説明

電動ターボチャージャのモータロータ構造とその組付け方法

【課題】電磁鋼板を積層状に予め一体化したものをシャフトに対して回転しないように外嵌固定して、電動ターボチャージャのモータロータの組立品質確保と低コストで製造することができる電動過給機のモータロータ構造を提供すること。
【解決手段】ハウジング内に配設されたステータが形成する磁界により回転する回転子鉄心2と、コンプレッサインペラ3と回転子鉄心2とを一体的に回転させるシャフト4と、前記シャフトを回転可能に支軸する軸受11,12とを備えた電動ターボチャージャのモータロータ1構造において、シャフト4のスラスト方向中間部に回転子鉄心2の移動を規制するストッパ部48と、回転子鉄心2をシャフト4に外嵌後、センサターゲット板22若しくは保護板を介して回転子鉄心2をストッパ部28に押圧する押圧手段14とを有し、シャフト4と回転子鉄心2との周方向への位相ズレを防止するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関への吸気を過給する電動ターボチャージャのモータロータ構造とその組付け方法に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関の出力向上のため、内燃機関の吸気系に介装され、エアクリーナからの吸気を圧縮過給する電動ターボチャージャが広く用いられている。
その電動ターボチャージャの駆動源として回転軸に電動機を組み込んで、コンプレッサインペラを回転制御することにより、加速応答性を改善する電動ターボチャージャが用いられている。
【0003】
図10は従来の電動過給機03を搭載したエンジン01の概略構成図を示す。タービンを有しない電動過給機で示しているが,タービンを有した電動スーパーチャージャでも同様である。
エンジン01の吸気マニホールド012の上流側には電動過給機03が配置されている。電動過給機03は電動モータ04と、吸気系通路に配置されたコンプレッサインペラ032が電動モータ04の回転軸041に連結されている。
電動モータ04の駆動によりコンプレッサインペラ032を駆動して、図示されないエアクリーナからの吸気を圧縮して吸気マニホールド012を介してエンジン01に給気している。
【0004】
そして、電動モータ04の回転軸041はハウジング031に設けられた一対の軸受支持部(図示省略)に軸受042を介して回転可能に支軸されている。軸受042とコンプレッサインペラ032と連結している回転軸041の中間部には、コンプレッサインペラ032を回転駆動するモータロータ043が配設されている。
また、ハウジング031のモータロータ043と対向した位置には、磁界を発生させて、モータロータ043を回転させるステータ044が配設されている。
06はエンジンコントロールユニット(ECU)で、エンジン01の運転をコントロールすると共に、エンジン01の運転状況によりステータ044に流す電流量を電力変換器08を介して制御して、電動過給機03の運転を制御している。07はバッテリィで電力変換器08の電源である。
【0005】
図11は、従来技術の代表例として特開2000−145468号公報(特許文献1)による電動モータ04のモータロータ043の概略図を示す。特許文献1のモータロータ043はタービンブレード05(図7のコンプレッサインペラ032に相当する)を一端に取付けた回転軸041に、タービンブレード05の背面側に間隔を有して一対の軸受042,042が配設されている。
そして、一対の軸受042,042の間には回転子046が配設されている。
この場合、回転子046は永久磁石が使用され、外周部に永久磁石の飛散を防止するため外周部にスリーブ047が外嵌されることが必須となっている。
また、モータロータ043の外周部には、モータロータ043の永久磁石と協働して、回転軸041を回転駆動するためのステータ044がハウジング031に配設されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−145468号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、モータが配置される箇所は,モータ自己発熱およびエンジン発熱のため高温になり永久磁石を利用したモータは温度上昇にともない減磁して性能低下が著しい。
その対応策として、モータロータに永久磁石を使用しないモータのひとつに、磁気誘導子形モータがある。
磁気誘導子形モータは積層電磁鋼板及び鉄材、または、積層電磁鋼板からなるロータである回転子鉄心を回転子鉄心の周囲に配置したステータによって駆動するものである。界磁磁束は,ステータ軸方向に設けた界磁コイルまたはステータ軸方向に磁束を発生する界磁磁石によって生成される。
【0008】
ところが、スーパーチャージャはハウジング内に軸受を介して回転可能に軸支したシャフトに、磁気誘導子形モータとコンプレッサインペラとを配置した構造となっている。
磁気誘導子形モータの回転軸に取付けられている回転子鉄心は薄板状の電磁鋼板を電磁鋼板の板厚方向に積層した状態で固着されている。
積層した電磁鋼板をタービンロータのシャフトに固定する作業は、薄板状の電磁鋼板が剥がれたり、変形したりすることを防止するために組立品質の徹底した維持管理が必要であり、その工数増大に伴うコスト高になる問題が生じた。
【0009】
又、軸受の位置は、回転子鉄心の両外端に配設する場合と、コンプレッサインペラと回転子鉄心との間に配設する場合がある。
この場合、コンプレッサインペラ、回転子鉄心夫々の単体バランスを調整した後にシャフトに圧入または、焼き嵌め(又は冷し嵌め)して組立てるため、回転子鉄心やコンプレッサインペラの取付けに失敗すると、タービンインペラ、シャフト、既に取付け済みであった軸受等は使用できなくなる。
【0010】
更に又、磁気誘導子形モータの回転軸に取付けられている回転子鉄心は薄板状の電磁鋼板を板厚方向に積層した状態であることから、電磁鋼板の各積層間隙間のバラツキにより磁気特性の固体差が生じ易くなるため、モータ性能面での安定した品質維持管理が難しくなるという問題も生じた。
【0011】
本発明はこのような問題点を解決するためになされたもので、電磁鋼板を積層状に予め一体化したものをシャフトに対して回転しないように外嵌固定し、更に電磁鋼板の板圧より厚いセンサターゲット板を介して回転子鉄心をスラスト方向に押圧することにより、積層された電磁鋼板間の隙間を極小化できるため、電動ターボチャージャのモータロータの性能安定化が図れると共に、組立品質確保と低コスト製造とを両立することができる電動ターボチャージャのモータロータ構造とその組付け方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
ハウジング内に配設され、エアクリーナからの吸気を圧縮するコンプレッサインペラと、
前記ハウジング内に配設されたステータが形成する磁界により回転する回転子鉄心と、
前記コンプレッサインペラと前記回転子鉄心とを一体的に回転させるシャフトと、
前記ハウジングに形成された軸受支持部に取付けられ、前記シャフトを回転可能に支軸する軸受と、を備えた電動ターボチャージャのモータロータ構造において、
前記モータロータは前記シャフトのスラスト方向中間部に前記回転子鉄心の移動を規制するストッパ部と、前記シャフトに外嵌された前記回転子鉄心を前記ストッパ部に押圧する押圧手段とを有し、前記シャフトと前記回転子鉄心との周方向への位相ズレを防止するようにしたことを特徴とする。
【0013】
このような構成により、回転子鉄心をシャフトに嵌入して、ストッパ部側に押圧部材によって押圧する押圧力で、回転子鉄心とシャフトとの周方向への相対滑りを防止する構造としたので、回転子鉄心のシャフトへの取付が容易となり、工数低減によるコスト低減が可能となる。
【0014】
また、本発明において好ましくは、前記モータロータは前記回転子鉄心の片端面に、前記回転子鉄心を構成する1枚の電磁鋼板より厚い回転数検出用のセンサターゲット板を配設し、前記押圧手段によって、前記センサターゲット板を介して回転子鉄心を押圧するとよい。なお、回転子鉄心の回転検出を必要としない場合は、センサターゲット板に代わって保護板を用いるとよい。
【0015】
このような構成により、センサターゲット板と回転子鉄心の相対位置が不変となるような位置決め機構が設けられているため、その位置決め機構を利用して、回転子鉄心のシャフトに対する回転を抑制できるだけでなく、センサターゲット板を介してシャフトのスラスト方向に押圧することで電磁鋼板の積層隙間を極小化することができるため、安定性に優れたモータ性能を維持でき、過給機性能を向上でき、結果的にエンジン性能の向上を図ることができる。
【0016】
また、本発明において好ましくは、前記モータロータの回転数を検出するためのセンサターゲット板が、前記回転子鉄心を構成する電磁鋼板の1枚の板厚より厚く、且つ、前記シャフトにセンサターゲット板が挿入された状態において、センサターゲット板に設けたシャフト挿入孔内周面のスラスト方向の一部のみを前記シャフトの外周面に接触させるとよい。
【0017】
このような構成により、センサターゲット板のシャフト挿入孔の板厚方向の一部が前記シャフトの外周に接触するため、センサターゲット板を前記シャフトと同心状に組みつけられる。一例として、図1(B)に示すように、シャフトに切られたネジの根元はセンサターゲット板のシャフト挿入孔の途中に位置し、前記ネジ部はセンサターゲット板のシャフト挿入孔壁面と接触せず一定のクリアランスを有するため、センサターゲット板をネジで締結した際に十分な締め込み力を得ることができる。
従って、センサターゲット板をシャフトに対して同心状に保ったまま組みつけられ、ナットの締め付け(押圧手段)によりセンサターゲット板を介して前記回転子鉄心のスラスト方向端面の全体をシャフトのストッパに向け均一に押圧するため、回転子鉄心の積層隙間を極小化できることから、安定性に優れたモータ性能を確保する組み付けができると共に、回転子鉄心の回転数検出精度をも向上させることができる。
【0018】
また、本発明において好ましくは、前記モータロータは一対の軸受の一方が前記回転子鉄心と前記コンプレッサインペラとの間で前記シャフトに外嵌するアウタスリーブに配設された第1軸受と、他方が前記回転子鉄心の反対側に配設された第2軸受とを有し、前記回転子鉄心は前記ストッパ部に前記コンプレッサインペラ側から軸部をシールするシールリング及び前記アウタスリーブを介して前記押圧手段であるナットで押圧するとよい。
【0019】
このような構成により、回転子鉄心をコンプレッサインペラ、シールリング及び、スリーブを介してストッパ部へ、コンプレッサインペラ側からナットで押圧する構造としたので、回転子鉄心、スリーブ、シールリング及び、コンプレッサインペラの順に容易に組付けられるので、組付け性が向上し、コスト低減が可能となると共に、モータロータの品質が安定する。
【0020】
また、本発明において好ましくは、前記モータロータは前記回転子鉄心の一側面を前記ストッパ部に当接させ、他面側を前記シャフトの端部のカシメによって前記シャフトに固定するとよい。
【0021】
このような構成により、回転子鉄心をシャフトに固定するのに、シャフトの端部にネジ部及び、ナットが不要となり、コスト低減が可能となる。
【0022】
また、本発明において好ましくは、前記モータロータは前記回転鉄心と前記シャフトが嵌合する部分に、前記回転子鉄心に配設した第1係合部と、該第1係合部に係合する第2係合部を前記シャフトに配設し、前記シャフトと前記回転子鉄心との周方向への相対ズレを規制するとよい。
【0023】
このような構成により、回転子鉄心とシャフトとの周方向への相対ズレを第1係合部と第2係合部との係合により規制する係合構造としたので、回転子鉄心とシャフトとの嵌合精度を緩くすることができるので、回転子鉄心をシャフトへの組付作業が容易となり、コスト低減が可能になると共に、回転子鉄心をナットで強く緊締する必要がないので、回転子鉄心の変形を防止でき、モータロータの品質が安定する。
【0024】
また、本発明において好ましくは、前記シャフトには押圧手段であるナットを緊緩する際に、前記シャフトを把持するための把持部を前記シャフトの中間部に配設するとよい。
【0025】
このような構成により、シャフトに把持部を配設したので、回転子鉄心を緊緩するナット掛け作業が容易になると共に、ナットの締付けトルク管理が実施し易く、モータロータの品質が安定する。
【0026】
また、本発明において好ましくは、前記押圧手段には弾性部材が含まれ、該弾性部材によって前記シャフトの軸線方向に予圧力を掛けて前記回転子鉄心を固定するとよい。
【0027】
このような構成により、弾性部材、例えば、バネによって予圧力を掛けて固定するので、熱によるシャフトの熱変形(線膨張)が発生しても、インナスリーブを安定してシャフトに固定でき、軸振動、回転子のシャフトに対する相対的な回転を抑制し、信頼性向上と性能向上を両立できる。
【0028】
また、本発明において好ましくは、前記回転子鉄心は、前記シャフトに外嵌するインナスリーブと、該インナスリーブに外嵌して前記インナスリーブのスラスト方向に積層した複数の電磁鋼板とを有し、前記インナスリーブと前記電磁鋼板とが一体化的に固着され、前記押圧手段が前記インナスリーブを押圧するとよい。
【0029】
このような構成により、回転子鉄心はインナスリーブと電磁鋼板とが一体化した構造なので、回転子鉄心をシャフトに組付ける際に、電磁鋼板の変形等が防止されると共に、組付けが容易となり、タービンロータの品質が安定する。
また、インナスリ―ブと電磁鋼板が一体となった回転子鉄心、シャフト+コンプレッサインペラ夫々のバランス修正を行った後に組付けることができるので、タービンロータの最終バランス修正が容易となり、バランス修正時間の短縮(製造プロセスの改善)、回転子鉄心のシャフト挿入時における失敗頻度の低減効果を有し、組立工数の低減になる。
更に、押圧手段がインナスリーブをスラスト方向に押圧する構造なので、熱によるシャフトの熱変形(線膨張)が発生しても、回転子鉄心の電磁鋼板への押圧力には影響せず適正値に維持されるので、回転子鉄心とシャフトとの回転方向の滑りを防止でき、タービンロータの品質が安定する。
【0030】
また、本発明において好ましくは、前記インナスリーブの内径は前記ストッパ部の外径より小さくするとよい。
【0031】
このような構成により、インナスリーブの内径が段差部の外径より小さいので、押圧手段による押圧力でインナスリーブを段差部に確実に押圧することで、インナスリーブとシャフトとの回転方向の滑り防止を確実に行うことができる。
【0032】
また、本発明において好ましくは、前記軸受はボールベアリングであり、該ボールベアリングに対向した前記回転子鉄心の側面に前記インナスリーブの開口端縁からラジアル方向に延在したフランジ部が形成され、該フランジ部と前記ボールベアリングとの間に弾性部材を介装するとよい。
【0033】
このような構成により、軸受にボールベアリングを使用した場合、ボールベアリングにプレロードが必要となるが、回転子鉄心とボールベアリングのとの間に弾性部材を介装することにより、ボールベアリングのプレロードと、回転子鉄心のスラスト方向の押圧荷重とを1個の弾性部材で兼用させることができコスト軽減効果を有する。
【0034】
電動発電機を内蔵したターボチャージャのモータロータの組付け方法において、
積層された電磁鋼板を一体化し、該一体化された電磁鋼板をインナスリーブに外嵌固定して回転子鉄心を予め形成するステップと、予め形成された前記回転子鉄心をモータロータのシャフトに外嵌するステップと、その後、押圧手段にて前記インナスリーブに押圧力を付与して前記回転子鉄心を前記モータロータのシャフトに固定するステップとを備えることを特徴とする電動ターボチャージャのモータロータの組付け方法を特徴とする。
【0035】
このような構成により、別工程で回転子鉄心をインナスリーブと積層状にした電磁鋼板を一体化してユニットにしたので、シャフトに固定(圧入、又は焼き嵌め)する際に、シャフトへの組付けを容易化すると共に、電磁鋼板の変形を防止できる。モータロータの組付け容易化に伴い、組付け不良が減少し、品質の確保が容易になる。
また、最終バランス修正時間の短縮化が可能となる。
【発明の効果】
【0036】
本発明によればこのような構成にすることにより、回転子鉄心をシャフトに嵌入して、センサターゲット板若しくは保護板を介してストッパ部側に押圧部材によって押圧する押圧力で、回転子鉄心とシャフトとの周方向への相対滑りを防止する構造としたので、モータロータの品質が安定すると共に、回転子鉄心のシャフトへの取付が容易となり、工数低減によるコスト低減が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の(A)は第1実施形態に係るモータロータの概略構造図、(B)はその一部を抜き出した部分拡大図を示す。
【図2】本発明の(A)は第1実施形態に係るモータロータのシャフトの回転子鉄心取付け部詳細構造図、(B)は(A)のE−E矢視図を示す。
【図3】本発明の第2実施形態に係るモータロータの概略構造図を示す。
【図4】本発明の第3実施形態に係るモータロータの概略構造図を示す。
【図5】本発明の第4実施形態に係るモータロータの概略構造図を示す。
【図6】本発明の第5実施形態に係る(A)はモータロータの概略構造図、(B)は(A)のF−F矢視の第1係合構造図、(C)は第2係合構造図を示す。
【図7】本発明の第6実施形態に係るモータロータの概略構造図を示す。
【図8】本発明の第7実施形態に係るモータロータの概略構造図を示す。
【図9】本発明の第8実施形態に係るモータロータの概略構造図を示す。
【図10】従来技術におけるスーパーチャージャを搭載したエンジンの概略構成図を示す。
【図11】従来技術におけるモータロータの概略説明図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本発明を図に示した実施例を用いて詳細に説明する。
但し、この実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは特に特定的な記載がない限り、この発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
【0039】
(第1実施形態)
図1(A)に基づいて、本発明の第1実施形態にかかるモータロータ1について説明する。
モータロータ1は、シャフト4と、シャフト4の一端側に取付けられた回転子鉄心2と、他端側に取付けられたコンプレッサインペラ3と、回転子鉄心2とコンプレッサインペラ3との間に間隔を有してコンプレッサインペラ3側に配設された第1軸受11と、回転子鉄心2側に配設された第2軸受12とを備え、モータロータ1は、軸受11,12を介して電動過給機のハウジングに設けられた軸受支持部(図示省略)に取付けられる。
尚、第1、第2軸受、11,12の位置は上述のとおり回転子鉄心2とコンプレッサインペラ3の間に夫々配置する場合と、回転子鉄心2の両外側部に夫々配置する場合があるが、どちらの場合も本願の発明を適用することが可能である。
また、本実施形態においては、軸受の形式としては、ボールベアリング(アンギュラコンタクトボールベアリング)、又はメタル軸受(滑り軸受)のどちらでもよく、特に規定しない。
【0040】
シャフト4は、中実軸で軸線CL方向の中間部が太い軸部41で、該太い軸部41の両側はコンプレッサインペラ3が外嵌する細い軸部43と、回転子鉄心2が外嵌する細い軸部42とで構成されている。
図2に細い軸部42側の部分拡大図を示すように、太い軸部41と細い軸部42(太い軸部41と細い軸部42との連結部も同様形状)との連結部は軸線CLに直角な段差部48(47)となっており、コンプレッサインペラ3、及び回転子鉄心2を取付ける際の軸方向のストッパ部となっている。
また、太い軸部41と細い軸部42との段差部48の太い軸部41側端部にはスパナが嵌合できる把持部である二面幅の平面部44が形成されている。
この、二面幅部44は回転子鉄心2又は、コンプレッサインペラ3をシャフト4に取付ける際に、ナット13、及び14を締付けるシャフト4の回り止めとして、二面幅の平面部44にスパナを嵌着する部分となる。
また、平面部44に加工しない残りの円周面はモータロータ1を組上げた後のバランス調整を行う際のバランス修正加工個所として利用できる。〔図2(B)参照〕
さらに、シャフト4の両端部(細い軸部42,43)にはコンプレッサインペラ3、及び回転子鉄心2を取付けるためのネジ部が配設されている。
【0041】
回転子鉄心2は外周部が円形で、中心部に細い軸部42に嵌合(外嵌)する嵌合孔24を有した薄板状の複数の電磁鋼板23を電磁鋼板23の板厚方向に積層させ、積層方向の中間部に磁力向上のため電磁鋼板23より厚い板厚の励磁部材(軟鉄等)からなるセンタリング21を介装している。
積層された電磁鋼板23とセンタリング21は嵌合孔24部分をカシメ加工にて一体的に形成される。
尚、センタリング21が介装されない場合には、積層された電磁鋼板23だけで一体的にカシメ加工される。
45及び46はシールリングで、コンプレッサインペラ3の背面側に装着されているシールリング45は細い軸部43に嵌合(外嵌)するスリーブ状に形成されており、電動ターボチャージャのハウジングに設けられた軸受支持部の軸受を潤滑、冷却する流体をシールする部材である。
シールリング46は太い軸部に一体的に形成されており、作用は上述と同じなので省略する。
【0042】
モータロータ1の組付け順序は、シャフト4の中間部である太い軸部41にハウジング側の軸受支持部と対向する位置に第1軸受11及び、第2軸受12を取付ける。
次に、細い軸部43にシールリング45、コンプレッサインペラ3を順次外嵌させ、シールリング45が段差部47に当接するまで挿入する。
その後、ナット13で仮締めして、把持部である二面幅部44にスパナを嵌着、別のスパナで増締めする。
次に、細い軸部42に電磁鋼板23を保護する保護板25を嵌入させ、回転子鉄心2を挿入し、モータロータ1の回転制御を行うためのセンサターゲット板22を組込んでナット14を仮締めする。スパナで二面幅部44(把持部)を把持して、別のスパナで規定のトルクに増締めして、細い軸部42と回転子鉄心2とが周方向に相対変位(滑り)を生じさせないようにする。
【0043】
次に図1(B)に基づいて、センサターゲット板をシャフト4の細い軸部42に挿入した状態について説明する。
電磁鋼板23とセンサターゲット22が、シャフト4の細い軸部42に挿入された状態において、センサターゲット板の厚さLと、センサターゲット板22の内周壁面がシャフト4の細い軸部42の外径と接触する部分(スラスト方向の一部範囲)の長さL1との寸法関係はL>L1であり、またL1はセンサターゲット板22とシャフト4の同心度を得るに十分な長さになるよう設定される。
また、シャフト4の細い軸部42にセンサターゲット板22を組込み、ナット14にて締付けた際に、シャフト4の細い軸部42にきられたネジ部の根元(ネジ切上がり部)は、センサターゲット板22の板厚方向の中間部に位置するように形成してあるので、回転子鉄心2及び細い軸部42の軸線方向の製造誤差が生じても、回転子鉄心2及びセンサターゲット板22の締付け(押圧力)が不足するのを防止できるようになっている。
【0044】
尚、本実施形態では、センサターゲット板22を取付けた状態を示したが、モータロータ1の回転制御を必要としない場合はセンサターゲット板の代わりに前記保護板25を装着してもよい。(センサターゲット板22を保護板25に置換したものを第2実施形態として示す。)
以後各実施形態においても、モータロータ1の回転制御を行う場合はセンサターゲット板22を配設するが、回転制御を行わない場合は保護板25が配設されるので、説明は省略する。
さらに、回転子鉄心2とストッパ部である段差部48との間にスラスト方向に弾性力を有する弾性部材(例えば皿バネ等)を介装させると、細い軸部42が熱により線膨張した場合でも、回転子鉄心2に作用するスラスト力が維持され、回転子鉄心2と細い軸部42との周方向への相対滑りは防止される。
【0045】
このような構成にすることにより、回転子鉄心2をシャフト4に嵌入して、センサターゲット板22若しくは保護板25を介してナット14の締付けによる押圧力で回転子鉄心2をストッパ部48側に押圧し、回転子鉄心2とシャフト4との周方向への相対変異を防止する構造としたので、回転子鉄心2と細い軸部42との嵌合隙間を大きくできるので、回転子鉄心2のシャフト4への取付けが容易となり、工数低減によるコスト低減及び、モータロータ1の品質向上が可能となる。
また、シャフト4の細い軸部42へセンサターゲット板22を組込んだ際に、センサターゲット板とシャフト4との軸心ズレが発生しないようにしたことで、モータロータ組立て後のダイナミックバランスの悪化を抑制すると同時に、回転子鉄心2の回転数検出精度を向上させ、エンジンの負荷状況に応じた高精度の回転数(過給)制御が可能となり、エンジン性能の向上が図れる。
二面幅部44にスパナを嵌着して、ナット13を締付けるので、締付トルクの管理が行い易く、回転子鉄心2の段差部47への押圧力のバラツキが少なく品質が安定する。
【0046】
(第2実施形態)
本実施形態において、第1実施形態と同じものは同符号を付して、説明を省略する。
図3に基づいて、本発明の第2実施形態にかかるモータロータ15について説明する。
第2実施形態は第1実施形態のモータロータ1の回転子鉄心2に組込まれているセンサターゲット板22が削除され、センサターゲット板22の代わりに電磁鋼板23を保護する保護板25を配設したモータロータ15とした以外は同じなので、説明は省略する。
センサターゲット板22を廃止したのでコスト低減となる。
【0047】
(第3実施形態)
本実施形態において、第1実施形態と同じものは同符号を付して、説明を省略する。
図4に基づいて、本発明の第3実施形態にかかるモータロータ16について説明する。
モータロータ16は、シャフト6と、シャフト6の一端側に固定されたコンプレッサインペラ3と、コンプレッサインペラ3の背面側にシールリング45を介してシャフト6に外嵌したアウタスリーブ64と、アウタスリーブ64に外嵌した第1軸受11と、シャフト7のスラスト方向中間部にラジアル方向へシャフト6の軸線に対し略直角方向の段差を有したストッパ部である段差部65にアウタスリーブ64によってスラスト方向に押圧される回転子鉄心5と、回転子鉄心5に隣接して配置された第2軸受12とで構成されている。
尚、シャフト6の他端側にはシャフト6と一体的にシールリング63が形成されている。
【0048】
シャフト6は、中実軸で中間に段差部65を有し、一端側は太い軸部61となっており、他端側が細い軸部62となった回転軸である。この段差部65は上述の通りアウタスリーブ64によってスラスト方向に押圧される回転子鉄心5のストッパ部であり、スラスト方向の位置決めとなる。
また、太い軸部61の細い軸部62側端部にはスパナが嵌着できる把持部である二面幅の平面部44が形成されている。
シャフト6の細い軸部62には、回転子鉄心5、アウタスリーブ64、シールリング45及び、コンプレッサインペラ3の順に組付けられ、ナット13の締付けによってコンプレッサインペラ3側から回転子鉄心5が段差部65に押圧される。
【0049】
回転子鉄心5は外周部が円形で、中心部に細い軸部62に嵌合(外嵌)する嵌合孔24を有した薄板状の複数の電磁鋼板23を電磁鋼板23の板厚方向に積層させ、積層方向の中間部に磁力向上のため電磁鋼板23より厚い板厚の励磁部材(軟鉄等)からなるセンタリング21を介装している。
積層された電磁鋼板23とセンタリング21は嵌合孔24部分をカシメにて一体的に形成される。
【0050】
モータロータ16の組付け順序は、シャフト6の太い軸部61にハウジング側の軸受支持部と対向する位置に第2軸受12を取付ける。
次に、細い軸部62に回転子鉄心5、第1軸受11が外嵌したアウタスリーブ64、シールリング45、コンプレッサインペラ3を順次組付け、段差部47に当接するまで挿入する。
その後、ナット13で仮締めして、スパナを二面幅の平面部44(把持部)に嵌着させて、別のスパナで増締めする。
尚、回転子鉄心5と段差部65との間に、スラスト方向に弾性力を有する弾性部材(例えば皿バネ等)を介装させると、細い軸部42が熱により線膨張しても、回転子鉄心2に作用するスラスト力が維持され、回転子鉄心2と細い軸部42との周方向への相対滑りは防止される。
【0051】
本実施形態においては、回転子鉄心5をコンプレッサインペラ3、シールリング45及び、アウタスリーブ64を介してストッパ部である段差部65へ、コンプレッサインペラ3側からナット13で押圧する構造としたので、回転子鉄心5、アウタスリーブ64、シールリング45及び、コンプレッサインペラ3の順に容易に組付けられるので、組付け性が向上し、コスト低減が可能となると共に、モータロータ16の品質が安定する。
また、重い回転子鉄心5の両側部に第1軸受11及び,第2軸受12を配置したので、モータロータ16の回転バランスが調整し易くなる。
【0052】
(第4実施形態)
本実施形態において、第1実施形態と同じものは同符号を付して、説明を省略する。
図5に基づいて、本発明の第4実施形態にかかるモータロータ17について説明する。
第4実施形態のシャフト8は、中実軸でスラスト方向中間部が太い軸部81で、該太い軸部81の両側はコンプレッサインペラ3が外嵌する細い軸部83と、回転子鉄心5が外嵌する細い軸部82とで構成されている。
太い軸部81と細い軸部82との連結部は軸線L2に直角な段差部85となっており、回転子鉄心5を取付ける際の軸方向のストッパ部となっている。
さらに、シャフト8の細い軸部82の端部は,積層された電磁鋼板23が一体的に固定された回転子鉄心5を細い軸部82に組込んだ後に、回転子鉄心5をカシメ締結する構造と成っている。
【0053】
尚、86は回転子鉄心5の側部損傷防止のための保護板であり保護板25と同じ機能を有する。
コンプレッサインペラ3を組付ける細い軸部83側は第1実施形態と同じなので、説明は省略する。
また、図5では省略したが、回転子鉄心5とストッパ部である段差部85との間にスラスト方向に弾性力を有する押圧手段(例えば皿バネ等)を介装させると、細い軸部82が熱により線膨張しても、回転子鉄心5に作用するスラスト力が維持され、回転子鉄心5と細い軸部82との周方向への相対滑り防止はより確実になる。
【0054】
回転子鉄心5をシャフト8に固定するのに、シャフト8の端部にネジ部及び、ナット43が不要となり、コスト低減が可能となる。
また、カシメ構造なので螺合構造と異なり、押圧部が緩むことが無いので品質向上の要素になる。
【0055】
(第5実施形態)
本実施形態において、第1実施形態と同じものは同符号を付して、説明を省略する。
図6に基づいて、本発明の第5実施形態にかかるモータロータ18について説明する。
第5実施形態のシャフト9は、中実軸でスラスト方向中間部が太い軸部91で、該太い軸部91の一側はコンプレッサインペラ3が外嵌する細い軸部93と、他側は回転子鉄心10が外嵌する細い軸部92とで構成されている。
【0056】
太い軸部91と細い軸部92との連結部は軸線L3に対しラジアル方向に略直角な段差部95となっており、回転子鉄心10を取付ける際の軸方向のストッパ部となっている。
また、太い軸部91と細い軸部92との段差部95の太い軸部91側端部にはスパナが嵌着できる把持部である二面幅の平面部96が形成されている。
また、二面幅の平面部96に加工しない残りの円周面はモータロータ1を組上げた後のバランス調整を行う際のバランス修正加工個所となる。〔図2(B)参照〕
【0057】
さらに、細い軸部92と回転子鉄心10との嵌合部はF−F断面を図6(B)に第1係合構造図を示すように、細い軸部92’の断面は第1係合部である半月状断面に形成され、回転子鉄心10の半月状の嵌合孔101は細い軸部92’の断面と同形状の第2係合部である半月状孔に形成されて、細い軸部92´と回転子鉄心10との周方向の位相滑りを防止する構造となっている。
また、別の形状として、図6(C)に第2係合構造図を示すように、細い軸部92”の断面は第1係合部であるキー94を装着し、回転子鉄心10の嵌合孔101にはキー94が嵌合する第2係合部であるキー溝を形成して、細い軸部92”と回転子鉄心10との周方向の位相滑りを防止する構造とすることができる。
コンプレッサインペラ3を組付ける細い軸部83側は第1実施形態と同じなので、説明は省略する。
【0058】
このような構造にしたので、回転子鉄心10とシャフト9との周方向への相対滑りを細い軸部92の半月状断面と半月状の嵌合孔101の係合、または、キー94とキー溝との係合により規制する構造としたので、回転子鉄心とシャフトとの嵌合精度を緩くすることができるので、回転子鉄心をシャフトへの組付作業が容易となり、コスト低減が可能になると共に、回転子鉄心をナットで強く緊締する必要がないので、回転子鉄心の変形を防止でき、モータロータの品質が安定する。
【0059】
(第6実施形態)
図7に基づいて、本発明の第6実施形態にかかるモータロータ19について説明する。
本実施形態は、エンジンの排気ガスによって駆動するターボチャージャに電動発電機を内蔵した過給機で説明する。
モータロータ19は、シャフト70と、シャフト70の一端側に配設されたタービンホイール26と、他端側に配設されたコンプレッサインペラ3と、タービンホイール26とコンプレッサインペラ3との間に間隔を有して配設されたコンプレッサインペラ3側に配設された第1軸受11と、タービンホイール26側に配設された第2軸受12と、2個の軸受11,12間に電動回転体となる回転子鉄心60とを備えている。
尚、軸受11,12の位置は上述のとおり回転子鉄心60の両外端に夫々配置する場合と、タービンホイール26と回転子鉄心60との間に間隔を有して2個配置する場合があるが、どちらの場合も本願の発明を適用することが可能である。
また、本実施形態においては、軸受11,12の形式としては、ボールベアリング、又はメタル軸受(滑り軸受)のどちらでもよく、特に規定しない。
【0060】
シャフト70は、中実軸で中間から一段細くなった段差部74を有し、一端側は太い部分72で、他端側が細い部分73になった回転軸である。この段差部74は後述する回転子鉄心60をタービンホイール26側へ押圧する弾性部材である皿バネ29の押圧力受部(段差部74)となる。
シャフト70の太い部分72の端部には排ガスによって駆動されるタービンホイール26が固着されている。タービンホイール26の背面側にはタービンハウジング(図示省略)に形成されている軸受支持部(図示省略)に固定される軸受11,12が配設されている。
【0061】
段差部74はストッパ部となっており、シャフト70の細い部分73に回転子鉄心60がインナスリーブ66を介して外嵌している。
回転子鉄心60は、インナスリーブ66の外周に円形状をした複数の薄板状の電磁鋼板52をインナスリーブ66のスラスト方向に積層状に外嵌させて、固着されている。
回転子鉄心60は、回転子鉄心60と対向した図示されないターボチャージャのハウジングに取付けられたステータによって発生される電界によって回転する回転子である。
また、インナスリーブ66の内径は、段差部74の太い部分72の外径より小さくなっており、インナスリーブ66の端面は段差部74のラジアル方向の当接面78と確実に当接するようになっている。
また、インナスリーブ66の段差部74側端面、又は段差部74の当接面78の少なくともいずれか一方にシャフトの回転方向に対する摩擦抵抗を増大させる面粗さ部を設けると回転方向の相対移動防止をさらに確実となる。
【0062】
回転子鉄心60のコンプレッサインペラ3側には押圧手段を構成する皿バネ29、スラストブッシュ77、コンプレッサインペラ3及び締付けナット43の順に配設され、回転子鉄心60は締付けナット43にて緊締される。
この締付け力によって、回転子鉄心60はコンプレッサインペラ3、スラストブッシュ77及び、皿バネ29を介して段差部44側に押圧される。
そして、回転子鉄心60とコンプレッサインペラ3との間に介装される第1軸受711はスラストブッシュ77に外嵌して固定されている。
【0063】
このような構造にしたので、回転子鉄心5はインナスリーブ66と電磁鋼板52とが一体化した構造(インナスリーブ構造)としたので、回転子鉄心5、シャフト+タービンホイール26、コンプレッサインペラ夫々を単品状態でバランス修正を行った上で組上げることが可能となり、最終バランス修正時間の短縮(製造プロセスの改善)が可能となる。
また、シャフト70に組付ける際に、電磁鋼板52の変形等が防止されると共に、組付けが容易となり、モータロータ19の品質が安定すると共に、工数低減、製造不良による部品廃棄量低減等によるコスト低減効果が得られる。
更に、弾性部材である皿バネ29を介して、インナスリーブをスラスト方向に押圧する構造なので、熱によるシャフト4の線膨張が発生しても、回転子鉄心5への押圧力が適正値に維持されやすく、回転子鉄心5の電磁鋼板の変形を防ぐと共に、回転子鉄心とシャフトとの回転方向の滑りを防止できる。
【0064】
(第7実施形態)
図8に基づいて、本発明の第7実施形態にかかるモータロータ20について説明する。
本実施形態は、エンジンの排気ガスによって駆動するターボチャージャに電動発電機を内蔵した過給機で説明する。
モータロータ20は、シャフト100と、シャフト100の一端側に配設されたタービンホイール26と、他端側に配設されたコンプレッサインペラ3と、コンプレッサインペラ3の背面側にシールリング105を介して取付けられた回転子鉄心80と、回転子鉄心80とタービンホイール26との間に、スラスト方向とラジアル方向の位置決め作用を有するボールベアリング型で回転子鉄心80側に配置されたA軸受83と、A軸受83と間隔を有してタービンホイール26側に配置されたB軸受84と、回転子鉄心80とA軸受83との間に介装された押圧手段の一部である皿バネ28とを備えている。
そして、ナット43にて締付けることにより、インナスリーブ81のフランジ部82と、A軸受部83のインナレース831との間に介装されている皿バネ28と、その反力を受けるシールリング105とでストッパ部を構成している。
【0065】
シャフト100は、中実軸で中間から一段細くなった段差部104を有し、一端側は太い部分102で、他端側が細い部分103になった回転軸である。この段差部104は後述する回転子鉄心80がタービンホイール26側へ移動するのを規制する位置決めとなる。
シャフト100の太い部分102の端部には排ガスによって駆動されるタービンホイール26が固着されている。タービンホイール26の背面側にはタービンハウジング(図示省略)に形成されている軸受支持部(図示省略)に固定されるB軸受84が配設されている。
このB軸受84はタービンホイール26のラジアル方向とコンプレッサインペラ3側への動きを規制する軸受である。
【0066】
段差部104を位置決めにしてシャフト100の細い部分103に回転子鉄心80が外嵌している。
回転子鉄心80は、インナスリーブ81の外周に円形状をした複数の薄板状の電磁鋼板67をインナスリーブ81のスラスト方向へ積層状に外嵌させて、一体化した状態で固着されている。(インナスリーブ構造)
インナスリーブ81のA軸受83側の開口端縁からラジアル方向に延出した皿バネ28の受座となるフランジ部82が配設されている。
フランジ部82の外径は皿バネ28の外径より大きくなっており、皿バネ28が電磁鋼板67に直接当たらないようになっている。
また、フランジ部82は、電磁鋼板67をインナスリーブ81に組付ける際に、インナスリーブ81のスラスト方向のストッパになると共に、電磁鋼板67をスラスト方向に押圧した状態に組付け易くなり、回転子鉄心80の組付け品質が向上する。
【0067】
回転子鉄心80のコンプレッサインペラ3側にはシールリング105を介してコンプレッサインペラ3側から締付けナット43にて緊締される。
この締付け力によって、回転子鉄心80はコンプレッサインペラ3及び、シールリング105を介してフランジ部82が皿バネ11をA軸受83のインナレース831をタービンホイール26側に押圧する。
このような構造にすることによって、皿バネ28はA軸受83にプレロードを負荷させることができる。
また、フランジ部82と段差部104との間には隙間が生じるようにして、常にA軸受83のインナレース831をタービンホイール26側に押圧するようにしてある。
そして、インナスリーブ81の内径はシールリング105の外径より小さくすることにより、インナスリーブ81のコンプレッサインペラ3側端面はシールリング105の当接面と確実に当接するようになっている。
また、インナスリーブ81又はシールリング105の当接面106の少なくともいずれか一方にシャフト100の回転方向に対する摩擦抵抗を増大させる面粗さ部を設けると回転方向の相対移動防止をさらに確実とすることができる。
【0068】
本実施形態の構造とすると、第6実施形態の効果に加え、A軸受83のプレロードと、回転子鉄心80とシャフト100との回転方向の滑りを生じさせなくするための押圧力を1個の弾性部材(皿バネ28)で作用可能となり、コスト低減ができる。
【0069】
なお、前記した第6実施形態に基づいて、モータロータ19の組付け方法について図9に沿って説明する。
シャフト70とタービンホイール26とをEBW(Electronic Beam Welding)溶接で接合するステップS1と、タービンホイール26側の第2軸受12をシャフト90に取付けるステップS2と、一方、回転子鉄心60を別工程にて、プレス等で形成した複数の鉄板状の電磁鋼板67を積層して、カシメ、又は溶接等で一体的に形成するステップS3と、インナスリーブ66に積層した電磁鋼板67を外嵌圧入(又は焼き嵌め)して回転子鉄心60を組上げるステップS4と、ステップS2でタービンホイール26側の第2軸受12を取付けたシャフト70に回転子鉄心60を取付けるステップS5と、回転子鉄心60を押圧する皿バネ29をシャフト4に取付けるステップS6と、コンプレッサインペラ3側の第1軸受11をスラストブッシュ77に取付けるステップS7と、スラストブッシュ77をシャフト70に取付けるステップS8と、コンプレッサインペラ3をシャフト70に取付けるステップS9と、コンプレッサインペラ3端をナット43で締付けるステップS10とを備えを、モータロータ1を組付ける方法である。
【0070】
別工程で回転子鉄心60をインナスリーブ66と積層状にした電磁鋼板67を一体化してカセット状(インナスリーブ構造)にして、シャフト70に固定(圧入、又は焼き嵌め)する手順としたので、回転子鉄心60、シャフト70+タービンホイール26、コンプレッサインペラ夫々を単品状態でバランス修正を行った上で組上げることが可能となり、最終バランス修正時間の短縮(製造プロセスの改善)が可能となる。
更に、シャフト70への組付けを容易化すると共に、電磁鋼板67の変形を防止でき、モータロータ19の組付け品質が安定すると共に、工数低減、製造不良による部品廃棄量低減等によるコスト低減効果が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0071】
内燃機関の出力向上のため、吸気を圧縮過給する電動過給機の回転軸に電動機を組み込んで、コンプレッサインペラを回転駆動させて、出力性能の向上を図る内燃機関に用いられている。
【符号の説明】
【0072】
1、15,16,17,18,19,20 モータロータ
2、5,10、60,80 回転子鉄心
3 コンプレッサインペラ
4,6、7、8,9、50,70 シャフト
11 第1軸受
12 第2軸受
13,14,43、47 ナット
21 センタリング
22 センサターゲット板
23 電磁鋼板
44 平面部(把持部)
45 シールリング
48、65,85、95 段差部(ストッパ部)
64 アウタスリーブ
66、81 インナスリーブ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジング内に配設され、エアクリーナからの吸気を圧縮するコンプレッサインペラと、
前記ハウジング内に配設されたステータが形成する磁界により回転する回転子鉄心と、
前記コンプレッサインペラと前記回転子鉄心とを一体的に回転させるシャフトと
前記ハウジングに形成された軸受支持部に取付けられ、前記シャフトを回転可能に支軸する軸受と、を備えた電動ターボチャージャのモータロータ構造において、前記モータロータは前記シャフトのスラスト方向中間部に前記回転子鉄心の移動を規制するストッパ部と、前記シャフトに外嵌された前記回転子鉄心を前記ストッパ部に押圧する押圧手段とを有し、前記シャフトと前記回転子鉄心との周方向への位相ズレを防止するようにしたことを特徴とする電動ターボチャージャのモータロータ構造。
【請求項2】
前記回転子鉄心は前記シャフトのスラスト方向に電磁鋼板を積層した構造から成り、かつ、前記モータロータの回転数を検出するためのセンサターゲット板を備え、前記回転子鉄心を前記ストッパ部に押圧する前記押圧手段によって、センサターゲット板を介して前記回転子鉄心をシャフトのスラスト方向に押圧するようにしたことを特徴とする請求項1記載の電動ターボチャージャのモータロータ構造。
【請求項3】
前記モータロータの回転数を検出するためのセンサターゲット板が、前記回転子鉄心を構成する前記電磁鋼板の1枚の板厚より厚く、且つ、前記シャフトに前記センサターゲット板が挿入された状態において、前記センサターゲット板内周壁面がスラスト方向の一部範囲においてのみ前記シャフトに接触していることを特徴とした請求項2記載の電動ターボチャージャのモータロータ構造。
【請求項4】
前記モータロータは一対の軸受の一方が前記回転子鉄心と前記コンプレッサインペラとの間で前記シャフトに外嵌するアウタスリーブに配設された第1軸受と、他方が前記回転子鉄心の反対側に配設された第2軸受とを有し、前記回転子鉄心は前記ストッパ部に前記コンプレッサインペラ側から軸部をシールするシールリング及び前記アウタスリーブを介して前記押圧手段であるナットで押圧されることを特徴とする請求項1記載の電動ターボチャージャのモータロータ構造。
【請求項5】
前記モータロータは前記回転子鉄心の一側面を前記ストッパ部に当接させ、他面側を前記シャフトの端部のカシメによって前記シャフトに固定したことを特徴とする請求項1記載の電動ターボチャージャのモータロータ構造。
【請求項6】
前記モータロータは前記回転鉄心と前記シャフトが嵌合する部分に、前記回転子鉄心に配設した第1係合部と、該第1係合部に係合する第2係合部を前記シャフトに配設し、前記シャフトと前記回転子鉄心との周方向への相対ズレを規制したことを特徴とする請求項1記載の電動ターボチャージャのモータロータ構造。
【請求項7】
前記シャフトには押圧手段であるナットを緊緩する際に、前記シャフトを把持するための把持部を前記シャフトの中間部に配設したことを特徴とする請求項1記載の電動ターボチャージャのモータロータ構造。
【請求項8】
前記押圧手段には弾性部材が含まれ、該弾性部材によって軸方向に予圧力を掛けて前記回転子鉄心を固定することを特徴とする請求項1記載の電動ターボチャージャのモータロータ構造。
【請求項9】
前記回転子鉄心は、前記シャフトに外嵌するインナスリーブと、該インナスリーブに外嵌して前記インナスリーブのスラスト方向に積層した複数の電磁鋼板とを有し、前記インナスリーブと前記電磁鋼板とが一体化的に固着され、前記押圧手段が前記インナスリーブを押圧するように構成したことを特徴とする請求項1記載の電動ターボチャージャのモータロータ構造。
【請求項10】
前記インナスリーブの内径は前記ストッパ部の外径より小さいことを特徴とする請求項9記載の電動ターボチャージャのモータロータ構造。
【請求項11】
前記軸受はボールベアリングであり、該ボールベアリングに対向した前記回転子鉄心の側面に前記インナスリーブの開口端縁からラジアル方向に延在したフランジ部が形成され、該フランジ部と前記ボールベアリングとの間に弾性部材を介装したことを特徴とする請求項9記載の電動ターボチャージャのモータロータ構造。
【請求項12】
電動発電機を内蔵したターボチャージャのモータロータの組付け方法において、
積層された電磁鋼板を一体化し、該一体化された電磁鋼板をインナスリーブに外嵌固定して回転子鉄心を予め形成するステップと、予め形成された前記回転子鉄心をモータロータのシャフトに外嵌するステップと、その後、押圧手段にて前記インナスリーブに押圧力を付与して前記回転子鉄心を前記モータロータのシャフトに固定するステップとを備えることを特徴とする電動ターボチャージャのモータロータの組付け方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−255356(P2012−255356A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−127914(P2011−127914)
【出願日】平成23年6月8日(2011.6.8)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】