説明

電動機用端子金具及び該端子金具を用いた電動機

【課題】面倒な加工を行なうことなく低コストで製造できる電動機用端子金具を提供する。
【解決手段】電動機のハウジングに取り付けられた樹脂製ブッシング12の軸心部に設けられた端子挿通孔13を貫通させた状態で電動機用端子金具32が取り付けられる。端子金具32の端子挿通孔13内に配置される部分の一部が押し潰されて薄肉部32bが形成され、薄肉部32bの一部が切り起こされることによりランス32cが形成されている。ランス32cが端子挿通孔13内の段部14に係合することにより端子金具32の端子挿通孔からの抜け止めを図る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動機に取り付けられる端子金具、及び該端子金具を用いた電動機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電動機として、各種のブラシ付の電動機や、ブラシレス電動機が用いられている。いずれの形式の電動機においても、電機子に電源電圧を供給するための端子金具を必要とする。一般に電動機は、ロータと、ステータと、該ロータ及びステータを収容したハウジングとを備えていて、ハウジングに対して絶縁されて取り付けられた端子金具を通して電機子に電源電圧が供給される。特許文献1に示された電動機では、ハウジングの軸線方向の一端を閉じるエンドカバーに一体化されたブラシ取り付け用台板に樹脂製のブッシングが一体に設けられ、この樹脂製ブッシングの軸心部に設けられた端子挿通孔を貫通させて端子金具が取り付けられている。
【0003】
このような電動機において,ブッシングをモールドした後に端子金具を取り付ける場合には、端子金具がブッシングから抜け出ないようにするために、端子金具として、ブッシングの端子挿通孔に挿入された際に該ブッシングに対して係止される構造のものを用いる必要がある。このような端子金具としては、例えば特許文献2に示されているように、斜めに突出した突起からなるランスを備えたものが広く用いられている。ランスを備えた端子金具を用いる場合には、ブッシングの端子挿通孔内に段部を形成しておいて、端子金具のランスを該段部に係合させることにより、端子金具をブッシングに係止する。
【0004】
端子金具のランスは、端子金具の一部を切り起こすことにより形成される。端子金具をブッシングの端子挿通孔内に挿入する作業を容易にするため、切り起こされたランスは、十分な弾力性を有している必要がある。そのため、端子金具にランスを形成する場合には、該端子金具を比較的肉厚が薄い帯状の金属板により形成している。
【0005】
ブッシングの軸心部に設けられた端子挿通孔を貫通させた状態で取り付けられる端子金具を肉厚が薄い金属板により形成すると、その機械的強度が弱く、容易に折れ曲がるという問題が生じる。そこで、従来の電動機においては、端子金具の幅方向の両端を折り返すことにより端子金具に強度を持たせるようにしていた。肉厚が薄い金属板により形成される帯板状の端子金具に強度を持たせるために、該端子金具の幅方向の両端を折り返す技術は、例えば特許文献3に示されているように公知である。
【0006】
幅方向の両端が折り返されたランス付きの端子金具を製造する際には、先ず厚みt1を有する銅またはアルミニウム等の良導電性の金属板を打ち抜くことにより、図6(A)及び(B)に示すように、幅方向の両端に切欠き1a,1aが形成された帯板状の端子素材1″を形成する。後で形成するランスに弾力性を持たせるため、この端子素材の板厚t1は例えば0.4mm程度に設定される。次いで図7(A),(B)に示すように端子素材1″の幅方向の両端を折り返すことにより、厚みt2(=約0.8mm)と幅寸法W1とを有する半加工品1′を形成する。幅寸法W1は例えば2.8mm程度である。
【0007】
端子金具は、ブッシングの軸心部の端子挿通孔に挿入されて取り付けられるため、その幅寸法の精度を十分に高くしておく必要がある。そこで、端子素材1″の幅方向の両端を折り返す際には、端子金具の幅寸法の精度を出すために、先ず端子素材1″の幅方向の両端寄りの所定幅の部分1b″,1b″を90°折り曲げて、図9(A)に示すように折り返し部1b,1bを形成した後、これらの折り返し部1b,1bを図9(B)から(D)に示すように段階的に折り曲げて、最終的に図9(E)に示すように幅方向の両端が折り返された半加工品1′(図7)を得る。次いでこの半加工品1′の切欠き1a,1aの内側の肉厚がt1の部分を切り起こすことにより、図8(A),(B)に示すように、所定の幅寸法W2を有するランス1cを形成して、幅寸法がW1で、厚さがt2の端子金具1を完成する。ランスの幅寸法W2(平均値)は例えば1mm程度である。
【0008】
折り返し部を形成することなく端子金具の機械的強度を得るために、板厚t2(0.8mm)の金属板を用いて端子金具を形成することも考えられるが、そのようにした場合には、ランスの板厚も厚くなるため、ランスに適度の弾力性を持たせることができなくなり、端子金具をブッシングの軸心部の端子挿通孔に挿入する作業を円滑に行なうことができなくなる。上記のように、端子金具の取付を容易にするためには、ランスの部分の板厚を0.4mm程度に薄くして、ランスに弾力性を持たせておくことが必要である。
【特許文献1】特開2003−70203号公報
【特許文献2】実開平3−37769号公報
【特許文献3】特開平8−31487号公報(図6、図7)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記のように、従来の電動機で用いられていた端子金具は、ランスに弾力性を持たせるために肉厚が0.4mm程度の薄い金属板により形成して、幅方向の両端を折り返すことにより機械的強度を持たせていた。しかしながら、このような構造の端子金具を製造する際には、その寸法精度を出すために、図9に示したように多くの工程を経て折り返し部を形成する必要があるため、端子金具の製造コストが高くなるのを避けられなかった。
【0010】
本発明の目的は、低コストで製造できる電動機用端子金具及び該端子金具を用いた電動機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、電動機のハウジングに取り付けられた樹脂製ブッシングの軸心部に設けられた端子挿通孔を貫通させた状態で取り付けられる電動機用端子金具に係わるものである。本発明が対象とする端子金具は、ブッシングの端子挿通孔内に配置される部分にランスを有していて、該ランスが端子挿通孔内に設けられた段部に係合することにより端子挿通孔からの抜け止めが図られる。
【0012】
本発明においては、端子金具の端子挿通孔内に配置される部分の一部が押し潰されて薄肉部が形成され、該薄肉部の少なくとも一部が切り起こされることによりランスが形成される。
【0013】
上記のように、端子金具の一部を押し潰すことにより薄肉部を形成して、該薄肉部を切り起こすことによりランスを形成すると、肉厚が厚い金属板を用いて端子金具を形成して、しかもランスの部分に十分な弾力性を持たせることができる。端子金具は肉厚が厚い金属板により形成されるため、端子金具の幅方向の両端を折り返すための加工は必要としない。
【0014】
本発明はまた、ロータ及びステータと、ロータ及びステータを収容したハウジングと、ハウジングに取り付けられた樹脂製ブッシングと、該樹脂製ブッシングの軸心部に設けられた端子挿通孔を貫通させて取り付けられた端子金具とを備えた電動機に適用される。
【0015】
本発明においては、上記端子挿通孔が、断面積を異にするように形成されて軸線方向に並べられた第1の孔部と第2の孔部とを有して第1の孔部と第2の孔部との境界部に段部が形成されている。また端子金具の端子挿通孔内に配置される部分の一部が押し潰されて薄肉部が形成され、該端子金具の薄肉部の一部が切り起こされてランスが形成されている。上記ランスが端子挿通孔内で段部に係止されて端子金具の端子挿通孔からの抜け止めが図られる。
【発明の効果】
【0016】
以上のように、本発明によれば、端子金具の一部を押し潰すことにより薄肉部を形成して、該薄肉部を切り起こすことによりランスを形成するようにしたので、肉厚が厚い金属板を用いて端子金具を形成して、しかもランスの部分に十分な弾力性を持たせることができる。従って、幅方向の両端を折り返すための面倒な工程を行なうことなく、端子金具を製造して、端子金具の製造コストの低減を図ることができ、電動機のコストの低減を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下図面を参照して本発明の好ましい実施形態を詳細に説明する。
図1は本発明に関わる電動機の構成例を示したもので、同図において10は、カップ状に形成されたハウジング本体10Aと、ハウジング本体10Aの開口部を閉じるエンドカバー10Bとを備えたハウジングである。エンドカバー10Bには絶縁樹脂からなるブラシ保持プレート11が取り付けられ、該ブラシ保持プレート11に一体に樹脂製ブッシング12が形成されている。ブッシング12はエンドカバー10Bから外方に突出するように形成されていて、その軸心部には、断面積を異にして軸線方向に並ぶように形成された第1の孔部13aと第2の孔部13bとからなる端子挿通孔13が形成されている。図示の例では、第1の孔部13aの断面積が第2の孔部13bの断面積よりも大きく設定され、断面積が大きい第1の孔部13aと断面積が小さい第2の孔部13bとの境界部に段部14が形成されている。
【0018】
ハウジング本体10Aの周壁部の内周には永久磁石15が取り付けられ、この永久磁石15が所定の極数に着磁されることによりステータの界磁が構成されている。この例では、ハウジング本体10Aと磁石15とによりステータ16が構成されている。
【0019】
ハウジング本体10Aの底壁部の中央に形成されたベアリング保持部20及びエンドカバー10Bの中央部に形成されたベアリング保持部21にそれぞれ軸受22及び23が保持され、これらの軸受により回転軸25が回転自在に支持されている。回転軸25には、ロータ鉄心26が取り付けられ、ロータ鉄心26に設けられたスロットに電機子巻線27が巻回されている。回転軸25にはまた整流子28が取り付けられ、ブラシ保持プレート11に保持されてバネ29により付勢されたブラシ30が整流子28に当接されている。整流子28は図示しない配線により電機子巻線27に接続されている。この例では、回転軸25と、ロータ鉄心26と、該ロータ鉄心に巻回された電機子コイル27とによりロータ31が構成され、ロータ31とステータ16とにより直流電動機が構成されている。
【0020】
ブッシング12の軸心部の端子挿通孔13を貫通させた状態で端子金具32が取り付けられている。本実施形態で用いる端子金具32を図2(A)ないし(C)に拡大して示した。図2(A)は端子金具の正面図、図2(B)は同端子金具の断面図、図2(C)は同端子金具をブッシングの端子挿通孔内に挿入して取り付けた状態を示した断面図である。図示の端子金具32は、その機械的強度を得るために十分な肉厚(例えば0.8mm)を有する金属板を打ち抜くことにより形成されている。本実施形態においては、端子挿通孔13内に配置される部分の一部が押し潰されることにより凹部32aが形成され、凹部32aの底部が薄肉部32bとされている。また薄肉部32bの一部が切り起こされることにより、端子金具の長手方向に対して傾斜した方向に突出した舌片状の突起からなるランス32cが形成されている。端子金具32の後端部には、該端子金具の主要部の幅寸法W1よりも幅広な矩形状または正方形状の拡大端部32dが形成されている。端子金具32の先端部32eは、図示しないコネクタの雌形接触子に接触させられる接触子となっていて、該先端部32eにはテーパが形成されている。
【0021】
図示の端子金具32は、端子挿通孔13の断面積が小さい第2の孔部13bの開口部側から、拡大端部32dがブラシ保持プレート11に当接するまで挿入されてブッシング12に取り付けられる。端子金具13が端子挿通孔に挿入される過程では、最初ランス32cが端子挿通孔の第2の孔部13bの内面により押圧されてその突出量が制限された状態で第2の孔部13bの内面を滑りながら移動し、拡大端部32dがブラシ保持プレート11に(端子挿通孔の開口部周辺に)当接する直前にランス32cが端子挿通孔の第1の孔部32a内に抜け出て図2(C)に示すように段部14に係合する。拡大端部32dとブラシ保持プレート11との係合と、ランス32cと段部14との係合とにより、端子金具32の端子挿通孔13からの抜け止めが図られる。
【0022】
図示の端子金具32を製造する過程を図3ないし図5に示した。図示の端子金具を製造する際には、先ず図3(A),(B)に示すように、端子金具の強度を得るために必要な板厚t2を有する金属板を打ち抜くことにより幅寸法がW1の帯板状の端子素材32″を形成する。次いで、この端子素材32″のランスを形成する部分をプレス加工により押し潰すことにより、図4(A),(B)に示すように凹部32aが形成された半加工品32′を形成し、該凹部32aの底部を肉厚がt1(<t2)の薄肉部32bとする。凹部32aを形成するためのプレス加工を施すことにより、該凹部32aが形成された部分の幅寸法W3が他の部分の幅寸法W1よりも拡大される。この拡大された幅寸法W3が端子挿通孔13に挿入し得る大きさになるように、端子素材の幅寸法W1を設定しておく。
【0023】
次いで、図5(A)及び(B)に示したように、半加工品32′の凹部の底部(薄肉部)を切り起こすことにより舌片状のランス32cを形成し、更に先端部32e(図2参照)にテーパをつける加工を施して端子金具32を完成する。
【0024】
上記のように、本発明においては、端子金具32の一部を押し潰すことにより薄肉部32bを形成して、この薄肉部を切り起こすことによりランス32cを形成するので、肉厚が厚い金属板を用いて端子金具を形成して、しかもランス32cの部分に十分な弾力性を持たせることができる。従って、幅方向の両端を折り返す面倒な工程を行なうことなく端子金具を製造して、端子金具の製造コストの低減を図ることができ、電動機のコストの低減を図ることができる。
【実施例】
【0025】
実施例では、板厚t2が0.8mmで幅寸法W1が2.8mmの端子素材32″を形成し、この端子素材の中間部(端子挿通孔内に配置される部分)にプレス加工を施して底部(薄肉部)の厚みt1が0.4ないし0.5mmの凹部32aを形成した。この場合、拡大部の幅寸法W3は3.1mmであり、凹部32aの両側の枠部の幅寸法W4(図5A参照)は0.65mmであった。これにより、十分な機械的強度を有し、端子挿通孔に挿入する作業に支障を来さない程度に十分な弾力性を有するランスを備えた端子金具を得ることができた。
【0026】
なお端子の曲げに対する強度が余り必要ない場合には、端子金具32を端子挿通孔13に挿入し易くするために、プレス加工により幅寸法が拡大された部分(幅寸法がW3の部分)の一部をカットすることにより幅寸法W3を幅寸法W1にほぼ等しくして、幅方向の出っ張りがないストレートの形状の端子金具を得るようにしてもよい。
【0027】
上記の例では、ブラシ付きの直流電動機に取り付ける端子金具を例にとったが、他の形式の電動機、例えばブラシレス電動機に取り付ける端子金具にも本発明を適用することができるのはもちろんである。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明に係わる端子金具が取り付けられた電動機の構成例を示した断面図である。
【図2】(A)及び(B)はそれぞれ図1に示した実施形態で用いる端子金具の構成例を示した正面図及び縦断面図である。(C)は同端子金具をブッシングの端子挿通孔に挿入して取り付けた状態を示した縦断面図である。
【図3】(A)及び(B)はそれぞれ本発明の実施形態で用いる端子金具を構成する端子素材の要部を示した横断面図及び正面図である。
【図4】(A)及び(B)はそれぞれ本発明の実施形態で用いる端子金具の半加工品の要部を示した正面図及び縦断面図である。
【図5】(A)及び(B)はそれぞれ本発明の実施形態で用いる端子金具の完成品の要部を示した正面図及び縦断面図である。
【図6】(A)及び(B)はそれぞれ従来の端子金具の端子素材を示した側面図及び要部の正面図である。
【図7】(A)及び(B)はそれぞれ従来の端子金具の半加工品を示した側面図及び要部の正面図である。
【図8】(A)及び(B)はそれぞれ従来の端子金具の完成品を示した側面図及び要部の正面図である。
【図9】(A)ないし(E)はそれぞれ従来の端子金具の幅方向の両端を折り返す工程を順に追って示した工程図である。
【符号の説明】
【0029】
10 ハウジング
10A ハウジング本体
10B エンドカバー
11 樹脂製のブラシ保持プレート
12 樹脂製ブッシング
13 端子挿通孔
13a 第1の孔部
13b 第2の孔部
14 段部
15 永久磁石
16 ステータ
25 回転軸
26 ロータ鉄心
27 電機子巻線
31 ロータ
32 端子金具
32a 凹部
32b 薄肉部
32c ランス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動機のハウジングに取り付けられた樹脂製ブッシングの軸心部に設けられた端子挿通孔を貫通させた状態で取り付けられるように形成されていて、前記端子挿通孔内に配置される部分にランスが設けられ、前記ランスが前記端子挿通孔内に設けられた段部に係合して前記端子挿通孔からの抜け止めが図られる電動機用端子金具において、
前記端子挿通孔内に配置される部分の一部が押し潰されて薄肉部が形成され、該薄肉部の一部が切り起こされることにより前記ランスが形成されている電動機用端子金具。
【請求項2】
ロータ及びステータと、前記ロータ及びステータを収容したハウジングと、前記ハウジングに取り付けられた樹脂製ブッシングと、該樹脂製ブッシングの軸心部に設けられた端子挿通孔を貫通させて取り付けられた端子金具とを備えた電動機において、
前記端子挿通孔は、断面積が異なるように形成されて軸線方向に並べられた第1の孔部と第2の孔部とを有して前記第1の孔部と第2の孔部との境界部に段部が形成され、
前記端子金具の前記端子挿通孔内に配置される部分の一部が押し潰されて薄肉部が形成され、
前記端子金具の薄肉部の少なくとも一部が切り起こされてランスが形成され、
前記ランスが前記端子挿通孔内で前記段部に係止されて前記端子金具の前記端子挿通孔からの抜け止めが図られている電動機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−230052(P2006−230052A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−38066(P2005−38066)
【出願日】平成17年2月15日(2005.2.15)
【出願人】(000001340)国産電機株式会社 (191)
【Fターム(参考)】