説明

電動義手

【課題】軽量でかつ製造コストの低い電動義手を提供することを目的とする。
【解決手段】独立して駆動され、骨格部と駆動機構を各々が備える複数の指部と、複数の指部を駆動するアクチュエータと、を備え、骨格部が繊維強化プラスチックから構成される電動義手。この骨格部は、関節部分が繊維強化プラスチックからなるヒンジ機構からなることが好ましい。複数の指部の付け根側を固定、保持する手掌部を備える場合には、手掌部は、独立して動く複数の領域に区分されていることが好ましい。この場合、手掌部は、繊維強化プラスチックから構成され、隣接する前記領域が当該繊維強化プラスチックからなるヒンジ機構により接続されていることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電動義手に関し、特に軽量化できる電動義手に関するものである。
【背景技術】
【0002】
義手は肩又は腕に装着して使用されるものであるから、軽量であることが要求される。電動義手は喪失した箇所と重さが同じくらいであればよいだろうと考えがちであるが、それよりもかなり軽量でなければ、義手を装着した者にとって重いと認識されてしまう。
一方で、電動義手においてもヒトと同じように指が動くことを目指して、種々検討が行われている。ヒトと同じように指が動くようにするためには、指の数はもちろんのこと、ヒトの手と同じ間接部分を持つことが望まれる。したがって、複雑な機構を採用することになり、例えば複合4節リンク機構と遊星歯車装置とを組み合わせた電動義手が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3759916号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
以上のような複雑な機構を備えた電動義手は、構成部品が多いことから、比重の小さいアルミニウムを用いたとしても、軽量化しにくい。
また、構成部品の中で骨格部は、アルミニウム等の金属素材から削り出しにより加工する場合、製造コストが高くなる。
しかも、従来の電動義手は、関節部にベアリングなどの回転機構を用いる必要があり、軽量化の妨げになるばかりではなく、組み立てが容易でないことにより製造コストが高くなるという問題も指摘された。
そこで本発明は、軽量でかつ製造コストの低い電動義手を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、電動義手の骨格部を繊維強化プラスチックで構成することを提案するものである。繊維強化プラスチックは、比重がアルミニウム2.71に対して例えば炭素強化プラスチックが1.6であるから、電動義手の軽量化にとって極めて有効である。
また、繊維強化プラスチックで骨格部を作製する場合、専ら加熱下における曲げ加工により作製できるので、削り出しに比べて加工コストを低減できる。
さらに、繊維強化プラスチックは繰り返し曲げ強度が強いため、繊維強化プラスチックにヒンジ機構を設けてこれを関節部にできる。したがって、回転機構を用いる場合の組立作業が省けるとともに、軽量化にも寄与する。
以上のような利点を有する本発明の電動義手は、独立して駆動され、骨格部と駆動機構を各々が備える複数の指部と、複数の指部を駆動するアクチュエータと、を備え、骨格部が繊維強化プラスチックから構成されることを特徴とする。
骨格部は、関節部分が繊維強化プラスチックからなるヒンジ機構からなることが好ましい。
【0006】
また本発明の電動義手において、複数の指部の付け根側を固定、保持する手掌部を備えることができ、この場合、手掌部は、独立して動く複数の領域に区分されていることが好ましい。この手掌部は、ヒトの手外観の模倣及びヒトの手の把持動作の模倣をする意義をも有する。
ヒトの手が物体を掴む場合に、手掌部は物体を包み込むように動作するが、高剛性な板体で手掌部を構成した電動義手は、ヒトの手のように物体を包み込む動作ができない。そこで、手掌部を独立して動く複数の領域に区分することにより、ヒトの手と同じように物体を包み込む動作ができる。
この場合、手掌部を繊維強化プラスチックから構成し、さらに、隣接する領域を繊維強化プラスチックからなるヒンジ機構により接続することが好ましい。そうすると、板状の繊維強化プラスチックにヒンジ機構を設けるだけで、複数の領域に区分された手掌部を作製できるので、手掌部の作製が容易である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、骨格部を繊維強化プラスチックから構成するので、金属で骨格部を構成する従来の電動義手に比べて軽量化できるとともに、専ら加熱下における曲げ加工により作製できるので、金属の削り出しに比べて加工コストを低減できる。
さらに、繊維強化プラスチックは繰り返し曲げ強度が強いため、繊維強化プラスチックにヒンジ機構を設けてこれを関節部にすることができ、回転機構を用いる従来の電動義手よりも組立作業の負荷が軽減されるとともに、軽量化にも寄与する。
さらに本発明によれば、独立して動く複数の領域に手掌部を区分することで、ヒトの手と同じように物体を包み込む動作ができるので、安定して物体を把持できる。そしてこの手掌部を繊維強化プラスチックから構成し、さらに、隣接する領域が繊維強化プラスチックからなるヒンジ機構により接続すれば、実質的に一つの部材で手掌部を容易に作製できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本実施の形態における電動義手を掌側から示した図である。
【図2】本実施の形態における電動義手を手の甲側から示した図である。
【図3】本実施の形態における電動義手を指の骨格部材を示す斜視図である。
【図4】本実施の形態における電動義手の手掌部の一例を示し、(a)が平面図、(b)が(a)の4b−4b矢視断面図である。
【図5】本実施の形態における電動義手の手掌部の他の例を示し、(a)が平面図、(b)が(a)の5b−5b矢視断面図である。
【図6】ヒトの手で物体を掴む際の手の動きを示し、(a)は手が開いた状態を示し、(b)は物体を掴んだ状態を示す。
【図7】本実施の形態における骨格部の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面に示す実施の形態に基づいて本実施の形態における電動義手1を説明する。
よく知られているように、ヒトの手は手首関節より指先までの部分を言う。そして、手は指部と手掌部とに大別され、指は母指と4指(示指、中指、環指、小指)からなる。また、各指の骨は、中手骨、基節骨、中節骨及び末節骨からなる(ただし、母指は中節骨を有さず)。
【0010】
電動義手1は、このヒトの手に対応するように、指部10と手掌部20とを備える。
指部10は、母指部11、示指部12、中指部13、環指部14及び小指部15からなる。母指部11は、手首側から中手骨部11a、基節骨部11b及び末節骨部11dを備えている。同様に、示指部12は中手骨部12a、基節骨部12b、中節骨部12c及び末節骨部12dを、中指部13は中手骨部13a、基節骨部13b、中節骨部13c及び末節骨部13dを、環指部14は中手骨部14a、基節骨部14b、中節骨部14c及び末節骨部14d、小指部15は中手骨部15a、基節骨部15b、中節骨部15c及び末節骨部15dを備えている。各指部11〜15の構造については、後述する。
【0011】
平板状の樹脂からなる手掌部20は、手の甲側に配置される。
手掌部20には、各指部11〜15の中手骨部11a、中手骨部12a、中手骨部13a、中手骨部14a及び中手骨部15aが、ボルト等の適宜の締結手段により固定される。
手掌部20には、各指部11〜15を独立して駆動させるアクチュエータ31〜35が固定される。アクチュエータ31〜35としては、出力軸31o〜35oが往復直線運動するリニアモータを用いるのが好ましい。分解能がサブミクロンオーダのリニアモータを用いれば、各指部11〜15を高精度に駆動させることができる。
【0012】
各指部11〜15は、骨格部と、駆動機構とを備えている。
骨格部の一例を、示指部12の基節骨部12Fb、中節骨部12Fc及び末節骨部12Fdに対応する骨格部12Fについて図3に示している。図3に示すように、基節骨部12Fb、中節骨部12Fc及び末節骨部12Fdは、断面がコの字状に形成されている。図3には、一部しか描いていないが、断面がコの字状の基節骨部12Fb、中節骨部12Fc及び末節骨部12Fdの空隙部には、駆動機構を構成するリンク節12Lが配置される。
【0013】
骨格部12Fは、繊維強化プラスチックから構成される。
繊維強化プラスチックは、プラスチック(樹脂)と弾性率の高い繊維状の強化材との複合材料からなる。強化材としては、ガラス繊維、炭素繊維の他、強度の高い樹脂繊維であるアラミド繊維(例えばケブラー(登録商標))、ポリエチレン繊維(例えばダイニーマ(登録商標))を用いることが好ましい。強化材としての繊維の混入方法には大きく2種類ある。細かく切断した繊維を均一にまぶす方法と、繊維に方向性を持たせたままプラスチックに浸潤させる方法とがそれである。本発明は、いずれの方法であるかを問わない。本発明において、繊維強化プラスチックのマトリックスとしては、不飽和ポリエステル等の熱硬化性樹脂が用いられるが、その他に、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、フェノール樹脂を使用できる。
【0014】
繊維強化プラスチックは、繊維の配列方向の引張には強いが、繊維と直角方向の引張には弱い。つまり、繊維強化プラスチックは、強度に異方性がある。そのために、通常は板状の繊維の層を、繊維方向が異なるように複数枚重ねる(積層する)ことが行なわれる。それでもなお、ある層と上下の層との接着は問題となる(層間剥離、デラミネーション)ため、繊維層間を縫うステッチング、あるいは繊維の三次元化といった手法が取られている。本発明は、これらの手法を採用した繊維強化プラスチックを用いることができる。
【0015】
繊維強化プラスチックにおける成型方法としては、型に繊維状の強化材を敷き、そこに硬化剤を混合した樹脂を脱泡しながら多重積層するハンドレイアップ法、スプレーアップ法が知られており、その他、あらかじめ強化材と樹脂を混合したシート状のものを金型で圧縮成型するプレス法、インジェクション成形の様に繊維状の強化材を敷き詰めた合わせ型に樹脂を注入する方法、繊維状の強化材とマトリクス(接着剤)を予め馴染ませてある部材(プリプレグなど)を大型の窯(オートクレーブ)で「焼き固める」方法等、を適用できる。
【0016】
繊維強化プラスチックから骨格部(12F)を作製する場合、シート状とされた繊維強化プラスチックに打ち抜き等の加工を施して所定の形状に成形した後に、図3に示す形状に折り曲げた状態で加熱、硬化させることができる。また、図3に示す形状の成形体を射出成形により作製し、その後加熱、硬化させることもできる。いずれの方法であっても、削り出しよりも加工コストを低減できる。
【0017】
骨格部12Fは、基節骨部12Fbと中節骨部12Fcの間の近位指節関節に対応する箇所にヒンジ機構12Fhp、中節骨部12Fcと末節骨部12Fdの間の遠位指節関節に対応する箇所にヒンジ機構12Fhdが設けられている。ヒンジ機構12Fhpは基節骨部12Fb及び中節骨部12Fcよりも断面積が小さく設定され、基節骨部12Fb及び中節骨部12Fcはヒンジ機構12Fhpを中心に所定の範囲で回転可能であり、また、ヒンジ機構12Fhdは中節骨部12Fc及び末節骨部12Fdよりも断面積が小さく設定され、中節骨部12Fc及び末節骨部12Fdはヒンジ機構12Fhdを中心に所定の範囲で回転可能である。
以上では、示指部12について説明したが、他の指部についても、同様に繊維強化プラスチックから構成できることは言うまでもない。
【0018】
駆動機構は、アクチュエータ31〜35の直線駆動力を、各指11〜15の屈曲伸展運動に変換できるものであれば具体的な構造は限定されないが、リンク機構、特に4節リンク機構を用いれば比較的簡易な構造にすることができる。なお、前述した特許文献1に電動義手にとって好ましい4節リンク機構が記載されている。
【0019】
以上説明した電動義手1は、指の骨格部が繊維強化プラスチックから構成されている。繊維強化プラスチックは、金属に比べて比重が小さいので、電動義手1は軽量化できる。しかも繊維強化プラスチックから構成される指の骨格部は、シート状のものを加熱硬化するか、射出成形されたものを加熱硬化することにより作製できるので、削り出しにより骨格部を作製するのに比べて加工・製作コストを低減できる。さらに電動義手1の指の骨格部は、関節部分に繊維強化プラスチックからなるヒンジ機構を備えており、ベアリング等の回転機構を組み付ける必要がないので、組立作業の負荷が軽減されるとともに、軽量化にも寄与できる。
【0020】
次に、手掌部20の改良について説明する。
以上説明した電動義手1は、手掌部20が高剛性な板体から構成されている。この手掌部20は、電動義手1で物体を掴む場合に不利がある。つまり、手が物体を掴む際には、図6(a)、(b)に示すように、手掌は扁平な状態から物体を包み込むように湾曲するが、高剛性な手掌部20ではこのような動作ができない。したがって、電動義手1は、物体の形状によっては安定した把持が行えない場合がある。
【0021】
そこで、図4に示す手掌部120を提案する。
手掌部120は、シート状の繊維強化プラスチックから構成されており、第1の領域121と第2の領域122に区分されている。例えば、第1の領域121は母指部11及び示指部12に対応し、母指部11の中手骨部11a及び示指部12の中手骨部12aを固定し、また、第2の領域122は中指部13、環指部14及び小指部15に対応し、中指部13の中手骨部13a、環指部14の中手骨部14a及び小指部15の中手骨部15aを固定する。
【0022】
第1の領域121と第2の領域122の間に、ヒンジ機構123を備えている。ヒンジ機構123は、第1の領域121及び第2の領域122に比べて肉厚を薄くして剛性を下げている。したがって、第1の領域121と第2の領域122は、図4(b)に矢印で示すように、ヒンジ機構123を中心にして各々独立して回転運動することができる。そうすることにより、手掌部120を設けた電動義手は、物体を安定して把持することができる。
【0023】
区分される領域は、手掌部120のように2つに限られるものではなく、図5に示される手掌部130のように、第1の領域131、第2の領域132及び第3の領域133と3つの領域、さらにそれ以上の数の領域に区分することもてきる。図5に示される手掌部130は、第1の領域131と第2の領域132の間に第1ヒンジ機構134、第1の領域131と第3の領域133の間に第2ヒンジ機構135及び第2の領域132と第3の領域133の間に第3ヒンジ機構136を備え、第1の領域131と第2の領域132、第1の領域131と第3の領域133及び第2の領域132と第3の領域133は、その間のヒンジ機構134〜136を中心にして各々独立して回転運動することが
できる。
【0024】
次に、よりヒトの手に近い動作を実現するための電動義手の骨格の構成を図7に基づいて説明する。
実際のヒトの手掌部には5本の中手骨が存在する。これらは各指に接続している。また、5本の中手骨は8個の手根骨に接続している。5本の中手骨は、骨間筋によって接続されている。これに基づく骨格の構成例を図7(a)、(b)に示す。
図7(a)、(b)ともに、指部10と手掌部20が、白抜きで示される剛体RBで構成される骨と、グレーで示される可撓体FBで構成される接続(関節)部で構成されている点で共通する。その中で、図7(a)は手掌部20の接続部を手掌部20の長さ方向に分割して配置しているのに対して、図7(b)は接続部を手掌部20の長さ方向に連続して配置している点で相違するが、両方ともに、ヒトの手に近い動作を実現できる。
【0025】
図7(a)、(b)に示される骨格部も、上述した例と同様に、剛体RBの部分は繊維強化プラスチックの有する剛性を利用しつつ、可撓体FBからなる接続部は剛体RBの部分より繊維強化プラスチックの肉厚を薄くしたヒンジ機構とすればよい。
【0026】
以上説明した電動義手1はヒトの手をできる限り忠実に再現したものであるが、本発明はこれに限らない。骨格部と駆動機構を各々が備える複数の指部と、この指部を駆動するアクチュエータと、を備える電動義手に広く適用することができる。
また、骨格部は、断面がコの字状に限るものでなく、ヒトの骨と同様又は類似する形態であってもよいし、他の形態にすることもできる。
これ以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施の形態で挙げた構成を取捨選択し、あるいは他の構成に適宜変更することが可能である。
【符号の説明】
【0027】
1…電動義手
10…指部、11…母指部、12…示指部、13…中指部、14…環指部、15…小指部
11a,12a,13a,14a,15a…中手骨部
11b,12b,13b,14b,15b…基節骨部
12c,13c,14c,15c…中節骨部
11d,12d,13d,14d,15d…末節骨部
12F…骨格部、12L…リンク節
12Fhd,12Fhp,123,134,135,136…ヒンジ機構
20…手掌部
31〜35…アクチュエータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
独立して駆動され、骨格部と駆動機構を各々が備える複数の指部と、
複数の前記指部を駆動するアクチュエータと、を備え、
前記骨格部が繊維強化プラスチックから構成されることを特徴とする電動義手。
【請求項2】
前記骨格部は、関節部分が前記繊維強化プラスチックからなるヒンジ機構からなることを特徴とする請求項1に記載の電動義手。
【請求項3】
複数の前記指部の付け根側を固定、保持する手掌部を備え、
前記手掌部は、独立して動く複数の領域に区分されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の電動義手。
【請求項4】
前記手掌部は、繊維強化プラスチックから構成され、隣接する前記領域が当該繊維強化プラスチックからなるヒンジ機構により接続されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の電動義手。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−19636(P2011−19636A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−166142(P2009−166142)
【出願日】平成21年7月14日(2009.7.14)
【出願人】(304036743)国立大学法人宇都宮大学 (209)
【Fターム(参考)】