説明

電圧プローブ

【課題】高精度な電圧測定が可能な電圧プローブを提供する。
【解決手段】本発明の電圧プローブは、計測端子と、前記計測端子に電気的に接続され且つ筐体内に収容された抵抗器と、前記抵抗器に電気的に接続された出力端子とを備え、前記抵抗器は、前記筐体内において絶縁性の液相冷媒に浸漬されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電圧プローブに関する。本発明の電圧プローブは、高電圧の高精度測定に好適に利用される。
【背景技術】
【0002】
電子加速器の高周波電源やエキシマーレーザーのパルス電源等においては、内部で使用される高電圧電源の電圧を精度良く制御することが重要となっている。
高電圧電源の電圧を精度良く制御するには、高電圧を高精度で計測するための高電圧プローブが必要である。高電圧プローブの出力信号によってフィードバック制御を行うため、高電圧電源システムの安定性は、最終的にプローブの到達精度によって決定される。高電圧において100ppmまたはそれより良い安定性の電源を製作することは、加速器のみならず、他の分野に於いても重要な課題である。
【0003】
従来は、高電圧プローブとして、抵抗値が1Gオーム以上の抵抗器を高電圧側に接続し、この抵抗器を流れる電流が低電圧側に配置された抵抗器を流れることによって低電圧側の抵抗器に発生する電圧を測定する抵抗分割方式のプローブが使用されてきた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで問題となるのが、高電圧側の抵抗器周辺での放電と、抵抗器に流れる電流によるジュール発熱とこの発熱による抵抗値の変化、そして抵抗値が大きい抵抗器を使用することに伴う周波数レスポンスの悪さであった。
【0005】
まず、高電圧放電の対策として従来はSF6ガスを高電圧プローブに封入することが行なわれてきた。しかし、SF6ガスは熱伝達率が低いために、ジュール発熱によって高電圧側の抵抗器が温度上昇することが問題となる。そこで、抵抗値の温度係数が小さい抵抗器を用いることが行なわれてきた。しかし、抵抗値が大きい抵抗器において抵抗値の温度係数を10ppm/℃以下にすることは容易ではない。また、仮に温度係数が10ppm/℃の抵抗器を用いても、抵抗器の温度上昇が10℃を超えると、抵抗値の変化率が100ppmを超えてしまうという問題があった。
【0006】
また、プローブの周波数特性を良くするには、すなわち、高い周波数成分に対しても正しく計測を行うには、電圧分割の抵抗値を小さくすれば良いが、残念なことに抵抗値を下げると抵抗を流れる電流が大きくなり、結果、ジュール発熱によって抵抗器が高温になってしまうという問題があった。
【0007】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、高精度な電圧測定が可能な電圧プローブを提供するものである。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0008】
本発明の電圧プローブは、計測端子と、前記計測端子に電気的に接続され且つ筐体内に収容された抵抗器と、前記抵抗器に電気的に接続された出力端子とを備え、前記抵抗器は、前記筐体内において絶縁性の液相冷媒に浸漬されていることを特徴とする。
【0009】
本発明では、抵抗器は筐体内において絶縁性の液相冷媒に浸漬されている。液相冷媒は一般に従来のSF6ガスに比べて桁違いに大きな熱伝達効率を持つので、抵抗器で発生したジュール熱は、液相冷媒によって速やかに除去される。従って、本発明によれば抵抗器の温度上昇を抑制することができ、従って、抵抗器の温度上昇に起因する測定値の変動を抑制することができる。
【0010】
また、本発明によれば抵抗器の抵抗値を下げても抵抗器の温度上昇を抑えることができる。従って、本発明によれば、抵抗値が比較的小さい抵抗器を使用することができ、従って、周波数特性を向上させることができる。
【0011】
また、液相冷媒は一般に従来のSF6ガスに比べて高い耐電圧特性を有しているため高電圧のコロナ放電やスパーク放電を防止することができ、従って、安全で安定な測定が可能になる。なお、スパーク放電に到らなくても微小なコロナ放電は、プローブの出力に不要なランダムノイズ信号として混入しシステムを不安定に至らしめるので、コロナ放電を防止することは重要である。
【0012】
以上より、本発明によれば、高精度な電圧測定を行うことができる電圧プローブが提供される。
【0013】
なお、本発明の電圧プローブは、測定対象の電圧が10kV以上となるような用途(高電圧用途)に特に好適に用いられる。このような用途では抵抗器で大量のジュール熱が発生するのでそのジュール熱を速やかに除去する必要性が特に大きいからである。
以下、本発明の種々の実施形態を例示する。
【0014】
一端が前記計測端子である導電体棒をさらに備え、前記導電体棒の他端は、前記抵抗器に電気的に接続され、前記筐体は、前記導電体棒を収容する空間を有し且つセラミック材料からなる絶縁ブッシングと、前記絶縁ブッシングの先端にロウ付けされ且つ前記導電体棒にロウ付け又は溶接された第1金属リングと、前記絶縁ブッシングの側面にロウ付けされた第2金属リングと、一端が第2金属リングにロウ付け又は溶接され且つ他端にフランジが設けられた胴体円筒と、前記胴体円筒の前記フランジに固定されたフランジ蓋とを備えてもよい。この構成の筐体では、セラミック材料からなる絶縁ブッシングに対して金属リングを介して胴体円筒がロウ付け又は溶接によって固定されているので、絶縁ブッシングと胴体円筒との間に隙間ができず、液相冷媒のリークが確実に抑制される。
【0015】
前記液相冷媒を冷却する冷却部をさらに備えてもよい。前記冷却部は、前記筐体内部に配置されたらせん状の冷却パイプを備えてもよい。この場合、抵抗器からのジュール熱を受け取った液相冷媒が効率的に冷却される。
ここで例示した種々の実施形態は、互いに組み合わせることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下,本発明の一実施形態を図面を用いて説明する。図面や以下の記述中で示す内容は,例示であって,本発明の範囲は,図面や以下の記述中で示すものに限定されない。
【0017】
図1〜図3を用いて本発明の一実施形態の電圧プローブについて説明する。図1及び図2は、本実施形態の電圧プローブの構成を示す断面図及び分解斜視図である。図3は、本実施形態の電圧プローブの一例の外観を示す写真である。
【0018】
1.電圧プローブの構成
まず、本実施形態の電圧プローブ1の構成について説明する。
本実施形態の電圧プローブ1は、計測端子2と、計測端子2に電気的に接続され且つ筐体3内に収容された抵抗器5と、抵抗器5に電気的に接続された出力端子7とを備える。抵抗器5は、筐体3内において絶縁性の液相冷媒9に浸漬されている。
【0019】
導電体棒11の一端が計測端子2であり、導電体棒11の他端は、抵抗器5に電気的に接続されている。
筐体3は、導電体棒11を収容する空間を有し且つセラミック材料(例:アルミナセラミック)からなる絶縁ブッシング13と、絶縁ブッシング13の先端にロウ付けされ且つ導電体棒11にロウ付け又は溶接された第1金属リング15と、絶縁ブッシング13の側面にロウ付けされた第2金属リング17と、一端が第2金属リング17にロウ付け又は溶接され且つ他端にフランジ19が設けられた胴体円筒(例:ステンレス製)21と、胴体円筒21のフランジ19に固定されたフランジ蓋23とを備えている。この構成の筐体3では、セラミック材料からなる絶縁ブッシング13に対して金属リングを介して胴体円筒21がロウ付け又は溶接によって固定されているので、絶縁ブッシング13と胴体円筒21との間からの液相冷媒9のリークが防止される。
【0020】
第1及び第2金属リング15,17の材料は、特に限定されないが、絶縁ブッシング13のセラミック材料と熱膨張係数が合致している金属が好ましく、例えば、コバールやモリブデン等である。
【0021】
フランジ蓋23は、フランジ19とフランジ蓋23の間にガスケット(例:銅ガスケット)を挟んだ状態でフランジ19にボルト24で固定されている。これによって、フランジ19とフランジ蓋23の間が真空封止されている。なお、フランジ19とフランジ蓋23の間の真空封止は、ガスケット以外の真空封止部材を用いて行ってもよく、フランジ19とフランジ蓋23をロウ付け又は溶接することによって行ってもよい。
【0022】
抵抗器5の両端には、第1及び第2ソケット電極25,27がそれぞれ配置されている。第1ソケット電極25は、導電体棒11にネジ止めされている。
【0023】
フランジ蓋23には、出力端子7と、絶縁サポート33を介して導電ベースプレート35が取り付けられている。出力端子7は、一例では、真空気密仕様の同軸端子である。出力端子7と導電ベースプレート35は、信号出力線37を介して電気的に接続されている。抵抗器5は、第2ソケット電極27を介して(又は直接)導電ベースプレート35に電気的に接続されている。
【0024】
液相冷媒9の種類は、特に限定されないが、例えば、フッ素系液体、絶縁油、シリコンオイル、超純水であり、耐電圧特性や熱伝導性等の観点からフッ素系液体が好ましい。フッ素系液体としては、例えば、フロリナートやノベックHFE(何れも住友スリーエム株式会社製)が挙げられる。ノベックHFEは、表1に示す。ハイドロフルオロエーテルからなる。
【表1】

【0025】
ところで、フッ素系液体は極めてリークしやすく、ブッシングと胴体円筒との間をO−リングで封止していた従来の構成ではO−リングからフッ素系液体がリークする。従って、液相冷媒9がフッ素系液体からなる場合、本発明のようなブッシング13と胴体円筒21との間をロウ付け又は溶接によって封止している構成の筐体3を採用するメリットが特に大きい。
【0026】
液相冷媒9は、冷却部によって冷却される。冷却部の構成は、特に限定されないが、一例では、筐体3内部に配置されたらせん状の冷却パイプ(例:銅製、直径4mm)39を備えた構成である。胴体円筒21の側面には冷却パイプ導入部41が2つ設けられている(図示の便宜上、図1及び図2には1つのみを示している)。冷却パイプ導入部41は、筐体3内の真空気密が保持できる部材で構成され、一例では、スウェージロックチューブ継手で構成される。冷却パイプ39の両端は、2つの冷却パイプ導入部41にそれぞれ接続されており、冷却パイプ導入部41の一方から導入された冷却水が冷却パイプ導入部41の他方から排出される。このような構成により、抵抗器5からのジュール熱を受け取った液相冷媒9の効率的な冷却が可能になっている。冷却水は、温度制御によって一定の温度に保たれていることが好ましい。これによって、液相冷媒9の温度変動が抑制される。なお、冷却パイプ39は、胴体円筒21の外部に巻きつけてもよい。また、冷却部は、空冷ファンの付いたペルチェ素子を胴体円筒21に貼り付けた構成であってもよい。
【0027】
胴体円筒21には、プローブ取り付け用フランジ43と点検口45も設けられている。プローブ取り付け用フランジ43は、ボルト穴44を有しており、電圧プローブ1の固定に用いられる。点検口45は、液相冷媒9の液面の確認に用いられる。点検口45は開閉可能なガラス窓46を有している。電圧プローブ1の通常使用時にはガラス窓46は閉じて筐体3内部を真空気密の状態にし、液相冷媒9を筐体3内に注入する際にはガラス窓46を開いて点検口45から筐体3内に液相冷媒9を注入する。
【0028】
2.電圧プローブの製造方法
次に、本実施形態の電圧プローブ1の製造方法について説明する。以下に示す方法は、一例であって、本実施形態の電圧プローブ1は別の方法で形成してもよい。
【0029】
まず、第1金属リング15と第2金属リング17を絶縁ブッシング13にロウ付けする。次に、中心導体11を絶縁ブッシング13内に挿入し、その状態で中心導体11を第1金属リング15に溶接又はロウ付けする。
【0030】
次に、胴体円筒21に、フランジ19、冷却パイプ39、冷却パイプ導入部41、プローブ取り付け用フランジ43、点検口45を溶接又はロウ付けする。
【0031】
次に、胴体円筒21を第2金属リング17に溶接又はロウ付けする。これによって絶縁ブッシング13と胴体円筒21とが真空封止される。
【0032】
次に、第1ソケット電極25を中心導体11にネジ固定する。
【0033】
次に、フランジ蓋23に絶縁ロッド33を介してベースプレート35を固定し、ベースプレート35に第2ソケット電極27を接続する。また、フランジ蓋23に出力端子7を固定し、ベースプレート35と出力端子7を信号出力線37で電気的に接続する。
【0034】
次に、抵抗器5の一端を第2ソケット電極27に挿入し、抵抗器5の他端を胴体円筒21の第1ソケット電極25に挿入する。次に、ガスケットを間に挟んた状態でフランジ19とフランジ蓋23をボルト24で締結して真空封止する。これによって真空気密の筐体3が形成される。
【0035】
次に、点検口45のガラス窓46を開いて筐体3内に液相冷媒9を注入し、再びガラス窓46を閉じ、本実施形態の電圧プローブ1の製造が完了する。
【0036】
3.電圧プローブの使用方法
次に、本実施形態の電圧プローブ1の使用方法について説明する。
電圧プローブ1は、通常、出力端子7とGNDとの間に抵抗器47を配置した状態で利用される。高電圧側の抵抗器5の抵抗値をR1、低電圧側の抵抗器47の抵抗値をR2とすると、計測端子2から入力される入力電圧V1と出力端子7から出力される出力電圧V2との間には以下の関係が成り立つ。
2=V1・{R2/(R1+R2)}
【0037】
本実施形態によれば、発熱による抵抗器5の抵抗値R1の変動が抑えられ、従って、出力電圧V2の変動も抑えられ、高精度な電圧測定が可能になる。なお、低電圧側の抵抗器47は、筐体3内に配置してもよい。この場合、電圧プローブ1にはGND端子が設けられ、抵抗器47の一端が出力端子7に接続され、抵抗器47の他端がGND端子に接続される。
【0038】
また、電圧プローブ1は、計測端子2が下向きの状態(高電圧側が下向きの状態)で使用することが好ましい。この場合、液相冷媒9の中に残った空気の気泡が筐体3内の上部にたまり、高電圧側を完全に液相冷媒9で満たすことができるからである。なお、液相冷媒9の液面は、点検口45を通じて確認することが可能である。
【0039】
また、筐体3の内部に大気部分を残さずに、筐体3の全体に液相冷媒9を充填するようにしてもよい。この場合、筐体3の内部に気泡が残っていないので、電圧プローブ1は、どの方位でも使用可能となる。但し、温度上昇に伴う液相冷媒9の熱膨張を考慮して、適宜、真空ベローズを使用した膨張部を設けることが望ましい。
【0040】
また、電圧プローブ1の使用温度(使用時の液相冷媒9の温度)は、室温に近い温度(20〜30℃)であることが好ましい。この場合、胴体円筒21からの熱の流入の影響が少ないためである。また、電圧プローブ1の使用温度を液相冷媒9の沸点より十分低い温度とすることによって、沸騰による内圧上昇や爆発の危険を回避することが重要である。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の一実施形態の電圧プローブの構成を示す断面図である。
【図2】本発明の一実施形態の電圧プローブの構成を示す分解斜視図である。
【図3】本発明の一実施形態の電圧プローブの一例の外観を示す写真である。
【符号の説明】
【0042】
1:電圧プローブ 2:計測端子 3:筐体 5:抵抗器 7:出力端子 9:液相冷媒 11:導電体棒 13:絶縁ブッシング 15:第1金属リング 17:第2金属リング 19:フランジ 21:胴体円筒 23:フランジ蓋 24:ボルト 25:第1ソケット電極 27:第2ソケット電極 33:絶縁サポート 35:導電ベースプレート 37:信号出力線 39:冷却パイプ 41:冷却パイプ導入部 43:プローブ取り付け用フランジ 44:ボルト穴 45:点検口 46:ガラス窓 47:抵抗器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
計測端子と、前記計測端子に電気的に接続され且つ筐体内に収容された抵抗器と、前記抵抗器に電気的に接続された出力端子とを備え、
前記抵抗器は、前記筐体内において絶縁性の液相冷媒に浸漬されていることを特徴とする電圧プローブ。
【請求項2】
一端が前記計測端子である導電体棒をさらに備え、前記導電体棒の他端は、前記抵抗器に電気的に接続され、
前記筐体は、前記導電体棒を収容する空間を有し且つセラミック材料からなる絶縁ブッシングと、前記絶縁ブッシングの先端にロウ付けされ且つ前記導電体棒にロウ付け又は溶接された第1金属リングと、前記絶縁ブッシングの側面にロウ付けされた第2金属リングと、一端が第2金属リングにロウ付け又は溶接され且つ他端にフランジが設けられた胴体円筒と、前記胴体円筒の前記フランジに固定されたフランジ蓋とを備える請求項1に記載のプローブ。
【請求項3】
前記液相冷媒を冷却する冷却部をさらに備える請求項1又は2に記載のプローブ。
【請求項4】
前記冷却部は、前記筐体内部に配置されたらせん状の冷却パイプを備える請求項3に記載のプローブ。

【図2】
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【図1】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−192260(P2009−192260A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−30802(P2008−30802)
【出願日】平成20年2月12日(2008.2.12)
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【出願人】(000229656)株式会社日本ファインケム (10)
【Fターム(参考)】