説明

電圧上昇抑制装置、電圧上昇抑制方法および電圧上昇抑制プログラム

【課題】複数台の分散型電源が配電系統に連系されているシステムにおいて、有効電力が過剰に低減することを回避することを課題とする。
【解決手段】複数の分散型電源に連系される配電系統に連系する所定の分散型電源の逆変換装置において、配電系統と所定の分散型電源との接続点で測定された電圧、および、所定の分散型電源から配電系統へと送電する電力の運転力率に基づき、無効電力を増加させるように電力を制御したり、有効電力および/または無効電力を低減させるように電力を制御する電圧上昇抑制装置であって、電圧の上限値を下回る所定の閾値を保持し、電圧が上限値を下回り、かつ、閾値を上回る時に、電力の運転力率が下限値を下回らないという条件を満たすか否かを判定し、条件を満たすことが判定された場合に、無効電力を増加させるように電力を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電圧上昇抑制装置、電圧上昇抑制方法および電圧上昇抑制プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、太陽光発電システム(PV:Photovoltaic)、風力発電、燃料電池、マイクロガスタービン、エンジン発電など、配電系統に連系して配電系統との間で電力を送電する分散型電源の導入が、住宅地域を中心に進んでいる。一方で、このような分散型電源が配電系統に大量に連系されると、分散型電源から生じる逆潮流により配電系統の電圧が上昇し、低圧需要家の受電電圧が、電気事業法で規定された電圧(101±6V)を逸脱するおそれが生じる。例えば、図7は、分散型電源として太陽光発電システムを前提とした場合の配電系統モデルのシミュレーションにおいて、全低圧需要家に対する太陽光発電システム設置戸数の割合(以下、太陽光発電導入率)をパラメータとした時の低圧需要家の受電電圧を示したものであるが、図7からは、太陽光発電導入率が40%を超えると、受電電圧が107Vを超過する低圧需要家が発生することを読み取ることができる。
【0003】
このため、非特許文献1に示されるように、太陽光発電システムのパワーコンディショナなどには、低圧需要家の受電電圧の上昇を抑制することを目的とした電圧上昇抑制機能が備えられる。具体的には、非特許文献1に示される手法によれば、太陽光発電システムのパワーコンディショナは、まず、図8に示すように、電圧の上限値として、電気事業法で規定された電圧(107V)の設定を受け付け(ステップS801)、配電系統との接続点における電圧がこの上限値を上回るか否かを判定する(ステップS803)。次に、パワーコンディショナは、電圧が上限値を上回る時に(ステップS803肯定)、電力の運転力率が下限値(0.85)を下回らないか否かを判定し(ステップS804)、運転力率が下限値を下回らない場合には(ステップS804肯定)、進相無効電力(負荷において消費されない電力)を増加させるように電力を制御する(ステップS805)。もっとも、パワーコンディショナは、進相無効電力を増加させることによって十分な電圧上昇抑制効果が得られず(ステップS803肯定)、かつ、進相無効電力を増加させることによって運転力率が下限値を下回る場合には(ステップS804否定)、次に、有効電力(負荷において実際に消費される電力)および無効電力を低減させるように電力を制御する(ステップS806)。
【0004】
【非特許文献1】“系統連系規程(JEAC9701−2006)”、日本電気協会
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記した従来技術では、以下に説明するように、複数台の分散型電源が配電系統に連系されているシステムにおいて、有効電力が過剰に低減してしまうおそれがあるという課題がある。すなわち、上記した従来技術の手法は、例えば、分散型電源として太陽光発電システムを前提とした場合に、受電電圧が上限値を上回り、かつ、電力の運転力率が下限値を下回らない太陽光発電システムのみが、進相無効電力を増加させる手法であるので、それだけでは実効的な電圧上昇抑制効果を得ることができなくなり、結局、いくつかの太陽光発電システムでは、有効電力を低減させるように電力を制御せざるを得なくなる。
【0006】
具体的に例を挙げて説明すると、図9は、太陽光発電導入率50%のある配電系統モデルのシミュレーションの結果を示すものであり、図10は、太陽光発電導入率60%のある配電系統モデルのシミュレーションの結果を示すものであるが、図9および図10に示すように、配電系統に連系されている複数台の太陽光発電システムにおいて、ノードE1以降の太陽光発電システムが進相無効電力を増加させているが、ノードE1以降の太陽光発電システムの内、一部の太陽光発電システムにおいては、進相無効電力を増加させることでは実効的な電圧上昇抑制効果を得ることができなくなり、結局、有効電力を低減させるように電力を制御せざるを得なくなっていることを読み取ることができる。
【0007】
なお、上記した課題は、分散型電源として太陽光発電システムを前提とした場合に限らず、例えば、風力発電、燃料電池、マイクロガスタービン、エンジン発電など、配電系統に連系して配電系統との間で電力を送電する分散型電源を前提とした場合に、同様に課題となる。
【0008】
そこで、この発明は、上記した従来技術の課題を解決するためになされたものであり、複数台の分散型電源が配電系統に連系されているシステムにおいて、有効電力が過剰に低減することを回避することが可能な電圧上昇抑制装置、電圧上昇抑制方法および電圧上昇抑制プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記した課題を解決し、目的を達成するため、請求項1に係る発明は、複数の分散型電源に連系される配電系統に連系する所定の分散型電源の逆変換装置において、前記配電系統と当該所定の分散型電源との接続点で測定された電圧が所定の上限値を上回り、かつ、前記所定の分散型電源から前記配電系統へと送電する電力の運転力率が所定の下限値を下回らない場合には、無効電力を増加させるように前記電力を制御し、前記電圧が前記上限値を上回り、かつ、前記電力の運転力率が前記下限値を下回る場合には、有効電力および/または無効電力を低減させるように前記電力を制御する電圧上昇抑制装置であって、前記電圧の前記上限値を下回る所定の閾値を保持する閾値保持手段と、前記電圧が前記上限値を下回り、かつ、前記閾値を上回る時に、前記電力の運転力率が前記下限値を下回らないという条件を満たすか否かを判定する判定手段と、前記判定手段によって前記条件を満たすことが判定された場合に、無効電力を増加させるように前記電力を制御する制御手段と、を備えたことを特徴とする。
【0010】
また、請求項2に係る発明は、上記の発明において、前記逆変換装置は、複数の太陽光発電システムに連系される配電系統に連系する所定の太陽光発電システムの逆変換装置であることを特徴とする。
【0011】
また、請求項3に係る発明は、複数の分散型電源に連系される配電系統に連系する所定の分散型電源の逆変換装置において、前記配電系統と当該所定の分散型電源との接続点で測定された電圧が所定の上限値を上回り、かつ、前記所定の分散型電源から前記配電系統へと送電する電力の運転力率が所定の下限値を下回らない場合には、無効電力を増加させるように前記電力を制御し、前記電圧が前記上限値を上回り、かつ、前記電力の運転力率が前記下限値を下回る場合には、有効電力および/または無効電力を低減させるように前記電力を制御する電圧上昇抑制方法であって、前記電圧の前記上限値を下回る所定の閾値を保持する閾値保持工程と、前記電圧が前記上限値を下回り、かつ、前記閾値を上回る時に、前記電力の運転力率が前記下限値を下回らないという条件を満たすか否かを判定する判定工程と、前記判定工程によって前記条件を満たすことが判定された場合に、無効電力を増加させるように前記電力を制御する制御工程と、を含んだことを特徴とする。
【0012】
また、請求項4に係る発明は、複数の分散型電源に連系される配電系統に連系する所定の分散型電源の逆変換装置において、前記配電系統と当該所定の分散型電源との接続点で測定された電圧が所定の上限値を上回り、かつ、前記所定の分散型電源から前記配電系統へと送電する電力の運転力率が所定の下限値を下回らない場合には、無効電力を増加させるように前記電力を制御し、前記電圧が前記上限値を上回り、かつ、前記電力の運転力率が前記下限値を下回る場合には、有効電力および/または無効電力を低減させるように前記電力を制御する方法をコンピュータに実行させる電圧上昇抑制プログラムであって、前記電圧の前記上限値を下回る所定の閾値を保持する閾値保持手順と、前記電圧が前記上限値を下回り、かつ、前記閾値を上回る時に、前記電力の運転力率が前記下限値を下回らないという条件を満たすか否かを判定する判定手順と、前記判定手順によって前記条件を満たすことが判定された場合に、無効電力を増加させるように前記電力を制御する制御手順と、をコンピュータに実行させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
請求項1〜4の発明によれば、複数の分散型電源に連系される配電系統に連系する所定の分散型電源の逆変換装置において、配電系統と所定の分散型電源との接続点で測定された電圧が所定の上限値を上回り、かつ、所定の分散型電源から配電系統へと送電する電力の運転力率が所定の下限値を下回らない場合には、無効電力を増加させるように電力を制御し、電圧が前記上限値を上回り、かつ、電力の運転力率が下限値を下回る場合には、有効電力および/または無効電力を低減させるように電力を制御する電圧上昇抑制装置であって、電圧の上限値を下回る所定の閾値を保持し、電圧が上限値を下回り、かつ、閾値を上回る時に、電力の運転力率が下限値を下回らないという条件を満たすか否かを判定し、条件を満たすことが判定された場合に、無効電力を増加させるように電力を制御するので、複数台の分散型電源が配電系統に連系されているシステムにおいて、有効電力が過剰に低減することを回避することが可能になる。
【0014】
すなわち、例えば、分散型電源として太陽光発電システムを前提とした場合において、配電系統と太陽光発電システムとの接続点で測定された電圧が所定の上限値(107V)を下回る時には、電圧上昇抑制のための制御を何ら行わない従来の手法と異なり、この発明に係る電圧上昇抑制装置によれば、接続点で測定された電圧が所定の上限値(107V)を下回る時であっても、電圧が所定の閾値(例えば、106.5V)を上回り、かつ、電力の運転力率が下限値(0.85)を下回らない場合であれば、進相無効電力を増加させるように電力を制御する結果、配電系統に連系されている複数台の太陽光発電システム間で、進相無効電力の増加を分担することができることから、複数台の分散型電源が配電系統に連系されているシステムにおいて、有効電力が過剰に低減することを回避することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に添付図面を参照して、この発明に係る電圧上昇抑制装置、電圧上昇抑制方法、および電圧上昇抑制プログラムの実施例を詳細に説明する。なお、以下では、この発明に係る電圧上昇抑制装置を含んで構成されるパワーコンディショナを実施例として説明する。また、以下の実施例で用いる主要な用語、実施例1におけるパワーコンディショナの概要および特徴、実施例1におけるパワーコンディショナの構成および処理の手順、実施例1の効果を順に説明し、次に、実施例1におけるパワーコンディショナを所定の配電系統モデルに用いた場合のシミュレーションの結果について、実施例2として説明し、最後に、他の実施例について説明する。
【実施例1】
【0016】
[用語の説明]
まず最初に、以下の実施例で用いる主要な用語を説明する。「太陽光発電システム」(特許請求の範囲に記載の「分散型電源」に対応する)とは、太陽光電池から電力を取り出すことを目的としたシステムであり、具体的には、薄い板状の太陽光電池を電気的に複数接続し、強化ガラスなどで表面を覆った太陽光電池モジュールと、直流を交流に変換するインバータ(特許請求の範囲に記載の「逆変換装置」に対応する)やその他の制御装置(例えば、保護装置など)などから構成される「パワーコンディショナ」とから主に構成される。一方、「配電系統」とは、電力会社の発電所によって発電される電力を需要家に配電することを目的とした一連の設備のことであり、具体的には、発電所から送電された電気を制御する変電所や、変電所から需要家に電気を送電する配電線などのことである。
【0017】
近年、このような「太陽光発電システム」を「配電系統」に接続して運用する「連系」が、住宅地域を中心に進んでいる。「太陽光発電システム」が「配電系統」に「連系」される場合、「太陽光発電システム」において取り出された電力が余った際には、余った電力が「配電系統」に売電され、「太陽光発電システム」において取り出された電力が不足する際には、「配電系統」から電力の不足分が買電される。なお、「太陽光発電システム」において余った電力が「配電系統」に売電される場合には、「太陽光発電システム」から「配電系統」へと電力が送電されるが、このような電力の流れのことを、逆潮流という。
【0018】
ところで、日本国内で「太陽光発電システム」を「配電系統」に「連系」するにあたっては、一般的に、資源エネルギー庁から示された技術要件(ガイドライン)を指針としなければならない。具体的に説明すると、このガイドラインの中では、「配電系統」と「太陽光発電システム」との接続点における電圧が適正値(101±6Vなど)を逸脱するおそれがある時は、「太陽光発電システム」において電圧を調整する対策を行うべきであることが、技術要件として示されている。例えば、複数の「太陽光発電システム」が「配電系統」に「連系」されると、複数の「太陽光発電システム」からの逆潮流により、「配電系統」と「太陽光発電システム」との接続点における電圧が上限値(107V)を超過する事態が発生する。このため、「太陽光発電システム」の「パワーコンディショナ」には、「配電系統」と「太陽光発電システム」との接続点における電圧が上限値(107V)を超過しないよう、電圧上昇を抑制するための対策として、「電圧上昇抑制装置」が備えられる。
【0019】
次に、「電圧上昇抑制装置」について説明すると、「パワーコンディショナ」の「電圧上昇抑制装置」は、「配電系統」と「太陽光発電システム」との接続点で測定された電圧に基づき、電圧上昇を抑制するように電力を制御する。まず、「電圧上昇抑制装置」は、電圧上昇抑制のひとつの手法として、「進相無効電力(特許請求の範囲に記載の「無効電力」に対応する)」を増加させるように電力を制御する。「進相無効電力」とは、負荷において消費されない電力のことである。「電圧上昇抑制装置」は、このような「進相無効電力」を増加させることにより、接続点の電圧上昇を抑制する。
【0020】
ところで、上記したガイドラインの中では、電力の「運転力率」の適正値についても、技術要件として示されている。ここで、電力の「運転力率」とは、分母が有効電力の自乗と進相無効電力の自乗との和の平方根で、分子が有効電力の計算式で計算される値であり、ガイドラインの中では、逆潮流がある場合の「運転力率」の下限値は、0.85と示されている。すなわち、「電圧上昇抑制装置」が「進相無効電力」を増加させすぎると、計算式の分母が大きくなり、「運転力率」が下限値0.85を下回ってしまうことから、「進相無効電力」を増加させる手法には限界があるといえる。
【0021】
このため、一般的に、「電圧上昇抑制装置」は、電圧上昇抑制のもうひとつの手法として、「有効電力」を低減させるように電力を制御する。もっとも、「有効電力」は、本来エネルギーとして負荷において実際に消費される電力であるので、「電圧上昇抑制装置」は、「有効電力」を過度に低減させないように制御することが望ましい。結局、「パワーコンディショナ」の「電圧上昇抑制装置」においては、複数台の「太陽光発電システム」が「配電系統」に「連系」されているシステムにおいて、「有効電力」を過度に低減させないように制御しつつ、電圧の上昇をいかにして抑制するかが重要になる。
【0022】
[実施例1におけるパワーコンディショナの概要および特徴]
続いて、図1を用いて、実施例1におけるパワーコンディショナの概要および特徴を説明する。図1は、実施例1におけるパワーコンディショナの概要および特徴を説明するための図である。
【0023】
実施例1におけるパワーコンディショナは、上記したように、複数の太陽光発電システムに連系される配電系統に連系する所定の太陽光発電システムにおいて、配電系統と所定の太陽光発電システムとの接続点で測定された電圧、および、所定の太陽光発電システムから配電系統へと送電する電力の運転力率に基づき、無効電力を増加させるように電力を制御したり、有効電力および無効電力を低減させるように電力を制御することを概要とし、複数台の太陽光発電システムが配電系統に連系されているシステムにおいて、有効電力が過剰に低減することを回避することを主たる特徴とする。
【0024】
この主たる特徴について簡単に説明すると、実施例1におけるパワーコンディショナは、配電系統と太陽光発電システムとの接続点で測定される電圧の上限値(107V)と、太陽光発電システムから配電系統へと送電する電力の運転力率の下限値(0.85)とを保持する他に、図1に示すように、電圧の上限値を下回る所定の閾値(例えば、106.5Vなど)を保持する(図1の(1)を参照)。また、実施例1におけるパワーコンディショナは、配電系統と太陽光発電システムとの接続点(図1のノード(受電点))における電圧を、常時測定しているものとする。
【0025】
このような構成のもと、実施例1におけるパワーコンディショナは、配電系統と太陽光発電システムとの接続点で測定された電圧が上限値(107V)を上回り、かつ、電力の運転力率が下限値(0.85)を下回らない場合に、無効電力を増加させるように電力を制御し、電圧が上限値(107V)を上回り、かつ、電力の運転力率が下限値(0.85)を下回る場合に、有効電力および無効電力を低減させるように電力を制御するが、この他に、電圧が上限値(107V)を下回る場合であっても、電圧が上限値(107V)を下回り、かつ、閾値(106.5V)を上回る時に、電力の運転力率が下限値(0.85)を下回らないという条件を満たすか否かを判定する(図1の(2)を参照)。
【0026】
そして、パワーコンディショナは、条件を満たすことが判定された場合に、すなわち、配電系統と太陽光発電システムとの接続点で測定された電圧が上限値(107V)を下回り、かつ、閾値(106.5V)を上回る時に、電力の運転力率が下限値(0.85)を下回らないことが判定された場合に、進相無効電力を増加させるように電力を制御する(図1の(3)を参照)。
【0027】
このようにして、実施例1におけるパワーコンディショナは、配電系統と太陽光発電システムとの接続点で測定された電圧が所定の上限値(107V)を下回る時には、電圧上昇抑制のための制御を何ら行わない従来の手法と異なり、接続点で測定された電圧が所定の上限値(107V)を下回る時であっても、電圧が所定の閾値(106.5V)を上回り、かつ、電力の運転力率が下限値(0.85)を下回らない場合であれば、進相無効電力を増加させるように電力を制御する結果、配電系統に連系されている複数台の太陽光発電システム間で、進相無効電力の増加を分担することができることから、複数台の分散型電源が配電系統に連系されているシステムにおいて、有効電力が過剰に低減することを回避することが可能になる。
【0028】
なお、実施例1においては、パワーコンディショナが、配電系統と太陽光発電システムとの接続点で測定される電圧の上限値として「107V」を保持し、太陽光発電システムから配電系統へと送電する電力の運転力率の下限値として「0.85」を保持し、電圧の上限値を下回る所定の閾値として「106.5V」を保持する手法を説明するが、この発明はこれに限られるものではなく、電圧の上限値や電力の運転力率の下限値については、ガイドライン等に基づいて最適な値を保持し、また、電圧の上限値を下回る所定の閾値については、配電系統モデルのシミュレーションの結果等に基づいて最適な値を保持するなど、ガイドラインに則しつつ、有効電力が過剰に低減することを回避することが可能になる値であれば、その具体的な値はいずれでもよい。また、実施例1においては、パワーコンディショナが、配電系統と太陽光発電システムとの接続点(図1のノード(受電点))における電圧を、常時測定しているものとして説明するが、この発明はこれに限られるものではなく、配電系統と太陽光発電システムとの接続点における電圧を他の装置において測定した値を、パワーコンディショナが受信するなど、電圧の測定値の入手経路はいずれでもよい。
【0029】
[実施例1におけるパワーコンディショナの構成]
次に、図2を用いて、実施例1におけるパワーコンディショナの構成を説明する。図2は、実施例1におけるパワーコンディショナの構成を示すブロック図である。
【0030】
図2に示すように、実施例1におけるパワーコンディショナ200は、太陽光電池100と分電盤300との間に接続される。具体的には、パワーコンディショナ200は、太陽光電池100から入力された直流の電気を交流の電気に変換するなどしてから出力し、出力した交流の電気を、分電盤300に入力する。
【0031】
ここで、太陽光電池100は、薄い板状の太陽光電池を電気的に複数接続し、強化ガラスなどで表面を覆った太陽光電池モジュールである。具体的には、太陽光電池100は、パワーコンディショナ200のインバータ部210に接続する。例えば、太陽光電池100は、太陽光によって発電された電気(直流)を出力し、出力した電気(直流)を、インバータ部210に入力する。なお、実施例1においては、太陽光電池100として、薄い板状の太陽光電池を電気的に複数接続し、強化ガラスなどで表面を覆った太陽光電池モジュールを説明したが、この発明はこれに限られるものではなく、太陽光によって発電された電気を出力するものであれば、具体的な形態はいずれでもよい。
【0032】
また、分電盤300は、電気の分配や送電を行う。具体的には、分電盤300は、配電系統と、パワーコンディショナ200および図示しない負荷との間に接続する。例えば、分電盤300は、配電系統から配電される電気を図示しない負荷に分配したり、パワーコンディショナ200から入力される交流の電気を配電系統に送電するなどする。
【0033】
このような太陽光電池100と分電盤300との間に接続されるパワーコンディショナ200は、図2に示すように、インバータ部210と、記憶部220と、制御部230とから構成される。
【0034】
インバータ部210は、直流の電気を交流の電気に変換する。具体的には、インバータ部210は、太陽光電池100および分電盤300と、無効電力制御部234および有効電力制御部235とに接続する。例えば、インバータ部210は、太陽光電池100から入力される直流の電気を交流の電気に変換し、変換した交流の電気を、分電盤300に入力する。また、インバータ部210は、無効電力制御部234によって進相無効電力を増加させるように制御された電力を出力し、出力した電力を、分電盤300に入力する。さらに、インバータ部210は、有効電力制御部235によって有効電力を低減させるように制御された電力を出力し、出力した電力を、分電盤300に入力する。
【0035】
記憶部220は、制御部230による各種処理に用いるデータを記憶し、特にこの発明に密接に関連するものとしては、図2に示すように、測定電圧保持部221と、電圧上限値保持部222と、電圧閾値保持部223と、運転力率下限値保持部224とを備える。なお、電圧閾値保持部223は、特許請求の範囲に記載の「閾値保持手段」に対応する。
【0036】
測定電圧保持部221は、配電系統と太陽光発電システムとの接続点で測定された電圧を保持する。具体的には、測定電圧保持部221は、電圧測定部231および条件判定部233に接続する。例えば、測定電圧保持部221は、電圧測定部231によって測定された電圧の値を保持し、保持した電圧の値は、条件判定部233による処理に利用される。
【0037】
電圧上限値保持部222は、接続点で測定される電圧の上限値を保持する。具体的には、電圧上限値保持部222は、閾値等設定部232および条件判定部233に接続する。例えば、電圧上限値保持部222は、閾値等設定部232によって設定された電圧の上限値(107V)を保持し、保持した電圧の上限値は、条件判定部233による処理に利用される。
【0038】
電圧閾値保持部223は、接続点で測定される電圧の上限値を下回る閾値を保持する。具体的には、電圧閾値保持部223は、閾値等設定部232および条件判定部233に接続する。例えば、電圧閾値保持部223は、閾値等設定部232によって設定された電圧の閾値(106.5V)を保持し、保持した電圧の閾値は、条件判定部233による処理に利用される。
【0039】
運転力率下限値保持部224は、太陽光発電システムから配電系統へと送電する電力の運転力率の下限値を保持する。具体的には、運転力率下限値保持部224は、閾値等設定部232および条件判定部233に接続する。例えば、運転力率下限値保持部224は、閾値等設定部232によって設定された運転力率の下限値(0.85)を保持し、保持した電圧の閾値は、条件判定部233による処理に利用される。
【0040】
制御部230は、パワーコンディショナ200を制御して各種処理を実行し、特にこの発明に密接に関連するものとしては、図2に示すように、電圧測定部231と、閾値等設定部232と、条件判定部233と、無効電力制御部234と、有効電力制御部235とを備える。なお、条件判定部233は、特許請求の範囲に記載の「判定手段」に対応し、無効電力制御部234および有効電力制御部235は、特許請求の範囲に記載の「制御手段」に対応する。
【0041】
電圧測定部231は、配電系統と太陽光発電システムとの接続点における電圧を測定する。具体的には、電圧測定部231は、分電盤300を介して接続点(受電点)に接続し、また、測定電圧保持部221に接続する。例えば、電圧測定部231は、接続点(受電点)における電圧を測定し、測定した電圧を、測定電圧保持部221に記憶させる。なお、実施例1における電圧測定部231は、接続点(受電点)における電圧を常時測定するものとするが、この発明はこれに限られるものではなく、接続点(受電点)における電圧を必要に応じて測定するなど、パワーコンディショナ200における電力の制御に必要なタイミングで測定するのであれば、そのタイミングはいずれでもよい。
【0042】
閾値等設定部232は、接続点における電圧の上限値、上限値を下回る閾値、太陽光発電システムから配電系統へと送電する電力の運転力率の下限値を設定する。具体的には、閾値等設定部232は、電圧上限値保持部222、電圧閾値保持部223、および運転力率下限値保持部224に接続する。
【0043】
例えば、閾値等設定部232は、接続点における電圧の上限値として「107V」の設定を受け付け、受け付けた設定を、電圧上限値保持部222に記憶させる。ここで、接続点における電圧の上限値は、資源エネルギー庁から示された技術要件(ガイドライン)に規定されている接続点における電圧の適正値「101±6V」に基づいて設定された値である。なお、実施例1においては、上限値として「107V」を採用する手法を説明したが、この発明はこれに限られるものではなく、技術要件(ガイドライン)の変更やその他の条件の変更などによって、接続点における電圧の上限値が異なる場合には、上限値としてその他の値を採用する手法にも、この発明を同様に適用することができる。
【0044】
また、例えば、閾値等設定部232は、上限値を下回る閾値として「106.5V」の設定を受け付け、受け付けた設定を、電圧閾値保持部223に記憶させる。なお、実施例1においては、閾値として「106.5V」を採用する手法を説明したが、この発明はこれに限られるものではなく、上限値を下回る閾値であって、配電系統モデルのシミュレーションの結果等に基づいた最適な値であれば、「106V」など閾値としてその他の値を採用する手法にも、この発明を同様に適用することができる。
【0045】
また、例えば、閾値等設定部232は、電力の運転力率の下限値として「0.85」の設定を受け付け、受け付けた設定を、運転力率下限値保持部224に記憶させる。ここで、電力の運転力率は、資源エネルギー庁から示された技術要件(ガイドライン)に規定されている逆潮流がある場合の運転力率の下限値「0.85」に基づいて設定された値である。なお、実施例1においては、下限値として「0.85」を採用する手法を説明したが、この発明はこれに限られるものではなく、技術要件(ガイドライン)の変更やその他の条件の変更などによって、電力の運転力率の下限値が異なる場合には、下限値としてその他の値を採用する手法にも、この発明を同様に適用することができる。
【0046】
条件判定部233は、接続点における電圧と上限値との関係、接続点における電圧と閾値との関係、電力の運転力率と下限値との関係などで規定された条件を満たすか否かを判定する。具体的には、条件判定部233は、測定電圧保持部221、電圧上限値保持部222、電圧閾値保持部223、および運転力率下限値保持部224に接続し、また、無効電力制御部234および有効電力制御部235に接続する。
【0047】
例えば、条件判定部233は、測定電圧保持部221から入力された接続点における電圧の測定値が、電圧上限値保持部222から入力された電圧の上限値(107V)を上回るか否かを判定する。また、条件判定部233は、接続点における電圧の測定値が上限値を上回ると判定した場合に、次に、電力の運転力率が、運転力率下限値保持部224から入力された電力の運転力率の下限値(0.85)を下回るか否かを判定し、電力の運転力率が下限値を下回らないと判定した場合には、進相無効電力を増加させるように電力を制御させるべく、判定した判定結果を無効電力制御部234に入力する。一方、条件判定部233は、電力の運転力率が下限値を下回ると判定した場合には、有効電力および無効電力を低減させるように電力を制御させるべく、判定した判定結果を有効電力制御部235および無効電力制御部234に入力する。
【0048】
また、条件判定部233は、接続点における電圧の測定値が上限値を上回らないと判定した場合に、次に、有効電力の抑制値が「0」であるか否かを判定し、有効電力の抑制値が「0」でないと判定した場合には、有効電力および無効電力を増加させるように電力を制御させるべく、判定した判定結果を有効電力制御部235および無効電力制御部234に入力する。一方、条件判定部233は、有効電力の抑制値が「0」であると判定した場合には、次に、接続点における電圧の測定値が、電圧閾値保持部223から入力された閾値(106.5V)を上回るか否かを判定する。
【0049】
さらに、条件判定部233は、電圧の測定値が閾値を上回ると判定した場合に、次に、電力の運転力率が、運転力率下限値保持部224から入力された電力の運転力率の下限値(0.85)を下回るか否かを判定し、電力の運転力率が下限値を下回らないと判定した場合には、進相無効電力を増加させるように電力を制御させるべく、判定した判定結果を無効電力制御部234に入力する。一方、条件判定部233は、電力の運転力率が下限値を下回ると判定した場合には、処理を終了する。
【0050】
また、条件判定部233は、接続点における電圧の測定値が閾値を上回らないと判定した場合に、次に、進相無効電力が「0」であるか否かを判定し、進相無効電力が「0」であると判定した場合には、処理を終了する。一方、条件判定部233は、進相無効電力が「0」でないと判定した場合には、進相無効電力を減少させるように電力を制御させるべく、判定した判定結果を無効電力制御部234に入力する。
【0051】
なお、実施例1においては、条件判定部233が、接続点における電圧の測定値が上限値を上回らないと判定した場合に、次に、有効電力の抑制値が「0」であるか否かを判定する手法を説明したが、この発明はこれに限られるものではなく、例えば、接続点における電圧の測定値が上限値を上回らないと判定した場合には、次に、接続点における電圧の測定値が、電圧閾値保持部223から入力された閾値(106.5V)を上回るか否かを判定する手法などにも、この発明を同様に適用することができる。また、実施例1においては、条件判定部233が、接続点における電圧の測定値が閾値を上回らないと判定した場合に、次に、進相無効電力が「0」であるか否かを判定する手法を説明したが、この発明はこれに限られるものではなく、例えば、条件判定部233が、接続点における電圧の測定値が閾値を上回らないと判定した場合には、処理を終了する手法などにも、この発明を同様に適用することができる。
【0052】
無効電力制御部234は、進相無効電力を増加させるように電力を制御するなどする。具体的には、無効電力制御部234は、条件判定部233とインバータ部210との間に接続する。例えば、無効電力制御部234は、条件判定部233によって、接続点における電圧の測定値が上限値を上回ると判定され、次に、電力の運転力率が下限値を下回らないと判定された場合には、進相無効電力を増加させるようにインバータ部210の出力を制御する。また、電力の運転力率が下限値を下回ると判定された場合には、進相無効電力を低減させるようにインバータ部210の出力を制御する。
【0053】
また、無効電力制御部234は、条件判定部233によって、接続点における電圧の測定値が上限値を上回らないと判定され、次に、有効電力の抑制値が「0」であると判定され、さらに、電圧の測定値が閾値を上回ると判定され、次に、電力の運転力率が下限値を下回らないと判定された場合に、進相無効電力を増加させるようにインバータ部210の出力を制御する。なお、実施例1においては、接続点における電圧の測定値が上限値を上回らないと判定され、次に、有効電力の抑制値が「0」であると判定され、さらに、電圧の測定値が閾値を上回ると判定され、次に、電力の運転力率が下限値を下回らないと判定された場合に、進相無効電力を増加させるようにインバータ部210の出力を制御する手法を説明したが、この発明はこれに限られるものではなく、接続点における電圧の測定値が上限値を上回らないと判定され、かつ、電圧の測定値が閾値を上回ると判定され、かつ、電力の運転力率が下限値を下回らないと判定された場合に、進相無効電力を増加させるようにインバータ部210の出力を制御する手法であれば、その他の条件や条件判定の順番などは、いずれでもよい。
【0054】
また、無効電力制御部234は、条件判定部233によって、接続点における電圧の測定値が上限値を上回らないと判定され、次に、有効電力の抑制値が「0」であると判定され、さらに、電圧の測定値が閾値を上回らないと判定され、進相無効電力が「0」でないと判定された場合には、進相無効電力を減少させるようにインバータ部210の出力を制御する。なお、実施例1においては、条件判定部233によって、接続点における電圧の測定値が上限値を上回らないと判定され、次に、有効電力の抑制値が「0」であると判定され、さらに、電圧の測定値が閾値を上回らないと判定され、進相無効電力が「0」でないと判定された場合には、進相無効電力を減少させるようにインバータ部210の出力を制御する手法を説明したが、この発明はこれに限られるものではなく、接続点における電圧の測定値が上限値を上回らないと判定され、次に、有効電力の抑制値が「0」であると判定され、さらに、電圧の測定値が閾値を上回らないと判定され、進相無効電力が「0」でないと判定された場合には、処理を終了する手法など、いずれでもよい。
【0055】
有効電力制御部235は、有効電力を低減させるように電力を制御するなどする。具体的には、有効電力制御部235は、条件判定部233とインバータ部210との間に接続する。例えば、有効電力制御部235は、条件判定部233によって、接続点における電圧の測定値が上限値を上回ると判定され、次に、電力の運転力率が下限値を下回ると判定された場合には、有効電力を低減させるようにインバータ部210の出力を制御する。
【0056】
また、有効電力制御部235は、条件判定部233によって、接続点における電圧の測定値が上限値を上回らないと判定され、次に、有効電力の抑制値が「0」でないと判定された場合には、有効電力の低減を解除するようにインバータ部210の出力を制御する。なお、実施例1においては、条件判定部233によって、接続点における電圧の測定値が上限値を上回らないと判定され、次に、有効電力の抑制値が「0」でないと判定された場合には、有効電力の低減を解除するようにインバータ部210の出力を制御する手法を説明したが、接続点における電圧の測定値が上限値を上回らないと判定され、次に、有効電力の抑制値が「0」でないと判定された場合には、処理を終了する手法など、いずれでもよい。
【0057】
[実施例1におけるパワーコンディショナによる処理の手順]
次に、図3を用いて、実施例1におけるパワーコンディショナによる処理の手順を説明する。図3は、実施例1におけるパワーコンディショナによる処理の手順を示すフローチャートである。
【0058】
実施例1におけるパワーコンディショナ200は、パワーコンディショナ200としての運用を開始する前に、閾値等設定部232において、配電系統と太陽光発電システムとの接続点で測定される電圧の上限値(107V)の設定を受け付ける(ステップS301)。また、パワーコンディショナ200は、閾値等設定部232において、接続点で測定される電圧の上限値(107V)を下回る閾値(106.5V)の設定を受け付ける(ステップS302)。また、実施例1におけるパワーコンディショナ200は、電圧測定部231において、配電系統と太陽光発電システムとの接続点における電圧を常時測定し(ステップS303)、測定した電圧に基づいて条件判定部233において適宜判定を行うことによって、無効電力制御部234または有効電力制御部235による制御を行う。以下では、パワーコンディショナ200が、電圧測定部231において測定した電圧に基づいて行う処理の手順について説明する。
【0059】
実施例1におけるパワーコンディショナ200は、条件判定部233において、まず、電圧測定部231によって測定された電圧が、上限値(107V)を上回るか否かを判定する(ステップS304)。具体的には、パワーコンディショナ200は、条件判定部233において、測定電圧保持部221から入力された電圧の測定値が、電圧上限値保持部222から入力された電圧の上限値を上回るか否かを判定する。
【0060】
測定された電圧が上限値(107V)を上回る場合には(ステップS304肯定)、パワーコンディショナ200は、条件判定部233において、次に、電力の運転力率が下限値(0.85)を下回らないか否かを判定する(ステップS305)。具体的には、パワーコンディショナ200は、条件判定部233において、測定電圧保持部221から入力された電圧の測定値が、運転力率下限値保持部224から入力された運転力率の下限値を下回らないか否かを判定する。
【0061】
そして、パワーコンディショナ200は、電圧の測定値が、運転力率の下限値を下回らないと判定した場合に(ステップS305肯定)、進相無効電力を増加させるように電力を制御する(ステップS306)。具体的には、パワーコンディショナ200は、無効電力制御部234において、進相無効電力を増加させるようにインバータ部210の出力を制御する。
【0062】
一方、ステップS304において、測定された電圧が上限値(107V)を上回らない場合には(ステップS304否定)、パワーコンディショナ200は、次に、条件判定部233において、有効電力の抑制値が「0」であるか否かを判定する(ステップS308)。
【0063】
そして、パワーコンディショナ200は、有効電力の抑制値が「0」であると判定した場合に(ステップS308肯定)、条件判定部233において、電圧測定部231によって測定された電圧が、閾値(106.5V)を上回るか否かを判定する(ステップS309)。具体的には、パワーコンディショナ200は、条件判定部233において、測定電圧保持部221から入力された電圧の測定値が、電圧閾値保持部223から入力された電圧の閾値を上回るか否かを判定する。
【0064】
測定された電圧が閾値(106.5V)を上回る場合には(ステップS309肯定)、パワーコンディショナ200は、条件判定部233において、電力の運転力率が下限値(0.85)を下回らないか否かを判定する(ステップS310)。具体的には、パワーコンディショナ200は、条件判定部233において、測定電圧保持部221から入力された電圧の測定値が、運転力率下限値保持部224から入力された運転力率の下限値を下回らないか否かを判定する。
【0065】
そして、パワーコンディショナ200は、電圧の測定値が、運転力率の下限値を下回らないと判定した場合に(ステップS310肯定)、進相無効電力を増加させるように電力を制御する(ステップS311)。具体的には、パワーコンディショナ200は、無効電力制御部234において、進相無効電力を増加させるようにインバータ部210の出力を制御する。
【0066】
一方、ステップS309において、測定された電圧が閾値(106.5V)を上回らない場合には(ステップS309否定)、パワーコンディショナ200は、条件判定部233において、進相無効電力が「0」であるか否かを判定し(ステップS312)、進相無効電力が「0」である場合には(ステップS312肯定)、電圧測定部231において接続点の電圧を測定する処理に戻り、進相無効電力が「0」でない場合には(ステップS312否定)、無効電力制御部234において、進相無効電力を減少させるようにインバータ部210の出力を制御する。
【0067】
なお、パワーコンディショナ200は、ステップS308において、有効電力の抑制値が「0」でないと判定された場合には(ステップS308否定)、有効電力制御部235において、有効電力を増加させるようにインバータ部210の出力を制御する(ステップS314)。
【0068】
このようにして、実施例1におけるパワーコンディショナ200は、配電系統と太陽光発電システムとの接続点で測定された電圧が所定の上限値(107V)を下回る時には、電圧上昇抑制のための制御を何ら行わない従来の手法と異なり、接続点で測定された電圧が所定の上限値(107V)を下回る時であっても、電圧が所定の閾値(106.5V)を上回り、かつ、電力の運転力率が下限値(0.85)を下回らない場合であれば、進相無効電力を増加させるように電力を制御する結果、配電系統に連系されている複数台の太陽光発電システム間で、進相無効電力の増加を分担することができることから、複数台の分散型電源が配電系統に連系されているシステムにおいて、有効電力が過剰に低減することを回避することが可能になる。
【0069】
なお、実施例1においては、パワーコンディショナ200が、接続点で測定された電圧が上限値を上回るか否かを判定してから、次に、測定された電圧が閾値を上回るか否かを判定する処理の手順を説明したが、この発明はこれに限られるものではなく、測定された電圧が上限値を下回り、かつ、閾値を上回り、かつ、電力の運転力率が下限値を下回らない時に、進相無効電力を増加させるようにインバータ部210の出力を制御する場合であれば、その他の処理の有無や、処理の手順はいずれでもよい。
【0070】
[実施例1の効果]
上記してきたように、実施例1によれば、複数の分散型電源に連系される配電系統に連系する所定の分散型電源の逆変換装置において、配電系統と所定の分散型電源との接続点で測定された電圧が所定の上限値を上回り、かつ、所定の分散型電源から配電系統へと送電する電力の運転力率が所定の下限値を下回らない場合には、無効電力を増加させるように電力を制御し、電圧が前記上限値を上回り、かつ、電力の運転力率が下限値を下回る場合には、有効電力および/または無効電力を低減させるように電力を制御する電圧上昇抑制装置であって、電圧の上限値を下回る所定の閾値を保持し、電圧が上限値を下回り、かつ、閾値を上回る時に、電力の運転力率が下限値を下回らないという条件を満たすか否かを判定し、条件を満たすことが判定された場合に、無効電力を増加させるように電力を制御するので、複数台の分散型電源が配電系統に連系されているシステムにおいて、有効電力が過剰に低減することを回避することが可能になる。
【0071】
すなわち、例えば、分散型電源として太陽光発電システムを前提とした場合において、配電系統と太陽光発電システムとの接続点で測定された電圧が所定の上限値(107V)を下回る時には、電圧上昇抑制のための制御を何ら行わない従来の手法と異なり、この発明に係る電圧上昇抑制装置によれば、接続点で測定された電圧が所定の上限値(107V)を下回る時であっても、電圧が所定の閾値(例えば、106.5V)を上回り、かつ、電力の運転力率が下限値(0.85)を下回らない場合であれば、進相無効電力を増加させるように電力を制御する結果、配電系統に連系されている複数台の太陽光発電システム間で、進相無効電力の増加を分担することができることから、複数台の分散型電源が配電系統に連系されているシステムにおいて、有効電力が過剰に低減することを回避することが可能になる。
【実施例2】
【0072】
さて、これまで実施例1として、測定された電圧が上限値を下回り、かつ、閾値を上回り、かつ、電力の運転力率が下限値を下回らない時に、進相無効電力を増加させるようにインバータ部210の出力を制御する方式のパワーコンディショナについて説明したが、以下では、実施例2として、実施例1におけるパワーコンディショナを所定の配電系統モデルに用いた場合のシミュレーションの結果について、図4〜図6を用いて一例を説明する。図4は、配電系統モデルを説明するための図であり、図5および図6は、配電系統モデルのシミュレーション結果を説明するための図である。
【0073】
まず、図4に示す配電系統モデルについて説明する。実施例2における配電系統モデルは、図4に示すように、配電線亘長4kmの高圧配電線をA〜Hの8区間に分割し、それぞれの区間に柱上変圧器、低圧配電線、引込線および太陽光発電システムを有する4つのノードの低圧需要家で構成される低圧系統を配置する。また、負荷は、住宅地域の中間期の12時とし、A〜Hの各区間にそれぞれ高圧需要家と180戸の住宅を想定した低圧需要家とする。すなわち、全低圧需要家戸数は、1,440戸になる。また、太陽光発電システムは、中間期の最大出力が2kWであると設定する。
【0074】
このような配電系統モデルに対し、実施例1で説明したパワーコンディショナを用いた場合のシミュレーション結果が、図5および図6である。まず、図5は、全低圧需要家に対する太陽光発電システム設置戸数の割合(以下、太陽光発電導入率)が50%の場合のシミュレーション結果を示すものであるが、配電系統と太陽光発電システムとの接続点で測定された電圧が所定の上限値(107V)を下回る時には、電圧上昇抑制のための制御を何ら行わない従来の方式(白丸)では、有効電力が低減する需要家が発生していることを読み取ることができる。
【0075】
これに対し、接続点で測定された電圧が所定の上限値(107V)を下回る時であっても、電圧が所定の閾値(106.5V)を上回り、かつ、電力の運転力率が下限値(0.85)を下回らない場合であれば、進相無効電力を増加させるように電力を制御する実施例1の方式(黒丸)では、配電系統に連系されている複数台の太陽光発電システム間(ノードE1以降)で、進相無効電力の増加を分担することができることから、全ての需要家において、最大有効電力まで出力できていることを読み取ることができる。
【0076】
次に、図6は、太陽光発電導入率が60%の場合のシミュレーション結果を示すものであるが、配電系統と太陽光発電システムとの接続点で測定された電圧が所定の上限値(107V)を下回る時には、電圧上昇抑制のための制御を何ら行わない従来の方式(白丸)では、有効電力が低減する需要家が多数発生していることを読み取ることができる。
【0077】
これに対し、接続点で測定された電圧が所定の上限値(107V)を下回る時であっても、電圧が所定の閾値(106.5V)を上回り、かつ、電力の運転力率が下限値(0.85)を下回らない場合であれば、進相無効電力を増加させるように電力を制御する実施例1の方式(黒丸)では、配電系統に連系されている複数台の太陽光発電システム間(ノードE1以降)で、進相無効電力の増加を分担することができることから、多くの需要家において、大幅に有効電力の低減を抑制できていることを読み取ることができる。
【0078】
こうして、配電系統モデルのシミュレーションの結果、実施例1におけるパワーコンディショナ200が、配電系統と太陽光発電システムとの接続点で測定された電圧が所定の上限値(107V)を下回る時には、電圧上昇抑制のための制御を何ら行わない従来の方式と異なり、接続点で測定された電圧が所定の上限値(107V)を下回る時であっても、電圧が所定の閾値(106.5V)を上回り、かつ、電力の運転力率が下限値(0.85)を下回らない場合であれば、進相無効電力を増加させるように電力を制御する結果、配電系統に連系されている複数台の太陽光発電システム間で、進相無効電力の増加を分担することができることから、複数台の太陽光発電システムが配電系統に連系されているシステムにおいて、有効電力が過剰に低減することを回避することが可能になることがわかる。
【実施例3】
【0079】
ところで、これまで実施例1および2におけるパワーコンディショナについて説明したが、この発明は上記した実施例以外にも種々の異なる形態にて実施されてよいものである。そこで、以下では、実施例3におけるパワーコンディショナとして、異なる実施例を説明する。
【0080】
[システム構成等]
上記の実施例1および2においては、分散型電源として太陽光発電システムを前提とする場合を説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、分散型電源として、例えば、風力発電、燃料電池、マイクロガスタービン、エンジン発電など、配電系統に連系して配電系統との間で電力を送電するその他の分散型電源を前提とする場合にも、本発明を同様に適用することができる。
【0081】
上記の実施例において説明した各処理のうち、自動的におこなわれるものとして説明した処理(例えば、図3に示す処理)の全部または一部を手動的におこなう(例えば、有効電力の抑制値が「0」であるか否かの判定に係る処理や、進相無効電力が「0」であるか否かの判定に係る処理を、パワーコンディショナを操作する者に選択させて実行するなど)こともでき、あるいは、手動的におこなわれるものとして説明した処理(例えば、電圧の閾値の設定など)の全部または一部を公知の方法で自動的におこなう(例えば、パワーコンディショナにおける制御結果などに基づいて、自動的に最適な閾値を設定するなど)こともできる。この他、上記文書中や図面中で示した処理手順、制御手順、具体的名称、各種のデータやパラメータを含む情報については、特記する場合を除いて任意に変更することができる。
【0082】
また、図示した各装置の各構成要素は機能概念的なものであり、必ずしも物理的に図示(例えば、図2など)の如く構成されていることを要しない。すなわち、各装置の分散・統合の具体的形態は図示のものに限られず、その全部または一部を、各種の負荷や使用状況などに応じて、任意の単位で機能的または物理的に分散・統合して構成することができる(例えば、電圧上限値保持部222と電圧閾値保持部223と運転力率下限値保持部224とを統合して構成するなど)。さらに、各装置にて行なわれる各処理機能は、その全部または任意の一部が、CPUおよび当該CPUにて解析実行されるプログラムにて実現され、あるいは、ワイヤードロジックによるハードウェアとして実現され得る。
【0083】
なお、上記の実施例で説明した電圧上昇抑制方法(図3)は、あらかじめ用意されたプログラムをパーソナルコンピュータやワークステーションなどのコンピュータで実行することによって実現することができる。このプログラムは、インターネットなどのネットワークを介して配布することができる。また、このプログラムは、ハードディスク、フレキシブルディスク(FD)、CD−ROM、MO、DVDなどのコンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録され、コンピュータによって記録媒体から読み出されることによって実行することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0084】
以上のように、この発明に係る電圧上昇抑制装置、電圧上昇抑制方法および電圧上昇抑制プログラムは、複数の太陽光発電システムに連系される配電系統に連系する所定の太陽光発電システムにおいて、配電系統と所定の太陽光発電システムとの接続点で測定された電圧、および、所定の太陽光発電システムから配電系統へと送電する電力の運転力率に基づき、無効電力を増加させるように電力を制御したり、有効電力および/または無効電力を低減させるように電力を制御することに有用であり、特に、複数台の分散型電源が配電系統に連系されているシステムにおいて、有効電力が過剰に低減することを回避することに適する。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】実施例1におけるパワーコンディショナの概要および特徴を説明するための図である。
【図2】実施例1におけるパワーコンディショナの構成を示すブロック図である。
【図3】実施例1におけるパワーコンディショナによる処理の手順を示すフローチャートである。
【図4】配電系統モデルを説明するための図である。
【図5】配電系統モデルのシミュレーション結果を説明するための図である。
【図6】配電系統モデルのシミュレーション結果を説明するための図である。
【図7】従来技術を説明するための図である。
【図8】従来技術を説明するための図である。
【図9】従来技術を説明するための図である。
【図10】従来技術を説明するための図である。
【符号の説明】
【0086】
100 太陽光電池
200 パワーコンディショナ
210 インバータ部
220 記憶部
221 測定電圧保持部
222 電圧上限値保持部
223 電圧閾値保持部
224 運転力率下限値保持部
230 制御部
231 電圧測定部
232 閾値等設定部
233 条件判定部
234 無効電力制御部
235 有効電力制御部
300 分電盤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の分散型電源に連系される配電系統に連系する所定の分散型電源の逆変換装置において、前記配電系統と当該所定の分散型電源との接続点で測定された電圧が所定の上限値を上回り、かつ、前記所定の分散型電源から前記配電系統へと送電する電力の運転力率が所定の下限値を下回らない場合には、無効電力を増加させるように前記電力を制御し、前記電圧が前記上限値を上回り、かつ、前記電力の運転力率が前記下限値を下回る場合には、有効電力および/または無効電力を低減させるように前記電力を制御する電圧上昇抑制装置であって、
前記電圧の前記上限値を下回る所定の閾値を保持する閾値保持手段と、
前記電圧が前記上限値を下回り、かつ、前記閾値を上回る時に、前記電力の運転力率が前記下限値を下回らないという条件を満たすか否かを判定する判定手段と、
前記判定手段によって前記条件を満たすことが判定された場合に、無効電力を増加させるように前記電力を制御する制御手段と、
を備えたことを特徴とする電圧上昇抑制装置。
【請求項2】
前記逆変換装置は、複数の太陽光発電システムに連系される配電系統に連系する所定の太陽光発電システムの逆変換装置であることを特徴とする請求項1に記載の電圧上昇抑制装置。
【請求項3】
複数の分散型電源に連系される配電系統に連系する所定の分散型電源の逆変換装置において、前記配電系統と当該所定の分散型電源との接続点で測定された電圧が所定の上限値を上回り、かつ、前記所定の分散型電源から前記配電系統へと送電する電力の運転力率が所定の下限値を下回らない場合には、無効電力を増加させるように前記電力を制御し、前記電圧が前記上限値を上回り、かつ、前記電力の運転力率が前記下限値を下回る場合には、有効電力および/または無効電力を低減させるように前記電力を制御する電圧上昇抑制方法であって、
前記電圧の前記上限値を下回る所定の閾値を保持する閾値保持工程と、
前記電圧が前記上限値を下回り、かつ、前記閾値を上回る時に、前記電力の運転力率が前記下限値を下回らないという条件を満たすか否かを判定する判定工程と、
前記判定工程によって前記条件を満たすことが判定された場合に、無効電力を増加させるように前記電力を制御する制御工程と、
を含んだことを特徴とする電圧上昇抑制方法。
【請求項4】
複数の分散型電源に連系される配電系統に連系する所定の分散型電源の逆変換装置において、前記配電系統と当該所定の分散型電源との接続点で測定された電圧が所定の上限値を上回り、かつ、前記所定の分散型電源から前記配電系統へと送電する電力の運転力率が所定の下限値を下回らない場合には、無効電力を増加させるように前記電力を制御し、前記電圧が前記上限値を上回り、かつ、前記電力の運転力率が前記下限値を下回る場合には、有効電力および/または無効電力を低減させるように前記電力を制御する方法をコンピュータに実行させる電圧上昇抑制プログラムであって、
前記電圧の前記上限値を下回る所定の閾値を保持する閾値保持手順と、
前記電圧が前記上限値を下回り、かつ、前記閾値を上回る時に、前記電力の運転力率が前記下限値を下回らないという条件を満たすか否かを判定する判定手順と、
前記判定手順によって前記条件を満たすことが判定された場合に、無効電力を増加させるように前記電力を制御する制御手順と、
をコンピュータに実行させることを特徴とする電圧上昇抑制プログラム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2008−35640(P2008−35640A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−206975(P2006−206975)
【出願日】平成18年7月28日(2006.7.28)
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
【Fターム(参考)】