説明

電力用半導体スイッチおよび電力変換装置

【課題】高周波・低損失を損なうことなくリンギングノイズを低減できる電力用半導体スイッチおよびこれを用いた電力変換装置を得ることを目的とする。
【解決手段】電力変換装置15において相補スイッチング動作を行うために用いられる電力用半導体スイッチ3であって、FET1と、FET1に対して逆並列に接続されたワイドバンドギャップ半導体材料からなる還流ダイオード2と、を備え、電力変換装置15との第1の接続配線LsからFET1を経由して電力変換装置15における第2の接続配線Ldにいたる回路部材の電気抵抗より、第1の接続配線Lsから還流ダイオード2を経由して第2の接続配線Ldにいたる回路部材の電気抵抗の方が大きくなるように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電界効果トランジスタとワイドギャップ半導体のダイオードを用いた電力用半導体スイッチおよびこれを用いた電力変換装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電力変換装置の大出力化、小型・高効率化が要求され、電子部品の進化が著しい。特に、炭化珪素(SiC)や窒化ガリウム(GaN)などのワイドバンドギャップ半導体材料を用いた半導体素子(ワイドバンドギャップ半導体素子)は、損失の低減が可能であり、高温動作も可能なことから、大出力化、小型・高効率化が実現できる電子部品として注目されている。
【0003】
電力変換装置の構成として、スイッチング素子とスイッチング素子に対して逆向きに並列(逆並列)に接続された整流素子である還流ダイオードにより構成された電力用半導体スイッチの2組と、電圧源として機能するコンデンサと、を直列接続し、2組の半導体スイッチのそれぞれのスイッチング素子が相補的にスイッチング動作を行うように回路構成したものがある。このような回路構成において、スイッチング素子にFET(Field effect transistor:電界効果トランジスタ)を用いた場合、還流ダイオードを用いずに、FETに内蔵寄生するダイオード(ボディーダイオード)を用いることができる。しかし、還流ダイオードに、高速動作が可能なSBD(Schottky Barrier Diode:ショットキーバリアダイオード)などを用いることにより、スイッチング動作の特性改善が実現できるため、還流ダイオードを用いることが多い。
【0004】
そして、FETや還流ダイオードに上述したワイドバンドギャップ半導体材料を用いた場合、従来のSi系材料を用いた場合に比べて、高温動作が可能であり、またスイッチング損失が小さい。そのため、シリコン半導体をワイドバンドギャップ半導体に置き換えることにより、半導体の面積を小さくしたり、半導体を冷却する冷却器を簡素化したりすることが可能となる。また、高周波スイッチング化により、コンデンサやリアクトルなどの受動部品の小型化が可能となり、装置の小型化が可能となる。
【0005】
上記のような構成に対し、例えば、ボディダイオードがバイポーラ動作することにより、FETが劣化するのを防止するため、還流ダイオードの通電開始電圧をボディダイオードの通電開始電圧よりも低くする、つまり還流ダイオードの抵抗が小さくなるようにしていた電力変換回路が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。また、還流ダイオードにワイドバンドギャップ半導体を用いた場合、還流ダイオードは低損失でほとんど発熱しないことから、還流ダイオードをスイッチング素子の上に実装して装置の小型化を図った半導体パワーモジュール(電力用半導体装置)が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。また、電力用半導体装置では、サージやリカバリ電流などのノイズ、スイッチング損失の低減を行うため、回路の配線長を減らして回路の寄生インダクタンスを減らすことが一般的に行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−305836号公報(段落0007〜0009、図1〜図3)
【特許文献2】特開2005−5593号公報(段落0028〜0039、図2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、ワイドギャップ半導体を用いた電力用半導体スイッチにおいては、ワイドギャップ半導体のスイッチング速度が速いことで逆にリンギングノイズが発生しやすい。特にFETとワイドギャップ半導体の還流ダイオードとを組み合わせた電力用半導体スイッチでは、スイッチング速度が速いことに加え、ダイオード電流がゼロとなり逆電圧が印加されると形成される空乏層により、カソード−アノード間の接合容量が大きくなるため、リンギングノイズが大きくなりやすい。そのため、上記のように回路の寄生インダクタンスを減らすために配線長を短くすると、回路の電気抵抗が小さくなり、リンギングノイズが減衰しにくいことから、リンギングノイズが高周波化・低損失化の妨げになるという課題がある。また、リンギングノイズ防止のためにスイッチング速度を遅くすると、スイッチング損失の増加や高周波化できないなどといった問題が発生する。また、上記特許文献のような構成でも、回路の電気抵抗が小さくなり、リンギングノイズが減衰せずに高周波化・低損失化の妨げになるという課題が顕著になる。つまり、電力用半導体スイッチにおいては、リンギングノイズの低減と、高周波化・低損失化とはトレードオフの関係となり、両立させることが困難であった。
【0008】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、FETとワイドギャップ半導体の還流ダイオードで構成した電力用半導体スイッチにおいて、相補スイッチング動作したときに、高周波・低損失を損なうことなくリンギングノイズを低減できる電力用半導体スイッチおよびこれを用いた電力変換装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の電力用半導体スイッチは、電力変換装置において相補スイッチング動作を行うために用いられる電力用半導体スイッチであって、電界効果トランジスタと、前記電界効果トランジスタに対して逆並列に接続されたワイドバンドギャップ半導体材料からなる還流ダイオードと、を備え、前記電力変換装置における第1の接続配線から前記電界効果トランジスタを経由して前記電力変換装置における第2の接続配線にいたる回路部材の電気抵抗より、前記第1の接続配線から前記還流ダイオードを経由して前記第2の接続配線にいたる回路部材の電気抵抗の方が大きいことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の電力用半導体スイッチによれば、還流ダイオード側の回路部材の方が電界効果トランジスタ側の回路部材よりも電気抵抗が高いので、発生したリンギングノイズが抵抗の大きい配線を通る際に減衰される。そのため、高周波・低損失を損なうことなくリンギングノイズを低減できる電力用半導体スイッチおよびこれを用いた電力変換装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施の形態1にかかる電力用半導体スイッチの構成を説明するための断面図および回路図である。
【図2】本発明の実施の形態1にかかる電力用半導体スイッチを用いた電力変換装置の構成を説明するための回路図である。
【図3】本発明の実施の形態1にかかる電力用半導体スイッチを構成するFETと還流ダイオードの電圧電流特性を示す図である。
【図4】本発明の実施の形態1にかかる電力用半導体スイッチ内においてFETがオン状態とオフ状態のときに負の向きの電流の流れる状態を表した図である。
【図5】本発明の実施の形態1にかかる電力用変換装置において相補スイッチングの動作を示す波形図である。
【図6】本発明の実施の形態1の変形例にかかる電力用半導体スイッチの構成を説明するための断面図と回路パターン部分の平面図である。
【図7】本発明の実施の形態1にかかる電力用半導体スイッチの構成を説明するための断面図である。
【図8】本発明の実施の形態1の変形例にかかる電力用半導体スイッチの構成を説明するための断面図である。
【図9】本発明の実施の形態3にかかる電力用半導体スイッチの構成を説明するための断面図と電極板の平面図と、部分拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
実施の形態1.
本発明の実施の形態1にかかる電力変換装置の特徴は、FETとFETに逆向きに並列接続されるワイドバンドギャップ半導体の還流ダイオードとで構成する電力用半導体スイッチにおいて、FETに接続する配線と還流ダイオードに接続する配線間の抵抗の関係を調整したものである。以下、図に基づいて説明する。
【0013】
図1〜図5は、本発明の実施の形態1にかかる電力用半導体スイッチおよびこれを用いた電力変換装置を説明するためのものであり、図1は電力用半導体スイッチの構成を説明するためのもので、図1(a)は電力用半導体スイッチの部材構成を示す断面図、図1(b)は電力用半導体スイッチの回路構成を示す図、図2は電力用半導体スイッチを用いた電力変換装置の回路構成を示す図、図3は電力用半導体スイッチを構成するFETと還流ダイオードの電圧・電流特性を示す図、図4は電力変換装置内での電力用半導体スイッチの動作を説明するためのもので、図4(a)は電力用半導体スイッチの電流の向きが負で、FETがオン状態の時の電流を示す回路図、図4(b)は電力用半導体スイッチの電流の向きが負で、FETがオフ状態の時の電流を示す回路図である。また、図5(図5(a)〜図5(f2))は電力変換装置内での相補スイッチングの動作を説明するための波形図である。
【0014】
本実施の形態1にかかる電力用半導体スイッチでは、図1(b)に示すように、スイッチング素子であるFET1と、FET1に逆向きで並列に接続されるワイドギャップ半導体からなる還流ダイオード2により、電力用半導体スイッチ3が構成される。FET1は、板状をなし、一方の面に形成されたソース電極(面)1sと、他方の面に形成されたドレイン電極(面)1dと、図示しないゲート電極(部)と、絶縁を確保するために電極面の周囲に設置されたガードリング1gとを有している。還流ダイオード2も板状をなし、一方の面に形成されたアノード電極2a(面)と、他方の面に形成されたカソード電極2c(面)と、絶縁を確保するために電極面の周囲に設置されたガードリング2gとを有する。MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field-Effect-Transistor)などの電力用のFET1は、縦型構造をとるため一方の面がソース電極1s、もう一方の面がドレイン電極1dになる。なお、ゲート電極の配置については、本発明の技術思想により制約を受けるものではないので、記載を省略する。
【0015】
そして、図1(a)に示すように、FET1のドレイン電極1dと還流ダイオード2のカソード電極2cを金属基板8の図中上側の面に接合材5を用いて実装する。金属基板8は、図中上側に面を露出する金属板8cと、金属板8cの裏面に設けた絶縁被膜8iとで構成され、金属板8cが露出する導電面内は導電性を有し、絶縁被膜8iは絶縁性である。そして、絶縁被膜8i側には、グリスなどの放熱材9を介してヒートシンク10を設置し、FET1の発熱がヒートシンク10より放熱されるようにしている。
【0016】
そして、FET1のソース電極1sには、接合材5を用いて、図示しない外部回路と接続するためのソース側電極板6sを接合する。なお、ソース側電極板6sは、金属基板8(厳密には金属板8c)との絶縁を確保するため、ガードリング1g端面部分にて、ソース電極1sとの接合部分から金属基板8と逆の方向へ曲げられた後、図示しない外部回路側に延びていく。ドレイン側電極板6dの一端を金属基板8の導電面に接合し、他端を図示しない外部回路側に延ばす。これにより、ソース側電極板6sとドレイン側電極板6dをそれぞれ外部回路と接続することができる。そして、ソース側電極板6sと還流ダイオード2のアノード電極2aとをボンディングワイヤ4で電気接続すると、図1(b)に示すような回路が形成される。なお、本実施の形態では接合材5としてはんだを用いたが、これに限られることはなく、焼結性銀ペースト等、その他の導電性接合材を用いることができる。
【0017】
図1(a)と図1(b)とを比較すると、電力用半導体スイッチ3にとって外部回路となる電力変換装置内のソース側の給電経路LsとFET1のソース電極1sとを電気接続する回路部材は、接合材5とソース側電極板6sとなり、給電経路Lsと還流ダイオード2のアノード電極2aとを電気接続する回路部材は、ボンディングワイヤ4とソース側電極板6sとなる。同様に、ドレイン側の給電経路LdとFET1のドレイン電極1dとを電気接続する回路部材は、接合材5と金属板8cとドレイン側電極板6dとなり、給電経路Ldと還流ダイオード2のカソード電極2cとを電気接続する回路部材は、接合材5と金属板8cとドレイン側電極板6dとなる。
【0018】
ここで、ソース側の給電経路Lsとソース電極1sとを電気接続する回路部材と給電経路Lsとアノード電極2aとを電気接続する回路部材との合流部をJsとし、ドレイン側の給電経路Ldとドレイン電極1dとを電気接続する回路部材と給電経路Ldとカソード電極2cとを電気接続する回路部材との合流部をJdとする。そして、回路部材を共用している合流部より給電経路側の部分を除いた、FET1または還流ダイオード2が専有する回路部材に着目する。すると、還流ダイオード2と給電経路とを電気接続する回路部材のうち、カソード電極2cから合流部Jdまでの回路部材は接合材5、アノード電極2aから合流部Jsまでの回路部材は、ボンディングワイヤ4となる。同様に、FET1と外部経路との配線のうち、ドレイン電極1dから合流部Jdまでの回路部材は接合材5の厚み方向と金属板8c、ソース電極1sから合流部Jsまでの回路部材は、接合材5およびソース側電極板6sの厚み方向となる。
【0019】
接合材5やソース側電極板6sの厚み方向の抵抗および金属板8cの抵抗と、ボンディングワイヤ4の抵抗を比べると、線径の細いボンディングワイヤ4の抵抗の方が大きい。したがって、外部回路と還流ダイオード2を結ぶ配線材(2c〜Jd間および2a〜Js間)の抵抗は、外部回路とFET1を結ぶ配線材(1d〜Jd間および1s〜Js間)の抵抗より大きくなっている。
【0020】
このように構成した電力用半導体スイッチ3の2つを1組(組となる電力用半導体スイッチのそれぞれを3A、3Bと称する。)とし、図2に示すように、電力変換装置であるハーフブリッジインバータ15を構成した。電力変換装置15は、ゲート信号を生成する図示しないマイコンと、マイコンからの信号を伝達する図示しないゲート駆動回路とからなるゲート信号生成部16を具備し、マイコンは組になる電力用半導体スイッチ3A、3Bが交互にオン・オフする相補スイッチングを行うようにゲート信号G1A、G1Bを出力する機能を有する。
【0021】
電力変換装置15において相補スイッチングを行うと、以下に説明するように、FET1の電圧電流特性と還流ダイオード2の電圧電流特性から、還流ダイオード2へはデッドタイムのわずかな時間にわずかな電流しか流れない。図3は、FET1の電圧電流特性図と還流ダイオード2の電圧電流特性図である。図3の縦軸は、FET1のオン状態における電流(ソースからドレインの電流)および還流ダイオード2の電流(アノードからカソードへの電流)である。また、図3の横軸は、FET1のオン状態における電圧降下(ソース−ドレイン間電圧降下)および還流ダイオード2の電圧降下(アノード−カソード間電圧降下)である。還流ダイオード2の電圧降下に比べ、FET1の電圧降下が小さい。
【0022】
このことから、電力用半導体スイッチ3に電流が負の向きに流れているときの電力用半導体スイッチ3を流れる電流を図示すると、図4(a)、図4(b)のようになる。図4(a)においては、FET1がオン状態であり、還流ダイオード2に比べ電圧降下が小さいFET1に電流が流れる。図4(b)においては、FET1がオフ状態であり、還流ダイオード2に電流が流れる。そのため、電力用半導体スイッチ3の負方向に電流が流れている場合において、FET1がオン状態であれば、還流ダイオード2にはほとんど電流が流れず、FET1に電流が流れる。
【0023】
つぎに、本実施の形態1にかかる電力用半導体スイッチ3を用いて電力変換装置を構成した場合の相補スイッチングの動作について説明する。
電力用半導体スイッチ3Aは、FET1A(電力用半導体スイッチ3AのFET1の意味:以下、FET、ダイオードの符号に、構成するスイッチのA、Bの区別を付する)のソース電極1sAに還流ダイオード2Aのアノード2aAが、FET1Aのドレイン電極1dAに還流ダイオード2Aのカソード電極2cAが接続されている。同様に、FET1Bのソース電極1sBに還流ダイオード2Bのアノード2aBが、FET1Bのドレイン電極1dBに還流ダイオード2Bのカソード電極2cBが接続されている。
【0024】
このときの、回路内の波形を図5に示す。図5において、横軸は時間軸であり、電流1周期分の期間を同期して示す。図5(a)は電圧指令値VM1*、図5(b)は電流IM1、図5(c1)と(c2)はゲート信号G1B、G1A、図5(d1)と(d2)は電力用半導体スイッチ3Bおよび3Aを流れる各電流、図5(e1)と(e2)はFET1Bと還流ダイオード2Bを流れる各電流、図5(f1)と(f2)はFET1Aと還流ダイオード2Aを流れる各電流を示す。図5では、電流1周期のみを記載しているが、実際の動作においては、複数周期が連続している。なお、以下の説明では、各信号に対応する波形図を図5中の分類((a)〜(f2))のみを用いて示す。
【0025】
相補スイッチングモードを出力すると、デッドタイム以外の期間において相補的に動作する信号が出力される。FET1の電圧降下は、還流ダイオード2に比べ小さいので、電力用半導体スイッチ3のFET1のオン状態においては、電流の正負にかかわらず、FET1に電流が流れる。ゲート信号G1A(c2)がオン信号のときには電力用半導体スイッチ3AのFET1Aが導通(f1)し、ゲート信号G1B(c1)がオン信号のときには電力用半導体スイッチ3BのFET1Bが導通(e1)する。また、ゲート信号G1A、G1Bがともにオフ信号(デッドタイム)のときには、電流IM1(b)が正であれば還流ダイオード2Aが導通(f2)し、電流IM1が負であれば還流ダイオード2Bが導通(e2)する。つまり、デッドタイムの期間以外は、還流ダイオード2に比べ電圧降下の小さなFET1が導通するため、還流ダイオード2へはデッドタイムのわずかな時間にわずかな電流しか流れない。
【0026】
特にワイドギャップ半導体を用いる電力変換装置15においては、ワイドギャップ半導体のスイッチング速度が速いことでリンギングノイズが発生しやすい。そのなかでも、ワイドギャップ半導体のショットキーバリアダイオードにおいては、ダイオード電流がゼロとなり逆電圧が印加されると形成される空乏層によるカソード−アノード間の接合容量が大きくなるためリンギングノイズが大きくなりやすい。
【0027】
このリンギングノイズの対策方法としては、図示しないYコン(Yキャパシタ:ライン・バイパス・コンデンサ)などを用いてノイズが主回路に流れないような回路ループをつくる方法がある。しかし、Yコンを用いると、部品点数の増加やコストの増加、実装面積増大による回路の大型化が問題とある。また、理論的には、リンギングノイズの流れる経路の電気抵抗を上げて、リンギングノイズを減衰させることもできるが、損失の増加による発熱や効率の低下などが問題になるため、一般には行われない。しかし、本実施の形態1にかかる電力用半導体スイッチ3を有する電力変換装置15において相補スイッチングさせると、還流ダイオード2へはデッドタイムのわずか時間にわずかな電流しか流れない。
【0028】
そのため、リンギング対策として、図1で説明したように、ソース側の給電経路Lsから還流ダイオード2を通り、ドレイン側の給電経路Ldを結ぶ配線材(2c〜Ld間および2a〜Ls間)の電気抵抗を、ソース側の給電経路LsからFET1を通り、ドレイン側の給電経路Ldを結ぶ配線材(1d〜Ld間および1s〜Ls間)の電気抵抗より大きくすることで、発熱や効率の低下などの問題が起きることなくリンギングノイズの低減を図ることが可能となる。
【0029】
配線抵抗の大きなボンディングワイヤ4を用いて、ソース側給電経路Lsから還流ダイオード2を通り、ドレイン側給電経路Ldまでの配線電気抵抗を大きくすると、配線電気抵抗を大きくする前(例えば、ソース側電極板6sを2aまで延長して1s−2a間を配線する)に比べ損失が大きくなる。しかし、実際の動作におけるソース側給電経路Lsからドレイン側給電経路Ldへと流れる電流は、還流ダイオード2を経由する電流経路(Ls−2−Ld間:経路2)よりも、FET1を経由する電流経路(Ls−1−Ld間:経路1)に多く流れるため、電力変換装置15の効率に影響を与えることなくリンギングノイズ対策ができる。
【0030】
ただし、ソース側給電経路Lsから還流ダイオード2を通りドレイン側給電経路Ldまでの配線電気抵抗を大きくしすぎると、電力変換装置15の効率に影響を与えることが懸念される。一方、ソース側給電経路LsからFET1を通りドレイン側給電経路Ldに至る電流経路は主に電流が流れる経路になるため、通常は流れる電流に対して電力変換装置15の効率に影響を与えない程度に配線電気抵抗を設定する。そのため、ソース側給電経路LsからFET1を通りドレイン側給電経路Ldに至る配線電気抵抗のみの損失では電力変換装置15の効率は、ほとんど変化しない。そこで、電力変換装置15の効率に影響を与えることなくリンギングノイズ対策をするには、少なくともソース側給電経路Lsの合流部Jsから還流ダイオード2を通りドレイン側給電経路Ldの合流部Jdまでの電流経路の損失が、合流部JsからFET1を通り合流部Jdまでの電流経路の損失より小さいことが好ましい。
【0031】
合流部JsからFET1を通り合流部Jdに至る電流経路(経路1J)の回路部材の電気抵抗をR、合流部Jsから還流ダイオード2を通り合流部Jdに至る電流経路(経路2J)の回路部材の電気抵抗をR、FET1のデューティ比(インバータの場合は、電流波形一周期の平均デューティ比)をDDuty、デューティ比DDutyに対するデッドタイムの割合をTDead、電流をIとする。すると、経路2Jの回路部材による損失VL2はR・TDead、経路1Jの回路部材による損失VL1はR・(DDuty−TDead)となる。これらより、経路2Jの回路部材の電気抵抗Rは、経路1Jの回路部材の電気抵抗Rに対し、少なくともR<R≦R(DDuty/TDead−1)の範囲にあれば、電力変換装置15の効率に影響を与えることなくリンギングノイズ対策ができる。
【0032】
このような抵抗に調整する場合、合流部Js−2a間の回路部材のうち、配線部材4には、図1(a)に示すようにボンディングワイヤが適しており、接続方法は超音波接合が適している。配線部材4にボンディングワイヤを用いると、断面積や配線部材4の長さの自由度が大きく容易に変更できるため、ノイズレベルに合わせて電気抵抗を制御することが容易にできる。さらには、断面積の小さな配線部材の両端をFET1のソース電極1sと還流ダイオード2のカソード電極2cとに接合材を用いてループを形成する場合、接合材では配線部材を固定する必要があるが、ボンディングワイヤによる超音波接合では必要ないことから、低コストで生産性の良い電力変換装置15が提供できる。
【0033】
ボンディングワイヤ4は、具体的には、直径300μmのアルミワイヤもしくは銅ワイヤなどが挙げられる。ソース側およびドレイン側電極板6s、6d(まとめて電極板6)としては、例えば、厚み400μm、幅が還流ダイオード2のカソード電極1cの電極以下の銅板を用いる。例えば幅4mmの場合、断面積は1.6mmとなる。これに対して銅ワイヤの直径300μmの場合の断面積は0.07mmとなる。ボンディングワイヤの長さが例えば5mm、電極板6の長さが10mmとすると、抵抗は11倍程度となる。このサイズや形状に関わらず、配線部材4を含む回路部材の電気抵抗を電極板6に相当する配線部材よりも大きくしている。
【0034】
実施の形態1の変形例.
なお、経路2の抵抗を経路1の抵抗よりも高くする方法として、図6に示す変形例のような構成も考えられる。図6は、本変形例にかかる電力用半導体スイッチの構成を説明するためのもので、図6(a)は電力用半導体スイッチの部材構成を示す断面図、図6(b)は電力用半導体スイッチに用いた回路基板の回路パターン(導電パターン)の平面図である。
【0035】
図において、回路基板8Vは、図1で説明した金属基板8(金属板8c+絶縁被膜8i)に対し、金属板8c上に絶縁層8iiを設け、絶縁層8ii上に導電性の回路パターン8pを形成したものである。そして、FET1のドレイン電極1dと還流ダイオード2のカソード電極2cをそれぞれ図6(b)に示すように、回路パターン8pの所定領域8pd、8pcに接合材5を用いて実装する。
【0036】
そして、図示しない外部回路と接続するためのソース側電極板6sをFET1のソース電極1sと還流ダイオード2のアノード電極2aを橋渡しするようにして接合する。なお、ソース側電極板6sは、回路パターン8pとの絶縁を確保するため、ガードリング2g端面部分にて、アノード電極2aとの接合部分から回路基板8Vと逆の方向へ曲げられた後、図示しない外部回路側に延びていく。ドレイン側電極板6dの一端を回路パターン8pの所定領域8pdに接合し、他端を図示しない外部回路側に延ばす。これにより、ソース側電極板6sとドレイン側電極板6dをそれぞれ外部回路と接続すると、図1(b)で説明したのと同様の回路が形成される。そして、ソース側の給電経路Lsとソース電極1sとを電気接続する回路部材と給電経路Lsとアノード電極2aとを電気接続する回路部材との合流部をJsとし、ドレイン側の給電経路Ldとドレイン電極1dとを電気接続する回路部材と給電経路Ldとカソード電極2cとを電気接続する回路部材との合流部をJdとする。
【0037】
ここで、回路パターン8pは図6(b)に示すように、還流ダイオード2が接合される領域8pcとFET1が接合される領域8pdとの間に、還流ダイオード2との接合部J1およびFET1との接合部J1の電流方向に対する(垂直方向の)幅WBよりも幅WLが狭い領域8pnを有している。すると、還流ダイオード2と外部経路とを電気接続する回路部材のうち、アノード電極2aから合流部Jsまでの部材は接合材5の厚み部分のみであるが、カソード電極2cから合流部Jdまでの部材は領域8pnを含む回路パターン8pの長さ方向となる。同様に、FET1と外部経路とを電気接続する回路部材のうち、ドレイン電極1dから合流部Jdまでの部材は接合材5の厚み方向、ソース電極1sから合流部Jsまでの部材は、接合材5およびソース側電極板6sの長さ方向となる。そして、電極板6を介した1s−Js間の抵抗よりも高い抵抗が得られるように、8pnにおける断面積(W×パターン厚み)と経路長Lを設定することで、外部回路と還流ダイオード2を結ぶ回路部材(2c〜Jd間および2a〜Js間:経路2J)の抵抗は、外部回路とFET1を結ぶ回路部材(1d〜Jd間および1s〜Js間:経路1J)の抵抗より大きくなる。
【0038】
ここで、少なくとも還流ダイオード2を構成するワイドギャップ半導体の例としてはSiCやGaNの他に、ダイヤモンドなどが挙げられる。さらに、スイッチング速度が早く高周波化に適しているショットキーバリアダイオードが好ましい。さらには、金属基板8あるいは8Vに実装された、電極板6、電力用半導体スイッチ3を、図示しない接着性の絶縁樹脂、例えばエポキシ樹脂でモールドすると接合部の信頼性が向上する。
【0039】
以上のように、本発明の実施の形態1にかかる電力用半導体スイッチ3によれば、電力変換装置15において相補スイッチング動作を行うために用いられる電力用半導体スイッチ3であって、FET(電界効果トランジスタ)1と、FET1に対して逆並列に接続されたワイドバンドギャップ半導体材料からなる還流ダイオード2と、を備え、電力変換装置15における第1の接続配線である給電経路LsからFET1を経由して電力変換装置15における第2の接続配線である給電経路Ldにいたる回路部材の電気抵抗より、第1の接続配線Lsから還流ダイオード2を経由して第2の接続配線Ldにいたる回路部材の電気抵抗の方が大きくなるように構成した。
【0040】
また、本発明の実施の形態1にかかる電力変換装置15によれば、上述した電力用半導体スイッチ3の2個を直列につないだスイッチ組(3A、3B)と、スイッチ組(3A、3B)のそれぞれの電力用半導体スイッチを相補スイッチングさせるゲート信号(G1B、G1A)を出力するゲート信号生成部16と、を備えるように構成した。
【0041】
そのため、電力変換装置15内の組をなす電力用半導体スイッチ3が相補スイッチングする際、還流ダイオード2へはデッドタイムのわずかな時間にわずかな電流しか流れない。そのため、還流ダイオード2で発生するリンギングノイズは抵抗の大きい回路部材からなる経路J2を通ることで、減衰される。一方、還流ダイオード2へはデッドタイムのわずかな時間にわずかな電流しか流れないため、還流ダイオード2を通る電流経路の電気抵抗を上げても電力変換装置15の効率に影響を与えない。リンギングノイズが減ると電力変換装置15の高周波化が可能となり、受動部品の小型化による電力変換装置全体の小型化が可能となる。
【0042】
さらに、第1の接続配線LsからFET1を経由して第2の接続配線Ldにいたる回路部材の電気抵抗をR、第1の接続配線Lsから還流ダイオード2を経由して第2の接続配線Ldにいたる回路部材の電気抵抗をR、相補スイッチング動作におけるFET1のデューティ比をDDuty、デューティ比に対するデッドタイムの割合をTDead、とすると、 R≦R(DDuty/TDead−1) が成立するように回路部材の抵抗を調整すれば、効率の低下を最小限に抑えてリンギングノイズを効果的に低減することができる。
【0043】
つまり、高周波・低損失を損なうことなくリンギングノイズを低減できる電力用半導体スイッチ3およびこれを用いた電力変換装置15を得ることができる。
【0044】
また、変形例に示すように、FET1と還流ダイオード2とは、回路基板8Vに形成されたひとつの回路パターン8pに並んで接合されており、回路パターン8pは、FET1が接合された部分J1から還流ダイオード2が接合された部分J2と逆側の部分J6に給電経路LsまたはLdと接続され、FET1が接合された部分J1と還流ダイオード2が接合された部分J2との間に、FET1および還流ダイオード2の幅Wより狭く形成された部分8pn(狭幅部)を設けることにより、容易に回路部材の抵抗を調整することができる。
【0045】
実施の形態2.
本実施の形態2にかかる電力用半導体スイッチにおいては、実施の形態1にかかる電力用半導体スイッチに対し、還流ダイオードを金属基板にではなく、FET上に積み重ねるように構成したものである。図7は、本発明の実施の形態2にかかる電力用半導体スイッチの構成を説明するための断面図である。図中、実施の形態1で説明した構成部材と同様の構成部材については同じ符号を付し、説明は省略する。
【0046】
図において、FET1のドレイン電極1dを金属基板8の図中上側の面に接合材5を用いて接合する。そして、FET1のソース電極1sには、図示しない外部回路と接続するためのソース側電極板6sを接合材5により接合する。なお、ソース側電極板6sは、金属基板8(厳密には金属板8c)との絶縁を確保するため、ガードリング1g端面部分にて、ソース電極1sとの接合部分から金属基板8と逆の方向へ曲げられた後、図示しない外部回路側に延びていく。そして、ソース電極1sの上面に接合したソース側電極板6sの上面に、さらに接合材5を用いて還流ダイオード2のアノード電極2aを接合する。つまり、FET1の上面に、ソース側電極板6sを介して還流ダイオード2が実装される。
【0047】
そして、還流ダイオード2のカソード電極2cと金属基板8の導電面(金属板8c)の所定領域とをボンディングワイヤ4で接続する。さらに、ドレイン側電極板6dの一端を金属基板8の導電面(金属板8c)に接合し、他端を図示しない外部回路側に延ばす。これにより、ソース側電極板6sとドレイン側電極板6dをそれぞれ外部回路と接続し、図1(b)で説明したような回路が形成される。
【0048】
図7と図1(b)とを比較すると、電力用半導体スイッチ3にとって外部回路となる電力変換装置内のソース側の給電経路LsとFET1のソース電極1sとを電気接続する回路部材は、接合材5とソース側電極板6sとなり、給電経路Lsと還流ダイオード2のアノード電極2aとを電気接続する回路部材も、接合材5とソース側電極板6sとなる。同様に、ドレイン側の給電経路LdとFET1のドレイン電極1dとを電気接続する回路部材は、接合材5と金属板8cとドレイン側電極板6dとなり、給電経路Ldと還流ダイオード2のカソード電極2cとを電気接続する回路部材は、ボンディングワイヤ4と金属板8cとドレイン側電極板6dとなる。
【0049】
ここでも、ソース側の給電経路Lsとソース電極1sとを電気接続する回路部材と給電経路Lsとアノード電極2aとを電気接続する回路部材との合流部をJsとし、ドレイン側の給電経路Ldとドレイン電極1dとを電気接続する回路部材と給電経路Ldとカソード電極2cとを電気接続する回路部材との合流部をJdとする。そして、回路部材を共用している合流部より給電経路側の部分を除いた、FET1または還流ダイオード2が専有する回路部材に着目する。すると、還流ダイオード2と給電経路とを電気接続する回路部材のうち、カソード電極2cから合流部Jdまでの回路部材はボンディングワイヤ4、アノード電極2aから合流部Jsまでの回路部材は、接合材5となる。同様に、FET1と外部経路との配線のうち、ドレイン電極1dから合流部Jdまでの回路部材は接合材5の厚み方向と金属板8c、ソース電極1sから合流部Jsまでの回路部材は、接合材5の厚み方向となる。
【0050】
接合材5の厚み方向の抵抗やソース側電極板6sの抵抗および金属板8cの抵抗と、ボンディングワイヤ4の抵抗を比べると、線径の細いボンディングワイヤ4の抵抗の方が大きい。したがって、外部回路と還流ダイオード2を結ぶ配線材(2c〜Jd間および2a〜Js間)の抵抗は、外部回路とFET1を結ぶ配線材(1d〜Jd間および1s〜Js間)の抵抗より大きくなっている。回路部材のうち、配線部材4には、実施の形態1同様、ボンディングワイヤが適しており、接続方法は超音波接合が適している。
【0051】
このような構成の電力用半導体スイッチ3を用いて図2に示すような電力変換装置15を作成すると、還流ダイオード2へはデッドタイムのわずかな時間にわずかな電流しか流れず、還流ダイオード2はワイドギャップ半導体であることから、還流ダイオード2の発熱が小さくFET1の上面に還流ダイオード2を実装しても熱成立性に影響を与えない。このことから、FET1の上面に還流ダイオード2を実装し、電力変換装置15の小型化が可能となる。また、還流ダイオード2のカソード電極2cと給電経路Ld間の回路部材回路部材として、ボンディングワイヤを用いた配線部材で接続すると、配線部材4の断面積や配線部材4の長さの自由度が大きく容易に変更できるため、ノイズレベルに合わせて電気抵抗を制御することが容易にできる。
【0052】
さらには、断面積の小さな配線部材の両端を金属基板8と還流ダイオード2のアノード電極2aとに接合材を用いてループを形成する場合、接合材では配線部材を固定する必要があるが、ボンディングワイヤによる超音波接合では必要ないことから、低コストで生産性の良い電力変換装置15が提供できる。
【0053】
実施の形態2の変形例.
なお、FET1の(平面)サイズに比べ還流ダイオード2の(平面)サイズが小さく、電極板6sと還流ダイオード2をFET1の電極面上で別々に実装できる場合は、図8に示す本変形例のようにFET1のソース電極1sに、ソース側電極板6sと還流ダイオード2のアノード電極2aを直接接続するようにしてもよい。
【0054】
その場合、FET1のソース電極1sと還流ダイオード2のアノード電極2aを直接接続する際の接合材5の厚み管理を行う際に、FET1と電極板6sの位置管理とFET1と還流ダイオード2の位置管理も同時に行えるため、接合材5の管理が容易になる。
【0055】
なお、実施の形態1同様、電力用半導体スイッチ3を構成する、金属基板8に実装されたFET1、還流ダイオード2、電極板6s、6d、配線部材4、図示しない接着性の絶縁樹脂、例えばエポキシ樹脂、でモールドすると接合部の信頼性が向上する。
【0056】
また、電力変換装置15が相補スイッチングすることにより、還流ダイオード2へはデッドタイムのわずかな時間にわずかな電流しか流れず、還流ダイオード2はワイドギャップ半導体であるため導通損失が少ない。そのため本実施の形態に示したように、FET1の上面に還流ダイオード2を実装しても熱的な問題は発生しない。つまり、還流ダイオード2の発熱が最小限化されている事を有効利用して、FET1の温度上限を超えない範囲で、使用すれば、高性能化を損なうことなく、装置を小型化することができる。
【0057】
以上のように、本実施の形態2にかかる電力用半導体スイッチ3によれば、FET1と還流ダイオード2とは、回路基板8に接合されたFET電界効果トランジスタの上に、給電経路LsまたはLdとなる電極板6sまたは6dを介して、還流ダイオード2を積み重ねるように接合しているので、高性能化を損なうことなく、装置を小型化できる。
【0058】
実施の形態3.
本実施の形態3にかかる電力用半導体装置においては、上記実施の形態2で示したFET上に還流ダイオードを実装した電力用半導体スイッチに対し、還流ダイオードの実装面側の接合部の構成を変えたものである。その他の構成については図7で示した電力用半導体スイッチと同様であるので、説明を省略する。
【0059】
図9は、本実施の形態3にかかる電力用半導体スイッチの構成を説明するためのもので、図9(a)は、電力用半導体スイッチの断面図、図9(b)はFETとダイオードの間に挿入する電極板の部分平面図、図9(c)は電極板が挿入されたFETと還流ダイオードと接合部分の拡大断面図である。
【0060】
本実施の形態3では、還流ダイオード2の電極面とFET1の電極面間に挿入する電極板6sに、接合材5の広がりや厚みをコントロールする絶縁樹脂からなるマスク7を形成したものである。マスク7は、図9(b)、(c)に示すように、還流ダイオード2の接合面をカバーするため、少なくとも還流ダイオード2の接合面の大きさ(L2v×L2h)より広い大きさ(LIv×LIh)の範囲にわたって電極板6sの還流ダイオード2側の面を被覆している。絶縁樹脂は配線部材4を接合する際、超音波接合の際に加わる力に耐えられるよう硬度の高いものが好ましく、高温動作に耐えられるように高耐熱の樹脂が好ましい。絶縁樹脂の一例として、エポキシ系やポリイミド系の樹脂がある。また、接合材5が入る穴7hの形状は、応力集中を避けるため円形が好ましい。
【0061】
図9と図1(b)を比較した場合、実施の形態2で説明した図7と違うのは、給電経路Lsと還流ダイオード2のアノード電極2aとを電気接続する回路部材のうち、接合材5の部分が、アノード電極2aの面積よりも小さな、マスク7内の穴7h内に充填された部分に限定されている。そのため、還流ダイオード2と給電経路とを電気接続する回路部材のうち、カソード電極2cから合流部Jdまでの回路部材は図7と同様にボンディングワイヤ4であるが、アノード電極2aから合流部Jsまでの回路部材のうち、接合材5は、マスク7の穴7hに規定された断面積に減少するので、さらに抵抗値が増加している。
【0062】
このように、ソース側電極板6sの還流ダイオード2と接続する面に絶縁樹脂で穴7hを調整したマスク7を施すことにより、接合面積、接合材5の厚みをコントロールし、図1(b)で示したアノード電極2a〜合流部Js間の電気抵抗を容易に調整することができる。すなわち、ソース側給電経路Lsから還流ダイオード2を通り、ドレイン側給電経路Ldまでの回路部材の電気抵抗のうち、還流ダイオード2が専有する部分の電気抵抗を上げることができ、リンギングノイズを減衰させることができる。
【0063】
このとき、接合材5にはんだを用いる際、はんだ5の拡がりをコントロールできるため、還流ダイオード2の位置決めも行いやすくなる。なお、還流ダイオードと電極板6sとの接合面積を小さくしすぎると、超音波接合の際に還流ダイオード2が割れる可能性がある。しかし、本実施の形態3に示すように、接合部周りを還流ダイオード2の面積分をカバーする絶縁樹脂のマスク7で囲うことで、超音波接合の際もマスク7が力を受け持つことができ、還流ダイオード2は割れることはない。さらに、絶縁性のマスク7により絶縁距離を稼ぐことができるので、還流ダイオード2のガードリング1gを小さくすることができ、チップをシュリンクできる。接合部を形成する穴7hの形状を円形にすることで応力集中を緩和できる。還流ダイオード2がSiCである場合、SiCの熱伝導率は350W/K・mと大きいため、接合部での発熱が還流ダイオード2全体に分散されるため、接合部の温度上昇が抑えられ、接合部の信頼性が向上する。
【0064】
なお、還流ダイオード2のアノード電極2aと電極板6sとを接合する接合材5には、はんだより電気抵抗の大きな導電性接着剤を用いると効果的である。特に、Ni系の導電性接着剤などの、はんだより電気抵抗の大きな導電性接着剤を用いることでソース側給電経路Lsから還流ダイオード2を通り、ドレイン側給電経路Ldまでの回路部材の電気抵抗を上げることができ、電極面に伝播してくるリンギングノイズを効果的に減衰させることができる。
【0065】
以上のように、本実施の形態3にかかる電力用半導体スイッチ3によれば、FET1と還流ダイオード2との間には、給電経路LdまたはLsとなる電極板6dまたは6s(まとめて6)が挿入されており、電極板6の還流ダイオード2が接合される面には、還流ダイオード2の接合面を網羅し、かつ前記接合面内で所定面積の穴7hをあけた絶縁被覆7が施されているようにしたので、小型化ができる上に、容易に回路部材の抵抗を調整することができる。
【0066】
なお、上記各実施の形態では、ワイドバンドギャップ半導体材料として、炭化珪素と窒化ガリウムにつて説明したが、その他ダイヤモンドといった材料を用いてもよい。また、FET1についてはSiでもよいが、ワイドバンドギャップ半導体材料を用いた方が高速化できる。また、還流ダイオード2と動作温度域も同程度になるので、動作管理が容易になる。
【符号の説明】
【0067】
1 FET(1d:ドレイン電極、1s:ソース電極)、
2 還流ダイオード(2a:アノード電極、2c:カソード電極)、
3 電力用半導体スイッチ、 4 配線部材、 5 接合材、 6 電極板(6d:ドレイン側電極板、6s:ソース側電極板)、 7 マスク(7h:穴)、
8 金属基板(8c:金属板、8i:絶縁被膜、8p:回路パターン(8pn:狭幅部)、 9 (絶縁)接合材、 10 ヒートシンク、
15 電力変換装置、 16 ゲート信号生成部、
Duty FETのデューティ比、 Jd ドレイン側合流部、 Js ソース側合流部、 Ld ドレイン側給電経路、 Ls ソース側給電経路、 R FET側の回路部材の抵抗、 R 還流ダイオード側の回路部材の抵抗、 TDead デューティ比に対するデッドタイムの割合、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力変換装置において相補スイッチング動作を行うために用いられる電力用半導体スイッチであって、
電界効果トランジスタと、
前記電界効果トランジスタに対して逆並列に接続されたワイドバンドギャップ半導体材料からなる還流ダイオードと、を備え、
前記電力変換装置における第1の接続配線から前記電界効果トランジスタを経由して前記電力変換装置における第2の接続配線にいたる回路部材の電気抵抗より、前記第1の接続配線から前記還流ダイオードを経由して前記第2の接続配線にいたる回路部材の電気抵抗の方が大きいことを特徴とする電力用半導体スイッチ。
【請求項2】
前記第1の接続配線から前記電界効果トランジスタを経由して前記第2の接続配線にいたる回路部材の電気抵抗をR
前記第1の接続配線から前記還流ダイオードを経由して前記第2の接続配線にいたる回路部材の電気抵抗をR
前記相補スイッチング動作における前記電界効果トランジスタのデューティ比をDDuty
前記デューティ比に対するデッドタイムの割合をTDead、とすると、
≦R(DDuty/TDead−1)
が成立することを特徴とする請求項1に記載の電力用半導体スイッチ。
【請求項3】
前記電界効果トランジスタと還流ダイオードとは、回路基板に形成されたひとつの回路パターンに並んで接合されており、
前記回路パターンは、
前記電界効果トランジスタが接合された部分から前記還流ダイオードが接合された部分と逆側の部分に前記第1の接続配線または前記第2の接続配線が接続され、
前記電界効果トランジスタが接合された部分と前記還流ダイオードが接合された部分との間に、前記電界効果トランジスタおよび前記還流ダイオードの幅より狭く形成された部分があることを特徴とする請求項1または2に記載の電力用半導体スイッチ。
【請求項4】
前記電界効果トランジスタと還流ダイオードとは、
回路基板に接合された前記電界効果トランジスタの上に、前記第1の接続配線または前記第2の接続配線となる金属板を介して、前記還流ダイオードを積み重ねるように接合していることを特徴とする請求項1または2に記載の電力用半導体スイッチ。
【請求項5】
前記金属板の前記還流ダイオードが接合される面には、前記還流ダイオードの接合面を網羅し、かつ前記接合面の範囲内で所定面積の穴をあけた絶縁被覆が施されていることを特徴とする請求項4に記載の電力用半導体スイッチ。
【請求項6】
前記還流ダイオードは、ショットキーバリアダイオードであることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載の電力用半導スイッチ。
【請求項7】
前記電界効果トランジスタは、ワイドバンドギャップ半導体材料からなることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1項に記載の電力用半導体スイッチ。
【請求項8】
前記ワイドバンドギャップ半導体材料は、炭化ケイ素、窒化ガリウム、またはダイヤモンド、のうちのいずれかであることを特徴とする請求項1ないし7のいずれか1項に記載の電力用半導体スイッチ。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれか1項に記載の電力用半導体スイッチの2個を直列につないだスイッチ組と、
前記スイッチ組のそれぞれの電力用半導体スイッチを相補スイッチング動作させるゲート信号を出力するゲート信号生成部と、
を備えたことを特徴とする電力変換装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2013−55278(P2013−55278A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−193672(P2011−193672)
【出願日】平成23年9月6日(2011.9.6)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)