説明

電圧上昇抑制装置および分散電源連系システム

【課題】分散電源保有設備が配電系統に接続されている位置による不平等を軽減し、かつ配電系統に擾乱を与えることなく制御パラメータを正しく算出して、分散電源から適正な進相無効電力を出力させる。
【解決手段】電圧上昇抑制装置50は、基本波電圧判断部54と、運転力率判断部56と、無効電力演算部58と、有効電力制御部60と、電流注入部72と、比率演算部62と、無効電力演算部64と、合計無効電力演算部66と、限界無効電力演算部68と、無効電力制御部70とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、配電系統に接続された分散電源保有設備の分散電源を制御して、当該配電系統の電圧上昇を抑制する電圧上昇抑制装置に関する。更に、当該電圧上昇抑制装置をそれぞれ有する複数の分散電源保有設備が配電系統に接続された分散電源連系システムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば太陽光発電システム(略称PV)等の分散電源であって、逆潮流有り(即ち、分散電源から系統側へ向かう有効電力の流れ有り)の分散電源を有する分散電源保有設備を、配電系統に複数(例えば多数)接続して、分散電源連系システムを構成することが従来から行われている。
【0003】
その一例を図1に示す。この分散電源連系システムは、上位系統1に、高圧配電線10、変圧器14および低圧配電線16を有する配電系統2が接続され、更にこの低圧配電線16に、分散電源(例えば図3、図4の分散電源202参照)を有する複数の分散電源保有設備200が接続された構成をしている。各分散電源保有設備200が配電系統2(この例では低圧配電線16)に接続されている箇所を連系点18と呼ぶ。
【0004】
このような分散電源連系システムにおける主要な課題の一つに、逆潮流によって連系点18の電圧が上昇して、当該電圧が電気事業法等で定められている所定の上限値(例えば107V)を超える恐れがあるという課題がある。
【0005】
そこで、上記電圧上昇を抑制するために、非特許文献1には、例えば図2に示すような機能を有する電圧上昇抑制装置を分散電源保有設備200に設けることが提案されている(例えば99頁参照)。
【0006】
この電圧上昇抑制装置は、連系点18における電圧(具体的には基本波電圧)を測定し(ステップ301)、当該電圧が所定の上限値(例えば107V)より高いか否かを判断する(ステップ302)。高ければ、更に運転力率が所定の下限値(例えば0.85)以上か否かを判断し(ステップ303)、運転力率が下限値以上の場合は自設備の分散電源を制御してそれから出力する進相無効電力Qを、上記電圧とその上限値との差に応じて増加させる(ステップ304)。運転力率が下限値よりも小さければ自設備の分散電源を制御してそれから出力する有効電力Pを、上記電圧とその上限値との差に応じて減少させる(ステップ305)。これによって、連系点18の電圧を上限値以下に抑えることができる。
【0007】
その原理の要点を説明すると次のとおりである。なお、この出願では、分散電源保有設備200(または後述する20。以下同様)から配電系統2へ流れる有効電力をP、進相無効電力をQとしている。
【0008】
配電系統2のインピーダンスをr+jx(rは抵抗、xはリアクタンス。図3等を参照)とすると、上記有効電力Pおよび進相無効電力Qが流れることによる電圧上昇値ΔVは次式で表される。なお、上位系統1のインピーダンスは、配電系統2のインピーダンスに比べて遥かに小さいので、説明を簡略化するために、この出願では無視している。
【0009】
[数1]
ΔV=P・r−Q・x
【0010】
これを電流で表現すると、分散電源保有設備200から配電系統2へ流れる有効電流をIp 、進相無効電力をIq とすると、電圧上昇値ΔVは次式で表される。
【0011】
[数2]
ΔV=Ip ・r−Iq ・x
【0012】
上記数1から分かるように、進相無効電力Qの増加(ステップ304)または有効電力Pの減少(ステップ305)を行うことによって、電圧上昇値ΔVを小さくすることができるので、連系点18の電圧上昇を抑えることができる。
【0013】
なお、図2におけるステップ306〜309の処理は、電圧が上限値以下の場合のものであるので、ここではその詳しい説明を省略する。
【0014】
連系点18の電圧上昇を抑制する他の技術として、特許文献1および非特許文献2には、配電系統2の数3で表される制御パラメータα(即ち、配電系統2の抵抗rのリアクタンスxに対する比率)を、出力電流の変化による連系点18の基本波(例えば60Hz。以下同様)電圧の変化分を測定することによって求め、それを用いて、分散電源保有設備200から出力する進相無効電力Qを数4となるように制御する技術が記載されている(後でもう少し詳しく説明する)。この数4は、簡単に言えば、上記数1のΔV=0と置いたものに等しい。
【0015】
[数3]
α=r/x
【0016】
[数4]
Q=(r/x)P=α・P
【0017】
特許文献2および非特許文献3は、後で参照する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特開2006−158179号公報(段落0008−0009、0016)
【特許文献2】特開2001−128366号公報
【非特許文献】
【0019】
【非特許文献1】「系統連系規程」、JEAC 9701−2006、社団法人日本電気協会 系統連系専門部会、平成18年8月30日第4版第2刷発行、頁99他
【非特許文献2】内山倫行、他3名、「大規模太陽光発電システムの無効電力制御による電圧変動制御」、電学論B、130巻3号、2010年、頁297−304
【非特許文献3】山本文雄、外3名、「分散電源の単独運転検出装置の開発−次数間高調波注入方式−」、電気設備学会誌、社団法人電気設備学会、平成16年12月10日、第24巻、第12号、頁943(57)−952(66)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
複数の分散電源保有設備200が上記非特許文献1に記載の機能を有する電圧上昇抑制装置をそれぞれ備えている場合、当該分散電源保有設備200が配電系統に接続されている位置(即ち上流側か下流側か)によって、自設備の分散電源から出力する電力に関して、電圧上昇抑制のために必要な進相無効電力Qの増加量または有効電力Pの減少量に差が生じて不平等になるという課題がある。この出願において、「上流側」とは上位系統1(換言すれば系統電源、上位の変圧器)に近い側を言い、「下流側」とはその反対側を言う。
【0021】
これは、簡単に言えば、自設備の連系点18の電圧は、変圧器14の2次電圧に、自設備よりも上流側の電圧上昇値ΔVを合計した電圧が加算されるので、下流側端に近づくほど連系点18の電圧が高くなるからである。
【0022】
従って、下流側の分散電源保有設備200ほど、上流側の分散電源保有設備200に比べて、その連系点18の電圧が上限値を超えやすくなるので、連系点18の電圧上昇抑制のために、自設備内の分散電源から進相無効電力Qを多く出力したり、有効電力Pを大きく減少させたりしなければならない。ちなみに、進相無効電力Qは分散電源におけるロスを増加させるので、進相無効電力Qを増加させるのには電源容量の観点から限りがある。
【0023】
このように、分散電源保有設備200が配電系統2に接続されている位置によって、上記のような差が生じるのは不平等である。例えば、分散電源保有設備200が売電(有効電力Pを電力会社に売ること)をしている場合には、売電による収入に差が生じてしまう。自設備よりも上流側で既に電圧がほぼ上限値まで上昇している場合もあり、その場合はいくら自設備で頑張っても、連系点18の電圧を上限値以下に抑えることはできない。従って殆ど売電できないことも起こり得る。
【0024】
例えば分散電源が太陽光発電システムの場合、同一地域ではほぼ同様の日射量があり、ほぼ同量の発電ができるのに、下流側の分散電源ほど活用できる電力が減り、利用率が低下することが起こり得る。
【0025】
特許文献1および非特許文献2に記載の技術は、各分散電源保有設備200がそれぞれ、自設備が出力する有効電力Pに比例させて進相無効電力Qを出力するので、大まかに言えば、非特許文献1に記載の技術のような不平等発生の課題は解決することができるけれども、制御パラメータαを求めることに関してそれぞれ次の課題がある。
【0026】
特許文献1に記載の技術は、自設備から出力する有効電力(具体的には基本波有効電流)および無効電力(具体的には基本波無効電流)を人為的に変化させて上記制御パラメータαを求める。この原理の概略を図3を参照して説明する。
【0027】
基本波有効電流Ip の変化ΔIp による連系点18の基本波電圧の変化分δVp 、基本波無効電流Iq の変化ΔIq による連系点18の基本波電圧の変化分δVq には、次式の関係がある。r、xは、それぞれ、前述した配電系統2の抵抗、リアクタンスである。
【0028】
[数5]
δVp =ΔIp ・r
δVq =ΔIq ・x
【0029】
この両者を用いて次式の演算を行って、制御パラメータαm を求める。
【0030】
[数6]
αm =(δVp /ΔIp )/(δVq /ΔIq )=r/x
【0031】
このようにして算出された制御パラメータαm =r/xは、数3に示した真の制御パラメータα=r/xと同じであるので、上記方法によって制御パラメータαを正しく算出することができる。
【0032】
しかし、この特許文献1に記載の技術には、配電系統の基本波電力に人為的な擾乱を与えることになるという課題がある。
【0033】
非特許文献2に記載の技術は、上記とほぼ同様の原理によって上記制御パラメータαを求めるけれども、自設備から出力する有効電力(具体的には基本波有効電流)および無効電力(具体的には基本波無効電流)の自然の変動を利用して制御パラメータαを求めるので、配電系統に人為的な擾乱を与えずに済む。しかし、制御パラメータαを正しく算出することができない場合がある。これを以下に説明する。
【0034】
図4に示す例のように、非特許文献2に記載の技術を採用している分散電源保有設備200a(これを自設備200aと呼ぶ)に着目すると、その近くに、通常の(即ち、上記非特許文献1の29頁にも記載されているように、力率100%運転を行う)分散電源保有設備200bが接続されている場合を取り上げる。両設備200a、200bの容量は、ここでは説明を簡単にするために、同一容量とする。両設備200a、200bの分散電源202が太陽光発電システムの場合、両方の太陽光発電システムは日射を同様に浴びるため、有効電流Ip1とIp2とは互いに同じように変化する。即ち両者の変化分ΔIp1=ΔIp2となる。自設備200aの無効電流の変化をΔIq1とする。
【0035】
このような事態は、太陽光発電システムに限らず、近接する風力発電設備同士など、他の再生可能エネルギー利用発電でも一般に起こり得る。また、今後予想される、太陽光等の再生可能エネルギー電源の電力系統への大量連系が実現すると、このような事態が発生する可能性はより高まる。
【0036】
このような場合、基本波有効電流の変化による自設備200aの連系点電圧の変化分δVp1は次式となる。上記のようにΔIp2=ΔIp1だからである。
【0037】
[数7]
δVp1=(ΔIp2による電圧上昇)+(ΔIp1による電圧上昇)
=ΔIp1・r+ΔIp1・r
=ΔIp1・2r
【0038】
基本波無効電流の変化による自設備200aの連系点電圧の変化分δVq1は次式となる。
【0039】
[数8]
δVq1=ΔIq1・x
【0040】
上記数6の場合と同様に、数7、数8のδVp1、δVq1を用いて次式の演算を行って、制御パラメータαm を求める。
【0041】
[数9]
αm =(δVp1/ΔIp1)/(δVq1/ΔIq1)=2(r/x)
【0042】
このようにして算出された制御パラメータαm =2(r/x)は、数3に示した真の制御パラメータα=r/xの2倍となっている。つまりこの場合は、制御パラメータαを正しく算出することができない。
【0043】
従ってこの場合は、非特許文献2に記載の技術を採用している自設備200aは、Q=α・Pという前述した(数4参照)無効電力制御を行うに当たり、本来の2倍の量の進相無効電力Qを出力することになり、余計な無効電力負担を背負ってしまうことになる。それによって様々な不都合が生じる。例えば、自設備200a内の分散電源202の運転力率が非常に悪化する。また、上記量の進相無効電力Qを出力することができなければ、連系点18の電圧上昇値ΔVを所定の上限値(例えば107V)以下に抑制することができなくなる。
【0044】
近在の分散電源保有設備200bの容量が自設備200aの容量と異なっていても、上記と同様の事象が発生する。
【0045】
なお、非特許文献2記載の技術は、実際は上記原理を少し変形して応用したものであるが、原理は同じであるので、ここではその詳細説明を省略する。
【0046】
そこでこの発明は、連系点の電圧上昇抑制制御において、分散電源保有設備が配電系統に接続されている位置による不平等を軽減することができ、しかも、配電系統に擾乱を与えることなく制御パラメータを正しく算出して、分散電源から適正な進相無効電力を出力させることができる電圧上昇抑制装置を提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0047】
この発明に係る電圧上昇抑制装置は、配電系統に接続された分散電源保有設備の分散電源を制御して、当該配電系統の電圧上昇を抑制する電圧上昇抑制装置であって、
前記配電系統と前記分散電源保有設備との連系点における基本波電圧が所定の電圧上限値よりも高いか否かを判断する基本波電圧判断手段と、
前記基本波電圧判断手段における判断結果が肯定の場合に、前記分散電源の運転力率が所定の力率下限値以上か否かを判断する運転力率判断手段と、
前記運転力率判断手段における判断結果が肯定の場合に、前記基本波電圧と前記電圧上限値との差に応じた第1の進相無効電力を演算して出力する第1の無効電力演算手段と、
前記運転力率判断手段における判断結果が否定の場合に、前記分散電源を制御して当該分散電源から出力する有効電力を、前記基本波電圧と前記電圧上限値との差に応じて減少させる有効電力制御手段と、
前記配電系統の基本波の非整数倍次数の注入電流を前記配電系統に注入する電流注入手段と、
前記連系点における前記注入次数の電圧および電流を用いて、前記連系点から見た前記配電系統の基本波成分の抵抗(r1 )、リアクタンス(x1 )および前者の後者に対する比率(α1 =r1 /x1 )を演算する比率演算手段と、
前記分散電源から出力される有効電力、前記比率および0<β<1なる補正係数βを互いに掛け合わせて、第2の進相無効電力を演算して出力する第2の無効電力演算手段と、
前記第1および第2の進相無効電力を互いに加算して、合計進相無効電力を演算して出力する合計無効電力演算手段と、
前記分散電源から出力される有効電力および前記力率下限値を用いて、当該有効電力のときに前記力率下限値を実現する限界進相無効電力を演算する限界無効電力演算手段と、
前記合計進相無効電力を、その上限を前記限界進相無効電力の値に抑制して進相無効電力指令値として前記分散電源に供給して、前記分散電源から出力する進相無効電力を当該進相無効電力指令値に制御する無効電力制御手段とを備えている、ことを特徴としている。
【0048】
上記補正係数βは0.5〜0.8の範囲に設定しておいても良い。
【0049】
この発明に係る電圧上昇抑制装置をそれぞれ有する複数の分散電源保有設備が、同じ変圧器の二次側の配電線に接続された分散電源連系システムの場合は、各電圧上昇抑制装置間で、注入次数を互いに異ならせるか、または、注入および測定のタイミングを互いに異ならせるのが好ましい。
【発明の効果】
【0050】
請求項1に記載の発明によれば次の効果を奏する。
【0051】
前述した制御パラメータαに相当する比率α1 を用いて、Qb =α1 ・β・Pなる演算を行って第2の進相無効電力Qb を求めて、それを進相無効電力制御の一部に用いるので、進相無効電力制御に、自設備の分散電源から出力する有効電力Pに比例させて第2の進相無効電力Qb を出力させる制御が加味されることになり、それによって非特許文献1に記載の技術のような不平等発生を軽減することができる。
【0052】
上記比率α1 を求めるために、この発明に係る電圧上昇抑制装置では、配電系統に自然には殆ど存在しない、基本波の非整数倍次数の注入次数の注入電流を電流注入手段から配電系統に注入するので、この注入電流は小さなもので良く、従って配電系統に擾乱を与えずに済む。
【0053】
比率演算手段によって、自設備の上記注入次数の電圧および電流を測定して上記比率α1 を求めるので、この発明に係る電圧上昇抑制装置を有している自設備の近くに、他の分散電源保有設備が存在していても、例えば上述した力率100%運転を行う他の分散電源保有設備が存在していても、それの影響を受けることなく、上記比率α1 を正しく算出することができる。また仮に、自設備の近くに、この発明に係る電圧上昇抑制装置を有している他の分散電源保有設備が存在している場合でも、それの対策方法は幾つかある。例えば、注入次数は、配電系統の基本波の場合のような唯一の次数(即ち1次。例えば60Hz)とは違って、多数の次数の内から選択することができるので、自設備と他設備とが使用する注入次数を互いに異ならせることは容易であり、それによって相互の干渉を排除して、上記比率α1 を正しく算出することができる。従っていずれの場合も、分散電源から適正な進相無効電力を出力させることができる。
【0054】
また、分散電源が配電系統に複数連系されていると、他の分散電源の出力(有効電力)によって系統電圧が上昇する。また、0<β<1の補正係数βにより、進相無効電力Qが上記数4で示されるQの値より小さくなるため、自設備の出力(有効電力P)によっても系統電圧が上昇する。これらによる電圧上昇が加算され、自設備の連系点の基本波電圧が所定の電圧上限値を超える事象が起こりうる。そこでこのことを考慮して、更に、連系点の基本波電圧および分散電源の運転力率を判断して、第1の進相無効電力の増加または有効電力の減少を制御する手段を備えているので、連系点の基本波電圧が所定の電圧上限値を超えることを防止することができる。また、分散電源の運転力率が所定の力率下限値より低下することを防止することができる。上記手段は、基本波電圧の測定、基本波出力電流の制御によって測定、制御を実施するため、上記比率α1 の測定のための電流注入および電圧測定に対して、相互に干渉しない。
【0055】
更に、分散電源から出力させる進相無効電力を限界進相無効電力の値に制限する手段を備えているので、分散電源の運転力率が所定の力率下限値より低下することを確実に防止することができる。
【0056】
請求項2に記載の発明によれば次の更なる効果を奏する。即ち、補正係数βを上記範囲に設定しているので、第2の進相無効電力の出力量を適度に抑制して、運転力率の低下を小さくすることができる。しかもそのようにしても、連系点の基本波電圧および分散電源の運転力率を判断して、第1の進相無効電力の増加または有効電力の減少を制御する手段を備えているので、連系点の基本波電圧が所定の電圧上限値を超えたり、分散電源の運転力率が所定の力率下限値より低下したりすることを防止することができる。
【0057】
請求項3に記載の発明によれば、請求項1、2に記載の発明の効果に加えて、次の更なる効果を奏する。即ち、請求項1または2に記載の電圧上昇抑制装置をそれぞれ有する複数の分散電源保有設備が、同じ変圧器の二次側の配電線に接続されていても、用いる注入次数が各設備の電圧上昇抑制装置で互いに異なるので、複数の分散電源保有設備の電圧上昇抑制装置が互いに干渉することなく、上記比率α1 を正しく算出することができる。従って、各分散電源から適正な進相無効電力を出力させることができる。
【0058】
請求項4に記載の発明によれば、請求項1、2に記載の発明の効果に加えて、次の更なる効果を奏する。即ち、請求項1または2に記載の電圧上昇抑制装置をそれぞれ有する複数の分散電源保有設備が、同じ変圧器の二次側の配電線に接続されていても、注入電流の注入ならびにその注入次数の電圧および電流の測定のタイミングが各設備の電圧上昇抑制装置で互いに異なるので、複数の分散電源保有設備の電圧上昇抑制装置が互いに干渉することなく、上記比率α1 を正しく算出することができる。従って、各分散電源から適正な進相無効電力を出力させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】複数の分散電源保有設備が配電系統に接続された従来の分散電源連系システムの一例を示す単線接続図である。
【図2】非特許文献1に記載の電圧上昇抑制装置の機能の一例を示すフローチャートである。
【図3】基本波電圧および基本波電流を測定して制御パラメータαを求める方法の従来例を説明するための図である。
【図4】基本波電圧および基本波電流を測定して制御パラメータαを求める従来例の課題を説明するための図である。
【図5】この発明に係る分散電源連系システムの一例を示す単線接続図である。
【図6】各分散電源保有設備およびそれを構成する電圧上昇抑制装置の構成の一例を示す図である。
【図7】図6中の電圧上昇抑制装置の動作の一例を示すフローチャートである。
【図8】基本波電圧判断部および運転力率判断部の構成の一例を示すブロック図である。
【図9】第1の無効電力演算部の構成の一例を示すブロック図である。
【図10】有効電力制御部の構成の一例を示すブロック図である。
【図11】比率演算部の構成の一例を示すブロック図である。
【図12】第2の無効電力演算部、合計無効電力演算部、限界無効電力演算部および無効電力制御部の構成の一例を示すブロック図である。
【図13】各分散電源保有設備およびそれを構成する電圧上昇抑制装置の構成の他の例を示す図である。
【図14】分散電源保有設備が高圧連系用の連系変圧器を有する場合の例を示す図である。
【図15】シミュレーションに用いた分散電源連系システムのモデルを示す図である。
【図16】図2に示す機能を有する従来の電圧上昇抑制装置を用いたときの変圧器至近電圧および各連系点電圧のシミュレーション結果の一例を示す図である。
【図17】図2に示す機能を有する従来の電圧上昇抑制装置を用いたときの各分散電源から出力する有効電力、進相無効電力および運転力率のシミュレーション結果の一例を示す図である。
【図18】図6に示す例の電圧上昇抑制装置(但しβ=1とした)を用いたときの変圧器至近電圧および各連系点電圧のシミュレーション結果の一例を示す図である。
【図19】図6に示す例の電圧上昇抑制装置(但しβ=1とした)を用いたときの各分散電源から出力する有効電力、進相無効電力および運転力率のシミュレーション結果の一例を示す図である。
【図20】図6に示す例の電圧上昇抑制装置(但しβ=0.5とした)を用いたときの変圧器至近電圧および各連系点電圧のシミュレーション結果の一例を示す図である。
【図21】図6に示す例の電圧上昇抑制装置(但しβ=0.5とした)を用いたときの各分散電源から出力する有効電力、進相無効電力および運転力率のシミュレーション結果の一例を示す図である。
【図22】配電線の抵抗が大きい場合に、図2に示す機能を有する従来の電圧上昇抑制装置を用いたときの変圧器至近電圧および各連系点電圧のシミュレーション結果の一例を示す図である。
【図23】配電線の抵抗が大きい場合に、図2に示す機能を有する従来の電圧上昇抑制装置を用いたときの各分散電源から出力する有効電力、進相無効電力および運転力率のシミュレーション結果の一例を示す図である。
【図24】配電線の抵抗が大きい場合に、図6に示す例の電圧上昇抑制装置(但しβ=1とした)を用いたときの変圧器至近電圧および各連系点電圧のシミュレーション結果の一例を示す図である。
【図25】配電線の抵抗が大きい場合に、図6に示す例の電圧上昇抑制装置(但しβ=1とした)を用いたときの各分散電源から出力する有効電力、進相無効電力および運転力率のシミュレーション結果の一例を示す図である。
【図26】配電線の抵抗が大きい場合に、図6に示す例の電圧上昇抑制装置(但しβ=0.5とした)を用いたときの変圧器至近電圧および各連系点電圧のシミュレーション結果の一例を示す図である。
【図27】配電線の抵抗が大きい場合に、図6に示す例の電圧上昇抑制装置(但しβ=0.5とした)を用いたときの各分散電源から出力する有効電力、進相無効電力および運転力率のシミュレーション結果の一例を示す図である。
【図28】配電系統に注入電流を注入したときに連系点に発生する電圧を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0060】
(1)電圧上昇抑制装置50および分散電源連系システムの一実施形態
図5に、この発明に係る分散電源連系システムの一例を示す。この分散電源連系システムは、分散電源(図6の分散電源30参照)をそれぞれ有する複数の分散電源保有設備20が配電系統2に(この実施形態では低圧配電線16に。以下同様)接続された構成をしている。その接続箇所を連系点18と呼ぶ。
【0061】
配電系統2は、この例では、上位系統1に高圧配電線10が接続され、その高圧配電線10に変圧器14を介して低圧配電線16が接続された構成をしている。
【0062】
低圧配電線16に、複数の分散電源保有設備20が接続されている。より具体例を挙げると、逆潮流有りの契約をしている低圧連系の分散電源保有設備20が多数高い密度で接続されている(これを低圧高密度連系と言う)。変圧器14は、例えば、6600V/200Vの単相3線式の柱上変圧器である。
【0063】
各分散電源保有設備20は、例えば、分散電源を有する発電設備、家庭、スーパーマーケット、工場、その他の設備である。
【0064】
各分散電源保有設備20の構成の一例を図6に示す。この分散電源保有設備20は、連系点18に接続された分散電源30と、この分散電源30を制御する電圧上昇抑制装置50とを備えている。連系点18の電圧Vd は計器用変圧器40によって測定されて電圧上昇抑制装置50に与えられる。連系点18を流れる電流Id は計器用変流器42によって測定されて電圧上昇抑制装置50に与えられる。
【0065】
分散電源30は、この実施形態では、太陽電池32と、その出力を交流電力に変換するインバータ(逆変換装置)34とを有している。即ち、太陽光発電システム(略称PV)である。但しこれに限られるものではなく、他の例は後述する。
【0066】
インバータ34には、公知のインバータ(例えば上記非特許文献1の16−17頁参照)を利用することができる。外部からの制御信号(具体的には後述する有効電力指令値Pcom および進相無効電力指令値Qcom )によって、インバータ34から出力する有効電力Pおよび進相無効電力Qを制御することができ、その技術は公知である(例えば上記特許文献2参照)。
【0067】
電圧上昇抑制装置50は、この実施形態では、測定部52、基本波電圧判断手段を構成する基本波電圧判断部54、運転力率判断手段を構成する運転力率判断部56、第1の無効電力演算手段を構成する第1の無効電力演算部58、有効電力制御手段を構成する有効電力制御部60、比率演算手段を構成する比率演算部62、合計無効電力演算手段を構成する合計無効電力演算部66、限界無効電力演算手段を構成する限界無効電力演算部68、無効電力制御手段を構成する無効電力制御部70および電流注入手段を構成する電流注入部72を備えている。この電圧上昇抑制装置50における動作の一例を図7に示し、これも参照しながら、各制御部等の説明を以下に行う。なお、各制御部等の構成の具体例は後述する。
【0068】
測定部52は、上記電圧Vd および電流Id を用いて、分散電源30から出力する有効電力Pおよび分散電源30の運転力率Pfを算出して、それを必要とする他の制御部に与える機能を有している(ステップ401、402)。但し、このような測定部52を一括して設ける代わりに、上記有効電力P、運転力率Pfを必要とする他の制御部に、それを算出する機能を持たせても良い。
【0069】
基本波電圧判断部54は、自設備の連系点18における基本波電圧(配電系統2の基本波周波数(例えば60Hz)の電圧)を測定して(ステップ405)、それが所定の電圧上限値(例えば107V)よりも高いか否かを判断する(ステップ406)ものである。
【0070】
運転力率判断部56は、基本波電圧判断部54における判断結果が肯定の場合に、分散電源30の運転力率Pfの測定値が所定の力率下限値(例えば0.85)以上か否かを判断する(ステップ407)ものである。
【0071】
第1の無効電力演算部58は、運転力率判断部56における判断結果が肯定の場合に、前記基本波電圧と前記電圧上限値との差に応じた第1の進相無効電力Qa を演算して出力する(ステップ408)ものである。
【0072】
有効電力制御部60は、運転力率判断部56における判断結果が否定の場合に、分散電源30を制御して当該分散電源30から出力する有効電力Pを、前記基本波電圧と前記電圧上限値との差に応じて減少させる(ステップ409)ものである。具体的には、有効電力指令値Pcom をインバータ34に与えて制御する。
【0073】
電流注入部72は、配電系統2の基本波の非整数倍(即ち帯小数倍)次数mの注入電流Im を出力してそれを配電系統2(具体的にはその低圧配電線16)に注入する(ステップ403)ものである。注入次数mは、例えば、2.2次、2.4次、2.6次、2.8次等であるが、これに限られるものではない。
【0074】
上記注入電流Im を注入すると、図28に示すように、連系点18には、配電系統2の注入次数mのインピーダンスZm に比例して、上記注入次数mの電圧Vm が発生する。これが連系点電圧Vd に含まれている。比率演算部62は、自設備の連系点18における前記注入次数mの電圧Vm および電流Im を測定し、当該測定結果を用いて、連系点18から見た配電系統2の基本波成分の抵抗r1 、リアクタンスx1 および前者の後者に対する、次式で表される比率α1 を演算する(ステップ404の一部)ものである。
【0075】
[数10]
α1 =r1 /x1
【0076】
第2の無効電力演算部64は、分散電源30から出力される有効電力Pの測定値、前記比率α1 および0<β<1なる補正係数βを互いに掛け合わせて、次式で表される第2の進相無効電力Qb を演算して出力する(ステップ404)ものである。
【0077】
[数11]
b =α1 ・β・P
【0078】
なお、ステップ403および404のフローチャート上での位置は、必ずしも図7に示す位置に限られるものではなく、他の位置に、例えばステップ410の直前に設けても良い。ステップ410における合計進相無効電力Qt の演算を行う前に、第2の進相無効電力Qb が算出できていれば良いからである。
【0079】
合計無効電力演算部66は、第1の進相無効電力Qa および第2の進相無効電力Qb を互いに加算して、次式で表される合計進相無効電力Qt を演算して出力する(ステップ410)ものである。
【0080】
[数12]
t =Qa +Qb
【0081】
限界無効電力演算部68は、分散電源30から出力される有効電力Pの測定値および前記力率下限値を用いて、当該有効電力Pのときに前記力率下限値を実現する限界進相無効電力Qlim を演算して出力する(ステップ411の一部)ものである。
【0082】
無効電力制御部70は、前記合計進相無効電力Qt を、その上限を前記限界進相無効電力Qlim の値に抑制して進相無効電力指令値Qcom として分散電源30(具体的にはそのインバータ34)に供給して、分散電源30から出力する進相無効電力Qを当該進相無効電力指令値Qcom に制御する(ステップ411)ものである。
【0083】
なお、図7中のステップ413〜416の処理は、図2中のステップ306〜309の処理に相当しており、基本波電圧が上限値以下の場合のものである。このような処理機能は、本発明に必須のものではないので、ここではその詳しい説明を省略する。要は、ステップ406における判断が否定の場合に、ステップ410へ進めば良い。
【0084】
次に、上記各制御部等の構成の具体例を説明する。
【0085】
図8に示すように、基本波電圧判断部54は、減算器80および比較器82を備えている。運転力率判断部56は、比較器84、NOT回路86およびAND回路88、89を備えている。なお、複数の制御部に兼用する要素があるが(例えば、減算器80、AND回路88、89)、説明を簡単にするために便宜的に、以下においてはどれか一つの制御部を構成するものとして説明している。
【0086】
減算器80は、上記連系点18の電圧Vd から電圧上限値Vlim (例えば107V)を減算して次式で表される差電圧DVを出力する。電圧上限値Vlim は電圧上昇抑制装置50に設定、保存される。なお、電圧Vd に含まれる高調波電圧は基本波電圧に比べれば小さいので、以下の実施例では基本波電圧の代わりに電圧Vd を用いており、このようにしても実用上差し支えはない。
【0087】
[数13]
DV=Vd −Vlim
【0088】
比較器82は、上記差電圧DVが0Vより大きいか否かを判断して(図7中のステップ406に相当)、0Vよりも大きいときに論理値1の信号を出力してそれをAND回路88および89に与える。
【0089】
比較器84は、自設備の分散電源30の運転力率Pfが力率下限値Pflim (例えば0.85)以上か否かを判断して(ステップ407に相当)、力率下限値Pflim 以上のときに論理値1の信号を出力してそれをAND回路88およびNOT回路86に与える。従って、ステップ407における判断がYesのときに、AND回路88から論理値1の信号が出力される。力率下限値Pflim は電圧上昇抑制装置50に設定、保存される。
【0090】
NOT回路86は、比較器84からの信号の論理値を反転させてそれをAND回路89に与える。従って、ステップ407における判断がNoのときにAND回路89から論理値1の信号が出力される。
【0091】
図9に示すように、第1の無効電力演算部58は、掛算器90およびPI制御部91を備えている。
【0092】
掛算器90は、上記減算器80からの差電圧DVと上記AND回路88からの信号とを掛け算して出力する。即ち、AND回路88から出力される信号が論理値1のときに、差電圧DVを出力する。
【0093】
PI制御部91は、掛算器90からの差電圧DVに係数Kp1、Ki1をそれぞれ掛けて出力する増幅器92、93と、増幅器93からの出力を積分して出力する積分器94と、この積分器94の出力と増幅器92の出力とを加算して上記第1の進相無効電力Qa として出力する加算器95とを有している。例えばKp1=2×1014、Ki1=4×105 であるが、これに限られるものではない。
【0094】
図10に示すように、有効電力制御部60は、掛算器96、PI制御部97および減算器102を備えている。
【0095】
掛算器96は、上記減算器80からの差電圧DVと上記AND回路89からの信号とを掛け算して出力する。即ち、AND回路89から出力される信号が論理値1のときに、差電圧DVを出力する。
【0096】
PI制御部97は、掛算器96からの差電圧DVに係数Kp2、Ki2をそれぞれ掛けて出力する増幅器98、99と、増幅器99からの出力を積分して出力する積分器100と、この積分器100の出力と増幅器98の出力とを加算して有効電力減少量Pdnを出力する加算器101とを有している。例えばKp2=2×1013、Ki2=4×104 であるが、これに限られるものではない。
【0097】
減算器102は、自設備の分散電源30の最大有効電力出力Pmax (即ち有効電力抑制がない場合に出力可能な最大有効電力)から上記有効電力減少量Pdnを減算して、次式で表される有効電力指令値Pcom を出力する。より具体的には、この有効電力指令値Pcom を分散電源30に(具体的にはそのインバータ34に)与えて、当該分散電源30から出力する有効電力Pをその値に制御する。
【0098】
[数14]
com =Pmax −Pdn
【0099】
なお、分散電源30が太陽光発電システムの場合は、そのインバータ34は通常、太陽電池32の出力電圧を制御して当該太陽電池32が出力する有効電力が最大になるように制御する(これはPmax 制御と略称されている)。分散電源30が太陽光発電システムの場合は、このPmax 制御による有効電力が上記最大有効電力出力Pmax であると言うことができる。
【0100】
図11に示すように、比率演算部62は、離散フーリエ変換器104、105、割算器106、分離器108、増幅器110および割算器112を備えている。
【0101】
離散フーリエ変換器104、105は、上記連系点の電圧Vd 、電流Id (共にベクトル量)をそれぞれ離散フーリエ変換して、自設備の連系点18における上記注入次数mの電圧Vm 、電流Im (共にベクトル量)をそれぞれ抽出して出力する。
【0102】
割算器106は、次式の割算を行って、自設備の連系点18から見た配電系統2の上記注入次数mのインピーダンスZm (ベクトル量)を演算して出力する。
【0103】
[数15]
m =Vm /Im
【0104】
図28も参照して、自設備の連系点18から見た配電系統2の上記注入次数mの抵抗をrm 、リアクタンスをxm とすると、上記インピーダンスZm は次式で表すことができる。
【0105】
[数16]
m =rm +jxm
【0106】
そこで分離器108は、数15の演算結果から実数部(抵抗分)と虚数部(リアクタンス分)とを分離して、上記注入次数mの抵抗rm およびリアクタンスxm を分けて出力する。抵抗は周波数に依存しないので、この抵抗rm は、基本波成分の抵抗r1 と等しい。
【0107】
増幅器110は、上記リアクタンスxm に1/mを掛けて(換言すれば、上記リアクタンスxm を注入次数mで割って)、基本波成分のリアクタンスx1 を演算して出力する。
【0108】
割算器112は、上記基本波成分の抵抗r1 およびリアクタンスx1 を用いて、上記数10に示した演算を行って、上記比率α1 を出力する。なお、この割算器112の出力部に平均化フィルタを設けて、それを通して比率α1 を出力するようにしても良い。
【0109】
図12に示すように、第2の無効電力演算部64は、増幅器114および掛算器116を備えている。
【0110】
増幅器114は、上記比率演算部62からの比率α1 に上記補正係数βを掛けてα1 ・βを出力する。
【0111】
掛算器116は、自設備の分散電源30から出力する有効電力Pと上記α1 ・βとを掛け合わせて、上記数11に示した第2の進相無効電力Qb を演算して出力する。
【0112】
合計無効電力演算部66は、加算器であり、上記無効電力演算部58から与えられる第1の進相無効電力Qa と上記掛算器116から与えられる第2の進相無効電力Qb とを互いに加算して、上記数12に示した合計進相無効電力Qt を演算して出力する。
【0113】
限界無効電力演算部68は、上記有効電力Pおよび上記力率下限値Pflim を用いて、次式の演算を行って、上記限界進相無効電力Qlim を出力する。例えば、力率下限値Pflim =0.85のときは、Qlim =0.62Pなる演算を行う。このとき、限界無効電力演算部68は単なる増幅器で良い。
【0114】
[数17]
lim =tan{cos-1(Pflim )}・P
【0115】
無効電力制御部70は、上記合計無効電力演算部66から与えられる合計進相無効電力Qt を、その上限を上記限界無効電力演算部68から与えられる限界進相無効電力Qlim の値に抑制して上記進相無効電力指令値Qcom として出力するリミッタ回路を有している。そしてこの進相無効電力指令値Qcom を自設備の分散電源30(具体的にはそのインバータ34)に供給して、分散電源30から出力する進相無効電力Qを当該進相無効電力指令値Qcom に制御する。
【0116】
電流注入部72には、公知の電流注入装置、例えば上記非特許文献3に記載のような電流注入装置を用いることができる。
【0117】
また、電流注入部72を独立して設ける代わりに、インバータ34に電流注入部72と同じ機能を持たせて、インバータ34に電流注入部72を兼ねさせても良い。インバータから基本波電力と共に高調波電流を出力させることは、例えば上記特許文献2に記載のような公知の技術を用いることができる。
【0118】
この電圧上昇抑制装置50を用いることによる効果は次のとおりである。
【0119】
(a)上記係数α1 は、前述した制御パラメータαに相当する。この電圧上昇抑制装置50では、当該比率α1 を用いて、Qb =α1 ・β・Pなる演算を行って第2の進相無効電力Qb を求めて、それを進相無効電力制御の一部に用いるので、進相無効電力制御に、自設備20の分散電源30から出力する有効電力Pに比例させて第2の進相無効電力Qb を出力させる制御が加味されることになり、それによって非特許文献1に記載の技術のような、配電系統2に接続されている位置による不平等発生を軽減することができる。
【0120】
これをより詳しく説明すると、前述したように、非特許文献1に記載の機能を有する電圧上昇抑制装置を用いている場合は、上流側の分散電源保有設備200は、自設備の連系点18の電圧上昇値ΔVが小さいのであまり進相無効電力Qを出力せずに済むのに対して(逆の場合は逆)、この電圧上昇抑制装置50を用いている場合は、それを用いている全ての分散電源保有設備20が、自設備の連系点18の電圧上昇値ΔVに関係なく、換言すれば配電系統2に接続されている位置に関係なく、自設備の有効電力Pに比例した上記第2の進相無効電力Qb を加味した進相無効電力Qを出力することになる。この第2の進相無効電力Qb によって、この電圧上昇抑制装置50を有している全ての分散電源保有設備20が協力して電圧上昇を抑制することができる。上記第1の進相無効電力Qa は、非特許文献1に記載の技術の場合と同様であるけれども、この電圧上昇抑制装置50では、進相無効電力制御にこの第2の進相無効電力Qb を加味するぶん、配電系統2に接続されている位置による前述した不平等発生を軽減することができる。
【0121】
(b)上記比率α1 を求めるために、この電圧上昇抑制装置50では、配電系統2に自然には殆ど存在しない、基本波の非整数倍次数の注入次数mの注入電流Im を電流注入部72から配電系統2に注入するので、この注入電流Im は小さなもので良く、従って配電系統2に擾乱を与えずに済む。
【0122】
これをより詳しく説明すると、上記非特許文献3にも記載されているように(例えば994(58)頁右欄参照)、配電系統2に自然に存在する非整数倍次数成分の電圧は、基本波成分の0.01%以下であり、この電圧上昇抑制装置50では、この電圧と区別できる程度の電圧Vm を発生させる注入電流Im を注入すれば良い。例えば、低圧配電線16が200V系の場合は、0.4A程度の注入電流Im を注入すれば良い。これによって、連系点18に表れる注入次数mの電圧Vm は、0.04V(0.02%)程度になる。近年の測定技術では、この程度の電圧Vm も十分に測定することができる。この程度の注入電流Im を注入しても、配電系統2に擾乱を与えることはない。
【0123】
(c)比率演算部62によって、自設備20の上記注入次数mの電圧Vm および電流Im を測定して上記比率α1 を求めるので、この電圧上昇抑制装置50を有している自設備20の近くに、他の分散電源保有設備が存在していても、例えば上述した力率100%運転を行う他の分散電源保有設備(図4の分散電源保有設備200b参照)が存在していても、それの影響を受けることなく、上記比率α1 を正しく算出することができる。これは、上述したように、注入次数mの電圧Vm は自然には殆ど存在しないからである。また他の分散電源保有設備(200b)は、注入次数mの注入電流を注入するものではないからである。従って、分散電源30から適正な進相無効電力Qを出力させることができる。
【0124】
仮に、自設備20の近くに、この電圧上昇抑制装置50を有している他の分散電源保有設備20が存在している場合でも、それの対策方法は幾つかある。例えば、注入次数mは、配電系統2の基本波の場合のような唯一の次数(即ち1次。例えば60Hz)とは違って、多数の次数の内から選択することができるので、自設備と他設備とが使用する注入次数mを互いに異ならせることは容易であり、それによって相互の干渉を排除して、上記比率α1 を正しく算出することができる。また、後でも説明するけれども、変圧器を介在している場合は、その大きなインピーダンスが介在することになるので、同じ注入次数mの場合でも相互の干渉を排除することができる。従ってこの場合も、分散電源30から適正な進相無効電力Qを出力させることができる。
【0125】
なお、注入電流Im の次数として、上記特許文献2に記載のような、配電系統2の基本波の整数倍次数(例えば、2次、4次、5次等)を用いることは、好ましくない。これは、整数倍次数の高調波源は配電系統2の各所に幾つも存在するので、自設備が注入した次数の電圧を正確に測定することが困難になるからである。また、現実的に使用できる整数倍次数の数は限られているので、自設備と他設備とが使用する注入次数が同じになって、相互の干渉が起こりやすくなる。
【0126】
(d)また、分散電源が配電系統2に複数連系されていると、他の分散電源の出力(有効電力)によって系統電圧が上昇する。また、0<β<1の補正係数βにより、進相無効電力Qが上記数4で示されるQの値より小さくなるため、自設備20の出力(有効電力P)によっても系統電圧が上昇する。これらによる電圧上昇が加算され、自設備20の連系点18の基本波電圧が所定の電圧上限値を超える事象が起こりうる。そこでこのことを考慮して、この電圧上昇抑制装置50は、更に、連系点18の基本波電圧および分散電源30の運転力率Pfを判断して、第1の進相無効電力Qa の増加または有効電力Pの減少を制御する手段(基本波電圧判断部54、運転力率判断部56、第1の無効電力演算部58および有効電力制御部60)を備えているので、連系点18の基本波電圧が所定の電圧上限値Vlim を超えることを防止することができる。また、分散電源30の運転力率Pfが所定の力率下限値Pflim より低下することを防止することができる。上記手段は、基本波電圧の測定、基本波出力電流の制御によって測定、制御を実施するため、上記比率α1 の測定のための電流注入および電圧測定に対して、相互に干渉しない。
【0127】
(e)この電圧上昇抑制装置50は、分散電源30から出力させる進相無効電力Qを限界進相無効電力Qlim の値に制限する手段(限界無効電力演算部68および無効電力制御部70)を備えているので、分散電源30の運転力率Pfが所定の力率下限値Pflim より低下することを確実に防止することができる。
【0128】
なお、上記補正係数βを大きくすると、第2の進相無効電力Qb が大きくなり、分散電源30の運転力率Pfが低下する恐れがある。補正係数βを小さくすると、第2の進相無効電力Qb が小さくなり、上記不平等発生抑制の効果が小さくなる恐れがある。従って、補正係数βは、0<β<1の内でも、0.5〜0.8の範囲がより好ましい。これの導出根拠を以下に説明する。
【0129】
一般的な低圧配電系統2の比率α1 (=r/x)は、概ね0.7〜1.1である。このα1 範囲での分散電源30の運転力率Pfは、次式より0.67〜0.82となる。
【0130】
[数18]
Pf=tan-1(Q/P)=tan-1α1
【0131】
上記非特許文献1に記載されているように(例えば96頁参照)、運転力率Pfの下限を0.85とすると、そのときの比率α1 は0.62となる。
【0132】
従って、上記範囲の比率α1 に補正係数βを掛けて、運転力率Pfを0.85以上にする補正係数βの範囲は次式となる。
【0133】
[数19]
(0.62/1.1)<β<(0.62/0.7)
∴0.56<β<0.89
【0134】
補正係数βを大きくしておく方が、出力不平等軽減に対する大きな効果が得られるが、運転力率Pfの低下を極力防ぐ目的で、数19の範囲の概ね中間値の0.8を補正係数βの上限にするのが好ましい。また、以下に述べるシミュレーション結果から、補正係数βの下限は0.5でも、電圧上昇抑制に効果のあることが確かめられている。従って、補正係数βは0.5〜0.8の範囲が好ましい。
【0135】
補正係数βを上記範囲に設定しておくと、第2の進相無効電力Qb の出力量を適度に抑制して、運転力率Pfの低下を小さくすることができる。しかもそのようにしても、連系点18の基本波電圧および分散電源30の運転力率Pfを判断して、第1の進相無効電力Qa の増加または有効電力Pの減少を制御する手段(基本波電圧判断部54、運転力率判断部56、第1の無効電力演算部58および有効電力制御部60)を備えているので、連系点18の基本波電圧が所定の電圧上限値Vlim を超えたり、分散電源30の運転力率Pfが所定の力率下限値Pflim より低下したりすることを防止することができる。
【0136】
(2)電圧上昇抑制装置50および分散電源連系システムの他の実施形態
図5に示す例のように、上記電圧上昇抑制装置50をそれぞれ有する複数の分散電源保有設備20が、同じ変圧器の二次側の配電線(図5の例では同じ変圧器14の二次側の低圧配電線16。以下同様)に接続された分散電源連系システムの場合は、例えば、各電圧上昇抑制装置50は、上記非整数倍次数であって互いに異なる次数mの注入電流Im を注入しかつ当該注入次数mの電圧および電流を測定するものにするのが好ましい。例えば、注入次数mを2.2次、2.4次、2.6次、2.8次・・・などと、互いに異なる次数にする。
【0137】
そのようにすると、上記電圧上昇抑制装置50をそれぞれ有する複数の分散電源保有設備20が、同じ変圧器の二次側の配電線に接続されていても、用いる注入次数mが各設備の電圧上昇抑制装置50で互いに異なるので、複数の分散電源保有設備20の電圧上昇抑制装置50が互いに干渉することなく、上記比率α1 を正しく算出することができる。従って、各分散電源30から適正な進相無効電力Qを出力させることができる。
【0138】
同じ変圧器の二次側でない場合は、間に変圧器を介在させることになり、当該変圧器の大きなインピーダンスを介在させることになるので、上記のように注入次数mを互いに異ならせなくても、複数の分散電源保有設備20の電圧上昇抑制装置50が互いに干渉するのを防止することができる。
【0139】
あるいは、上記電圧上昇抑制装置50をそれぞれ有する複数の分散電源保有設備20が、同じ変圧器の二次側の配電線に接続された分散電源連系システムの場合は、各電圧上昇抑制装置50は、上記非整数倍次数であって互いに同じ次数mの注入電流Im を注入しかつ当該注入次数の電圧および電流を測定するものとし、かつ各電圧上昇抑制装置50は、図13に示す例のように、上記注入電流Im の注入ならびに上記注入次数mの電圧および電流の測定のタイミングが、各電圧上昇抑制装置50間で互いに重複することを防止する重複防止手段としての重複防止部124を備えているものにしても良い。
【0140】
重複防止部124は、電流注入部72および比率演算部62を制御して、上記注入および測定のタイミングが各電圧上昇抑制装置50間で互いに重複することを防止する。
【0141】
重複防止部124は、例えば、乱数発生手段を有していて、上記注入および測定のタイミングを、乱数によって決めるものでも良い。
【0142】
あるいは、重複防止部124は、LANのような情報通信分野におけるアクセス制御に用いられている、CSMA/CD方式(簡単に言うと、ネットワーク上でデータの衝突を監視し、衝突が検出されると、データを送信した機器は、一定時間を待ってからデータを再送信するという方式)やトークンリング方式(簡単に言うと、トークンと呼ばれる特殊なデータを巡回させ、トークンを取得した機器がデータの送信ができるという方式)と同様の機能を有するものでも良い。
【0143】
上記のようにすると、上記電圧上昇抑制装置50をそれぞれ有する複数の分散電源保有設備20が、同じ変圧器の二次側の配電線に接続されていても、注入電流Im の注入ならびにその注入次数mの電圧および電流の測定のタイミングが各設備の電圧上昇抑制装置50で互いに異なるので、複数の分散電源保有設備20の電圧上昇抑制装置50が互いに干渉することなく、上記比率α1 を正しく算出することができる。従って、各分散電源30から適正な進相無効電力Qを出力させることができる。
【0144】
図14に示す例のように、分散電源保有設備20が連系変圧器126を有していて高圧配電線10に連系している場合、連系点18の電圧Vd を測定することが難しい場合がある。この場合、測定点36から見た配電系統2側のインピーダンスを測定し、その抵抗/リアクタンスの比率α2 を測定すると、連系変圧器126のインピーダンスrt +jxt が加わるため、比率α2 は次式で示す値となる。
【0145】
[数20]
α2 =(r+rt )/(x+xt
【0146】
そこで、上記比率α2 から、連系変圧器126の一次側すなわち連系点18から見た配電系統2の比率α1 (=r/x)への変換係数として、次式で示す変換係数γを考える。
【0147】
[数21]
γ=α1 /α2
={r/x}/{(r+rt )/(x+xt )}
=(1+xt /x)/(1+rt /r)
【0148】
測定点36における二次側電圧Vt2を用いて、前述した方法によって、測定点36から配電系統2を見た全体のインピーダンス(r+rt )+j(x+xt )ならびにその抵抗成分およびリアクタンス成分を測定することができる。かつ、連系変圧器126の抵抗rt およびリアクタンスxt は既知である。これらを用いて、上記数21に従って、変換係数γを算出することができる。
【0149】
その結果、上記比率α2 および変換係数γを用いて、前述した(数11参照)第2の進相無効電力Qb は、次式により算出することができる。従ってこの演算を、上記第2の無効電力演算部64(図7中のステップ404)において行えば良い。
【0150】
[数22]
b =α1 ・β・P=γ・α2 ・β・P
【0151】
(3)電圧上昇抑制のシミュレーション結果
図5に示した分散電源連系システムを模した図15のモデルを用いて、電圧上昇抑制制御のシミュレーションを行った結果を説明する。
【0152】
図15に示すモデルは、20kVAの単相3線式の変圧器(柱状変圧器)14の二次側の低圧配電線16に、定格出力5kWの分散電源30を有する分散電源保有設備20を3台接続した例である。変圧器14のインピーダンスZt は、0.016+j0.021Ωとした。低圧配電線16のインピーダンスZd は、0.011+j0.012Ωとし、線路抵抗が大のときは、0.017+j0.013Ωとした。
【0153】
各分散電源保有設備20は、時刻2秒から1kW/秒で出力(有効電力P)を増加させ、時刻7秒以降は出力を5kWに固定した。これは、各分散電源保有設備20の分散電源30が太陽光発電システムであって、雲が晴れて日射量が5秒間で急増した場合を模擬したものである。
【0154】
上記条件における変圧器至近点17および各連系点18の電圧(これは接地間で100V級)、各設備20から出力する有効電力P、進相無効電力Qおよび運転力率Pfを、表1に示す各方式に分けて測定した結果を、図16〜図27に示す。図6に示す電圧上昇抑制装置50の各部の具体的構成は、図8〜図12を参照して説明したものを採用した。なお、進相無効電力Qはこのシミュレーションでは負の値で表示している。また初期に運転力率Pfが急増しているが、これは制御開始当初だけの現象であり、特に支障はない。
【0155】
【表1】

【0156】
図2に示す機能の従来の電圧上昇抑制装置使用の場合、図16、図17に示すように、各連系点18の電圧Vd1〜Vd3は、電圧上限値107V以下に抑えられている。末端の設備20に着目すると、時刻t1 で電圧Vd3が電圧上限値107Vに達し、それに応答して進相無効電力Q3 が増大し、時刻t2 で運転力率Pf3 が力率下限値0.85に達し、それに応答して有効電力P3 が減少を開始している。この方式では、図17に示すように、末端の設備20からの有効電力Pは約2kWしか出ておらず、電圧上昇抑制に伴って、低圧配電線16に接続されている位置によって、有効電力P等に不平等が生じている。
【0157】
図6に示す電圧上昇抑制装置使用(β=1)の場合は、図18、図19に示すように、有効電力Pの増大が始まると、それに伴って進相無効電力Qも増大を始めている。これは、前述した第2の進相無効電力Qb が寄与しているからである。各連系点18の電圧Vd1〜Vd3は、電圧上限値107V以下に余裕を持って抑えられている。この方式では、有効電力Pの不平等は解消されているけれども、電圧上昇抑制に伴って、運転力率Pf3 が3台とも力率下限値0.85まで低下している。従って、3台合わせた系統力率の低下も大きい。これは、補正係数β=1の場合、有効電力Pの増大に伴う第2の進相無効電力Qb の増大が大きいからである。
【0158】
図6に示す電圧上昇抑制装置使用(β=0.5)の場合は、図20、図21に示すように、有効電力Pの増大が始まると、それに伴って進相無効電力Qも増大を始めている。これは、前述した第2の進相無効電力Qb が寄与しているからである。しかし、進相無効電力Qの増大は緩やかである。β=0.5としたからである。各連系点18の電圧Vd1〜Vd3は、電圧上限値107V以下に抑えられている。この方式では、電圧上昇抑制に伴う有効電力Pの不平等は解消されており、しかも有効電力Pの増大に伴う進相無効電力Qの増大は緩やかで、運転力率Pfは3台とも約0.95に良くなっている。従って、3台合わせた系統力率の低下も少ない。
【0159】
図2に示す機能の従来の電圧上昇抑制装置使用(線路抵抗大)の場合は、図22、図23に示すように、各連系点18の電圧Vd1〜Vd3は、電圧上限値107V以下に抑えられている。末端の設備20に着目すると、時刻t3 で電圧Vd3が電圧上限値107Vに達し、それに応答して進相無効電力Q3 が増大し、時刻t4 で運転力率Pf3 が力率下限値0.85に達し、それに応答して有効電力P3 が減少を開始している。この方式では、図23に示すように、末端の設備20の有効電力P3 はほぼ0であり、電圧上昇抑制に伴って、低圧配電線16に接続されている位置によって、有効電力P等に大きな不平等が生じている。これは、線路抵抗が大きい場合に、電圧上昇値ΔVがより大きくなるからである。
【0160】
図6に示す電圧上昇抑制装置使用(線路抵抗大、β=1)の場合は、図24、図25に示すように、有効電力Pの増大が始まると、それに伴って進相無効電力Qも増大を始めている。これは、前述した第2の進相無効電力Qb が寄与しているからである。各連系点18の電圧Vd1〜Vd3は、電圧上限値107V以下に余裕を持って抑えられている。この方式では、有効電力Pの不平等は解消されているけれども、電圧上昇抑制に伴って、運転力率Pfが3台とも力率下限値0.85まで低下している。従って、3台合わせた系統力率の低下も大きい。これは、補正係数β=1の場合、有効電力Pの増大に伴う第2の進相無効電力Qb の増大が大きいからである。
【0161】
図6に示す電圧上昇抑制装置使用(線路抵抗大、β=0.5)の場合、図26、図27に示すように、有効電力Pの増大が始まると、それに伴って進相無効電力Qも増大を始めている。これは、前述した第2の進相無効電力Qb が寄与しているからである。しかし、進相無効電力Qの増大は緩やかである。β=0.5としたからである。各連系点18の電圧Vd1〜Vd3は、電圧上限値107V以下に抑えられている。末端の設備20に着目すると、時刻t5 で電圧Vd3が電圧上限値107Vに達し、それに応答して進相無効電力Q3 が増大し(これは前述した第1の進相無効電力Qa が増大するからである)、時刻t6 で運転力率Pf3 が力率下限値0.85に達し、それに応答して有効電力P3 の増大も止まっている。この場合も、線路抵抗が大きくて電圧上昇値ΔVが大きくなりやすいけれども、電圧上昇抑制に伴う有効電力Pの不平等は解消されており、しかも運転力率Pfは約0.95〜0.85の範囲と、かなり良い。従って、3台合わせた系統力率の低下も少ない。このように、線路抵抗が大きくて、電圧上昇値ΔVが大きくなりやすい場合でも、補正係数βを0.5にしても効果のあることが確かめられた。
【0162】
(4)分散電源30の他の例
分散電源30は、上記例の太陽光発電システム以外のものでも良い。例えば、インバータを用いる例を挙げると、分散電源30は、燃料電池と上記インバータ34のようなインバータとを有する燃料電池発電設備等でも良い。あるいは、交流発電機を有していてインバータを用いない例を挙げると、分散電源30は、コージェネレーション発電設備、風力発電設備等でも良い。上記電圧上昇抑制装置50からの指令信号(具体的には上記有効電力指令値Pcom 、進相無効電力指令値Qcom )に応答して、交流発電機から出力する有効電力および/または無効電力を指令値に制御する技術は、公知の技術を利用することができる。簡単に説明すれば、交流発電機の出力電圧の位相を制御することによって、有効電力を制御することができる。交流発電機の界磁を制御して出力電圧の大きさを制御することによって、無効電力を制御することができる。
【符号の説明】
【0163】
2 配電系統
16 低圧配電線
18 連系点
20 分散電源保有設備
30 分散電源
50 電圧上昇抑制装置
54 基本波電圧判断部
56 運転力率判断部
58 第1の無効電力演算部
60 有効電力制御部
62 比率演算部
64 第2の無効電力演算部
66 合計無効電力演算部
68 限界無効電力演算部
70 無効電力制御部
72 電流注入部
124 重複防止部
P 有効電力
Q 進相無効電力
α1 、α2 比率

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配電系統に接続された分散電源保有設備の分散電源を制御して、当該配電系統の電圧上昇を抑制する電圧上昇抑制装置であって、
前記配電系統と前記分散電源保有設備との連系点における基本波電圧が所定の電圧上限値よりも高いか否かを判断する基本波電圧判断手段と、
前記基本波電圧判断手段における判断結果が肯定の場合に、前記分散電源の運転力率が所定の力率下限値以上か否かを判断する運転力率判断手段と、
前記運転力率判断手段における判断結果が肯定の場合に、前記基本波電圧と前記電圧上限値との差に応じた第1の進相無効電力を演算して出力する第1の無効電力演算手段と、
前記運転力率判断手段における判断結果が否定の場合に、前記分散電源を制御して当該分散電源から出力する有効電力を、前記基本波電圧と前記電圧上限値との差に応じて減少させる有効電力制御手段と、
前記配電系統の基本波の非整数倍次数の注入電流を前記配電系統に注入する電流注入手段と、
前記連系点における前記注入次数の電圧および電流を用いて、前記連系点から見た前記配電系統の基本波成分の抵抗(r1 )、リアクタンス(x1 )および前者の後者に対する比率(α1 =r1 /x1 )を演算する比率演算手段と、
前記分散電源から出力される有効電力、前記比率および0<β<1なる補正係数βを互いに掛け合わせて、第2の進相無効電力を演算して出力する第2の無効電力演算手段と、
前記第1および第2の進相無効電力を互いに加算して、合計進相無効電力を演算して出力する合計無効電力演算手段と、
前記分散電源から出力される有効電力および前記力率下限値を用いて、当該有効電力のときに前記力率下限値を実現する限界進相無効電力を演算する限界無効電力演算手段と、
前記合計進相無効電力を、その上限を前記限界進相無効電力の値に抑制して進相無効電力指令値として前記分散電源に供給して、前記分散電源から出力する進相無効電力を当該進相無効電力指令値に制御する無効電力制御手段とを備えている、ことを特徴とする電圧上昇抑制装置。
【請求項2】
前記補正係数βを0.5〜0.8の範囲に設定している請求項1記載の電圧上昇抑制装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の電圧上昇抑制装置をそれぞれ有する複数の分散電源保有設備が、同じ変圧器の二次側の配電線に接続された分散電源連系システムであって、
前記各電圧上昇抑制装置は、前記非整数倍次数であって互いに異なる次数の注入電流を注入しかつ当該注入次数の電圧および電流を測定するものである、ことを特徴とする分散電源連系システム。
【請求項4】
請求項1または2に記載の電圧上昇抑制装置をそれぞれ有する複数の分散電源保有設備が、同じ変圧器の二次側の配電線に接続された分散電源連系システムであって、
前記各電圧上昇抑制装置は、前記非整数倍次数であって互いに同じ次数の注入電流を注入しかつ当該注入次数の電圧および電流を測定するものであり、
更に前記各電圧上昇抑制装置は、前記注入電流の注入ならびに前記注入次数の電圧および電流の測定のタイミングが、各電圧上昇抑制装置間で互いに重複することを防止する重複防止手段を備えている、ことを特徴とする分散電源連系システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate

【図23】
image rotate

【図24】
image rotate

【図25】
image rotate

【図26】
image rotate

【図27】
image rotate

【図28】
image rotate


【公開番号】特開2012−200111(P2012−200111A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−63776(P2011−63776)
【出願日】平成23年3月23日(2011.3.23)
【出願人】(000156938)関西電力株式会社 (1,442)
【出願人】(000003942)日新電機株式会社 (328)
【Fターム(参考)】