説明

電力変換装置の制御方法及び電力変換装置

【課題】簡単な制御で出力電圧のアンバランスを低減できる電力変換装置の制御方法を提供する。
【解決手段】電力変換装置1はスイッチング素子S1〜S6を有し、第1値Vc1及び第2値Vc2をそれぞれ最大値及び最小値とするキャリアと、出力電圧についての電圧指令値との比較に基づいてスイッチング素子S1〜S6を制御して出力電圧を出力する。所定の制御周期を有する期間における電圧指令値V*が、少なくとも前記第2値以上かつ前記第1値以下の間で変化し、かつ当該期間たる変動期間における前記電圧指令値の平均値が前記第2値より大きく前記第1値未満の値であるときに、前記変動期間における前記電圧指令値を前記平均値に補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力変換装置の制御方法および電力変換装置に関し、特に出力電圧のアンバランスを抑制する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
モータへと交流電圧を与える装置としてインバータが用いられる。インバータは入力された直流電圧を交流電圧に変換して、交流電圧をモータへと出力する。かかるインバータは例えばキャリアと指令値との比較に基づいて制御される。指令値はインバータの出力電圧についての指令値であって、モータの回転位置角や速度指令等に基づいて、まず第1指令値V*が生成される。そしてキャリアとの比較には、第1指令値V*に基づいて生成される第2指令値V**が採用される。第2指令値V**は所定周期(例えばキャリアの周期)毎に一定値を採る。
【0003】
かかるインバータにおいて矩形波の相電圧を出力する場合、第1指令値V*は矩形波であって相電圧の周期と同じ周期を有する。一方で、この第1指令値V*は所定周期毎に一定値を採るとは限らないので、この第1指令値V*を所定周期ごとに更新して、キャリアと比較すべき第2指令値V**を生成する。例えば図25では破線でキャリアの周期を示しており、ここに例示するように、キャリアの周期毎の第2指令値V**には、当該周期の開始時点における第1指令値V*の値を採用する。
【0004】
そして、図26に示すように、第2指令値V**とキャリアとの比較に基づいてインバータが制御されて、インバータは相電圧Vを出力する。かかる相電圧Vにおいて、相電圧Vが最大値を採る期間と相電圧が最小値を採る期間とは相違する。換言すると、相電圧Vにアンバランスが生じる。かかる相違によって、インバータが出力する相電流にはいわゆるオフセットが生じる。換言すれば、相電流の1周期の平均値が零にならない。
【0005】
かかる問題を解決する手段として、例えば特許文献1における技術が採用できる。特許文献1においては、出力電圧のバランスが崩れるときに、キャリアの周期を指令値V*と同期させている。
【0006】
また本発明に関連する技術として、特許文献2が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4205157号
【特許文献2】特開平9−308256号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の技術ではキャリアの周期を出力電圧の周期の整数分の1にしてキャリアと出力電圧とを同期させる必要があるので、キャリアの周期を変化させる必要がある。よって制御を複雑化させる。
【0009】
そこで、本発明は、簡単な制御で出力電圧のアンバランスを低減できるインバータの制御方法およびインバータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明にかかる電力変換装置の制御方法の第1の態様は、スイッチング素子(S1〜S6)を有し、第1値(Vc1)及び第2値(Vc2)をそれぞれ最大値及び最小値とするキャリアと、出力電圧についての電圧指令値(V*,V**)との比較に基づいて前記スイッチング素子を制御して前記出力電圧を出力する、電力変換装置(1)の制御方法であって、所定の制御周期を有する期間における前記電圧指令値(V*)が、少なくとも前記第2値以上かつ前記第1値以下の間で変化し、かつ当該期間たる変動期間における前記電圧指令値の平均値が前記第2値より大きく前記第1値未満の値であるときに、前記変動期間における前記電圧指令値を前記平均値に補正する。
【0011】
本発明にかかる電力変換装置の制御方法の第2の態様は、第1の態様にかかる電力変換装置の制御方法であって、前記キャリアは、前記変動周期の各々において単調に変化し、前記変動周期の各々における前記キャリアの変化率の極性は互いに同じである。
【0012】
本発明にかかる電力変換装置の制御方法の第3の態様は、第1の態様にかかる電力変換装置の制御方法であって、前記電力変換装置(1)には、第1入力端(P1)と、前記第1入力端の電位よりも低い電位が印加される第2入力端(P2)と、出力端(Pu,Pv,Pw)とが接続され、前記スイッチング素子(S1〜S6)は、前記第1入力端と前記出力端との間に接続される上側スイッチング素子(S1〜S3)と、前記第2入力端と前記出力端との間に接続される下側スイッチング素子(S4〜S6)とを含み、前記期間(T10〜T19)のうち、前記補正後の前記電圧指令値が前記第1値以上の値を採る期間(T15)の次の期間であって、前記補正後の前記電圧指令値が前記第1値より小さい値を採る期間(T16)において、前記キャリアとして単調に増加する単調増加キャリア(C2)を採用する。
【0013】
本発明にかかる電力変換装置の制御方法の第4の態様は、第1又は第3の態様にかかる電力変換装置の制御方法であって、前記電力変換装置(1)には、第1入力端(P1)と、前記第1入力端の電位よりも低い電位が印加される第2入力端(P2)と、出力端(Pu,Pv,Pw)とが接続され、前記スイッチング素子(S1〜S6)は、前記第1入力端と前記出力端との間に接続される上側スイッチング素子(S1〜S3)と、前記第2入力端と前記出力端との間に接続される下側スイッチング素子(S4〜S6)とを含み、前記期間(T10〜T19)のうち、前記補正後の前記電圧指令値が前記第2値(Vc2)以下の値を採る期間(T19)の一つ前の期間であって、前記補正後の前記電圧指令値が前記第2値より大きい値を採る期間(T18)において、前記キャリアとして単調に増加する単調増加キャリア(C2)を採用する。
【0014】
本発明にかかる電力変換装置の制御方法の第5の態様は、第1、第3及び第5のいずれか一つの態様にかかる電力変換装置の制御方法であって、前記電力変換装置(1)には、第1入力端(P1)と、前記第1入力端の電位よりも低い電位が印加される第2入力端(P2)と、出力端(Pu,Pv,Pw)とが接続され、前記スイッチング素子(S1〜S6)は、前記第1入力端と前記出力端との間に接続される上側スイッチング素子(S1〜S3)と、前記第2入力端と前記出力端との間に接続される下側スイッチング素子(S4〜S6)とを含み、前記期間(T10〜T19)のうち、前記補正後の前記電圧指令値が前記第1値(Vc1)以上の値を採る期間(T14)の一つ前の期間であって、前記補正後の前記電圧指令値が前記第1値より小さい値を採る期間(T13)において、前記キャリアとして単調に減少する単調減少キャリア(C1)を採用する。
【0015】
本発明にかかる電力変換装置の制御方法の第6の態様は、第1、第3から第5のいずれか一つの態様にかかる電力変換装置の制御方法であって、前記電力変換装置(1)には、第1入力端(P1)と、前記第1入力端の電位よりも低い電位が印加される第2入力端(P2)と、出力端(Pu,Pv,Pw)とが接続され、前記スイッチング素子(S1〜S6)は、前記第1入力端と前記出力端との間に接続される上側スイッチング素子(S1〜S3)と、前記第2入力端と前記出力端との間に接続される下側スイッチング素子(S4〜S6)とを含み、前記期間(T10〜T19)のうち、前記補正後の前記電圧指令値が前記第2値(Vc2)以下の値を採る期間(T10)の次の期間であって、前記補正後の前記電圧指令値が前記第2値より大きい値を採る期間(T11)において、前記キャリアとして単調に減少する単調減少キャリア(C1)を採用する。
【0016】
本発明にかかる電力変換装置の第1の態様は、補正前の前記電圧指令値(V*)は矩形波であり、第1又は第2の態様にかかる電力変換装置の制御方法を実行して、前記出力電圧の一周期内において3つのパルスを有する前記出力電圧を出力する。
【0017】
本発明にかかる電力変換装置の第2の態様は、補正前の前記電圧指令値(V*)が矩形波である第3の態様にかかる電力変換装置の制御方法を実行して、前記出力電圧の一周期内において2つのパルスを有する前記出力電圧を出力する。
【0018】
本発明にかかる電力変換装置の第3の態様は、補正前の前記電圧指令値(V*)が矩形波である第3又は第4の態様にかかる第5の態様、或いは第3又は第4の態様のいずれかにかかる第6の態様の電力変換装置の制御方法を実行して、前記出力電圧の一周期内において1つのパルスを有する前記出力電圧を出力する。
【発明の効果】
【0019】
本発明にかかる電力変換装置の制御方法の第1の態様によれば、理論的に実際に出力される出力電圧の平均値を電圧指令値の平均値へ一致させることができる。しかも、制御周期を電圧指令値の周期に基づいて変更する必要がなく、制御を簡単にできる。
【0020】
本発明にかかる電力変換装置の制御方法の第2の態様によれば、制御周期の各期間において増大して低減するキャリア(例えば二等辺三角波形状のキャリア)を採用する場合に比べて、スイッチング回数を低減できる。
【0021】
本発明にかかる電力変換装置の制御方法の第3の態様によれば、電圧指令値が最大値から低下するときの2つの期間の境界の前後において、上側スイッチング素子および下側スイッチング素子のスイッチングパターンは変化しない。よって、スイッチング回数を低減することができる。
【0022】
本発明にかかる電力変換装置の制御方法の第4の態様によれば、電圧指令値が最小値へと低下するときの2つの期間の境界の前後において、上側スイッチング素子および下側スイッチング素子のスイッチングパターンは変化しない。よって、スイッチング回数を低減することができる。
【0023】
本発明にかかる電力変換装置の制御方法の第5の態様によれば、電圧指令値が最大値へと増大するときの2つの期間の境界の前後において、上側スイッチング素子および下側スイッチング素子のスイッチングパターンは変化しない。よって、スイッチング回数を低減することができる。
【0024】
本発明にかかる電力変換装置の制御方法の第6の態様によれば、電圧指令値が最小値から増大するときの2つの期間の境界の前後において、上側スイッチング素子および下側スイッチング素子のスイッチングパターンは変化しない。よって、スイッチング回数を低減することができる。
【0025】
本発明にかかる電力変換装置の第1の態様によれば、実際に出力される出力電圧の平均値を電圧指令値の平均値へと近づけることができる。
【0026】
本発明にかかる電力変換装置の第2の態様によれば、制御周期の各期間において増大して低減するキャリア(例えば二等辺三角波形状のキャリア)を採用する場合に比べて、スイッチング回数を低減できる。
【0027】
本発明にかかる電力変換装置の第3の態様によれば、最小のスイッチング回数で出力電圧を出力できる。しかも1パルスを有する出力電圧を出力するためにキャリアの周波数を出力電圧の周波数と一致させる必要がない。よってキャリアの周波数を変更するための演算又は処理を不要にできる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】インバータの概念的な構成を例示する図である。
【図2】指令値の一例を示す図である。
【図3】指令値の一例を示す図である。
【図4】指令値の一例を示す図である。
【図5】指令値とキャリアと出力電圧との一例を示す図である。
【図6】指令値とキャリアと出力電圧との一例を示す図である。
【図7】指令値とキャリアと出力電圧との一例を示す図である。
【図8】指令値とキャリアと出力電圧との一例を示す図である。
【図9】インバータの概念的な構成を例示する図である。
【図10】指令値とキャリアと出力電圧との一例を示す図である。
【図11】指令値とキャリアと出力電圧との一例を示す図である。
【図12】指令値とキャリアと出力電圧との一例を示す図である。
【図13】指令値とキャリアと出力電圧との一例を示す図である。
【図14】指令値の一例を示す図である。
【図15】指令値の一例を示す図である。
【図16】指令値とキャリアと出力電圧との一例を示す図である。
【図17】指令値とキャリアと出力電圧との一例を示す図である。
【図18】指令値とキャリアと出力電圧との一例を示す図である。
【図19】指令値とキャリアと出力電圧との一例を示す図である。
【図20】指令値とキャリアと出力電圧との一例を示す図である。
【図21】指令値の一例を示す図である。
【図22】指令値とキャリアと出力電圧との一例を示す図である。
【図23】指令値の一例を示す図である。
【図24】指令値とキャリアと出力電圧との一例を示す図である。
【図25】指令値の一例を示す図である。
【図26】指令値とキャリアと出力電圧との一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
第1の実施の形態.
図1に示すように、電力変換装置の一例たるインバータ1は入力端P1,P2及び出力端Pu,Pv,Pwと接続される。入力端P1,P2には直流電圧が印加される。ここでは入力端P2に印加される電位は入力端P1に印加される電位よりも低い。
【0030】
インバータ1は直流電圧を交流電圧に変換し、この交流電圧を出力端Pu,Pv,Pwへと出力する。より詳細な構造の一例として、インバータ1はスイッチング素子S1〜S6とダイオードD1〜D6とを備えている。スイッチング素子S1〜S6は例えば絶縁ゲートバイポーラトランジスタ又は電界効果トランジスタなどである。各スイッチング素子S1〜S3は出力端Pu,Pv,Pwの各々と入力端P1との間に設けられている。以下では、各スイッチング素子S1〜S3を上側のスイッチング素子とも呼ぶ。ダイオードD1〜D3のアノードはそれぞれ出力端Pu,Pv,Pwに接続され、ダイオードD1〜D3はそれぞれスイッチング素子S1〜S3と並列に接続される。各スイッチング素子S4〜S6は出力端Pu,Pv,Pwの各々と入力端P2との間に設けられている。以下では各スイッチング素子S4〜S6を下側のスイッチング素子とも呼ぶ。ダイオードD4〜D6のアノードは入力端P2に接続され、ダイオードD4〜D6はそれぞれスイッチング素子S4〜S6と並列に接続される。
【0031】
かかるスイッチング素子S1〜S6には制御部3からそれぞれスイッチ信号が与えられる。かかるスイッチ信号により各スイッチング素子S1〜S6が導通する。制御部3が適切なタイミングでスイッチング素子S1〜S6へとそれぞれスイッチ信号を与えることにより、インバータ1は直流電圧を交流電圧に変換する。なお、制御部3の制御によって、スイッチング素子S1,S4は相互に排他的に導通し、スイッチング素子S2,S5は相互に排他的に導通し、スイッチング素子S3,S6は相互に排他的に導通する。
【0032】
インバータ1は例えば誘導性負荷2を駆動することができる。誘導性負荷2は出力端Pu,Pv,Pwに接続される。誘導性負荷2は例えばモータであって、インバータ1によって印加される交流電圧に応じて回転する。
【0033】
なお図1の例示ではインバータ1は3つの出力端Pu,Pv,Pwと接続されている。つまり三相交流電圧を出力する三相インバータ1が図1に示されている。しかしながら、インバータ1は三相インバータに限らず単相インバータであってもよく、三相以上のインバータであってもよい。以下ではインバータ1が三相インバータである場合を例に採って説明する。
【0034】
制御部3は電圧指令補正部31を備えている。電圧指令補正部31には、インバータ1が出力する相電圧(以下、出力電圧とも呼ぶ)についての電圧指令値V*が入力される。電圧指令補正部31は電圧指令値V*を補正する。ここでは補正後の電圧指令値V*を電圧指令値V**と呼び、電圧指令値V*を補正することを、電圧指令値V*を補正して電圧指令値V**を生成する、とも表現する。かかる補正については後に詳述する。また制御部3は電圧指令値V**に基づいてインバータ1を制御する。
【0035】
またここでは、制御部3はマイクロコンピュータと記憶装置を含んで構成される。マイクロコンピュータは、プログラムに記述された各処理ステップ(換言すれば手順)を実行する。上記記憶装置は、例えばROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、書き換え可能な不揮発性メモリ(EPROM(Erasable Programmable ROM)等)、ハードディスク装置などの各種記憶装置の1つ又は複数で構成可能である。当該記憶装置は、各種の情報やデータ等を格納し、またマイクロコンピュータが実行するプログラムを格納し、また、プログラムを実行するための作業領域を提供する。なお、マイクロコンピュータは、プログラムに記述された各処理ステップに対応する各種手段として機能するとも把握でき、あるいは、各処理ステップに対応する各種機能を実現するとも把握できる。また、制御部3はこれに限らず、制御部3によって実行される各種手順、あるいは実現される各種手段又は各種機能の一部又は全部をハードウェアで実現しても構わない。
【0036】
電圧指令補正部31は所定の制御周期T1ごとに電圧指令値V*を補正して電圧指令値V**を生成する。図1の例示では、インバータ1は三相交流電圧を出力するので、電圧指令値V*は3つの相電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*を含んでいる。よって、電圧指令補正部31は3つの相電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*に基づいてそれぞれ3つの相電圧指令値Vu**,Vv**,Vw**を生成する。
【0037】
図2は電圧指令値V*及び電圧指令値V**の一例を示す図である。図2の例示では電圧指令値V*は矩形波であり、時間の経過に伴って最大値V1(例えば1)および最小値V2(例えば0)を交互に採る。ここでは、電圧指令値V*が最大値V1を採る正期間は、電圧指令値V*が最小値V2を採る負期間と等しい。また相電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*は互いに120度ずつ位相がずれている。
【0038】
図2の例示において複数の破線のうち隣接する二者で挟まれる期間はいずれも制御周期T1を有する。そして電圧指令補正部31は例えば各破線で示されるタイミング毎に電圧指令値V*を次のように補正して電圧指令値V**を生成する。即ち、電圧指令補正部31は、各期間において電圧指令値V*が少なくとも次に述べる第1値と第2値との間で変化するときには、その期間における電圧指令値V*の最小値Vc2より大きく最大値Vc1未満の中間値に補正して、電圧指令値V**を生成する。ここでいう第1値および第2値はそれぞれ後述するキャリアの最大値および最小値である(後に説明する図5も参照)。図5の例示では、キャリアCの最大値Vc1および最小値Vc2がそれぞれ最大値V1および最小値V2と一致する。なお最大値V1は最大値Vc1よりも大きくてもよく、最小値V2は最小値Vc2よりも小さくてもよい。かかる電圧指令値V*を採用するモードはいわゆる過変調モードとも呼ばれる。
【0039】
さて図2に例示するように、期間T10,T15において電圧指令値V*は最小値V2から最大値V1へと変化し、期間T13において電圧指令値V*は最大値V1から最小値V2へと変化する。つまり、各期間T10,T13,T15において電圧指令値V*はキャリアCの最大値Vc1,Vc2の間で変化する。よって、これらの期間では電圧指令値V**には最小値V2より大きく最大値Vc1未満の中間値が採用される。
【0040】
また電圧指令補正部31は、各期間において電圧指令値V*が変化しないときには、電圧指令値V*を補正しない。つまり電圧指令値V*の値をそのまま採用して電圧指令値V**を生成する。例えば図2に示すように、期間T11,T12,T14において電圧指令値V*が一定値を採っている。よって、これらの期間では電圧指令値V**は電圧指令値V*と一致する。なお電圧指令値V*が最大値Vc1以上である期間において電圧指令値V**は最大値Vc1以上の任意の値を採ってもよい。これは電圧指令値V**がキャリアの最大値Vc1以上の値であれば、電圧指令値V**とキャリアとの比較結果が同じであるからである。同様に、電圧指令値V*が最小値Vc2以下である期間において電圧指令値V**は最小値Vc2以下の任意の値を採ってもよい。
【0041】
これによって、図25の電圧指令値V**と比べて、電圧指令値V**の周期T2における平均値を電圧指令値V*の周期T2における平均値に近づけることができる。ひいてはインバータ1が出力する相電圧の周期T2における平均値を電圧指令値V*の周期T2における平均値に近づけることができる。
【0042】
なお制御周期T1は周期T2の整数分の1となる必要がない。よって電圧指令値V*に基づいて制御周期T1を変更する必要がない。したがって、制御周期T1を変更するための演算又は処理を不要にでき、制御を簡易にすることができる。
【0043】
以上のように、制御周期T1を周期T2と無関係に設定することで制御を簡易にしつつも、出力電圧の平均値を電圧指令値V*の平均値に近づけることができる。
【0044】
また図2の例示では、期間T10,T13,T15において、電圧指令値V**はそれぞれの期間における電圧指令値V*の平均値を採っている。言い換えれば上記中間値は各期間における電圧指令値V*の平均値である。かかる平均値は次のように導くことができる。すなわち、これらの各期間のうち電圧指令値V*が最大値V1を採る期間を期間Tv1とし、これらの各期間のうち電圧指令値V*が最小値V2を採る期間を期間Tv2と仮定する。このとき、これらの各期間における電圧指令値V**は次式を満たす。
【0045】
V**=(V1・Tv1+V2・Tv2)/T1 ・・・(1)
かかる電圧指令値V**を採用すれば、理論的には電圧指令値V**の周期T2における平均値を電圧指令値V*の周期T2における平均値と等しくできる。
【0046】
なお、制御周期T1を短く設定すれば、即ち周波数を高めれば、図25に例示する電圧指令値V**を生成しても電圧指令値V*との誤差を低減することができる。しかしながら、これによって演算処理能力を高める必要があり、製造コストの増大を招く。一方、本実施の形態では比較的長い制御周期T1を採用することができ、製造コストの増大を招かない。
【0047】
<電圧指令値V**の具体的な生成方法の一例>
電圧指令値V*は矩形波であって、電気角30度で立ち下がり、電気角210度で立ち上がると仮定する。図3は電圧指令値V*と電圧指令値V**との一例を拡大して示している。図3には電圧指令値V*が立ち下がる部分の近傍が示されている。電圧指令値V*は電気角30度において最大値V1から最小値V2へと立ち下がっている。
【0048】
電圧指令生成部31は、制御周期T1ごとに、電圧指令値V*を補正して電圧指令値V**を生成する。例えば各期間における中央の時点において、各期間の次の期間における電圧指令値V**を生成する。
【0049】
ここで各期間の中央の時点における電圧指令値V*の電気角をδ[N](Nは整数)とすると、幾何学的に次式を満足する。
【0050】
δ[n+1]−δ[n]:30°−δ[n]=T1:Tv1−T1/2 ・・・(2)
式(2)を変形すると期間Tv1が導かれ、さらにTv2=T1−Tv1も考慮すると期間Tv2が導かれる。
【0051】
Tv1=T1・(1/2+(30°-δ[n])/(δ[n+1]-δ[n])) ・・・(3)
Tv2=T1・(1/2-(30°-δ[n])/(δ[n+1]-δ[n])) ・・・(4)
ここでは制御周期T1は一定であり、また電圧指令値V*の周期T2が一定であると仮定すると、δ[n+1]−δ[n]=δ[n]−δ[n−1]=k(一定)(nは整数)が成立する。かかる仮定は例えば誘導性負荷2の一例たるモータが一定の回転速度で駆動されていることを意味する。δ[n+1]−δ[n]=δ[n]−δ[n−1]=kを考慮して式(3)及び式(4)を変形すると、次式が導かれる。
【0052】
Tv1=T1・(1/2+(30°-δ[n-1]-k)/k) ・・・(5)
Tv2=T1・(1/2-(30°-δ[n-1]-k)/k) ・・・(6)
この期間Tv1,Tv2を式(1)に代入することで、電圧指令生成部31は期間T11における電圧指令値V**を求めることができる。なお、期間T11における電圧指令値V**を算出する時点で、δ[n]とδ[n+1]が既知である場合は式(3),(4)を用いて電圧指令値V**を算出してもよい。
【0053】
図4は電圧指令値V*と電圧指令値V**との他の一例を拡大して示している。図4には電圧指令値V*が立ち下がる部分の近傍が示されている。電圧指令値V*は例えば電気角30度において最大値V1から最小値V2へと立ち下がっている。図3の例示と比較して、電気角δ[n]が電圧指令値V*が立ち下がるときの電気角(例えば30度)よりも大きい。このとき例えば幾何学的に次式を満足する。
【0054】
δ[n]−δ[n−1]:δ[n]−30°=T1:T1/2−Tv1・・・(7)
式(7)は電気角δ[n],δ[n−1]を用いて表される。つまり、電圧指令値V*が立ち上がる時点に近い電気角δ[n],δ[n−1]が採用される。かかる式(7)を変形すると期間Tv1が導かれ、さらにTv2=T1−Tv1も考慮すると期間Tv2が導かれる。
【0055】
Tv1=T1・(1/2+(30°-δ[n])/(δ[n]-δ[n-1])) ・・・(8)
Tv2=T1・(1/2-(30°-δ[n])/(δ[n]-δ[n-1])) ・・・(9)
ここで、δ[n+1]−δ[n]=δ[n]−δ[n−1]=kを考慮して式(8)及び式(9)を変形すると、式(5)及び式(6)が導かれる。
【0056】
この期間Tv1,Tv2を式(1)に代入することで、電圧指令生成部31は期間T11における電圧指令値V**を求めることができる。なお、期間T11における電圧指令値V**を算出する時点で、δ[n−1]とδ[n]が既知である場合は式(8),(9)を用いて電圧指令値V**を算出してもよい。
【0057】
なお、電圧指令値V*は電気角30度で立ち下がると仮定したが、任意の電気角で立ち上がってもよい。式(2)〜式(9)において「30°」を当該任意の電気角に置き換えればよい。
【0058】
また上述の例では、時点δにおける電圧指令値V*を用いているが、電圧指令値V*が制御周期T1毎に一つの値を採る場合であればその値を用いればよい。例えば制御部3のマイクロコンピュータが実行するプログラムにて電圧指令値V*を生成する場合には、例えば制御周期T1ごとに一つの前記電圧指令値V*が生成される。
【0059】
また必ずしも上述の式を採用する必要はなく、例えば現在の制御周期T1と、その前後の制御周期での電圧指令値V*のいずれかふたつ又は全てに基づき、電圧指令値V**を生成してもよい。
【0060】
<インバータの制御>
図1を参照して、制御部3はキャリア生成部32と比較器33とを備えている。キャリア生成部32はキャリアCを生成する。比較器33はキャリアCと電圧指令値V**とを比較し、その比較結果に基づいてスイッチング素子S1〜S6へとスイッチ信号を出力する。
【0061】
図5の例示では、キャリアCは制御周期T1と同じ周期(以下キャリア周期とも呼ぶ)を有している。またキャリアCはキャリア周期を有する各期間において増大して低減する。より詳細な一例としてキャリアCは二等辺三角波である。またここではキャリアCの最大値Vc1及び最小値Vc2はそれぞれ最大値V1,最小値V2と一致しており、破線で示されたタイミングでキャリアCは最小値を採っている。
【0062】
図6の例示では、図5と比較して、電圧指令値V**の最大値V1がキャリアCの最大値Vc1を超えており、電圧指令値V**の最小値V2がキャリアCの最小値Vc2を下回っている。これは、図2の電圧指令値V*において最大値V1が最大値Vc1を超え、最小値V2が最小値Vc2を下回る場合の電圧指令値V**の一例である。
【0063】
また図5,6において、相電圧指令値Vu**,Vv**,Vw**の代表として電圧指令値V**が例示されている。実際には、比較器33は相電圧指令値Vu**,Vv**,Vw**の各々とキャリアCとを比較する。比較器33は例えば相電圧指令値Vu**がキャリアC以上であるときに、上側のスイッチング素子S1を導通させ下側のスイッチング素子S4を非導通とする。また比較器33は相電圧指令値Vu**がキャリアC以下であるときに、上側のスイッチング素子S1を非導通とし下側のスイッチング素子S4を導通させる。なお電圧指令値Vu**がキャリアCを超えているときに上側のスイッチング素子S1を導通させ下側のスイッチング素子S4を非導通とし、電圧指令値Vu**がキャリアC未満であるときに上側のスイッチング素子S1を非導通とし下側のスイッチング素子S4を導通させてもよい。この点は後述する他の態様についても同様であるため繰り返しの説明を避ける。他の相についても同様にして比較器33は相電圧指令値Vv**とキャリアCとの比較に基づいてスイッチング素子S2,S5を制御し、相電圧指令値Vw**とキャリアCとの比較に基づいてスイッチング素子S3,S6を制御する。なお、図5,6には、図2で示される電圧指令値V*の周期T2が併記されている。
【0064】
本実施の形態では、上述したように電圧指令値V*の平均値に近い平均値を有する電圧指令値V**に基づいてスイッチング素子S1〜S6が制御される。したがって、出力電圧Vの平均値を電圧指令値V*の平均値に近づけることができる。しかも図5,6と図26との比較から理解できるように、出力電圧Vが最大値を採る期間と最小値を採る期間との差(アンバランス)を低減することができる。したがって、出力電圧Vのアンバランスに起因した相電流のオフセットも低減することができる。なお、かかる効果を招来するためには必ずしもキャリアCの周期が制御周期T1と一致している必要はない。この内容、すなわちキャリアCの周期が制御周期T1と一致している必要がないことは、後述する他の態様に対しても適用される。また図5,6の例示では、電圧指令値V**が各期間における電圧指令値V*の平均値であるので、理論的には出力電圧Vのアンバランスは生じない。
【0065】
また上述した制御部3においては、比較器33がキャリアCと電圧指令値V**とを比較している。しかしながら、キャリアCと電圧指令値V**との物理的な比較を行うことなく、制御部3は仮想的なキャリアCと電圧指令値V**との比較結果を演算により算出しても良い。この点は後述する他の態様についても適用されるため繰り返しの説明を避ける。
【0066】
図7の例示では、キャリアCは制御周期T1と同じ周期を有し、各期間において(期間同士の境界を除く)互いに同じ変化率で単調に変化している。より詳細な一例として、例えばキャリアCは傾斜部分の変化率が負の一定値である直角三角波であり、期間同士の境界では理想的には値が離散する。かかる直角三角波はいわゆる鋸波とも呼ばれる。以下では、かかるキャリアCをキャリアC1とも呼ぶ。なお、図7の例示では最大値V1および最小値V2がそれぞれ最大値Vc1及び最小値Vc2と一致しているが、最大値V1が最大値Vc1を超え最小値V2が最小値Vc2を下回る場合であっても、以下の内容が適用される。よって重複を避けるため第1の実施の形態においては繰り返しの説明を避ける。
【0067】
キャリアC1の採用によって、図7に例示するような出力電圧Vが出力される。本実施の形態では電圧指令値V**の周期T2における平均値を電圧指令値V*の周期T2における平均値に近づけるのであるから、キャリアの波形が鋸波であっても出力電圧Vの平均値を電圧指令値V*の平均値に近づけることができ、出力電圧Vのアンバランスを低減できる。
【0068】
しかも、図5,6のキャリアCに比べてスイッチング回数を低減することができる。これは以下の理由による。即ち、キャリアC1のキャリア周期が制御周期T1と同じであり、しかも各期間において単調に減少している。よって、電圧指令値V**が最小値Vc2より大きく最大値Vc1未満の中間値を採る各期間(例えば期間T10)においては、その途中で相電圧Vが立ち上がり、その後は立ち下がらない。一方、電圧指令値V**が最大値Vc1以上の値を採る各期間(例えば期間T11)ではその期間の全てに渡って相電圧が立ち下がらない。したがって、電圧指令値V**が中間値を採る期間(例えば期間T10)の次の期間(例えば期間T11)に電圧指令値V**が最大値Vc1以上の値を採れば、これらの期間の境界の前後で相電圧Vが立ち下がらず、相電圧Vは高電位を維持し続ける。換言すれば、これらの期間の境界の前後において上側のスイッチング素子と下側のスイッチング素子のスイッチパターンが変化しない。
【0069】
一方で、図7のキャリアCを採用すれば、電圧指令値V**が最小値Vc2より大きく最大値Vc1未満の中間値を採る各期間(例えば期間T10)において、その期間の始期近くで相電圧Vは立ち下がり、終期近くで立ち上がる。したがって、この期間において、上側スイッチング素子と下側スイッチング素子のスイッチパターンが2回変化する。
【0070】
以上のように、キャリアC1を採用すれば、図5,6のキャリアCを採用する場合に比べてスイッチング回数を低減することができる。
【0071】
なお上述の説明から理解できるように、キャリアC1を採用すれば、電圧指令値V**が最小値Vc2以下の値から最大値Vc1以上の値へと移行する期間において、相電圧Vは低電位から高電位へと立ち上がる。そして、電圧指令値V**が最大値Vc1以上の値を維持する期間において相電圧Vは高電位を維持する。一方、電圧指令値V**が最大値Vc1以上の値から最小値V2以下の値へと移行する期間において、相電圧Vは例えば期間T12,T13の境界で低電位へと立ち下り、期間T13の途中で高電位へと立ち上がり、期間T13の終期で低電位へと立ち下がる。したがって、インバータ1は1周期内において2つのパルスを有する出力電圧Vを出力する。
【0072】
なお、キャリアC1の周期は制御周期Tと一致する必要が無いことは既に述べたとおりである。ここでその一例としてキャリアC1の周期が制御周期Tの整数倍である場合について考察する。例えば電圧指令値V**が最大値Vc1以上となる期間T11の一つ前の期間T10において、期間T11の直前でキャリアC2が採用されると、期間T10,T11の境界でスイッチングパターンが変らない。ただし、期間T10において3つのキャリアC1が存在するので、期間T10においてスイッチング回数は5回である。一方、二等辺三角波のキャリアCを採用すれば、期間T10においてスイッチング回数は6回である。よって、スイッチング回数を低減できる。ただし、制御周期T1とキャリアC1の周期が同じであれば、制御が簡易である。なお、この内容は後述する他の態様であっても適用されるので、繰り返しの説明を避ける。
【0073】
また図5,6のキャリアCを採用すれば、相電圧Vは期間T10,期間T13の各々において、始期近くで立ち下がり、終期近くで立ち上がる。また相電圧Vは期間T10の次の期間T11から期間T13の一つ前の期間T12まで高電位を維持している。つまり、インバータ1は3つのパルスを有する出力電圧Vを出力する。出力電圧Vの1パルスは2回のスイッチングを要するので、キャリアC1を採用すれば、スイッチング回数を2回低減できる。
【0074】
図8の例示でも、キャリアCは制御周期T1と同じ周期を有し、各期間において互いに同じ変化率で単調に変化している。より詳細な一例として、例えばキャリアCは傾斜部分の変化率が正の一定値である直角三角波である。かかる直角三角波もいわゆる鋸波とも呼ばれる。以下では、かかるキャリアCをキャリアC2とも呼ぶ。
【0075】
キャリアC2の採用によって、図8に例示するような出力電圧Vが出力される。これによっても出力電圧Vの平均値を電圧指令値V*の平均値に近づけることができ、出力電圧Vのアンバランスを低減できる。しかも図5,6のインバータ制御方法に比してスイッチング回数を低減することができる。これは以下の理由による。即ち、キャリアC2のキャリア周期が制御周期T1と同じであり、しかも各期間において単調に増加している。よって、電圧指令値V**が最小値Vc2より大きく最大値Vc1未満の中間値を採る各期間(例えば期間T13)において、その途中で相電圧Vが立ち下がり、その後は立ち上がらない。一方、電圧指令値V**が最大値Vc1以上の値を採る各期間(例えば期間T12)ではその期間の全てにおいて相電圧Vが立ち下がらない。したがって、電圧指令値V**が中間値を採る期間(例えば期間T13)の一つ前の期間(例えば期間T12)において電圧指令値V**が最大値Vc1以上の値を採れば、これらの期間の境界の前後でパルスが立ち下がらず、相電圧Vは高電位を維持し続ける。換言すれば、これらの期間の境界の前後においてスイッチパターンが変化しない。
【0076】
なお、ここでは比較器33は電圧指令値V**がキャリアC以上であるときに上側スイッチング素子を導通させて下側スイッチング素子を非導通としている。ただし、これに限らず、比較器33は電圧指令値V**がキャリアC以下であるときに上側スイッチング素子を導通させて下側スイッチング素子を非導通としてもよい。
【0077】
また電圧指令値V**がキャリアの最大値Vc1以上の値を採る間(例えば期間T11〜期間T12)はキャリアに拠らずに相電圧Vは高電位を維持し続け、電圧指令値V**がキャリアの最小値Vc2以下の値を採る期間はキャリアに拠らずに相電圧Vは低電位を維持し続ける。よって、電圧指令値V**が最大値Vc1以上の値又は最小値Vc2以下の値を採る期間では、制御周期T1と同じ周期を有して各期間において増大して低減する、例えば二等辺三角波のキャリアを採用しても良い。またキャリアC1,C2の傾斜部分の変化率は一定でなくてもよく、それぞれ単調に減少、単調に増加していればよい。
【0078】
第2の実施の形態.
図9に例示する制御部3は電圧指令補正部31及びキャリア生成部32の点で図1に例示する制御部3と相違している。電圧指令補正部31は電圧指令値V**についての情報をキャリア生成部32へと与える。キャリア生成部32は当該情報に基づいて互いに異なるキャリアのうち一つを比較器33に出力する。以下に詳細に説明する。
【0079】
図10は電圧指令値V**とキャリアと出力電圧Vとの一例を示している。なお第1の実施の形態と同様に、図11に例示するように、最大値V1が最大値Vc1を超え、最小値V2が最小値Vc2を下回っていても良い。
【0080】
キャリア生成部32は、各期間において単調に減少する単調減少キャリアC1と、期間の各々において単調に増加する単調増加キャリアC2を生成することができる。キャリアC1,C2のいずれの周期も制御周期T1と等しい。キャリアC1は例えば図7のキャリアCであって、各期間において最大値Vc1から最小値Vc2へと時間の経過とともに比例して減少する。キャリアC2は例えば図8のキャリアCであって、各期間において最小値Vc2から最大値Vc1へと例えば時間の経過と共に比例して増大する。キャリア生成部32は電圧指令補正部31からの情報に基づいてキャリアC1,C2の何れか一方を比較器33に出力する。
【0081】
電圧指令補正部31は所定期間において出力される電圧指令値V**を所定期間よりも前の期間に生成する。例えば期間T11において出力する電圧指令値V**は期間T10以前に生成される。したがって、電圧指令補正部31は所定期間において出力される電圧指令値V**とその次の期間において出力される電圧指令値V**の値を認識することができる。そして、電圧指令補正部31は、所定期間(例えば期間T12)において電圧指令値V**がキャリアの最大値Vc1以上の値を採り、次の期間(例えば期間T13)において電圧指令値V**がキャリアの最大値Vc1よりも小さい値を採るときには、その旨をキャリア生成部32に通知する。かかる動作は、所定期間(例えば期間T13の次の期間)において電圧指令値V**がキャリアの最小値Vc2以下の値を採り、その一つ前の期間(T13)において電圧指令値V**が最小値Vc2よりも大きい値を採るときには、その旨をキャリア生成部32に通知する、とも把握できる。
【0082】
キャリア生成部32は電圧指令補正部31からの通知がなければキャリアC1を比較器33に出力する。一方、その旨が通知されると、キャリア生成部32は例えば期間T13においてキャリアC2を比較器33に出力する。よって、図10,11の例示では、期間T13においてキャリアC2が採用されている。
【0083】
比較器33は例えば電圧指令値V**がキャリア以上であるときに上側のスイッチング素子を導通させ下側のスイッチング素子を非導通とする。
【0084】
上述の動作によって期間T12,T13の境界の前後で相電圧Vが立ち下がらず、高電位を維持し続ける。言い換えると、期間T12,T13の境界の前後で上側スイッチング素子および下側スイッチング素子のスイッチパターンが変化しない。なお、かかる説明を次のように言い換えることもできる。すなわち、期間T13の次の期間では相電圧Vは低電位を維持し、期間T13ではその後半部分で相電圧Vは低電位を維持する。よって期間T13とその次の期間との境界の前後で上側スイッチング素子および下側スイッチング素子が変化しない。
【0085】
一方で、図7を参照して説明したように、期間T11とその一つ前の期間T10との境界の前後でも上側スイッチング素子および下側スイッチング素子のスイッチパターンは変化しない。なお、かかる説明を次のように言い換えることもできる。すなわち、期間T10の一つ前の期間では相電圧Vは低電位を維持し、期間T10ではその前半部分で相電圧Vは低電位を維持する。よって期間T10とその一つ前の期間との境界の前後で上側スイッチング素子および下側スイッチング素子が変化しない。
【0086】
したがって、インバータ1は1周期において1パルスを有する出力電圧Vを出力する。よって最も少ないスイッチ回数でインバータ1を駆動することができ、最もスイッチング損失を低減できる。しかも、第1の実施の形態と同様に、制御周期T1を周期T2に応じて変化させる必要がなく、単にキャリアC1,C2を切り替えるだけであるので制御が容易である。また制御周期T1を必要以上に高める必要がなく、製造コストの増大を招かない。
【0087】
なお、キャリア生成部32は電圧指令補正部31から通知がなければキャリアC2を比較器33に出力してもよい。この場合、電圧指令補正部31は次のようにキャリア生成部32に通知する。即ち、次の期間が、電圧指令値V**がキャリアの最大値Vc1以上の値を採る期間(例えば期間T11)の一つ前の期間であって、電圧指令値V**がキャリアの最大値Vc1よりも小さい値を採る期間(例えば期間T10)であるときに、電圧指令補正部31はキャリア生成部32にその旨を通知する。当該通知を受け取ればキャリア生成部32は当該次の期間においてキャリアC1を比較器33に出力する。
【0088】
また電圧指令値V**がキャリアの最大値Vc1以上の値を採る間(例えば期間T11〜期間T12)はキャリアに拠らずに相電圧Vは高電位を維持し続け、電圧指令値V**がキャリアの最小値Vc2以下の値を採る期間はキャリアに拠らずに相電圧Vは低電位を維持し続ける。よって、図12に例示するように、電圧指令値V**が最大値Vc1以上の値又は最小値Vc2以下の値を採る期間では、制御周期T1と同じ周期を有して各期間において増大して低減する、例えば二等辺三角波のキャリアC3を採用しても良い。
【0089】
要するに、期間T10,T15において単調に減少するキャリアC1を採用し、期間T13において単調に増加するキャリアC2を採用すればよい。これによって、インバータ1は最も少ないスイッチ回数で交流電圧を出力できる。なお、この点は、最大値V1が最大値Vc1を超え、最小値V2が最小値Vc2を下回る場合であっても、同様である。また以下の内容も最大値V1が最大値Vc1を超え最小値V2が最小値Vc2を超える場合に適用可能であるので、第2の実施の形態においては繰り返しの説明を避ける。
【0090】
またスイッチ回数の低減という観点では、要するに期間T13においてキャリアC2を採用する、又は期間T10においてキャリアC1を採用すればよい。例えば標準的にはキャリアC3を採用し期間T13においてキャリアC2を採用してもよく、標準的にキャリアC3を採用し期間T10,T15においてキャリアC1を採用しても良い。
【0091】
なお比較器33は、電圧指令値V**がキャリア以下であるときに上側のスイッチング素子を導通させ、下側のスイッチング素子を非導通としてもよい。この場合の電圧指令値V**とキャリアと出力電圧Vとが図13に例示されている。
【0092】
図13の電圧指令値V**は、例えば図2の電圧指令値V**を上下に対称に変化させたものである。この場合であっても、上述した条件でキャリアC1,C2を採用すれば、図13に例示するように、インバータ1は1周期において1パルスを有する出力電圧Vを出力する。
【0093】
第3の実施の形態.
第3の実施の形態にかかるインバータの構成は図1の構成と同様である。ただし第3の実施の形態では電圧指令値V*が台形波である。なお台形は矩形を含む概念であることから、本願で言う台形波は矩形波も含む。図14はかかる電圧指令値V*と電圧指令値V**の一例を示している。図14の例示では、電圧指令値V*が有する台形形状は等脚台形形状であり、電圧指令値V*が最大値V1を採る期間は電圧指令値V*が最小値V2を採る期間と等しい。図15の例示では、電圧指令値V*の最大値V1がキャリアの最大値Vc1よりも大きく、電圧指令値V*の最小値V2がキャリアの最小値Vc2よりも小さい。
【0094】
電圧指令補正部31は、第1の実施の形態と同様に、制御周期T1を有する各期間において電圧指令値V*が一定であれば、電圧指令値V*の値をそのまま採用して電圧指令値V**を生成する。よって、これらの期間では電圧指令値V**は電圧指令値V*と一致する。
【0095】
また例えば各期間において電圧指令値V*がキャリアCの最大値Vc1以上又は最小値Vc2以下であれば、電圧指令値V*の値をそのまま採用して電圧指令値V**を生成しても良い。図15の例示において、例えば期間T12において電圧指令値V*がキャリアの最大値Vc1以上である。よって期間T12における電圧指令値V**は最大値Vc1以上の任意の値であってよい。同じく、電圧指令値V*がキャリアの最小値Vc2以下である期間において電圧指令値V**は最小値Vc2以下の任意の値であってよい。また期間の途中で電圧指令値V*が最大値Vc1を跨ぐ場合、又は電圧指令値V*が最小値Vc2を跨ぐ場合には、その期間(例えば期間T11,T13)における電圧指令値V**はその期間における電圧指令値V*の最小値より大きく最大値未満の値が採用されてもよい。またその期間における電圧指令値V*の平均値が最大値Vc1を超えていれば、その期間における電圧指令値V**は最大値Vc1以上の任意の値であってよい。またその期間における電圧指令値V*の平均値が最小値Vc2を下回っていれば、その期間における電圧指令値V**は最小値Vc2以下の任意の値であってもよい。
【0096】
また各期間において電圧指令値V*が最小値Vc2以上かつ最大値Vc1以下の間で変化していれば、電圧指令補正部31はその期間における電圧指令値V*を、その期間における電圧指令値V*の最大値と最小値との間の中間値に補正して、電圧指令値V**を生成する。例えば図14にいては期間T10における電圧指令値V**は、期間T10における電圧指令値V*の最大値V11と最小値V12との間の中間値である。
【0097】
かかる電圧指令値V**によっても、第1の実施の形態で説明したように、電圧指令値V**の周期T2における平均値を、電圧指令値V*の周期T2における平均値に近づけることができ、第1の実施の形態と同様の効果を招来する。
【0098】
また図14,15の例示では中間値として、各期間における電圧指令値V*の平均値を採用している。このとき理論的には電圧指令値V**の周期T2における平均値を、電圧指令値V*の周期T2における平均値と一致させることができ、第1の実施の形態と同様の効果を招来する。
【0099】
かかる電圧指令値V**は比較器33によってキャリアCと比較される。図16の例示では、キャリアCは制御周期T1と同じ周期を有している。またキャリアCはキャリア周期を有する各期間において増大して低減する。より詳細な一例としてキャリアCは二等辺三角波である。また図16の例示ではキャリアCの最大値Vc1及び最小値Vc2は最大値V1,最小値V2とそれぞれ一致しており、破線で示されたタイミングでキャリアCは最小値を採っている。なお、第1及び第2の実施の形態と同様に、最大値V1が最大値Vc1を超えており、最小値V2が最小値Vc2を下回わる例えば図15の電圧指令値V**が採用されても、以下の内容が妥当する。
【0100】
図16の例示では、電圧指令値V**がキャリアC以上であるときに、上側スイッチング素子を導通させ、下側スイッチング素子を非導通とする。かかる制御によって図16の出力電圧Vが出力される。本実施の形態では、上述したように電圧指令値V*の平均値に近い平均値を有する電圧指令値V**に基づいてスイッチング素子S1〜S6が制御される。したがって、出力電圧Vの周期T2における平均値を電圧指令値V*の周期T2における平均値に近づけることができ、第1の実施の形態と同様の効果を招来する。
【0101】
図17の例示では、キャリアCは制御周期T1と同じ周期を有し、各期間(期間同士の境界を除く)において互いに同じ変化率で単調に変化している。例えば図5と同様のキャリアCが採用される。これによって、図17の出力電圧Vが出力される。図17における出力電圧Vは最も広いパルスの前において2つのパルスを有し、その後において3つのパルスを有する。つまり、最も広いパルスの前に出力されるパルスの個数はその後に出力されるパルスの個数よりも一つ少ない。これは、以下の理由による。
【0102】
キャリアCが各期間において単調に減少するので、電圧指令値V**が中間値を採るときには電圧指令値V**は各期間の後半においてキャリアC以上となって相電圧Vが高電位を維持する。したがって、電圧指令値V**が最大値Vc1以上の値から中間値へと遷移する期間T13,T14の境界において相電圧Vは立ち下がり、期間T14の途中で相電圧Vは立ち上がる。よって期間T14においてパルスが出力される。図17の例示では電圧指令値V**が中間値を採る期間は期間T14に続いて2回連続するので、期間T14に続く2つの期間の各々においてパルスが出力される。他方、電圧指令値V**が中間値から最大値Vc1以上の値へと遷移する期間T11,T12の境界においては、相電圧Vは立ち下がらず高電位を維持し続ける。図17の例示では、電圧指令値V**が中間値を採る期間は期間T11の直前に2回連続するので、期間T11の前の2つの期間の各々においてパルスが出力される。したがって、電圧指令値V**が最大値を採る最も広いパルスの前には2つのパルスが出力され、その後には3つのパルスが出力される。つまり、最も広いパルスの前に出力されるパルスは、その後に出力されるパルスよりも1個少ない。
【0103】
一方で図16における出力電圧Vは、最も広いパルスの前後においてそれぞれ3つのパルスを有している。これは、次の理由による。電圧指令値V**が中間値を採る期間の各々において、相電圧Vが始期近くで立ち下がり、終期近くで立ち上がる。よって、電圧指令値V**が中間値を採る期間の一つにつき1つのパルスが出力される。図16の例示では、電圧指令値V**が最大値Vc1以上の値を採る前後において、電圧指令値V**が中間値を採る3つの期間が連続するので、最も広いパルスの前後においてそれぞれ3つのパルスが出力される。したがって、図17のキャリアCを採用すれば、図16のキャリアCを採用する場合に比べてスイッチング回数を低減できる。
【0104】
図18の例示でも、キャリアCは制御周期T1と同じ周期を有し、各期間(期間同士の境界を除く)において互いに同じ変化率で単調に変化している。例えば図8と同様のキャリアCが採用される。これによって図18の出力電圧が出力される。図18における出力電圧は最も広いパルスの前において3つのパルスを有し、その後において2つのパルスを有する。つまり、前において出力されるパルスの個数は後において出力されるパルスの個数よりも一つ少ない。これは、以下の理由による。
【0105】
キャリアCが各期間において単調に増加するので、電圧指令値V**が中間値を採るときには電圧指令値V**は各期間の前半においてキャリアC以上となって相電圧Vが高電位を維持する。したがって、電圧指令値V**が最大値Vc1以上の値から中間値へと遷移する期間T13,T14の境界において相電圧Vは立ち下がらず高電位を維持し続ける。図18の例示では電圧指令値V**が中間値を採る期間は期間T14に続いて2回連続するので、期間T14に続く2つの期間の各々においてパルスが出力される。他方、電圧指令値V**が中間値から最大値Vc1以上の値へと遷移する期間T11,T12の境界においては、相電圧Vは低電位から高電位へと立ち上がる。また期間T11とこれよりも前の2つの期間の各々においてもパルスが出力される。したがって、電圧指令値V**が最大値Vc1以上の値を採る比較的広いパルスの前には3つのパルスが出力され、その後には2つのパルスが出力される。つまり、最も広いパルスの後に出力されるパルスは、その前に出力されるパルスよりも1個少ない。したがって、図18のキャリアCを採用すれば、図16のキャリアCを採用する場合に比べてスイッチング回数を低減できる。
【0106】
なお、ここでは比較器33は電圧指令値V**がキャリアC以上であるときに上側スイッチング素子を導通させて下側スイッチング素子を非導通としている。ただし、第1の実施の形態と同様に、比較器33は電圧指令値V**がキャリアC以下であるときに上側スイッチング素子を導通させて下側スイッチング素子を非導通としてもよい。この場合であっても、図17,18のキャリアを採用すれば、図16のキャリアを採用する場合に比べてスイッチング回数を低減できる。
【0107】
また電圧指令値V**がキャリアの最大値Vc1以上の値を採る間(例えば期間T12〜期間T13)はキャリアに拠らずに相電圧Vは高電位を維持し続け、電圧指令値V**がキャリアの最小値Vc2以下の値を採る期間はキャリアに拠らずに相電圧Vは低電位を維持し続ける。よって、電圧指令値V**が最大値Vc1以上の値又は最小値Vc2以下の値を採る期間では、制御周期T1と同じ周期を有して各期間において増大して低減する、例えば二等辺三角波のキャリアを採用しても良い。またキャリアC1,C2の傾斜部分の変化率は一定でなくてもよく、それぞれ単調に減少、単調に増加していればよい。
【0108】
第4の実施の形態.
第4の実施の形態にかかるインバータの構成は図9の構成と同様である。ただし第4の実施の形態では電圧指令値V*が台形波である。ここでは、図14或いは図15に例示する電圧指令値V*が採用され、それぞれ図14或いは図15に例示するように電圧指令値V**が生成される。
【0109】
図19は電圧指令値とキャリアと出力電圧との一例を示している。なお以下では、最大値V1及び最小値V2がそれぞれ最大値Vc1及び最小値Vc2と一致する場合について説明する。しかしながら、第2の実施の形態と同様に、最大値V1が最大値Vc1よりも大きく、最小値V2が最小値Vc2よりも小さい場合であっても以下の内容が適用される。さて、図19に例示するように、標準的にはキャリア生成部32はキャリアC1を比較器33に出力する。
【0110】
電圧指令補正部31は、所定期間(例えば期間T15)において電圧指令値V**が最大値Vc1以上の値を採り、次の期間(例えば期間T16)において電圧指令値V**が最大値Vc1よりも小さい値を採るときには、その旨をキャリア生成部32に通知する。或いは電圧指令補正部31は、所定期間(例えば期間T19)において電圧指令値V**が最大値Vc1以上の値を採り、その一つ前の期間(例えば期間T18)において電圧指令値V**が最大値Vc1よりも小さい値を採るときには、その旨をキャリア生成部32に通知する。
【0111】
その旨が通知されたキャリア生成部32は当該次の期間(例えば期間T16)或いは当該一つ前の期間(期間T18)においてキャリアC2を比較器33に出力する。
【0112】
図19の例示において、期間T16にてキャリアC2が採用されれば、期間T15,T16の境界の前後で相電圧Vは高電位を維持する。よってこの境界の前後ではスイッチングパターンが変らない。したがってスイッチング回数を低減できる。なお図19の例示では、電圧指令値V**が減少傾向にあって中間値を採用する期間(例えば期間T17,T18)においても、キャリア生成部32はキャリアC2を比較器33に出力している。ただし、例えば期間T16にてキャリアC2が採用されていれば、期間T17,T18のキャリアは任意の三角波であってよい。また、期間T18においてキャリアC2が採用されれば、期間T18,T19の境界の前後で相電圧Vは低電位を維持する。よってこの境界の前後ではスイッチングパターンが変らない。したがってスイッチング回数を低減できる。また期間T18においてキャリアC2が採用されれば、期間T16,T17で採用されるキャリアは任意の三角波であってよい。
【0113】
かかる制御によって、電圧指令値V**が最大値Vc1以上の値を採る期間の最も広いパルスの前後においてそれぞれパルスの個数を一つ低減することができる。この理由は、図7,8の説明から理解できるので詳細な説明は省略する。したがって、第3の実施の形態に比べてスイッチング回数をさらに低減することができる。
【0114】
また第2の実施の形態と同様に、キャリア生成部32は標準的にキャリアC2を比較器33に出力し、電圧指令値V**が最大値Vc1以上の値を採る期間(例えば期間T14)の一つ前の期間であって、電圧指令値V**が最大値Vc1よりも低い値を採る期間(例えば期間T13)、若しくは電圧指令値V**が最小値Vc2以下の値を採る期間(例えば期間T10)の次の期間であって、電圧指令値V**が最小値Vc2よりも大きい値を採る期間(例えば期間T11)において、キャリアC1を比較器33に出力しても良い。
【0115】
図19の例示において、期間T13にてキャリアC1が採用されれば、期間T13,T14の境界の前後で相電圧Vは高電位を維持する。よってこの境界の前後ではスイッチングパターンが変らない。したがってスイッチング回数を低減できる。なお図19の例示では、電圧指令値V**が増大傾向にあって中間値を採用する期間(例えば期間T11,T12)においても、キャリア生成部32はキャリアC1を比較器33に出力している。ただし、期間T13にてキャリアC1が採用されていれば、期間T11,T12のキャリアは任意の三角波であってよい。また、期間T11においてキャリアC1が採用されれば、期間T10,T11の境界の前後で相電圧Vは低電位を維持する。よってこの境界の前後ではスイッチングパターンが変らない。したがってスイッチング回数を低減できる。また期間T11においてキャリアC1が採用されれば、期間T12,T13で採用されるキャリアは任意の三角波であってよい。
【0116】
また第2の実施の形態と同様に、電圧指令値V**が最大値Vc1以上の値を採る期間においてはキャリアの形状に拠らずに相電圧Vが高電位を維持し、電圧指令値V**が最小値Vc2以下の値を採る期間においてはキャリアの形状に拠らずに相電圧Vは低電位を維持し続ける。よって、図20に例示するように、これらの期間においては各期間で増大して低減する例えば二等辺三角波のキャリアC3を採用しても良い。
【0117】
またキャリアCが電圧指令値V**以上であるときに上側のスイッチング素子を導通させてもよい。この場合であっても、上述した条件でキャリアC1,C2を採用すれば、スイッチング回数を低減することができる。
【0118】
第5の実施の形態.
第5の実施の形態にかかるインバータの構成は図1の構成と同様である。ただし第5の実施の形態では、図21に例示するように電圧指令値V*は正弦波である。なお図21の例示では、図示を簡略するために各期間の長さを誇張して示している。この点は後述するほかの図においても同様である。
【0119】
電圧指令値V*が正弦波なので電圧指令値V*は所定周期T1を有する各期間T10〜T18において変化する。なお、図21の例示では、電圧指令値V*の最大値V1はキャリアCの最大値Vc1以下であり、電圧指令値V*の最小値V2はキャリアCの最小値Vc2以上である(図22も参照)。よって、電圧指令値V*は各期間T10〜T18においてキャリアCの最大値Vc1と最小値Vc2との間で変化する。
【0120】
したがって、電圧指令補正部31は図21に例示するように各期間T10〜T18における電圧指令値V*を、各期間T10〜T18における電圧指令値V*の最大値と最小値との間の中間値に補正して、電圧指令値V**を生成する。
【0121】
これによっても第1の実施の形態と同様に、電圧指令値V**の周期T2における平均値を電圧指令値V*に近づけることができる。ひいては、出力電圧のアンバランスを低減できる。しかも中間値として、各期間における電圧指令値V*の平均値を採用すれば、理論的には電圧指令値V**を電圧指令値V*の周期T2における平均値と一致させることができる。
【0122】
そして、かかる電圧指令値V**とキャリアCとの比較に基づいてインバータ1を制御すれば、図22に例示するようにインバータ1は出力電圧Vを出力する。電圧指令値V**の周期T2における平均値を電圧指令値V*の周期T2における平均値に近づけることができるので、出力電圧Vの周期T2における平均値を電圧指令値V*の周期T2における平均値に近づけることができる。
【0123】
図23の例示では、電圧指令値V*は正弦波である。また電圧指令値V*の最大値V1はキャリアCの最大値Vc1よりも大きく、電圧指令値V*の最小値V2はキャリアCの最小値Vc2よりも小さい(図24も参照)。かかる電圧指令値V*を採用するモードはいわゆる過変調モードとも呼ばれる。
【0124】
以下では、図21を参照して説明した電圧指令値V**の生成と異なる点を主に述べる。図23の例示では、期間T11において電圧指令値V*はキャリアCの最大値Vc1を超える。期間T11における電圧指令値V*は少なくとも最大値Vc1,最小値Vc2の間で変化するので、期間T11における電圧指令値V*の最小値より大きく最大値未満の中間値を採用して電圧指令値V**を生成する。図23の例示では、期間T11における電圧指令値V*の平均値が電圧指令値V**として採用される。
【0125】
次の期間T12においては電圧指令値V*は最大値Vc1より大きい。よって、期間T12における電圧指令値V*はキャリアCの最大値Vc1以上の値であれば、任意の値であってよい。どのような値が採用されても、期間T12における電圧指令値V*とキャリアCとの比較結果が変らないからである。図23の例示では期間T12における電圧指令値V**はキャリアCの最大値Vc1である。
【0126】
期間T12に続く期間T13,T14においては、期間T11と同様にして電圧指令値V**が生成される。
【0127】
次の期間T15において電圧指令値V*はキャリアCの最小値Vc2を下回る。電圧指令値V*は期間T15において少なくとも最大値Vc1,最小値Vc2の間で変化するので、期間T15における電圧指令値V*の最小値より大きく最大値未満の中間値を採用して電圧指令値V**を生成する。なお、図23の例示では、期間T15における電圧指令値V*の平均値は最小値Vc2以下である。よって平均値を採用するという観点では、期間T15における電圧指令値V**は最小値Vc2以下の任意の値であってよい。期間T15における電圧指令値V*の平均値を採用しても、最小値Vc2以下の任意の値を採用しても、キャリアCと電圧指令値V**との比較結果が変らないからである。図23の例示では、期間T15における電圧指令値V**は最小値Vc2である。
【0128】
なお、図23においては、例えば各期間T11,T13において電圧指令値V*の平均値が最大値Vc1を下回っている。よって、図23ではこの平均値が電圧指令値V**として採用されている。一方、例えば期間T11,T13において電圧指令値V*の平均値が最大値Vc1以上であれば、各期間T11,T13における電圧指令値V**として最大値Vc1以上の任意の値を採用してもよい。
【0129】
次の期間T16においても期間T15と同様である。期間T16に続く期間T17、T18においては例えば期間T14と同様である。
【0130】
かかる電圧指令値V**とキャリアCとの比較によって、図24に例示するように、出力電圧Vが出力される。
【0131】
ここで、従来のように各期間の始期における電圧指令値V*の値を電圧指令値V**として採用する場合について考慮する。図23を参照して、期間T12において電圧指令値V**は最大値Vc1を採る。一方、従来の方法であっても期間T12における電圧指令値V*は最大値Vc1以上である。なぜなら期間T12の始期における電圧指令値V*は最大値Vc1以上であるからである。よって期間T12においては、従来の方法であっても、本願の方法であっても、出力電圧は高電位を維持する。しかしながら、これ以外の期間では従来の方法に比して、図23に例示する各期間における電圧指令値V**の平均値を各期間における電圧指令値V*の平均値に近づけることができる。したがって、従来の方法に比して、図23に例示する電圧指令値V**の周期T2における平均値を電圧指令値V*の周期T2における平均値に近づけることができ、ひいては出力電圧Vの周期T2の平均値を電圧指令値V*の周期T2における平均値に近づけることができる。これによって出力電圧のアンバランスを低減できる。
【0132】
なお、図23,24の例示では、電圧指令値V**の最大値が最大値Vc1以上であり、電圧指令値V**の最小値が最小値Vc2以下である。したがって、図10,11,19,20を参照して説明したようにキャリアC1,C2が採用されてもよい。この場合であれば、第2又は第4の実施の形態と同様にスイッチング回数を低減することができる。
【符号の説明】
【0133】
1 インバータ
C,C1,C2 キャリア
P1,P2 入力端
Pu,Pv,Pw 出力端
S1〜S6 スイッチング素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スイッチング素子(S1〜S6)を有し、第1値(Vc1)及び第2値(Vc2)をそれぞれ最大値及び最小値とするキャリアと、出力電圧についての電圧指令値(V*,V**)との比較に基づいて前記スイッチング素子を制御して前記出力電圧を出力する、電力変換装置(1)の制御方法であって、
所定の制御周期を有する期間における前記電圧指令値(V*)が、少なくとも前記第2値以上かつ前記第1値以下の間で変化し、かつ当該期間たる変動期間における前記電圧指令値の平均値が前記第2値より大きく前記第1値未満の値であるときに、前記変動期間における前記電圧指令値を前記平均値に補正する、電力変換装置の制御方法。
【請求項2】
前記キャリアは、前記変動期間の各々において単調に変化し、前記変動期間の各々における前記キャリアの変化率の極性は互いに同じである、請求項1に記載の電力変換装置の制御方法。
【請求項3】
前記電力変換装置(1)には、第1入力端(P1)と、前記第1入力端の電位よりも低い電位が印加される第2入力端(P2)と、出力端(Pu,Pv,Pw)とが接続され、
前記スイッチング素子(S1〜S6)は、前記第1入力端と前記出力端との間に接続される上側スイッチング素子(S1〜S3)と、前記第2入力端と前記出力端との間に接続される下側スイッチング素子(S4〜S6)とを含み、
前記期間(T10〜T19)のうち、前記補正後の前記電圧指令値が前記第1値以上の値を採る期間(T15)の次の期間であって、前記補正後の前記電圧指令値が前記第1値より小さい値を採る期間(T16)において、前記キャリアとして単調に増加する単調増加キャリア(C2)を採用する、請求項1に記載の電力変換装置の制御方法。
【請求項4】
前記電力変換装置(1)には、第1入力端(P1)と、前記第1入力端の電位よりも低い電位が印加される第2入力端(P2)と、出力端(Pu,Pv,Pw)とが接続され、
前記スイッチング素子(S1〜S6)は、前記第1入力端と前記出力端との間に接続される上側スイッチング素子(S1〜S3)と、前記第2入力端と前記出力端との間に接続される下側スイッチング素子(S4〜S6)とを含み、
前記期間(T10〜T19)のうち、前記補正後の前記電圧指令値が前記第2値(Vc2)以下の値を採る期間(T19)の一つ前の期間であって、前記補正後の前記電圧指令値が前記第2値より大きい値を採る期間(T18)において、前記キャリアとして単調に増加する単調増加キャリア(C2)を採用する、請求項1又は3に記載の電力変換装置の制御方法。
【請求項5】
前記電力変換装置(1)には、第1入力端(P1)と、前記第1入力端の電位よりも低い電位が印加される第2入力端(P2)と、出力端(Pu,Pv,Pw)とが接続され、
前記スイッチング素子(S1〜S6)は、前記第1入力端と前記出力端との間に接続される上側スイッチング素子(S1〜S3)と、前記第2入力端と前記出力端との間に接続される下側スイッチング素子(S4〜S6)とを含み、
前記期間(T10〜T19)のうち、前記補正後の前記電圧指令値が前記第1値(Vc1)以上の値を採る期間(T14)の一つ前の期間であって、前記補正後の前記電圧指令値が前記第1値より小さい値を採る期間(T13)において、前記キャリアとして単調に減少する単調減少キャリア(C1)を採用する、請求項1,3,4のいずれか一つに記載の電力変換装置の制御方法。
【請求項6】
前記電力変換装置(1)には、第1入力端(P1)と、前記第1入力端の電位よりも低い電位が印加される第2入力端(P2)と、出力端(Pu,Pv,Pw)とが接続され、
前記スイッチング素子(S1〜S6)は、前記第1入力端と前記出力端との間に接続される上側スイッチング素子(S1〜S3)と、前記第2入力端と前記出力端との間に接続される下側スイッチング素子(S4〜S6)とを含み、
前記期間(T10〜T19)のうち、前記補正後の前記電圧指令値が前記第2値(Vc2)以下の値を採る期間(T10)の次の期間であって、前記補正後の前記電圧指令値が前記第2値より大きい値を採る期間(T11)において、前記キャリアとして単調に減少する単調減少キャリア(C1)を採用する、請求項1,3から5の何れか一つに記載の電力変換装置の制御方法。
【請求項7】
補正前の前記電圧指令値(V*)は矩形波である請求項1に記載の電力変換装置の制御方法を実行して、前記出力電圧の一周期内において3つのパルスを有する前記出力電圧を出力する、電力変換装置。
【請求項8】
補正前の前記電圧指令値(V*)が矩形波である請求項2に記載の電力変換装置の制御方法を実行して、前記出力電圧の一周期内において2つのパルスを有する前記出力電圧を出力する、電力変換装置。
【請求項9】
補正前の前記電圧指令値(V*)が矩形波である、請求項3又は4に従属する請求項5、或いは請求項3又は4に従属する請求項6に記載の電力変換装置の制御方法を実行して、前記出力電圧の一周期内において1つのパルスを有する前記出力電圧を出力する、電力変換装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【公開番号】特開2012−110087(P2012−110087A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−255653(P2010−255653)
【出願日】平成22年11月16日(2010.11.16)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】