説明

電動サーボプレスの制御方法及び制御装置

【課題】 簡単かつ安価な構成でありながら、大きな加圧力を発生させることができる一方で、スライドの加圧力を高い精度で制御することができる偏芯軸を有する回転直線運動変換機構を用いた電動サーボプレスの制御装置を提供する。
【解決手段】 本発明は、サーボモータ30の回転出力をクランク軸15を介して直線運動に変換してスライド13を直線駆動することでプレス加工を行う電動サーボプレス10の制御装置であって、プレス荷重センサ52と、スライド13の加圧力が加圧力設定値に到達したときに加圧力到達信号を生成する加圧力判定装置60と、を備え、サーボモータ30の駆動を制御するサーボモータ駆動制御装置50とモーション指令装置45において、加圧力到達信号の生成に応じて、サーボモータ駆動制御装置50が駆動制御方式を切り替える、及び/またはモーション指令装置45が指令するモーションを切り替えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クランク軸やエキセン軸などの偏芯軸を介して回転運動を直線運動に変換する回転直線運動変換機構により、サーボモータの回転出力をスライドの直線運動に変換してプレス加工を行う電動サーボプレス機械の制御技術に関する。
【背景技術】
【0002】
プレス機械は大別すると、駆動源に油圧を用いてスライドを駆動する油圧式プレスと、電動モータによって駆動機構(例えばクランク機構等)を駆動し、これに連結されたスライドを上下動させてプレス加工を行う機械式プレスがある。
【0003】
油圧式プレスは、ストロークの変更が容易である事や、加圧力の調整や保持が容易にできる等の特徴を持っている反面、油圧を利用する構成上、発熱・冷却によるエネルギーロスが大きい、加工速度が遅く生産性が低い等の課題がある。一方、機械式プレスは加圧力の調整・保持には難点があるものの、加工速さが速く生産性の点で圧倒的に有利であるので、量産のプレス加工の95%以上で使用されている。
【0004】
プレス加工には打ち抜き加工、絞り加工、鍛造加工等さまざまな加工の種類がありそれらの中で、閉塞鍛造加工、つぶし加工の一部、粉末成形などにおいては正確な加圧力の調整が求められるため、生産性の点では圧倒的に有利であっても機械式プレスを使用できず、油圧式プレスを使用せざるを得ない場合があった。
【0005】
一方、従来からの機械式プレスは、電動モータによりフライホイールを駆動し、フライホイールの蓄積エネルギーを利用してその回転力により、(必要に応じ減速機を介し)クランク等の偏芯機構を駆動して、それに連結したスライドを上下駆動させる方式が一般的な機構であった。しかし、近年、フライホイールを用いず、サーボモータにて直接(必要に応じ減速機を介して)クランク等の偏芯機構等を駆動する電動サーボプレスが市場に投入されて使用されるようになった。電動サーボプレスはスライドの自由なモーションが設定できることから、機械式プレスの加工範囲を拡大させ、急速に利用されるようになってきている。
【0006】
例えば、特許文献1には、サーボプレスによる多段モーション制御装置が記載されている。本文献には、多段モーションの中で、サーボモータの駆動電流を制御することによって、モータの出力トルクを調整し、設定したモーションデータに従ったスライド加圧力を得ることが述べられている。本文献に記載のものは、スライドの駆動機構としてクランク軸等の回転機構は使用せずに、油圧シリンダや直線駆動型電動モータあるいはボールネジによる動力変換装置などを用いて、スライドを上下駆動している。
【0007】
特許文献2には、クランク軸を用いた電動サーボプレスが述べられており、スライド位置がプレス加工領域内に到達すると、サーボモータの制御を位置制御系から加圧力制御系に切替えてスライドの加圧力制御を行うことが記されている。更に、クランク軸を用いた構成上、その位置によって電動サーボモータのトルクとスライド加圧力の関係が異なることに着目し、クランク軸回転角度によるサーボモータのトルクとスライド加圧力との関係式を用いて、設定されたスライド加圧力となるようサーボモータの出力トルクを制御することが記載されている。
【0008】
さらに、特許文献3には最大加圧力で設定された時間加圧する技術が記載され、特許文献4にはスライドの加圧力の正確さを期すため、各可動部の加速度による影響を排除する技術が述べられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平10−277797号公報
【特許文献2】特開2003−181698号公報
【特許文献3】特開2003−154498号公報
【特許文献4】特表2009−505834号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1に記載される直線駆動型電動モータ(リニアモータ)は油圧プレスと同様な動きが可能である反面、その構造上、大推力を得ることが難しい。しかも、コイル側と強力な吸引力を持つ永久磁石側が別ユニットであることから、永久磁石側ユニットをプレス機械に組み込む際の取扱いが難しいと言った面がある。また、回転型電動モータを使用する場合のように減速機を用いることでトルクを増大させて大きな推力を得ることも容易に出来ない。
【0011】
同じく、特許文献1に記載されるボールネジによる動力変換機構においても、リニアモータと同様、その機構上の制約から大きな推力を得ることが難しい。製品成型時の加圧力がボールネジに直接かかり摩擦力が増大し、ボールネジの摩耗等を招く惧れがある。このため、大きな加圧力を必要とする大型のプレス機械には、直線駆動型電動モータやボールネジを利用した機構は採用し難いのが実情である。
【0012】
一方、クランク軸やエキセン軸などを用いたプレス機械は、大きな加圧力を要するプレス機械であっても製造が比較的容易であるため、小型のものから大型のものまで多数製作されている。
【0013】
特許文献2においてはクランク軸を用いたプレス機械が記載されており、特許文献2に記載されるものはクランク軸の回転角度によるサーボモータのトルクとスライド加圧力の関係式を用いてサーボモータのトルクを制御しているので、正確な加圧力制御を行うことができるように見受けられる。
【0014】
しかし、偏芯機構を用いたプレス機械では、理論的には下死点で無限大のスライド加圧力が発生できることになるので、下死点近傍ではサーボモータの僅かなトルク変動が、大きな加圧力の変化となって現れる。
【0015】
従って、サーボモータの電流制御によって出力トルクを調整し、スライドの加圧力を制御する方式では、下死点に近づくに従って、サーボモータの出力トルクの誤差も増幅され、スライドの加圧力の誤差も増大するという特性がある。
【0016】
更に、前記の如く理論的には下死点で無限大の加圧力となるので、偏芯機構を駆動する摺動部の摩擦力等の影響も無視できなくなり、サーボモータのトルク制御のみで正確な加圧力制御を行うことは現実的に困難である。
【0017】
また、電動サーボプレスの特徴である自由度高く与えることができる速度変化を下死点近傍で行う設定とすれば、減速機構やクランク軸の慣性モーメントの影響がスライドの加圧力に増幅されて生じるため更に制御精度を低下させることとなり、下死点近傍での荷重制御は殆ど機能しない状況となる。
【0018】
なお、クランク軸等の偏芯機構を用いたプレスでは、下死点近傍で大きな加圧力を発生出来ることから、下死点近傍をプレス加工域として積極的に利用せざるを得ない場合が多い。従って、プレスのスライドのストローク中で最も使用頻度の多い部分で精度の悪い制御となってしまい、高い精度のプレス加工を十分に実現できていないのが実情である。
【0019】
本発明は、かかる従来の実情に鑑みなされたもので、簡単かつ安価な構成でありながら、大きな加圧力を発生させることができる一方で、スライドの加圧力を高い精度で制御することができる偏芯軸を有する回転直線運動変換機構を用いた電動サーボプレスの制御装置及び制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
このため、本発明に係る電動サーボプレスの制御装置は、
サーボモータの回転出力で偏芯軸を回転させ、該偏芯軸の回転を直線運動に変換する回転直線運動変換機構を介してスライドを直線駆動することでプレス加工を行う電動サーボプレスの制御装置であって、
スライドの加圧力を検出するプレス荷重センサと、
一つの或いは異なる値を有する複数の加圧力設定値と、前記プレス荷重センサの出力信号と、に基づいて、スライドの加圧力が一つ或いは複数の加圧力設定値に到達したか否かを判定すると共に、到達する毎に加圧力到達信号を生成する加圧力判定装置と、
を備え、
サーボモータの駆動を制御するサーボモータ駆動制御装置とモーション指令装置において、前記加圧力到達信号の生成に応じて、サーボモータ駆動制御装置が駆動制御方式を切り替える、及び/またはモーション指令装置が指令するモーションを切り替えることを特徴とする。
【0021】
本発明において、電動サーボプレスの行程は、待機位置または上死点(PS)から開始され、当該一行程開始時はモーション指令装置の指令に基づき前記サーボモータ駆動制御装置がサーボモータを位置制御にて駆動制御することを特徴とすることができ、これにより、例えば、待機位置からの動作を迅速に行うことが出来、生産性を向上させることができる。
【0022】
本発明において、第一の加圧力到達信号の生成に基づき、モーション指令装置が指令するモーションを切り替えて、サーボモータ駆動制御装置がサーボモータの駆動制御方式を位置制御から速度制御に切り替えることを特徴とすることができ、これにより、例えば、上記と同様に、同じく生産性を向上させることが出来る。
【0023】
本発明において、前記第一の加圧力到達信号は、上型と下型との間で圧力が所定に発生する実際の加工開始点で生成されるよう設定されることを特徴とすることができ、これにより、例えば、非加工時の動作を高速で行うことが出来るので、生産性を向上させることが出来る。
【0024】
本発明において、前記サーボモータ駆動制御装置がサーボモータを位置制御中または速度制御中において、第二の加圧力到達信号の生成に基づき、モーション指令装置がサーボモータの回転速度がより低速となるようにモーション指令を切り替えることを特徴とすることができ、これにより、例えば、指定加圧力近傍の加工をより低速で行い、精度の高い加工が可能となる。
【0025】
本発明において、第三の加圧力到達信号の生成に基づき、モーション指令装置がモーション指令を切り替えて、サーボモータ駆動制御装置によるサーボモータの駆動制御方式を速度制御からトルク制御に切り替えることを特徴とすることができ、これにより、例えば、必要なストローク範囲で加圧力制御が出来、効率の良い電動サーボプレスを提供できる。
【0026】
本発明において、第三の加圧力到達信号の生成に基づき、モーション指令装置がモーション指令を切り替えて、サーボモータ駆動制御装置によるサーボモータの駆動制御方式を位置制御からトルク制御に切り替えることを特徴とすることができ、これにより、例えば、上記と同様に、必要なストローク範囲で加圧力制御が出来、効率の良い電動サーボプレスを提供できる。
【0027】
本発明において、前記トルク制御は、電動サーボプレスの前記回転直線運動変換機構の偏芯軸の回転角度位置に対するサーボモータの発生トルクとスライドの加圧力との関係に基づいて、スライドの加圧力指令値をサーボモータのトルク指令値へ変換してサーボモータ駆動制御装置へトルク指令値(Cit)として出力することすることを特徴とすることができ、これにより、例えば、スライドの移動中においても安定した加圧力を補償することができる。
【0028】
本発明の前記トルク制御への切り替えにおいて、第三の加圧力到達信号生成時、その時実際に駆動制御していたサーボモータ駆動制御装置のトルク値を、切り替え後のトルク制御のトルク指令値(Cit)に反映させることを特徴とすることができ、これにより、例えば、より精度の高い加圧力制御が可能となる。
【0029】
本発明の前記トルク制御において、モーション指令装置より出力する加圧力指令値を予め設定した値より一旦小さな値に下げた後元の値まで上昇させ、再度下げてまた上昇することを繰り返す事によりスライドの加圧力を振動させることを特徴とすることができ、これにより、例えば、圧粉成形等において、安定した成形が可能となる。
【0030】
本発明において、第四の加圧力到達信号の出力に基づいて加工完了と判断し、サーボモータ駆動制御装置の駆動制御方式を位置制御に戻し、スライドを待機位置或いは上死点(PS)へサーボモータを逆転させて戻すことを特徴とすることができ、これにより、例えば、精度の高い加圧力制御が可能となる。
【0031】
本発明において、前記トルク制御に切り替えてからの経過時間が予め設定した時間に到達した時を加工完了と判断し、サーボモータ駆動制御装置の駆動制御方式を位置制御に戻し、スライドを待機位置或いは上死点(PS)へサーボモータを逆転させて戻すことを特徴とすることができ、これにより、例えば、安定した成形が可能となる。
【0032】
本発明において、前記トルク制御に切り替えてからのスライドの移動距離が予め設定した距離を移動した時に加工完了と判断し、サーボモータ駆動制御装置の駆動制御方式を位置制御に戻し、スライドを待機位置或いは上死点(PS)へサーボモータを逆転させて戻すことを特徴とすることができ、これにより、例えば、上記と同様に、安定した成形が可能となる。
【0033】
本発明において、サーボモータ駆動制御装置が駆動制御方式を切り替えるとき、またはモーション指令装置が指令するモーションを切り替えるときに、サーボモータの駆動源として機能するエネルギー蓄積装置のエネルギー蓄積量が規定量以下である場合には、サーボモータの駆動を一旦停止し、エネルギー蓄積量が規定値まで回復したときにサーボモータの駆動を再開することを特徴とすることができ、これにより、例えば、より高い加工エネルギーが必要な加工も行うことができ、一層電動サーボプレスの使用範囲を拡大できる。
【0034】
本発明において、スライドの速度を通常の生産速度より低速で電動サーボプレスを作動させるテスト動作モードにて電動サーボプレスを運転可能に構成すると共に、加圧力判定装置に異なる値を有する複数の加圧力設定値を設け、それぞれの加圧力設定値に達したときに、対応するスライド位置を加圧力設定値に対応付けて記憶する記憶装置を設け、
前記テスト動作モードにて電動サーボプレスを運転させることにより、前記記憶装置にそれぞれのスライド位置を記憶させ、当該記憶されたスライド位置に基づいて、モーション指令装置により指令されるモーションに関する一つ或いは複数のパラメータが自動的に決定されるように構成したことを特徴とすることができ、これにより、例えば、パラメータを自動的に決定できるので一層操作性が向上する。
【0035】
本発明において、スライドの速度を通常の生産速度より低速で電動サーボプレスを作動させるテスト動作モードにて電動サーボプレスを運転可能に構成すると共に、加圧力判定装置に異なる値を有する複数の加圧力設定値を設け、それぞれの加圧力設定値に達したときに、対応するスライド位置を加圧力設定値に対応付けて記憶する記憶装置を設け、
前記テスト動作モードにて電動サーボプレスを運転させることにより、前記記憶装置にそれぞれのスライド位置を記憶させ、当該記憶されたスライド位置に基づいて、クランク軸の回転角度位置に対するスライド位置の調整(ダイハイト調整)の要否を判断することを特徴とすることができ、これにより、簡単に、本電動サーボプレスを適切に使用することなどが可能となる。
【0036】
また、本発明に係る電動サーボプレスの制御方法は、
サーボモータの回転出力で偏芯軸を回転させ、該偏芯軸の回転を直線運動に変換する回転直線運動変換機構を介してスライドを直線駆動することでプレス加工を行う電動サーボプレスの制御方法であって、
スライドの加圧力を検出し、
一つの或いは異なる値を有する複数の加圧力設定値と、スライドの加圧力の検出値と、に基づいて、スライドの加圧力が一つ或いは複数の加圧力設定値に到達したか否かを判定すると共に、到達する毎に加圧力到達信号を生成する一方、
サーボモータの駆動を制御するサーボモータ駆動制御装置とモーション指令装置が、前記加圧力到達信号の生成に応じて、サーボモータ駆動制御装置の駆動制御方式を切り替え、及び/またはモーション指令装置が指令するモーションを切り替えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0037】
本発明によれば、簡単かつ安価な構成でありながら、大きな加圧力を発生させることができる一方で、スライドの加圧力を高い精度で制御することができる偏芯軸を有する回転直線運動変換機構を用いた電動サーボプレスの制御装置及び制御方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の一実施の形態に係る電動サーボプレスの一例を概略的に示す正面図である。
【図2】同上実施の形態に係る電動サーボプレスの電気系統図(単線結線図)の一例を概略的に示した図である。
【図3】同上実施の形態に係る電動サーボプレスの制御系(モーション指令装置を含むプレス制御装置、サーボモータ駆動制御装置など)の構成を説明するブロック図である。
【図4】プレス加工の代表的な加工事例の一つについて、スライド位置(クランク角度位置)毎の加圧力をグラフにプロットしたものである。
【図5】同上実施の形態に係る電動サーボプレスのプレス制御装置(モーション設定情報記憶部)に備えられる記憶領域(記憶テーブル)の一例を示す図である。
【図6】クランク軸トルクTと、スライドの加圧力FSと、の関係を説明するための図である。
【図7】同上実施の形態に係る電動サーボプレスのプレス制御装置の操作部(情報入力部)に設けられたディスプレイ画面に表示されたモーション設定画面の一例を示す図である。
【図8】図7に示したモーション設定画面で設定された内容に従ったスライドの動作の様子を横軸を時間として表したタイミングチャートである。
【図9】同上実施の形態に係るモーション設定画面の他の一例を示す図である。
【図10】図9に示したモーション設定画面で設定された内容に従ったスライドの動作の様子を横軸を時間として表したタイミングチャートである。
【図11】同上実施の形態に係るモーション設定画面の他の一例を示す図である。
【図12】図11に示したモーション設定画面で設定された内容に従ったスライドの動作の様子を横軸を時間として表したタイミングチャートである。
【図13】同上実施の形態に係るモーション設定画面のテスト動作の場合の一例を示す図である。
【図14】同一の加工においてスライド位置の調節(ダイハイト調節)を行った場合のクランク角度位置に対する加圧力の変化とプレス能力カーブとの関係の図である。
【図15】大きなエネルギーを必要とする加工を行った場合のエネルギー蓄積コンデンサ両端の電圧の様子を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、本発明の一実施の形態について、添付の図面を参照しつつ説明する。なお、以下で説明する実施の形態により、本発明が限定されるものではない。
【0040】
本実施の形態に係る電動サーボプレス10は、図1〜図15に示す如く構成されている。サーボモータ30は、図1に示すように、ギヤ17、16を介してクランク軸15を駆動し、クランク軸15はその偏芯機構によりコンロッド14を介してスライド13を上下駆動するよう構成されている。サーボモータ30は可逆回転駆動制御可能に構成され、任意の位置からのスライド30の上下駆動が可能である。
【0041】
本実施の形態の代表的な動作を概説する。
例えば、図8に示すように、スライド13は待機位置(上死点)PSから加工開始位置(PP)まで位置制御にてサーボモータ30を正転駆動制御してスライド13を下降させる。加工開始位置(PP)では駆動制御方式を位置制御から速度制御に切替えて第一の加工中間位置(PM1)までサーボモータ30を正転駆動制御してスライド13を下降させる。
【0042】
その後、第一の加工中間位置(PM1)では速度をさらに低速に切替えて速度制御を継続する。スライド13の下降中にスライド13の加圧力が予め設定した加圧力に到達したと加圧力判定装置60が判定すると、この位置を第二の加工中間位置(PM2)とし、直ちに駆動制御方式を速度制御からトルク制御に切替えると共に、スライド13の加圧力が前記加圧力判定装置60の判定時点の加圧力となるようサーボモータ30をトルク制御する。
【0043】
さらに、第二の加工中間位置(PM2)と判定した時点から予め設定した時間経過すると加工完了と判断し、駆動制御方式をトルク制御から位置制御に切替えてサーボモータ30を逆転駆動制御して、スライド13を上昇させつつ初期の待機位置(PS)に戻すように制御されている。
【0044】
加圧力判定装置60は、電動サーボプレス10のフレーム11に取り付けられた荷重センサ33からの荷重信号に基づいてスライド13の加圧力を求めているので、駆動モータのトルクから求める値などのようにクランク軸位置に影響されず、正確な加圧力で制御することが可能である。
【0045】
さらに詳しく述べる。図1は電動サーボプレスの一例で要部正面図を示している。
電動サーボプレス10の本体のフレーム11にはボルスタ12が取り付けられている。ボルスタ12の上方にはスライド13が上下動可能にフレーム11に設置されている。スライド13の上部にはクランク軸15がフレーム11に回転可能に配設され、クランク軸15の中央偏芯(クランクアーム)部分にはコンロッド14が回転可能に取り付けられ、コンロッド14の下部はスライド13に連結されており、クランク軸15の回転によりスライド13が上下駆動されるように構成されている。スライド13には、図示は省略しているが、ウエイトバランス装置が係合されておりスライド13が安定して駆動される。また、同じく図示は省略しているが、クランク軸15の回転角度位置に対するスライド13の位置を調整して、ボルスタ12とスライド13の間に装着される金型の高さにスライド位置をあわせる、すなわちスライドの位置の調整(ダイハイト調整)機構も装備されている。
【0046】
クランク軸15の一端にはメインギヤ16が取り付けられている。さらに、フレーム11の上部にはサーボモータ30が取り付けられており、サーボモータ30の出力回転軸には前記メインギヤ16を駆動するためのドライブギヤ17が取り付けられている。さらにサーボモータ30の出力軸には機械式ブレーキ34が取り付けられている。この機械式ブレーキ34によりサーボモータ30が非駆動時の場合や、故障等による緊急の場合にスライドを確実に停止させることが出来、安全を確保している。
【0047】
以上の機構によって、機械式ブレーキ34が解放され、サーボモータ30の出力回転軸が駆動されると、ドライブギヤ17とメインギヤ16によりサーボモータ30の回転が減速されつつトルクを増大させてクランク軸15を回転させることになり、これによってスライド13を上下駆動させることになる。この機構により、ボルスタ12に取り付けられた下型22に対して、スライド13に取り付けられた上型21を相対的に上下運動させることによりプレス成形が可能となる。
【0048】
図1においてはドライブギヤ17とメインギヤ16の1段減速機構を採用しているが、ギヤ(減速機)をさらにもう1組介する2段減速機構を採用することができ、また、全く減速機構を用いず、サーボモータ30で直接クランク軸15を駆動する構成とすることもできる。
【0049】
サーボモータ30の出力回転軸の反対側で、かつ、回転軸と同軸上にはサーボモータ30の回転角度を検出するサーボモータ用エンコーダ31が取り付けられ、その出力である回転角度θ1はサーボモータ駆動制御装置50に入力される。なお、サーボモータ30はACサーボモータまたはDCサーボモータのいずれも採用することができる。
【0050】
また、クランク軸15のメインギヤ16の反対側の軸端にはクランク軸15の回転角度を検出するクランク軸用エンコーダ32が取り付けられており、その出力である回転角度θはプレス制御装置(コントローラ)40に入力される。クランク軸用エンコーダ32とスライド13はコンロッド14にて連結されているので、クランク軸用エンコーダ32の出力θからスライド13の位置を求めることが出来る。しかし、図示はしていないが、例えばリニアスケール等のリニアセンサをボルスタ12とスライド13の間に取り付けてスライド・ボルスタ間の距離を直接検出することも可能である。本実施の形態では、クランク軸用エンコーダ32のみで、クランク軸15の回転角度位置θからスライド位置を検出する構成とした。
【0051】
図2は電動サーボプレス10の電気系統図(単線結線図)の一例を示す。
三相交流電源(R,S,T)は過電流遮断器71にて受電され、電磁接触器72を介してコンバータ73に供給される。図示はしていないが、電動サーボプレス10のサーボ電源投入操作を行うと、電磁接触器72が閉じられ、三相交流電源がコンバータ73に供給される。コンバータ73は三相交流電源を直流電源に変換し、エネルギー蓄積装置75に直流電源を蓄える。実施例ではエネルギー蓄積装置として、エネルギー蓄積コンデンサが使用される。
【0052】
サーボモータ駆動制御装置50は前記直流電源からPWM(Pulse Width Modulation)制御により電流制御された3相交流電源を生成し、サーボモータ30に供給し回転駆動制御する。
【0053】
また、サーボモータ駆動制御装置50にはプレス制御装置40が接続され、相互に各種制御信号の授受を行い、サーボモータ30を駆動制御する。
【0054】
具体的には、図3に示すように、プレス制御装置40にはモーション指令装置45が設けられ、モーション指令(具体的には位置指令、速度指令、トルク指令)をサーボモータ駆動制御装置50に送り、サーボモータ駆動制御装置50は前記モーション指令に従い、サーボモータ30を駆動制御する。
【0055】
プレス制御装置40とサーボモータ駆動装置50によるサーボモータ30の駆動制御を図3に従って詳細に説明する。
プレス制御装置40はプレスコントロール装置41、操作部43、加圧判定装置60、電圧判定装置44、モーション指令装置45、および加圧力・トルク変換部49A、トルク・加圧力変換部49Bにより構成される。コントロール装置41ではスライド調節やダイクランプ装置、材料の送り装置等のようにサーボモータ30やスライド13の駆動に直接関係の無い制御も行われているが、それらの記述は省略する。
【0056】
操作部43はコントロール装置41に接続されている。操作部43では電動サーボプレスの各種操作や設定、スライド駆動に関するモーションデータの設定等が行われ、コントロール装置41に伝達される。具体的には、モーション指令装置45にてモーション指令を生成するための各種データや加圧判定装置60の加圧力設定値等に関するデータが、操作部43より入力されて、コントロール装置41内に構成されたモーション設定情報記憶部42に記憶される。詳細は後述するが、モーション指令を生成する為の基本的なモーション設定例を図7、図9、図11、図13に示す。
【0057】
電動サーボプレス10のフレーム11には荷重センサ33が取り付けられ、その出力は加圧力判定装置60に入力される。荷重センサ33はスライド13の加圧力によるフレーム11の伸びを検出してスライド13の加圧力を測定する。荷重センサ33の代わりに、例えばスライド13に設けた油圧室の圧力を測定するセンサを利用する構成とすることができるし、別途取り付けられた荷重計の荷重出力を利用することもでき、すなわち電動サーボプレス10の発生荷重(加圧力)を正しく測定できるものを加圧力判定装置60に入力すれば良い。
【0058】
加圧力判定装置60はコントロール装置41に接続される。予め設定した指定加圧力や加圧力設定値がモーション設定記憶部42に記憶されているので、加圧力判定装置60は当該加圧力設定値と荷重センサ33より求めたスライド13の実際の加圧力とを比較し、これらが一致した際に加圧力到達信号をコントロール装置41やサーボモータ駆動制御装置50に出力する。
【0059】
コントロール装置41にはクランク軸15の回転角度を検出するクランク軸用エンコーダ32の検出信号が入力されている。詳細は後述するが、低速でスライド13を駆動して行うテスト動作においては、加圧力判定装置60は複数の加圧力設定値とスライド13の加圧力を比較し、それぞれの加圧力到達信号を出力する。コントロール装置41はそれぞれの加圧力到達信号の出力時のクランク角度位置ならびにクランク角度位置から求めたスライド位置(実施例では下死点上高さ)をモーション設定情報記憶部42に記憶する。
【0060】
モーション指令装置45は位置指令部48、速度指令部47、加圧力指令部46から構成される。位置指令部48、速度指令部47、加圧力指令部46では、それぞれ位置指令、速度指令、加圧力指令をモーション設定情報記憶部42の情報を用いて生成し、加圧力判定装置60からの加圧力到達信号に基づきコントロール装置41にて決定される駆動制御方式に従い、位置指令または速度指令または加圧力指令のいずれかを選択してサーボモータ駆動制御装置50に出力する。
【0061】
モーション指令装置45におけるモーション指令の生成は、任意のある区間毎に速度や加圧力を指定する方式や、時々刻々と速度変化するモーションカーブとして表現される方式、また、スタートや停止などの変極点における衝撃を緩和するいわゆるS字カーブ処理等、様々な手法が考案されていて実際に使用されているが、本実施の形態では、任意の区間一定の速度や加圧力となる指令を基本とし必要時S字カーブ処理を行う方式を採用することとし、他の方式についての記載を省略するが、この方式に限定するものではない。
【0062】
プレス制御装置40には加圧力・トルク変換部49Aとその逆変換部であるトルク・加圧力変換部49Bが設けられている。
【0063】
ここで、クランク軸15のトルクTとスライド13の加圧力FSとの関係を図6を用いて説明する。図6においてクランク軸15のトルクをT、クランクアーム半径をL1、コンロッド14の長さをL2、クランク回転方向の力をF1、コンロッド軸方向の力をF2、スライド13の加圧力をFS、F2とFSのなす角をα、F1とF2のなす角をβとすると、
【数1】


が成立するのでクランク軸15のトルクTとクランク軸15の位置θとからスライド13の加圧力FSが求まる。
【0064】
また、
【数2】


となるので、スライド13の加圧力FSとクランク軸15の位置θとからクランク軸のトルクTが求められる。
【0065】
クランクアーム半径L1とコンロッド長さL2は電動サーボプレスの固有の値として定められる。また、メインギヤ16とドライブギヤ17による減速比も同様に電動サーボプレス固有の値として定められる。
【0066】
さらに、図3に示すが如く、加圧力・トルク変換部49Aとトルク・加圧力変換部49Bにはクランク軸エンコーダ32の出力であるθが入力される。従って、加圧力・トルク変換部49Aは数式2を用いて加圧力指令部46から出力されるスライドの加圧力指令値Cttを現在のクランク軸位置θにおけるサーボモータ30のトルク指令値Citに変換して出力する。
【0067】
また、トルク・加圧力変換部49Bは数式1を用いてサーボモータ駆動制御装置50にて制御されているサーボモータ30のトルク指令値Ciを現在のクランク軸位置θでのスライド加圧力値Ctfに変換して出力し、加圧力指令部46へフィードバックするよう構成されている。
【0068】
サーボモータ駆動制御装置50の構成例を図3に示す。サーボモータ駆動制御装置50は主に、位置制御部51、速度制御部52、電流制御部54、PWM制御部55を含んで構成されている。
【0069】
位置指令部48からの位置指令Cppとサーボモータ用エンコーダ31からの位置信号θ1と比較し、その差ΔCpを得て、そのΔCpに位置ループゲインを乗じて速度指令Cvsを得る。具体的には、位置指令に対してサーボモータ30の位置(エンコーダの出力θ1)が遅れていれば、それらの差ΔCpが大きくなり、その結果速度指令Cvsを増大させてサーボモータ30の速度を上げることになる。これを位置ループと呼ぶ。
【0070】
速度指令Cvsは切替器57を経由して速度指令Cvとなり、サーボモータ用エンコーダ31から位置信号θを微分部53により微分して得られるサーボモータ30の速度信号Fvと比較する。比較の結果、その差ΔCvを得て、そのΔCvに速度ループゲインを乗じて速度指令Cisを得る。具体的には、速度指令に対してサーボモータ30の速度が遅ければ、それらの差ΔCvが大きくなり、その結果トルク指令Cisを大きくしてサーボモータ30のトルクを増大させる。これを速度ループと呼ぶ。
【0071】
トルク指令Cisは切替器58を経由してトルク指令Ciとなり、サーボモータ30の電流検出器56からの電流フィードバック信号Fiと比較される。比較の結果、ΔCiを得て、そのΔCiに電流ループゲインを乗じて電流指令Cipを得る。具体的には、トルク指令に対してサーボモータ30の電流が少なければ、それらの差ΔCiが大きくなり、その結果電流指令Cipを大きくしてサーボモータ30の電流を増加させトルクを増大させる。これを電流ループ(またはトルクループ)と呼ぶ。なお、サーボモータ30の電流と出力トルクは通常の使用範囲において比例関係にあるので、トルク指令が電流指令として置き換わることになる。
【0072】
電流指令Cipを入力されたPWM制御部は、エネルギー蓄積コンデンサ75に蓄えられた直流電源から、図示は省略しているがパワートランジスタをPWM駆動制御し、電流指令Cipに見合った三相交流電流を得て、サーボモータ30に出力し駆動する。
以上の位置ループ、速度ループ、電流ループの3つのフィードバックループを持つものがサーボモータ30の基本的な制御であるが、このほかに現代制御理論等様々な制御があり、これらに関しては様々な文献があるので記載を省略する。しかし、これらの制御を本発明に追加することを妨げるものではない。
【0073】
サーボモータ駆動制御装置50は、位置ループにおける速度指令Cvsとは別に、モーション指令装置45の速度指令部47からの速度指令Cvvにてサーボモータ30を駆動できるよう、切替器57が設けられている。また、速度ループにおけるトルク指令Cisとは別に、モーション指令装置45の加圧力指令部46に基づくトルク指令Citにてサーボモータを駆動できるよう、切替器58が設けられている。これらの切換器を切り替えることによりサーボモータ駆動制御装置の駆動制御方式を位置制御、速度制御、トルク制御に切り替えることが出来る。より具体的には、位置指令部48からの指令Cppに従う位置制御、および切換器57を切り替えて速度指令部47の指令Cvvに従う速度制御、さらに切換器58を切り替えて加圧力指令部46からの指令Cttより算出されるトルク指令Citに従うトルク制御に切り替えることが出来るよう構成されている。
【0074】
プレス制御装置40には、電圧判定装置44が設けられている。電圧判定装置44はエネルギー蓄積装置としてのコンデンサ75の正極・負極間の電圧が入力され、監視される。監視する電圧として、規定電圧1と規定電圧2が設けられ、規定電圧1以下となった場合、電圧低下信号を、規定電圧2以上となった場合には電圧上昇信号をコントロール装置42に出力するよう構成されている。
【0075】
[動作事例1]
本発明による電動サーボプレスの動作事例1を説明する。
図7は操作部43に設けられたディスプレイのモーション設定画面を示す。画面上部には指定加圧力Fmと加圧限界位置を設定する部分がある。指定加圧力Fmは加工における最大荷重で具体的には最終形状を確実に成形できる加圧力を設定する。加圧限界位置は金型構造上これ以上下げられないスライド位置を設定するものであり、適切に設定することにより操作ミス等による金型の破損を防止することが出来る。
【0076】
図7のモーション設定画面の表において、さらに各工程毎のスライドのモーションに関するデータを設定する。この画面では工程1から工程6まで設定が可能であり、各工程では[位置]、[速度]または[加圧力]欄のいずれかが入力可能であり、入力された欄に対応する制御、すなわち、[位置]欄に入力すれば位置制御、[速度]欄に入力すれば速度制御、[加圧力]欄に入力すれば加圧力制御が行われるようになっている。
【0077】
図7の[工程][1]においては[位置]の欄において[V1]が設定されているので、工程1ではサーボモータ駆動制御装置50が位置制御を行い[V1]の速度でスライド13を下降させることになる。位置制御において速度を設定することになっているが、実際は起動と共に設定された速度で順次位置指令を出力し、その指令された位置に追従するよう制御が行われる。一見速度制御と同じよう見えるが、決まった位置に停止する場合は位置制御ででないと正確な位置決めが出来ない。
【0078】
各工程毎には[工程切替]の[方法]と[値]も入力するようになっており、工程1では、方法[P]と値[PP]が入力されている。これは、図7下部の記号説明欄に記載されているように、[P:下死点からの距離]が[PP]の位置に到達すると工程1が終了して工程2に移行することを意味し、工程切替によりモーション設定の[工程][2]の欄に記載された内容に切替り制御駆動されることになる。図7では、工程5まで入力されており、工程5が完了して待機位置PSに戻ることとなり作業一行程(加工一サイクル)は終了する。
【0079】
図8は図7の画面で設定されたスライド13の動作を表したものである。図示は省略しているが電動サーボプレス10の起動ボタンを押すと、サーボモータ駆動制御装置50が位置制御にてサーボモータ30を駆動し、スライド13を待機位置PSから下死点上高さ[PP]まで速度[V1]にて下降駆動する。通常、下死点上高さ[PP]の位置は金型(上型21、下型22)によるの成形加工開始点であり、速度[V1]を高速に設定し、加工開始点までは高速で下降させることにより、スライド13による加工サイクル全体である作業一行程の時間短縮をはかる。
【0080】
スライド13が加工開始位置PPに到達すると、工程2となりサーボモータ駆動制御装置50の切替器57をモーション指令装置45の速度制御部47側へ切替え、駆動制御方式を位置制御から速度制御に切替えて速度[V2]にてスライド13を駆動する。速度[V2]は金型の加工速度に設定することになるので、実際の加工状態を見ながら加工可能な最高速度を設定し、生産性の向上をはかった設定をすることになる。
【0081】
スライド13の位置が下死点上高さ[PM1]に到達すると、工程2が終了し工程3となり、サーボモータ駆動制御装置50は速度制御を継続するが、速度指令部47の速度指令を[V3]に切替え、スライド13を速度[V3]にて駆動する。通常、下死点上高さ[PM1]は加工完了直前の位置であり、速度[V3]はスライド13や金型(例えば上型21)の慣性の影響が少なく、次工程への切替が即座に実行できる超低速が設定される。
【0082】
図7に示すモーション設定において、工程3では、[工程切替]の[方法]と[値]が[F]と[100%]になっている。[F:加圧力]が指定加圧力Fmの[100%]になって工程を切替えるとの事である。指定加圧力Fmには800kNが設定されているので指定加圧力Fmの100%、すなわち800kNの加圧力となった時、工程3は終了し工程4へ移行する。
【0083】
このため、図3に示す加圧力判定装置60には加圧力設定値として800kN、すなわち指定加圧力Fmがそのまま設定される。スライド13の加圧力が800kNに到達すると第三の加圧力到達信号が出力され、工程4に設定された制御に移行する。この時、工程3の速度[V3]を超低速に設定しているので、加圧力が100%になった時即座に次工程に移行できるので、慣性力による加圧力のオーバーシュートを防止できる。
【0084】
図7のモーション設定にて、工程4では、[加圧力]欄に加圧力[F4]が設定され、加圧判定装置には、加圧力設定値
Fr(800kN)=指定加圧力Fm(800kN)×(100%)が設定される。この加圧力設定値に基づく第三の加圧力到達信号が出力されると、その時点すなわちスライドの加圧力が加圧力設定値Frとなった時にサーボモータ駆動制御装置50にて制御されていたトルク指令値Ciが前記数式1の関係を用いて、その時のクランク軸角度位置θにおけるスライド加圧力に変換され、加圧力フィードバック値Ctfとして加圧力指令部46に入力する。その後直ちに、切替器58にてサーボモータ駆動制御装置50は駆動制御方式をトルク制御に切替える。一方、加圧力指令部46では、前記加圧力フィードバック値Ctfとその時の実際に作用した加圧力である加圧力設定値Frとを比較し、誤差を計算し、工程4にて設定されれるべき加圧力指令値F4にその誤差分に相殺して加圧力指令値Cttを得て出力する。加圧力指令値Cttは加圧力・トルク変換部49Aによりその時のクランク軸角度位置θにおけるサーボモータトルクに変換されるので、スライドが移動してもサーボモータは正確なトルク指令にて制御されることになる。具体的には 切換直前に実際に作用した加圧力(加圧力判定装置60の加圧力設定値Frと一致しているので)Fr、加圧力フィードバック値Ctf、指定加圧力Fmとから、加圧力指令値Cttは、
【数3】


として求められ、駆動制御方式をトルク制御に切替え後は加圧力指令部46より出力する加圧力指令値Cttが出力される。
【0085】
一般的には指定加圧力Fmの100%にて工程を切替え、工程4の加圧力設定値[F4]も指定加圧力Fmと同じ加圧力に設定することが多いので、その場合は工程4へ切替え後も誤差の無い切替え直前と同じ加圧力を継続することになる。
【0086】
具体的に図7の設定例においては、[F4]が800kNに設定されることになり、第三の加圧力到達信号出力時点では当然加圧力Frは800kNであるので、Ctt=Ctfとなり、加圧力指令値CttはCtfの値を出力することになる。工程切替え時点では加圧力・トルク変換部49Aもトルク・加圧力変換部49Bも同じクランク軸角度位置θが入力されているので加圧力指令値Cit(=Cft)がトルクに逆変換され、加圧力判定装置60が800kNを検出したときと同じトルクを工程切替え後も出力するよう作動する。
従って、工程4に切替えた位置PM2近傍では、スライド13が下死点に近い位置であっても正確な加圧力制御を継続することが出来る。
以上、本実施例では切替直前のサーボモータのトルクをフィードバックする値としてトルク指令値Ciを用いているが、実際に出力しているトルク値(電流値)Fiであっても差し支えない。一般的に行程3から行程4に切替える時点のサーボモータは超低速で駆動されているが、速度が速い時には、実際に出力しているトルク値(電流値)Fiのほうを用いたほうが正確な場合もある。
【0087】
図7のモーション設定にて、工程4の[工程切替]の[方法]と[値]は[T]と[2.5秒]と設定されているので、工程4に入ってから2.5秒の間加圧力制御を継続する。いわゆる「決め押し」の動作である。設定に従い、工程4に切替え後2.5秒が経過すると工程4を終了し工程5に移行することになる。
【0088】
工程5では[位置]制御の欄に速度[−V1]が記載されているので、サーボモータ駆動制御装置50は切替器57を位置ループ側に切替えて位置制御とし、サーボモータ30を速度[−V1]にて逆転駆動してスライド13を上昇させる。速度[−V1]の[−]は逆転を示し、逆転にて待機位置に戻すことになる。このため通常は工程1同様高速な値を設定するので、同じ速度で回転方向が反対の[−V1]を設定している。また、[工程切替]の[方法]と[値]が[P]と[PS]と設定されているので、待機位置PSに移動して停止し工程5を終了する。なお、工程6は未記入なので、工程5が終了してサイクル全体である加工一行程は完了する。
【0089】
以上のように、この動作事例では、加工完了直前までは、位置制御や速度制御でサーボモータ30を駆動し、指定加圧力Fmに近づく加工完了近傍ではスライド13を超低速となるよう駆動し、下死点に近づくに従って誤差が増大することの無いプレスフレーム11に取り付けた荷重センサ33の信号に基づく加圧力判定装置60の加圧力到達信号にて、即座に制御を切替える為、正確な加圧力が得られる。
さらにそれ以降のサーボモータ30のトルク制御においても、加圧力到達信号出力時のトルク指令値を反映することが出来るので、下死点に近い位置であっても加圧力到達信号出力時点(図8ではPM2)近辺では正確な加圧力制御が可能となっている。
【0090】
サーボモータ駆動制御装置50においては、サーボモータ30のトルクフィードバックとして電流をフィードバック信号Fiとして用い、トルク指令値Ciと比較し、その誤差に見合った電流の増減を行い制御している。
【0091】
ここで、電流フィードバック信号Fiの代わりに荷重センサ33の信号をサーボモータ30のトルク値に変換して、その値をトルクフィードバックとして用いる方法が考えられる。最終制御目標である加圧力を直接サーボモータ30の制御にフィードバックする、いわゆるフルクローズドの考えである。
【0092】
しかし、クランク機構等と組み合わせた電動サーボプレス機械では、下死点近辺ではモータのトルクが理論的に無限大の加圧力に増幅され、誤差も増大するとか、下死点を通過すると加圧力とトルクの関係が逆転するなどの理由で、下死点近傍では使用できない(実質的に下死点付近ではプレス加工を行えない)。従って、従来より電動サーボプレスとして一般的に使用されていたサーボモータの出力回転軸が一方向に回転する、すなわち下死点を通過する加工動作が行えない。またさらに、生産性を向上させるために位置制御や速度制御に自由に切替えることが出来ない等、電動サーボプレスの特徴を大きく損なうことになる。
【0093】
つまり、クランク機構等と組み合わせた電動サーボプレス機械では、下死点近辺ではモータのトルクが理論的に無限大の加圧力に増幅されるが、その増幅の仕方が、クランク軸角度変化に対して指数関数的な変動度合いをもって増幅されるため荷重センサ33の信号を用いて正確なフィードバック制御を行わせることは困難であり、クランク軸角度変化に対する誤差も極めて大きくなるため、前述のフルクローズドの制御方法は、下死点近傍では採用することはできないのが実情である。
【0094】
したがって、クランク機構等と組み合わせた電動サーボプレスでは、下死点近辺におけるフルクローズド制御(実際の加圧力と目標値とを比較してその差分を縮小するような制御)の採用が困難であり、そのことが、更に下死点近辺における正確な加圧力制御の実現を困難にしていた。
【0095】
しかし、本発明では、従来の電動サーボプレスと同様、位置制御や速度制御を用いて様々な加工のモーションが自由に動作可能であり、さらに、速度制御中にスライド13の加圧力を荷重センサ33により観察し、下死点に近づいて実際の加圧力が目標値(ここでは800kN)に到達したときに、そのときの加圧力を維持するようなトルク制御に切り換えるようにしたので、下死点近傍においても加圧力を精度良く制御することができる。
【0096】
なお、この動作事例では、加工開始までの工程1と加工後の戻り工程である工程5では位置制御にて高速にスライドを動作することが出来、加工一行程のサイクルタイムを短縮でき生産性向上が可能である。また、工程5は位置制御なので、正確に待機位置に停止することが出来、材料投入装置等の周辺装置との連携作動も正確に出来る。
【0097】
また、図7のモーション設定における工程4の[工程切替]の[方法]と[値]の設定は[T]と[2.5秒]であるが、[M:本工程に切替ってからの移動距離]と設定することも出来る。例えば、[工程切替]の[方法]と[値]を[M]と[3]と設定すると、工程4に切替ってサーボモータ30をトルク制御しつつ加圧力[F4]にて加圧し、スライドが3mm下降して工程4が終了し次工程に移行することとなる。この設定を行うと、加工完了のスライド位置が確定することが出来るので、寸法精度の高い加工が可能となる。
【0098】
さらに、モーション設定における工程4の[工程切替]の[方法]を[IN:外部からの入力信号]に設定することも出来る。例えば、[方法]と[値]を[IN]と[3]に設定すると、図示はしていないがコントロール装置41の入力3chに接続された、例えば金型に取り付けられたリミットスイッチの動作などの、外部からの入力信号により工程を切替えることが出来る。
【0099】
図7、図8のモーションはさらに[補助]機能を使用して、変化させることが出来、その内容を図11、図12に示す。
図11は、図7のモーション設定に対して工程4の[補助1]の欄に[Vib]が追加設定される。[Vib]の機能は加圧力制御時に機能するもので、予め設定した比率(動作事例1の工程4においては設定された加圧力[F4]に対する比率(%))で加圧力を一旦前記比率分下げて再び上昇させ、また下げて再び上昇させる機能であり、同じく予め設定したサイクルタイムにて加圧力の上昇・下降を繰り返す機能である。
【0100】
図12は、図8の工程4の部分を拡大し、さらに下側に加圧力の変化の様子を追記した図である。工程3で指定加圧力Fmの100%に到達後、工程4に移行し[F4]で加圧制御を開始すると共に、予め設定した比率分だけ加圧力を低下させ、その後再び加圧力を増加させ[F4]で加圧し、その後再び加圧力を低下させること繰り返す。その後、工程切替の条件が成立すると次工程に移行する。図11の設定では[工程切替]条件の設定が[T]と[2.5秒]としているので、2.5秒経過して、工程4を終了し工程5に移行する。工程5は逆転によりスライドを待機位置PSに戻すので、駆動力がマイナス(逆回転方向)に切替ることになる。
このような、加圧力の振動的な変化を与えることは、例えば粉末成形等に対して、安定した品質の実現に貢献することができる。
【0101】
[動作事例2]
本発明による動作事例2を、図9、図10に従って説明する。
動作事例2は積極的に加圧力判定装置60を使用する事例である。図9はモーション設定画面にての設定事例を示し、図10はその設定におけるスライド13の動作を図示したものである。
【0102】
起動は動作事例1と同様、電動サーボプレス10の起動ボタンを押すことにより行われ、サーボモータ駆動制御装置50は位置制御にてサーボモータ30の駆動を開始し、スライド13を待機位置PSから速度[V1]にて駆動下降させる。速度[V1]は動作事例1同様、高速に設定し、加工一行程の時間短縮をはかり生産性を高めた設定がされる。
【0103】
図9にて工程1の[工程切替]の[方法]と[値]が[F]と[10%]に設定してあるので、工程の切替えは加圧力判定装置60の加圧力到達信号によって行われる。この設定では、指定加圧力Fm(この設定では800kN)の10%が加圧力判定装置の加圧力設定値にセットされる。スライド13の下降に伴い、加圧力判定装置60が加圧力設定値(10%)に到達(図10のPP)すると第一の加圧力到達信号を出力し工程1を終了して、工程2に移行する。
ここで、[工程切替]の値を[10%]としたのは、スライド13の下降により上型と下型が接触し、加工を開始するポイントを検出するためで、ノイズ等により誤作動を起こさない範囲で小さい値として設定した。従って、例えば、[5%]程度の値であっても問題はない。
【0104】
工程2では動作事例1と同様に速度制御に切替えられ、金型による加工速度として設定された[V2]の速度でスライド13を下降駆動する。一方、[工程切替]の[方法]と[値]が[F]と[70%]に設定されているので、工程の切替えは加圧力判定装置60の加圧力到達信号により行われることになる。[値]が[70%]の設定であるので、スライド13の加圧力が指定加圧力Fmの70%に達した時、加圧力判定装置60は第二の加圧力到達信号を出力し、工程2から工程3に切替る。
【0105】
工程3ではサーボモータ駆動制御装置50は速度制御のまま継続するが、速度指令部47は速度指令を切替えてスライド13を速度[V3]の速度にて駆動する。設定された速度[V3]は、スライド13や金型(例えば上型21)の慣性による惰走(惰性による運動)の影響が少なく、次工程への切替が即座に実行できる超低速が設定される。
【0106】
工程3では[工程切替]の[方法]と[値]を[F]と[100%]に設定している。指定加圧力Fmは800kNに設定されているので、指定加圧力Fmの100%、すなわち800kNの加圧力となった時、加圧力判定装置60は第四の加圧力到達信号を出力し、工程3は終了して加工完了となりスライドの戻り工程である工程4に移行する。
【0107】
工程4は動作事例1での工程5と同様、位置制御にて速度[−V1]、すなわちサーボモータ30を逆転させてスライド13を速度[V1]で上昇させて、待機位置PS戻し停止する。これにより加工一行程は完了する。
【0108】
本動作事例2では、加工中の全ての工程において加圧力判定装置60の加圧力到達信号によってサーボモータ30の制御方式(方法、態様、内容)を切替えながら駆動制御する。特に最も加圧力が増大する加工が完了する工程3終了近辺では、指定加圧力Fmに到達すると直ちにサーボモータ30が逆転してスライド13を上昇できるよう、スライド13の速度を超低速で作動させているので、指定加圧力Fmを超過することが無く、正確な加圧力制御が実現できる。
【0109】
なお、動作事例2では動作事例1での工程4(いわゆる決め押し工程)は設けていないが、もちろん、決め押し工程を設けることも可能である。
【0110】
[動作事例1と2について]
サーボモータの制御において、起動や工程切替時の急激な速度の変化は大きな振動や衝撃を発生させ好ましくない。速度を切替える場合、瞬間的に速度を切替えるのではなく、ある時間を設けてその間に速度を連続的に減少(または増加)させて衝撃を無くす、いわゆる「S字カーブ」処理が用いられる。詳細な記述は省略するが、本実施の形態においても「S字カーブ」処理は行われており、動作事例1の図8や動作事例2の図10においても各切替点において滑らかな曲線となるよう制御が行われる。
【0111】
一方、動作事例2では、工程1から工程2へ移行する加工開始位置PPと工程2から工程3へ移行する加工中間位置PM1において速度を滑らかに変化させることが困難である。
【0112】
なぜなら、第一の加圧力到達信号にて加工開始位置PPを検出してから減速を開始しても、既に加工は開始しており、時間をかけて減速する余裕は無い。具体的には、第一の加圧力到達信号出力時は実際に金型と材料が既に高速の[V1]で当たっており加工は既に開始している。
【0113】
従って、瞬時に速度を減速させねばならず、このときの金型と材料の衝突と急激な減速による大きな衝撃が発生する。これを避ける為には、工程1の速度[V1]と工程2の速度[V2]の差は小さくせざるを得ない。このことは工程2から工程3へ移行する加工中間位置PM1についても同様である。
【0114】
これに対し、工程3の速度[V3]は加工完了時の加圧力のオーバーシュートを避ける為、すなわちサーボモータ30の逆転(スライド13の上昇)が即座に実施できるよう超低速としなければならない。従って[V1]、[V2]もあまり高速に設定することが出来ず、生産性が低下せざるを得ない。しかし、生産性が重視されない金型調整のための動作時や金型トライのための動作時においてはモーション設定が容易であり有用な動作事例ではある。
【0115】
一方、動作事例1の工程1から工程2へ移行する加工開始位置PPと工程2から工程3へ移行する加工中間位置PM1においては、[工程切替]を[P]、すなわち「下死点からの距離」にて行うので、その[値]すなわち「下死点からの距離」を「S字カーブ」処理にて減速するに必要な分だけあらかじめ上方に設定しておくと、実際の金型が接触する加工開始位置では工程2の速度[V2]に切替っており滑らかな動作が可能であり、且つ、工程1の速度[V1]を高めることが可能となる。工程2から工程3へ移行する加工中間位置PM1においても同様である。このため、動作事例1では生産性を大幅に向上させることが出来るので、実際の生産に多用される。なお、動作事例1においても当然「決め押し」が不用の場合では工程4が省かれる。
【0116】
[テスト動作]
前記のように動作事例1は生産性を高めることができるが、減速に必要な距離を計算しなければならずモーションの設定が面倒である。
このため、テスト動作を行い、これによりモーション設定のいくつかのパラメータを自動的に設定することが可能となるので、その内容を図4、図5、図13を用いて説明する。
【0117】
図13は、テスト動作時の操作部43の画面である。動作事例1のモーション設定と同じ内容の画面となっているが、この中で斜線の部分は自動的にパラメータ設定が可能な入力部分である。
例えば、この斜線部の項目に[?]を入力しておくと、テスト動作を行うことによりパラメータが自動的に設定される。もちろん手動設定することも可能であり、例えば、ここでは工程1と工程5の位置制御の入力項目が斜線部となっているが、速度設定値として[V1]と[V2]が入力されているので、手動入力にて決定されたパラメータとして処理されることになる。
【0118】
テスト動作を行う前に、モーション設定情報記憶部42には、図5に示す記憶領域が生成される。
【0119】
図13のテスト動作の画面にて指定加圧力Fmが設定されるので、その指定加圧力Fmに対する10%、50%、55%、60%、・・・・・、105%の値がそれぞれ加圧力設定値として計算生成され、これらの値は加圧力判定装置60に送られる。
【0120】
テスト動作は超低速でスライド13を駆動して行われる。本実施の形態では超低速を最高速度の2%としたが、一般的には最高速度の10%程度まで可能である。
テスト動作にてスライド13を超低速で駆動しつつプレス加工を行いながら、加圧力判定装置60は加圧力がそれぞれの加圧力設定値になった時に加圧力到達信号を生成し、その信号に基づいてコントロール装置41では図5に示す記憶領域にその時のクランク角度位置を、それぞれの加圧設定値に対応付けて、それぞれ記憶する。さらに、クランク角度位置からスライド位置を計算し、図5の表を完成させる。
【0121】
図4はプレス加工の代表的な加工事例のひとつについて、各スライド位置における各加圧力をグラフにプロットしたものである。
図4中の黒丸はテスト動作によって得られた図5の表の測定点である。スライド13の下降と共に、加工開始点に到達し上型21と材料及び下型22が接触すると急激に加圧力を増大させる。その後、50%前後の加圧力で加工を進行させる。さらに加工完了地点に近づくと急激に加圧力を増大させて、100%に達し、加工を完了させる。このような加圧力のパターンは加圧力制御が必要な閉塞鍛造加工等の代表的なパターンである。
【0122】
テスト動作によって得られたデータによりモーション設定パラメータは決定される。図5の表における加圧力設定値10%におけるスライド位置P10が加工開始点である。図13の工程1の[工程切替]の[値]すなわち工程切替位置PPはあらかじめ設定した加速度で工程1の速度[V1]から工程2の速度[V2]へ減速するに必要な距離を求め加工開始点(図5のP10)に加算して決めることが出来る。
【0123】
工程2の[工程切替]の[値]すなわち工程切替位置PM1は工程3の工程切替条件である指定加圧力Fmが100%の加圧力になる前、すなわち加工完了前に、工程3の速度である超低速[V3]に減速可能な位置を探すことになる。指定加圧力Fmの100%となった位置P100に対して工程2の速度[V2]から工程3の速度[V3]へ減速するに必要な距離を求め、これを加工完了位置(図8のPM2または図10のPE)に加算して求めることが出来る。このように工程2の工程切替位置PM1は工程3に切替ってから減速して工程3が完了するまでに工程3の速度[V3]に完全に減速できる位置を求めることである。もちろん、これらの工程切替位置PP、PM1を算出するに当たっては、それぞれ適宜余裕値も加算される。
【0124】
さらに加工開始点前の工程1の速度[V1]や戻り工程の工程5の速度[−V1]も自動的に設定可能である。これらの工程の速度は直接加工に関係が無いので、速度を低く設定しておく必要も無く、通常はそのプレス機械が持つ最高の速度が自動設定されることになる。もちろん、最高速度が設定されても、起動停止時や加減速時は「S字カーブ」処理が行われ滑らかな加減速が行われる。
一方、材料の投入や取り出しが自動搬送装置で行われる場合には加工一行程が連続的に行われるので、工程1や工程5の間に自動搬送装置が金型内に侵入して搬送を行うことになる。このため、自動搬送装置の稼働時間を考慮して工程1と工程5の時間を設けねばならず、この場合には工程1と工程5の[V1]、[−V1]は手動設定せざるを得ないことになる。
【0125】
[加工エネルギーが大きい加工の場合]
プレス加工には様々な加工があり、加工エネルギーが非常に大きい加工もある。
本実施の形態ではエネルギー蓄積装置としてコンデンサ75を装備しているので、通常の加工では蓄えられたエネルギーを使用して加工が行われるが、非常に大きなエネルギーの加工の場合、加工完了前にエネルギー不足を生じる場合があるので、その時の挙動を図15を用いて説明する。
電動サーボプレス10が起動(図15のVP1)すると、エネルギーが消費され、エネルギー蓄積コンデンサ75の電圧は徐々に低下する。規定電圧1以下(図15のVP2)になるとサーボモータ駆動制御装置50はサーボモータ30の駆動を停止するので、エネルギーの消費は中断される。駆動が停止されなかった場合は図15の破線の如く電圧は低下し続け、異常停止電圧以下となり、電動サーボプレス10は異常停止する。
【0126】
本実施の形態では、プレス制御装置40に電圧判定装置44を設けてエネルギー蓄積コンデンサ75の電圧を監視しているので、規定電圧1以下の電圧になると電圧低下信号をコントロール装置41へ出力し、コントロール装置41の指令によりサーボモータ30を停止状態とするようサーボモータ駆動制御装置50を制御する。
【0127】
このことにより、エネルギーの消費は殆どなくなると共に、エネルギー蓄積コンデンサ75はコンバータ73より直流電源を供給されているので、エネルギーが蓄積されつつ電圧は回復する。規定電圧2まで回復すると電圧判定装置44は電圧上昇信号をコントロール装置41に出力し、コントロール装置41はサーボモータ30の停止状態を解除し、駆動を再開させる。
【0128】
このようなプレス加工中での任意の位置での一時停止は、プレス加工上好ましくない場合があるので、本実施の形態では、エネルギー不足による一時停止行うのは工程が切替るときに限定して行うこととしている。
【0129】
[スライド調節指示]
テスト動作を行うと、スライドの位置調整(ダイハイト調整)が必要か否かを判断することが出来る。
図14は横軸をクランク軸15の回転角度位置、縦軸を加圧力とした加工事例を示す。
Fmaxのカーブはプレス機械の能力カーブであり、各クランク角度位置における発生可能な最大加圧力を示す。
Wc1のカーブはクランク角度位置160°近辺で加工完了となるようにスライドの位置調整をした場合の加圧力の様子を示す。
Wc2のカーブは同一金型で同じ加工をした場合であるが、スライドの位置調整(ダイハイト調整)をWc1の事例より上げてより下死点近くのクランク角度位置175°近辺で加工完了となるようにしたときの様子を示す。どちらの加工も能力カーブFmax以下であり加工は可能であるが、Wc2のほうが電動サーボプレス10に対してより余裕のある使用である。
【0130】
さらに、Wc2の加工は加工完了するクランク角度位置175°近辺の加圧力上昇が緩やかであり、クランク軸15の移動量(回転量)に対する加圧力変化が少ない。
このことは、加圧力100%を検出してから、加圧力到達信号を出力してサーボモータ駆動制御装置50の制御と、モーション指令装置45の制御と、を切替える僅かな時間のクランク軸15の惰走分(惰性による運動分)が、その惰走分の加圧力の変化つまりオーバーシュートを抑制できることとなり、Wc1のクランク角度位置160°付近で加工完了となる制御に比べ、精度の高い加圧力の制御が可能となる。
【0131】
一方、下死点近辺のクランク角度位置175〜180°付近ではクランク軸15の回転角度に対してスライド13は殆ど動かず、逆に温度によるフレーム11の延び等の影響が大きく作用するため、加圧力のコントロールが十分機能しない。このため、自ずから、加工に適正なスライド調節の位置が決定される。本実施の形態では、加工完了位置がクランク角度位置165°〜175°を適正スライド調整位置とし、165°手前ではスライド調整位置を上げる表示を出し、175°以降ではスライド調整位置を下げるよう表示を出している。なお、加工完了近傍の加圧力増加が緩やかな加工ではさらにスライド調整適正範囲を広げることも可能である。
【0132】
以上説明したように、本実施の形態に係る電動サーボプレスの制御装置によれば、大型のプレス機械にも採用可能なクランク軸等の偏芯機構を用いたプレス機械であっても正確な加圧力制御が可能となる。特に下死点近傍ではサーボモータトルク制御によるスライド加圧力制御が不正確にならざるを得ない問題点を克服し、下死点近傍でも正確な加圧力制御を可能とした。
【0133】
このことにより、今までは油圧プレスを使用せざるをえなかった、閉塞鍛造加工や粉末成形等も行えるようになり、使用範囲の広いプレス機械が提供できる。さらに、サーボモータはトルク制御だけではなく、位置制御や速度制御も適切に切替えながら駆動されるので、油圧式プレスに比して大幅に生産性を向上でき機械式プレスと同様の生産性が期待できる。またさらにモーション設定に関するいくつかのパラメータも自動的に設定できるので、操作性の優れたプレス機械を提供できる。
【0134】
以上で説明した本実施の形態は、本発明を説明するための例示に過ぎず、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0135】
10 電動サーボプレス
13 スライド
15 クランク軸
21 金型(上型)
22 金型(下型)
30 サーボモータ
32 クランク軸用エンコーダ
33 荷重センサ
40 プレス制御装置(コントローラ)
43 操作部
44 電圧判定装置
45 モーション指令装置
50 サーボモータ駆動制御装置
60 加圧判定装置
75 エネルギー蓄積装置(コンデンサ)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
サーボモータの回転出力で偏芯軸を回転させ、該偏芯軸の回転を直線運動に変換する回転直線運動変換機構を介してスライドを直線駆動することでプレス加工を行う電動サーボプレスの制御装置であって、
スライドの加圧力を検出するプレス荷重センサと、
一つの或いは異なる値を有する複数の加圧力設定値と、前記プレス荷重センサの出力信号と、に基づいて、スライドの加圧力が一つ或いは複数の加圧力設定値に到達したか否かを判定すると共に、到達する毎に加圧力到達信号を生成する加圧力判定装置と、
を備え、
サーボモータの駆動を制御するサーボモータ駆動制御装置とモーション指令装置において、前記加圧力到達信号の生成に応じて、サーボモータ駆動制御装置が駆動制御方式を切り替える、及び/またはモーション指令装置が指令するモーションを切り替えることを特徴とする電動サーボプレスの制御装置。
【請求項2】
電動サーボプレスの行程は、待機位置または上死点(PS)から開始され、当該行程開始時はモーション指令装置の指令に基づき前記サーボモータ駆動制御装置がサーボモータを位置制御にて駆動制御することを特徴とする請求項1に記載の電動サーボプレスの制御装置。
【請求項3】
第一の加圧力到達信号の生成に基づき、モーション指令装置が指令するモーションを切り替えて、サーボモータ駆動制御装置がサーボモータの駆動制御方式を位置制御から速度制御に切り替えることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の電動サーボプレスの制御装置。
【請求項4】
前記第一の加圧力到達信号は、上型と下型との間で圧力が所定に発生する実際の加工開始点で生成されるよう設定されることを特徴とする請求項3に記載の電動サーボプレスの制御装置。
【請求項5】
前記サーボモータ駆動制御装置がサーボモータを位置制御中または速度制御中において、第二の加圧力到達信号の生成に基づき、モーション指令装置がサーボモータの回転速度がより低速となるようにモーション指令を切り替えることを特徴とする請求項1〜4の何れか1つに記載の電動サーボプレスの制御装置。
【請求項6】
第三の加圧力到達信号の生成に基づき、モーション指令装置がモーション指令を切り替えて、サーボモータ駆動制御装置によるサーボモータの駆動制御方式を速度制御からトルク制御に切り替えることを特徴とする請求項1〜5の何れか1つに記載の電動サーボプレスの制御装置。
【請求項7】
第三の加圧力到達信号の生成に基づき、モーション指令装置がモーション指令を切り替えて、サーボモータ駆動制御装置によるサーボモータの駆動制御方式を位置制御からトルク制御に切り替えることを特徴とする請求項1、請求項2、或いは請求項5の何れか1つに記載の電動サーボプレスの制御装置。
【請求項8】
前記トルク制御は、電動サーボプレスの前記回転直線運動変換機構の偏芯軸の回転角度位置に対するサーボモータの発生トルクとスライドの加圧力との関係に基づいて、スライドの加圧力指令値をサーボモータのトルク指令値へ変換してサーボモータ駆動制御装置へトルク指令値(Cit)として出力することすることを特徴とする請求項1、請求項6、或いは請求項7の何れか1つに記載の電動サーボプレスの制御装置。
【請求項9】
前記トルク制御への切り替えにおいて、第三の加圧力到達信号生成時、その時実際に駆動制御していたサーボモータ駆動制御装置のトルク値を、切り替え後のトルク制御におけるトルク指令値(Cit)に反映させることを特徴とする請求項1、請求項6〜8の何れか1つに記載の電動サーボプレスの制御装置。
【請求項10】
前記トルク制御において、モーション指令装置より出力する加圧力指令値を予め設定した値より一旦小さな値に下げた後元の値まで上昇させ、再度下げてまた上昇することを繰り返す事によりスライドの加圧力を振動させることを特徴とする請求項1、請求項6〜9の何れか1つに記載の電動サーボプレスの制御装置。
【請求項11】
第四の加圧力到達信号の出力に基づいて加工完了と判断し、サーボモータ駆動制御装置の駆動制御方式を位置制御に戻し、スライドを待機位置或いは上死点(PS)へサーボモータを逆転させて戻すことを特徴とする請求項1〜10の何れか1つに記載の電動サーボプレスの制御装置
【請求項12】
前記トルク制御に切り替えてからの経過時間が予め設定した時間に到達した時を加工完了と判断し、サーボモータ駆動制御装置の駆動制御方式を位置制御に戻し、スライドを待機位置或いは上死点(PS)へサーボモータを逆転させて戻すことを特徴とする請求項1〜10の何れか1つに記載の電動サーボプレスの制御装置
【請求項13】
前記トルク制御に切り替えてからのスライドの移動距離が予め設定した距離を移動した時に加工完了と判断し、サーボモータ駆動制御装置の駆動制御方式を位置制御に戻し、スライドを待機位置或いは上死点(PS)へサーボモータを逆転させて戻すことを特徴とする請求項1〜10の何れか1つに記載の電動サーボプレスの制御装置。
【請求項14】
サーボモータ駆動制御装置が駆動制御方式を切り替えるとき、またはモーション指令装置が指令するモーションを切り替えるときに、サーボモータの駆動源として機能するエネルギー蓄積装置のエネルギー蓄積量が規定量以下である場合には、サーボモータの駆動を一旦停止し、エネルギー蓄積量が規定値まで回復したときにサーボモータの駆動を再開することを特徴とする請求項1〜13の何れか1つに記載の電動サーボプレスの制御装置。
【請求項15】
スライドの速度を通常の生産速度より低速で電動サーボプレスを作動させるテスト動作モードにて電動サーボプレスを運転可能に構成すると共に、加圧力判定装置に異なる値を有する複数の加圧力設定値を設け、それぞれの加圧力設定値に達したときに、対応するスライド位置を加圧力設定値に対応付けて記憶する記憶装置を設け、
前記テスト動作モードにて電動サーボプレスを運転させることにより、前記記憶装置にそれぞれのスライド位置を記憶させ、当該記憶されたスライド位置に基づいて、モーション指令装置により指令されるモーションに関する一つ或いは複数のパラメータが自動的に決定されるように構成したことを特徴とする請求項1〜14の何れか1つに記載の電動サーボプレスの制御装置。
【請求項16】
スライドの速度を通常の生産速度より低速で電動サーボプレスを作動させるテスト動作モードにて電動サーボプレスを運転可能に構成すると共に、加圧力判定装置に異なる値を有する複数の加圧力設定値を設け、それぞれの加圧力設定値に達したときに、対応するスライド位置を加圧力設定値に対応付けて記憶する記憶装置を設け、
前記テスト動作モードにて電動サーボプレスを運転させることにより、前記記憶装置にそれぞれのスライド位置を記憶させ、当該記憶されたスライド位置に基づいて、前記回転直線運動変換機構の偏芯軸の回転角度位置に対するスライド位置の調整(ダイハイト調整)の要否を判断することを特徴とする請求項1〜15の何れか1つに記載の電動サーボプレスの制御装置。
【請求項17】
サーボモータの回転出力で偏芯軸を回転させ、該偏芯軸の回転を直線運動に変換する回転直線運動変換機構を介してスライドを直線駆動することでプレス加工を行う電動サーボプレスの制御方法であって、
スライドの加圧力を検出し、
一つの或いは異なる値を有する複数の加圧力設定値と、スライドの加圧力の検出値と、に基づいて、スライドの加圧力が一つ或いは複数の加圧力設定値に到達したか否かを判定すると共に、到達する毎に加圧力到達信号を生成する一方、
サーボモータの駆動を制御するサーボモータ駆動制御装置と制御モーションを指令するモーション指令装置が、前記加圧力到達信号の生成に応じて、サーボモータ駆動制御装置の駆動制御方式を切り替え、及びまたはモーション指令装置が指令するモーションを切り替えることを特徴とする電動サーボプレスの制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2011−115835(P2011−115835A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−277377(P2009−277377)
【出願日】平成21年12月7日(2009.12.7)
【出願人】(000100861)アイダエンジニアリング株式会社 (153)
【Fターム(参考)】