル12が接続されない側の各端子が、それぞれ直流側入出力端子として動作することになる。
【0013】
図14に示したモジュラーマルチレベルPWM変換器1の変形例として、3端子結合リアクトルを、通常のリアクトル(すなわち、非結合リアクトル)を用いたものもある。図17は、モジュラーマルチレベルPWM変換器の別の例の主回路構成を示す回路図であり、図18は、図17に示すモジュラーマルチレベルPWM変換器内のリアクトルの配置例を示す回路図である。この例では、第1のアーム2u−P内にチョッパセル11−j(ただし、j=1〜8)とリアクトル12−1とを備え、第2のアーム2u−N内にチョッパセル11−j(ただし、j=9〜16)とリアクトル12−1とを備える。第1のアーム2u−Pにおいては、8個のチョッパセル11−j(ただし、j=1〜8)が、当該チョッパセルが有する出力端を介してカスケード接続されるとともに、リアクトル12−1が、互いにカスケード接続されたチョッパセル間の任意の位置に接続される。また、第2のアーム2u−Nにおいては、8個のチョッパセル11−j(ただし、j=9〜16)が、当該チョッパセルが有する出力端を介してカスケード接続されるとともに、リアクトル12−2が、互いにカスケード接続されたチョッパセル間の任意の位置に接続される。図17に示すモジュラーマルチレベルPWM変換器1においては、リアクトル12−1については、一方の端子にチョッパセル11−8が接続され、他方の端子にはリアクトル12−2が接続される。また、リアクトル12−2については、一方の端子にリアクトル12−1が接続され、他方の端子にはチョッパセル11−9が接続される。第1のアーム2u−Pおよび第2のアーム2u−Nの、互いが接続されない側の各端子は、直流側入出力端子として動作する。また、第1のアーム2u−Pと第2のアーム2u−Nとの接続端子が、モジュラーマルチレベルPWM変換器1のu相の交流側入出力端子として動作する。なお、これ以外の回路構成要素については図14に示す回路構成要素と同様であるので、同一の回路構成要素には同一符号を付して当該回路構成要素についての詳細な説明は省略する。
【0014】
図17に示すような非結合リアクトルを用いたモジュラーマルチレベルPWM変換器1においては、リアクトル12−1および12−2は、互いにカスケード接続されたチョッパセル11−j間の任意の位置に接続される。図18(a)は、図17に示す第1のアームを示したものであるが、リアクトルの配置位置の他の例として、例えば図18(b)に示すように、チョッパセル11−1の、直流側入出力端子として動作する側の端子に接続してもよい。また例えば、図18(c)に示すように、チョッパセル11−7とチョッパセル11−8との間に接続してもよい。第2のアームについても同様である。
【0015】
一般に、系統連系用電力変換器は、当該電力変換器の交流側の電圧と当該電力変換器に流出入する交流電源電流との位相差に応じて、順変換器動作もしくは逆変換器動作、あるいはコンデンサ動作もしくはインダクタ動作といった種々の動作モードが存在する。
【0016】
例えば図14において、モジュラーマルチレベルPWM変換器1は、有効電力が流入する場合は順変換器として動作し、有効電力が流出する場合は逆変換器として動作する。また、モジュラーマルチレベルPWM変換器1は、正相無効電力を制御する場合はインダクタもしくはコンデンサとして動作する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】萩原誠、赤木泰文著、「モジュラー・マルチレベル変換器(MMC)のPWM制御法と動作検証」、電気学会論文誌D、128、7、pp957〜965、2008年7月
【非特許文献2】西村和敏、萩原誠、赤木泰文著、「モジュラー・マルチレベルPWMインバータを用いた高圧モータドライブシステムへの応用−400V,15kWミニモデルによる実験的検証−」、電気学会半導体電力変換研究会、SPC−09−24、pp19〜24、2009年1月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
モジュラーマルチレベルPWM変換器においては、各チョッパセル内の直流コンデンサの電圧を安定に維持する制御を行う必要がある。モジュラーマルチレベルPWM変換器を系統連系用電力変換器として用いた場合、上述のように、順変換器動作もしくは逆変換器動作、あるいはコンデンサ動作もしくはインダクタ動作といった種々の動作モードが存在する。しかしながら、モジュラーマルチレベルPWM変換器をこのような全ての動作モードにおいて直流コンデンサの電圧を安定に維持しつつ制御することについては実現されていない。
【0019】
従って本発明の目的は、上記問題に鑑み、あらゆる動作モードにおいて安定に制御可能なモジュラーマルチレベルPWM変換器型の電力変換器およびこの制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記目的を実現するために、本発明の第1の態様においては、直列接続された2つの半導体スイッチとこれら2つの半導体スイッチに並列接続された直流コンデンサとからなり上記2つの半導体スイッチのうちの一方の半導体スイッチの各端子を出力端とするチョッパセルを、それぞれが備える第1および第2のアームであって、各第1および第2のアームにおいてそれぞれ同数のチョッパセルが、当該チョッパセルが有する出力端を介してそれぞれカスケード接続された第1および第2のアームと、第1のアームの一端が接続される第1の端子と、第2のアームの一端が接続される第2の端子と、第1の端子と第2の端子との間の巻線上に位置し、交流側入出力端子として動作する第3の端子と、を有する3端子結合リアクトルと、を備え、第1および第2のアームの、3端子結合リアクトルが接続されない側の各端子が直流側入出力端子として動作する電力変換器は、所定のコンデンサ電圧指令値に、全ての直流コンデンサの電圧値を平均して得られた値を追従させる制御を実行する第1の制御手段と、コンデンサ電圧指令値に、各直流コンデンサの電圧値をそれぞれ追従させる制御を実行する第2の制御手段と、第1のアーム内の全ての直流コンデンサの電圧値を平均して得られた値と、第2のアーム内の全ての直流コンデンサの電圧値を平均して得られた値と、を一致させる制御を実行する第3の制御手段と、を備える。
【0021】
本発明の第2の態様においては、直列接続された2つの半導体スイッチとこれら2つの半導体スイッチに並列接続された直流コンデンサとからなり上記2つの半導体スイッチのうちの一方の半導体スイッチの各端子を出力端とするチョッパセルおよびリアクトルを、それぞれが備える第1および第2のアームであって、各第1および第2のアームにおいてそれぞれ同数のチョッパセルが、当該チョッパセルが有する出力端を介してカスケード接続されるとともに、リアクトルが、互いにカスケード接続されたチョッパセル間の任意の位置に接続された第1および第2のアーム、を備え、第1および第2のアームの、互いが接続されない側の各端子が直流側入出力端子として動作し、第1のアームと第2のアームとの接続端子が交流側入出力端子として動作する電力変換器は、所定のコンデンサ電圧指令値に、全ての直流コンデンサの電圧値を平均して得られた値を追従させる制御を実行する第1の制御手段と、コンデンサ電圧指令値に、各直流コンデンサの電圧値をそれぞれ追従させる制御を実行する第2の制御手段と、第1のアーム内の全ての直流コンデンサの電圧値を平均して得られた値と、第2のアーム内の全ての直流コンデンサの電圧値を平均して得られた値と、を一致させる制御を実行する第3の制御手段と、を備える。
【0022】
本発明の第1および2の態様による電力変換器における第1〜第3の制御手段は、DSPやFPGAなどの演算処理装置により実現されるものであり、検出された電力変換器の第1および第2のアームを流れる各アーム電流、各チョッパセルにおける直流コンデンサの電圧、電力変換器の直流入出力側の電圧(直流リンク電圧)、および、流出入する各相の交流電源電流を、その演算処理に用いるパラメータとする。生成された第1〜第3の指令値を含む指令値に基づいて、電力変換器内の各チョッパセル内の半導体スイッチのスイッチング動作が制御される。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、モジュラーマルチレベルPWM変換器を、順変換器動作もしくは逆変換器動作、あるいはコンデンサ動作もしくはインダクタ動作のいずれの動作モードにおいても、直流コンデンサの電圧を安定に維持しつつ制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の第1の実施例によるモジュラーマルチレベルPWM変換器を示す回路図である。
【図2】本発明の第1の実施例によるモジュラーマルチレベルPWM変換器のu相についての回路図である。
【図3】図2に示すモジュラーマルチレベルPWM変換器の一構成要素であるチョッパセルを示す回路図であり、(a)は第1のアーム中のチョッパセルのうちの1つを示し、(b)は第2のアーム中のチョッパセルのうちの1つを示す図である。
【図4】本発明の第1の実施例によるモジュラーマルチレベルPWM変換器における直流コンデンサの平均値制御を示すブロック図である。
【図5】本発明の第1の実施例によるモジュラーマルチレベルPWM変換器における直流コンデンサの個別バランス制御を示すブロック図である。
【図6】本発明の第1の実施例によるモジュラーマルチレベルPWM変換器における直流コンデンサのアームバランス制御を示すブロック図である。
【図7】本発明の第1の実施例によるモジュラーマルチレベルPWM変換器における各チョッパセルについての出力電圧指令値の生成を示すブロック図である。
【図8】本発明の第1の実施例によるモジュラーマルチレベルPWM変換器の制御で用いられる式14および式15と、モジュラーマルチレベルPWM変換器の交流側入出力端子に印加される交流電圧とモジュラーマルチレベルPWM変換器に交流側入出力端子を介して流出入する交流電源電流との位相差と、の関係を示す図である。
【図9】本発明の第1の実施例によるモジュラーマルチレベルPWM変換器を、順変換器として動作させたときの定常特性についてのシミュレーション波形を示す図である。
【図10】本発明の第1の実施例によるモジュラーマルチレベルPWM変換器の制御において、アームバランス制御を実行から停止へ切り替えたときの過渡特性についてのシミュレーション波形を示す図であって、(a)は、モジュラーマルチレベルPWM変換器を順変換器として動作させたときにおいて当該切替えを行った場合を示し、(b)は、モジュラーマルチレベルPWM変換器をコンデンサとして動作させたときにおいて当該切替えを行った場合を示す図である。
【図11】本発明の第1の実施例によるモジュラーマルチレベルPWM変換器の制御において、アームバランス制御に用いられる定義式を式14と式15との間で切り替えたときの過渡特性についてのシミュレーション波形を示す図であって、(a)は、モジュラーマルチレベルPWM変換器を順変換器として動作させたときにおいて当該切替えを行った場合を示し、(b)は、モジュラーマルチレベルPWM変換器をコンデンサとして動作させたときにおいて当該切替えを行った場合を示す図である。
【図12】本発明の第1の実施例によるモジュラーマルチレベルPWM変換器の制御において、アームバランス制御に用いられる制御ゲインを切り替えたときの過渡特性についてのシミュレーション波形を示す図である。
【図13】本発明の第2の実施例によるモジュラーマルチレベルPWM変換器を示す回路図である。
【図14】モジュラーマルチレベルPWM変換器の主回路構成を示す回路図である。
【図15】モジュラーマルチレベルPWM変換器の一構成要素であるチョッパセルを示す回路図である。
【図16】モジュラーマルチレベルPWM変換器の一構成要素である3端子結合リアクトルを示す回路図である。
【図17】モジュラーマルチレベルPWM変換器の別の例の主回路構成を示す回路図である。
【図18】図17に示すモジュラーマルチレベルPWM変換器内のリアクトルの配置例を示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に説明する第1および第2の実施例については、主としてu相の制御について説明するが、v相およびw相についても同様に適用できる。また、各実施例では、チョッパセルの個数は16個としたが、本発明はこれに限定されるものではなく、チョッパセルの個数は偶数個であればよい。
【0026】
図1は、本発明の第1の実施例によるモジュラーマルチレベルPWM変換器を示す回路図である。図1に示すモジュラーマルチレベルPWM変換器1の、制御部以外の回路構成は、図14に示した回路構成と同様であり、チョッパセル11−jは図15に示されたものであり、3端子結合リアクトル12は図16に示されたものである。チョッパセル11−j(ただし、j=1〜16)内の各半導体スイッチSW1およびSW2が、オン時に一方向に電流を通す半導体スイッチング素子Sと、半導体スイッチング素子Sに逆並列に接続された帰還ダイオードDと、を有する点も同様である。
【0027】
図1に示すように、モジュラーマルチレベルPWM変換器1の各チョッパセル11−j内の半導体スイッチSW1およびSW2のスイッチング動作の指示に用いられるスイッチング信号は、参照符号10で示されるDSPによる演算処理によって生成される。公知の検出器によって検出された、モジュラーマルチレベルPWM変換器1の第1のアーム2u−P、2v−Pおよび2w−Pを流れるアーム電流iPu、iPv、およびiPw、第2のアーム2u−N、2v−Nおよび2w−Nを流れるアーム電流iNu、iNv、およびiNw、各チョッパセル11−jにおける直流コンデンサの電圧vCju、vCjv、vCjw、モジュラーマルチレベルPWM変換器1の直流入出力端子EPおよびEN間に印加される電圧(直流リンク電圧)Vdc、ならびに、モジュラーマルチレベルPWM変換器1の交流側入出力端子を介して流出入する各相の交流電源電圧iu、iv、およびiwが、DSP10に入力され、演算処理が実行される。
【0028】
本発明の第1の実施例によれば、モジュラーマルチレベルPWM変換器1外には流出しないでモジュラーマルチレベルPWM変換器1内で循環する電流(以下、「循環電流」と称する。)に着目してラウス・フルビッツの判定判別法を適用し、モジュラーマルチレベルPWM変換器1を制御する。図2は、本発明の第1の実施例によるモジュラーマルチレベルPWM変換器のu相についての回路図である。また、図3は、図2に示すモジュラーマルチレベルPWM変換器の一構成要素であるチョッパセルを示す回路図であり、(a)は第1のアーム中のチョッパセルのうちの1つを示し、(b)は第2のアーム中のチョッパセルのうちの1つを示す図である。
【0029】
このとき、u相について、リアクトル12のインダクタンスをlとしたとき、式1で表わされる回路方程式が成り立つ。
【0030】
【数1】
【0031】
上記式1から、モジュラーマルチレベルPWM変換器1には、交流電源側を経由しない閉回路が存在することがわかる。u相の閉回路を循環する循環電流をiZuとしたとき、アーム電流iPuおよびiNuと交流電源電流iuとの間には以下の関係が成立する。
【0032】
【数2】
【0033】
【数3】
【0034】
【数4】
【0035】
本発明の第1の実施例によるモジュラーマルチレベルPWM変換器1における各チョッパセル11−j内の直流コンデンサの電圧を安定に維持するための制御は、3つの制御からなる。これら3つの制御それぞれによって生成された第1〜第3の指令値を含む指令値に基づいて、モジュラーマルチレベルPWM変換器1内の各チョッパセル11−j内の半導体スイッチSW1およびSW2のスイッチング動作が制御される。
【0036】
第1の制御は、各相独立に実行される、所定のコンデンサ電圧指令値に全ての直流コンデンサの電圧値を平均して得られた値を追従させる制御である。本明細書では、この制御を「平均値制御(Averaging Control)」と称する。すなわち、平均値制御では、u相について言えば、所定のコンデンサ電圧指令値vC*に、全ての直流コンデンサの電圧値vCju(ただし、j=1〜16)を平均して得られた値vCuaveを追従させる制御が実行され、これにより第1の指令値としてvAu*が生成される。
【0037】
第2の制御は、各相独立に実行される、コンデンサ電圧指令値に各直流コンデンサの電圧値をそれぞれ追従させる制御である。本明細書では、この制御を「個別バランス制御(Individual−Balancing Control)」と称する。すなわち、個別バランス制御では、u相について言えば、コンデンサ電圧指令値vC*に、各直流コンデンサの電圧値vCjuをそれぞれ追従させる制御が実行され、これにより第2の指令値としてvBIju*が生成される。
【0038】
第3の制御は、各相独立に実行される、第1のアーム内の全ての直流コンデンサの電圧値を平均して得られた値と第2のアーム内の全ての直流コンデンサの電圧値を平均して得られた値とを一致させる制御を実行する。本明細書では、この制御を「アームバランス制御(Arm−Balancing Control)」と称する。すなわち、アームバランス制御では、u相について言えば、第1のアーム2u−P内の全ての直流コンデンサの電圧値vCju(ただし、j=1〜8)を平均して得られた値vCPuaveと、第2のアーム2u−N内の全ての直流コンデンサの電圧値vCju(ただし、j=9〜16)を平均して得られた値vCNuaveと、を一致させる制御が実行され、これにより第3の指令値としてvBAu*が生成される。
【0039】
以下、平均値制御、個別バランス制御およびアームバランス制御それぞれについて順に説明する。
【0040】
第1の制御である平均値制御の動作原理は、以下の通りである。図4は、本発明の第1の実施例によるモジュラーマルチレベルPWM変換器における直流コンデンサの平均値制御を示すブロック図である。平均値制御は各相独立に実行されるが、ここでu相について言えば、全ての直流コンデンサの電圧値vCj(ただし、j=1〜16)を平均して得られた値vCuaveは式5で表わされる。
【0041】
【数5】
【0042】
図4より、循環電流iZuの電流指令値iZu*は、K1およびK2をゲインとしたとき、式6で表わされる。
【0043】
【数6】
【0044】
このとき、平均値制御の電圧指令値VAu*は、K3をゲインとしたとき、式7で表わされる。
【0045】
【数7】
【0046】
平均値制御では、循環電流の実際の電流量iZuを指令値iZu*に追従させるための電流マイナーループを構成する。実際の循環電流iZuは式4より導出されるが、この循環電流iZuを電流マイナーループを介して制御することによって、交流電源電流iuに影響を与えることなく平均値制御を実現することができる。式6において、全ての直流コンデンサの電圧値vCju(ただし、j=1〜16)を平均して得られた値vCuaveが直流コンデンサ電圧指令値vC*よりも小さい場合(vCuave<vC*)、電流指令値iZu*は増加する。実際の循環電流iZuが電流指令値iZu*よりも減少した場合(iZu<iZu*)、各チョッパセル11−jの出力電圧vjuを、モジュラーマルチレベルPWM変換器1の直流入出力端子EPおよびEN間に印加される電圧(直流リンク電圧)Vdcに対して減少させ、循環電流iZuを増加させる。一方、実際の循環電流iZuが電流指令値iZu*よりも増加した場合(iZu>iZu*)、各チョッパセル11−jの出力電圧vjuを、モジュラーマルチレベルPWM変換器1の直流入出力端子EPおよびEN間に印加される電圧(直流リンク電圧)Vdcに対して増加させ、循環電流iZuを減少させる。以上、モジュラーマルチレベルPWM変換器における直流コンデンサの平均値制御のブロック図は、図4に示されるとおりである。
【0047】
第2の制御である個別バランス制御の動作原理は以下の通りである。図5は、本発明の第1の実施例によるモジュラーマルチレベルPWM変換器における直流コンデンサの個別バランス制御を示すブロック図である。上述のように、個別バランス制御は各相独立に実行されるが、ここでu相について言えば、コンデンサ電圧指令値vC*に、各直流コンデンサの電圧値vCjuをそれぞれ追従させる制御である。ここで、個別バランス制御のu相についての電圧指令値をvBIju*で表わす。
【0048】
各チョッパセル11−jの出力電圧vjuとアーム電流iPuおよびiNuとの間で有効電力を形成することで、各直流コンデンサの電圧値vCjuを直流コンデンサ電圧指令値vC*に追従させる。例えば、図1に示す第1のアーム2u−P内の各チョッパセル11−j(ただし、j=1〜8)において、直流コンデンサの電圧vCjuが直流コンデンサ電圧指令値v*Cuよりも小さい場合(vCju<v*Cu)、直流コンデンサの電圧値vCjuを増加させるために第1のアーム2u−P内の各チョッパセル11−j(ただし、j=1〜8)に正の有効電流を流入させる。このために、式8で示される個別バランス制御の電圧指令値vBIju*(ただし、j=1〜8)を用いる。ここで、K4をゲインとし、u相の交流電源電流の値をiuとする。
【0049】
【数8】
【0050】
同様に、図1に示す第2のアーム2u−N内の各チョッパセル11−j(ただし、j=9〜16)については、式9で示される個別バランス制御の電圧指令値vBIju*(ただし、j=9〜16)を用いる。
【0051】
【数9】
【0052】
以上、モジュラーマルチレベルPWM変換器における直流コンデンサの個別バランス制御のブロック図は、図5に示されるとおりである。個別バランス制御のu相の電圧指令値vBIju*は、交流電源電流iuと同相成分もしくは逆相成分より構成され、各アーム電流iPuおよびiNuの電源周波数成分と有効電力を形成する。
【0053】
第3の制御であるアームバランス制御の動作原理は以下の通りである。図6は、本発明の第1の実施例によるモジュラーマルチレベルPWM変換器における直流コンデンサのアームバランス制御を示すブロック図である。上述のように、アームバランス制御は各相独立に実行されるが、ここでu相について言えば、第1のアーム2u−P内の全ての直流コンデンサの電圧値vCju(ただし、j=1〜8)を平均して得られた値vCPuaveと、第2のアーム2u−N内の全ての直流コンデンサの電圧値vCju(ただし、j=9〜16)を平均して得られた値vCNuaveと、を一致させる制御である。ここで、アームバランス制御のu相についての電圧指令値をvBAu*で表わす。
【0054】
u相の第1のアーム2u−P内の全ての直流コンデンサの電圧値vCju(ただし、j=1〜8)を平均して得られた値vCPuaveは、式10で表わされる。
【0055】
【数10】
【0056】
また、u相の第2のアーム2u−N内の全ての直流コンデンサの電圧値vCju(ただし、j=9〜16)を平均して得られた値vCNuaveは、式11で表わされる。
【0057】
【数11】
【0058】
ここで、モジュラーマルチレベルPWM変換器1の交流側入出力端子における、u相についての相電圧vuを式12で表わすものとする。相電圧vuの振幅は√(2/3)Vとする。
【0059】
【数12】
【0060】
また、モジュラーマルチレベルPWM変換器1のu相についての交流電源電流iuを式13で表わすものとする。交流電源電流iuの振幅は√2Iとする。
【0061】
【数13】
【0062】
式12および式13との関係において、位相差φは、モジュラーマルチレベルPWM変換器1の交流側入出力端子に印加される交流電圧のu相の電圧vuとモジュラーマルチレベルPWM変換器1に交流側入出力端子を介して流出入するu相の交流電源電流iuとの位相差を表わす。
【0063】
図6に示すように、アームバランス制御では、位相差φが取り得る値によって、アームバランス制御により生成される電圧指令値の極性を決定する。上述のように、アームバランス制御は各相独立に実行されるが、ここでu相について言えば、位相差φが、第1のアーム2u−Pを流れる電流iPuと第2のアーム2u−Nを流れる電流iNuとの和の半分である循環電流iZuに関してモジュラーマルチレベルPWM変換器1について立てられた回路方程式においてラウス・フルビッツの安定判別法の安定性の要件を満たすよう、アームバランス制御のu相についての電圧指令値をvBAu*の極性を正もしくは負に決定する。すなわち、アームバランス制御のu相についての電圧指令値vBAu*は、位相差φの取り得る値によって、式14もしくは式15によって表わされる。なお、ラウス・フルビッツの安定判別法の安定性の要件を満たす位相差φの導出の詳細については後述する。
【0064】
【数14】
【0065】
【数15】
【0066】
以上、モジュラーマルチレベルPWM変換器における直流コンデンサのアームバランス制御のブロック図は、図6に示されるとおりである。個別バランス制御の場合と同様、アームバランス制御のu相の電圧指令値vBAu*は、アーム電流iPuおよびiNuの電源周波数成分と有効電力を形成する。
【0067】
このように、モジュラーマルチレベルPWM変換器1における各チョッパセル11−j内の直流コンデンサの電圧vCjuは、上記平均値制御、上記個別バランス制御および上記アームバランス制御により制御される。各チョッパセル11−j内の半導体スイッチSW1およびSW2のスイッチング信号を生成するのに用いられる出力電圧指令値の生成について説明する。図7は、本発明の第1の実施例によるモジュラーマルチレベルPWM変換器における各チョッパセルについての出力電圧指令値の生成を示すブロック図である。
【0068】
各相ごとに上記平均値制御、上記個別バランス制御および上記アームバランス制御のそれぞれによって生成された各電圧指令値を含む電圧指令値に基づいて、モジュラーマルチレベルPWM変換器1内の各チョッパセル11−j内の半導体スイッチSW1およびSW2のスイッチング動作が制御される。u相について言えば、各チョッパセル11−jの出力電圧指令値vju*は、第1のアーム2u−P内のチョッパセル11−j(ただし、j=1〜8)については式16および図7(a)、第1のアーム2u−N内のチョッパセル11−j(ただし、j=9〜16)については式17および図7(b)で表わされる。ここで、vu*はモジュラーマルチレベルPWM変換器のu相の交流側入出力端子に印加される交流の相電圧指令値である。出力電圧指令値vju*の生成にあたっては、モジュラーマルチレベルPWM変換器1の直流入出力端子EPおよびEN間に印加される電圧(直流リンク電圧)の値Vdcをフィードフォワード項として利用する。
【0069】
【数16】
【0070】
【数17】
【0071】
u相について言えば、上述のようにして生成される出力電圧指令値vju*は、各直流コンデンサの電圧vCjuで規格化された後、キャリア周波数fcの三角波キャリア信号(最大値:1、最小値:0)と比較され、PWMのスイッチング信号が生成される。生成されたスイッチング信号は、対応するチョッパセル11−j内の半導体スイッチSW1およびSW2のスイッチングに用いられる。なお、各チョッパセル11−jのスイッチング周波数fsはキャリア周波数fcと等しい。本実施例では、チョッパセルの個数は16個であるので、各チョッパセル11−jに対応するキャリア信号の初期位相は22.5度ずつずらす。すなわち、初期位相は、チョッパセル11−1については0度、チョッパセル11−2については45度、チョッパセル11−3については90度、チョッパセル11−4については135度、チョッパセル11−5については180度、チョッパセル11−6については225度、チョッパセル11−7については270度、チョッパセル11−8については315度、チョッパセル11−9については22.5度、チョッパセル11−2については67.5度、チョッパセル11−3については112.5度、チョッパセル11−4については157.5度、チョッパセル11−5については202.5度、チョッパセル11−6については247.5度、チョッパセル11−7については292.5度、チョッパセル11−8については337.5度とする。また、各相のキャリア信号の初期位相については、120度ずつずらす。これにより、モジュラーマルチレベルPWM変換器1の交流出力電圧の線間電圧は33レベルのPWM交流波形となり、等価スイッチング周波数は16fcとなる。
【0072】
上述のチョッパセル内のスイッチSW1およびSW2のためのスイッチング信号の生成は、例えばDSPやFPGAなどの演算処理装置を用いて実現される。
【0073】
次に、ラウス・フルビッツの安定判別法の安定性の要件を満たす位相差φの導出について説明する。図6に示すように、アームバランス制御では、位相差φが取り得る値によって、アームバランス制御により生成される電圧指令値の極性を決定する。
【0074】
まず、図2および3に示すモジュラーマルチレベルPWM変換器1のu相についての回路において、瞬時電力の関係から式18および式19が成り立つ。ここで、チョッパセル11−1の出力電圧をv1u、チョッパセル11−1の直流コンデンサ電圧の電圧をvC1u、チョッパセル11−9の出力電圧をv9u、チョッパセル11−9の直流コンデンサ電圧の電圧をvC9u、直流コンデンサの容量をC、直流コンデンサ電圧の直流成分をVcとする。
【0075】
【数18】
【0076】
【数19】
【0077】
一方、式16および式17において、チョッパセル11−1および11−9に着目すると、直流コンデンサ電圧の制御項である右辺第1項「VAu*」および第2項「vBI1u*」もしくは「vBI9u*」は、右辺第4項「−vu*/8」もしくは「vu*/8」および第5項「Vdc/16」に比べて十分小さい(例えば1%程度の大きさ)ので無視でき、「VAu*≒0」、「BI1u*≒0」および「vBI9u*≒0」のように近似することができる。したがって、チョッパセル11−1の出力電圧をv1、チョッパセル11−9の出力電圧をv9はそれぞれ式20および式21のように近似することができる。ここで、チョッパセル11−1の出力電圧指令値をv1u*、チョッパセル11−9の出力電圧指令値をv9u*とする。
【0078】
【数20】
【0079】
【数21】
【0080】
式2および式20を式18に代入すると式22が得られ、式3および式21を式19に代入すると式23が得られる。
【0081】
【数22】
【0082】
【数23】
【0083】
チョッパセル11−2〜11−8の直流コンデンサ電圧の電圧をvC2u〜vC8uは、式22と同様に表わすことができ、チョッパセル11−9〜11−16の直流コンデンサ電圧の電圧をvC9u〜vC16uは、式23と同様に表わすことができるので、式22および式23は、それぞれ式24および式25のように変形することができる。
【0084】
【数24】
【0085】
【数25】
【0086】
式24および式25について、辺々を足し算すると式26が得られる。
【0087】
【数26】
【0088】
式24および式25について、辺々を引き算すると式27が得られる。
【0089】
【数27】
【0090】
一方、図2において、結合リアクトル12は循環電流iZuに対してのみインダクタンスlを有するため、式28で表わされる回路方程式が成り立つ。
【0091】
【数28】
【0092】
ここで、アームバランス制御を適用しないものと仮定(すなわち、アームバランス制御により生成される電圧指令値vBAu*を無視)して、式16および式17を、式28に代入すると、式29が得られる。ここで、電圧指令値vAu*に基づく平均値制御により出力された電圧に相当する値をvAuとし、電圧指令値vBIju*に基づく個別バランス制御により出力された電圧に相当する値をvBIjuとする。これら各電圧指令値は、各制御により出力された電圧に相当する値に一致しているものと仮定する。すなわち、「vAu=vAu*」、および「vBIju=vBIju*」とする。
【0093】
【数29】
【0094】
図4より、電圧指令値vAu*に基づく平均値制御により出力された電圧に相当する値vAuは、式30で表わすことができる。
【0095】
【数30】
【0096】
一方、式8および式9より、式31が成り立つ。
【0097】
【数31】
【0098】
式26〜式31より、iZuに関する微分方程式を求めると式32のようになる。
【0099】
【数32】
【0100】
本発明の第1の実施例では、ラウス・フルビッツの安定判別法を循環電流iZuに着目して適用するので、式32においては、循環電流iZuを含まない項については、安定性解析の計算には必要ないので無視することができる。そこで、式32において、循環電流iZuを含まない項を消去し、循環電流iZuを含む項のみを残すと、式33が得られる。
【0101】
【数33】
【0102】
一般に、ラウス・フルビッツの安定判別法は線形方程式でなければ適用することができない。しかしながら、式33は未だ線形化されていないので、次の2つの仮定を導入する。
【0103】
まず、第1の仮定として、u相の交流電源電流iuは基本周波数成分のみの正弦波とする。したがって、ωを角周波数として「d2iu/dt2=−ω2iu」が成り立つ。
【0104】
そして、第2の仮定として、ラウス・フルビッツの安定判別法では「直流分の安定性」を解析するので、安定性に寄与する直流分のみを考慮する。vu*iuおよびvu*diu/dtは、直流分および交流分によりそれぞれ構成されるが、それぞれ直流分「(vu*iu)dc」および「(vu*diu/dt)dc」のみを考慮する。これら2つの仮定により、式33は、式34のように変形できる。
【0105】
【数34】
【0106】
式12および式13より、「(vu*iu)dc」は、式35のように変形できる。
【0107】
【数35】
【0108】
また、式12および式13より、「(vu*diu/dt)dc」は、式36のように変形できる。
【0109】
【数36】
【0110】
式35および式36を式34に代入し、「Vdc=8VC」の関係式を適用すると、式37が得られる。
【0111】
【数37】
【0112】
ただし、式37においてTI、TV1、TV2およびTBは式38でそれぞれ表わされる。
【0113】
【数38】
【0114】
式38において、TIは電流マイナーループの応答時定数、TV1およびTV2は電圧メジャーループの応答時定数、TBは個別バランス制御の応答時定数に相当する。
【0115】
以上のようにして求められた式37に、ラウス・フルビッツの安定判別法を適用すると次の通りである。式37を式39のように置き換えると、式39における各係数は式40で与えられる。
【0116】
【数39】
【0117】
【数40】
【0118】
このとき、式40において、安定性に寄与するラウス数列は式41で与えられる。
【0119】
【数41】
【0120】
式40における全ての係数および式41で定義されるラウス数列b1、c1、およびd1が正となるとき、循環電流iZuは安定となる。
【0121】
ここで、式40および式41において、式42で表わされる近似式を導入する。なお、式42で表わされる近似式は一例であってその他の近似式を導入してもよい。
【0122】
【数42】
【0123】
このとき、a0、a1、a2、a3、a4、a5、b1およびb2は、常に正となる。一方、式41および式42からc1およびd1がともに正となる要件を求めると、式43が得られる。
【0124】
【数43】
【0125】
ここで、式43におけるαは式44で与えられる。
【0126】
【数44】
【0127】
したがって、式43で表わされる要件を満足する位相差φにおいてのみ、循環電流iZuは安定となる。逆に言えば、式45で表わされる要件を満たす位相差φにおいては、循環電流iZuは不安定となる。
【0128】
【数45】
【0129】
ここで、上述のように、式16および式17を式28に代入して式29を得る際、「アームバランス制御を適用しない」と仮定(すなわち、アームバランス制御により生成される電圧指令値vBAu*を無視)した。つまり、式43で表わされる要件を満足するような位相差φでモジュラーマルチレベルPWM変換器1を運転すれば、アームバランス制御を適用しなくても、直流コンデンサの電圧を安定に維持する制御が可能であることがわかる。したがって、本発明の第1の実施例の変形例として、アームバランス制御を実行するかしないかを切り替える切替手段を、DSP10内に設けてもよい。位相差φが式43で表わされる要件を満足するような用途でモジュラーマルチレベルPWM変換器1を用いる場合、例えばモジュラーマルチレベルPWM変換器1を誘導電動機のためのモータドライブ装置として用いる場合は、アームバランス制御を適用しなくても、直流コンデンサの電圧を安定に維持する制御が可能である。
【0130】
一方、上述のように、式16および式17を式28に代入して式29を得る際、式14で示される電圧指令値vBAu*が生成されるアームバランス制御も考慮した場合は、式29は、式46のように変形できる。
【0131】
【数46】
【0132】
ここで、式47および式48が成り立つ。
【0133】
【数47】
【0134】
【数48】
【0135】
式47および式48から、式49が得られる。
【0136】
【数49】
【0137】
式49から、式14で示される電圧指令値vBAu*が生成されるアームバランス制御をも考慮する場合には、式31〜式34および式38における「K4」を「K4+2K5」に置き換えればよいことが分かる。ただし、安定性の要件である式43〜式45には「K4」が含まれないので、式14で示される電圧指令値vBAu*が生成されるアームバランス制御を適用しても、安定性の要件には変化はない。このことから、式14で示される電圧指令値vBAu*が生成されるアームバランス制御を適用した場合、式43で表わされる要件を満足するような位相差φでモジュラーマルチレベルPWM変換器1を運転すれば、直流コンデンサの電圧を安定に維持する制御が可能であることがわかる。
【0138】
式16および式17を式28に代入して式29を得る際、式15で示される電圧指令値vBAu*が生成されるアームバランス制御も考慮した場合は、式29は、上記の場合と同様、式46のように変形できる。
【0139】
ここで、式50が成り立つ。
【0140】
【数50】
【0141】
式47および式50から、式51が得られる。
【0142】
【数51】
【0143】
式51から、式15で示される電圧指令値vBAu*が生成されるアームバランス制御をも考慮する場合には、式31〜式34における「K4」を「K4−2K5」に置き換えればよいことが分かる。これにより、式14で示される電圧指令値vBAu*が生成されるアームバランス制御において得られた式37は、式15で示される電圧指令値vBAu*が生成されるアームバランス制御においては、式52のようになる。
【0144】
【数52】
【0145】
式52において、TI、TV1、TV2は、式38で表わされるものと同様のものとなるが、TBについては式53で表わされる。
【0146】
【数53】
【0147】
ここで、式53において、当然のことながらTBは虚数ではなく実数でなければならないので、式54を満たす必要がある。
【0148】
【数54】
【0149】
以上のようにして求められた式52に、式37の場合と同様に、ラウス・フルビッツの安定判別法を適用すると、式45で表わされる要件を満足する位相差φにおいてのみ、循環電流iZuは安定となる。逆に言えば、式43で表わされる要件を満たす位相差φにおいては、循環電流iZuは不安定となる。
【0150】
以上まとめると、式14で示される電圧指令値vBAu*が生成されるアームバランス制御を適用する場合には、モジュラーマルチレベルPWM変換器1の交流側入出力端子に印加される交流電圧のu相の電圧vuとモジュラーマルチレベルPWM変換器1に交流側入出力端子を介して流出入するu相の交流電源電流iuとの位相差φが、式43で表わされる要件を満足すれば、直流コンデンサの電圧を安定に維持する制御が可能である。一方、位相差φが、式45で表わされる要件を満足すると直流コンデンサの電圧を安定に維持する制御は不可能である。
【0151】
また、式15で示される電圧指令値vBAu*が生成されるアームバランス制御を適用する場合には、位相差φが、式45で表わされる要件を満足するとともに、式54で表わされる要件を満足すれば、直流コンデンサの電圧を安定に維持する制御が可能である。一方、位相差φが、式43で表わされる要件を満足すると直流コンデンサの電圧を安定に維持する制御は不可能である。
【0152】
図8は、本発明の第1の実施例によるモジュラーマルチレベルPWM変換器の制御で用いられる式14および式15と、モジュラーマルチレベルPWM変換器の交流側入出力端子に印加される交流電圧とモジュラーマルチレベルPWM変換器に交流側入出力端子を介して流出入する交流電源電流との位相差と、の関係を示す図である。式44で表わされるαは、各制御ゲインK1〜K5や各種回路定数により変化する。図8において、モジュラーマルチレベルPWM変換器1が逆変換器として動作するとき(φ=π)もしくはコンデンサとして動作するとき(φ=3π/2)は、式14で示される電圧指令値vBAu*が生成されるアームバランス制御を適用し、モジュラーマルチレベルPWM変換器1が順変換器として動作するとき(φ=0)もしくはインダクタとして動作するとき(φ=π/2)は、式15で示される電圧指令値vBAu*が生成されるアームバランス制御を適用する。
【0153】
以上説明したように、本発明の第1の実施例では、図6に示すように、アームバランス制御では、位相差φが取り得る値によって、アームバランス制御により生成される電圧指令値の極性を決定する。つまり、式14で示される電圧指令値vBAu*が生成されるアームバランス制御を適用した場合と、式15で示される電圧指令値vBAu*が生成されるアームバランス制御を適用した場合と、では安定性の要件が反対になる。
【0154】
上述のアームバランス制御によって生成された電圧指令値とともに、平均値制御および個別バランス制御によって生成された各電圧指令値を用いて、モジュラーマルチレベルPWM変換器1内の各チョッパセル11−j内の半導体スイッチSW1およびSW2のスイッチング動作が制御される。図7は、本発明の第1の実施例によるモジュラーマルチレベルPWM変換器における各チョッパセルについての出力電圧指令値の生成を示すブロック図であるが、u相について言えば、各チョッパセル11−jの出力電圧指令値vju*は、第1のアーム2u−P内のチョッパセル11−j(ただし、j=1〜8)については式16および図7(a)、第1のアーム2u−N内のチョッパセル11−j(ただし、j=9〜16)については式17および図7(b)で表わされる。生成される出力電圧指令値vju*は、各直流コンデンサの電圧vCjuで規格化された後、キャリア周波数fcの三角波キャリア信号(最大値:1、最小値:0)と比較され、PWMのスイッチング信号が生成される。生成されたスイッチング信号は、対応するチョッパセル11−j内の半導体スイッチSW1およびSW2のスイッチングに用いられる。本発明の第1の実施例によるモジュラーマルチレベルPWM変換器1は、16個のチョッパセルを用いるので、相電圧が17レベル、線間電圧が33レベルのPWM波形となる。このスイッチング信号の生成は、例えばDSPやFPGAなどの演算処理装置を用いて実現される。
【0155】
次に、本発明の第1の実施例によるモジュラーマルチレベルPWM変換器1のシミュレーション結果について説明する。各シミュレーションには、表1に示す回路パラメータおよび表2に示す制御ゲインを用いた。表1において、カッコ内の値は基準容量1MW、基準電圧6.6kV、周波数50Hzを基準にしたときの単位法(パーセント法)で表わした値である。
【0156】
【表1】
【0157】
【表2】
【0158】
表1に示す回路パラメータと表2に示す制御ゲインとを式38に代入すると、TI=0.26ms、TV1=5.3ms、TV2=100ms、TB=3.9msとなる。これらの値は、式42で表わされた近似式を満たすものであるといえる。
【0159】
直流リンク電圧Vdcを12.0kV、各チョッパセルのキャリア周波数fcを1350Hz、各チョッパセルの直流電圧VCを1.5kV(=12.kV/8)とした。この場合、実機で言えばスイッチング素子として3.3kVのIGBTを使用することができる。シミュレーションは、理想状態で行うものとし、すなわち、制御遅延がゼロであるアナログ制御系を仮定し、デッドタイムがゼロであってもスイッチング動作が可能な理想スイッチを使用する。
【0160】
図9は、本発明の第1の実施例によるモジュラーマルチレベルPWM変換器を、順変換器として動作させたときの定常特性についてのシミュレーション波形を示す図である。本シミュレーションでは、モジュラーマルチレベルPWM変換器1を、有効電力が1MW、無効電力が0MVA、モジュラーマルチレベルPWM変換器1の交流側入出力端子に印加される交流電圧のu相の電圧vuとモジュラーマルチレベルPWM変換器1に交流側入出力端子を介して流出入するu相の交流電源電流iuとの位相差φが0である順変換器として動作させた。上述の通り、モジュラーマルチレベルPWM変換器1が順変換器として動作するとき(φ=0)は、式15で示される電圧指令値vBAu*が生成されるアームバランス制御を適用する。
【0161】
図9に示すように、v−w相間の線間電圧vvwは、29レベルの電圧波形となっており、高調波電圧やコモンモード電圧の低減が実現できていることが分かる。また、キャリア周波数を1350Hzに設定したので、モジュラーマルチレベルPWM変換器1の等価スイッチング周波数は22kHz(≒1350Hz×16)となる。したがって、モジュラーマルチレベルPWM変換器1の制御性向上が期待できる。
【0162】
また、図9に示すように、u相の交流電源電流iuについて注目すると、v−w相間の線間電圧vvwに含まれる高調波電圧が少ないので、正弦波状とみなせる。第1および第2のアーム電流iPuおよびiNuには、基本波成分の他に11kHz(≒1350Hz×8)のスイッチングリプル成分、および、バランス制御に起因する2次成分が重畳する。スイッチングリプル成分は、v−w相間の線間電圧vvwに含まれる高調波電圧が少ないので、3%の結合リアクトルで十分低減可能である。2次成分は、第1および第2のアーム電流iPuおよびiNu間で同相となるため、交流電源電流iuには現れない。
【0163】
循環電流iZuは、−28A(=−1MW/(3×12kV))の直流分電流、ならびに、上述のスイッチングリプル成分および2次成分より構成される。スイッチングリプル成分は、結合リアクトルのインダクタンス値を増加させることで低減でき、2次成分はバランス制御の制御ゲインK4およびK5を減少、もしくは電流マイナーループの制御ゲインK3を増加させることで低減することができる。
【0164】
u相のチョッパセル11−1の直流コンデンサ電圧vC1uに着目すると、その直流分は直流コンデンサ電圧指令値1.5kVに良好に追従している。一方、その交流分は、主成分である基本波成分(50Hz)と2次成分(100Hz)により構成される。交流分の振幅は交流電源電流の実効値Iに比例し、直流コンデンサの静電容量Cに反比例する。
【0165】
図10は、本発明の第1の実施例によるモジュラーマルチレベルPWM変換器の制御において、アームバランス制御を実行から停止へ切り替えたときの過渡特性についてのシミュレーション波形を示す図であって、(a)は、モジュラーマルチレベルPWM変換器を順変換器として動作させたときにおいて当該切替えを行った場合を示し、(b)は、モジュラーマルチレベルPWM変換器をコンデンサとして動作させたときにおいて当該切替えを行った場合を示す図である。
【0166】
図10(a)には、モジュラーマルチレベルPWM変換器1が、有効電力が1MW、無効電力が0MVA、位相差φが0である順変換器動作時にあるときに、時刻t=t1までは式15で示される電圧指令値vBAu*が生成されるアームバランス制御を実行(K5≠0)し、時刻t=t1以降は停止(K5=0)させた場合の過渡特性が示されている。時刻t=t1以降は、チョッパセル11−1の直流コンデンサ電圧vC1uおよびチョッパセル11−9の直流コンデンサ電圧vC9uの電圧の偏差が拡大するのがわかる。これは、アームバランス制御を時刻t=t1で停止させたとこにより循環電流iZuが不安定になったことに起因するものである。
【0167】
図10(b)には、モジュラーマルチレベルPWM変換器1が、有効電力が0MW、無効電力が1MVA、位相差φが3π/2であるコンデンサ動作時にあるときに、時刻t=t1までは式14で示される電圧指令値vBAu*が生成されるアームバランス制御を実行(K5≠0)し、時刻t=t1以降は停止(K5=0)させた場合の過渡特性が示されている。時刻t=t1以降であっても、チョッパセル11−1の直流コンデンサ電圧vC1uおよびチョッパセル11−9の直流コンデンサ電圧vC9uの電圧の偏差は拡大していない。つまり、このことは、コンデンサ動作時(φ=3π/2)においてはアームバランス制御を実行しなくても(すなわち省略しても)問題ないことを示している。
【0168】
図11は、本発明の第1の実施例によるモジュラーマルチレベルPWM変換器の制御において、アームバランス制御に用いられる定義式を式14と式15との間で切り替えたときの過渡特性についてのシミュレーション波形を示す図であって、(a)は、モジュラーマルチレベルPWM変換器を順変換器として動作させたときにおいて当該切替えを行った場合を示し、(b)は、モジュラーマルチレベルPWM変換器をコンデンサとして動作させたときにおいて当該切替えを行った場合を示す図である。
【0169】
図11(a)には、モジュラーマルチレベルPWM変換器1が、有効電力が1MW、無効電力が0MVA、位相差φが0である順変換器動作時にあるときに、時刻t=t2までは式15で示される電圧指令値vBAu*が生成されるアームバランス制御を実行し、時刻t=t2以降は式14で示される電圧指令値vBAu*が生成されるアームバランス制御を実行した場合の過渡特性が示されている。時刻t=t2以降は、チョッパセル11−1の直流コンデンサ電圧vC1uおよびチョッパセル11−9の直流コンデンサ電圧vC9uの電圧の偏差が拡大するのがわかる。
【0170】
一方、図11(b)には、モジュラーマルチレベルPWM変換器1が、有効電力が0MW、無効電力が1MVA、位相差φが3π/2であるコンデンサ動作時にあるときに、時刻t=t2までは式14で示される電圧指令値vBAu*が生成されるアームバランス制御を実行し、時刻t=t2以降は式15で示される電圧指令値vBAu*が生成されるアームバランス制御を実行した場合の過渡特性が示されている。時刻t=t2以降は、チョッパセル11−1の直流コンデンサ電圧vC1uおよびチョッパセル11−9の直流コンデンサ電圧vC9uの電圧の偏差が拡大するのがわかる。
【0171】
図11(a)および(b)に示すシミュレーション結果から、図8に示す通り、モジュラーマルチレベルPWM変換器1の交流側入出力端子に印加される交流電圧のu相の電圧vuとモジュラーマルチレベルPWM変換器1に交流側入出力端子を介して流出入するu相の交流電源電流iuとの位相差φの値に応じて、アームバランス制御に用いるべき定義式を式14もしくは式15のいずれかに適切に選択する必要があることが明確に示された。
【0172】
図12は、本発明の第1の実施例によるモジュラーマルチレベルPWM変換器の制御において、アームバランス制御に用いられる制御ゲインを切り替えたときの過渡特性についてのシミュレーション波形を示す図である。モジュラーマルチレベルPWM変換器1が、有効電力が1MW、無効電力が0MVA、位相差φが0である順変換器動作時にあるとき、時刻t=t3までは式15で示される電圧指令値vBAu*が生成されるアームバランス制御の制御ゲインを「K5=K4/2」として実行し、時刻t=t3以降は制御ゲインを式54を満足する「K5=K4」として実行した場合の過渡特性が示されている。上述のように、式15で示される電圧指令値vBAu*が生成されるアームバランス制御を適用する場合には、位相差φが、式45で表わされる要件を満足するとともに、式54で表わされる要件を満足すれば、直流コンデンサの電圧を安定に維持する制御が可能である。時刻t=t3以前は制御ゲインを式54を満足しない「K5=K4/2」として実行したので、チョッパセル11−1の直流コンデンサ電圧vC1uおよびチョッパセル11−9の直流コンデンサ電圧vC9uの電圧の偏差が存在してが、時刻t=t3以降は制御ゲインを式54を満足する「K5=K4」として実行したので電圧の偏差が収束している。
【0173】
上述の各シミュレーション結果により、本発明の第1の実施例によるモジュラーマルチレベルPWM変換器の制御の有効性が明確に示されたといえる。
【0174】
上述の第1の実施例は3端子結合リアクトルを用いたものであるが、図17および18を参照して説明した非結合リアクトルを用いたモジュラーマルチレベルPWM変換器を用いても、第1の実施例によるモジュラーマルチレベルPWM変換器の制御原理を適用することができ、本明細書ではこれを第2の実施例として扱う。図13は、本発明の第2の実施例によるモジュラーマルチレベルPWM変換器を示す回路図である。すなわち、本発明の第2の実施例は、図1における3端子結合リアクトル12を、図13では非結合リアクトル12−1および12−2に置き換えたものである。モジュラーマルチレベルPWM変換器1の交流側入出力端子は、第1の実施例の場合は3端子結合リアクトル12の第3の端子であったが、第2の実施例では、u相の場合、第1のアーム2u−Pと第2のアーム2u−Nとの接続端子である。これ以外の回路構成要素とこのモジュラーマルチレベルPWM変換器1の制御原理については図1〜8を参照して説明した第1の実施例と同様である。
【産業上の利用可能性】
【0175】
本発明は、モジュラーマルチレベルPWM変換器の制御に適用することができる。本制御を適用したモジュラーマルチレベルPWM変換器は、順変換器動作もしくは逆変換器動作、あるいはコンデンサ動作もしくはインダクタ動作のいずれの動作モードにおいても、直流コンデンサの電圧を安定に維持しつつ制御することができる。したがって、モジュラーマルチレベルPWM変換器を、例えば正相・逆相無効電力補償装置(STATCOM)、誘導電動機のためのモータドライブ装置、太陽光発電や燃料電池などを電力系統に連系するためのインバータ、系統間連系設備や周波数変換設備などのBTB(Back−To−Back)システムなどに利用することができる。
【符号の説明】
【0176】
1 モジュラーマルチレベルPWM変換器
2u−P、2v−P、2w−P 第1のアーム
2u−N、2v−N、2w−N 第2のアーム
10 DSP
11−1、11−2、11−3、11−4 チョッパセル
11−5、11−6、11−7、11−8 チョッパセル
11−9、11−10、11−11、11−12 チョッパセル
11−13、11−14、11−15、11−16 チョッパセル
12 3端子結合リアクトル
12−1、12−2 非結合リアクトル
C 直流コンデンサ
D 帰還ダイオード
EP、EN 直流入出力端子
S 半導体スイッチング素子
SW1、SW2 半導体スイッチ
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力変換器に関し、特に、モジュラーマルチレベルPWM変換器型の電力変換器に関する。
【背景技術】
【0002】
実装が容易で大容量・高圧用途に適した次世代トランスレス電力変換器として、二重スターチョッパセル(Double−Star Chopper−Cell:DSCC)構成のモジュラーマルチレベルPWM変換器(Modular Multilevel PWM Converter:MMC)がある。
【0003】
モジュラーマルチレベルPWM変換器は、各アームをモジュールで構成する点に特長があり、各モジュールはチョッパセルのカスケード接続により構成される。モジュラーマルチレベルPWM変換器は、実装が容易で、装置の小型軽量化を実現できることから、系統連系用電力変換器や、誘導電動機のためのモータドライブ装置などの用途が想定されている。
【0004】
図14は、モジュラーマルチレベルPWM変換器の主回路構成を示す回路図であり、図15は、モジュラーマルチレベルPWM変換器の一構成要素であるチョッパセルを示す回路図、図16は、モジュラーマルチレベルPWM変換器の一構成要素である3端子結合リアクトルを示す回路図である。以降、異なる図面において同じ参照符号が付されたものは同じ機能を有する構成要素であることを意味するものとする。また、各相の回路構成、動作原理および制御方法は同様であるため、以下、主としてu相について説明する。
【0005】
図14に示すモジュラーマルチレベルPWM変換器1は、u相、v相およびw相の電圧形フルブリッジ電力変換器である。モジュラーマルチレベルPWM変換器1の直流側(直流リンク)には、大容量の平滑コンデンサ(図示せず)が接続され、直流電圧が印加される。直流電圧は必ずしも固定値である必要はなく、例えばダイオード整流器に起因する低次高調波成分やスイッチングリプル成分を含んでいても構わない。したがって、平滑コンデンサは省略可能である。
【0006】
図14に示すモジュラーマルチレベルPWM変換器1のu、vおよびw各相は、図15に示すチョッパセル11−jと、図16に示す3端子結合リアクトル12とで構成される。ここでは一例として、各相におけるチョッパセルの個数を16としており(つまりj=1〜16)、このため、モジュラーマルチレベルPWM変換器1の出力は、相電圧が17レベル、線間電圧が33レベルのPWM波形となる。なお、図14におけるチョッパセル11−jについては、理解を容易にするために、図15に示すチョッパセル11−jにおける直流コンデンサCを当該チョッパセル11−jの外側に記載している。
【0007】
図15に示すように、チョッパセル11−jは、2つの半導体スイッチSW1およびSW2と、直流コンデンサCとを有する2端子回路であり、双方向チョッパの一部とみなせる。チョッパセル11−jは、2つの半導体スイッチSW1およびSW2は互いに直列接続され、これに、直流コンデンサCが並列接続されることで構成される。2つの半導体スイッチSW1およびSW2のうち、図示の例では半導体スイッチSW2の各端子が、当該チョッパセル11−jの出力端となる。本明細書では、u相の場合、直流コンデンサの電圧値をvCju(ただし、j=1〜16)、チョッパセル11−jの出力電圧(すなわち、半導体スイッチSW2の両端の電圧)の値を、vju(ただし、j=1〜16)と定義する。
【0008】
上述のように、モジュラーマルチレベルPWM変換器1は電圧形インバータとしても機能するため、各半導体スイッチSW1およびSW2は、それぞれ、オン時に一方向に電流を通す半導体スイッチング素子Sと、この半導体スイッチング素子に逆並列に接続された帰還ダイオードDと、で構成される。半導体スイッチング素子Sは例えばIGBT(Insulated Gate Bipopar Transistor)である。
【0009】
u相における16個のチョッパセル11−1〜11−16のうち、チョッパセル11−1〜11−8は、それぞれの出力端を介してカスケード接続される。本明細書では、これを第1のアーム(arm)2u−Pと称する。また、チョッパセル11−9〜11−16は、それぞれの出力端を介してカスケード接続される。本明細書では、これを第2のアーム2u−Nと称する。v相およびw相についても同様であり、それぞれ、第1のアーム2v−Pおよび第2のアーム2v−N、ならびに第1のアーム2w−Pおよび第2のアーム2w−Nが構成される。本明細書では、u相については、第1のアームに流れる電流をiPu、第2のアームに流れる電流をiNu、v相については、第1のアームに流れる電流をiPv、第2のアームに流れる電流をiNv、w相については、第1のアームに流れる電流をiPw、第2のアームに流れる電流をiNw、と定義し、以下、「アーム電流」と称する。
【0010】
3端子結合リアクトル12(以下、単に「結合リアクトル12」と称する。)は、第1の端子a、第2の端子b、および、第1の端子aと第2の端子bとの間の巻線上に位置する第3の端子cを有する。u相について言えば、結合リアクトル12の第1の端子aには第1のアーム2u−Pが、結合リアクトル12の第2の端子bには第2のアーム2u−Nが、それぞれ接続される。結合リアクトル12の第3の端子cは、モジュラーマルチレベルPWM変換器1のu相の交流側入出力端子として動作する。同様に、v相について言えば、結合リアクトル12の第1の端子aには第1のアーム2v−Pが、結合リアクトル12の第2の端子bには第2のアーム2v−Nが、それぞれ接続され、結合リアクトル12の第3の端子cは、モジュラーマルチレベルPWM変換器1のv相の交流側入出力端子として動作する。また、w相について言えば、結合リアクトル12の第1の端子aには第1のアーム2w−Pが、結合リアクトル12の第2の端子bには第2のアーム2w−Nが、それぞれ接続され、結合リアクトル12の第3の端子cは、モジュラーマルチレベルPWM変換器1のw相の交流側入出力端子として動作する。つまり、u、vおよびw各相の各結合リアクトル12の第3の端子cが、モジュラーマルチレベルPWM変換器1のu、vおよびw各相の交流側入出力端子として動作する。これら交流側入出力端子には、モジュラーマルチレベルPWM変換器1を、例えば系統連系用電力変換器として用いる場合には連系リアクトルが接続され、またあるいはモータドライブ装置として用いる場合には誘導電動機が接続される。
【0011】
本明細書では、モジュラーマルチレベルPWM変換器1のu相、v相およびw相の各交流側入出力端子を介して流入する電流を、それぞれ、iu、ivおよびiwで表わし、以下、「交流電源電流」と称する。
【0012】
また、u相において、第1のアーム2u−Pおよび第2のアーム2u−Nの、結合リアクトル12が接続されない側の各端子は、直流側入出力端子として動作する。同様に、v相においては、第1のアーム2v−Pおよび第2のアーム2v−Nの、結合リアクトル12が接続されない側の各端子が、w相においては、第1のアーム2w−Pおよび第2のアーム2w−Nの、結合リアクトル12が接続されない側の各端子が、それぞれ直流側入出力端子として動作することになる。
【0013】
図14に示したモジュラーマルチレベルPWM変換器1の変形例として、3端子結合リアクトルを、通常のリアクトル(すなわち、非結合リアクトル)を用いたものもある。図17は、モジュラーマルチレベルPWM変換器の別の例の主回路構成を示す回路図であり、図18は、図17に示すモジュラーマルチレベルPWM変換器内のリアクトルの配置例を示す回路図である。この例では、第1のアーム2u−P内にチョッパセル11−j(ただし、j=1〜8)とリアクトル12−1とを備え、第2のアーム2u−N内にチョッパセル11−j(ただし、j=9〜16)とリアクトル12−1とを備える。第1のアーム2u−Pにおいては、8個のチョッパセル11−j(ただし、j=1〜8)が、当該チョッパセルが有する出力端を介してカスケード接続されるとともに、リアクトル12−1が、互いにカスケード接続されたチョッパセル間の任意の位置に接続される。また、第2のアーム2u−Nにおいては、8個のチョッパセル11−j(ただし、j=9〜16)が、当該チョッパセルが有する出力端を介してカスケード接続されるとともに、リアクトル12−2が、互いにカスケード接続されたチョッパセル間の任意の位置に接続される。図17に示すモジュラーマルチレベルPWM変換器1においては、リアクトル12−1については、一方の端子にチョッパセル11−8が接続され、他方の端子にはリアクトル12−2が接続される。また、リアクトル12−2については、一方の端子にリアクトル12−1が接続され、他方の端子にはチョッパセル11−9が接続される。第1のアーム2u−Pおよび第2のアーム2u−Nの、互いが接続されない側の各端子は、直流側入出力端子として動作する。また、第1のアーム2u−Pと第2のアーム2u−Nとの接続端子が、モジュラーマルチレベルPWM変換器1のu相の交流側入出力端子として動作する。なお、これ以外の回路構成要素については図14に示す回路構成要素と同様であるので、同一の回路構成要素には同一符号を付して当該回路構成要素についての詳細な説明は省略する。
【0014】
図17に示すような非結合リアクトルを用いたモジュラーマルチレベルPWM変換器1においては、リアクトル12−1および12−2は、互いにカスケード接続されたチョッパセル11−j間の任意の位置に接続される。図18(a)は、図17に示す第1のアームを示したものであるが、リアクトルの配置位置の他の例として、例えば図18(b)に示すように、チョッパセル11−1の、直流側入出力端子として動作する側の端子に接続してもよい。また例えば、図18(c)に示すように、チョッパセル11−7とチョッパセル11−8との間に接続してもよい。第2のアームについても同様である。
【0015】
一般に、系統連系用電力変換器は、当該電力変換器の交流側の電圧と当該電力変換器に流出入する交流電源電流との位相差に応じて、順変換器動作もしくは逆変換器動作、あるいはコンデンサ動作もしくはインダクタ動作といった種々の動作モードが存在する。
【0016】
例えば図14において、モジュラーマルチレベルPWM変換器1は、有効電力が流入する場合は順変換器として動作し、有効電力が流出する場合は逆変換器として動作する。また、モジュラーマルチレベルPWM変換器1は、正相無効電力を制御する場合はインダクタもしくはコンデンサとして動作する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】萩原誠、赤木泰文著、「モジュラー・マルチレベル変換器(MMC)のPWM制御法と動作検証」、電気学会論文誌D、128、7、pp957〜965、2008年7月
【非特許文献2】西村和敏、萩原誠、赤木泰文著、「モジュラー・マルチレベルPWMインバータを用いた高圧モータドライブシステムへの応用−400V,15kWミニモデルによる実験的検証−」、電気学会半導体電力変換研究会、SPC−09−24、pp19〜24、2009年1月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
モジュラーマルチレベルPWM変換器においては、各チョッパセル内の直流コンデンサの電圧を安定に維持する制御を行う必要がある。モジュラーマルチレベルPWM変換器を系統連系用電力変換器として用いた場合、上述のように、順変換器動作もしくは逆変換器動作、あるいはコンデンサ動作もしくはインダクタ動作といった種々の動作モードが存在する。しかしながら、モジュラーマルチレベルPWM変換器をこのような全ての動作モードにおいて直流コンデンサの電圧を安定に維持しつつ制御することについては実現されていない。
【0019】
従って本発明の目的は、上記問題に鑑み、あらゆる動作モードにおいて安定に制御可能なモジュラーマルチレベルPWM変換器型の電力変換器およびこの制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記目的を実現するために、本発明の第1の態様においては、直列接続された2つの半導体スイッチとこれら2つの半導体スイッチに並列接続された直流コンデンサとからなり上記2つの半導体スイッチのうちの一方の半導体スイッチの各端子を出力端とするチョッパセルを、それぞれが備える第1および第2のアームであって、各第1および第2のアームにおいてそれぞれ同数のチョッパセルが、当該チョッパセルが有する出力端を介してそれぞれカスケード接続された第1および第2のアームと、第1のアームの一端が接続される第1の端子と、第2のアームの一端が接続される第2の端子と、第1の端子と第2の端子との間の巻線上に位置し、交流側入出力端子として動作する第3の端子と、を有する3端子結合リアクトルと、を備え、第1および第2のアームの、3端子結合リアクトルが接続されない側の各端子が直流側入出力端子として動作する電力変換器は、所定のコンデンサ電圧指令値に、全ての直流コンデンサの電圧値を平均して得られた値を追従させる制御を実行する第1の制御手段と、コンデンサ電圧指令値に、各直流コンデンサの電圧値をそれぞれ追従させる制御を実行する第2の制御手段と、第1のアーム内の全ての直流コンデンサの電圧値を平均して得られた値と、第2のアーム内の全ての直流コンデンサの電圧値を平均して得られた値と、を一致させる制御を実行する第3の制御手段と、を備える。
【0021】
本発明の第2の態様においては、直列接続された2つの半導体スイッチとこれら2つの半導体スイッチに並列接続された直流コンデンサとからなり上記2つの半導体スイッチのうちの一方の半導体スイッチの各端子を出力端とするチョッパセルおよびリアクトルを、それぞれが備える第1および第2のアームであって、各第1および第2のアームにおいてそれぞれ同数のチョッパセルが、当該チョッパセルが有する出力端を介してカスケード接続されるとともに、リアクトルが、互いにカスケード接続されたチョッパセル間の任意の位置に接続された第1および第2のアーム、を備え、第1および第2のアームの、互いが接続されない側の各端子が直流側入出力端子として動作し、第1のアームと第2のアームとの接続端子が交流側入出力端子として動作する電力変換器は、所定のコンデンサ電圧指令値に、全ての直流コンデンサの電圧値を平均して得られた値を追従させる制御を実行する第1の制御手段と、コンデンサ電圧指令値に、各直流コンデンサの電圧値をそれぞれ追従させる制御を実行する第2の制御手段と、第1のアーム内の全ての直流コンデンサの電圧値を平均して得られた値と、第2のアーム内の全ての直流コンデンサの電圧値を平均して得られた値と、を一致させる制御を実行する第3の制御手段と、を備える。
【0022】
本発明の第1および2の態様による電力変換器における第1〜第3の制御手段は、DSPやFPGAなどの演算処理装置により実現されるものであり、検出された電力変換器の第1および第2のアームを流れる各アーム電流、各チョッパセルにおける直流コンデンサの電圧、電力変換器の直流入出力側の電圧(直流リンク電圧)、および、流出入する各相の交流電源電流を、その演算処理に用いるパラメータとする。生成された第1〜第3の指令値を含む指令値に基づいて、電力変換器内の各チョッパセル内の半導体スイッチのスイッチング動作が制御される。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、モジュラーマルチレベルPWM変換器を、順変換器動作もしくは逆変換器動作、あるいはコンデンサ動作もしくはインダクタ動作のいずれの動作モードにおいても、直流コンデンサの電圧を安定に維持しつつ制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の第1の実施例によるモジュラーマルチレベルPWM変換器を示す回路図である。
【図2】本発明の第1の実施例によるモジュラーマルチレベルPWM変換器のu相についての回路図である。
【図3】図2に示すモジュラーマルチレベルPWM変換器の一構成要素であるチョッパセルを示す回路図であり、(a)は第1のアーム中のチョッパセルのうちの1つを示し、(b)は第2のアーム中のチョッパセルのうちの1つを示す図である。
【図4】本発明の第1の実施例によるモジュラーマルチレベルPWM変換器における直流コンデンサの平均値制御を示すブロック図である。
【図5】本発明の第1の実施例によるモジュラーマルチレベルPWM変換器における直流コンデンサの個別バランス制御を示すブロック図である。
【図6】本発明の第1の実施例によるモジュラーマルチレベルPWM変換器における直流コンデンサのアームバランス制御を示すブロック図である。
【図7】本発明の第1の実施例によるモジュラーマルチレベルPWM変換器における各チョッパセルについての出力電圧指令値の生成を示すブロック図である。
【図8】本発明の第1の実施例によるモジュラーマルチレベルPWM変換器の制御で用いられる式14および式15と、モジュラーマルチレベルPWM変換器の交流側入出力端子に印加される交流電圧とモジュラーマルチレベルPWM変換器に交流側入出力端子を介して流出入する交流電源電流との位相差と、の関係を示す図である。
【図9】本発明の第1の実施例によるモジュラーマルチレベルPWM変換器を、順変換器として動作させたときの定常特性についてのシミュレーション波形を示す図である。
【図10】本発明の第1の実施例によるモジュラーマルチレベルPWM変換器の制御において、アームバランス制御を実行から停止へ切り替えたときの過渡特性についてのシミュレーション波形を示す図であって、(a)は、モジュラーマルチレベルPWM変換器を順変換器として動作させたときにおいて当該切替えを行った場合を示し、(b)は、モジュラーマルチレベルPWM変換器をコンデンサとして動作させたときにおいて当該切替えを行った場合を示す図である。
【図11】本発明の第1の実施例によるモジュラーマルチレベルPWM変換器の制御において、アームバランス制御に用いられる定義式を式14と式15との間で切り替えたときの過渡特性についてのシミュレーション波形を示す図であって、(a)は、モジュラーマルチレベルPWM変換器を順変換器として動作させたときにおいて当該切替えを行った場合を示し、(b)は、モジュラーマルチレベルPWM変換器をコンデンサとして動作させたときにおいて当該切替えを行った場合を示す図である。
【図12】本発明の第1の実施例によるモジュラーマルチレベルPWM変換器の制御において、アームバランス制御に用いられる制御ゲインを切り替えたときの過渡特性についてのシミュレーション波形を示す図である。
【図13】本発明の第2の実施例によるモジュラーマルチレベルPWM変換器を示す回路図である。
【図14】モジュラーマルチレベルPWM変換器の主回路構成を示す回路図である。
【図15】モジュラーマルチレベルPWM変換器の一構成要素であるチョッパセルを示す回路図である。
【図16】モジュラーマルチレベルPWM変換器の一構成要素である3端子結合リアクトルを示す回路図である。
【図17】モジュラーマルチレベルPWM変換器の別の例の主回路構成を示す回路図である。
【図18】図17に示すモジュラーマルチレベルPWM変換器内のリアクトルの配置例を示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に説明する第1および第2の実施例については、主としてu相の制御について説明するが、v相およびw相についても同様に適用できる。また、各実施例では、チョッパセルの個数は16個としたが、本発明はこれに限定されるものではなく、チョッパセルの個数は偶数個であればよい。
【0026】
図1は、本発明の第1の実施例によるモジュラーマルチレベルPWM変換器を示す回路図である。図1に示すモジュラーマルチレベルPWM変換器1の、制御部以外の回路構成は、図14に示した回路構成と同様であり、チョッパセル11−jは図15に示されたものであり、3端子結合リアクトル12は図16に示されたものである。チョッパセル11−j(ただし、j=1〜16)内の各半導体スイッチSW1およびSW2が、オン時に一方向に電流を通す半導体スイッチング素子Sと、半導体スイッチング素子Sに逆並列に接続された帰還ダイオードDと、を有する点も同様である。
【0027】
図1に示すように、モジュラーマルチレベルPWM変換器1の各チョッパセル11−j内の半導体スイッチSW1およびSW2のスイッチング動作の指示に用いられるスイッチング信号は、参照符号10で示されるDSPによる演算処理によって生成される。公知の検出器によって検出された、モジュラーマルチレベルPWM変換器1の第1のアーム2u−P、2v−Pおよび2w−Pを流れるアーム電流iPu、iPv、およびiPw、第2のアーム2u−N、2v−Nおよび2w−Nを流れるアーム電流iNu、iNv、およびiNw、各チョッパセル11−jにおける直流コンデンサの電圧vCju、vCjv、vCjw、モジュラーマルチレベルPWM変換器1の直流入出力端子EPおよびEN間に印加される電圧(直流リンク電圧)Vdc、ならびに、モジュラーマルチレベルPWM変換器1の交流側入出力端子を介して流出入する各相の交流電源電圧iu、iv、およびiwが、DSP10に入力され、演算処理が実行される。
【0028】
本発明の第1の実施例によれば、モジュラーマルチレベルPWM変換器1外には流出しないでモジュラーマルチレベルPWM変換器1内で循環する電流(以下、「循環電流」と称する。)に着目してラウス・フルビッツの判定判別法を適用し、モジュラーマルチレベルPWM変換器1を制御する。図2は、本発明の第1の実施例によるモジュラーマルチレベルPWM変換器のu相についての回路図である。また、図3は、図2に示すモジュラーマルチレベルPWM変換器の一構成要素であるチョッパセルを示す回路図であり、(a)は第1のアーム中のチョッパセルのうちの1つを示し、(b)は第2のアーム中のチョッパセルのうちの1つを示す図である。
【0029】
このとき、u相について、リアクトル12のインダクタンスをlとしたとき、式1で表わされる回路方程式が成り立つ。
【0030】
【数1】
【0031】
上記式1から、モジュラーマルチレベルPWM変換器1には、交流電源側を経由しない閉回路が存在することがわかる。u相の閉回路を循環する循環電流をiZuとしたとき、アーム電流iPuおよびiNuと交流電源電流iuとの間には以下の関係が成立する。
【0032】
【数2】
【0033】
【数3】
【0034】
【数4】
【0035】
本発明の第1の実施例によるモジュラーマルチレベルPWM変換器1における各チョッパセル11−j内の直流コンデンサの電圧を安定に維持するための制御は、3つの制御からなる。これら3つの制御それぞれによって生成された第1〜第3の指令値を含む指令値に基づいて、モジュラーマルチレベルPWM変換器1内の各チョッパセル11−j内の半導体スイッチSW1およびSW2のスイッチング動作が制御される。
【0036】
第1の制御は、各相独立に実行される、所定のコンデンサ電圧指令値に全ての直流コンデンサの電圧値を平均して得られた値を追従させる制御である。本明細書では、この制御を「平均値制御(Averaging Control)」と称する。すなわち、平均値制御では、u相について言えば、所定のコンデンサ電圧指令値vC*に、全ての直流コンデンサの電圧値vCju(ただし、j=1〜16)を平均して得られた値vCuaveを追従させる制御が実行され、これにより第1の指令値としてvAu*が生成される。
【0037】
第2の制御は、各相独立に実行される、コンデンサ電圧指令値に各直流コンデンサの電圧値をそれぞれ追従させる制御である。本明細書では、この制御を「個別バランス制御(Individual−Balancing Control)」と称する。すなわち、個別バランス制御では、u相について言えば、コンデンサ電圧指令値vC*に、各直流コンデンサの電圧値vCjuをそれぞれ追従させる制御が実行され、これにより第2の指令値としてvBIju*が生成される。
【0038】
第3の制御は、各相独立に実行される、第1のアーム内の全ての直流コンデンサの電圧値を平均して得られた値と第2のアーム内の全ての直流コンデンサの電圧値を平均して得られた値とを一致させる制御を実行する。本明細書では、この制御を「アームバランス制御(Arm−Balancing Control)」と称する。すなわち、アームバランス制御では、u相について言えば、第1のアーム2u−P内の全ての直流コンデンサの電圧値vCju(ただし、j=1〜8)を平均して得られた値vCPuaveと、第2のアーム2u−N内の全ての直流コンデンサの電圧値vCju(ただし、j=9〜16)を平均して得られた値vCNuaveと、を一致させる制御が実行され、これにより第3の指令値としてvBAu*が生成される。
【0039】
以下、平均値制御、個別バランス制御およびアームバランス制御それぞれについて順に説明する。
【0040】
第1の制御である平均値制御の動作原理は、以下の通りである。図4は、本発明の第1の実施例によるモジュラーマルチレベルPWM変換器における直流コンデンサの平均値制御を示すブロック図である。平均値制御は各相独立に実行されるが、ここでu相について言えば、全ての直流コンデンサの電圧値vCj(ただし、j=1〜16)を平均して得られた値vCuaveは式5で表わされる。
【0041】
【数5】
【0042】
図4より、循環電流iZuの電流指令値iZu*は、K1およびK2をゲインとしたとき、式6で表わされる。
【0043】
【数6】
【0044】
このとき、平均値制御の電圧指令値VAu*は、K3をゲインとしたとき、式7で表わされる。
【0045】
【数7】
【0046】
平均値制御では、循環電流の実際の電流量iZuを指令値iZu*に追従させるための電流マイナーループを構成する。実際の循環電流iZuは式4より導出されるが、この循環電流iZuを電流マイナーループを介して制御することによって、交流電源電流iuに影響を与えることなく平均値制御を実現することができる。式6において、全ての直流コンデンサの電圧値vCju(ただし、j=1〜16)を平均して得られた値vCuaveが直流コンデンサ電圧指令値vC*よりも小さい場合(vCuave<vC*)、電流指令値iZu*は増加する。実際の循環電流iZuが電流指令値iZu*よりも減少した場合(iZu<iZu*)、各チョッパセル11−jの出力電圧vjuを、モジュラーマルチレベルPWM変換器1の直流入出力端子EPおよびEN間に印加される電圧(直流リンク電圧)Vdcに対して減少させ、循環電流iZuを増加させる。一方、実際の循環電流iZuが電流指令値iZu*よりも増加した場合(iZu>iZu*)、各チョッパセル11−jの出力電圧vjuを、モジュラーマルチレベルPWM変換器1の直流入出力端子EPおよびEN間に印加される電圧(直流リンク電圧)Vdcに対して増加させ、循環電流iZuを減少させる。以上、モジュラーマルチレベルPWM変換器における直流コンデンサの平均値制御のブロック図は、図4に示されるとおりである。
【0047】
第2の制御である個別バランス制御の動作原理は以下の通りである。図5は、本発明の第1の実施例によるモジュラーマルチレベルPWM変換器における直流コンデンサの個別バランス制御を示すブロック図である。上述のように、個別バランス制御は各相独立に実行されるが、ここでu相について言えば、コンデンサ電圧指令値vC*に、各直流コンデンサの電圧値vCjuをそれぞれ追従させる制御である。ここで、個別バランス制御のu相についての電圧指令値をvBIju*で表わす。
【0048】
各チョッパセル11−jの出力電圧vjuとアーム電流iPuおよびiNuとの間で有効電力を形成することで、各直流コンデンサの電圧値vCjuを直流コンデンサ電圧指令値vC*に追従させる。例えば、図1に示す第1のアーム2u−P内の各チョッパセル11−j(ただし、j=1〜8)において、直流コンデンサの電圧vCjuが直流コンデンサ電圧指令値v*Cuよりも小さい場合(vCju<v*Cu)、直流コンデンサの電圧値vCjuを増加させるために第1のアーム2u−P内の各チョッパセル11−j(ただし、j=1〜8)に正の有効電流を流入させる。このために、式8で示される個別バランス制御の電圧指令値vBIju*(ただし、j=1〜8)を用いる。ここで、K4をゲインとし、u相の交流電源電流の値をiuとする。
【0049】
【数8】
【0050】
同様に、図1に示す第2のアーム2u−N内の各チョッパセル11−j(ただし、j=9〜16)については、式9で示される個別バランス制御の電圧指令値vBIju*(ただし、j=9〜16)を用いる。
【0051】
【数9】
【0052】
以上、モジュラーマルチレベルPWM変換器における直流コンデンサの個別バランス制御のブロック図は、図5に示されるとおりである。個別バランス制御のu相の電圧指令値vBIju*は、交流電源電流iuと同相成分もしくは逆相成分より構成され、各アーム電流iPuおよびiNuの電源周波数成分と有効電力を形成する。
【0053】
第3の制御であるアームバランス制御の動作原理は以下の通りである。図6は、本発明の第1の実施例によるモジュラーマルチレベルPWM変換器における直流コンデンサのアームバランス制御を示すブロック図である。上述のように、アームバランス制御は各相独立に実行されるが、ここでu相について言えば、第1のアーム2u−P内の全ての直流コンデンサの電圧値vCju(ただし、j=1〜8)を平均して得られた値vCPuaveと、第2のアーム2u−N内の全ての直流コンデンサの電圧値vCju(ただし、j=9〜16)を平均して得られた値vCNuaveと、を一致させる制御である。ここで、アームバランス制御のu相についての電圧指令値をvBAu*で表わす。
【0054】
u相の第1のアーム2u−P内の全ての直流コンデンサの電圧値vCju(ただし、j=1〜8)を平均して得られた値vCPuaveは、式10で表わされる。
【0055】
【数10】
【0056】
また、u相の第2のアーム2u−N内の全ての直流コンデンサの電圧値vCju(ただし、j=9〜16)を平均して得られた値vCNuaveは、式11で表わされる。
【0057】
【数11】
【0058】
ここで、モジュラーマルチレベルPWM変換器1の交流側入出力端子における、u相についての相電圧vuを式12で表わすものとする。相電圧vuの振幅は√(2/3)Vとする。
【0059】
【数12】
【0060】
また、モジュラーマルチレベルPWM変換器1のu相についての交流電源電流iuを式13で表わすものとする。交流電源電流iuの振幅は√2Iとする。
【0061】
【数13】
【0062】
式12および式13との関係において、位相差φは、モジュラーマルチレベルPWM変換器1の交流側入出力端子に印加される交流電圧のu相の電圧vuとモジュラーマルチレベルPWM変換器1に交流側入出力端子を介して流出入するu相の交流電源電流iuとの位相差を表わす。
【0063】
図6に示すように、アームバランス制御では、位相差φが取り得る値によって、アームバランス制御により生成される電圧指令値の極性を決定する。上述のように、アームバランス制御は各相独立に実行されるが、ここでu相について言えば、位相差φが、第1のアーム2u−Pを流れる電流iPuと第2のアーム2u−Nを流れる電流iNuとの和の半分である循環電流iZuに関してモジュラーマルチレベルPWM変換器1について立てられた回路方程式においてラウス・フルビッツの安定判別法の安定性の要件を満たすよう、アームバランス制御のu相についての電圧指令値をvBAu*の極性を正もしくは負に決定する。すなわち、アームバランス制御のu相についての電圧指令値vBAu*は、位相差φの取り得る値によって、式14もしくは式15によって表わされる。なお、ラウス・フルビッツの安定判別法の安定性の要件を満たす位相差φの導出の詳細については後述する。
【0064】
【数14】
【0065】
【数15】
【0066】
以上、モジュラーマルチレベルPWM変換器における直流コンデンサのアームバランス制御のブロック図は、図6に示されるとおりである。個別バランス制御の場合と同様、アームバランス制御のu相の電圧指令値vBAu*は、アーム電流iPuおよびiNuの電源周波数成分と有効電力を形成する。
【0067】
このように、モジュラーマルチレベルPWM変換器1における各チョッパセル11−j内の直流コンデンサの電圧vCjuは、上記平均値制御、上記個別バランス制御および上記アームバランス制御により制御される。各チョッパセル11−j内の半導体スイッチSW1およびSW2のスイッチング信号を生成するのに用いられる出力電圧指令値の生成について説明する。図7は、本発明の第1の実施例によるモジュラーマルチレベルPWM変換器における各チョッパセルについての出力電圧指令値の生成を示すブロック図である。
【0068】
各相ごとに上記平均値制御、上記個別バランス制御および上記アームバランス制御のそれぞれによって生成された各電圧指令値を含む電圧指令値に基づいて、モジュラーマルチレベルPWM変換器1内の各チョッパセル11−j内の半導体スイッチSW1およびSW2のスイッチング動作が制御される。u相について言えば、各チョッパセル11−jの出力電圧指令値vju*は、第1のアーム2u−P内のチョッパセル11−j(ただし、j=1〜8)については式16および図7(a)、第1のアーム2u−N内のチョッパセル11−j(ただし、j=9〜16)については式17および図7(b)で表わされる。ここで、vu*はモジュラーマルチレベルPWM変換器のu相の交流側入出力端子に印加される交流の相電圧指令値である。出力電圧指令値vju*の生成にあたっては、モジュラーマルチレベルPWM変換器1の直流入出力端子EPおよびEN間に印加される電圧(直流リンク電圧)の値Vdcをフィードフォワード項として利用する。
【0069】
【数16】
【0070】
【数17】
【0071】
u相について言えば、上述のようにして生成される出力電圧指令値vju*は、各直流コンデンサの電圧vCjuで規格化された後、キャリア周波数fcの三角波キャリア信号(最大値:1、最小値:0)と比較され、PWMのスイッチング信号が生成される。生成されたスイッチング信号は、対応するチョッパセル11−j内の半導体スイッチSW1およびSW2のスイッチングに用いられる。なお、各チョッパセル11−jのスイッチング周波数fsはキャリア周波数fcと等しい。本実施例では、チョッパセルの個数は16個であるので、各チョッパセル11−jに対応するキャリア信号の初期位相は22.5度ずつずらす。すなわち、初期位相は、チョッパセル11−1については0度、チョッパセル11−2については45度、チョッパセル11−3については90度、チョッパセル11−4については135度、チョッパセル11−5については180度、チョッパセル11−6については225度、チョッパセル11−7については270度、チョッパセル11−8については315度、チョッパセル11−9については22.5度、チョッパセル11−2については67.5度、チョッパセル11−3については112.5度、チョッパセル11−4については157.5度、チョッパセル11−5については202.5度、チョッパセル11−6については247.5度、チョッパセル11−7については292.5度、チョッパセル11−8については337.5度とする。また、各相のキャリア信号の初期位相については、120度ずつずらす。これにより、モジュラーマルチレベルPWM変換器1の交流出力電圧の線間電圧は33レベルのPWM交流波形となり、等価スイッチング周波数は16fcとなる。
【0072】
上述のチョッパセル内のスイッチSW1およびSW2のためのスイッチング信号の生成は、例えばDSPやFPGAなどの演算処理装置を用いて実現される。
【0073】
次に、ラウス・フルビッツの安定判別法の安定性の要件を満たす位相差φの導出について説明する。図6に示すように、アームバランス制御では、位相差φが取り得る値によって、アームバランス制御により生成される電圧指令値の極性を決定する。
【0074】
まず、図2および3に示すモジュラーマルチレベルPWM変換器1のu相についての回路において、瞬時電力の関係から式18および式19が成り立つ。ここで、チョッパセル11−1の出力電圧をv1u、チョッパセル11−1の直流コンデンサ電圧の電圧をvC1u、チョッパセル11−9の出力電圧をv9u、チョッパセル11−9の直流コンデンサ電圧の電圧をvC9u、直流コンデンサの容量をC、直流コンデンサ電圧の直流成分をVcとする。
【0075】
【数18】
【0076】
【数19】
【0077】
一方、式16および式17において、チョッパセル11−1および11−9に着目すると、直流コンデンサ電圧の制御項である右辺第1項「VAu*」および第2項「vBI1u*」もしくは「vBI9u*」は、右辺第4項「−vu*/8」もしくは「vu*/8」および第5項「Vdc/16」に比べて十分小さい(例えば1%程度の大きさ)ので無視でき、「VAu*≒0」、「BI1u*≒0」および「vBI9u*≒0」のように近似することができる。したがって、チョッパセル11−1の出力電圧をv1、チョッパセル11−9の出力電圧をv9はそれぞれ式20および式21のように近似することができる。ここで、チョッパセル11−1の出力電圧指令値をv1u*、チョッパセル11−9の出力電圧指令値をv9u*とする。
【0078】
【数20】
【0079】
【数21】
【0080】
式2および式20を式18に代入すると式22が得られ、式3および式21を式19に代入すると式23が得られる。
【0081】
【数22】
【0082】
【数23】
【0083】
チョッパセル11−2〜11−8の直流コンデンサ電圧の電圧をvC2u〜vC8uは、式22と同様に表わすことができ、チョッパセル11−9〜11−16の直流コンデンサ電圧の電圧をvC9u〜vC16uは、式23と同様に表わすことができるので、式22および式23は、それぞれ式24および式25のように変形することができる。
【0084】
【数24】
【0085】
【数25】
【0086】
式24および式25について、辺々を足し算すると式26が得られる。
【0087】
【数26】
【0088】
式24および式25について、辺々を引き算すると式27が得られる。
【0089】
【数27】
【0090】
一方、図2において、結合リアクトル12は循環電流iZuに対してのみインダクタンスlを有するため、式28で表わされる回路方程式が成り立つ。
【0091】
【数28】
【0092】
ここで、アームバランス制御を適用しないものと仮定(すなわち、アームバランス制御により生成される電圧指令値vBAu*を無視)して、式16および式17を、式28に代入すると、式29が得られる。ここで、電圧指令値vAu*に基づく平均値制御により出力された電圧に相当する値をvAuとし、電圧指令値vBIju*に基づく個別バランス制御により出力された電圧に相当する値をvBIjuとする。これら各電圧指令値は、各制御により出力された電圧に相当する値に一致しているものと仮定する。すなわち、「vAu=vAu*」、および「vBIju=vBIju*」とする。
【0093】
【数29】
【0094】
図4より、電圧指令値vAu*に基づく平均値制御により出力された電圧に相当する値vAuは、式30で表わすことができる。
【0095】
【数30】
【0096】
一方、式8および式9より、式31が成り立つ。
【0097】
【数31】
【0098】
式26〜式31より、iZuに関する微分方程式を求めると式32のようになる。
【0099】
【数32】
【0100】
本発明の第1の実施例では、ラウス・フルビッツの安定判別法を循環電流iZuに着目して適用するので、式32においては、循環電流iZuを含まない項については、安定性解析の計算には必要ないので無視することができる。そこで、式32において、循環電流iZuを含まない項を消去し、循環電流iZuを含む項のみを残すと、式33が得られる。
【0101】
【数33】
【0102】
一般に、ラウス・フルビッツの安定判別法は線形方程式でなければ適用することができない。しかしながら、式33は未だ線形化されていないので、次の2つの仮定を導入する。
【0103】
まず、第1の仮定として、u相の交流電源電流iuは基本周波数成分のみの正弦波とする。したがって、ωを角周波数として「d2iu/dt2=−ω2iu」が成り立つ。
【0104】
そして、第2の仮定として、ラウス・フルビッツの安定判別法では「直流分の安定性」を解析するので、安定性に寄与する直流分のみを考慮する。vu*iuおよびvu*diu/dtは、直流分および交流分によりそれぞれ構成されるが、それぞれ直流分「(vu*iu)dc」および「(vu*diu/dt)dc」のみを考慮する。これら2つの仮定により、式33は、式34のように変形できる。
【0105】
【数34】
【0106】
式12および式13より、「(vu*iu)dc」は、式35のように変形できる。
【0107】
【数35】
【0108】
また、式12および式13より、「(vu*diu/dt)dc」は、式36のように変形できる。
【0109】
【数36】
【0110】
式35および式36を式34に代入し、「Vdc=8VC」の関係式を適用すると、式37が得られる。
【0111】
【数37】
【0112】
ただし、式37においてTI、TV1、TV2およびTBは式38でそれぞれ表わされる。
【0113】
【数38】
【0114】
式38において、TIは電流マイナーループの応答時定数、TV1およびTV2は電圧メジャーループの応答時定数、TBは個別バランス制御の応答時定数に相当する。
【0115】
以上のようにして求められた式37に、ラウス・フルビッツの安定判別法を適用すると次の通りである。式37を式39のように置き換えると、式39における各係数は式40で与えられる。
【0116】
【数39】
【0117】
【数40】
【0118】
このとき、式40において、安定性に寄与するラウス数列は式41で与えられる。
【0119】
【数41】
【0120】
式40における全ての係数および式41で定義されるラウス数列b1、c1、およびd1が正となるとき、循環電流iZuは安定となる。
【0121】
ここで、式40および式41において、式42で表わされる近似式を導入する。なお、式42で表わされる近似式は一例であってその他の近似式を導入してもよい。
【0122】
【数42】
【0123】
このとき、a0、a1、a2、a3、a4、a5、b1およびb2は、常に正となる。一方、式41および式42からc1およびd1がともに正となる要件を求めると、式43が得られる。
【0124】
【数43】
【0125】
ここで、式43におけるαは式44で与えられる。
【0126】
【数44】
【0127】
したがって、式43で表わされる要件を満足する位相差φにおいてのみ、循環電流iZuは安定となる。逆に言えば、式45で表わされる要件を満たす位相差φにおいては、循環電流iZuは不安定となる。
【0128】
【数45】
【0129】
ここで、上述のように、式16および式17を式28に代入して式29を得る際、「アームバランス制御を適用しない」と仮定(すなわち、アームバランス制御により生成される電圧指令値vBAu*を無視)した。つまり、式43で表わされる要件を満足するような位相差φでモジュラーマルチレベルPWM変換器1を運転すれば、アームバランス制御を適用しなくても、直流コンデンサの電圧を安定に維持する制御が可能であることがわかる。したがって、本発明の第1の実施例の変形例として、アームバランス制御を実行するかしないかを切り替える切替手段を、DSP10内に設けてもよい。位相差φが式43で表わされる要件を満足するような用途でモジュラーマルチレベルPWM変換器1を用いる場合、例えばモジュラーマルチレベルPWM変換器1を誘導電動機のためのモータドライブ装置として用いる場合は、アームバランス制御を適用しなくても、直流コンデンサの電圧を安定に維持する制御が可能である。
【0130】
一方、上述のように、式16および式17を式28に代入して式29を得る際、式14で示される電圧指令値vBAu*が生成されるアームバランス制御も考慮した場合は、式29は、式46のように変形できる。
【0131】
【数46】
【0132】
ここで、式47および式48が成り立つ。
【0133】
【数47】
【0134】
【数48】
【0135】
式47および式48から、式49が得られる。
【0136】
【数49】
【0137】
式49から、式14で示される電圧指令値vBAu*が生成されるアームバランス制御をも考慮する場合には、式31〜式34および式38における「K4」を「K4+2K5」に置き換えればよいことが分かる。ただし、安定性の要件である式43〜式45には「K4」が含まれないので、式14で示される電圧指令値vBAu*が生成されるアームバランス制御を適用しても、安定性の要件には変化はない。このことから、式14で示される電圧指令値vBAu*が生成されるアームバランス制御を適用した場合、式43で表わされる要件を満足するような位相差φでモジュラーマルチレベルPWM変換器1を運転すれば、直流コンデンサの電圧を安定に維持する制御が可能であることがわかる。
【0138】
式16および式17を式28に代入して式29を得る際、式15で示される電圧指令値vBAu*が生成されるアームバランス制御も考慮した場合は、式29は、上記の場合と同様、式46のように変形できる。
【0139】
ここで、式50が成り立つ。
【0140】
【数50】
【0141】
式47および式50から、式51が得られる。
【0142】
【数51】
【0143】
式51から、式15で示される電圧指令値vBAu*が生成されるアームバランス制御をも考慮する場合には、式31〜式34における「K4」を「K4−2K5」に置き換えればよいことが分かる。これにより、式14で示される電圧指令値vBAu*が生成されるアームバランス制御において得られた式37は、式15で示される電圧指令値vBAu*が生成されるアームバランス制御においては、式52のようになる。
【0144】
【数52】
【0145】
式52において、TI、TV1、TV2は、式38で表わされるものと同様のものとなるが、TBについては式53で表わされる。
【0146】
【数53】
【0147】
ここで、式53において、当然のことながらTBは虚数ではなく実数でなければならないので、式54を満たす必要がある。
【0148】
【数54】
【0149】
以上のようにして求められた式52に、式37の場合と同様に、ラウス・フルビッツの安定判別法を適用すると、式45で表わされる要件を満足する位相差φにおいてのみ、循環電流iZuは安定となる。逆に言えば、式43で表わされる要件を満たす位相差φにおいては、循環電流iZuは不安定となる。
【0150】
以上まとめると、式14で示される電圧指令値vBAu*が生成されるアームバランス制御を適用する場合には、モジュラーマルチレベルPWM変換器1の交流側入出力端子に印加される交流電圧のu相の電圧vuとモジュラーマルチレベルPWM変換器1に交流側入出力端子を介して流出入するu相の交流電源電流iuとの位相差φが、式43で表わされる要件を満足すれば、直流コンデンサの電圧を安定に維持する制御が可能である。一方、位相差φが、式45で表わされる要件を満足すると直流コンデンサの電圧を安定に維持する制御は不可能である。
【0151】
また、式15で示される電圧指令値vBAu*が生成されるアームバランス制御を適用する場合には、位相差φが、式45で表わされる要件を満足するとともに、式54で表わされる要件を満足すれば、直流コンデンサの電圧を安定に維持する制御が可能である。一方、位相差φが、式43で表わされる要件を満足すると直流コンデンサの電圧を安定に維持する制御は不可能である。
【0152】
図8は、本発明の第1の実施例によるモジュラーマルチレベルPWM変換器の制御で用いられる式14および式15と、モジュラーマルチレベルPWM変換器の交流側入出力端子に印加される交流電圧とモジュラーマルチレベルPWM変換器に交流側入出力端子を介して流出入する交流電源電流との位相差と、の関係を示す図である。式44で表わされるαは、各制御ゲインK1〜K5や各種回路定数により変化する。図8において、モジュラーマルチレベルPWM変換器1が逆変換器として動作するとき(φ=π)もしくはコンデンサとして動作するとき(φ=3π/2)は、式14で示される電圧指令値vBAu*が生成されるアームバランス制御を適用し、モジュラーマルチレベルPWM変換器1が順変換器として動作するとき(φ=0)もしくはインダクタとして動作するとき(φ=π/2)は、式15で示される電圧指令値vBAu*が生成されるアームバランス制御を適用する。
【0153】
以上説明したように、本発明の第1の実施例では、図6に示すように、アームバランス制御では、位相差φが取り得る値によって、アームバランス制御により生成される電圧指令値の極性を決定する。つまり、式14で示される電圧指令値vBAu*が生成されるアームバランス制御を適用した場合と、式15で示される電圧指令値vBAu*が生成されるアームバランス制御を適用した場合と、では安定性の要件が反対になる。
【0154】
上述のアームバランス制御によって生成された電圧指令値とともに、平均値制御および個別バランス制御によって生成された各電圧指令値を用いて、モジュラーマルチレベルPWM変換器1内の各チョッパセル11−j内の半導体スイッチSW1およびSW2のスイッチング動作が制御される。図7は、本発明の第1の実施例によるモジュラーマルチレベルPWM変換器における各チョッパセルについての出力電圧指令値の生成を示すブロック図であるが、u相について言えば、各チョッパセル11−jの出力電圧指令値vju*は、第1のアーム2u−P内のチョッパセル11−j(ただし、j=1〜8)については式16および図7(a)、第1のアーム2u−N内のチョッパセル11−j(ただし、j=9〜16)については式17および図7(b)で表わされる。生成される出力電圧指令値vju*は、各直流コンデンサの電圧vCjuで規格化された後、キャリア周波数fcの三角波キャリア信号(最大値:1、最小値:0)と比較され、PWMのスイッチング信号が生成される。生成されたスイッチング信号は、対応するチョッパセル11−j内の半導体スイッチSW1およびSW2のスイッチングに用いられる。本発明の第1の実施例によるモジュラーマルチレベルPWM変換器1は、16個のチョッパセルを用いるので、相電圧が17レベル、線間電圧が33レベルのPWM波形となる。このスイッチング信号の生成は、例えばDSPやFPGAなどの演算処理装置を用いて実現される。
【0155】
次に、本発明の第1の実施例によるモジュラーマルチレベルPWM変換器1のシミュレーション結果について説明する。各シミュレーションには、表1に示す回路パラメータおよび表2に示す制御ゲインを用いた。表1において、カッコ内の値は基準容量1MW、基準電圧6.6kV、周波数50Hzを基準にしたときの単位法(パーセント法)で表わした値である。
【0156】
【表1】
【0157】
【表2】
【0158】
表1に示す回路パラメータと表2に示す制御ゲインとを式38に代入すると、TI=0.26ms、TV1=5.3ms、TV2=100ms、TB=3.9msとなる。これらの値は、式42で表わされた近似式を満たすものであるといえる。
【0159】
直流リンク電圧Vdcを12.0kV、各チョッパセルのキャリア周波数fcを1350Hz、各チョッパセルの直流電圧VCを1.5kV(=12.kV/8)とした。この場合、実機で言えばスイッチング素子として3.3kVのIGBTを使用することができる。シミュレーションは、理想状態で行うものとし、すなわち、制御遅延がゼロであるアナログ制御系を仮定し、デッドタイムがゼロであってもスイッチング動作が可能な理想スイッチを使用する。
【0160】
図9は、本発明の第1の実施例によるモジュラーマルチレベルPWM変換器を、順変換器として動作させたときの定常特性についてのシミュレーション波形を示す図である。本シミュレーションでは、モジュラーマルチレベルPWM変換器1を、有効電力が1MW、無効電力が0MVA、モジュラーマルチレベルPWM変換器1の交流側入出力端子に印加される交流電圧のu相の電圧vuとモジュラーマルチレベルPWM変換器1に交流側入出力端子を介して流出入するu相の交流電源電流iuとの位相差φが0である順変換器として動作させた。上述の通り、モジュラーマルチレベルPWM変換器1が順変換器として動作するとき(φ=0)は、式15で示される電圧指令値vBAu*が生成されるアームバランス制御を適用する。
【0161】
図9に示すように、v−w相間の線間電圧vvwは、29レベルの電圧波形となっており、高調波電圧やコモンモード電圧の低減が実現できていることが分かる。また、キャリア周波数を1350Hzに設定したので、モジュラーマルチレベルPWM変換器1の等価スイッチング周波数は22kHz(≒1350Hz×16)となる。したがって、モジュラーマルチレベルPWM変換器1の制御性向上が期待できる。
【0162】
また、図9に示すように、u相の交流電源電流iuについて注目すると、v−w相間の線間電圧vvwに含まれる高調波電圧が少ないので、正弦波状とみなせる。第1および第2のアーム電流iPuおよびiNuには、基本波成分の他に11kHz(≒1350Hz×8)のスイッチングリプル成分、および、バランス制御に起因する2次成分が重畳する。スイッチングリプル成分は、v−w相間の線間電圧vvwに含まれる高調波電圧が少ないので、3%の結合リアクトルで十分低減可能である。2次成分は、第1および第2のアーム電流iPuおよびiNu間で同相となるため、交流電源電流iuには現れない。
【0163】
循環電流iZuは、−28A(=−1MW/(3×12kV))の直流分電流、ならびに、上述のスイッチングリプル成分および2次成分より構成される。スイッチングリプル成分は、結合リアクトルのインダクタンス値を増加させることで低減でき、2次成分はバランス制御の制御ゲインK4およびK5を減少、もしくは電流マイナーループの制御ゲインK3を増加させることで低減することができる。
【0164】
u相のチョッパセル11−1の直流コンデンサ電圧vC1uに着目すると、その直流分は直流コンデンサ電圧指令値1.5kVに良好に追従している。一方、その交流分は、主成分である基本波成分(50Hz)と2次成分(100Hz)により構成される。交流分の振幅は交流電源電流の実効値Iに比例し、直流コンデンサの静電容量Cに反比例する。
【0165】
図10は、本発明の第1の実施例によるモジュラーマルチレベルPWM変換器の制御において、アームバランス制御を実行から停止へ切り替えたときの過渡特性についてのシミュレーション波形を示す図であって、(a)は、モジュラーマルチレベルPWM変換器を順変換器として動作させたときにおいて当該切替えを行った場合を示し、(b)は、モジュラーマルチレベルPWM変換器をコンデンサとして動作させたときにおいて当該切替えを行った場合を示す図である。
【0166】
図10(a)には、モジュラーマルチレベルPWM変換器1が、有効電力が1MW、無効電力が0MVA、位相差φが0である順変換器動作時にあるときに、時刻t=t1までは式15で示される電圧指令値vBAu*が生成されるアームバランス制御を実行(K5≠0)し、時刻t=t1以降は停止(K5=0)させた場合の過渡特性が示されている。時刻t=t1以降は、チョッパセル11−1の直流コンデンサ電圧vC1uおよびチョッパセル11−9の直流コンデンサ電圧vC9uの電圧の偏差が拡大するのがわかる。これは、アームバランス制御を時刻t=t1で停止させたとこにより循環電流iZuが不安定になったことに起因するものである。
【0167】
図10(b)には、モジュラーマルチレベルPWM変換器1が、有効電力が0MW、無効電力が1MVA、位相差φが3π/2であるコンデンサ動作時にあるときに、時刻t=t1までは式14で示される電圧指令値vBAu*が生成されるアームバランス制御を実行(K5≠0)し、時刻t=t1以降は停止(K5=0)させた場合の過渡特性が示されている。時刻t=t1以降であっても、チョッパセル11−1の直流コンデンサ電圧vC1uおよびチョッパセル11−9の直流コンデンサ電圧vC9uの電圧の偏差は拡大していない。つまり、このことは、コンデンサ動作時(φ=3π/2)においてはアームバランス制御を実行しなくても(すなわち省略しても)問題ないことを示している。
【0168】
図11は、本発明の第1の実施例によるモジュラーマルチレベルPWM変換器の制御において、アームバランス制御に用いられる定義式を式14と式15との間で切り替えたときの過渡特性についてのシミュレーション波形を示す図であって、(a)は、モジュラーマルチレベルPWM変換器を順変換器として動作させたときにおいて当該切替えを行った場合を示し、(b)は、モジュラーマルチレベルPWM変換器をコンデンサとして動作させたときにおいて当該切替えを行った場合を示す図である。
【0169】
図11(a)には、モジュラーマルチレベルPWM変換器1が、有効電力が1MW、無効電力が0MVA、位相差φが0である順変換器動作時にあるときに、時刻t=t2までは式15で示される電圧指令値vBAu*が生成されるアームバランス制御を実行し、時刻t=t2以降は式14で示される電圧指令値vBAu*が生成されるアームバランス制御を実行した場合の過渡特性が示されている。時刻t=t2以降は、チョッパセル11−1の直流コンデンサ電圧vC1uおよびチョッパセル11−9の直流コンデンサ電圧vC9uの電圧の偏差が拡大するのがわかる。
【0170】
一方、図11(b)には、モジュラーマルチレベルPWM変換器1が、有効電力が0MW、無効電力が1MVA、位相差φが3π/2であるコンデンサ動作時にあるときに、時刻t=t2までは式14で示される電圧指令値vBAu*が生成されるアームバランス制御を実行し、時刻t=t2以降は式15で示される電圧指令値vBAu*が生成されるアームバランス制御を実行した場合の過渡特性が示されている。時刻t=t2以降は、チョッパセル11−1の直流コンデンサ電圧vC1uおよびチョッパセル11−9の直流コンデンサ電圧vC9uの電圧の偏差が拡大するのがわかる。
【0171】
図11(a)および(b)に示すシミュレーション結果から、図8に示す通り、モジュラーマルチレベルPWM変換器1の交流側入出力端子に印加される交流電圧のu相の電圧vuとモジュラーマルチレベルPWM変換器1に交流側入出力端子を介して流出入するu相の交流電源電流iuとの位相差φの値に応じて、アームバランス制御に用いるべき定義式を式14もしくは式15のいずれかに適切に選択する必要があることが明確に示された。
【0172】
図12は、本発明の第1の実施例によるモジュラーマルチレベルPWM変換器の制御において、アームバランス制御に用いられる制御ゲインを切り替えたときの過渡特性についてのシミュレーション波形を示す図である。モジュラーマルチレベルPWM変換器1が、有効電力が1MW、無効電力が0MVA、位相差φが0である順変換器動作時にあるとき、時刻t=t3までは式15で示される電圧指令値vBAu*が生成されるアームバランス制御の制御ゲインを「K5=K4/2」として実行し、時刻t=t3以降は制御ゲインを式54を満足する「K5=K4」として実行した場合の過渡特性が示されている。上述のように、式15で示される電圧指令値vBAu*が生成されるアームバランス制御を適用する場合には、位相差φが、式45で表わされる要件を満足するとともに、式54で表わされる要件を満足すれば、直流コンデンサの電圧を安定に維持する制御が可能である。時刻t=t3以前は制御ゲインを式54を満足しない「K5=K4/2」として実行したので、チョッパセル11−1の直流コンデンサ電圧vC1uおよびチョッパセル11−9の直流コンデンサ電圧vC9uの電圧の偏差が存在してが、時刻t=t3以降は制御ゲインを式54を満足する「K5=K4」として実行したので電圧の偏差が収束している。
【0173】
上述の各シミュレーション結果により、本発明の第1の実施例によるモジュラーマルチレベルPWM変換器の制御の有効性が明確に示されたといえる。
【0174】
上述の第1の実施例は3端子結合リアクトルを用いたものであるが、図17および18を参照して説明した非結合リアクトルを用いたモジュラーマルチレベルPWM変換器を用いても、第1の実施例によるモジュラーマルチレベルPWM変換器の制御原理を適用することができ、本明細書ではこれを第2の実施例として扱う。図13は、本発明の第2の実施例によるモジュラーマルチレベルPWM変換器を示す回路図である。すなわち、本発明の第2の実施例は、図1における3端子結合リアクトル12を、図13では非結合リアクトル12−1および12−2に置き換えたものである。モジュラーマルチレベルPWM変換器1の交流側入出力端子は、第1の実施例の場合は3端子結合リアクトル12の第3の端子であったが、第2の実施例では、u相の場合、第1のアーム2u−Pと第2のアーム2u−Nとの接続端子である。これ以外の回路構成要素とこのモジュラーマルチレベルPWM変換器1の制御原理については図1〜8を参照して説明した第1の実施例と同様である。
【産業上の利用可能性】
【0175】
本発明は、モジュラーマルチレベルPWM変換器の制御に適用することができる。本制御を適用したモジュラーマルチレベルPWM変換器は、順変換器動作もしくは逆変換器動作、あるいはコンデンサ動作もしくはインダクタ動作のいずれの動作モードにおいても、直流コンデンサの電圧を安定に維持しつつ制御することができる。したがって、モジュラーマルチレベルPWM変換器を、例えば正相・逆相無効電力補償装置(STATCOM)、誘導電動機のためのモータドライブ装置、太陽光発電や燃料電池などを電力系統に連系するためのインバータ、系統間連系設備や周波数変換設備などのBTB(Back−To−Back)システムなどに利用することができる。
【符号の説明】
【0176】
1 モジュラーマルチレベルPWM変換器
2u−P、2v−P、2w−P 第1のアーム
2u−N、2v−N、2w−N 第2のアーム
10 DSP
11−1、11−2、11−3、11−4 チョッパセル
11−5、11−6、11−7、11−8 チョッパセル
11−9、11−10、11−11、11−12 チョッパセル
11−13、11−14、11−15、11−16 チョッパセル
12 3端子結合リアクトル
12−1、12−2 非結合リアクトル
C 直流コンデンサ
D 帰還ダイオード
EP、EN 直流入出力端子
S 半導体スイッチング素子
SW1、SW2 半導体スイッチ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
直列接続された2つの半導体スイッチと前記2つの半導体スイッチに並列接続された直流コンデンサとからなり前記2つの半導体スイッチのうちの一方の半導体スイッチの各端子を出力端とするチョッパセルを、それぞれが備える第1および第2のアームであって、各前記第1および第2のアームにおいてそれぞれ同数の前記チョッパセルが、当該チョッパセルが有する前記出力端を介してそれぞれカスケード接続された第1および第2のアームと、
前記第1のアームの一端が接続される第1の端子と、前記第2のアームの一端が接続される第2の端子と、前記第1の端子と前記第2の端子との間の巻線上に位置し、交流側入出力端子として動作する第3の端子と、を有する3端子結合リアクトルと、
を備え、前記第1および第2のアームの、前記3端子結合リアクトルが接続されない側の各端子が直流側入出力端子として動作する電力変換器であって、
所定のコンデンサ電圧指令値に、全ての前記直流コンデンサの電圧値を平均して得られた値を追従させる制御を実行する第1の制御手段と、
前記コンデンサ電圧指令値に、各前記直流コンデンサの電圧値をそれぞれ追従させる制御を実行する第2の制御手段と、
前記第1のアーム内の全ての前記直流コンデンサの電圧値を平均して得られた値と、前記第2のアーム内の全ての前記直流コンデンサの電圧値を平均して得られた値と、を一致させる制御を実行する第3の制御手段と、
を備えることを特徴とする電力変換器。
【請求項2】
直列接続された2つの半導体スイッチと前記2つの半導体スイッチに並列接続された直流コンデンサとからなり前記2つの半導体スイッチのうちの一方の半導体スイッチの各端子を出力端とするチョッパセルおよびリアクトルを、それぞれが備える第1および第2のアームであって、各前記第1および第2のアームにおいてそれぞれ同数の前記チョッパセルが、当該チョッパセルが有する前記出力端を介してカスケード接続されるとともに、前記リアクトルが、互いにカスケード接続された前記チョッパセル間の任意の位置に接続された第1および第2のアーム、を備え、前記第1および第2のアームの、互いが接続されない側の各端子が直流側入出力端子として動作し、前記第1のアームと前記第2のアームとの接続端子が交流側入出力端子として動作する電力変換器であって、
所定のコンデンサ電圧指令値に、全ての前記直流コンデンサの電圧値を平均して得られた値を追従させる制御を実行する第1の制御手段と、
前記コンデンサ電圧指令値に、各前記直流コンデンサの電圧値をそれぞれ追従させる制御を実行する第2の制御手段と、
前記第1のアーム内の全ての前記直流コンデンサの電圧値を平均して得られた値と、前記第2のアーム内の全ての前記直流コンデンサの電圧値を平均して得られた値と、を一致させる制御を実行する第3の制御手段と、
を備えることを特徴とする電力変換器。
【請求項3】
前記第3の制御手段は、
前記第1のアーム内の全ての前記直流コンデンサの電圧値を平均して得られた値と前記第2のアーム内の全ての前記直流コンデンサの電圧値を平均して得られた値との偏差と、前記電力変換器に前記交流側入出力端子を介して流出入する交流電流の値と、を乗算することで得られた値を用いて生成される、前記半導体スイッチのスイッチング動作を制御するための第3の指令値を生成する生成手段を有する請求項1または2に記載の電力変換器。
【請求項4】
前記第1の制御手段は、
前記直流コンデンサ電圧指令値と前記全ての直流コンデンサの電圧を平均して得られた値とを用いて生成された電流指令値に、前記第1のアームを流れる電流と前記第2のアームを流れる電流との和の半分である循環電流の値が追従するよう、前記半導体スイッチのスイッチング動作を制御するための第1の指令値を生成する生成手段を有する請求項3に記載の電力変換器。
【請求項5】
前記第2の制御手段は、
前記直流コンデンサ電圧指令値と各前記直流コンデンサの電圧値との偏差と、前記電力変換器に前記交流側入出力端子を介して流出入する交流電流の値と、を乗算することで得られた値を用いて生成される、前記半導体スイッチのスイッチング動作を制御するための第2の指令値を生成する生成手段を有する請求項4に記載の電力変換器。
【請求項6】
前記第1の指令値と前記第2の指令値と前記第3の指令値とを含む指令値を用いて、前記半導体スイッチのスイッチング動作を制御するスイッチング制御手段を備える請求項5に記載の電力変換器。
【請求項7】
前記第3の制御手段は、
前記電力変換器の前記交流側入出力端子に印加される交流電圧の相電圧と前記電力変換器に前記交流側入出力端子を介して流出入する交流電流との位相差が、前記第1のアームを流れる電流と前記第2のアームを流れる電流との和の半分である循環電流に関して前記電力変換器について立てられた回路方程式においてラウス・フルビッツの安定判別法の安定性の要件を満たすよう、前記第3の指令値の極性を正もしくは負に決定する極性反転手段を有する請求項3に記載の電力変換器。
【請求項8】
前記第3の制御手段の制御を実行するかあるいは実行しないかを切り替える切替え手段をさらに備える請求項1または2に記載の電力変換器。
【請求項9】
各前記半導体スイッチは、
オン時に一方向に電流を通す半導体スイッチング素子と、
該半導体スイッチング素子に逆並列に接続された帰還ダイオードと、
を有する請求項1〜8のいずれか一項に記載の電力変換器。
【請求項1】
直列接続された2つの半導体スイッチと前記2つの半導体スイッチに並列接続された直流コンデンサとからなり前記2つの半導体スイッチのうちの一方の半導体スイッチの各端子を出力端とするチョッパセルを、それぞれが備える第1および第2のアームであって、各前記第1および第2のアームにおいてそれぞれ同数の前記チョッパセルが、当該チョッパセルが有する前記出力端を介してそれぞれカスケード接続された第1および第2のアームと、
前記第1のアームの一端が接続される第1の端子と、前記第2のアームの一端が接続される第2の端子と、前記第1の端子と前記第2の端子との間の巻線上に位置し、交流側入出力端子として動作する第3の端子と、を有する3端子結合リアクトルと、
を備え、前記第1および第2のアームの、前記3端子結合リアクトルが接続されない側の各端子が直流側入出力端子として動作する電力変換器であって、
所定のコンデンサ電圧指令値に、全ての前記直流コンデンサの電圧値を平均して得られた値を追従させる制御を実行する第1の制御手段と、
前記コンデンサ電圧指令値に、各前記直流コンデンサの電圧値をそれぞれ追従させる制御を実行する第2の制御手段と、
前記第1のアーム内の全ての前記直流コンデンサの電圧値を平均して得られた値と、前記第2のアーム内の全ての前記直流コンデンサの電圧値を平均して得られた値と、を一致させる制御を実行する第3の制御手段と、
を備えることを特徴とする電力変換器。
【請求項2】
直列接続された2つの半導体スイッチと前記2つの半導体スイッチに並列接続された直流コンデンサとからなり前記2つの半導体スイッチのうちの一方の半導体スイッチの各端子を出力端とするチョッパセルおよびリアクトルを、それぞれが備える第1および第2のアームであって、各前記第1および第2のアームにおいてそれぞれ同数の前記チョッパセルが、当該チョッパセルが有する前記出力端を介してカスケード接続されるとともに、前記リアクトルが、互いにカスケード接続された前記チョッパセル間の任意の位置に接続された第1および第2のアーム、を備え、前記第1および第2のアームの、互いが接続されない側の各端子が直流側入出力端子として動作し、前記第1のアームと前記第2のアームとの接続端子が交流側入出力端子として動作する電力変換器であって、
所定のコンデンサ電圧指令値に、全ての前記直流コンデンサの電圧値を平均して得られた値を追従させる制御を実行する第1の制御手段と、
前記コンデンサ電圧指令値に、各前記直流コンデンサの電圧値をそれぞれ追従させる制御を実行する第2の制御手段と、
前記第1のアーム内の全ての前記直流コンデンサの電圧値を平均して得られた値と、前記第2のアーム内の全ての前記直流コンデンサの電圧値を平均して得られた値と、を一致させる制御を実行する第3の制御手段と、
を備えることを特徴とする電力変換器。
【請求項3】
前記第3の制御手段は、
前記第1のアーム内の全ての前記直流コンデンサの電圧値を平均して得られた値と前記第2のアーム内の全ての前記直流コンデンサの電圧値を平均して得られた値との偏差と、前記電力変換器に前記交流側入出力端子を介して流出入する交流電流の値と、を乗算することで得られた値を用いて生成される、前記半導体スイッチのスイッチング動作を制御するための第3の指令値を生成する生成手段を有する請求項1または2に記載の電力変換器。
【請求項4】
前記第1の制御手段は、
前記直流コンデンサ電圧指令値と前記全ての直流コンデンサの電圧を平均して得られた値とを用いて生成された電流指令値に、前記第1のアームを流れる電流と前記第2のアームを流れる電流との和の半分である循環電流の値が追従するよう、前記半導体スイッチのスイッチング動作を制御するための第1の指令値を生成する生成手段を有する請求項3に記載の電力変換器。
【請求項5】
前記第2の制御手段は、
前記直流コンデンサ電圧指令値と各前記直流コンデンサの電圧値との偏差と、前記電力変換器に前記交流側入出力端子を介して流出入する交流電流の値と、を乗算することで得られた値を用いて生成される、前記半導体スイッチのスイッチング動作を制御するための第2の指令値を生成する生成手段を有する請求項4に記載の電力変換器。
【請求項6】
前記第1の指令値と前記第2の指令値と前記第3の指令値とを含む指令値を用いて、前記半導体スイッチのスイッチング動作を制御するスイッチング制御手段を備える請求項5に記載の電力変換器。
【請求項7】
前記第3の制御手段は、
前記電力変換器の前記交流側入出力端子に印加される交流電圧の相電圧と前記電力変換器に前記交流側入出力端子を介して流出入する交流電流との位相差が、前記第1のアームを流れる電流と前記第2のアームを流れる電流との和の半分である循環電流に関して前記電力変換器について立てられた回路方程式においてラウス・フルビッツの安定判別法の安定性の要件を満たすよう、前記第3の指令値の極性を正もしくは負に決定する極性反転手段を有する請求項3に記載の電力変換器。
【請求項8】
前記第3の制御手段の制御を実行するかあるいは実行しないかを切り替える切替え手段をさらに備える請求項1または2に記載の電力変換器。
【請求項9】
各前記半導体スイッチは、
オン時に一方向に電流を通す半導体スイッチング素子と、
該半導体スイッチング素子に逆並列に接続された帰還ダイオードと、
を有する請求項1〜8のいずれか一項に記載の電力変換器。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2011−182517(P2011−182517A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−42622(P2010−42622)
【出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】
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