説明

電力変換装置

【課題】整流回路およびインバータの各々に好適な電圧駆動形半導体素子を採用することによりコストを低くできる電力変換装置を提供する。
【解決手段】交流電圧を直流電圧に変換する整流回路3と、整流回路で得られた直流電圧を所望の電圧および周波数を有する交流電圧に変換して負荷2に供給するインバータ5を備え、整流回路およびインバータの各々に含まれる電力変換器16、6は、特性の異なる電圧駆動形半導体素子を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被駆動体の制御、例えば電動機の可変速制御を行う電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図3は、従来の電力変換装置の構成を示すブロック図である。この電力変換装置は、電力系統電源1、負荷2、整流回路11、平滑回路4およびインバータ5を備えている。電力系統電源1は、電力系統から入力端子1aに供給される商用周波数の電源である。負荷2は、例えば三相交流電動機から構成されている。
【0003】
整流回路11は、電力系統電源1から入力端子1aを介して供給される三相交流を直流に変換し、平滑回路4を介してインバータ5に送る。平滑回路4は、例えば直流コンデンサから構成されており、整流回路11から出力される直流電圧の変動を小さくしてインバータ5に送る。インバータ5は、整流回路11から平滑回路4を介して送られてくる直流を三相交流に変換し、出力端子2aを介して負荷2に供給する。
【0004】
整流回路11およびインバータ5の各々は、同一構造を有する6個の逆導通型パワーデバイス(以下、「電力変換器」という)6を備えており、各電力変換器6は、半導体素子7およびこれに逆並列に接続された環流ダイオード8を備えている。
【0005】
次に、上記のように構成される従来の電力変換装置の動作を説明する。通常は、電力系統電源1から供給された電力は、整流回路11において三相交流から直流に変換され、この直流の電圧変動が平滑回路4で小さくされ、その後、インバータ5に送られる。そして、インバータ5で再び直流から三相交流に変換されて負荷2に常時供給される。
【0006】
このような電力変換装置では、電力変換器6に含まれる半導体素子7をオン/オフさせることにより所望の電力変換が行われている。大容量の電力用半導体素子としては、電流駆動形半導体素子や電圧駆動形半導体素子が挙げられるが、電流駆動形半導体素子は、機器の小型化や高周波スイッチングなどに難点があるので、電力分野では、主に電圧駆動形半導体素子の使用されている。
【0007】
IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)に代表される電圧駆動形半導体素子は、一般にオン電圧が高いが、現在の電力分野で用いられる半導体素子の主流となっており、汎用性が高い。最近では、IGBTの基本特性であるオン電圧が高いという点を改善し、IGBTに比べて高圧・大容量化を実現した新たな電圧駆動形半導体素子IEGT(Injection Enhanced Gate Transistor)が開発されている。
【0008】
例えば、鉄鋼圧延主機に用いられる電動機のような過負荷、低速度大容量且つ力行・回生運転を行う場合、高圧・大容量でスイッチング可能な電圧駆動形半導体素子を整流回路11およびインバータ5に用いた電力変換装置が必要とされる。また、上述した高圧・大容量の電力変換装置の場合、大トルクの四象限運転が必要であることに加え、稼働後の保守性を考慮して、一般に、整流回路11およびインバータ5に同じ電圧駆動形半導体素子、例えば通電能力(電流を流す能力)が高いIEGTが使用される。
【0009】
ところで、個々の半導体素子が許容できる印加電圧および通電電流は、その構造や製造方法によって異なる。通常、半導体素子は、素子破壊に至らないような絶縁耐力を有しているが、絶縁耐力以上の電圧が印加されると素子破壊に至る。そのため、1つの半導体素子では負荷に印加される電圧を許容できない場合、複数個の半導体素子を直列に接続し、分圧された電圧が各半導体素子に印加されるようにした電力変換装置も知られている。
【0010】
なお、関連する技術として、特許文献1は、直流コンデンサに接続される複数の半導体電力変換装置の順変換容量や逆変換容量を異ならせることができ、様々な負荷に応じて、より適切な半導体電力変換装置を選定できる電力変換システムを開示している。また、特許文献2は、単相インバータを異なる素子によって構成することにより損失を低減させる技術を開示しており、特許文献3は、1台のコンバータ装置で容量の異なる複数のインバータ群に対応する技術を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2002−335680号公報
【特許文献2】特開2004−7941号公報
【特許文献3】特開2001−54284号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上述した従来の電力変換装置におけるインバータは、負荷に必要な皮相電力(有効電力と無効電力を合算した電力)を供給するものである。例えば、負荷が誘導電動機である場合、過負荷運転などの運転方法や弱め界磁制御などの制御方法にもよるが、電動機に必要とされる1次電圧、1次電流、電動機力率および電動機効率がインバータを決定するためのパラメータとなる。これに対し、整流回路(コンバータ)は、インバータに必要な有効電力を供給するものである。整流回路容量は、負荷の無効電力を必ずしも要求せず、インバータ容量が整流回路を決定するためのパラメータとなる。
【0013】
この整流回路は、その主回路を構成する半導体素子がインバータと同じ半導体素子で構成されるため、電動機負荷に対し本来必要とされる容量以上の容量を持つことになり、結果として整流回路はインバータに比べ余剰容量を有することになる。
【0014】
また、上述した半導体素子のコストは、電力変換装置全体のコストに占める割合が高い。図3に示した従来の電力変換装置に用いられるIEGTは、IGBTが有する優れたスイッチング特性を持ち、さらにIGBTに比べ高圧・大容量を実現した素子であるため、従来のIGBTに比べ素子の通電能力は高い。しかしながら、従来のIGBTに比べ製造工程が複雑で汎用性が低く、半導体素子のコストが高いので、電力変換装置が高価になるという問題がある。
【0015】
なお、従来のIGBTは、IEGTに比べ半導体素子の通電能力は劣るが、電力分野で主流となっている電圧駆動形半導体素子であり、IEGTに比べて製造が容易で、且つ汎用性が高いため、半導体素子のコストが低い。
【0016】
本発明は、このような問題を解消するためになされたものであり、その課題は、整流回路およびインバータの各々に好適な電圧駆動形半導体素子を採用することによりコストを低くできる電力変換装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記の課題を解決するために、請求項1記載の電力変換装置は、交流電圧を直流電圧に変換する整流回路と、整流回路で得られた直流電圧を所望の電圧および周波数を有する交流電圧に変換して負荷に供給するインバータを備え、整流回路およびインバータの各々に含まれる電力変換器は、特性の異なる電圧駆動形半導体素子を備えていることを特徴とする。
【0018】
また、請求項2記載の電力変換装置は、整流回路を構成する電力変換器はIGBTから成り、インバータを構成する電力変換器はIEGTから成ることを特徴とする。
【0019】
また、請求項3記載の電力変換装置は、電力変換器と、該電力変換器を除く回路との接続は、電圧駆動形半導体素子の特性によらず同一箇所で行われる構造を有することを特徴とする。
【0020】
さらに、請求項4記載の電力変換装置は、インバータとして、整流回路で得られた直流電圧を所望の電圧および周波数を有する交流電圧に変換して第1負荷に供給する第1インバータと、整流回路で得られた直流電圧を所望の電圧および周波数を有する交流電圧に変換して第2負荷に供給する第2インバータを備え、整流回路は、第1負荷と第2負荷とが同時に運転することがない運転条件のときは、第1インバータまたは第2インバータのいずれか1つに必要な直流電圧を供給することを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
請求項1記載の発明によれば、電力変換装置を構成する整流回路およびインバータの各々に好適な電圧駆動形半導体素子を用いることにより、例えば整流回路に汎用性が高く低コストの電圧駆動形半導体素子を用いることにより、整流回路はインバータに必要な直流電圧を供給でき、インバータは負荷に必要な電力を供給できるので、電力変換装置全体のコストを低くできる。
【0022】
また、請求項2記載の発明によれば、整流回路を構成する電力変換器として通電能力が低い安価なIGBTを使用し、インバータを構成する電力変換器として通電能力が高いIEGTを使用したので、整流回路は、負荷に対し本来必要とされる以上の容量を持つことがなくなり、インバータに比べ余剰容量を有することもなくなる。その結果、電力変換装置全体のコストを低くできる。
【0023】
また、請求項3記載の発明によれば、整流回路とインバータの電力変換器は、電力変換器以外の回路と接続箇所が同じなので、電力変換器の構成を考慮する必要がなく、電力変換装置が製造しやすく、汎用性の高い電力変換装置を提供できる。
【0024】
また、請求項4記載の発明によれば、整流回路を構成する半導体素子に必要な通電能力は、第1インバータまたは第2インバータのいずれかに必要な通電能力であればよいので、整流回路に必要な容量は第1負荷または第2負荷のいずれかの有効電力で決めることができる。その結果、整流回路には通電能力が低い安価なIGBTを用いることができるので、電力変換装置全体のコストを低くできる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施例1に係る電力変換装置の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施例2に係る電力変換装置の構成を示すブロック図である。
【図3】従来の電力変換装置の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
【実施例1】
【0027】
図1は、本発明の実施例1に係る電力変換装置の構成を示すブロック図である。なお、以下においては、図3に示した従来の電力変換装置の構成要素と同一または相当する部分には図3で使用した符号と同一の符号を付して説明する。この電力変換装置は、電力系統電源1、負荷2、整流回路3、平滑回路4およびインバータ5を備えている。
【0028】
電力系統電源1は、電力系統から入力端子1aに供給される商用周波数の電源である。負荷2は、例えば三相交流電動機から構成されている。整流回路3は、電力系統電源1から入力端子1aを介して供給される三相交流を直流に変換し、平滑回路4を介してインバータ5に送る。平滑回路4は、例えば直流コンデンサから構成されており、整流回路3から出力される直流電圧の変動を小さくしてインバータ5に送る。インバータ5は、整流回路3から平滑回路4を介して送られてくる直流を三相交流に変換し、出力端子2aを介して負荷2に供給する。
【0029】
負荷2を最適に動作させるために、整流回路3およびインバータ5の各々には最適な半導体素子が用いられている。具体的には、整流回路3を構成する同一構造を有する6個の電力変換器16の半導体素子としては、負荷2に無効電力を供給する必要がないので、通電能力が低い安価なIGBTが用いられている。各電力変換器16は、半導体素子17およびこれに逆並列に接続された環流ダイオード18を備えている。また、インバータ5を構成する同一構造の6個の電力変換器6の半導体素子としては、負荷2に皮相電力を供給するために、従来と同様に、通電能力が高いIEGTが用いられている。
【0030】
次に、上記のように構成される実施例1に係る電力変換装置の動作を説明する。電力系統電源1から供給される電力は、整流回路3において三相交流から直流に変換され、この直流の電圧変動が平滑回路4で小さくされ、その後、インバータ5に送られる。そして、インバータ5では、入力された直流が再び三相交流に変換され、負荷2に常時供給される。
【0031】
この電力変換装置においては、整流回路3およびインバータ5の各々に特性の異なる電圧駆動形半導体素子が用いられている。すなわち、整流回路3は、インバータ5に必要な直流電圧を供給できればよく、整流回路3に必要な容量は負荷の有効電力で決めることができるため、整流回路3の電力変換器16には通電能力が低い安価なIGBTが用いられている。
【0032】
また、整流回路3を構成する6個の電力変換器16は同一構造を有し、また、インバータ5を構成する6個の電力変換器6も同一構造を有する。したがって、電力変換器と主回路との接続形状が同一になるように構成できる。これにより、電力変換器を交換する場合は、整流回路3およびインバータ5の各々の電力変換器を容易に交換できるので、万が一故障が発生しても復旧作業を短縮することができる。
【実施例2】
【0033】
図2は、実施例2に係る電力変換装置の構成を示すブロック図である。この電力変換装置は、電力系統電源1、第1負荷21、第2負荷22、共通整流回路31、平滑回路4、第1インバータ51および第2インバータ52を備えている。電力系統電源1は、電力系統から入力端子1aに供給される商用周波数の電源である。第1負荷21および第2負荷22は、例えば三相交流電動機から構成されている。
【0034】
共通整流回路31は、電力系統電源1から入力端子1aを介して供給される三相交流を直流に変換し、平滑回路4を介して第1インバータ51および第2インバータ52に共通に送る。平滑回路4は、例えば直流コンデンサから構成されており、共通整流回路31から出力される直流電圧の変動を小さくして第1インバータ51および第2インバータ52に送る。
【0035】
第1インバータ51は、共通整流回路31から平滑回路4を介して送られてくる直流を三相交流に変換し、出力端子21aを介して第1負荷21に供給する。同様に、第2インバータ52は、共通整流回路31から平滑回路4を介して送られてくる直流を三相交流に変換し、出力端子22aを介して第2負荷22に供給する。
【0036】
第1負荷21および第2負荷22を最適に動作させるために、共通整流回路31、第1インバータ51および第2インバータ52に最適な半導体素子が用いられている。具体的には、共通整流回路31を構成する同一構造を有する6個の電力変換器16の半導体素子としては、負荷に無効電力を供給する必要がないので、通電能力が低い安価なIGBTが用いられている。第1インバータ51および第2インバータ52の各々を構成する同一構造の6個の電力変換器6の半導体素子としては、負荷に皮相電力を供給するために、従来と同様に、通電能力が高いIEGTが用いられている。
【0037】
次に、上記のように構成される実施例2に係る電力変換装置の動作を説明する。電力系統電源1から供給される電力は、共通整流回路31によって三相交流から直流に変換される。共通整流回路31で発生された直流は、平滑回路4を介して第1インバータ51および第2インバータ52に送られる。第1インバータ51および第2インバータ52は、入力された直流を三相交流に変換し、第1負荷21および第2負荷22へそれぞれ常時供給する。
【0038】
一般的な電力変換装置は1つの負荷に対応して1つの整流回路およびインバータの組で構成されるが、共通整流回路31は、負荷の運転条件を考慮した場合、例えば複数ある負荷が同時に運転することがない運転条件のときは、整流回路は複数の負荷の中の1つに必要な直流をインバータに供給すればよい。
【0039】
すなわち、共通整流回路31を構成する半導体素子に必要な通電能力は、第1インバータ51または第2インバータ52のいずれかに必要な通電能力であればよい。したがって、共通整流回路31に必要な容量は第1負荷21または第2負荷22のいずれかの有効電力で決めることができるため、共通整流回路31には通電能力が低い安価なIGBTを用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0040】
この発明は、被駆動体である電動機用の電力変換装置のみならず、電力変換装置全般に適用することが可能である。
【符号の説明】
【0041】
1 電力系統電源
2 負荷
3 IGBTを用いた整流回路
4 平滑コンデンサ
5 インバータ
6、16 電力変換器(逆導通型パワーデバイス)
7、17 半導体素子
8、18 環流ダイオード
11 IEGTを用いた整流回路
21 第1負荷
22 第2負荷
31 共通整流回路
51 第1インバータ
52 第2インバータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流電圧を直流電圧に変換する整流回路と、
前記整流回路で得られた直流電圧を所望の電圧および周波数を有する交流電圧に変換して負荷に供給するインバータを備えた電力変換装置において、
前記整流回路および前記インバータの各々に含まれる電力変換器は、特性の異なる電圧駆動形半導体素子を備えていることを特徴とする電力変換装置。
【請求項2】
前記整流回路を構成する電力変換器はIGBTから成り、前記インバータを構成する電力変換器はIEGTから成ることを特徴とする請求項1記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記電力変換器と、該電力変換器を除く回路との接続は、前記電圧駆動形半導体素子の特性によらず同一箇所で行われる構造を有することを特徴とする請求項1記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記インバータは、
前記整流回路で得られた直流電圧を所望の電圧および周波数を有する交流電圧に変換して第1負荷に供給する第1インバータと、
前記整流回路で得られた直流電圧を所望の電圧および周波数を有する交流電圧に変換して第2負荷に供給する第2インバータを備え、
前記整流回路は、前記第1負荷と第2負荷とが同時に運転することがない運転条件のときは、前記第1インバータまたは第2インバータのいずれか1つに必要な直流電圧を供給することを特徴とする請求項1記載の電力変換装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−253916(P2012−253916A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−124985(P2011−124985)
【出願日】平成23年6月3日(2011.6.3)
【出願人】(501137636)東芝三菱電機産業システム株式会社 (904)
【Fターム(参考)】