説明

電動コンプレッサ

【課題】高い放熱性および耐振性を有すると共に低コストであるインバータアセンブリを備えた電動コンプレッサを提供する。
【解決手段】インバータアセンブリ5は、内部に収容室9を有すると共にその開口端8cが低温低圧の冷媒が流通する近傍のハウジング表面2aに取り付けられるベース部材8と、ベース部材8の収容室9内に配置される回路基板12とを備えている。回路基板12の上面12aとベース部材8の天板面8aとの間には隙間13が形成され、回路基板12の裏下12bとハウジング表面2aとの間には、伝熱性を有する弾性部材15が充填されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電動コンプレッサに係り、特にインバータアセンブリを備えた電動コンプレッサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的な電動コンプレッサは、冷媒を圧縮する圧縮機構部と、圧縮機構部を駆動する電動モータと、電動モータの回転を制御するインバータアセンブリとを備えており、インバータアセンブリの内部には、インバータ回路を構成する電子部品が実装された回路基板が収容されている。
【0003】
電動コンプレッサの動作時には、インバータアセンブリ内部の回路基板上に実装された電子部品が熱を発すると共に、圧縮機構部の駆動によって発生する振動が回路基板に伝わる。従来、コンプレッサ動作時に発生するこのような熱および振動から回路基板上の電子部品を保護するために、インバータアセンブリを圧縮機構部に吸入される低温低圧の冷媒が流通する近傍のハウジング表面に取り付けると共に、その内部全体に伝熱性および弾力性を有する樹脂を封入することが行われている。コンプレッサ動作時に電子部品が発する熱は、樹脂を介してハウジング表面に伝えられて放熱が行われる。また、圧縮機構部からの振動も樹脂によって吸収される。
【0004】
また、特許文献1には、インバータアセンブリを低温低圧の冷媒が流通する近傍のハウジング表面に取り付けると共に、アセンブリの天面と回路基板との間に樹脂製のサポート部材を充填し、回路基板上の電子部品とハウジング表面との間に伝熱性および弾力性を有するゴム製シートを介在させる事項が記載されている。ゴム製シートは、コンプレッサ動作時に電子部品が発する熱をハウジング表面に逃がすと共に、圧縮機構部からの振動を吸収する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−251161号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来行われているようなインバータアセンブリの内部全体に樹脂を封入する方法では、大量の樹脂が必要であると共に、温度上昇によるアセンブリ内の圧力変動に対応するためにアセンブリの外壁に空気孔を形成する必要があり、材料費および加工費用がかさむ。
また、特許文献1に記載されているように樹脂製のサポート部材とゴム製シートを用いる方法では、ゴム製シートを介することによって電子部品の熱をハウジング表面に逃がすことはできるが、電子部品から回路基板に伝わった熱をハウジング表面に逃がすことはできず、高い放熱性を得ることができない。
【0007】
この発明はこのような問題を解決するためになされたものであり、高い放熱性および耐振性を有すると共に低コストであるインバータアセンブリを備えた電動コンプレッサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、この発明に係る電動コンプレッサは、冷媒を圧縮する圧縮機構部と、圧縮機構部を駆動する電動モータと、圧縮機構部および電動モータを収容するハウジングと、電動モータの回転を制御するインバータアセンブリとを有する電動コンプレッサにおいて、インバータアセンブリは、ハウジングに接触配置される伝熱性を有する弾性部材と、弾性部材に直接支持される回路基板と、回路基板のハウジングを向く面と反対側の面に接続される電子部品と、ハウジングに取り付けられて、ハウジングとともに弾性部材、回路基板、及び電子部品を収容する収容室を形成するベース部材とを備え、ベース部材及びハウジングは伝熱性を有する材料によって形成され、ベース部材は、電子部品を固定するとともに、弾性部材との間に隙間を形成する固定面を有することを特徴とする。
これにより、高い放熱性および耐振性を有すると共に低コストであるインバータアセンブリを備えた電動コンプレッサを得ることができる。
【0009】
電子部品は、伝熱性の接着剤または接着シートを介してベース部材に固定されてもよい。
これにより、インバータアセンブリの放熱性がさらに向上する。
【0010】
弾性部材は、ゲル状素材によって構成されてもよいし、ゲル状のシートによって構成されてもよい。
【0011】
回路基板におけるベース部材を向く面および側面にも、弾性部材が配置されてもよい。
これにより、インバータアセンブリの放熱性がより一層向上する。
【発明の効果】
【0012】
この発明によれば、高い放熱性および耐振性を有すると共に低コストであるインバータアセンブリを備えた電動コンプレッサを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】この発明の実施の形態に係る電動コンプレッサの縦断面図である。
【図2】この発明の実施の形態に係る電動コンプレッサのインバータアセンブリの内部構造を示す模式断面図である。
【図3】この発明の実施の形態の変形例に係る電動コンプレッサのインバータアセンブリの内部構造を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、この発明の実施の形態について添付図面に基づいて説明する。
この発明の実施の形態に係る電動コンプレッサ1の縦断面図を図1に示す。
電動コンプレッサ1のハウジング2の内部には、冷媒Rを圧縮する圧縮機構部3と、圧縮機構部3を駆動する電動モータ4とが収められている。また、ハウジング2の表面2aには、電動モータ4の回転を制御するインバータアセンブリ5が取り付けられている。
【0015】
図1において、吸入口6から吸入された低温低圧の冷媒Rは、電動モータ4を経由して圧縮機構部3に吸入され、圧縮機構部3で圧縮されて高温高圧になった後、吐出口7から吐出される。インバータアセンブリ5は、圧縮機構部3に吸入される低温低圧の冷媒Rが流通する近傍のハウジング表面2aに取り付けられている。
【0016】
図2は、インバータアセンブリ5の内部構造を示す模式断面図である。この図に示されるように、インバータアセンブリ5は、アルミニウム等の伝熱性材料によって形成されたベース部材8を備えている。ベース部材8は、天板部8aおよび側板部8bから構成されており、その内部に収容室9が形成されると共にその開口端8cがハウジング表面2aに取り付けられている。
【0017】
ベース部材8の収容室9内には、インバータ回路を構成する電子部品10,11が実装された回路基板12が収容されている。回路基板12は、その上面12a(ベース部材8の天板部8aを向く面)に実装された電子部品10,11が伝熱性の接着剤14によって天板部8aに固定されることにより、ベース部材8に固定されており、回路基板12の上面12aとベース部材8の天板部8aとの間には、隙間13が形成されている。
【0018】
また、回路基板12の下面12b(ハウジング表面2aを向く面)とハウジング表面2aとの間全体には、伝熱性を有する弾性部材15が充填されている。この弾性部材15は、シリコーン等の素材によって構成されており、インバータアセンブリ5の組み付け時には流動性を有する状態で回路基板12の下面12bとハウジング表面2aとの間に流し込まれ、時間の経過とともに硬化して(経時硬化)、弾力性を有するゲル状になる。
【0019】
次に、この実施の形態に係る電動コンプレッサ1におけるインバータアセンブリ5の作用について説明する。
電動コンプレッサ1の動作時において、電子部品10,11および回路基板12の熱は、回路基板12の下面12bから弾性部材15を介してハウジング表面2aに伝えられる。先に述べたように、インバータアセンブリ5は、圧縮機構部3に吸入される低温低圧の冷媒Rが流通する近傍のハウジング表面2aに取り付けられているため、このハウジング表面2aにおいて放熱が行われる。また、電子部品10,11の熱は、伝熱性の接着剤14を介してベース部材8の天板部8aおよび側板部8bを通る経路によってもハウジング表面2aに伝えられ、この経路でも放熱が行われる。また、圧縮機構部3からの振動も弾性部材15によって吸収される。
【0020】
以上説明したように、この発明の実施の形態に係る電動コンプレッサ1のインバータアセンブリ5では、回路基板12の下面12bとハウジング表面2aとの間に伝熱性を有する弾性部材15が充填されており、この弾性部材15は、電子部品10,11および回路基板12の熱をハウジング表面2aに逃がすと共に、圧縮機構部3からの振動を吸収する。これにより、このインバータアセンブリ5は、高い放熱性および耐振性を有する。
また、弾性部材15が回路基板12の下面12bとハウジング表面2aとの間に充填された状態で、回路基板12の上面12aとベース部材8の天板部8aとの間には隙間13が形成されており、弾性部材15が少量で済むと共にアセンブリ5内部の圧力変動に対応するための空気孔が不要になり、低コストになる。
また、ベース部材8はアルミニウム等の伝熱性材料によって形成され、回路基板12の上面12aに実装された電子部品10,11は、伝熱性の接着剤14を介してベース部材8の天板部8aに固定されている。電子部品10,11の熱は、伝熱性の接着剤14を介してベース部材8の天板部8aおよび側板部8bを通る経路によってもハウジング表面2aに逃がされるため、放熱性がさらに向上する。
尚、弾性部材15としては、αゲル(@登録商標)等の初期状態において既にゲル状のシートを用いてもよい。その場合、シリコーン等の経時硬化型の素材で必要であったアセンブリ組み付け時における硬化工程が不要になる。
【0021】
その他の実施の形態.
実施の形態において、図3に示されるように、回路基板12の上面12aおよび側面12cが弾性部材215で覆われるようにしてもよい。これにより、電子部品10,11および回路基板12の熱がより効果的に弾性部材215を介してハウジング表面2aに伝えられるようになり、放熱性がより一層向上する。また、回路基板12の全体が弾性部材215で覆われることにより、耐振性も向上する。
【0022】
実施の形態において、伝熱性を有する接着剤14は、伝熱性を有する接着シート等でもよい。
【符号の説明】
【0023】
1 電動コンプレッサ、2 ハウジング、3 圧縮機構部、4 電動モータ、5,205 インバータアセンブリ、8 ベース部材、9 収容室、10,11 電子部品、12 回路基板、12a 回路基板の上面(ベース部材を向く面)、12b 回路基板の下面(ハウジングを向く面)、12c 回路基板の側面、13,213 隙間、14 接着剤、15,215 弾性部材、R 冷媒。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒を圧縮する圧縮機構部と、該圧縮機構部を駆動する電動モータと、前記圧縮機構部および前記電動モータを収容するハウジングと、前記電動モータの回転を制御するインバータアセンブリとを有する電動コンプレッサにおいて、
前記インバータアセンブリは、
前記ハウジングに接触配置される伝熱性を有する弾性部材と、
前記弾性部材に直接支持される回路基板と、
前記回路基板の前記ハウジングを向く面と反対側の面に接続される電子部品と、
前記ハウジングに取り付けられて、該ハウジングとともに前記弾性部材、前記回路基板、及び前記電子部品を収容する収容室を形成するベース部材とを備え、
前記ベース部材及び前記ハウジングは伝熱性を有する材料によって形成され、
前記ベース部材は、前記電子部品を固定するとともに、前記弾性部材との間に隙間を形成する固定面を有することを特徴とする、電動コンプレッサ。
【請求項2】
前記電子部品は、伝熱性の接着剤または接着シートを介して前記ベース部材に固定されることを特徴とする、請求項1に記載の電動コンプレッサ。
【請求項3】
前記弾性部材は、ゲル状素材によって構成されることを特徴とする、請求項1または2に記載の電動コンプレッサ。
【請求項4】
前記弾性部材は、ゲル状のシートによって構成されることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の電動コンプレッサ。
【請求項5】
前記回路基板における前記ベース部材を向く面および側面にも、前記弾性部材が配置されることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の電動コンプレッサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−96297(P2013−96297A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−239305(P2011−239305)
【出願日】平成23年10月31日(2011.10.31)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】