説明

電動パワーステアリング装置

【課題】騒音が少なく且つ操舵フィーリングの良い電動パワーステアリング装置を提供すること。
【解決手段】電動パワーステアリング装置1が、操舵部材2の操作に応じて軸方向に移動される転舵軸としてのラックバー8を含む操舵機構Aに、歯車を含む減速機17を介して電動モータ16の動力を付与して操舵補助する。ラックバー8が軸方向に移動すると、これに伴ってピストン20が油圧シリンダ21内を移動し、ピストン20のオリフィス24内を油が流通する。路面からの逆入力による比較的高速の振動(例えば15〜20Hz程度)はオリフィス24を流通する油の粘性抵抗からなる減衰力により減衰され、歯打ち音による騒音が低減される。操舵部材を操作しての通常操舵によるピストン20の移動は例えば1〜2Hzで低速であるので、オリフィス24による減衰力はほとんど働かず、操舵フィーリングが悪化しない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動モータにより操舵補助力を得る電動パワーステアリング装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車用の油圧パワーステアリング装置において、パワーシリンダのピストンに弁により開閉される連通孔を設け、操舵中立時に連通孔を開放することにより、パワーシリンダのピストンの受圧面積を小さくし、これにより運転者に手応え感を与える油圧パワーステアリング装置がある(例えば特許文献1参照)。
一方、自動車用の電動パワーステアリング装置には、通例、歯車機構を用いた減速機が用いられている。すなわち、モータの出力軸の回転を減速機を介して減速することで、モータの出力を増幅して操舵機構に伝達し、ステアリング操作をトルクアシストするようにしている。
【0003】
上記の電動パワーステアリング装置において減速機に用いられる歯車機構では、歯の噛み合いに適度なバックラッシが必要であるが、例えば悪路を走行した場合、路面からの逆入力により上記バックラッシに起因した歯打ち音(ラトル音)が発生することがある。
【特許文献1】特許第2668032号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電動パワーステアリング装置において、上記のバックラッシを小さくすることより、歯打ち音による騒音は低減されるが、フリンクションの増大により特に操舵中立位置付近での操舵フィーリングが悪くなる。
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、騒音が少なく且つ操舵フィーリングの良い電動パワーステアリング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本発明は、操舵部材の操作に応じて軸方向に移動される転舵軸を含む操舵機構に、歯車を含む減速機を介して電動モータの動力を付与して操舵補助する電動パワーステアリング装置において、上記転舵軸の移動に伴って移動するピストンと、ピストンにより仕切られる一対の油室を有する油圧シリンダと、上記ピストンに形成され一対の油室間を互いに連通するオリフィスとを備えることを特徴とするものである。
【0006】
路面からの逆入力による比較的高速の振動(例えば15〜20Hz程度)はオリフィスを流通する油の粘性抵抗からなる減衰力により減衰されるので、歯打ち音による騒音を低減することができる。一方、操舵部材を操作しての通常操舵によるピストンの移動は例えば1〜2Hzで低速であるので、オリフィスによる減衰力はほとんど働かず、操舵フィーリングを悪化させることがない。これにより、騒音が小さく且つ操舵フィーリングの良い電動パワーステアリング装置を実現することができる。
【0007】
上記油圧シリンダのシリンダ径が操舵中立位置の近傍領域において残りの領域よりも小さくされていれば、操舵中立位置の近傍領域においてピストンのオリフィスを働かせて操舵の剛性感を得ることができる。しかも、残りの領域では一対の油室間の油の流通が自由となるので、ピストンが操舵に与える抵抗を少なくでき、操舵フィーリングを良好にすることができる。操舵中立位置の近傍領域とは、操舵中立位置での操舵部材の操舵角θを0として、−θ1≦θ≦θ1の範囲の領域である。角度θ1としては、5度〜10度の範囲で車両に応じて設定される。すなわち近傍領域は、例えば−10度≦θ≦10度の範囲の領域に設定される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の好ましい実施の形態を添付図面を参照しつつ説明する。
図1は本発明の一実施の形態の電動パワーステアリング装置の概略構成を示す模式図である。図1を参照して、電動パワーステアリング装置1は、ステアリングホイール等の操舵部材2に連結しているステアリングシャフト3と、ステアリングシャフト3に自在継手4を介して連結される中間軸5と、中間軸5に自在継手6を介して連結されるピニオン軸7と、ピニオン軸7の端部近傍に設けられたピニオン歯7aに噛み合うラック歯8aを有して自動車の幅方向に延びる転舵軸としてのラックバー8とを有している。ピニオン軸7およびラックバー8によりラックアンドピニオン機構からなる操舵機構Aが構成されている。
【0009】
ラックバー8は車体に固定されるハウジング9内に図示しない複数の軸受を介して直線往復動自在に支持されている。ラックバー8の両端部はハウジング9の両側へ突出し、各端部にはそれぞれタイロッド10が結合されている。各タイロッド10は対応するナックルアーム(図示せず)を介して対応する車輪11に連結されている。
操舵部材2が操作されてステアリングシャフト3が回転されると、この回転がピニオン歯7aおよびラック歯8aによって、自動車の左右方向に沿ってのラックバー8の直線運動に変換される。これにより、車輪11の転舵が達成される。
【0010】
ステアリングシャフト3は、操舵部材2に連なる入力軸3aと、ピニオン軸7に連なる出力軸3bとに分割されており、これら入、出力軸3a,3bはトーションバー12を介して同一の軸線上で相対回転可能に互いに連結されている。
トーションバー12を介する入、出力軸3a,3b間の相対回転変位量により操舵トルクを検出するトルクセンサ13が設けられており、このトルクセンサ13のトルク検出結果は、ECU(Electronic Control Unit :電子制御ユニット)14に与えられる。ECU14では、トルク検出結果や図示しない車速センサから与えられる車速検出結果等に基づいて、駆動回路15を介して操舵補助用の電動モータ16を駆動制御する。電動モータ16の出力回転が減速機17を介して減速されてステアリングシャフト3の出力軸3bに伝達され、さらにピニオン軸7を介してラックバー8の直線運動に変換されて、操舵が補助される。
【0011】
減速機17は、電動モータ16により回転駆動される駆動歯車としてのウォーム18と、このウォーム18に噛み合うと共にステアリングシャフト3の出力軸3bに一体回転可能に連結される従動歯車としてのウォームホイール19を備える。
本実施の形態の電動パワーステアリング装置1の特徴とするところは下記である。すなわち、ラックバー8に、ラックバー8と一体に移動するピストン20が設けられており、このピストン20を収容する油圧シリンダ21がハウジング9の一部に形成されている。
【0012】
油圧シリンダ21は、ピストン20により仕切られる一対の油室22,23を有している。また、上記のピストン20には、一対の油室22,23間を互いに連通する1乃至複数のオリフィス24が貫通形成されている。ピストン20の外周に設けられた周溝にはピストン20の外周と油圧シリンダ21の内周との間を封止するためのシール部材25が収容されている。また、油圧シリンダ21の一対の端部に、当該一対の端部とラックバー8との間をそれぞれ封止する一対のシール部材26が設けられている。
【0013】
ラックバー8が軸方向に移動すると、これに伴ってピストン20が油圧シリンダ21内を移動し、オリフィス24を油が通過する。オリフィス24内の油の通過に伴う粘性抵抗は、ピストン20の移動を抑制する減衰力として働く。
図2に示すように、減衰力として働くオリフィス24の粘性抵抗は、転舵軸としてのラックバー8の軸方向の移動速度の二乗に比例する。すなわち、オリフィス24による減衰力は速度依存である。
【0014】
本実施の形態によれば、車輪11を介して与えられる路面からの逆入力は例えば15〜20Hz程度で高速であるので、オリフィス24を流通する油の粘性抵抗による減衰力によって減衰される結果、歯打ち音による騒音を低減することができる。
一方、操舵部材2を操作しての通常操舵によるピストン20の移動は例えば1〜2Hz程度で低速であるので、オリフィス24による減衰力はほとんど働かず、操舵フィーリングを悪化させることがない。これにより、騒音が小さく且つ操舵フィーリングの良い電動パワーステアリング装置1を実現することができる。
【0015】
次いで、図3は本発明の別の実施の形態の電動パワーステアリング装置の要部を示している。図3を参照して、本実施の形態の特徴とするところは、油圧シリンダ21のシリンダ径D1が、操舵中立位置C(操舵部材2の操舵角θ=0の位置)の近傍領域B1(−θ1≦θ≦θ1)において残りの領域B2よりも小さくされ、オリフィス24による減衰力が図4に示すようにピストン20の位置にも依存するようにした点にある。
【0016】
上記の近傍領域B1(−θ1≦θ≦θ1)は、車両に応じて適宜設定可能であり、θ1として5度〜10度の値が採用される。例えば、θ1=10度として、−10度≦θ≦10度の領域に設定される。
また、ピストン20の外周のシール部材27として、Oリング28とOリング28によりバックアップされたフッ素樹脂製のリング29を用い、油圧シリンダ21に対してピストン20が移動したときのフリクションを低減してある。
【0017】
本実施の形態によれば、操舵中立位置の近傍領域B1においてピストン20のオリフィス24の働きにより操舵の剛性感を得ることができる。また、残りの領域B2では一対の油室22,23間の油の流通を自由にして、ピストン20が操舵に与える抵抗を少なくして、操舵フィーリングを良好にすることができる。
なお、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、減速機として駆動ギヤおよび従動ギヤが互いに噛み合うベベルギヤであっても良い。また、駆動ギヤおよび従動ギヤは、ヘリカルギヤ、ハイポイドギヤであっても良い。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施の形態の電動パワーステアリング装置の概略構成を示す模式図である。
【図2】ラックバーの移動速度とオリフィスによる減衰力との相関関係を示すグラフ図である。
【図3】本発明の別の実施の形態の電動パワーステアリング装置の要部の断面図である。
【図4】図3の実施の形態において、操舵角と減衰力との相関関係を示す図である。
【符号の説明】
【0019】
1 電動パワーステアリング装置
2 操舵部材
3 ステアリングシャフト
5 中間軸
7 ピニオン軸
8 ラックバー(転舵軸)
10 タイロッド
11 車輪
A 操舵機構
16 電動モータ
17 減速機
18 ウォーム(歯車)
19 ウォームホイール(歯車)
20 ピストン
21 油圧シリンダ
22,23 油室
24 オリフィス
C 操舵中立位置
B1 操舵中立位置の近傍領域
B2 残りの領域
D1 シリンダ径

【特許請求の範囲】
【請求項1】
操舵部材の操作に応じて軸方向に移動される転舵軸を含む操舵機構に、歯車を含む減速機を介して電動モータの動力を付与して操舵補助する電動パワーステアリング装置において、
上記転舵軸の移動に伴って移動するピストンと、
ピストンにより仕切られる一対の油室を有する油圧シリンダと、
上記ピストンに形成され一対の油室間を互いに連通するオリフィスとを備えることを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項2】
請求項1において、上記油圧シリンダのシリンダ径が操舵中立位置の近傍領域において残りの領域よりも小さくされている電動パワーステアリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−82663(P2006−82663A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−268693(P2004−268693)
【出願日】平成16年9月15日(2004.9.15)
【出願人】(302066630)株式会社ファーベス (138)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【出願人】(000003470)豊田工機株式会社 (198)
【Fターム(参考)】