説明

電動倍力装置

【課題】電動倍力装置において、電気系統の失陥等により、電動モータが作動不能になった状態でブレーキ操作を行った場合における操作力を軽減する。
【解決手段】ブレーキペダルのストロークに応じてコントローラにより電動モータ105の作動を制御して、ボール−ネジ機構120を介して押圧部材140を推進し、プライマリピストン178を押圧してブレーキ液圧を発生させる。ブレーキペダルのストロークに対して、反力バネ152により一定の反力を付与する。電動モータ105が作動不能の場合、ボール−ネジ機構120の直動部材121の回転位置により、第1係脱機構190がプランジャ104を可動バネ受151から離脱させて反力バネ152の反力がプランジャに作用しないようし、第2係脱機構191がプランジャ104を直動部材140に係合させてプランジャ104により直動部材140を直接押圧してブレーキ液圧を発生させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車両のブレーキ装置に組込まれる倍力装置において、倍力源として電動モータを用いた電動倍力装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電動倍力装置として、例えば特許文献1に記載されたものが公知である。この電動倍力装置は、ブレーキペダルに連結された入力ロッドと、マスタシリンダのピストンを押圧する押圧部材と、回転−直動変換機構を介して押圧部材を駆動する電動モータと、入力ロッドに一定の反力を付与するストロークシミュレータと、入力ロッドの移動に応じて電動モータの作動を制御するコントローラとを備えている。これにより、ブレーキペダルの操作量に応じて、コントローラによって電動モータの作動を制御して押圧部材によってマスタシリンダのピストンを推進してブレーキ液圧を発生させて所望の制動力を得る。
【0003】
そして、ブレーキペダルの操作量に対して、コントローラにより電動モータの出力を適宜調整することにより、いわゆる倍力比を変化させることができ、倍力制御、ブレーキアシスト制御、回生協調制御等の種々のブレーキ制御を実行することができる。このとき、回生協調制御等によって電動モータの出力が変動した場合でも、ブレーキペダルの操作量に対して、ストロークシミュレータによって一定の反力を付与しているので運転者に違和感を与えることがない。
【0004】
また、万一、電気系統等の失陥により、電動モータが作動不能になった場合には、ブレーキペダルに連結された入力ロッドによって押圧部材を直接押圧することで、マスタシリンダのピストンを前進させることができ、制動機能を維持できるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−30599号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に記載された電動倍力装置では、次のような問題がある。電動モータが作動不能になった状態で、ブレーキペダルに連結された入力ロッドによって押圧部材を直接押圧する場合、正常時よりも入力ロッドのストロークを大きくすると共に、大きな操作力が必要となる。この場合にも入力ロッドのストロークに対してストロークシミュレータによる反力が作用するため、その分についてもブレーキペダルの踏力が大きくなり、運転者への負担が大きくなる。
【0007】
本発明は、電気系統の失陥等により、電動モータが作動不能になった状態でブレーキ操作を行った場合における操作力を軽減するようにした電動倍力装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明に係る電動倍力装置は、ハウジングと、該ハウジングに設けられてブレーキペダルに連結される入力部材と、前記ブレーキペダルの操作に応じて作動する電動モータと、該電動モータの作動により、マスタシリンダのピストンを推進するアシスト機構と、前記ハウジングに支持されて前記入力部材の移動に対して反力を発生する反力発生機構と、
前記アシスト機構と前記ピストンとの間に、前記アシスト機構に対して相対移動可能に設けられ、前記アシスト機構又は前記入力部材によって押圧されて前記ピストンを推進する押圧部材と、
前記アシスト機構が前記電動モータにより作動されていない初期位置にあるとき、前記入力部材を前記反力発生機構から離脱させ、前記アシスト機構が前記電動モータにより作動したとき、前記入力部材を前記反力発生機構に係合させる第1係脱機構とを備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る電動倍力装置によれば、電気系統の失陥等により、電動モータが作動不能になった状態でブレーキ操作を行った場合における操作力を軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施形態に係る電動倍力装置が組込まれた自動車のブレーキシステムの概略構成を示す図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る電動倍力装置のマスタシリンダに連結された状態を示す縦断面図である。
【図3】図2に示す電動倍力装置のフロントハウジングを拡大して示す縦断面図である。
【図4】図2に示す電動倍力装置の第1及び第2係脱機構の失陥時の作動状態を説明する斜視図である。
【図5】図2に示す電動倍力装置の第1及び第2係脱機構の通常の作動状態を説明する斜視図である。
【図6】図2に示す電動倍力装置の通常の作動状態を示す縦断面図である。
【図7】図2に示す電動倍力装置の失陥時の作動状態を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
本発明の第1実施形態について、図1乃至図7を参照して説明する。
本実施形態に係る電動倍力装置が組込まれた車両3を図1に示す。図1は、車両3が搭載しているブレーキシステム1および走行用駆動システム70の概要を示すシステム図である。本発明に係る電動倍力装置は、乗用車を含め、トラックあるいはバスなど、様々な種類の車両に適用することができる。以下、これらの代表例として、前輪駆動の乗用車に本発明を適用した例を用いて、本実施形態について説明する。また、本発明は、エンジンのみが発生するトルクに基づき走行する車両(以下エンジン車という)、エンジンと電動機の両方が発生するトルクに基づき走行するハイブリッド車、あるいは、電動機のみが発生するトルクに基づき走行する純粋な電気自動車(以下EVという)等、走行システムの種類に制限されることなく、様々な走行方式の車両に適用することができる。これらの車両を代表例して、以下、EVに適用した例を用いて本発明に係る実施形態を説明する。なお、本発明をエンジン車、ハイブリッド車、あるいはEV等、本発明の適用車両の種類が変わっても、以下に説明の基本部分は、略そのまま適用可能である。
【0012】
〔走行用駆動システム70〕
車両3に搭載された走行用駆動システム70は、例えば数百ボルトの高電圧直流電力を蓄電する蓄電システム72と、交流電力を受けて車両3を走行するためのトルクを発生するモータの機能と車両の走行エネルギーに基づき交流電力を発生するゼネレータの機能を有する回転電気機械(以下モータゼネレータという)82と、蓄電システム72からの高電圧直流電力を受けてモータゼネレータ82に供給する交流電力を発生し、またモータゼネレータ82が発生した交流電力を直流電力に変換する電力変換装置74と、外部から商用電力を受電するための受電用コネクタ84と、受電した電力に基づいて蓄電システム72を充電する充電装置86と、を備えている。
【0013】
〔低電圧電源装置40〕
車両3は、低電圧、例えば14ボルトあるいは28ボルトを基準電圧とする低電圧の直流電力を蓄電する低電圧電源装置40と、蓄電している低電圧直流電力を供給するための電力供給線21を備えている。走行用駆動システム70および後述するブレーキシステム1には、電力供給線21を介して低電圧電源装置40から直流電力が供給され、制御回路の動作電源や低電圧のモータなどの電源として使用される。
【0014】
〔車載情報ネットワーク〕
車両3には情報を伝送するための情報伝送線23が設けられている。この情報伝送線23を介して、ブレーキシステム1、走行用駆動システム70及び低電圧電源装置40が、それぞれの動作に使用する情報の授受を行っている。この情報伝送線23は、車両3に搭載された図1に記載されていない様々な装置やシステムとも繋がっており、車両3内の情報ネットワークを形成している。情報の伝送方式としては例えばCAN方式が使用される。
【0015】
〔ブレーキシステムの構成〕
車両3のブレーキシステムは電動アクチュエータ100と液圧制御ユニット300と各車輪に対して制動力を発生するホイルシリンダ50を有している。ホイルシリンダ50は、4つの車輪にそれぞれ設けられ、液圧によって制動力を発生する例えば公知のディスクブレーキ又はドラムブレーキとすることができる。電動アクチュエータ100は、車両3のエンジンルームと車室とを区画する隔壁であるダッシュパネル5に取り付けられている。電動アクチュエータ100は、電動倍力装置101と、マスタシリンダ171と、制御装置161とを備えている。電動倍力装置101の入力ロッド103は、車室内に延出してブレーキペダル7に機械的に連結されており、運転者によるブレーキペダル7の操作に基づき、変位する。運転者によるブレーキ操作量は、ブレーキペダル7の変位として入力ロッド103に伝達され、入力ロッド103の軸方向の変位として電動倍力装置101に伝達される。また、ブレーキペダル7の変位は、ストロークセンサ11により検出され、電気信号に変換され、情報伝送線23を介して制御装置161(以下、ECU161という)に伝達される。
【0016】
ECU161はブレーキペダル7の操作量である変位に基づいて、後述する動作により、電動倍力装置101を制御してマスタシリンダ171のピストンを制御し、マスタシリンダ171は、制動力発生するための液圧を発生する。電動アクチュエータ100が発生したブレーキ液圧は、2系統のアクチュエーション管路13、15を介して液圧制御ユニット300に伝えられる。液圧制御ユニット300は、2系統のアクチュエーション管路13、15を介して供給されたブレーキ液圧に基づき、各車輪に制動力を発生させるための各車輪のホイルシリンダ50に供給するブレーキ液圧を発生して、4系統のファンデーション管路31、33、35、37を介して各車輪のホイルシリンダ50に送り、それぞれの車輪で制動力を発生させる。
【0017】
また、液圧制御ユニット300は、電動アクチュエータ100の液圧に基づくことなく、各ホイルシリンダ50の液圧を制御することができる。これにより、車両3の走行状態、運転状態等に応じて液圧制御ユニット300の作動を制御することにより、アンチロックブレーキ制御(ABS)、トラクション制御、あるいは、アンダーステア及びオーバステアを抑制する車両安定化制御等のブレーキ制御の実行が可能となっている。
【0018】
液圧制御ユニット300には、内部の電動モータ、電磁弁等の作動を制御するための制御装置361(以下、ECU361という)が設けられている。電動倍力装置101及び液圧制御ユニット300のECU161、361は、電源装置40から電力供給21の電力線を介して直流電力を受け、この直流電力を交流電力に変換し、交流電力を電動モータに供給するようになっている。そして、供給する交流電力を制御することにより、電動モータの回転方向や回転トルクを制御することができるようになっている。図1では、電動アクチュエータ100と液圧制御ユニット300とは、電動倍力装置101とECU161とが、また、液圧制御ユニット300のハウジング300HとECU361とがそれぞれ分離して図示されているが、これらのECU161、361は、電動倍力装置101、ハウジング300Hに対して一体構造としても、別体構造としてもよい。なお、電源装置40は例えば14ボルト系のバッテリでもよいし、更に異なる電圧系の電池であってもよい。
【0019】
そして、回生制動時には、モータゼネレータ82の回生運転によって運動エネルギーが電力に変換された分だけ車両3に制動力が発生するので、ECU161、361は、ブレーキ液圧による制動力が、回生が無い場合に比して回生によって発生した制動力に相当する分だけ小さくなるように電動アクチュエータ100を制御する回生協調制御を実行する。回生協調制御を行うために、制御装置76は、回生量あるいは、回生量に相当する制動力、トルク、ブレーキ液圧などの情報を、車両通信系統23を介して、回生制動要求としてECU161へ伝達するようになっている。
【0020】
ECU161、361は、車両3内に張り巡らされている車両通信系統23に接続され、時分割多重通信方式の電気信号を用いて情報を送受信するようになっている。ここで、電気信号の形式はシリアル通信でもよいし、CANやFlexRay、LAN等の多重通信でもよい。なお、電力供給線21および車両通信系統23は万一の失陥時に備えて多重化して構成されていてもよい。例えば、電力供給線21の電力線が、独立した二系統から成り立っており、おのおのが電力供給源となる蓄電手段あるいは発電手段を備えている構成となっていてもよい。また、例えば車両通信系統23が独立した2系統から成り立っていてもよい。上記車両通信系統23には、ストロークセンサ11も接続されている。
【0021】
〔電動倍力装置101の構成〕
図2に示すように、電動アクチュエータ100は、電動倍力装置101にマスタシリンダ171が結合されて構成される。マスタシリンダ171は、圧力室を2室持つ、所謂、タンデム型マスタシリンダであり、そのシリンダボディ173には、プライマリ及びセカンダリの2つの液圧ポート175、177を有している。これらの液圧ポート175、177には、2系統の液圧回路を有する液圧制御ユニット300(図1参照)のそれぞれの油回路が接続されている。
【0022】
タンデム型のマスタシリンダ171は、シリンダボディ173のシリンダボア内に直列に配置された一対のプライマリピストン178及びセカンダリピストン(図示せず)が摺動可能に挿入されている。これらのプライマリピストン178及びセカンダリピストン(以下、ピストン178という)の前進により、2つの液圧ポート175、177から等しいブレーキ液圧を供給し、ピストン178の後退時には、ホイルシリンダ50の摩擦ライニングの摩耗やブレーキ液の戻り遅れ等に応じてリザーバ181からリザーバポート(図示せず)を介して適宜ブレーキ液を補充する。そして、万一、2系統の液圧回路の一方が失陥した場合でも、他方の液圧回路に液圧が供給されるので、制動機能を維持することができる。
【0023】
電動倍力装置101は、前部の小径のフロントハウジング110A、後部の大径のリアハウジング110B及びこれら間の中間ハウジング110Cからなるハウジング110を有しており、フロントハウジング110Aの前端部に、マスタシリンダ171が取り付けられている。ハウジング110は、マスタシリンダ171が取付けられた前部側をエンジンルーム内へ、その反対側のリアハウジング110Bの入力ロッド103が突出された円筒部111を車室内へ配置してダッシュパネル5(図1参照)に固定されている。
【0024】
電動倍力装置101は、マスタシリンダ171のピストン178を駆動するための電動モータ105と、電動モータ105によってベルト伝動機構113を介して駆動されるアシスト機構としての回転−直動変換機構であるボール−ネジ機構120と、ボール−ネジ機構120によって推進されてピストン178を押圧する押圧部材140と、入力ロッド103及び後述のプランジャ104に連結される反力発生機構であるストロークシミュレータ150とを備えている。ボール−ネジ機構120、押圧部材140及びストロークシミュレータ150は、同軸上に配置されて略円筒状のハウジング110に収容されている。このハウジング110のフロントハウジング110Aの前端部には、マスタシリンダ171が結合され、リアハウジング110Bの円筒部111からは、入力ロッド103が突出している。電動モータ105は、マスタシリンダ171及びハウジング110の側部に配置されてハウジング110に結合されている。
【0025】
押圧部材140は、プライマリピストン178の後方にプライマリピストン178と同軸上に配置されている。押圧部材140は、一端側に、プライマリピストン178の円筒状の後端部内に挿入されてプライマリピストン178を押圧する棒状のロッド部141が形成され、他端側にロッド部141よりも大径の大径部143が形成されている。大径部の後端部には、軸方向に沿って係合ボア144が設けられている。
【0026】
ボール−ネジ機構120は、円筒状の直動部材121と、直動部材121が挿入される円筒状の回転部材131と、これらの対向面に形成された螺旋状のネジ溝123、133に装填された複数の鋼球からなるボール135とを備えている。直動部材121は、全体が筒状に形成されて外周に螺旋状のネジ溝123を有している。また、直動部材121は、フロントハウジング110Aの内周面に形成された案内溝145(図3参照)に係合し、案内溝145に沿って回転方向及び軸方向の移動が制限されている。回転部材131は、ハウジング110内でベアリング137、138によって軸回りに回転可能、かつ、軸方向に移動しないように支持されている。そして、回転部材131を回転させることにより、ネジ溝123、133内をボール135が転動して直動部材121が軸方向に沿って移動する。このとき、直動部材121は、初期位置から案内溝145の傾斜部145Aに沿って回転部材131と共に回転した後、案内溝145の直動部145Bによって回転が規制されて軸方向に沿って移動する。
【0027】
直動部材121の前部に案内ボア126が形成され、案内ボア126内に、押圧部材140の大径部143が軸方向に沿って摺動可能、すなわち直動部材121に対して後退端を有して相対移動可能、かつ直動部材121に対して回転方向に固定された状態で挿入されて案内ボア126の底部127に当接している。これにより、直動部材121がマスタシリンダ171側へ前進たときに、底部127が案内部145を押圧し、押圧部材140が直動部材121と共に前進してロッド部141がマスタシリンダ171のプライマリピストン178を押圧する。押圧部材140は、案内溝145の傾斜部145Aに沿って回転する直動部材121と共に回転する。また、押圧部材140は、大径部143が底部127から離間して、直動部材121の移動を伴わずに単独で前進することができる。案内ボア126の底部127には、案内ボア126の係合ボア144に対向して貫通孔127Aが形成されている。フロントハウジング110Aの前端部と直動部材121との間には、圧縮コイルバネである戻しバネ139が設けられている。圧縮コイルばね139と直動部材121との間には、環状のバネ受139Aが介装されている。戻しバネ139は、直動部材121をハウジング110の後部側へ向って付勢し、バネ受139Aが中間ハウジング110Cに当接することにより、直動部材121の後退位置を規定している。なお、上記押圧部材140には、戻しバネ139の付勢力が付与されないようになっている。
【0028】
回転部材131の外周部には、プーリ134が取付けられ、このプーリ134及び電動モータ105の出力軸に取付けられたプーリ(図示せず)にベルト136が巻装されている。これらによってベルト伝動機構113が構成され、電動モータ105によって回転部材131が回転駆動される。なお、ベルト伝動機構113に、歯車減速機構等の減速機構を組み合わせてもよい。ベルト伝動機構113の代りに、歯車伝動機構、チェーン伝動機構等の他の公知の伝動機構を用いることができる。また、伝達機構を介さずに電動モータ105によって回転部材131を直接駆動するようにしてもよい。
【0029】
電動モータ105は、例えば公知のDCモータ、DCブラシレスモータ、ACモータ等とすることができるが、制御性、静粛性、耐久性等の観点から本実施形態ではDCブラシレスモータを採用している。
【0030】
〔ストロークシミュレータ150の構成〕
ストロークシミュレータ150は、リアハウジング110Bの円筒部111内に設けられた可動バネ受151、反力バネ152、及びガイド部材154を備えている。また、ストロークシミュレータ150の内部には、入力ロッド103と連結されて、該入力ロッド103とともに入力部材を構成するプランジャ104が設けられている。
【0031】
可動バネ受151は、円筒状の側壁151A及び底部151Bを有する略有底円筒状で、底部151Bの中央部に突出する小径円筒部151Cが一体に形成されている。可動バネ受151の側壁151Aは、リアハウジング110Bの円筒部111内に嵌合された有底円筒状のガイド部材154内に摺動可能に嵌合されている。可動バネ受151の小径円筒部151Cは、円筒部111内に挿入された直動部材121の後部の案内ボア128内に、軸方向に沿って移動可能に挿入されて、直動部材121に対して軸回りの回転が規制されている。円筒部111の前端部の内周部には、段部157が形成され、段部157と可動バネ受151の底部151Bと間に圧縮コイルバネである反力バネ152が設けられている。そして、反力バネ152のバネ力によって可動バネ受151が後方に付勢され、ガイド部材154の底部に当接して後退位置が規定されている。
【0032】
プランジャ104は、可動バネ受151の小径円筒部151C内に挿通されている。プランジャ104は、ガイド部材154によって軸方向に沿って移動可能に案内され、かつ、軸回りの回転が規制されている。プランジャ104の前部は、直動部材121の案内ボア126の底部127の貫通孔127Aを貫通して出力部材143の係合ボア144に挿入されている。プランジャ104の後端部には、凹部104Aが形成され、凹部104Aに入力ロッド103の先端部が連結されている。
【0033】
プランジャ104と可動バネ受151との間には第1係脱機構190が設けられ、また、プランジャ104と出力部材140との間には、第2転係脱機構191が設けられている。第1係脱機構190は、ガイド部材154によって軸回りの回転が規制されたプランジャ104と、直動部材121と共に回転する可動バネ受151との相対回転位置に応じてプランジャ104と可動バネ受151とをこれらに形成された凸部190A及び凹部190Bの協働により、次のように係合、離脱する。図4(A)に示すように、直動部材121が回転せず、可動バネ受151が初期位置にあるとき、プランジャ104の凸部190Aと可動バネ受151の凹部190Bとが整合することにより、これらが互いに離脱して軸方向に相対移動可能となる。これにより、図4(B)に示すように、プランジャ104が前進する際、可動バネ受151から離脱して単独で前進する。また、図5(A)に示すように、回転部材131の回転により、直動部材121が初期位置から回転したとき、プランジャ104の凸部190Aと可動バネ受151の凹部190Bとが不整合となり、これにより、図5(B)に示すように、プランジャ104が前進する際、可動バネ受151を押圧して反力バネ152(図2参照)を圧縮する。
【0034】
また、第2係脱機構191は、ガイド部材154によって軸回りの回転が規制されたプランジャ104と、直動部材121と共に回転する出力部材140との相対回転位置に応じてプランジャ104と出力部材140とをこれらに形成された段部191A及び191Bの協働により、次のように係合、離脱する。図4(A)に示すように、直動部材121が回転せず、出力部材140が初期位置にあるとき、プランジャ104の段部191Aの先端部が出力部材140の段部191Bに突き当て、これにより、図4(B)に示すように、プランジャ104は、前進したとき、出力部材140を押圧してこれを前進させる。また、5図(A)に示すように、回転部材131の回転により直動部材121が初期位置から回転したとき、プランジャ104の段部191Aを出力部材140の段部191Bにはめ合わせることにより、これらの軸方向の相対移動を可能にする。これにより、図5(B)に示すように、プランジャ104は、前進する際、出力部材140に対して相対移動しながら単独で移動する。
【0035】
〔電動倍力装置101の作動〕
以上のように構成した電動倍力装置101は、上述したECU161によって電動モータ105が制御されて車両3を制動することになる。ECU161が行う制御と共に電動倍力装置101の作動について次に説明する。
【0036】
(通常制動時)
通常の制動時には、運転者により、ブレーキペダル7が操作されると、その操作量がストロークセンサ11によって検出される。検出された信号は、車両通信系統23を介してECU161で受信され、ブレーキペダル7の操作量に応じて、出力センサ(電動モータ105の回転位置、電動モータ105の電流値、若しくは、アクチュエーション管路13、15中に設けられる液圧センサの液圧値等)の検出を監視しながら、電動モータ105の作動を制御する。
【0037】
電動倍力装置101においては、電動モータ105によってベルト伝動機構113を介してボール−ネジ機構120が駆動され、戻しバネ139のバネ力に抗して直動部材121が前進する。この直動部材121の前進によって押圧部材140がピストン178を押圧し、マスタシリンダ171に液圧を発生させる。この液圧が液圧制御ユニット300を介して各車輪のホイルシリンダ50に供給されて車両3に制動力を発生させる。
【0038】
このとき、図6に示すように、第1係脱機構190では、電動モータ105の作動により、可動バネ受151が直動部材121と共に回転することにより、プランジャ104と可動バネ受151とが係合してプランジャ104の前進により反力バネ152が圧縮される。これにより、プランジャ104の前進、すなわち、ブレーキペダル7の踏込みに対して、反力バネ152のバネ力により、踏込量に応じた一定の反力が付与されるので、運転者は、その反力に応じてブレーキペダル7の操作量を調整することができ、所望の制動力を発生させることができる。なお、第2係脱機構191では、電動モータ105の作動によって出力部材140が直動部材121と共に回転することにより、プランジャ104と出力部材143とが離脱して軸方向に相対移動可能な状態となっている。
【0039】
(回生制動時)
ECU161が、ブレーキペダル7の操作量に対する電動モータ105の制御量を変化させることにより、車両3において減速時に車輪の回転によって発電機として駆動電動アクチュエータ71を駆動する回生制動時に回生制動分だけマスタシリンダ171の液圧を減圧して所望の制動力を得る回生協調制御を実行することができる。このとき、反力バネ152によりブレーキペダル7の踏込量に応じた一定の反力が付与されるので、回生制動分だけマスタシリンダ171の液圧が変動しても、車両の減速度はブレーキペダル7の操作量に応じたものとなり、ブレーキペダル7の踏力に対する反力バネ157による反力は変動しないので、運転者に違和感を与えることがない。
【0040】
(失陥時)
電動倍力装置101においては、万一、電動モータ105、ECU161あるいはボール−ネジ機構120等の失陥により、電動モータ105の作動が不能になった場合、運転者がブレーキペダル7を操作しても、電動モータ105が作動せず、ボール−ネジ機構120の回転部材131が回転しなくなる。この場合には、直動部材121と共に回転する出力部材140及び可動バネ受151も回転せず、初期位置に止まることになる。このとき、図7に示すように、第1係脱機構190では、プランジャ104と可動バネ受151とが離脱され、プランジャ104が前進しても可動バネ受151は前進しない。また、第2係脱機構191では、プランジャ104と出力部材140とが係合され、プランジャ104の前進に対して出力部材140が一体に前進する。この状態では、プランジャ104が出力部材140を直接押圧してピストン178を推進してマスタシリンダ171でブレーキ液圧を発生させることができる。
【0041】
このようにして、ブレーキペダル7の操作、すなわち運転者の踏力のみによってピストン178を前進させることができ、マスタシリンダ171に液圧を発生させて制動機能を維持することができる。このとき、第2系脱機構191がプランジャ104と出力部材140とを係合させることにより、これらの間に軸方向の隙間がほとんど生じないので、プランジャ104の無効ストロークを最小限にして、迅速に制動力を立ち上げることができる。また、第1係脱機構190により、可動バネ受151は、プランジャ104から離脱されて、前進せず、反力バネ152を圧縮しないので、ブレーキペダル7の踏込みに対して反力バネ152の反力が付与されなくなるので、ブレーキペダル7の操作力を軽減することができる。
【符号の説明】
【0042】
7…ブレーキペダル、101…電動倍力装置、105…電動モータ、110…ハウジング、120…ボール−ネジ機構(アシスト機構)、140…押圧部材、150…ストロークシミュレータ(反力発生機構)、104…プランジャ(入力部材)、171…マスタシリンダ、178…プライマリピストン(ピストン)、190…第1係脱機構、191…第2係脱機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングと、該ハウジングに設けられてブレーキペダルに連結される入力部材と、前記ブレーキペダルの操作に応じて作動する電動モータと、該電動モータの作動により、マスタシリンダのピストンを推進するアシスト機構と、前記ハウジングに支持されて前記入力部材の移動に対して反力を発生する反力発生機構と、
前記アシスト機構と前記ピストンとの間に、前記アシスト機構に対して相対移動可能に設けられ、前記アシスト機構又は前記入力部材によって押圧されて前記ピストンを推進する押圧部材と、
前記アシスト機構が前記電動モータにより作動されていない初期位置にあるとき、前記入力部材を前記反力発生機構から離脱させ、前記アシスト機構が前記電動モータにより作動したとき、前記入力部材を前記反力発生機構に係合させる第1係脱機構とを備えていることを特徴とする電動倍力装置。
【請求項2】
前記アシスト機構が前記電動モータにより作動されていない初期位置にあるとき、前記入力部材を前記押圧部材に係合させ、前記アシスト機構が前記電動モータにより作動したとき、前記入力部材を前記押圧部材から離脱させて、これらの相対移動を可能にする第2係脱機構を備えていることを特徴とする電動倍力装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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