説明

電動ポンプ

【課題】ポンプ部の流体がステータに流入することを防止するキャンを備えた電動ポンプにおいて、部品点数の増加を伴わずに、コイルから発生する電気雑音の影響を低減する。
【解決手段】回転軸15によってハウジング2に軸支されるロータ12と、ロータ12の径方向外側に配置され、ハウジング2に固定されるステータ13と、ロータ12の回転によって流体を吸入・吐出するポンプ部20と、ロータ12とステータ13との間に設けられ、ポンプ部20の流体がステータ13に流入することを防止するキャン14と、を備え、キャン14は導電性を有し、キャン14を介してステータ13を接地した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポンプ部の流体がステータに流入することを防止するキャンを備えた電動ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
このような電動ポンプとして、例えば特許文献1に記載された流体ポンプがある。この流体ポンプにおいては、ステータコアにおけるスロット開口部がステータコアの外周側に形成されている。スロット開口部がステータコアの内周側には存在しないため、キャン内部に高圧が作用した場合にステータコアの内周全面でキャンを受けることができ、スロット開口部近傍におけるキャンの変形が阻止できるものとされている。
【0003】
特許文献1の流体ポンプのモータハウジングは樹脂製とされているため、コイルで発生する電気雑音をシールドすることができず、電気雑音がポンプ制御回路やその他近傍の電子部品等に悪影響を及ぼすおそれがある。しかし、電気雑音を低減する構成については特許文献1には開示されていない。
【0004】
特許文献2には、電気雑音の影響を排除するため、シールド材を備えたリザーブカップに燃料ポンプを収容した燃料供給装置が記載されている。この燃料供給装置においては、燃料ポンプから発生する電気雑音をシールドすることにより、他部品に悪影響を及ぼすことを抑制できるものとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−317682号公報
【特許文献2】特開2009−52484号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ポンプ部の流体がステータに流入することを防止するキャンを備えた電動ポンプにおいては、一般的な電動ポンプと比べてキャンを設けている点において既に部品点数の増加を招いているので、更なる部品点数の増加はコスト面や重量面において極力避けたいところである。
【0007】
従って、電気雑音を低減するために、特許文献2の燃料供給装置のごとくシールド材等の新たな部材を設けることは、キャンを備えた電動ポンプにおいては特に望ましくない。更に、特許文献2の燃料供給装置における電気雑音の低減手法は、リザーブカップの外周面にシールド材を設ける構成のため、装置の大型化を招来するという点においても望ましくない。
【0008】
上記問題を鑑みると、ポンプ部の流体がステータに流入することを防止するキャンを備えた電動ポンプにおいて、部品点数の増加を伴わずに、コイルから発生する電気雑音の影響を低減することが望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る電動ポンプの第1特徴構成は、回転軸によってハウジングに軸支されるロータと、前記ロータの径方向外側に配置され、前記ハウジングに固定されるステータと、前記ロータの回転によって流体を吸入・吐出するポンプ部と、前記ロータと前記ステータとの間に設けられ、前記ポンプ部の流体が前記ステータに流入することを防止するキャンと、を備え、前記キャンは導電性を有し、当該キャンを介して前記ステータを接地している点にある。
【0010】
本特徴構成によれば、導電性のキャンを介してステータを接地しているので、ステータのコイル部にて発生した電気雑音がステータとキャンとを経由して接地側に放流され、電気雑音を低減させることができる。このように導電性のキャンを介してステータを接地するのみで電気雑音の低減を実現しているので、特許文献2の燃料供給装置のごとく電気雑音をシールドするための別部材を設ける必要がなく、コストの上昇、重量の増加、及び装置の大型化を回避することができる。
【0011】
第2特徴構成は、前記ステータの内周面と前記キャンの外周面との間に、前記ステータと前記キャンとの電気的接続を促進する導通促進部を設けた点にある。
【0012】
本特徴構成のごとく、ステータとキャンとの電気的接続を促進する導通促進部を、ステータの内周面とキャンの外周面との間に設けるようにすれば、導通促進部を設けることによる電動ポンプの大型化を避けつつ、より確実に電気雑音を接地側に放流することができる。
【0013】
第3特徴構成は、前記導通促進部は、前記ステータ又は前記キャンに設けられ、前記キャンを前記ステータに当接した状態で固定する突起部である点にある。
【0014】
本特徴構成によれば、ステータとキャンとの電気的接続を促進する導通促進部として、キャンをステータに当接した状態で固定する突起部を設けているので、キャンがステータに対して移動することを防止できる。このため、キャンとステータとの当接状態が不安定になって電気雑音の低減効果が悪化したり、キャンが傾くことによってロータの回転動作に支障をきたしたりすることを回避することができる。更には、キャンとステータとの当接状態が安定するため、キャンとステータとが接触・非接触を繰り返すことにより異音が発生することを防止できるとともに、コイルで発生した熱をステータ及びキャンを介して放熱できるという効果も得られる。
【0015】
第4特徴構成は、前記導通促進部は、前記キャンと前記ステータとを接着する導電性の接着剤である点にある。
【0016】
本特徴構成によれば、ステータとキャンとの電気的接続を促進する導通促進部として、キャンとステータとを接着する導電性の接着剤を用いているので、キャンとステータとの間の電気的な接続状態を容易に実現することができる。その結果、電気雑音をより確実に低減することができるとともに、キャンとステータとが接触することにより異音が発生することを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る電動ポンプの実施形態を示す断面図である。
【図2】電動ポンプの分解斜視図である。
【図3】ステータコアを構成する電磁鋼板の斜視図である。
【図4】別の実施形態の電動ポンプを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る電動ポンプの実施形態について図1〜図4を用いて説明する。
【0019】
図1に示すように、本実施形態に係る電動ポンプ1は、ステータ13のコイル部13eへの通電によりロータ12が回転駆動するモータ部10と、ロータ12の回転とともにインペラ22が回転して流体を吸入・吐出するポンプ部20とが、モータハウジング11とポンプハウジング21とからなる樹脂製のハウジング2に内装されて構成される。
【0020】
モータ部10は、モータハウジング11、ロータ12、ステータ13、キャン14及び回転軸15等を備えて構成される。図2に示すように、モータハウジング11はステータ13を樹脂で鋳ぐるむようにして構成され、その内部にはキャン14を収容する円筒空間11aが形成される。
【0021】
ロータ12は、電磁鋼板の薄板を積層して形成されるロータコア12aと、ロータコア12aを貫通する複数のスロットに収容される永久磁石12bとを備えている。ロータ12は、モータハウジング11に固定されたステータ13と対向するように、ステータ13の径方向内側に配設される。
【0022】
ロータ12と後述するインペラ22とは樹脂成形で一体的に構成されて回転体25を形成しており、この回転体25の中心を貫通する貫通孔に回転軸15が挿嵌される。回転軸15の両端部は、キャン14に固定された軸止部材16と、後述するポンプハウジング21に形成された軸止部21aとで支持される。回転体25の軸受部25aと回転軸15との間に流体が流入して流体軸受けとして機能することにより、軸止された回転軸15に対して回転体25が滑らかに回転することができる。尚、回転軸15が回転体25と一体的に回転するように構成してもよい。
【0023】
ステータ13は、ロータ12と同様に、電磁鋼板の薄板を積層して形成されるステータコア13aを有する。図3に示すように、ステータコア13aを構成する電磁鋼板は、円環状のヨーク部13bとヨーク部13bの内周面から径方向内側に突出したティース部13cとを備えている。ティース部13cは周方向に等間隔に6箇所に設けられており、そのうち1つずつ間隔を空けた3箇所のティース部13cの先端部に、導通促進部として径方向内側に突出した突起部13dが形成される。ティース部13cにはコイルが巻かれて、コイル部13eが形成される。コイル部13eに通電すると、ステータ13との電磁作用によりロータ12が回転駆動する。
【0024】
ステータ13は樹脂で鋳ぐるむことによってモータハウジング11に固定されるが、ステータ13を樹脂で鋳ぐるんだ状態において、ティース部13cの先端部はモータハウジング11の内周面上に露出するように構成される(図2参照)。即ち、ティース部13cの先端部に形成された突起部13dは、モータハウジング11の円筒空間11aに対して突出することになる。
【0025】
図2に示すように、モータハウジング11の円筒空間11aの径と同一の外周径を有するカップ状のキャン14を円筒空間11aに収容すると、上述の突起部13dによりキャン14を圧入した効果が得られ、キャン14を安定的に固定することができる。キャン14の内部には、回転体25のうちロータ12の部分が収容される。
【0026】
キャン14は、キャン14のフランジ部14aをモータハウジング11にボルト締結することにより固定される。この時、シール材23及び24でフランジ部14aを挟み込むように固定することにより、ポンプ部20に流入した流体がステータ13に流入しないように構成されている。尚、後述するポンプハウジング21をキャン14及びモータハウジング11と共締めしてもよいし、モータハウジング11とポンプハウジング21とを接着等の別の技術によって固着することも可能である。
【0027】
ポンプ部20は、ポンプハウジング21及びインペラ22等を備えて構成される。モータハウジング11とポンプハウジング21とからなるハウジング2の内部空間には、回転軸15及び回転体25が収容される。回転体25のうちインペラ22の部分はポンプハウジング21の内部に収容され、インペラ22が回転することによりポンプハウジング21に形成された吸入口21bから流体が吸い込まれ、吐出口21cから流体が吐き出される。
【0028】
本発明に係る電動ポンプ1においては、キャン14に導電性の材料を用いるとともに、キャン14を接地している。接地の方法としては、例えばキャン14に銅線等を固着させ、この銅線等を電動ポンプ1の外部に引き出して接地させればよい。尚、キャン14は導電性を有するだけでなく、ロータ12とステータ13との電磁作用に影響を及ぼさないように非磁性体であることが望ましいので、例えばステンレス鋼板等を用いると好適である。
【0029】
以上の構成を有する電動ポンプ1において、コイル部13eに通電すると、ロータ12の回転とともにインペラ22が回転し、吸入口21bから流体が吸い込まれるとともに、吐出口21cから流体が吐き出される。この時、ポンプハウジング21及びキャン14の内部空間に流体が流入するが、キャン14によりこの流体がステータ13に流入し、漏電等の問題が生じることを防止できる。
【0030】
ステータ13のコイル部13eへの通電により電気雑音が発生するが、本電動ポンプ1によれば、ステータ13で発生した電気雑音は、突起部13d及びキャン14を介して接地側に放流されるので、電気雑音の低減を図ることができる。このように導電性のキャン14を介してステータ13を接地するのみで電気雑音の低減を実現しているので、電気雑音をシールドするための別部材を設ける必要がなく、コストの上昇、重量の増加、及び装置の大型化を回避することができる。
【0031】
又、ステータ13とキャン14との電気的接続を促進する導通促進部として、キャン14をステータ13に当接した状態で固定する突起部13dを設けているので、キャン14がステータ13に対して移動することを防止できる。このため、キャン14とステータ13との当接状態が不安定になって電気雑音の低減効果が悪化したり、キャン14が傾くことによってロータ12の回転動作に支障をきたしたりすることを回避することができる。更には、キャン14とステータ13との当接状態が安定するため、キャン14とステータ13とが接触・非接触を繰り返すことにより異音が発生することを防止できるとともに、コイル部13eで発生した熱をステータ13及びキャン14を介して放熱できるという効果も得られる。
【0032】
本実施形態においては、6箇所のティース部13cのうち1つずつ間隔を空けた3箇所のティース部13cの先端部に、径方向内側に突出した突起部13dを設けた。しかし、突起部13dの数や形状は図3に示したものに限らない。例えば、キャン14の圧入の程度を高めたい場合には、6箇所全部のティース部13cに突起部13dを形成してもよい。逆にキャン14の圧入の程度を小さくしたい場合には、突起部13dの数を減らしたり、突起部13dの突出量を小さくしたり、或いは突起部13dを設けた電磁鋼板を全積層枚数のうち一部のみに用いるようにしてもよい。更には、突起部13dをステータ13の側でなく、キャン14に形成することも可能である。但し、何れの場合もキャン14の傾きを防止し、均等な圧入圧力を実現するためには、突起部13dが周方向に均等に配置されていることが望ましい。
【0033】
[別の実施形態1]
本発明に係る電動ポンプ1の別の実施形態を図4に示す。以下、本実施形態に係る電動ポンプ1のうち、前述の実施形態に係る電動ポンプ1と異なる箇所についてのみ説明する。
【0034】
本実施形態においては、ステータコア13aを構成する電磁鋼板に突起部13dは形成されていない。但し、ステータコア13aを構成する電磁鋼板のうち複数枚(ここでは6枚)については、導通促進部として、ティース部13c全体を他の電磁鋼板のティース部13cよりも径方向内側に突出させて突出部13fを構成している。突出部13fを有する電磁鋼板をどの程度の間隔で用いるかによって、圧入の程度を調整することができる。
【0035】
又、本実施形態においては、キャン14のフランジ部14aが当接しているポンプハウジング21に導電性の材料を用い、ポンプハウジング21を接地するように構成した。このように、キャン14を直接接地させずに、他の部材を介して接地させるように構成することも可能である。
【0036】
[別の実施形態2]
導通促進部として突起部13dを設ける代わりに、或いは突起部13dを設けるとともに、ステータ13とキャン14とを導電性の接着剤で固定してもよい。即ち、モータハウジング11の内周面とキャン14との外周面との間に接着剤を塗布して、キャン14を固定してもよい。
【0037】
導電性の接着剤を用いることにより、ステータ13とキャン14との間の電気的な接続状態を容易に維持することができる。その結果、コイル部13eで発生する電気雑音をステータ13、接着剤及びキャン14を介して接地側に放流することができるので、より確実に電気雑音を低減することができるとともに、ステータ13とキャン14とが接触することにより異音が発生することを防止できる。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明に係る電動ポンプは、インペラを用いた種類のポンプのみならず、他の種類のポンプ、例えば容積式ポンプ等に適用することも可能である。
【符号の説明】
【0039】
1 電動ポンプ
2 ハウジング
12 ロータ
13 ステータ
13d 突起部(導通促進部)
13f 突出部(導通促進部)
14 キャン
15 回転軸
20 ポンプ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸によってハウジングに軸支されるロータと、
前記ロータの径方向外側に配置され、前記ハウジングに固定されるステータと、
前記ロータの回転によって流体を吸入・吐出するポンプ部と、
前記ロータと前記ステータとの間に設けられ、前記ポンプ部の流体が前記ステータに流入することを防止するキャンと、を備え、
前記キャンは導電性を有し、当該キャンを介して前記ステータを接地していることを特徴とする電動ポンプ。
【請求項2】
前記ステータの内周面と前記キャンの外周面との間に、前記ステータと前記キャンとの電気的接続を促進する導通促進部を設けた請求項1に記載の電動ポンプ。
【請求項3】
前記導通促進部は、前記ステータ又は前記キャンに設けられ、前記キャンを前記ステータに当接した状態で固定する突起部である請求項2に記載の電動ポンプ。
【請求項4】
前記導通促進部は、前記キャンと前記ステータとを接着する導電性の接着剤である請求項2に記載の電動ポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−21464(P2012−21464A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−159959(P2010−159959)
【出願日】平成22年7月14日(2010.7.14)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】