説明

電力用半導体装置の制御用回路および制御用集積回路

【課題】製造コストを低減できる電力用半導体装置の制御用回路および制御用集積回路を提供する。
【解決手段】シャント抵抗50において生じるシャント電圧は、過電流検出手段22に入力される。過電流検出手段22は、過電流を検出した場合には、電流異常を示す電流異常信号をリセット信号出力手段24に入力させる。リセット信号出力手段24は、入力される電流異常信号により異常の発生を記憶した後、異常の回復を待つ。そして、入力される電流異常信号により過電流が検出されなくなった場合には、異常が回復したと判断し、動作開始のためのHレベルのパルス信号からなるリセット信号を、リセット端子RESETからフォールト信号出力回路17に入力させる。リセット信号を入力されたフォールト信号出力回路17は、LレベルからHレベルに移行させたHレベルのフォールト信号を下アーム駆動回路14に入力させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電力用半導体装置の制御用回路および制御用集積回路に関し、特に、保護機能を備えた電力用半導体装置の制御用回路および制御用集積回路に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のIGBT素子等を用いて多相モータ等の制御を行う電力用半導体装置の制御用回路について説明する。このような電力用半導体装置の制御用回路に用いられる制御ICにおいては、電流検出端子を介して制御マイコンから入力される電流検出信号は、過電流検出回路に入力される。過電流検出回路は、入力された電流検出信号により過電流を検出した場合には、電流異常を示す電流異常信号をフォールト信号出力回路に入力させる。電流異常信号を入力されたフォールト信号出力回路は、動作停止のためのフォールト信号を出力し、フォールト端子を介して制御マイコンに入力させる。制御マイコンは、入力されたフォールト信号に基づき、制御ICへ入力させている制御信号を遮断させる。このフォールト信号のパルス幅は、制御IC内部に設定されており制御ICの品種により異なるが、概ね100μs未満であり短いものでは40μs程度となっている。
【0003】
過電流等からの保護のための制御手法の例は、例えば、特許文献1〜4に開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開2003−045637号公報
【特許文献2】特開2001−161086号公報
【特許文献3】特開平09−199950号公報
【特許文献4】特開2001−231290号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように、従来の電力用半導体装置の制御用回路においては、概ね100μs未満の短いパルス幅を有するフォールト信号を制御マイコンに入力させるが、このような短い信号を検出するためには、制御マイコンとして比較的に高価なものを用いる必要がある。そのため、電力用半導体装置の制御用回路の製造コストが高くなってしまうという問題点があった。
【0006】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたもので、製造コストを低減できる電力用半導体装置の制御用回路および制御用集積回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明に係る電力用半導体装置の制御用回路は、電力用半導体装置を制御用集積回路を介してマイコンで制御する電力用半導体装置の制御用回路において、制御用集積回路は、電力用半導体装置から出力される電流検出信号により異常を検出すると、内蔵するフォールト信号出力回路から出力されるフォールト信号により電力用半導体装置をターンオフし、マイコンは、電流検出信号により異常の回復を検出すると、リセット信号を出力してフォールト信号を解除することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る電力用半導体装置の制御用回路においては、制御用集積回路は、マイコンから出力されるパルス状のリセット信号に基づいて動作が復帰する。従って、マイコンは、過電流を検出するために所定の閾値と比較するだけでよいので、幅の短いパルス信号を検出する場合に比べ安価な構成にすることができる。従って、電力用半導体装置の制御用回路の製造コストを低減することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
<実施の形態1>
図1は、実施の形態1に係る電力用半導体装置およびその制御用回路の構成を示すブロック図である。
【0010】
図1において、電力用半導体装置は、IGBT素子30(電力用半導体素子)と、多相モータ40と、シャント抵抗50とを備える。また、制御用回路は、制御IC10(制御用集積回路)と、制御マイコン20とを備える。制御IC10は、入力回路11と、レベルシフト回路12と、上アーム駆動回路13(第1の駆動回路)と、下アーム駆動回路14(第2の駆動回路)と、過電流検出回路15と、UV異常検出回路16と、フォールト信号出力回路17とを内蔵する。制御マイコン20は、図示しないCPU、ROM及びRAMを備えるマイクロコンピュータからなり、ROM内に予め記憶されたソフトウェアプログラムに従って動作するものとする。図1に示すように、制御マイコン20には、制御信号出力手段21と、過電流検出手段22と、UV異常検出手段23と、リセット信号出力手段24とが組み込まれている。また、制御IC10および制御マイコン20には、駆動電圧VCCと接地電位GNDとが与えられる。
【0011】
図1において、制御信号出力手段21から出力された制御信号は、入力端子INから入力回路11に入力される。入力された制御信号は、入力回路11からレベルシフト回路12に入力される。レベルシフト回路12は、入力された制御信号に基づき、高電位側制御信号(第1の駆動信号)および低電位側制御信号(第2の駆動信号)を出力する。出力された高電位側制御信号および低電位側制御信号は、それぞれ、上アーム駆動回路13および下アーム駆動回路14に入力される。上アーム駆動回路13および下アーム駆動回路14は、入力された高電位側制御信号および低電位側制御信号に基づき、高電位側駆動信号および低電位側駆動信号をそれぞれ出力する。出力された高電位側駆動信号および低電位側駆動信号は、それぞれ、高電位側駆動端子HOおよび低電位側駆動端子LOから、IGBT素子30に入力され、多相モータ40の制御に用いられる。また、下アーム駆動回路14の基準電位は、基準電位端子VNOから与えられる。
【0012】
IGBT素子30に接続されたシャント抵抗50において生じるシャント電圧は、電流検出信号として、電流検出端子CINから過電流検出回路15に入力される。過電流検出回路15は、入力されたシャント電圧と所定の閾値電圧とを比較し、シャント電圧が閾値電圧よりも大きい場合には過電流が流れたと判断する。過電流を検出した場合、過電流検出回路15は、電流異常信号をフォールト信号出力回路17に向け出力する。
【0013】
UV異常検出回路16は、駆動電位VCCの分圧と所定の閾値電圧とを比較し、分圧が閾値電圧よりも大きい場合にはUV異常が発生したと判断する。UV異常を検出した場合、UV異常検出回路16は、UV異常信号をフォールト信号出力回路17に向け出力する。
【0014】
なお、上アーム駆動回路13から出力された高電位側制御信号は、IGBT素子30内において、例えば並列に接続された3個のIGBT(第1の電力用半導体素子)に入力される。また同様に、下アーム駆動回路14から出力された低電位側制御信号は、IGBT素子30内において、例えば並列に接続された3個のIGBT(第2の電力用半導体素子)に入力される。前者の3個のIGBTと後者の3個のIGBTとは、タンデム状に接続され、インバータ回路を形成している。多相モータ40は、このインバータ回路でPWM(Pulse Width Modulation)駆動される。
【0015】
フォールト信号出力回路17は、過電流またはUV異常のいずれか一方でも異常を検出した場合には、Hレベル(非活性状態)からLレベル(活性状態)に移行させたフォールト信号を出力し、フォールト端子FOから出力させると共に、下アーム駆動回路14に入力させる。Lレベルのフォールト信号を入力された下アーム駆動回路14は、低電位側駆動端子LOから出力される低電位側駆動信号を遮断しLレベルとする。これにより、異常が発生した場合の動作停止が可能となる。
【0016】
シャント抵抗50において生じるシャント電圧は、過電流検出手段22にも入力される。過電流検出手段22には、入力されたシャント電圧と所定の閾値電圧とを比較し、シャント電圧が閾値電圧よりも大きい場合には過電流が流れたと判断する。過電流を検出した場合、過電流検出手段22は、電流異常信号をリセット信号出力手段24に向け出力する。
【0017】
UV異常検出手段23は、駆動電位VCCの分圧と所定の閾値電圧とを比較し、分圧が閾値電圧よりも大きい場合にはUV異常が発生したと判断する。UV異常を検出した場合、UV異常検出手段23は、UV異常信号をリセット信号出力手段24に向け出力する。
【0018】
リセット信号出力手段24は、入力される電流異常信号またはUV異常信号により異常の発生を記憶した後、異常の回復を待つ。そして、リセット信号出力手段24は、入力される電流異常信号およびUV異常信号により過電流またはUV異常のいずれも検出されなくなった場合には、異常が回復したと判断し、動作開始のためのHレベルのパルス信号からなるリセット信号を、リセット端子RESETからフォールト信号出力回路17に入力させる。リセット信号を入力されたフォールト信号出力回路17は、LレベルからHレベルに移行させたHレベルのフォールト信号を下アーム駆動回路14に入力させる。Hレベルのフォールト信号を入力された下アーム駆動回路14は、低電位側駆動信号の遮断を解除する。これにより、異常から回復した場合の動作開始が可能となる。
【0019】
図2は、図1に示される電力用半導体装置の動作を示すタイミングチャートである。
【0020】
図2(a)は、制御マイコン20から入力端子INに入力される入力信号を示している。入力端子INには、異常の有無にかかわらず、周期的にパルス信号が入力される。図2(b)は、低電位側駆動端子LOからIGBT素子30に向け出力される低電位側駆動信号を示している。低電位側駆動信号は、正常時には入力信号と同期したパルス信号であるが、過電流が発生するとリセット信号が入力されるまでLレベルを呈する。
【0021】
次に、図2(c)に示すように、過電流が発生し電流検出端子CINから入力される電流検出信号が閾値電位V0に達した場合には、図2(d)に示すように、フォールト端子FOから出力されるフォールト信号が、Lレベルに立ち下がる。Lレベルのフォールト信号を入力された下アーム駆動回路14は、低電位側駆動端子LOから出力される低電位側駆動信号を遮断しLレベルとする。
【0022】
図2(d),(e)に示すように、Lレベルに立ち下がったフォールト信号は、Hレベルのパルス信号からなるリセット信号がフォールト信号出力回路17に入力されるまではLレベルに保たれる。過電流からの回復が過電流検出手段22からの電流異常信号により検出されると、リセット信号出力手段24は、リセット信号をフォールト信号出力回路17に入力させる。リセット信号を入力されたフォールト信号出力回路17は、フォールト信号をHレベルに立ち上げる。これにより、下アーム駆動回路14は、次のサイクルから、低電位側駆動信号の遮断を解除する。
【0023】
なお、図2においては、過電流異常の場合について説明したが、UV異常の場合も、電流異常信号に代えてUV異常信号を用いることにより、同様の動作を行うことが可能となる。
【0024】
このように、制御IC10は、制御マイコン20から出力されるパルス状のリセット信号に基づいて動作が復帰する。制御マイコン20は、過電流を検出するために所定の閾値と比較するだけでよいので、幅の短いパルス信号を検出する場合に比べ安価な構成にすることができる。従って、電力用半導体装置の制御用回路の製造コストを低減することが可能となる。
【0025】
また、本実施の形態に係る電力用半導体装置の制御用回路においては、制御IC10に内蔵される過電流検出回路15およびUV異常検出回路16に加えて、制御マイコン20に組み込まれた過電流検出手段22およびUV異常検出手段23を用いて、異常が回復したときの低電位側駆動信号の遮断を解除する。従って、異常の原因が取り除かれていないにもかかわらず電流検出信号や駆動電位VCCが一時的に正常値となった場合に、回復したと誤って判断し遮断を解除する可能性を低減できる。よって、このような誤動作に基づく短絡等やそれにより発生する故障等を防止することができる。
【0026】
特に、UV異常の場合には、一時的な異常は少なく復旧作業が必要となる場合が多いので、制御マイコン20からのリセット信号に基づき動作開始を行うことにより、誤動作を大幅に低減できる。
【0027】
また、従来の電力用半導体装置の制御用回路においては、電源立ち上げ時に、上アーム駆動回路と下アーム駆動回路との間でアーム短絡が発生する場合があった。本実施の形態に係る電力用半導体装置の制御用回路においては、電源立ち上げ時に駆動電位VCCが変動することによるUV異常をより正確に検出できるので、このような電源立ち上げ時のアーム短絡の発生を低減することが可能となる。これにより、信頼性を高めることが可能となる。
【0028】
なお、以上の説明においては、過電流検出回路15からの電流異常信号およびUV異常検出回路16からのUV異常信号に基づき、下アーム駆動回路14からの低電位側駆動信号の出力を遮断する場合について説明した。しかし、これに限らず、過電流検出手段22からの電流異常信号およびUV異常検出手段23からのUV異常信号に基づき、制御信号出力手段21からの制御信号も併せて遮断するように構成してもよい。
【0029】
また、以上の説明においては、リセット信号が制御マイコン20から出力される場合について説明したが、制御マイコン20に限らず、他の装置から出力されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施の形態1に係る電力用半導体装置およびその制御用回路の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施の形態1に係る電力用半導体装置およびその制御用回路の動作を示すタイミングチャートである。
【符号の説明】
【0031】
10 制御IC、11 入力回路、12 レベルシフト回路、13 上アーム駆動回路、14 下アーム駆動回路、15 過電流検出回路、16 UV異常検出回路、17 フォールト信号出力回路、20 制御マイコン、21 制御信号出力手段、22 過電流検出手段、23 UV異常検出手段、24 リセット信号出力手段、30 IGBT素子、40 多相モータ、50 シャント抵抗。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力用半導体装置を制御用集積回路を介してマイコンで制御する電力用半導体装置の制御用回路において、
前記制御用集積回路は、前記電力用半導体装置から出力される電流検出信号により異常を検出すると、内蔵するフォールト信号出力回路から出力されるフォールト信号により前記電力用半導体装置をターンオフし、
前記マイコンは、前記電流検出信号により異常の回復を検出すると、リセット信号を出力して前記フォールト信号を解除する
ことを特徴とする電力用半導体装置の制御用回路。
【請求項2】
電力用半導体素子を制御するための制御信号が入力される入力回路と、
前記入力回路からの出力を複数のレベルに変換するレベルシフト回路と、
前記レベルシフト回路からの出力に基づいて第1の電力用半導体素子に対する第1の駆動信号を出力する第1の駆動回路と、
前記レベルシフト回路からの出力に基づいて第2の電力用半導体素子に対する第2の駆動信号を出力するとともに、入力されるフォールト信号が非活性状態から活性状態に移行すると前記第2の駆動信号の出力を停止する第2の駆動回路と、
前記第2の電力用半導体素子による電流検出信号に基づいて異常信号を出力する過電流検出回路と、
前記過電流検出回路から前記異常信号が出力されると前記フォールト信号を前記活性状態に移行し、且つ外部から入力されるリセット信号を検知すると前記フォールト信号を前記非活性状態に移行するフォールト信号出力回路と
を備えることを特徴とする制御用集積回路。
【請求項3】
前記電力用半導体素子を駆動するための駆動電位の異常を検出する異常検出回路を備え、
前記フォールト信号出力回路は、前記異常検出回路が異常を検出すると前記フォールト信号を前記活性状態に移行する
ことを特徴とする請求項2記載の制御用集積回路。

【図1】
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【図2】
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