説明

電動車椅子の制御装置

【課題】駆動キャスタを備える電動車椅子の制御装置において、電動車椅子の移動方向の変更における応答性を高めることができる制御装置を提供する。
【解決手段】制御装置10が制御する電動車椅子は、駆動キャスタ3と、駆動キャスタ3の駆動方向を検出する駆動方向検出手段103と、目標移動方向を指示する移動方向指示手段8とを備える。そして、制御装置10は、電動モータ70に制御電流を供給する出力手段22と、駆動方向と目標移動方向との差異である差分角度の大きさが90以上である場合には、差分角度に180°を加減算した角度を回転角度とし、車輪の方向を回転角度分回転させることを出力手段22に指令するとともに、車輪(91,92)の回転駆動の方向を目標移動方向が指示される前と逆にすることを出力手段22に指令するキャスタ動作指令手段16を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電動車椅子の制御装置に関し、特に、電動車椅子に備わる駆動キャスタの回転位置を制御する制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、高齢化社会がさらに進行してきており、道路や病院のみならず一般住居内においても、電動車椅子が利用され始めている。一般住居内は移動スペースが狭いため、大きな回転半径で旋回移動することが困難であり、その場で、電動車椅子自体を回転させる動作が求められる。また、一般住居内で利用される電動車椅子は、例えば、台所での家事において、前後方向のみならず左右方向など全方向に移動することが求められている。そこで、特許文献1から3に示されるように、移動の自由度を拡張し全方向に移動できる電動車椅子の提案がなされている。
【0003】
上記に示す電動車椅子は、椅子が上方に取り付けられているベース部材と、ベース部材に駆動キャスタが取り付けられている。この駆動キャスタは、車輪が軸支されている支軸がベース部材に回転自在に取り付けられ、所望の移動方向に車輪の駆動方向を向けることができる。そして、ジョイスティックにより乗客によって指示される移動方向に、電動車椅子の制御装置により車輪の駆動方向が向けられ、その方向において車輪が回転駆動させることにより電動車椅子は、乗客の意図する方向に移動する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−136837号公報
【特許文献2】特開2008−212272号公報
【特許文献3】特開2008−213570号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のような電動車椅子において、例えば、左右交互に電動車椅子を移動させる場合のように、移動方向を大きく変更するときには、移動方向に向けて駆動キャスタの車輪の駆動方向を左右に大きく回転させなければならない。このように車輪の駆動方向を大きく回転させる場合、車輪の駆動方向を短い時間で変更することができず、電動車椅子の移動方向の変更における応答性を高めることができない。
【0006】
そこで、この発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、駆動キャスタを備える電動車椅子の制御装置において、電動車椅子の移動方向の変更における応答性を高めることができる制御装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明の電動車椅子の制御装置は、椅子が上方に設けられるベース部材と、前記ベース部材に取付けられ、電動モータにより回転駆動する車輪の駆動方向を所望の移動方向に向けることができる駆動キャスタと、前記駆動キャスタの前記車輪の駆動方向を検出する駆動方向検出手段と、目標移動方向を指示する移動方向指示手段とを備え、前記駆動キャスタの前記車輪の回転駆動により移動する電動車椅子、を制御する制御装置において、電動モータに制御電流を供給する出力手段と、前記駆動方向と前記目標移動方向との差異である差分角度の大きさが予め定められた角度未満である場合には、前記差分角度を回転角度とし、前記車輪の方向を前記回転角度分回転させ、もって
新たな車輪の方向とすることを前記出力手段に指令するとともに、前記車輪の回転駆動の方向を前記目標移動方向が指示される前と同じにすること前記出力手段に指令し、前記差分角度の大きさが予め定められた角度以上である場合には、前記差分角度に略180°を加減算した角度を前記回転角度とし、前記車輪の方向を前記回転角度分回転させ、もって前記新たな車輪の方向とすることを前記出力手段に指令するとともに、前記車輪の回転駆動の方向を前記目標移動方向が指示される前と逆にすることを前記出力手段に指令するキャスタ動作指令手段と、を備えることを特徴とする。そして、前記予め定められた角度は、80°以上100°以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、駆動キャスタの駆動方向に対する目標移動方向の差異である差分角度が、80°から100°以上である場合、すなわち、駆動方向に対する目標移動方向の差異が略90°以上である場合には、差分角度から略180°を加算または減算した角度を回転角度とする。差分角度が略90°以上であるときに差分角度から略180°を加減産した角度である回転角度は、略90°以下となる。そのため、この回転角度分、車輪の方向を回転させることにより素早く車輪の方向を変更することができる。
【0009】
また、回転角度は差分角度から略180°を加減算した角度であり、この回転角度分、車輪の方向を回転した場合には、差分角度分回転させた場合に対し同じ向きに車輪の方向は向けられる。そして、車輪の回転駆動の方向を逆とし、この方向に車輪を回転駆動させることにより、車輪の駆動方向を乗客が意図する移動方向に向けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施の形態における電動車椅子の正面図である。
【図2】本発明の実施の形態における電動車椅子の底面図である。
【図3】本発明の実施の形態における駆動キャスタの一部断面図である。
【図4】本発明の実施の形態における電動車椅子の制御装置のブロック図である。
【図5】本発明の実施の形態における駆動キャスタの回転角度を説明する図である。
【図6】本発明の実施の形態における駆動キャスタの回転角度を説明する図である。
【図7】本発明の実施の形態におけるキャスタ動作指令手段での情報の処理を示すフローチャートである。
【図8】ジョイスティックの操作と駆動キャスタの回転を説明する図である。
【図9】ジョイスティックの操作と駆動キャスタの回転を説明する図である。
【図10】停止位置への駆動キャスタの回転を説明する図である。
【図11】駆動キャスタの停止位置を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に、この発明の実施の形態である駆動キャスタを用いた電動車椅子について、図面に基づき説明する。図1は、電動車椅子の正面図であり、図2は、電動車椅子の底面図であり、図3は、差動式キャスタの一部断面図である。
【0012】
図1から図3に示すように、電動車椅子1は、金属の板材よりなるベース部材2と、ベースプレート2に下方に向けて取り付けられている第1から第3駆動キャスタ(3,4,5)と、ベース部材2に設けられた収容部2a内に設置されているバッテリ9および制御装置10と、ベース部材2の上方に立設している脚部材(6,6)と、脚部材(6,6)に座部7aにて取り付けられている椅子7と、を備える。椅子7の座部7aからは背もたれ7bが一体的に設けられ、背もたれ7bの両側には肘掛(7c,7d)が一体的に設けられている。そして、一方の肘掛7cには、移動方向指示手段としてのジョイスティック8が取り付けられている。
【0013】
図2に示すように、ベース部材2において、第1駆動キャスタ3は後方中央に配置され、第2駆動キャスタ4は前方左側に配置され、第3差動式キャスタ5は前方右側に配置されており、第1から第3駆動キャスタ(3,4,5)は、ベース部材2に三角形を形成する位置に配置されている。
【0014】
次に、図4に基づき、電動車椅子1に備えられている第1駆動キャスタ3について説明する。なお、第2および第3駆動キャスタ(4,5)の構造は、第1駆動キャスタ3の構造と同一であり、第1駆動キャスタ3についてのみ説明し、第2および第3駆動キャスタ(4,5)の各構成部品については、第1駆動キャスタ3の構成部品と同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0015】
第1駆動キャスタ3は、ベース部材2に下方から取り付けられる取付け部材51と、取付け部材51の内周51aに配置されている軸受(57,57)と、軸受(57,57)の内側に配置され、取付け部材51に対し回転自在に支持されているスリップリングフォルダ52と、スリップリングフォルダ52に取り付けられ、スリップリングフォルダ52を介して取付け部材51に対し回転自在に支持されている支軸53と、支軸53の一端53aに連結ピン55により、傾斜自在に取付けられている連結棒54と、連結棒54の両端に取り付けられている一対の減速機付きモータ(60,60)と、減速機付きモータ(60,60)の出力軸(86,86)にそれぞれ連係された一対の車輪(91,92)と、を備える。
【0016】
さらに、第1駆動キャスタ3は、スリップリングフォルダ52内に設けられているスリップリング59と、回転検出装置100と、スリップリング59および回転検出装置100を内包するカバー体Cとを有する。スリップリング59の入力部59aには、制御装置10からの制御電流を供給する給電線L1が接続され、スリップリング59の出力部59bには、減速機付きモータ60にスリップリンク59を介して制御電流を供給する供給線L2が接続されている。このように、スリップリング59を介して供給線(L1,L2)を配策することにより、第1駆動キャスタ3がベース部材2に対して回転して、供給線(L1,L2)が捩れることがない。
【0017】
回転検出装置100は、スリップリングフォルダ52の外周に一体的に取り付けられているリングギヤ101と、リングギヤ101と噛合するピニオンギヤ102と、ピニオンギヤ102が取り付けられ取付け部材51に固定されている駆動方向検出手段としてのエンコーダ103とを備える。スリップリングフォルダ52は、支軸53とともにベースプレート2に取り付けられている取付け部材51に対し回転し、スリップリングフォルダ52に取付けられているリングギヤ101は、ベースプレート2に対する支軸53の回転と同一の回転を行う。このリングギヤ101の回転を、ピニオンギヤ102を介してエンコーダ103で検出することにより、第1駆動キャスタ3の車輪90の駆動方向である回転位置を示す支軸53の回転位置が、エンコーダ103により検出される。
【0018】
減速機付きモータ60は、電動モータ70および減速機80を備える。電動モータ70は、モータハウジング73と、モータハウジング73内に回転自在に配置され、モータ軸72を有する回転子71とを備える。そして、モータハウジング73が連結棒54の端部に取り付けられているモータフランジ56に取り付けられることにより、電動モータ70は、連結棒54を介して支軸54に傾斜自在に連係される。また、減速機80は、電動モータ70のモータ軸72に連結されている。
【0019】
一対の減速機付きモータ(60,60)の出力軸(86,86)には、一対の車輪(91,92)がそれぞれ連係されている。車輪90は、出力軸86に取り付けられている第1ホイール93と、第1ホイール93の外周にネジ95により一体的に取付けられ、弾性
を有するリング体96と、第1ホイール93の開口を覆う第2ホイール94とを備えている。そして、第1ホイール93は、モータフランジ56の外周に装着されている軸受(58,58)に回転自在に支持され、これにより車輪90は、減速機付きモータ60の出力軸86とともに回転自在な構成となっている。
【0020】
次に、図4から図6に基づき本発明の実施における電動車椅子1の制御装置10について説明する。制御装置10は、角度読込手段11、操作量読込手段12、目標角度演算手段13、差分角度演算手段14、メモリ15、キャスタ動作指令手段16、タイマ17、操作状態判定手段18、停止位置指令手段19、選択手段20、比較手段21、出力手段22を備える。
【0021】
角度読込手段11には、車輪(91,92)の駆動方向を検出するエンコーダ(103,103,103)からの信号が供給され、角度読込手段11は、この信号から現時点での駆動方向θを求める。操作量読込手段12には、乗客が移動したい方向に操作するジョイスティック(移動方向指示手段)8からのxy信号が供給され、操作量読込手段12は、このxy信号を読み込む。そして、目標角度演算手段13は、このxy信号から合成されるベクトルの方向を求め、このベクトルの方向を目標移動方向φとする。
【0022】
差分角度演算手段14には、角度読込手段11から駆動方向θに対応する信号と、操作量読込手段12から目標移動方向φに対応する信号が供給される。差分角度演算手段14においては、駆動方向θに対応する値に対し目標移動方向φに対応する値が「大きい」か「小さい」かにより処理の方法が異なり、図5は、駆動方向θに対応する値に対し目標移動方向φに対応する値が「大きい」場合の処理を示し、図6は、駆動方向θに対応する値に対し目標移動方向φに対応する値が「小さい」場合の処理を示す。
【0023】
そして、図5に示すように、駆動方向θに対応する値に対し目標移動方向φに対応する値が「大きい」場合には、駆動方向θに対する目標移動方向φの差異である差異角度εは「正」の値として処理される(ε>0)。また、図6に示すように、駆動方向θに対応する値に対し目標移動方向φに対応する値が「小さい」場合には、駆動方向θに対する目標移動方向φの差異である差異角度εは「負」の値として処理される(ε<0)。
【0024】
メモリ15には、基準差分角度として、「+0°」、「+90°」、「+180°」、「+270°」、「+360°」、「−0°」、「−90°」、「−180°」、「−270°」、「−360°」に対応するデータが記憶されている。
【0025】
次に、キャスタ動作指令手段16の動作について、図5、図6および図7に基づき説明する。ここで、図7は、キャスタ動作指令手段16での情報の処理を示すフローチャートである。キャスタ動作指令手段16には、差分角度演算手段14から差異角度εに対応する信号が供給され、この差異角度εに対応する信号とメモリ15に記憶されているデータとを対比し、回転角度ξと車輪90の回転駆動の方向を決定する。なお、回転角度ξは、現時点で電動車椅子1の移動方向に向けられている車輪の方向を、目標移動方向に向ける角度をいう。
【0026】
まず、図5および図7に基づき差分角度εが「正」の場合について説明する(ε>0)。キャスタ動作指令手段16での処理が開始されると(S1)、差分角度εに対応する信号と、メモリ15に記憶されている基準差分角度(「+0°」、「+90°」、「+180°」、「+270°」、「+360°」)に対応するデータとが対比される(S2)。
【0027】
図5(a1)に示すように、差分角度εが「+0°」以上「+90°」未満であると判断された場合には、すなわち、差分角度εの大きさが「90°」未満である場合には(|
ε|<90°)、キャスタ動作指令手段16は、差分角度εを回転角度ξとすることを決定するとともに(S3)、車輪90の回転駆動の方向をジョイスティック8から目標移動方向θが指示される前と「同じ」にすることを決定する(S4)。
【0028】
また、図5(b1)(c1)に示すように、差分角度εが「+90°」以上「+270°」以下であると判断された場合には、すなわち、差分角度εの大きさが「90°」以上「270°」以下である場合には(90°≦|ε|≦270°)、キャスタ動作指令手段16は、差分角度εから180°を減算した角度を回転角度ξとすることを決定するとともに(S5)、車輪90の回転駆動の方向をジョイスティック8から目標移動方向θが指示される前と「逆」にすることを決定する(S6)。
【0029】
また、図5(d1)に示すように、差分角度εが「+270°」を超え「+360°」以下であると判断された場合には、キャスタ動作指令手段16は、差分角度εから360°を減算した角度を回転角度ξとすることを決定するとともに(S7)、車輪90の回転駆動の方向をジョイスティック8から目標移動方向θが指示される前と「同じ」にすることを決定する(S8)。
【0030】
次に、図6および図7に基づき差分角度εが「負」の場合について説明する(ε<0)。上記と同様に、キャスタ動作指令手段16での処理が開始されると(S1)、差分角度εに対応する信号と、メモリ15に記憶されている基準差分角度(「−0°」、「−90°」、「−180°」、「−270°」、「−360°」)に対応するデータとが対比される(S2)。
【0031】
図6(a2)に示すように、差分角度εが「−90°」を超え「−0°」以下であると判断された場合には、すなわち、差分角度εの大きさが「90°」未満である場合には(| ε|<90°)、キャスタ動作指令手段16は、差分角度εを回転角度ξとすることを決定するとともに(S3)、車輪90の回転駆動の方向をジョイスティック8から目標移動方向θが指示される前と「同じ」にすることを決定する(S4)。
【0032】
また、図6(b2)(c2)に示すように、差分角度εが「−270°」以上「−90°」以下であると判断された場合には、すなわち、差分角度εの大きさが「90°」以上「270°」以下である場合には(90°≦|ε|≦270°)、キャスタ動作指令手段16は、差分角度εに180°を加算した角度を回転角度ξとすることを決定するとともに(S9)、車輪90の回転駆動の方向をジョイスティック8から目標移動方向θが指示される前と「逆」にすることを決定する(S10)。
【0033】
また、図6(d2)に示すように、差分角度εが「−360°」以上「−270°」未満であると判断された場合には、キャスタ動作指令手段16は、差分角度εに360°を加算した角度を回転角度ξとすることを決定するとともに(S7)、車輪90の回転駆動の方向をジョイスティック8から目標移動方向θが指示される前と「同じ」にすることを決定する(S8)。
【0034】
ここで、図5(d1)と図6(a2)を対比すると、実質上、差分角度εの値は同じである。従って、上記にて、図6(a2)において説明したように、図5(d1)も差分角度εの大きさが「90°」未満である場合(| ε|<90°)に相当し、差分角度εを回転角度ξとすることと等価となる。同様に、図6(d2)と図5(a1)を対比すると、実質上、差分角度εの値は同じである。従って、上記にて、図5(a1)において説明したように、図6(d2)も差分角度εの大きさが「90°」未満である場合(| ε|<90°)に相当し、差分角度εを回転角度ξとすることと等価となる。
【0035】
以上より、キャスタ動作指令手段16は、差分角度εの大きさ(|ε|)が90°未満である場合には、差分角度εを回転角度ξとすることを決定するとともに、車輪の回転駆動の方向を目標移動方向θが指示される前と「同じ」にすること決定し、差分角度の大きさ(|ε|)が90°以上である場合には、差分角度εに180°を加減算した角度を回転角度ξすることを決定するとともに、車輪90の回転駆動の方向を目標移動方向θが指示される前と「逆」にすること決定する。そして、後述するように、決定された回転角度ξおよび回転駆動の方向が出力手段22に向けて指令される。なお、本実施の形態では、差分角度εの大きさ(|ε|)が90°以上であるか否かにより制御方向を変更したが、90°に限られるものでないことは言うまでもなく、80°から100°以上であるか否かにより御方向を変更してもよい。
【0036】
次に、図4に基づき、タイマ17、操作状態判定手段18、停止位置指令手段19、選択手段20、比較手段21、出力手段21について説明する。
【0037】
操作状態判定手段18には、乗客がジョイスティック(移動方向指示手段)8を移動したい方向に操作したときに形成されるxy信号が操作量読込手段12から供給される。そして、操作状態判定手段18は、このxy信号が供給されている状態において、xy信号が供給されていることを示す信号を、予め定められた周期ごとにタイマ17に供給する。タイマ17は、操作状態判定手段18からの信号が供給されるたびごとに逐次カウント値をリセットするとともに更にカウント値のインクリメント動作を行う。
【0038】
そして、操作状態判定手段18に操作量読込手段12からxy信号が供給されず、xy信号が供給されていることを示す信号が、操作状態判定手段18からタイマ17に所定の時間以上供給されない場合には、タイマ17はカウントアップし、カウントアップしたことを示す信号がタイマ17から操作状態判定手段18に供給される。このように、カウントアップしたことを示す信号がタイマ17から操作状態判定手段18に供給されると、操作状態判定手段18は停止信号を出力する。なお、本実施の形態においては、タイマ17がカウントアップする時間は「4秒」に設定されている。
【0039】
停止位置指令手段19は、操作状態判定手段18から停止信号が供給されると駆動キャスタ(3,4,5)の停止位置を示す停止位置信号を出力する。この停止位置信号に示される駆動キャスタ(3,4,5)の停止位置は、それぞれの駆動キャスタ(3,4,5)の車輪90の方向が互いに中心を向く回転位置、すなわち、隣接する駆動キャスタ(3,4,5)の車輪90の方向の角度が互いに120°となる回転位置に設定されている。
【0040】
選択手段20には、キャスタ動作指令手段16からの回転角度ξおよび回転駆動の方向に関する指令信号と、停止位置指令手段19からの停止位置信号が供給される。そして、停止位置指令手段19からの停止位置信号が選択手段20に供給された場合には、この停止位置信号が優先して選択され、停止位置指令手段19からの停止位置信号が比較手段21を経由して、電動モータ70に制御電流を供給する出力手段22に供給される。
【0041】
比較手段21には、角度読込手段11から現時点での車輪90の駆動方向θに対応する信号が供給されており、停止位置指令手段19からの停止位置信号と駆動方向θに対応する信号とが対比され、車輪90の駆動方向θが停止位置指令手段19からの停止位置信号と一致するまで停止位置信号が出力手段22に供給される。
【0042】
一方、停止位置指令手段19からの停止位置信号が選択手段20に供給されない場合には、キャスタ動作指令手段16からの指令信号が選択手段20で選択され、比較手段21を経由して、出力手段22に供給される。比較手段21では、キャスタ動作指令手段16から出力される回転角度ξに対応する信号と駆動角度θに対応する信号が比較され、車輪
90が回転角度ξ分回転するまでキャスタ動作指令手段16からの指令信号が出力手段22に供給される。この指令信号により出力手段22は電動モータ70に制御電流を供給し、差動キャスタ(3,4,5)の車輪90の方向を回転角度ξ分回転させ、もって車輪90の方向を新たな車輪90の方向とする。そして、キャスタ動作指令手段16からの指令信号に対応した回転駆動の方向に車輪90を回転駆動させる。
【0043】
次に、図8および図9に基づき本発明の制御装置10の有する第1の効果について説明する。図8は、図5(a1)(d1)および図6(a2)(d2)にて示す、差分角度εの大きさが90°未満(|ε|<90°)のときの駆動キャスタ(3,4,5)の動作を示す。一方、図9は、図5(b1)(c1)および図6(b2)(c2)にて示す、差分角度εの大きさが90°以上(|ε|≧90°)のときの駆動キャスタ(3,4,5)の動作を示す。
【0044】
図8に示すように、差分角度εの大きさが90°未満(|ε|<90°)のときは、差分角度εを回転角度ξとし、差分角度εに相当する分だけ駆動キャスタ(3,4,5)の車輪(91,92)の方向を回転させる。このとき、回転角度ξは、90°未満であるため車輪(91,92)の方向を目的とする方向に回転させるのに多くに時間を要さない。そして、車輪(91,92)の回転駆動の方向を目標移動方向が指示される前と同じ方向とすることで、目標移動方向に速やかに電動車椅子1を移動させることができる。
【0045】
一方、図9に示すように、差分角度εの大きさが90°以上(|ε|≧90°)のときは、差分角度εに180°を加減算した角度を回転角度ξとし、回転角度ξに相当する分だけ駆動キャスタ(3,4,5)の車輪(91,92)の方向を回転させる。このとき、回転角度ξは、差分角度εに180°を加減算した角度であり、90°未満に設定されるため車輪(91,92)の方向を目的とする方向に回転させるのに多くに時間を要さない。そして、車輪(91,92)の回転駆動の方向を目標移動方向が指示される前と逆の方向とすることで、目標移動方向に速やかに電動車椅子1を移動させることができる。
【0046】
次に、図10および図11に基づき本実施の形態の制御装置10の有する第2の効果について説明する。上記のように、乗客によるジョイスティック8の操作が所定の時間以上ない場合、すなわち、電動車椅子1が操作されない場合には、図10に示すように駆動キャスタ(3,4,5)は停止位置に向けて車輪90の方向を回転するよう指示される。そして、図11に示す位置に駆動キャスタ(3,4,5)の車輪90の方向は向けられる。
【0047】
同図に示すように、駆動キャスタ(3,4,5)の停止位置は、互いの車輪90の向きが120°の角度で交差する方向となっている。そのため、駆動キャスタ(3,4,5)の車輪90にはブレーキ機構が備わっていないにも拘わらず、電動車椅子1が操作されないときに外部の様々な方向から力が加わったとしても、電動車椅子1が移動されることがない。つまり、ブレーキ機構を備えることなくして、電動車椅子1を安定して停止状態に保つことができる。
【符号の説明】
【0048】
1 電動車椅子
2 ベース部材
3 第1差動式キャスタ(駆動キャスタ)
4 第2差動式キャスタ(駆動キャスタ)
5 第3差動式キャスタ(駆動キャスタ)
7 椅子
8 ジョイスティック(移動方向指示手段)
10 制御装置
11 角度読込手段
12 操作量読込手段
13 目標角度演算手段
14 差分角度演算手段
15 メモリ
16 キャスタ動作指令手段
17 タイマ
18 操作状態判定手段
19 停止位置指令手段
20 選択手段
21 比較手段
22 出力手段
90 車輪
103 エンコーダ(駆動方向検出手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
椅子が上方に設けられるベース部材と、前記ベース部材に取付けられ、電動モータにより回転駆動する車輪の駆動方向を所望の移動方向に向けることができる駆動キャスタと、前記駆動キャスタの前記車輪の駆動方向を検出する駆動方向検出手段と、目標移動方向を指示する移動方向指示手段とを備え、前記駆動キャスタの前記車輪の回転駆動により移動する電動車椅子、を制御する制御装置において、
電動モータに制御電流を供給する出力手段と、
前記駆動方向と前記目標移動方向との差異である差分角度の大きさが予め定められた角度未満である場合には、前記差分角度を回転角度とし、前記車輪の方向を前記回転角度分回転させ、もって新たな車輪の方向とすることを前記出力手段に指令するとともに、前記車輪の回転駆動の方向を前記目標移動方向が指示される前と同じにすること前記出力手段に指令し、
前記差分角度の大きさが予め定められた角度以上である場合には、前記差分角度に略180°を加減算した角度を前記回転角度とし、前記車輪の方向を前記回転角度分回転させ、もって前記新たな車輪の方向とすることを前記出力手段に指令するとともに、前記車輪の回転駆動の方向を前記目標移動方向が指示される前と逆にすることを前記出力手段に指令するキャスタ動作指令手段と、を備えることを特徴とする電動車椅子の制御装置。
【請求項2】
前記予め定められた角度は、80°以上100°以下であることを特徴とする請求項1に記載の電動車椅子の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−67556(P2011−67556A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−223343(P2009−223343)
【出願日】平成21年9月28日(2009.9.28)
【出願人】(000144027)株式会社ミツバ (2,083)
【Fターム(参考)】